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理事の義務違反に対する罰則  (区分所有法と適正化法 )

はじめに

前頁「判例7. 理事の資格喪失をめぐって」で、
理事の義務違反に関する罰則をめぐる日本とカナダの法制度の違いを述べてきました。

ここでは日本における区分所有法とマンション管理適正化法の罰則規定について述べています。

 目次
  1.民法と行政法における罰則規定の違い
  2.区分所有法の罰則規定
  3.マンション管理適正化法の行政刑罰規定
  4.区分所有法における過料事件の手続の流れ

 

1.民法と行政法における罰則規定の違い

法における罰則規定は民法と行政法とでは考え方が異なります。
区分所有法は民法(の特別法)であり、マンション管理適正化法は行政法です。


○ 民法(私法)における基本的な原理が「私的自治(或いは契約自由)の原理」です。
  管理者(理事長)と各区分所有者の権利義務関係は、民法の委任に関する規定
  (区分所有法28条 ー 民法643条〜656条)に従います。

  従って、区分所有法における理事(長)に対する罰則規定は、
  各区分所有者から委任された受任者としての委任事務に関する注意義務(民法644条)
  違反に対する制裁規定で、刑法犯よりも比較的軽微な形式犯としての過料であり、
  適用法は刑法ではなく非訟事件手続法です。前科もつきません。

訴訟は、公開・対審・判決という当事者権が保障された手続き構造によるため、 時間と費用がかかるのに対し、非訟事件(過料)として扱う場合は非公開・審問・決定 という手続き構造の下で裁判所の裁量によって簡易・迅速化が進められます。 それが、非訟事件(過料)として扱う根拠です。

過料事件の裁判は非公開(非訟事件手続法第13条)で行われ、 裁判の過程も決定結果も裁判を受ける本人(当事者といいます)以外に知らされることはありません。

裁判所は職権探知主義(非訟事件手続法第11条)で刑事訴訟法第507条を準用し、 公務所又は公私の団体に照会して証拠調べが可能なほか、 非訟事件手続法第164条の略式手続で当事者の陳述を聴かないで決定をすることができ、 その決定は執行力のある債務名義と同一の効力を有し、民事執行法の強制執行手続となります。


○ 行政法における基本的な原理は、
  法律に基づき(法律の優位の原則)、法律に従って(法律の留保の原則)
  行わなければならないとする「法律による行政の原理」です。

行政罰は施策の実効性を確保する手段としての行政上の義務違反に対する制裁です。

マンション管理適正化法で規定している行政罰は、
(1)行政処分:行政が処分を課す「犯罪の非刑罰的処理」(前科はつかない)
   適正化法第5章第4節「監督」(81条〜86条)に裁量基準の規定がある。
   指示(第81条)、業務停止命令(第82条)、登録の取消し(第83条)

(2)行政刑罰:検察当局が刑事訴訟法の手続きに基づいて執行する刑法上の刑罰
   適正化法第9章「罰則」(106条〜113条)に規定がある。(過料以外は前科がつく)
   1年以下の懲役又は50万円(又は30万円)以下の罰金、懲役なしの30万円以下の
   罰金刑の他に、刑法上の刑罰ではないが20万円、10万円の過料の規定がある。

の二つに分かれます。

「犯罪の非刑罰的処理」とは、刑事訴訟法に定める手続きに代わって行政が課す制裁で
このような手段の一例にダイバージョン( diversion = わきへそらすこと ) があります。
道路交通法の反則金制度は警察本部長が比較的軽微な反則行為者に定額の反則金を
課して、納付しない場合は抗告訴訟を認めず刑事訴追による手続きに移行する仕組みで
ダイバージョンの典型的な一例です。

(注) 広義の行政処分の定義には非訟事件手続法による過料の罰則も含みますが
   マンション管理適正化法では(1)行政処分に分類される条文は「監督」の章に、
   (2)行政刑罰に分類される条文は「罰則」の章に分類して規定されており、
   本項上記の分類と一致しています。


○ 行政上の義務履行確保の手段として、戦前は法によらない行政的執行が濫用されてきた反省から、 戦後は行政罰を法に明記する流れが定着する一方で、今日では、行政罰の執行に関しては 裁量権の恣意的行使又は懈怠(裁量行政)による著しい機能不全が見られます。
  (例)    「マンション管理適正化法の限界」 参照

○ 行政罰の「(1)行政処分」に関しては、上記「マンション管理適正化法の限界」の頁の、
             「(4.3) 管理業者規制内容」 で個別具体的に取り上げています。
   本頁では、上記ではとりあげていない「(2)行政刑罰」に限定して述べています。


