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(1) マンション投資と相続税

「マンションと相続税」シリーズ

     (1) マンション投資と相続税     (2) 最高裁判例:相続税更正処分等取消請求事件

     (3) マンション節税の抑止策(国税庁有識者会議報告書の解説)

  バブル崩壊後、相続税徴収額が下がり続けたため、政府は平成27年1月から課税対象を広げ、
  現在、全国の死亡者の8.8%が相続税課税対象者となっています。節税対策の一つにマンション投資があります。

 路線価を利用した相続税の負担回避に対する最高裁判例 【次頁】 相続税更正処分等取消請求事件

本頁は、相続税制度についての解説です。
詳しくは国税庁のHpをご覧ください。※ (国税庁Hp【https://www.nta.go.jp】「確定申告等情報」⇒「相続税」)
※ 税務に関する相談は、たとえ無償であっても税理士等でない者は、他人の求めに応じて行うことは出来ません。
   税に関するご相談は、お住まいの地区の税理士さんにご相談下さい。

○ 目次
  1. 相続税の課税状況の推移
  2. 相続税のしくみ
    (1) 相続税の申告が必要な人    (2) 相続税の申告と納税    (3) 相続税の計算例
  3. 不動産の評価
    (1) 一物五価  (2) 公示価格   (3) 路線価
  4. 相続税法と財産評価基本通達
    (1) 相続税法第22条          (2) 財産評価基本通達1    (3) 財産評価基本通達6
  5. 財産評価基本通達をめぐる論点
  6. 路線価を利用した相続税の負担回避対策経緯
  7. 相続税対策の一括借上方式の問題
  8. 海外に資産を移す富裕層
  9. 地価の長期的動向

 

1.相続税の課税状況の推移

全国の死亡者数(人)
(人)
昭和58年(1983)740,038
平成 5年(1993)878,532
平成15年(2003)1.014.951
平成25年(2013)1.268,438
平成26年(2014)1,273,025
平成27年(2015)1,290,510
平成28年(2016)1,308,158
平成29年(2017)1,340,567
平成30年(2018)1,362,470
令和元年(2019)1,381,093
令和 2年(2020)1,372,648
被相続人と課税割合
(人)%
昭和58年39,5345.3
平成 5年52,8776.0
平成15年44,4384.4
平成25年54,4214.3
平成26年56,2394.4
平成27年103,0438.0
平成28年105,8808.1
平成29年111,7288.3
平成30年116,3418.5
令和元年115,2678.3
令和 2年120,3728.8
納付税額
(億円)
昭和58年(1983)7,153
平成 3年(1991)39,651
平成 5年(1993)27,766
平成15年(2003)11.263
平成25年(2013)15,366
平成26年(2014)13,904
平成27年(2015)18,116
平成28年(2016)18,679
平成29年(2017)20,141
平成30年(2018)21,104
令和元年(2019)19,759
令和 2年(2020)20,928

グラフの解説
(1) 昭和58年(1983年)の全国の死亡者数74万38人のうち、相続税を課税された人は3万9千534人、
   死亡者全体の5.3%、相続税総額、7千153億円。

(2) 納税額が最高だったのは平成3年(1991年)の3兆9,651億円(課税率6.8%)でした。
   相続税納税額が最高になったのは、戦後3回目の地価高騰の影響です。 9.地価の長期的動向 参照

   バブル崩壊後、国民資産が先細りして下がり続けます。それまでの相続税の課税対象者は、
   5,000万円+1,000万円×法定相続人の数 以上の資産を持つ人でしたが、政府は平成27年1月から 
   3,000万円+600万円×法定相続人の数 に課税対象を引き下げ、課税範囲を広げました。

(3) そして、令和2年(2020年)の死亡者137万2,648人のうち、相続税を課税された人は12万372人、
   課税率は全体の8.8%に上昇、相続税総額、2兆928億円。

 遺産1億円を3人の法定相続人で配偶者がいないケースで計算すると
  平成26年12月までは基礎控除は8,000万円で相続税は200万円でした。
  平成27年1月から基礎控除は4,800万円となり、相続税は630万円となっています。

2.相続税のしくみ

(1)相続税の申告が必要な人

 相続税は、個人が被相続人(亡くなられた人のことをいいます。)から相続などによって財産を取得した場合に、
その取得した財産のうち下記の遺産に係る基礎控除額を超える分について課される税金です。

「遺産に係る基礎控除額」 = 3,000 万円 +(600 万円×法定相続人の数※)

