共同住宅法制改革・総目次 >【前頁】  4.統制・ガバナンス > 5.共同住宅の管理 > 【次頁】 付録1.推奨政策一覧表

分析項目と推奨案 : 5.共同住宅の管理
     (DETAILED ANALYSIS AND RECOMMENDATIONS :5. CONDOMINIUM MANAGEMENT)

5.共同住宅の管理 目次
1. 管理者資格制度
2. 管理会社の認証制度
3. 新・管理者認証庁
4. 共同住宅庁の役割
5. 経験を積んだシニアの管理者の扱い
6. 倫理コードの作成
7. 保険契約
8. 自主管理組合
9.  管理委託契約の明確化


 

共同住宅の管理組合は、ファーム(Firm:二人以上の合資で経営される組織を意味する)の中で、 一人か二人で管理している小さなものから、様々な職種の大勢のスタッフで管理している大規模のものまであります。 その中には、自主管理、または、専任の管理者を雇用しているものもあり、 企業組織よりもはるかに多種多様な形態と規模のものが存在しています。

管理者にしても有能な管理者から、信頼するには値しない問題のある管理者(この不幸なケースはまれですが)もなかにはいます。

第T期問題摘出報告書の参加者の間における管理者と管理組合の話題は、4つの不満でもちきりでした。
(1)無能で役立たず(incompetent)、(2)無礼な態度(disrespectful)、(3)すぐに応答しない、答えを出さない(unresponsive)、 (4) 誠意がなく不正直 (dishonest) というものです。何をされたのですか?(What can be done?)

現在、オンタリオ州では管理組合組織の管理運営業務についての規定は一切ありません。 管理組合の運営業務は誰でもできることになっています。 第T期問題摘出報告書の参加者は、このことは良いことではなく、 能力と誠実さのある程度のレベルを保証する明確な基準を作るべきと思っていました。

管理組合運営を担当した作業部会では、このことを明確化するための推奨案をまとめました。

1.管理者資格制度 (LICENSE MANAGERS)

作業部会では、「管理組合の管理(“management”)」を下記のように定義した上で、広い基礎的な意見を提案しました。

管理組合の管理とは、法の規定に従い、管理組合、又は理事会からの委任によって、 管理組合の代表として組合資金の集金と配分を行い、それらを監督する管理上の責務を遂行することです。

第T期問題摘出報告書で提起された問題に対し、第U期検討作業では、 オンタリオ州における管理者としてのきちんとしたトレーニングと認証を保証する資格制度について提案しました。

第T期問題摘出報告書で提起された職業管理者を登録するための基本的事項は下記の通りです。

推奨案;

管理者としての認証条件は下記を個別に満足するものとする。
 (1) 18歳以上
 (2) 高卒以上若しくは同等以上の学歴を有する者
 (3) 禁治産者でないこと
 (4) 税金、管理費等の必修の支払いに滞納がないこと
 (5) 保険の審査に適合すること(原注9)
 (6) 犯罪歴がないことの警察の審査に同意すること
 (7) 共同住宅法の試験に合格すること
 (原注9):作業部会と専門部会は保険審査に適合する原則案に同意はしたものの、
      実際に規定する際には、さらに詳細な規定が必要であるとの注釈を加えた。

これらの要求を制度設計に反映していく作業の中で、基本的な技能、例えば、 学問的能力と共同住宅法に精通していることは、徐々に習得していくものであり、 候補者が良い性格をもち信頼できる人であることを確実に保証 できるような他の面に照準を合わせるべきではないかと考えるようになりました。

管理者制度はこれらの基礎の上に築かれるものであり、管理者免許制度では、第T期、第U期にわけて、 彼らの知識、技量は段階的に実務の経験の中で広がっていくべきであるとしました。

推奨案:
管理者の候補者第U期トレーニング期間を下記とする。
 (1) 共同住宅法の完全な履修コースは、実物資産管理、人的資産管理、
    管理組合の財務管理そして消費者サービスを含むものとする。
 (2) 共同住宅の管理者として2年以上の実務経験を有すること。
 (3) 倫理コードを遵守しプロ根性に徹すること(下記参照)、
 (4) 十分な教育の完全な継続が要求されること
 (5) トレーニングコース第T期の規定基準に従って継続すること

推奨案:
候補者はトレーニングコース第T期免許取得後、4年以内に、最終試験に合格したことをもって トレーニングの修了とする。

作業部会は、これらの管理者としての最低限の基準を職業としての管理者を志すものに対する障壁であるとは考えず、 むしろ、これだけのキャリアはひっぱりだこになるものと考えました。

