区分所有法25条2項による理事長解任訴訟
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区分所有法25条2項による理事長解任訴訟 東京高裁 平成29年4月19日

目次
   要旨 (区分所有法25条2項による理事長解任訴訟の経緯)

   各有益費償還請求控訴事件・東京高裁判決・平成29年4月19日
   事実及び理由  第1.控訴の趣旨  第2.事案の概要   第3.当裁判所の判断  第4.結論

(まえがき):
 マンション紛争の判例は法律家として捉えるか、管理組合のコミュニティ運営実務から捉えるかで、 それぞれ見方は異なります。コミュニティの紛争は裁判では解決しないときもあります。

(本判例の法律家の見方)
区分所有者の権利の行使に関する高裁判例が最高裁上告却下、上告不受理で確定した。
1.建物の区分所有者の一人が 区分所有法25条2項の管理者解任訴訟を提起することは、 管理組合を本人とする事務管理に当たらない。
2.建物の区分所有者の一人が 区分所有法25条2項の管理者解任訴訟を提起することは、 訴訟提起に反対の意見を有する他の区分所有者を本人とする事務管理に当たらない。

他方、この判例を管理組合のコミュニティから見ると、裁判でも解決されないさまざまな問題点が見えてきます。 コミュニティ論は語る人の経験知を計る尺度にもなります。
本稿では、コミュニティから見た論評はしません。どうか皆さんの立場でお考え下さい。

要旨(区分所有法25条2項による理事長解任訴訟の経緯)

 事件の経緯:

1. 鍵となる法律条文:区分所有法第25条第2項
  2  管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、
     各区分所有者は、その解任を裁判所に請求することができる。

 この条文に基いて、X1、X2は当時の理事長Y4の解任請求訴訟を提起、1審では却下されたが控訴した2審で勝訴し、 最高裁に上告されたが最高裁は上告却下、上告不受理で勝訴が確定した。

(1) 区分所有法第25条第2項による理事長の解任請求の事由:
  @ 管理手数料名目で役員報酬を不正に支出した。
  A 管理組合と保険会社を双方代理して保険契約手数料を不正に支出した。
  B 解任訴訟に応訴するための弁護士報酬を不正に支出した。
などの「不正な行為その他職務を行うに適しない事情」を放置すれば、 本件マンションが適正に管理されず、本件管理組合の財産が毀損し、区分所有者の利益が損なわれるおそれがあったためとした。 一方、Y4は上記の解任事由とされた事項はいずれも管理組合の総会で承認されたものであり、不正には当たらないと主張した。
1審はY4の主張を認容し解任請求を棄却、2審はそれを否認して原告の逆転勝訴とした。
(2) X1、X2はこの解任請求訴訟で弁護士報酬50万3590円を支出した。
  今回の裁判は、このX1、X2が支出した費用を区分所有者全員で分担するよう求めた控訴審

2. 本件 Aマンション概要(全69戸:所在地 東京都新宿区)
(注:上のイラストは本件のマンションとは無関係です。) 控訴人(2名) 区分所有権1
 503号室を共有(持分割合:X1 10の9、X2 10の1)
被控訴人(14名)

(X1から有益費償還請求訴訟を提起された。Y4は裁判で理事長を解任されたが、その後も総会で理事に選任)
被控訴人(18名)

(X2から有益費償還請求訴訟を提起された。)
その他の区分所有者(36名)
(管理者解任訴訟の弁護士報酬の支払いに応じた者で、 本件裁判には参加していない)

