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コンドミニアム裁判所 判決  No. 2018 ONCAT 3

判例6. 不誠実な管理業者にペナルティ(2)

第2部 「不誠実な管理業者へのペナルティ」 目 次
   争点3 ・・・不誠実な管理業者に対して費用の請求または違約金を課すことができるか?
   判決    [あとがき]
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争点3.

原告は不誠実な管理業者に対して費用の請求または違約金を課すことができるか?
文書の要求に対する管理業者の責任とその行為に対して原告に有利な裁定を下せるか?

[47]  原告は、当裁判所に対し、被告の本事件業務処理過程における被告自身の責任に帰する信義誠実義務違反を取り上げるよう求めた。 当裁判所は、法1.44(1)の規定により、訴訟当事者に費用の請求及びペナルティとしての違約金を課す裁定権限を有する。 本事件には、それらの費用の請求及び違約金を課す背景があることを認め、そのことを当裁判所として決定した。

[48]  違約金の賦課に関連する法の定めは下記の通りである。

a 法1.44(1)の6
トリビュナル裁判所は、法第55条3項の定めにより、管理組合の記録を閲覧または写しを請求できる権利を有する個人に対して、 管理会社が理由なくそれを拒否した場合には、その紛争当事者である法人が行った行為に対して、 裁判所が定めた違約金を課す命令を発することができると定めている。

a 法1.44(3)
法1.44(1)の6の定めにより違約金を課す場合、他に特別の事情がなければ、総額を5,000ドル以下とすると定めている。 よって、当裁判所は上記に示した事情により、違約金を5,000ドル以下とする。

[49]  考慮しなければならない問題が二つある。一つ目は被告は原告からの文書提出の要請を断ったかどうかである。 もしそうなら、そうせざるを得ない特別な事情があったのかどうかが二つ目の問題である。

[50]  原告は、原告が記録文書を要求した日から、被告が本事件の審理に参加するまでの数ケ月間、 被告からは原告に記録文書を提供しようとする姿勢は一切見られなかったと述べた。

被告代理人から本事件の証拠としての回答書が提出されたが、それは本人の署名なしの写しで提出されたもので、 その回答書でも信用できる証拠は示されなかった。 被告代理人は聴聞で、要求された記録文書は既に原告に提供済みであり、 原告はそれを受け取っていると陳述したが、 その中でも、要求された記録文書を原告に提供しようとする試みが為されたことを示す信用できる証拠は示されなかった。

原告は、要求された記録文書は既に原告に提供済みであり、 原告はそれを受け取っているとの被告の陳述の内容を全面的に否定した。

原告は、被告の陳述の内容を否定できることを証明する証拠品を提示することはできなかったものの、 被告の陳述の内容は信用できないとする原告自身の立場を援用する幾つかの証拠を提示し説明をした。

[51]  裁判官は、聴聞において、被告代理人が否認の陳述をするのを注意深く聴いていた。 被告の主張のいくつかは原告の陳述に対する否認陳述であったが、信用できる証拠を提示することには概して失敗していた。

他方、原告の事実に関する陳述は一貫していて矛盾がなく、信用できる証拠として採用できるものであった。 全体として、原告の事実に関する陳述は、被告のそれよりもはるかに信用に値する証拠を示していた。

裁判官は、被告代理人の陳述書の内容には真実性がなく、原告の陳述がより信用できるものとして結論を導くこととした。

[52]  たとえ被告が回答した内容が文書の提供に関する合理的な職務行為であったとしても、 それは事実上、法の下における記録文書の提供に対する十分に根拠のある妥当なものではない。そのことを以下に示す。

最初に、この問題は、記録文書の提供に関する非常に小さな事件として扱われた。 原告被告双方の証拠は提出されなかった。そして、被告には原告が要求する文書を提供しようとする努力が見られなかった。

2番目に、被告は幾つかの理由で事実上、法令順守していないことが明らかである。
被告の陳述書は規定の様式に従っていなかった。要求された質問に殆ど回答をしなかった。
要求された記録文書の目次と記述された内容に関して、主要な文書とそれ以外の関係文書についてのコピー料金の見積も示さなかった。
これらの法令違反は被告の教養の欠如に帰するものか、或いは不測の事態によるものかのいずれかに原因があると思われる。

被告の代理人は聴聞において次のように述べた。
「我々は、今回の要求に対して、法律を調査し、どのように対応するかを我が社の顧問弁護士に相談した。」

にも拘らず、被告は、多くの関連法令の殆どに違反し、正当性の立証に失敗した。

[53]  これらの事実に鑑みて、被告は記録文書の提出の要求を故意に無視し続けたか、或いは、 故意に軽視することのいずれかを選択したと結論付けざるを得ない。

原告の記録文書の要求を被告は拒否し、それについて何の見解も示さなかった。 これらの結果に加え、被告代理人は、 法46条1項で明確に保証されている区分所有者及び抵当権設定者が有する組合情報へのアクセス権に基づいた要求を拒否したことに対する説明もしなかった。

