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令和4年9月12日・区分所有法の見直し・法制審議会へ諮問

(以下 マンションNPOの解説です)
改正の目的: 建替え決議・再建決議の効率化によって迅速な建替えを促進する

集団意思決定の効率化 ・ 集団の論理か個人の権利か
  2001年(平成13年)6月5日(法制審議会建物区分所有法部会・第1回会議) 〜
  2002年(平成14年)8月22日(同部会第16回)でも、今回改正しようとしている
  「集団意思決定の効率化」について、「個人の権利の尊重」という相反する
  価値基準との間で真剣な討議が行われてきましたが、結論は出ませんでした。

  この検討から20年、不動産開発業界からの圧力でこの問題に結論を出す要請に迫られています。

 【次頁】 集団の論理と個人の権利・最高裁判決
  最高裁平成31年3月5日損害賠償等請求事件判決
  [判決要旨] 札幌市内の区分所有建物5棟から成る総戸数544戸のマンションで高圧受電
  方式への変更に同意しなかった区分所有者を相手に管理組合が損害賠償を求めた裁判で、
  最高裁は、「管理組合決議に同意しなかったことによる団地共用部分等の適正な管理が妨
  げられることとなる事情はうかがわれず、決議への不同意は不法行為を構成しない」とした。

 今回の改正が目指すものは、決議への不同意は不法行為を構成するという結論です。
 その前に、再開発事業者からの当面の要請である「建替え決議・再建決議の効率化」を図る上で、
 今まで不同意として解釈してきた範囲を限定し、それらを投票総数の分母から外すこととする。

 最大多数の幸福を絶対的正義とする論理 ("greatest good for the greatest number " -
Utilitarianism ) を導けるのか、手続き的正義で置き換える (down vote threshold under the social contract and consent with the Social-Obligation Norm in Property Law) のか、

最高裁も入った法制審の真価が問われる問題ですが、 同時に、これは区分所有者のひとり一人に突きつけられた問題でもあります。
     (参考) 「公共の福祉と生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」

個人の権利を規制し集合的な意思決定を優先させる場合に必要な議論・評価・正当化の作業として、
(1)財産理論の3つの伝統(功利主義、義務論、多元主義)における共有と私有の財産権の整理
(2)判例法上、公平かつ合理的とみなされる集団意思決定手順の規範の確立
(3)複雑な調整を必要とする収用(Expropriation)と補償(compensation)の手順の確立
が求められているが、2022年(令和4年)10月28日に始まった法制審議会区分所有法制部会第1回会議から、 2023年(令和5年)1月16日の第4回会議を通じて、令和5年1月末現在、経団連や産業界の意見を代弁する国交省の 要求の説明に終わっていて、上記の3つの議論には未だ至っていない。今後の議論に注目しましょう。

目次
第一章 区分所有法・これまでの改正履歴
第二章 最近の改正に向けての経緯
第三章 区分所有法・予定される改正点
第四章 建替え円滑化法・予定される改正点
第五章 被災マンション再建法・予定される改正点
第六章 公共の福祉と生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利

第一章 区分所有法・これまでの改正履歴

1983年(昭和58年)〜2011年(平成23年)までの改正履歴は下記に詳しく述べています。

○ 1983年(昭和58年改正)昭和58年5月21日法律第51号
  ○ 区分所有法の履歴U(S58改正)

○ 2002年(平成14年改正)平成14年12月11日号外法律第140号
    以降、2011年(平成23年)までの改正履歴の内容を紹介
  ○ 区分所有法の履歴T(H14改正)

第二章 最近の改正に向けての経緯

○ 2020年(令和2年)7月17日 安倍晋三内閣・閣議決定
   安倍晋三内閣(平成24年(2012年)12月26日〜令和2年(2020年)9月16日)末期の
   令和2年7月17日閣議において、「規制改革実施計画」を決定、その中身は、
   「建替え決議・再建決議の効率化を進め、建替えを促進する」という事です。