※ 「法定相続人の数」は、相続人のうち相続の放棄をした人があっても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数をいいますが、 被相続人に養子がいる場合に法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人(実子がいないときは2人)までとなります。

「相続人」とは

 民法では、相続人の範囲と順位について次のとおり定めています。
1 被相続人の配偶者は、常に相続人となります。
2 次の人は、次の順序で配偶者とともに相続人となります。

【第1順位】 被相続人の子(子が被相続人の相続開始以前に死亡しているときなどは、 孫(直系卑属)が相続人となります。)

【第2順位】 被相続人に子や孫(直系卑属)がいないときは、 被相続人の父母(父母が被相続人の相続開始以前に死亡しているときなどは、 被相続人の祖父母(直系尊属)が相続人となります。)

【第3順位】 被相続人に子や孫(直系卑属)も父母や祖父母(直系尊属)もいないときは、 被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が被相続人の相続開始以前に死亡しているときなどは、 被相続人のおい、めい(兄弟姉妹の子)が相続人となります。)

(2)相続税の申告と納税

 相続税の申告をする必要がある場合には、相続の開始があったことを知った日(通常の場合は、 被相続人が亡くなった日)の翌日から10 か月目の日までに、 被相続人の住所地を所轄する税務署に相続税の申告書を提出するとともに、納付税額が算出される場合には、 納税しなければなりません。

相続税の時効(税務上は除斥期間という)は、単なる過失(相続税について不知)の場合5年、 税務署からの「相続税についてのお尋ね」に過小な金額を記載したなどの不正の場合は7年です。

相続税を期限内に申告しなかった場合、無申告加算税(納税額の50万円までが15%, 超える部分に20%)、更に延滞税が課せられます。 申告書の提出期限に遅れて申告と納税をした場合には、原則として加算税及び延滞税がかかります。

(注) 相続税の申告の必要がない場合でも、相続時精算課税を適用した財産について既に納めた贈与税がある場合には、 相続税の申告をすることにより還付を受けることができます。 この還付を受けるための申告書は、相続開始の日の翌日から起算して5年を経過する日まで提出することができます。

(3)相続税の計算例

(1):相続税の計算例 (根拠:令和3年9月1日現在法令等)

 1億円の遺産を、配偶者が8,000 万円、子2人が1,000 万円ずつ相続した場合の計算例を示します。

相続税の税率
基礎控除後 税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円


(ア) 配偶者のあん分比1/2 × 課税遺産総額5,200万円=2,600万円、これに税率0.15掛けて50万円を控除すると、 相続税額は340万円となります。子も同様に計算して145万円×2人、従って相続税の総額は630万円となります。

(イ) 相続税の総額630万円を実際の相続割合であん分すると、配偶者は504万円、子は63万円となります。

ここで配偶者特別控除があります。被相続人の配偶者の課税価格が1億6,000万円までか、 若しくは、配偶者の法定相続分相当額までであれば、配偶者に相続税はかかりません。(配偶者の税額軽減)

従って、実際の相続税額の総額は子の63万円×2=126万円です。

特別控除には、ほかにも小規模宅地等の特例、事業承継税制などがあります。

3.不動産の評価

(1)一物五価

土地には、五つの評価額があり、「一物五価」といわれています。

No.価格種別管轄行政庁目的・用途・評価水準基準日発表日
実勢価格   ー売買における実際の市場取引価格   ー   ー
公示価格国土交通省公共用地買収や補償の基準となる価格毎年1月1日3月に発表
基準地標準価格都道府県公示価格を補う毎年7月1日9月に発表
路線価国税庁相続税・贈与税の目安となる価格
公示価格の80%相当が評価水準
毎年1月1日7月に発表
固定資産税評価額市町村固定資産税の課税基準となる価格
前年の公示価格の70%相当が評価水準
3年に一度の評価替え

(2)公示価格

公示価格は、一般の土地取引の指標となるべき土地の正常な価格(客観的な価格)として、 国土交通省において、地価公示法(昭和44年法律第49号)6条《標準地の価格等の公示》の規定に基づき、 対象地の時価を的確に反映し得る価格として適正な手続の下に決定されているものと評価されています(東京地裁平成15年2月26日判決・判時1888号71頁)。