3. 事件の経緯 (本 A管理組合の会計年度は 9月〜翌年8月)
平成19年9月X2が理事長に選任
平成20年9月X2が理事長に再任
平成21年6月22日X2が任期途中の臨時総会で理事を解任され理事長を退任、
後任理事長にY4が就任
平成22年9月Y4が理事長に再任
平成22年9月27日X1とX2が区分所有法25条2項によるY4の理事長解任を地裁に提訴
平成22年11月30日定時総会開催。Y4の理事長解任訴訟が提起された旨を組合員に告知、
Y4はその後も解任請求が認容されるまで理事長再選を重ねた。
平成24年12月26日第1審は解任請求を棄却・X1,X2が東京高裁に控訴
平成25年7月10日第2審は解任請求を認容・Y4が最高裁に上告
平成26年11月25日最高裁はY4の上告を棄却、上告不受理、X1,X2の勝訴確定
平成26年12月〜
   27年3月
X1,X2は勝訴確定を受けて組合員に有益費(弁護士報酬)を共用部分の持分割合で按分した金額の償還を請求
平成27年4月27日X1,X2が支払いに応じなかったY1〜Y32を東京地裁に提訴
平成28年10月13日第1審は請求を棄却・X1,X2が東京高裁に控訴
平成29年4月19日第2審控訴棄却、最高裁も上告却下、上告不受理


以下、各有益費償還請求控訴事件の東京高裁判決を論評なしで、そのまま掲載しています。

各有益費償還請求控訴事件 東京高裁判決・平成29年4月19日

事件番号   東京高等裁判所 平成28(ネ)第5398号   
事件名     各有益費償還請求控訴事件
裁判年月日  平成29年4月19日 東京高等裁判所第11民事部 判決「控訴棄却」
         上告受理申立 後上告却下、上告不受理
原審      東京地方裁判所 原審事件番号 平成27年(ワ)第27229号、平成28年(ワ)第4511号
         平成28年10月13日判決、判タ1439号192頁
参照条文  民法697条1項、702条1項、建物の区分所有等に関する法律第25条第2項


 主 文

本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。


事実及び理由

第1  控訴の趣旨

原判決を取り消す。

別紙請求目録記載の「所有者」欄記載の各被控訴人は、控訴人X1に対し、「控訴人X1(持分10分の9」に対する負担額」 欄記載の金員(事務管理費用)及びこれに対する「訴状送達の日の翌日」欄記載の日から支払済みまで民事法定利率年5%の割合による遅延損害金を支払え。

別紙請求目録記載の「所有者」欄記載の各被控訴人は、控訴人X2に対し、「控訴人X2(持分10分の1」に対する負担額」 欄記載の金員(事務管理費用)及びこれに対する「訴状送達の日の翌日」欄記載の日から支払済みまで民事法定利率年5%の割合による遅延損害金を支払え。

訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人らの負担とする。

仮執行宣言

第2  事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者である控訴人らが、同マンションの他の区分所有者の一部である被控訴人らに対し、 控訴人らが原告として提起した建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)25条2項に基づく管理者解任請求訴訟 (管理者の解任を命じる内容の控訴人らが勝訴判決確定。以下「本件解任訴訟」という。)に関して支出した弁護士報酬相当額(50万3590円)につき、 事務管理による有益費償還請求権に基づき、その持分割合に応じた金額の支払を求める事案である。

 原判決は、控訴人らの請求をいずれも棄却したことから、控訴人らがこれを不服として控訴を提起した。

2 前提事実  (証拠を付さない事実は当時者間に争いがない。)

(1) 当事者等

 マンション「A」(以下「本件マンション」という。)は東京都新宿区(以下略)(登記記録上の所在(省略))に所在し、 専有部分の総数は69である。

 控訴人ら及び被控訴人らは、本件解任訴訟の判決確定の日(平成26年11月25日)の時点において、 いずれも本件マンションの区分所有者であった。控訴人らは、その専有部分(住戸番号503号)につき、 控訴人X1が10分の9、控訴人X2(以下「控訴人X2」という。)が10分の1の持分割合で共有している(甲1)。

 控訴人らの本件マンションにおける共用部分の持分割合は、その占有部分の床面積の割合に応じた1320万分の16万4868であり、 被控訴人らの本件マンションにおける共用部分の持分割合は、 別紙請求目録記載の「所有者」欄及び「共有持分割合(分母1320万)」欄記載のとおりである。(弁論の全趣旨)