○ 行政罰の近年の動向で気になる点があります。

マンション管理適正化法の罰則規定は平成12年の法制定以来、マンション管理業の登録業者、管理業務に関係する資格保持者及び行政事務職員を対象とし、 行政上の義務違反者に罰を課すことで、行政上の義務を強化し、施策の実効性確保の手段としてきました。

近年、マンション管理適正化法の対象が管理組合への管理内容の審査、評価、指導にまで拡大し、 令和2年6月24日公布の改正マンション管理適正化法では、はじめて管理組合役員への刑法の罰金刑が追加されました。(第109条第1号新設)
詳細は本頁「2.マンション管理適正化法の行政刑罰規定」の (注1) 参照

令和2年、刑事制裁による行政施策の間接的強制が管理組合にまで拡大してきました。

とはいえ、行政施策関係者の義務違反に対する罰則という行政罰の大枠から逸脱している訳ではなく、 行政施策関係者、具体的には行政が認定する「管理計画認定マンション」 の認定を受けた管理組合の管理者が行うべき管理計画の適正な執行と報告義務に違反した者に限定されます。

行政施策にはアメ(incentive)とムチ(penalty)が準備されます。罰則については2020年6月の法改正で早々に法定化した後、 肝心の施策の中身の「管理計画の審査基準」については2021年3月までの予定でただいま検討中。 優遇策については2021年以降も未定です。
                   (檻を作り、罠を仕掛け、餌を撒く)


○ 本頁における用語の定義(法学上の分類)
行政罰:行政上の義務の不履行(懈怠)に科す制裁、行政施策の実効性確保の手段
秩序罰:民事上の或いは行政上の秩序に障害を与える危険がある義務違反に科す金銭的制裁
     法律では過料という。過料には他に執行罰の過料、懲戒罰の過料がある。

 

2.区分所有法の罰則規定

区分所有法における「理事の義務違反」は非訟事件(過料)として処理されます。

1.区分所有法の罰則規定 

 (注):内容欄に記載の上段下線部分は「原因」を表わし、下段は義務違反内容の説明です。
     内容欄に記載の書面は電磁的方法により作成される電磁的記録を含みます。

条項内容対象者 過料額
71条1号

○ 規約や議事録がない、紛失した
規約(33条1項)、議事録(42条5項)、書面決議(45条)の保管義務違反

管理者(理事長)
議事録は議長
20万円以下
71条2号

○ 閲覧請求を正当な理由なく拒否した
規約(33条2項)、議事録(42条5項)、書面決議(45条)の閲覧義務違反

文書保管義務者
議事録は議長
20万円以下
71条3号

○ 議事録の不作成、不記載、虚偽の記載
議事録(42条1項〜4項)の不作成、不記載、虚偽の記載

集会の議長 20万円以下
71条4号

○ 定期総会を期限内に開催しない、虚偽の報告
43条違反(事務不報告、虚偽報告)

管理者(理事長) 20万円以下
71条5号

○ 管理組合法人成立後期限内未登記
47条3項違反(管理組合法人の不登記)

法人代表理事 20万円以下
71条6号

○ 管理組合法人の財産目録不作成、不正記載
48条の2第1項違反(管理組合法人の財産目録不作成、不正記載)

法人代表理事 20万円以下
71条7号

○ 管理組合法人理事会の欠員時不選任
管理組合法人の理事・監事の定数を欠いた場合の不選任

法人代表理事 20万円以下
71条8号

○ 管理組合法人の清算時債権手続未了
55条の7第1項違反(清算時において債権申し出の公告または破産申立ての公告を怠ったとき

法人清算人 20万円以下
71条9号

○ 管理組合法人清算の破産時手続未了
55条の9第1項違反(清算時に債務超過が判明した場合の破産の申立てを怠ったとき)

法人清算人 20万円以下
71条1項
  10号

○ 管理組合法人の清算時における検査妨害
56条の2第2項違反(清算時の裁判所の検査を妨げたとき)

その行為をした管理者、理事、清算人 20万円以下
72条

○ 管理組合法人の名称詐称
48条第2項違反(管理組合法人の登記をしていない組合が「管理組合法人」の名称を用いたとき)

その行為をした管理者、理事 10万円以下

2.一般管理組合理事が適用される区分所有法の義務違反罰則は4種類

第72条の名称詐称を除けば、第71条第1項第1号以下、全部で10個ある罰則規定の中で、
法人化していない一般管理組合の理事が適用される義務違反罰則は1号〜4号の4種類。