(3)路線価

路線価方式とは、その宅地の面する路線に付された路線価を基とするもの(財産評価基本通達13)ですが、 同価額とみられるような宅地の面する路線ごとに、その路線の中央部の標準的な宅地の一単位当たりの価額を路線価として、 これを基とし、宅地の奥行距離に応ずる奥行価格補正、側面路線影響加算等の修正など面地修正した価額によって評価する方法をいいます。

財産評価基本通達14《路線価》によると、「路線価」は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。) ごとに設定します。 路線価は、路線に接する宅地で次に掲げる全ての事項に該当するものについて、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額(不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が国税局長の委嘱により鑑定評価した価額をいう。)、 精通者意見価格等を基として国税局長がその路線ごとに評定した1平方メートル当たりの価額とすると通達されています。

(1) その路線のほぼ中央部にあること。
(2) その一連の宅地に共通している地勢にあること。
(3) その路線だけに接していること。
(4)  その路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有するく形又は正方形のものであること。

4.相続税法と財産評価基本通達

(1) 「相続税法第22条」

 「この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、 当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」

(※) 「この章で特別の定めのあるもの」というのは地上権、永小作権、定期金、立木などの評価のことです。

相続税法第22条にいう「時価」とは客観的交換価値のことで、時価の概念については、専ら解釈に委ねられています。
そこで、国税庁はかかる「時価」を解釈したものを財産評価基本通達(昭和39年4月25日付け国税庁長官通達〔直資56(例規)直審(資)17〕 「相続税財産評価に関する基本通達」)として発遣して統一的な評価手法を示してきました。

(2) 「財産評価基本通達1」

「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(相続、遺贈若しくは贈与により財産を取得した日若しくは相続税法の規定により相続、 遺贈若しくは贈与により取得したものとみなされた財産のその取得の日又は地価税法第2条 《定義》第4号に規定する課税時期をいう。以下同じ。)において、 それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、 その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」

(3) 「財産評価基本通達6」

 「通達の定めにより難い場合の評価」 (略)個別評価方法(評基通6)
「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」

5.財産評価基本通達をめぐる論点

財産評価基本通達は通達ですから、法源性は認められません。 通達は、それが国民の権利義務に重大な関わりを持つものであっても、法規としての性質を有するものではないから、 納税者がかかる通達に従わなかったとしても問題はないばかりか(租税法律主義)、 行政機関が通達の趣旨に反する処分をしたからといって、そのことにより、当然に当該処分の効力が左右されるわけではないとしてきました。(最高裁昭和43年12月24日第三小法廷判決・民集22巻13号3147頁)

通達に法源性はないとはいえ、評価に関する通達の内容が、不特定多数の納税者に対する反覆・継続的な運用によって行政先例法となっていることから、 財産評価基本通達による財産評価は課税実務では法律と同じ役割を担っています。

時価とは客観的交換価値と理解されているのにもかかわらず、 その評価手法や評価の基礎となる路線価などは適時的確に社会経済の変革に合わせて不断の見直しを行っている訳ではありません。

また、相続税等の課税対象である財産には多種多様なものがあり、その客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないため、 相続等により取得した財産の価額を上記のような画一的な評価方法によることなく個別事案ごとに評価することにすると、 その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった金額が時価として導かれる結果が生ずることは避け難く、 また、課税庁の事務負担が過重なものとなり、課税事務の効率的な処理が困難となるおそれもあることから、 相続等により取得した財産の価額をあらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価することとするのが相当であると解されてきました。

このような課税実務は、評価通達の定める評価方法が相続等により取得した財産の取得の時における適正な時価を算定する方法として合理的なものであると認められる限り、 納税者間の公平、納税者の便宜、効率的な徴税といった租税法律関係の確定に際して求められる種々の要請を満たし、 国民の納税義務の適正な履行の確保(国税通則法1条、相続税法1条参照)に資するものとして、相続税法22条の規定の許容するところであると解される。」として、 財産評価基本通達が合理性を有しているものとしています。

租税公平主義を強調する見地から、財産評価基本通達による財産評価に一定の合理性があると説明されることもあります。 札幌地裁平成26年5月13日判決は、 「租税平等主義の観点からすると、評価方式の内容が合理的なものである限り、これを画一的に適用することによって、 実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなどの特別な事情がない限り、… 評価方式をすべての相続税の評価について適用するべきであると解される」としています。

財産評価基本通達による評価額は標準的な評価方法ですから、実勢鑑定評価による個別の時価との乖離もありえます。 このバランスをどう取っていくかについて東京高裁昭和48年3月12日判決では、次のように説明しています。