 区分所有法3条に規定する本件マンションの区分所有者の全員をもって構成する団体として、 「A管理組合」(以下「本件管理組合」という。)が置かれ、本件管理組合の規約として、「A管理規約」(以下「本件規約」という。)がある。 本件規約41条2項においては、本件マンションにおける区分所有法25条1項所定の管理者は、本件管理組合の理事長とされている。(以上につき、乙8)。

(2) 本件解任訴訟の経過

 控訴人らは、平成22年9月27日、当時の本件管理組合の理事長で本件マンションの管理者であった被控訴人Y4(以下「被控訴人Y4」という。)を被告とし、 管理手数料名目で役員報酬を不正に支出したこと、本件管理組合と保険会社を双方代理して保険契約手数料を不正に支出したこと及び 本件解任訴訟に応訴するための弁護士報酬を不正に支出したことなどの「不正な行為その他その職務を行うに適しない事情」(以下「本件解任事由」という。)があると主張して、 区分所有法25条2項に基き、被控訴人Y4の管理者からの解任を求めて本件解任訴訟を提起した(乙3)。

 本件解任訴訟につき、第一審裁判所は請求を棄却したが、(東京地方裁判所平成24年12月26日判決)、 控訴審裁判所は第一審判決を取り消して管理者解任請求を認容し(当庁平成25年7月10日判決)、平成26年11月25日の上告棄却及び上告不受理の決定により、 解任請求を認める判決が確定した(甲3、甲4、乙3)。

 控訴人らは、本件解任訴訟の弁護士報酬として、合計50万3590円を支出した(甲5の1ないし4)。

 控訴人らは、本件マンションの区分所有者らに対し、事務管理による有益費償還請求権び基づき、 上記ウの弁護士報酬につき共用部分の持分割合による分担を求めたところ、被控訴人らを除く他の区分所有者らはこれに応じたが、 被控訴人らはこれを拒んだ(弁論の全趣旨)。

 3 争点及びこれに対する当事者の主張

(1) 争点1 (事務管理該当性その1−本件解任訴訟は他の区分所有者又は本件管理組合の事務に当たるか)

ア 控訴人らの主張

(ア) 控訴人らは、被控訴人Y4の本件解任事由を放置すれば、本件マンションが適正に管理されず、 本件管理組合の財産が毀損し、被控訴人らを含む他の区分所有者の利益が損なわれるおそれがあったため、やむを得ず本件解任訴訟を行った。

したがって、本件解任訴訟は、控訴人らの事務であるとともに、被控訴人らを含む他の区分所有者の事務でもあり、 被控訴人らのためにする意思をもって行ったものである。

(イ) 仮に、本件解任訴訟について被控訴人らを本人とする事務管理が成立しないとしても、 本件管理組合を本人とする事務管理が成立する。そして、区分所有法29条1項及び53条1項を類推適用することはできないから、 事務管理に基づく有益費償還請求権は、他の区分所有者である被控訴人らに対して請求することができる。

イ 被控訴人Y2及び被控訴人株式会社Y3(以下「被控訴人Y2ら」という。)を除く被控訴人らの主張

(ア) 否認する。本件管理組合では、本件解任訴訟継続中も被控訴人Y4が多数派であった。 少数派の控訴人らは自己の主張が受け入れられず、被控訴人Y4への敵対意識から本件解任訴訟を提起した。 本件解任訴訟は、他の区分所有者の事務に当たらず、他の区分所有者のためにする意思を欠く。

(イ) 仮に、本件管理組合のために事務管理が成立しうるとしても、 本件解任訴訟は、本件管理組合の意思及び利益に反するものであり、控訴人らはそのことを推知することができた。

また、本件管理組合のために事務管理が成立するとしても、区分所有法29条1項及び53条1項を類推適用し、 被控訴人らに有益費償還請求ができるのは、本件管理組合の財産をもって有益費償還債務を完済することができないときに限られる。