   この時期、令和2年6月24日法律第62号でマンション管理適正化法と建替え円滑化法
   改正で管理組合に対する罰則が強化されました。(管理組合に対する行政の規制強化)
      「老朽化対策と法改正」

 「規制改革実施計画」とは 具体的には「建替え決議・再建決議の効率化」の事です。

【政府発表】
1.区分所有法における建替え決議の見直し

「今後老朽化したマンションが更に増加していくこと、相続により所有関係が複雑化していくこと、 区分所有者が多様化・高齢化していくこと等も踏まえ、建替え決議において集会に不参加の者(意思表示をしないもの)については、 所有者不明である等、一定の要件・手続のもとで分母から除くこと、建替え決議に必要となる5分の4以上の賛成という要件の緩和、 強行規定とされている同要件を任意規定とすること等の方策も含めて、建替え決議の在り方について、 見直しによって得られる政策効果やマンションの管理に与える影響を踏まえるとともに、 建替え決議による区分所有者への影響の重大性にも配慮しながら、法務省、国土交通省を中心とする関係省庁等、 法律実務家、研究者、都市計画の専門家、事業者等幅広い関係者を含めた検討の場を設けた上で検討する」

2.被災マンション法における再建決議の見直し
「今後大規模な災害が想定されていることも踏まえ、被災した区分所有建物の再建、 取壊し等の決議に必要となる5分の4以上の賛成という要件の緩和、 区分所有建物の一部が大規模滅失した場合の敷地の売却等についての決議可能な期間延長等も含めて、 被災した区分所有建物の再建をより円滑に進める方策についても検討する」



○ 2021年(令和3年)3月31日
一般社団法人金融財政事情研究会主催「区分所有法制研究会」発足
  (法務省民事局、最高裁判所事務総局民事局、国交省、(一社)不動産協会他)
第1回(令和3年3月31日)〜第19回(令和4年9月16日)の開催を経て、
  令和4年9月30日「区分所有法制に関する研究報告書」公表


○ 2022年(令和4年)5月27日 岸田文雄内閣・関係閣僚会議にて下記決定

 「所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針」

【政府発表】
「今後急増することが見込まれる老朽化マンション等の老朽化区分所有建物対策として、 区分所有法制の抜本的な見直しに向けた検討を行う。

具体的には、所有者不明マンション等に特化した財産管理制度の創設、 出席者のみの多数決による決議を可能とする仕組みの創設等のマンション等の管理の円滑化を図る方策や、 建替え要件の緩和、多数決による売却等の新たな再生手法の創設等の老朽化マンション等の再生の円滑化を図る方策、 今後の災害の発生を見越した被災マンション等の再生の円滑化を図る方策について検討を進め、 今年度中できるだけ速やかに論点整理を取りまとめる。」
(岸田文雄内閣(令和3年(2021年)10月4日〜)



○ 2022年(令和4年)6月7日 岸田文雄内閣・閣議にて下記決定

 「規制改革実施計画」

【政府発表】
法務省及び国土交通省は、「区分所有法制研究会」…において、 引き続き、区分所有法制の見直しに向けた論点整理を進め、令和4年度中できるだけ早期に取りまとめを行い、 速やかに法制審議会への諮問などの具体的措置を講ずる。」



○ 2022年(令和4年)9月2日 葉梨康弘法務大臣閣議後記者会見の概要
          〜 統一教会 と  区分所有法制 〜

(出典) https://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho08_00333.html

「今朝の閣議において、法務省案件はありませんでした。
続いて、私から2件報告申し上げます。

先般、8月18日に、「旧統一教会」問題関係省庁連絡会議の第1回会合を開催しました。
その構成メンバーは、人権・法的支援の関係から法務省、犯罪被害相談の関係から警察庁、 消費者トラブルの関係から消費者庁、孤独・孤立の関係から内閣官房ということでしたが、その後、 8月22日に私から総理に報告し、後で申し上げます相談機関の関係も含めて、 より幅広く悩みを持っている方々を救済できるような体制をしっかりと取ってほしいという御指示がありました。 そして、関係省庁間で連携を取って検討したところ、本会議の構成メンバーを昨日決定させていただきました。 行政相談の観点から総務省、在外邦人の保護・支援の観点から外務省、子どものいじめへの対応の観点から文部科学省、 児童虐待・生活困窮・心の健康の観点から厚生労働省の関係部局の担当者にも加わっていただくこととなりました。