「相続税の課税に当つては、相続財産の価格が、その相続取得の時価によつて評価されることは相続税法(第22条)の定めるところである。 ところで、その時価の算定は具体的な財産毎に甚だしく多様な各種事情を参酌してなされることになり、 その結果として、納税者にとつて納税額の予測、申告額の算出等に困難をもたらし、他方、ときにより、 課税処分の公正を疑われることもありえないとはいえない。したがつて、 その時価算定について取扱基準について通達等を定めて、可能なかぎり算定上の扱いを統一的にし、 明確、公正な行政に資することは望ましいことではあるが、そのことは右各事情からしてより多く便宜であるというに止まり、 すべての特種な場合を含めて一般基準を定めなければ、公平、公正、能率を期されないというものではない。

社会事情は常に変動し、時価算定の参考諸要素は時と所によつて一定でないから、 特種な事情のありうる財産の評価についてまでも一般的な基準によるように固執し、 右変動と個別性とを無視するときは却つて時価算定が不適正となり、課税の公平を欠くことになる」として、 個別評価方法(評基通6)が採用される余地を肯定してきました。

【次頁】  2022年(令和4年)4月19日最高裁判所第三小法廷判決  相続税更正処分等取消請求事件 参照

6.路線価を利用した相続税の負担回避対策経緯

路線価

路線価方式の合理性について、京都地裁昭和53年4月28日判決では国税庁の主張を認め
「路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している道路ごとに一坪当りの宅地(標準画地)の価額を表示したものであり、 毎年売買実例、前年の路線価、接続地域との均衡、専門家の意見等を参酌して定められるものであつて、 地価の実態をかなり正確に反映していることは公知の事実であり、また…財産評価通達に定める評価方法も国税庁が、 各種実績に基づいて定めたものと解せられ、特段不都合な点があるとは認められない。」としています。

公示価格の80%評価について、東京地裁平成27年7月30日判決では、
「路線価方式における路線価とは、売買実例価額、公示価格、鑑定評価額及び精通者意見価格等に基づいて評定された1u当たりの価額であり、 評価上の安全性に配慮して、公示価格の8割程度の水準を目途として定められている。」としています。 この判決における「評価の安全性」とは、1年間の地価が20%近く下落することもあり得るものと考えた上での「衝撃をやわらげるための緩衝材(buffer)」の意味です。

各路線価は、毎年、売買実例価額、精通者意見価格及び公示価格の仲値(前2者のウエイトを後者の半分とした場合に得られる3者の平均値を割り出し、 土地評価審議会の審議を経由した上で、各国税局長が評定することとされています(相続税法26条の2)。

上場株式については、市場価額による評価がなされているのにもかかわらず、 土地については市場価格ではなく、そこから20%評価減された路線価による評価がなされています。

このような2割の評価減による納税者の利益は、
「当然に全ての納税者が享受し得る法的保護が与えられた利益ではなく、事実上の利益として捉えるべき」
とされていることに注意が必要です。

路線価による租税負担軽減行為

昭和60年代当初、地価高騰の結果、不動産の路線価を用いた相続税評価額と実勢価額との乖離が顕著になり、 その価額の乖離を利用して、相続直前に借入金により不動産を取得することによって相続税の負担回避を図る事例が多くみられ、 租税負担の公平上看過し難い問題となっていました。

この方法で不動産を取得した場合、借入金は債務として全額控除されますが、他方、 取得した不動産は路線価等による評価額で評価されるため、借入金額と不動産の評価額との差額は他の相続財産から控除されることとなり、 不動産を取得しなかった場合に比べて相続税負担が軽減される結果となります。 同様の結果は、借入れによらずに手持現金や他の金融資産の売却等により不動産を取得する場合にも生じます。 これが租税負担軽減行為=節税です。

昭和61年

(1) 昭和61年10月28日付け政府税制調査会「税制の抜本的見直しについての答申」において、 制度面を含め何らかの対応策を検討すべきであるとの意見が述べられ、 昭和63年4月28日付け政府税制調査会「税制改革についての中間答申」においても、 借入金による不動産取得等の相続税の負担回避行為について、 租税負担の公平を確保する観点から必要な対応策を講ずべきことが提言されました。