ウ 被控訴人Y2らの主張

 被控訴人Y2らは、控訴人らに対し、本件解任訴訟を依頼していないし、控訴人らから本件解任訴訟の説明も受けていない。


(2) 争点2(事務管理該当性その2−本件解任訴訟は、被控訴人らの意思又は利益に反するか)

ア 被控訴人らの主張

 控訴人らが主張する本件解任事由はいずれも本件管理組合の総会で承認されたものである。 他方、平成21年6月22日の臨時総会では、控訴人X2提案の被控訴人Y4に対する役員報酬の返還請求訴訟提起議案は否決された。

また、被控訴人Y4は、本件解任訴訟の解任判決確定後も理事に再選されている。 したがって、本件解任訴訟は被控訴人らの意思又は利益に反するものであり、控訴人らはそのことを推知することができた。

イ 控訴人らの主張

 本件解任訴訟は、被控訴人らを含む他の区分所有者の意思にも利益にも反しない。
 なお、事務管理における本人の意思とは、社会的合理性のあるものでなければならず、 公序良俗に反する意思は無視される。区分所有法25条2項は、多数決による自浄作用が期待できない場合に備えて設けられた規定であるから、 本件解任訴訟が被控訴人Y4を擁護する組合員の意思に反していたとしても、当該組合員のために事務管理が成立する。


(3) 争点3(有益費となる弁護士費用の範囲)

ア 控訴人らの主張

 控訴人らが本件解任訴訟のための弁護士報酬として支出した合計50万3590円の全額が民法702条の有益な費用に当たる。

イ 被控訴人Y2らを除く被控訴人らの主張

 本件解任訴訟の第1審判決の結論は請求棄却であり、控訴審で請求認容となった。 したがって、仮に事務管理が成立するとしても、有益費に当たるのは、控訴審の弁護士報酬のみであり、その金額としては25万1795円が相当である。


(4) 争点4(特定承継人に対する請求の可否)

ア 被控訴人Y5の主張

 被控訴人Y5は、本件訴訟提起前に本件マンションの区分所有権を第三者に譲渡した。 したがって、控訴人らが被控訴人Y5に対して本件解任訴訟による弁護士報酬の分担を求めることはできない。

イ 控訴人らの主張

 争う。本件有益費償還請求権の発生時期は本件解任訴訟の判決確定時(平成26年11月25日)であり、 被控訴人Y5の区分所有権譲渡はその後のことである。

第3  当裁判所の判断

 1 認定事実

 証拠(甲1から5まで、9,10,15から17まで、乙号各証、丙号各証、控訴人X1、被控訴人Y6、同Y7) 及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件管理組合の運営をめぐる意見対立

 本件規約(38条)においては、理事は総会で選任し、理事長(規約41条により区分所有法上に定める管理者となる。) は理事の互選により選任すると定めている。

 本件管理組合においては、管理手法(自主管理か業者委託か)、 理事報酬の要否などの事項をめぐって意見の対立があり、 本件解任事由をめぐっても被控訴人Y4を支持する意見と支持しない意見に分かれていた。

 本件管理組合は、毎年9月から翌年8月までを会計年度及び役員の任期(ただし、 後任者が決定されるまでは前任者が職務を行う。)として運営されてきた。

 控訴人X2は、平成19年から始まる会計年度の理事長(区分所有法上の管理者)に選任され、 翌年度も理事長に選任された。しかしながら、控訴人X2は、平成21年度6月に任期途中の総会決議で理事を解任され、 これに伴い理事長も退任した。控訴人X2の後任の理事長には、被控訴人Y4が選任され、 平成22年9月から始まる会計年度においても理事長(区分所有法上の管理者)に再選された。