また、これから行います相談集中強化期間中も、相談窓口のある省庁におかれましては、 一緒に入っていただくことになります。 そして、今申し上げました「旧統一教会」問題・相談集中強化期間について申し上げます。  来週9月5日(月)から30日(金)までの約1か月間を、「『旧統一教会』問題・相談集中強化期間」として、 関係省庁が連携して相談対応を行うこととしました。

関係省庁が連携し、フリーダイヤルによる「合同電話相談窓口」を設置します。 「旧統一教会」問題につき、悩みを抱えている全国各地の方々から幅広く相談を受け付け、即時連携できる態勢を取ってまいります。 集中強化期間中、既存の相談窓口である警察相談専用電話、消費者ホットライン、みんなの人権110番、法テラス・サポートダイヤル、 行政相談「きくみみ」においても、相互の連携を強化して相談対応を行います。  また、この取組に関しては、日本弁護士連合会などの関係団体の御協力も得られるものと聞いています。

関係省庁においては、これまでも関連する問題について、それぞれの立場で相談対応等に取り組んでまいりましたが、 それぞれの知見を共有し、一体となって取り組むことによって、お困りの方々の相談により適切にお応えできるもの、 そして、救済につなげることができるものと考えています。
報道関係者の皆様も、この取組の周知・広報・情報提供に御協力をお願いしたいと思います。


2件目は、区分所有法制の見直しに関する法制審議会への諮問についてです。

区分所有法制は、典型的には分譲マンションに関するものです。分譲マンション等は、建物が老朽化、区分所有者が高齢化し、 こういったことを背景として、区分所有者、つまり分譲所有者の不明、あるいは空き家化、そういったものが進行しています。
ですから、分譲マンション等、区分所有建物を管理する、例えば大規模修繕、再生、建て替えをするには、 今、合意形成の中で相当なハードルがあります。 それを円滑化しなければいけない課題もありますし、また、非常に災害が多く、被災したそのような建物について再生を図ることは、 喫緊の課題です。ですから、政府の基本方針においても、ストックをいかに有効に活用するかという観点は、 まさに経済の活性化の観点でもあるわけですが、今年度中できるだけ速やかに論点整理を行っていただきたい、 そして法制審議会への諮問などの措置を講ずることが決められたところです。

これを受け、私どもも相当急ピッチで、法務省の担当者も参加します「区分所有法制研究会」において検討を行ってまいりました。 おおむね論点が整理されたものと考えています。ただ、先ほど申し上げましたように、管理と再生の円滑化という要請の反面、 それぞれの財産権をどう保護していくかというような要請もあります。 ですから、この結論を得るためには、幅広い議論が必要であるということで、急ピッチで作業を行い、 できるだけ早く諮問をさせていただくことになりました。

具体的に申し上げますと、法改正に向けての具体的検討を行っていただくため、9月12日に開催予定の法制審議会総会において、 区分所有法制の見直しについての諮問を行うこととします。 今後、法制審議会において、幅広い観点から充実した審議がなされることを期待しています。」


2022年(令和4年)9月12日
○ 葉梨康弘法務大臣・法制審議会第196回総会にて「諮問第百二十四号」発令

諮問第百二十四号
老朽化した区分所有建物の増加等の近年の社会情勢に鑑み、区分所有建物の管理の円滑化及び建替えの 実施を始めとする区分所有建物の再生の円滑化を図るとともに、今後想定される大規模な災害に備え、 大規模な災害により重大な被害を受けた区分所有建物の再生の円滑化を図る等の観点から、区分所有法制の 見直しを行う必要があると思われるので、その要綱を示されたい。