作業部会では、この免許制度は法的に付与されるべきか、自発的なボランタリー制として残すものかについて 結論を出す前に、法の条項に規定する「プロとして欠くことのできない必須の条件」を、かなり詳しく検討しました。

もし、区分所有者のリスクを最小にしたいと思うなら、 理事会は有能でプロ根性をもった信頼できる人材を引き抜かなくてはなりません。

専門部会は、管理者の資格付与プログラムの提案を支持した上で、一人の専門部会メンバーの意見として、 家庭を預かる主婦の家政業務としてなら、この受講は扱いやすいかもしれないが、プロの管理業務を完全にこなすには 4年間でコース修了とすることは十分ではないという意見を提示しました。 専門部会はこの問題をさらに検討することとしました。

2.管理会社の認証制度 (CERTIFICATE FOR MANAGEMENT FIRMS)

推奨案:
管理会社は、管理組合との間で管理委託契約を締結する前に、公認の管理事業者資格の認証を得なくてはならない。
認証は下記を含むものとする。
 (1) 法人としての特別認証を得ていること
 (2) 管理事業サービスを意味する職種名と代表役員の名を冠した法人名であること
 (3) 代表役員は提供するサービス業務に関する規定以上の事業経験を満たし、
   法に違反して懲罰を科された経歴がないこと
 (4) 代表役員は提供するサービス業務に関して責任保証能力を有すること
 (5) 代表役員は提供するサービス業務全般及びそれらに従事する従業員を監督する
   ものであること

推奨案:
管理会社の認証に際しては、管理会社として十分な損害賠償保険に加入していることを証明しなければならない。

管理業務に手落ちが合った場合の補償は勿論のことですが、 正しい管理会社を理事会が選択する場合の決定的な情報を提供することにもなり、 管理会社に対する区分所有者の信頼の評価にもつながります。

3.新・管理者認証庁 (THE NEW CONDO MANAGER LICENSING AUTHORITY)

新しい管理者認証庁を設立するにあたって、庁としての時期、管理指導体制、 充当する資源について討議しました。

推奨案:
政府は、2段階における管理者認証制度の創設にあたって、 認証業務に関わる新しい組織を設立すべきです。

管理者に認証を授与する監督機関は政府の監督下におかれた非営利の法人とします。 この監督機関は法の規定に基づいてその権限を有するものとします。

資格認証、審査、法の執行、(公)教育、懲罰、苦情の受付などを行うこの機関は、 そのサービスの提供を通じて運営経費を得るものとします。

この機関は合議制の理事会で構成され、議長を通して消費者省長官への報告をします。 この理事会のメンバーの何人かは政府が指名することができるものとします。

作業部会は、認証を与えた管理者に対する認証庁の責任は、政府の手の届くところで (at arm’s length from government)管理されるものとし、 認証庁の権限は政府から与えられるものとしました。

4.共同住宅庁の役割 (THE CONDO OFFICE’S ROLE)

専門部会では、新しく任命された監督庁は共同住宅庁の一部局となるものとして考えました。
その運営基金は、会員からの会費と罰金・科料をもって充てるものとしています。

査定グループの試算によると、オンタリオの管理者として登録する約3,000人がこの監督庁の会員となります。

専門部会は、この新しい監督庁構想と作業部会が検討した財政計画を支持し、 この財政計画の流れは、意義深いものであるとして同意しましたが、しかし、 この組織を維持していくには十分な資金とはいえず、実行は疑わしいと考えました。

専門部会のメンバーが選択肢をいろいろ考えた上で、彼らが心に留めたのは、 作業部会の紛争解決部会が提案した共同住宅庁の運営資金を共同住宅の区分所有者から徴収するという考えでした。

一人の部会メンバーが注目したのは、毎月、わずかな額を個別の区分所有者から徴収する案を通すということでした。

多分、1〜3ドル/戸を徴収すれば、オンタリオには75万人の所有者がいるので、月額75万ドル、 年間で900万ドル(約7億6千5百万円)の歳入が得られる。月額3ドル/戸だったら、年間2千700万ドル(約23億円)の歳入になる。

これは、教育と紛争解決の資金として考え出されたものですが、 これに管理者資格認証庁の会費とライセンス料(登録料)、そして、教育、紛争解決の要素と同じく紛争解決手数料、 罰金、科料を組み合わせて総合的に考えれば各事業への十分な資金になる。

資金調達を、なぜ個別の事業やサービス、単体組織ごとに考えるのですか? 総合的な資金供給を考えてはどうですか?