[54]  裁判官は、原告の記録文書の要求に対して被告は提出を拒否し、その上それに対する説明をしなかったことを事実として認定し、 そのことをもって、裁判官はペナルティとしての違約金を被告に課す正当な理由とする。

[55]  法人に課すペナルティとしての違約金は、改正前の法では、 合理的理由がなく記録文書を提出しなかった場合、 単純な過失か、故意の拒否かを問わず、500ドルと定められていた。

このペナルティは記録文書の提出を拒否したことのみに適用され、裁判所の権限で課すことができる。

このことは、もしも管理会社が要求された記録文書へのアクセスを提供しようとして合理的な努力をしたか、 或いは、要求者自身がそのような文書の獲得に干渉して妨害した場合のケースにおいては、 裁判所の決定に先立ってペナルティの支払を強制されることはなく、矛盾はないように見える。

改正後の法では、立法府はペナルティの程度に応じて裁判所がすべてのケースに等しく適用可能とする意図から、 500ドルの定額から、それぞれのケースに応じて、5,000ドルを上限として 拒否の性質または深刻さを反映して裁判所の権限で違約金を課すことができることとなった。

[56]  この法律でペナルティの適用ケースについての具体的な規定がないことについては、 立法府の意図として、係争関係者が紛争解決に向けてそれぞれにあった方法で協議し、 最終的には裁判所の判断と裁量に任せることで、 コンドミニアムコミュニティの健全化を促進することとしたものであり、 ペナルティとしての違約金はその理由に応じて裁判所の決定に委ねることとしたものである。

[57]  違約金を決める上での要因を考えて見ると、本事件でペナルティを課すべき要因として、 法の規定に事実上十分に適合しているか、また、被告は業務の委任を受けている立場上、 その受託職務の、特に区分所有者からの記録文書の要求に応える法律上の義務(legal obligations)については、 誠意(diligence)をもって注意を払うべきであったと、裁判官は判断する。

そのような見方で本事件を捉えると定額の500ドルでは不十分であるが、 ペナルティ最高額の5,000ドルは極端な額と思われる。

本事件における被告の対応は不当でひどいもので、 これらの被害者の救済のために費用の請求及び違約金を課す法の定めに従い、 事実上の違約金を課すべき事例であり、 被告の本件における主張を信ずるに足りる理由がない。

従って、法1.44(1)の6の規定により、被告が原告に支払うべき違約金の額を1,000ドルとするものとする。


(※ 訳注: 日本のマンション管理適正化法第70条「信義誠実義務」規定は、罰則の規定もなく、 建前を取り繕っただけの訓示規定に過ぎず、法の条文としては意味を為していないが、 ここカナダでは違反者に被害者個人への賠償支払いが実際に課される。また、日本の裁判では 信義誠実や誠意の具体的定義が曖昧であるとして判断を避けるが、 カナダではそれを自己の社会的良心とリーガルマインドに従って判断するのが裁判官の仕事です。次の[58]以降にその説明があります。)


[58]  当裁判所は、法1.44(1)の規定により、 訴訟当事者に費用の請求及びペナルティとしての違約金を課す裁定権限を有する。

法1.44(2)の規定では、費用の請求を認める場合は「トリビュナル裁判所規則に従い」とされている。 トリビュナル裁判所実務規則では、費用の請求とは、訴訟当事者が相手の不法な行為、 又は理由のない遅延により被った実際の損害額及び、 訴訟提起にあたって訴訟当事者が実際に費やした直接経費の支弁とされている。

[59]  原告が本事件をトリビュナル裁判所のオンライン紛争解決システムの第三段階-(裁定)-に提訴した後の数日間、 被告はそれに応じようとはしなかったのは、義務を怠ったか、或いは故意に拒否したのかのいずれかである。 いずれにしても当事者は第三段階の最初の時点で紛争解決に努める義務があるが、被告は遅れて参加し、その機会を失ったのは明らかである。

さらにその上、オンライン紛争解決システムの第二段階で紛争が調停に付された時点で、当事者間に調停員が加わり、 紛争解決のための協議が不調に終わったあとでも、第三段階に進むための準備として、 紛争解決を効率的に迅速に進めるために関係する情報を集めて要約し、争点を個別に特定し、争点を絞る準備を行うが、 被告はそれにも遅れ、参加する機会を失った。

被告代理人はこの参加の遅延の理由については何も言及しなかった。

[60]  裁判官は、被告が当裁判所の審理に対し、迅速かつ積極的に応じてこなかったことは、 法1.44(1)の4項に基づく費用の請求事項に該当すると認める。

その弁償を求める額は、当裁判所の第三段階-(裁定)-に係る裁判費用である。

C. ORDER 判決

[61]  当裁判所の判決は下記の通り

1. 本法廷は被告に対し下記を命じる。

  a: 原告が被告に110.25ドルを支払った日以降直ちに1営業日以上の遅滞なく、 被告は原告に対し、財務諸表の既に写しを作成した分と、原告がピックアップして請求した分についての 記録文書を提出すること。

  b: 本判決の判決日から7営業日以内に被告は原告に対し、原告から要求された電子化データをUSBメモリーか、 又は、インターネット上の原告が指示するドロップボックスへのアップロードのうち、原告が指示する方法により、 提供すること。