2022年(令和4年)9月12日
○ 9月12日午後・法務省にて
  法務省法制審議会第196回会議開催
  諮問第124号は区分所有法制部会(新設)
  に付託して審議することを決定
主管省庁及び庶務担当部局課:
  法務省大臣官房司法法制部司法法制課
根拠法令:法務省組織令第54条
法制審議会委員定数:20人以内の学識経験者:任期2年

 (注)法制審議会は,法制審議会令に基づいて設置される法務大臣の諮問機関で下部機関に
   家族法・刑事法・戸籍法・商法他9つの部会があり、その中に「区分所有法制部会」がある。
   区分所有法制部会は18人の委員と13人の幹事の計31人(審議会委員は入っていない)


2022年(令和4年)9月30日
○  一般社団法人金融財政事情研究会主催「区分所有法制研究会」から
  「区分所有法制に関する研究報告書」公表
  今回の法制審への諮問の原案はこの報告書がもとになっていることは、
  2022年(令和4年)9月2日 葉梨康弘法務大臣閣議後記者会見で言及されています。


2022年(令和4年)10月13日
○ 経団連「都市・住宅政策委員会企画部会」開催

(内容梗概)
経団連は、区分所有法制の見直しを2006年から継続して要望してきた。 規制改革推進会議での議論等を経て、 21年3年に、法務省の参画のもと「区分所有法制研究会」が設置され、 見直しに向けて論点を整理した。 22年9月、同研究会における議論をまとめた報告書が公表されたことから、 法務省大臣官房の大谷太参事官から、区分所有法制の見直しに向けた論点等について説明を聴いた。 概要は次のとおり。(以下省略)


2022年(令和4年)10月28日
○  法制審議会区分所有法制部会第1回会議開催


2022年(令和4年)11月11日
○ 葉梨康弘法務大臣が失言で更迭、後任に斎藤健(元農水相)が就任
  葉梨康弘法務大臣は11月9日夜の自民党議員のパーティで、「法相は朝、死刑のハンコを押し、
  昼のニュースのトップになるのは、そういう時だけという地味な役職だ。今回は、統一教会に抱
  きつかれて注目された。法相は票にもカネもうけにもならない役職だ。」と述べたことに批判が
  集まり、更迭された。葉梨(元)法相は、1982年東大法学部卒、警察庁に入庁、元キャリア官僚


○  法制審議会区分所有法制部会 開催日
○第1回 2022年(令和4年) 10月28日  ○第2回 2022年(令和4年) 11月25日
○第3回 2022年(令和4年) 12月19日  ○第4回 2023年(令和5年) 1月16日
○第5回 2023年(令和5年) 2月13日  ○第6回 2023年(令和5年) 3月10日
○第7回 2023年(令和5年) 4月11日  ○第8回 2023年(令和5年) 5月12日
○第9回 2023年(令和5年) 6月 8日(中間試案(案)発表)
○ この中間試案(案)についての解説は当サイトの
  「2023年6月8日の法制審議会「中間試案」の問題点」(第三者管理方式を推進する法制審議会)
  「共同住宅法制改革の二つの報告書」(リベラリズムとパターナリズム) を参照ください。

○ 2023年(令和5年)6月8日 「区分所有法制の改正に関する中間試案」発表
     令和5年7月?日(発表日付の記載なし)法務省民事局参事官室の名で
     「区分所有法制の改正に関する中間試案の補足説明」発表
○ パブリック・コメント募集開始: 令和5年7月3日(土) ー 令和5年9月3日(日)


○ 2023年(令和5年)9月13日 法務大臣交替 小泉龍司氏へ
  第2次岸田【再改造内閣】で法務大臣が斎藤健から小泉龍司に交替 同氏は東大ー大蔵省キャリア官僚ー 2000年衆議院議員。法制審議会区分所有法制部会発足後1年間で3人目の法相


○第10回 2023年(令和5年) 8月 1日   ○第11回 2023年(令和5年) 9月26日
○第12回 2023年(令和5年)10月17日   ○第13回 2023年(令和5年)11月 9日
○第14回 2023年(令和5年)11月21日   ○第15回 2023年(令和5年)12月 7日
○第16回 2023年(令和5年)12月21日   ○第17回 2024年(令和6年) 1月16日