他の部会メンバーもこの考えを承認しました。ただ、区分所有者の徴収に対する反応が心配でした。
しかし、他方で、区分所有者はこのわずかな徴収を受け入れてくれるという確信がありました。
確かに、区分所有者と他の権利所有者は第T期の問題摘出作業部会の討論でも再三再四、 新しい共同住宅庁の設置を求めていました。

もしも、彼らが望む新しいサービスが提供されるなら、この額以上のものを拠出する意思があるとして、 彼らは反対されてもくりかえし主張していました。

専門部会のメンバーもこの考えに同意しました。
区分所有者は質の高い、そして紛争解決に効果的な、高度の情報にアクセスすることを望んでいます。 もしも、複合的な目的をもった新しい組織ができて、これらのサービスが受けられるのなら、 殆どの区分所有者は小さな月額の支払いに同意することでしょう。

推奨案:
共同住宅庁はその傘下組織に、共同住宅管理者資格の認証及び紛争解決、教育のための新しい機関を設けるものとする。 その運営資金は、各区分所有者からの月額徴収基金に加えて、会費収入、資格手数料、罰金、科料をもって充てるものとする。

専門部会のメンバーは、紛争解決作業部会での議論の中で、 共同住宅庁の本体とは分離した形での紛争解決専門組織の設立に賛成したことを思い出しましたが、 この資格認証庁についても、管理者資格の法制化にあたって、そこをどうするのかが議論になりました。

作業部会のメンバーは、単一の傘下組織は他の両方の部門を監督するのでは、 という疑いの目で見られるのではという危惧をもっていました。 専門部会は、紛争解決機関と管理者資格認証庁は分離されるべきであり、 両機関とも共同住宅庁の傘下組織ではあるが、それぞれの建物に分かれた個別の機関としました。

専門部会は、それは非常に敏感で微妙な問題であると認めました。 しかし、メンバーは必ずこの仕事を成し遂げられると信頼していました。

迅速裁定庁と紛争解決庁の二つの関係性についての論争のときでも、 共同住宅庁としての意欲的かつ複合的に主導権を発揮できる仕組みに議論が熟成するまでにはある程度の時間が必要でした。

専門部会は、共同住宅庁がフレキシブルに、かつ、徐々に発展するよう、取り組むべき課題に優先順位をつけて とりかかることに焦点をあてるべきと感じました。

推奨案:
共同住宅管理と紛争解決の両部門は共同住宅庁の中で、分離されて扱われるものとする。
新組織の発足にあたっては、永い目で見て、徐々に進化していくものとして捉えるべきです。

 管理者認証庁 (THE LICENSING OFFICE)

私達は、管理者認証庁において認証資格を与えられた管理者の責任を扱う部署について言及しました。
作業部会を通じて、管理者認証庁は2段階の管理者トレーニングを直接実行するべきであるとしましたが、 多くの機関はすでに全国対応でトレーニングを実施ずみでした。

推奨案:
管理者認証庁は、教育に重点をおいて、認定教育サービスと指導者を供給しなければならない。 受講コースカリキュラムと試験・評価システムの開発、判定基準、試験の実施、試験免除規定もこの中に含まれる。

しかしながら、管理者認証庁は実際に業務を担当する非営利法人が管理者養成トレーナーを認証し、 教育の機会を均等に与え、高度の教育品質を誰でも入手しやすくすることを可能とするための支援を行うものとする。

専門部会は、下記の推奨案を追加しました。
推奨案:
可能であれば、トレーニングコースは教室形式とオンラインの併設とすべきである。

作業部会は、継続的な管理者教育はその知識と技能を確実にするために行われるべきであって、 その内容は常に更新されなければならない。そして、継続的な学びは管理者業務における文化の 一部となるものあると感じていました。

推奨案:
管理者認証庁は、管理事業会社、管理者、及び関連業種に対する継続的な教育制度を確立しなければならない。 継続的な教育のための基準がそのために作られるものとする。管理者、管理会社、又は指導者は、 それらの資格を失うリスクがあります。

2期に亘る管理者資格教育について専門部会は、下記の推奨案を追加しました。

推奨案:
可能であるなら、継続教育受講は教室形式とオンラインによる教育の併設が望ましい。

5.経験を積んだシニアの管理者の扱い (GRANDPARENT EXPERIENCED MANAGERS)

もしも、管理者に本質的な実務能力を要求するなら、すでに開業している管理者はどうなるのでしょうか?