  c: 原告が被告に378.00ドルを支払った日以降30日以内に被告は原告に対し、 原告から要求された主要な記録以外の分について、電子化データをUSBメモリーか、 又は、インターネット上の原告が指示するドロップボックスへのアップロードのうち、原告が指示する方法により、 提供すること。

  d: 本判決の判決日から30日以内に、

     : コンドミニアム法1988の1.44(1)の4の規定による裁判費用の弁済として
        被告は原告に対し、総額125.00ドルを支払え

     : コンドミニアム法1988の1.44(1)の6の規定によるペナルティとしての
        違約金として被告は原告に対し、総額1,000.00ドルを支払え


Michael H. Clifton Member, Condominium Authority Tribunal RELEASED ON: June 7, 2018


あとがき

裁判の判決は、結論と結論を導くに至った理由を明快かつ的確に示せば足りると割り切れば、 日本の裁判官が全体主義的体制の下で画一的に個性を殺して権威主義に寄りかかり、 モラル、士気が低下し、判断能力も視野狭窄に陥っている現状は別にたいした問題ではないかも知れません。

このコンドミニアム裁判所の判決では各裁判官の個性が際立っている事に驚かされます。

判例2のMarc Bhalla裁判官は社会系で、調停畑の経験が長く、判決に至る前に、 紛争の元となった当事者間の関係性を修復するファシリティトで紛争処理をさっさと片付け、 肝心の判決はたった2頁の「これにて一件落着」で終わらせています。唖然!

判例1(判決文は全7頁)、判例2(同11頁)のMeary Ann Spencer裁判官は明らかに文系で、 彼女の判決は平易でわかりやすく、法の正義に文学・経済のWitとironyを絡ませ、人を納得させます。

一方、本裁判のMichael Clifton裁判官は典型的な理系で、事実関係を確認し、争点を一つひとつ丹念に分析し、 杉下右京(誰?)のように推理を働かせ、それを法の条文に照らしながら、結論を導いていく教科書的な正攻法で、 15頁もの長文の丁寧な判決です。

この裁判官が判決文[52]の中段で 「最初に、この問題は、記録文書の提供に関する非常に小さな事件として扱われた」と述べているように、 通常はここまで厳密に取り上げられる事件ではありません。 この裁判官をそこまで突き動かしたもの、それは日本の社会では失われつつあるものです。

日本の裁判では、過度に真実相当性を重視して、裁判官自身の社会的良心に基づく判断を忌避するから、 カナダの裁判官のように原告に有利な判決にはなりません。
日本の判決では、多分、次のようになります。

「本件原告の陳述書記載の各記述について、これらを裏付ける客観的証拠は乏しく、 原告本人尋問の結果と原告陳述書のほかには、 上記各記述の真実性の認定に供し得る的確な証拠はないものといわざるを得ず、 原告の主張は真実であるとは認められない。」・・これが日本の裁判です。

国民性の違いも見えてきます。日本人は仕事に対して人間性を失った完全主義者に変身する。
知識の量を誇るが、自分の考えは主張しない。社会的弱者には冷淡だが、権力や権威には弱い。
英国系の人は、仕事では自己の人間性を主張し、いわば、「完全な」不完全主義者に変身する。
知らないことでも自分の考えを主張してくる。社会的弱者には親切だが、権力や権威は無視する。

共に移民大国といわれる米国とカナダですが、 融合を重んじる米国は、るつぼ(Melting pot)社会、個性の多様性を重んじるカナダは、モザイク(Mosaic)社会と呼ばれています。 この裁判の原告はアラブ系、被告(法人)代理人はロシア系、争われているのは Integrity(インテグリティ:誠実さ)

委託契約の基本原則
デュー・ディリジェンス(Due diligence:信義誠実則)とフィデューシャリーデューティ(Fiduciary Duty)
デュー・ディリジェンスとは、「当然履行されるべき誠実さ」、フィデューシャリーデューティとは、「受託者が高い倫理感で顧客の信頼に応える責任」をいい、 いずれも日本の法律では形だけの訓示的倫理規定はあっても罰則はないから裁判にもならない。
 「マンション管理適正化法の限界」  (3) 欧米の管理業者規制法

日本の過料20万円との比較
日本では規約や総会議事録の閲覧拒否は区分所有法第71条で20万円以下の過料に処せられる。 ただし罰則の対象は規約と総会議事録に限られ、財務諸表や本例のような主要・非主要な記録も対象外。 法の判断基準は区分所有者にとっての重要性ではなく秩序維持の形式的外形基準。

本判決では、違約金1,000ドルと裁判費用の125ドルを過料ではなく訴えた原告本人に支払う。

2019年2月19日にCATから出された別の判決(Case No.2018-0411R [2019ONCAT3])では、 財務諸表の提出を怠った管理組合に対し、違約金2,000ドルの命令が出されました。 ペナルティの上限額は5,000ドルですから、法令違反の違約金の裁定額は今後も上昇していく傾向にあります。

ー([あとがき] 終り)ー

2019.5.5 掲載