○ 区分所有法制部会第17回会議(令和6年1月16日開催)において、
  「区分所有法制の見直しに関する要綱案」 発表
(001410596.pdf  全23P 211kb)

  但し、この文書の作成日時:2024/01/19 8:40:46 更新日時:2024/01/22 16:49:23
  からすると、法務省で1/16発表後、1/19に公開文書が作成され、更に1/22に更新した
  以後に法務省のサイトに掲載されたということになります。

  改正区分所有法は誰が使うことを想定しているのか?
  審議会では、区分所有者以外の第三者を管理者として選任する第三者管理方式
  を前提にして審議していることがわかります。(  法制審「試案」の問題点

  結局のところ、この要綱案は、下記第三章で財界(経団連)が提唱している改正案、
  管理組合の意思決定の支配と内部取引化による経済的利益の追求と効率化
  を
(集会の)円滑化と言い換えた上で、具体化したものです。

  ”意思決定の支配と内部取引化” は、親会社と連結子会社間のコーポレートガバナンス
  に関する経営用語です。欧米における委任契約では利益相反と双方代理は犯罪です。
  中国化していく日本の行政。( 【パターナリズムの共同住宅管理制度】

  "決議に参加しない者は、議決権総数(分母)から除外する。"
  合意形成過程を重視するコンセンサス型民主主義は集会の効率化の妨げである。
  出席者のみの多数決による決議を可能とする単純多数決型民主主義に変更する。

  I've learned that being quiet doesn't always mean you have nothing to say.
  (黙っているのは、何も言うことがないからとはかぎらない。)

第三章 区分所有法・予定される改正点

(1) 集会の決議一般を円滑化するための仕組み
○ 所在等不明区分所有者を決議の母数から除外する仕組み
  所在等不明の区分所有者は反対者と同様に扱われるため、円滑な決議を阻害
(対策案) 公的機関の関与の下で、所在等不明の区分所有者を決議の母数から除外する
  仕組みを検討

○ 出席者の多数決による決議を可能とする仕組み
  集会に参加せず、賛否も明らかにしない区分所有者は、反対者と同様に扱われるため、
  円滑な決議を阻害
(対策案) 出席者の多数決による決議を可能とする仕組みを検討

(2) 共用部分の変更決議を円滑化するための仕組み
○ 共用部分の変更決議の要件の緩和
  共用部分の変更決議の多数決要件(4分の3)を満たすことは容易でなく、必要な工事
  等が迅速に行えない
(対策案) 多数決割合を単純に引き下げる案のほか、外壁崩落のおそれなど一定の客観
  的要件を満たした場合には多数決割合を引き下げる案、
  多数決割合を規約で緩和することを認める案等について検討
※ 少数反対者の利益保護や客観的要件の在り方などが課題

(3) 区分所有建物の管理に特化した財産管理制度
○ 所有者不明の専有部分の管理制度
  所在等不明区分所有者の専有部分は適切に管理されず、建物の管理に支障
(対策案) 所在等不明区分所有者の専有部分の管理に特化した新たな財産管理制度を
  検討
○ 管理不全の区分所有建物の管理制度
  専有部分や共用部分が管理されないことによって危険な状態になることも
(対策案) 管理不全状態にある専有部分や共用部分の管理に特化した新たな財産管理
  制度を検討

(4) その他の管理の円滑化に資する仕組み
○ 共用部分に係る損害賠償請求権等の行使の円滑化
  共用部分について損害賠償請求権等が発生した後に一部の区分所有権が転売されると、
  管理者は、区分所有者の全員につき、請求権を代理して行使できなくなるとの指摘
(対策案) 管理者が請求権を代理して行使できる仕組みを検討
○ 区分所有者の責務
  集会に参加しない区分所有者が増加する傾向にあり、結果として区分所有建物の適切な
  管理を阻害するおそれ
(対策案) 区分所有建物の管理に関して所有者が負うべき責務について検討