推奨案:
10年以上管理業務に関わっていたことを証明できる者は誰でも管理業務者試験と第2期目の教育を免除できるものとする。 本件に該当する者は、第1期の規定及び共同住宅法の試験並びに第2期目の試験に適合しているものとする。

6. 倫理コードの作成 (DRAW UP A CODE OF ETHICS)

作業部会では、倫理コードは、コミュニティの不安を和らげるのに役立つものと信じていました。
それは、共同住宅の管理業務に要求される高い倫理観とプロ根性の裏づけとなるものです。

推奨案:
管理者認証庁は、管理者と管理業者が遵守すべき倫理コードを作成しなければならない。
倫理コードは管理業務の遂行にあたっての明確な信用を反映するものとしての基礎となるべきです。

7.保険契約  (INSURANCE AND BONDING)

作業部会は、オンタリオ州の管理会社に雇用されている管理者が資格喪失した場合に備えて、 保険を掛けることを義務付ける案を満場一致で決定しました。

推奨案:
管理者が業務上の責任に対する過失、怠慢、忠実義務違反などを犯した場合に備えて、
管理者を雇用する管理会社は、損害賠償保険に加入しなければならない。
管理者認証庁は、その業務範囲をカバーした保険加入を管理者認証の条件としなければならない。

専門部会は、大体においてこの推奨案に同意しました。 保険の強制加入は、同時に、保険加入にあたっての審査基準に合格することという条件がつくことになり、 管理者の認証基準を引き上げることになると思われたからです。

8.自主管理組合  (SELF-MANAGED CONDOS)

幾つかの組合では、職業管理者の補助なしで自主管理を行っています。
フルタイムの管理者の必要もない小規模の共同住宅に典型的に見られます。

作業部会では、この自主管理組合についても討論した結果、 管理組合の形態としては最良の選択肢に加えられるべきとして受け入れることとしました。

推奨案:
自主管理の理事は、管理業務に関して管理者資格者に要求されている財務補償規定は免除されるものとする。

推奨案:
管理業務に関して、個人事業主として報酬を得て、或いは、企業に雇用されて報酬を得ている者は、 管理者の有資格者でなければならない。

理事会の理事は、管理規約に規定があれば、年間2,000ドル(17万円)以下の範囲内で理事報酬を受け取ることができます。 しかし、その場合でも、その管理業務に関して報酬額に見合う顕著な業績が認められるものでなくてはなりません。

専門部会は、自主管理に対して強健な交換条件を提案しました。

推奨案:
共同住宅の管理組合は自主管理を行う権利を有する。
しかし、理事に報酬を支給するときは、理事は管理者資格を有しなければならない。

専門部会は、自主管理は忠実義務違反保険を獲得することはできないということをはっきりと認めました。 自主管理の理事は個人の責任に身をさらすことになるかもしれないということが問題として提起されました。

部会メンバーは、もしも保険でそれがカバーできない状態になったら、 自主管理の場合はそれを容認せざるを得ないということに同意できませんでした。 関連して、自主管理の場合は、忠実義務違反保険でカバーできないこともありえるということを、 区分所有者に伝えておく必要があるということも提案としてあげられました。

9. 管理委託契約の明確化  (CLARIFY CONTRACTS)

作業部会では、管理委託契約のあいまいさ(明快さの欠如)に注目しました。
これは誤解や管理者と管理組合の役割、責任、満期などに関する紛争をもたらします。

推奨案:
管理委託契約は、下記を含むものとする。
 (1) 契約期間
 (2) 支払報酬
 (3) 委託業務内容 管理費等共益費の徴収を誰が行うかを含む
 (4) 管理者の忠実義務違反保険を請求する場合、保険求償額レベルを幾らにするか
 (5) 理事会の承認なしで管理者が使える限度額
 (6) 管理者の契約権限
 (7) 管理組合契約終了時における管理組合記録他の引継ぎ事項
 (8) 管理者の管理者業務関連法令の順守に対する謝礼
 (9) 管理委託契約の打ち切りは、少なくとも60日前に告知すること。


訳注:(共同住宅庁の役割)

この推奨案に沿った改正法の案ができた後のパブリック・コメントにおける多数意見は、 まさにこの部会で討論したように、「新しいサービスが提供されるなら同意する」というものでしたが、 中には、「お役所仕事には期待しない」「レッドテープ!」といった少数意見もありました。レッドテープ!というのは、 公文書を赤い紐で縛ったことに由来する「官僚主義」を意味する軽蔑用語です。

しかし、出来上がったこれらの組織は非営利組織で、職員も公務員ではないにもかかわらず、 司法権限をもつ裁判所組織も、違反業者に懲罰を科す行政権限も「行政契約」という手法でこれらの組織に与えました。
資金を出しているスポンサーは共同住宅の全所有者です。国家でもなく、ましてやゴキブリ(政治家と官僚)でもない。

天下り機関をどんどん作りながら、行政権限(利権)を決して手放さない中央集権国家のあり方とは、根本的に異なります。
日本でも、「行政契約」はありますが、実際には「行政の下請契約」であり、中央官庁は決して行政権限は手放さない。

(2021年8月28日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 28 August 2021/ Revised Publication -time to time)