残りの6種類は管理組合法人に関する罰則で、うち清算時の手続き違反が3種類。
(参考) 管理組合法人の清算時の手続
管理組合法人になると、集会で解散決議するだけでは解散できません。(第55〜56条)
管理組合法人では任意清算は認められず、 解散及び清算は裁判所の監督に属し、清算人の選任(第56条の2)、更に清算を監督する検査役が選任(第56条の7)されます。

3.訴訟の非訴化と限界(参考)

詳しくは、
 判例7. 理事の資格喪失をめぐって  「訳注(3) 訴訟の非訴化と限界」 参照

3.マンション管理適正化法の行政刑罰規定

○ 「1.民法と行政法における罰則規定の違い」でお断りしたように、 本項ではマンション管理適正化法における行政罰のうち、「(2)行政刑罰」に限定して述べています。

 本章でとりあげない「(1)行政処分」についての詳細は、
「マンション管理適正化法の限界」ー 「4.適正化法のしくみ」 を参照してください。

○ 刑事訴訟法の手続による刑法上の刑罰には下記の種類があります。
   死刑、懲役、禁固、罰金、拘留および科料(とがりょう)

○ 行政刑罰の対象者は、下記の3種類です。
1.マンション管理業者の不正営業行為に対する刑法罰(第106条)、及び、
2.マンション管理士、管理業務主任者、指定試験機関職員、 指定認定事務支援法人職員
  の職務違反に対する刑法罰(第107〜109条)のほか、
3.管理組合理事長が管理計画認定マンションの申請(5条の3)を行い、認定を受けた後に、
  知事からの管理の状況報告の求めに応じず報告をしなかった場合、管理組合理事長は
  30万円以下の罰金刑(刑法犯)に処せられます。(第109条第1号・令和2年新設)

適正化法における行政刑罰の罰則規定


第106条 マンション管理業者の適正化法違反  1年以下の懲役又は50万円以下の罰金

 (1号) マンション管理業者の不正登録(44条)
 (2号) 無登録営業の禁止(53条)
 (3号) 名義貸しの禁止(54条)
 (4号) 業務停止命令を受けた者の営業の禁止(82条)

第107条 職務上の秘密保持義務違反 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金

 (1号) 自治体から、マンション管理適正化推進計画作成業務を受託した
     指定認定事務支援法人職員の職務上の秘密保持義務違反(令和2年改正により新設)
 (2号) マンション管理士の秘密保持義務違反(42条違反)
     (但し被害を受けた者からの告訴がなければ公訴を提起できない)

第108条 指定試験機関職員の義務違反 1年以下の懲役又は30万円以下の罰金
第109条 報告義務違反 30万円以下の罰金

 (1号) 都道府県知事より管理計画認定マンションの認定を受けた管理組合理事長の
      報告義務(5条の8)違反(令和2年改正により新設) 本表下段の(注1)参照
      並びに管理業務主任者(67条),マンション管理業者(85条)の報告義務違反(85条) 
 (2号) マンション管理士名称使用停止違反(33条2)
 (3号) マンション管理士の名称の使用制限違反(43条)
 (4号) マンション管理業者の登録事項の変更の届出義務違反(48条)
 (5号) 管理業務主任者の設置義務違反(56条3),証明書の携帯義務違反(88条1)
 (6号) マンション管理業者の契約の成立時の書面の交付義務違反(73条1)
 (7号) マンション管理業者の契約の成立時の書面の記名押印違反(73条2)
 (8号) 管理業者(80条),同使用人(87条)の秘密保持義務違反
 (9号) 行政の立入検査の拒否,妨害,忌避(86条1)
 (10号) 保証業務に係る契約の締結の制限違反(98条)
 (11号) 保証業務に係る事業計画書,収支計算書違反(99条1)

第110条 試験,登録,講習機関職員の義務違反 30万円以下の罰金

 (1号) 指定試験機関(19条),登録講習機関(41条の14)の帳簿の備付け義務違反
 (2号) 指定試験機関(21条),登録講習機関(41条の16)の報告義務違反
 (3号) 指定試験機関(22条1),登録講習機関(41条の17)の立入検査妨害,忌避
 (4号) 指定試験機関(23条1),登録講習機関(41条の9)の事務の休廃止認可手続違反