昭和63年

(2)地価適正化等土地対策として、 昭和63年6月15日付け臨時行政改革推進審議会「地価等土地対策に関する答申」において、 土地対策の一環として土地税制の活用が取り上げられ、その中で借入金による土地取得等を通ずる租税負担回避行為に対処し、 併せて、土地の仮需要を抑制するため、所要の税制上の歯止め措置を検討すべきことが提言され、 同答申を受けて同月28日閣議決定された政府の「総合土地対策要綱」において、 かかる税制上の歯止め措置を講ずることが決定されました。

(3) このような経緯により、借入金による不動産取得の場合に限らず、例えば、 金融資産の売却による不動産取得の場合も念頭に置き、不動産の相続税評価額と実勢価格との乖離を利用した租税負担回避行為に対処し、 租税負担の公平を確保するため、昭和63年末の税制の抜本改革の際に、 被相続人が相続開始前3年以内に取得又は新築をした土地等又は建物等については、 相続税評価額ではなく、取得価額により課税することを内容として、 旧租税特別措置法69条の4《相続開始前3年以内に取得等をした土地等又は建物等についての相続税の課税価格の計算の特例》が租税特別措置として制定されました。

相続税においては、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時(相続については相続開始の時)における時価により評価するのが原則であるが(相続税法第22条)、 この特例は、個人が相続により取得した財産のうちに、その相続開始前3年以内に被相続人が取得又は新築をした土地等又は建物等(被相続人の居住の用に供されていた土地等又は 建築物ほか一定の要件に該当するものは除く。)がある場合には、同法11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額等については、 同法22条の規定にかかわらず、その土地等又は建物等の取得価額として政令で定めるものの金額(土地等にあっては、その土地等の取得に要した金額及び改良費の合計額をいう(旧措令40の2B)。) とすること等を内容とする租税特別措置を定めたものであり、昭和63年法律第109号により創設されたものです。

この条文は平成8年法律第17号によって廃止されていますが、旧租税特別措置法69条の4が創設されたのは、 不動産の相続税評価額と実勢価額との乖離を利用した租税負担回避行為が横行している状況において、 これに適切に対処し、租税負担の公平を確保することにありました。

7.相続税対策の一括借上方式の問題

相続対策等で不動産建設を斡旋した不動産業者と土地所有者との間に締結された一括借上方式による不動産契約について、 当該不動産業者が一方的に家賃を減額するなどしたため、計画通りの収入を見込めなくなって多額の負債を抱えるといった問題が発生しています。

相続税対策として、貸家建付地の優遇税制を利用した租税負担の軽減を狙って、貸アパート経営に乗り出した結果、 不動産業者は最初は家賃保証をして勧誘しますが、この契約は途中で更新され、一方的に家賃を減額された結果、 これを継続することが困難になったとしても、借地借家法の適用があるため、 簡単にアパート経営を廃業することができないというリスクを抱え、さらには、 相続対策のために建築した建物が老朽化して住めなくなっても、 建物を壊してしまうと更地に対する土地評価となり、固定資産税が6倍になってしまうため、 廃屋となったまま取り壊すこともできず放置されてしまうという問題が発生しています。
 「廃墟マンションの行政代執行」

8.海外に資産を移す富裕層

簡単に財産を海外に持ち出せるようになった現在、本人が海外に保有する資産については自ら申告でもしない限り、 申告漏れや所得隠しなどの情報入手は困難な上に、日本の国税当局は日本にある財産しか徴収できないという問題がありました。

既に日本国内で課税されていて滞納している人や企業が、海外に資産を持っている場合は、 2013年10月に発効した「税務行政執行共助条約」によって、海外の税務当局に差押さえしてもらい、強制的に税金を徴収する国際間の徴収共助制度があります。

日本国内で消費税と源泉所得税を滞納し、その後、日本国内での事業を停止し、国内財産もなく、 徴収できなかった企業を調べると、実は、韓国に財産と事業を移転していたことが判明し、韓国の税務当局に徴収共助を要請し、 韓国側は差押さえを実施して、滞納国税を徴収した例があります。

国税庁は東京、関東信越、名古屋、大阪の4つの国税局に国際的な徴収実務を担当する専門の担当者を配置して、 海外の税務当局と預金口座の情報を交換する制度などを利用して海外の情報を入手し、他国と連携して財産を追い続けています。

9.地価の長期的動向

災害は忘れた頃にやってくる。 ・・・ 相続税は地価が下がった頃に、高いときの価格でやってくる。
平成3年,4年、公示地価が-10%,-20%と下がり続けていた頃、相続税の納付額は過去最高だった。

(2022年6月18日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 18 Jun 2022/ Revised Publication -time to time)