(2) 本件解任訴訟の経過

 控訴人らは、平成22年度9月27日、東京地方裁判所に、控訴人らを原告とし、被控訴人Y4を被告とし、 被控訴人Y4の管理者からの解任を請求の趣旨として、本件解任訴訟を提起した。 平成24年12月26日に言い渡された第1審判決は、控訴人らの解任請求を棄却した。 控訴人らは、第1審判決を不服として東京高等裁判所に控訴したところ、 平成25年7月10日に言い渡された第2審判決は、第1審判決を取り消して、控訴人らの解任請求を認容した。 被控訴人Y4は、第2審判決を不服として最高裁判所に上告及び上告受理申立をしたが、 平成26年11月25日に上告棄却、上告不受理の決定があり、控訴人らの勝訴が確定した。

(3) 本件解任訴訟前後の状況

 平成22年度11月30日開催の本件管理組合定時総会の召集のお知らせ(甲15)には、 控訴人らから本件解任訴訟が提起された旨の記載がある。

しかしながら、本件解任訴訟は、その係属中においても、多くの組合員の記憶にとどめられないまま推移した。 被控訴人Y4は、本件解任訴訟の係属中は、総会決議等により理事長(区分所有法上の管理者)への再選を重ねた。

 控訴人らは、本件解任訴訟判決確定後の平成26年12月と平成27年3月に知れたる組合員に宛てて、 本件解任訴訟の結果を通知し、有益費(前記弁護士報酬を共用部分の持分割合で按分した金額)の償還を請求した(甲9,10)。 控訴人らは、支払いのない組合員を被告として、平成27年4月27日(一部の組合員については同年9月8日)に本件訴訟を提起した。 多くの組合員は、前記通知又は本件訴訟の訴状の送達を受けて、本件解任訴訟提起の事実及びその結果を認識した。

被控訴人らは、必ずしも控訴人らに対する信頼感を有しておらず、本件解任訴訟の結果を知らされた後も、 被控訴人Y4を理事長(区分所有法上の管理者)から解任する必要性やそのために本件解任訴訟を提起する必要性はないと考えている。

 被控訴人Y4は、本件解任訴訟における解任判決(被控訴人Y4を管理者から解任する旨の判決)の確定により、 理事長から退いた。被控訴人Y4は、その後も、多くの組合員の支持を受け、総会決議により本件管理組合の理事への再選を重ねている。 しかしながら、組合員の間で、控訴人らへの支持は広がりをみせていない。

 2 争点2
(事務管理該当性その2−本件解任訴訟は、被控訴人らの意思又は利益に反するか)について

(1) 各区分所有者は、いずれも区分所有法25条2項に基づく管理者解任請求訴訟の原告適格を有しているから、 本件解任訴訟の提起が被控訴人らの意思に反しないものであるときには、被控訴人らを本人とし、 控訴人らを管理者とする事務管理が成立する可能性がある。そこで、まず、 本件解任訴訟の提起が被控訴人らの意思に反することが明らかであったどうかを検討する。

(2) 前記1の認定事実によれば、被控訴人Y4の理事長・管理者としての業務運営の一部に問題があったことが認められるのと同時に、 控訴人らの本件管理組合の運営方針や実績(控訴人X2が理事長を務めていた時期の実績)も他の組合員からの広い支持を受けていなかったこと、 控訴人らがこのような客観情勢を認識していたことを推認することができる。 また、前記認定事実によれば、被控訴人らは本件解任訴訟の提起の時点で意見を聴かれた場合には訴訟提起に反対したであろうことを推認することができる。

 そうすると、控訴人らは、本件解任訴訟の提起の当時、組合員の中には、訴訟提起に賛成の者もいれば反対の者もいること、 反対の者の数が決して少なくないことが確実であることを認識していたものというべきである。 そして、被控訴人らは本件解任訴訟の提起に反対の者に属するから、本件訴訟提起は被控訴人らの意思に反することが明らかであり、 控訴人らは被控訴人らに対して本件解任訴訟の提起に関する事務管理に基づく有益費償還請求権を有しないものというべきである。