第四章 建替え円滑化法・予定される改正点

(1) 建替えを円滑化するための仕組み
○ 建替え決議の多数決要件の緩和
  建替え決議の多数決要件(5分の4)を満たすのは容易でなく、必要な建替えが迅速に
  行えない
(対策案) 多数決割合を単純に引き下げる案のほか、耐震性不足など一定の客観的要件を
  満たした場合には多数決割合を引き下げる案、多数決割合を全員合意で緩和すること
  を認める案等について検討
※ 少数反対者の利益保護や客観的要件の在り方などが課題

○ 建替え決議がされた場合の賃借権等の消滅
  建替え決議がされても専有部分の賃借権等は消滅しないため、建替え工事の円滑な
  実施を阻害
(対策案) 建替え決議がされた場合に、一定の手続を経て賃借権を消滅させる仕組みを検討

(2) 分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み
○ 多数決による建物・敷地一括売却や建物の取壊し等
  建物・敷地一括売却や建物の取壊し等を行うには、区分所有者全員の同意が必要であり、
  事実上困難
(対策案) 多数決による一括売却や取壊し等を可能とする仕組みを検討
※ 多数決要件の在り方については、建替え決議に関する議論を基礎としつつ、対象行為ごとに
  検討する必要
○ 多数決による一棟リノベーション工事
  既存躯体を維持しながら専有部分を含む建物全体を更新して、実質的な建替えを実現する
  「一棟リノベーション工事」が技術的に可能になっているが、区分所有者全員の同意が必要で、
  事実上困難
(対策案) 建替えと同等の多数決による一棟リノベーション工事を可能とする仕組みを検討

第五章 被災マンション再建法・予定される改正点

(1) 被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策
○ 建替え・建物敷地売却決議等の多数決要件の緩和
  被災した区分所有建物の建替え決議等の多数決要件も一律に5分の4とされ、迅速な
  復興を阻害
(対策案) 多数決割合の緩和を検討
  ※被災区分所有建物の変更決議や復旧決議の多数決要件(4分の3)の緩和についても
  併せて検討
○ 大規模一部滅失時の決議可能期間の延長
  被災した区分所有建物の建物敷地売却決議等の決議可能期間が1年以内とされている
  のは短すぎ、準備が困難
(対策案) 特例措置を受けられる期間を限ることにより被災地の迅速復興を促進するという
  趣旨を踏まえつつ、決議可能期間の延長を検討

その他の予定改正点
○ 団地内建物の建替え要件の緩和(例:一括建替え決議の全体要件〔5分の4〕・
  各棟要件〔3分の2〕の緩和)や団地関係の解消・再生のための新たな仕組み等について
  も併せて検討

第六章 公共の福祉と生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利

【日本国憲法】
 [自由・権利の保持の責任とその濫用の禁止]
 第12条  この憲法が国民に保証する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持
        しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであって、常に、公共の
        福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
 [個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉]
 第13条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利
        については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必
        要とする。
【民法】
 (基本原則)
 第1条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
     2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
     3 権利の濫用は、これを許さない。
 (解釈の基準)
 第2条  この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。

【建物の区分所有等に関する法律】
建物を区分所有する登記関係に重点が置かれた経緯があって、所有権の法哲学(Philosophy of Property) - 所有者の団体における公共の福祉と私権の制限(所有者の維持責任)と個人の尊厳の整理ができていない。 事業者との契約に伴う消費者保護の基本概念もない。

そもそも、第3条(区分所有者の団体)で規定する管理組合も「〜団体を構成し、〜管理者を
置くことができる。」という確認的宣言規定であって、管理組合を義務化したものではない。

全てが曖昧なまま、今、進めようとしているのは、
集会決議の効率化 ⇒ 権限の集中化 ⇒ 第三者(業者)管理の拡大 と 建替え促進 を
再開発事業者の立場で経済的合理性の論理と手続き的正義をもって正当化すること。


(2022年10月28日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 28 October 2022/ Revised Publication -time to time)