(3) 本件管理組合の組合員の数は多数に及ぶため、控訴人らは、本件解任訴訟の提起の当時、 どの組合員が本件解任訴訟の提起に反対かを、個別に認識することができなかったものと推認される。

しかしながら、仮に事務管理が成立するとしたときの本人の数が69(本件マンションの専有部分の総数) 前後に及ぶと推定される本件のような場合において、当該事務の管理が本人の意思に反することが明らかな者 (以下、「意思相反者」という。)の数が相当数あることが確実であるときには、 事務の管理の開始時において管理者が意思相反者を個別に特定して認識していなくても、 意思相反者との関係においては事務管理が成立しないものというべきである。

 3 争点1
(事務管理該当性その1−本件解任訴訟は、他の区分所有者又は本件管理組合の事務に当たるか)について

(1) 控訴人らは、本件管理組合を本人とする事務管理が成立するとも主張する(争点1のアの(イ)。 しかしながら、区分所有法25条2項の管理者解任請求は、各区分所有者固有の権利であって、 管理組合の権利ではないから、本件解任訴訟について、本件管理組合を本人とする事務管理が成立する余地はないものというべきである。 控訴人らの前記主張は、採用することができない。

(2) 株主代表訴訟は、株式会社の有する権利を株主が行使する点において、 区分所有者固有の権利(管理組合の権利ではない。)を区分所有者が行使する管理者解任請求訴訟とは、 その構造を異にする。そして、株主代表訴訟においては、株式会社を本人とし、 株主を管理者とする事務管理という構図が当てはまる。 しかしながら、株主代表訴訟は、株主の提訴請求を株式会社が明示的に拒絶した後に提起されるなど、 訴訟の提起が本人たる株式会社の意思に反することが明らかなことが多い(会社法847条1項、3項、4項参照)。 このように、多くの株主代表訴訟においては、株式会社のための事務管理が成立せず、 株式会社に対する有益費償還請求権も発生しない。しかしながら、立法者は、 このような場合に勝訴株主が全く費用等の償還を受けられないことは不適切であると判断して、 特別に、株式会社のための事務管理が成立しない場合であっても勝訴株主の株式会社に対する費用報酬支払請求権を発生させる条文(会社法852条) が設けられているのである。

(3) 会社法上の訴えの中で、その構造が区分所有法25条2項の管理者解任請求に近いのは、 株式会社の役員の訴え(会社法854条)である。株式会社の役員の解任の訴えは、当該役員を解任する旨の議案が株主総会 (又は種類株主総会)で否決された場合に限り、会社法所定の要件を満たす株主が株主固有の権利として、提起することができる。 そうすると、他の株主の中には、株式会社の役員の解任の訴えの提起に反対することが明らかな者(以下「反対株主」という。) がいることが確実であって、この場合には、反対株主を本人とする事務管理は成立の余地がない。 そして、反対株主に対する費用償還請求権を認める内容の法律の規定は設けられていないから、結局のところ、 勝訴株主は反対株主に対して費用償還を請求することができない。

区分所有法25条2項の管理者解任請求も、費用償還に関しては、株式会社の役員の解任の訴えとおおむね同様の問題状況にあり、 解任に反対する区分所有者に対する勝訴株主への費用償還を命じることには無理がある。

 4  他に、本件解任訴訟に関して控訴人らと被控訴人らとの間で事務管理が成立することを基礎付けるに足りる事実関係を認めるに足りる証拠はない。 よって、控訴人らと被控訴人らとの間に事務管理は成立しないから、控訴人らの請求は理由がないことに帰する。

第4  結論

 以上によれば、控訴人らの本件請求は理由がないからこれらをいずれも棄却すべきである。 原判決は、その結論においてこれと同旨であるから、本件控訴はいずれも棄却すべきこととなる。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野山宏 裁判官 長田雅之 裁判官 大塚博喜)

 (3.4) この裁判の根本的な問題点

  (参考)  判例比較論:紛争の解決に向けて[3.紛争の解決手段]

2018.5.17 掲載