第111条 両罰規定・行為者の属する法人にも各本条の罰金刑

   106条,109条1項(第2.3.8の各号を除く)の違反行為は行為者と法人に両罰を科す

第112条 財務諸表等の備え置き,不記載,虚偽記載 20万円以下の過料

   41条の10第1項の違反行為

第113条 10万円以下の過料

 (1号) マンション管理業者が死亡した場合の相続人届出義務違反(50条第1項)
 (2号) 管理業務主任者証の返納義務違反(60条4,5項)、
      重要事項説明義務違反(72条4,77条3)
 (3号) マンション管理業者事務所の標識掲示義務違反(71条)

(他法令の行政刑罰) 建築基準法第101条 100万円以下の罰金

 定期報告制度(建築基準法第12条)に違反し、定期報告を行わず、または虚偽の報告を行った場合


 (注1) 行政の義務違反と管理組合本来の責任

(1) 第109条第1号の規定による行政刑罰
 適正化法罰則規定(第109条第1号)では、管理計画認定マンションの認定(第5条の8)を受けた当時の管理組合理事長が退任した後でも、 知事から報告を求められて報告しなかった期の理事長が、個人で30万円の罰金刑に処せられるので、注意が必要です。 個人に対する罰則ですので、管理組合からの支出は認められません。管理組合からの支出は横領の不正支出になります。

更に、本条は第111条の両罰規定が適用されるので、管理組合法人の場合は組合会計からも30万円の罰金を払うことになります。

これらとは別に、第5条の9により、認定管理計画に従って管理計画認定マンションの管理を行っていないと 知事が認めたときは、知事から「改善命令」が出されます。

(2) 建物の適正な維持管理は管理組合本来の責任です。
わが国の監督当局は、マンション管理組合による建物の維持管理の健全性及び適切性を確保するために 管理組合を評価し、認定を行うとしていますが、実際には認定にあたって専門検査機関による実地検査(インスペクション)を行う訳ではなく、 書類上の申請を受付けて登録した後で、虚偽の申請が判明した場合に事後的に制裁処分を課すだけです。

建物の健全性を確保する第1次的な責任を負っているのは管理組合自体です。
管理組合は自己責任の観点から自ら建物の管理を行わなければならないのであって、
自ら行うべき管理を監督当局の評価をもって代替できるわけではありません。

(3)「認定申請」とは何らかの利益を求めてする行為です。

処分には通常の「罰すること」の意味のほかに、 行政法では「役所が法規に従ってする行為、公権力の行使にあたる行為」も処分といいます。(行政手続法第2条2号)

広義の処分には二つあって、行政が罰を与える行為は「不利益処分」(2条4号)、 それ以外の「国民が法令に基づいて行政庁に許認可等を求め、これに対して行政庁が諾否の応答をする処分」を、広義の「申請に対する処分」といいます。

マンション適正化法における管理計画認定の「認定」という行政行為は「申請に対する処分」にあたり、 「認定」とは、基本的には行政の裁量の余地のない確認的行為の性格を有するが、 認定制度の実質が許可制度とほとんど変らないとして合理的な行政裁量を行使することが許される余地を認めた判例 (最判昭和57・4・23)もあり、認証と許可の中間に属する幅の広い概念です。


(参考)
「申請に対する処分」には、届出、申請、許可、認証、認定、があります。
 上の確認的行為とは、下記の「認証」の中にでてきます。
(1) 「届出」とは、行政庁に対して法令により義務付けられている一定の事項を通知する
   行為。諾否の応答を要しない一方的行為。(2条7号)
(2) 「申請」とは、何らかの自己の利益を付与するための許認可を求める行為で行政が
   諾否の応答をすべきもの。(2条3号)
(3) 「許可」とは、本来は誰でも享受できる個人の権利を、害悪発生の防止という公共
   の福祉の観点から、あらかじめ一般的に禁止しておき、個別の申請に基づいて
   禁止を解除する行政行為。
(4) 「認証」とは、規則の合法性を公に確認する行為で裁量の余地のない「確認」に属する。


これからが本題です。届出、申請、認定、命令が出てきます。

(1) 東京都マンション管理適正化条例は第15条で令和2年(2020年)4月1日から、 6戸以上の戸数で昭和58年12月31日以前に新築されたマンションに対し管理状況の届出義務 (拘束的報告義務)を課しました。届出した場合の利益はありません。義務だけです。

(2) 令和2年改正のマンション管理適正化法は第5条の3(新設)で 「管理組合は・・管理計画の認定申請することができる」とし、 認定申請した管理組合に対しては、第5条の9(新設)で知事が改善「命令」を出すことができる規定を置いています。

但し、この「命令」に関しては、法には直接の「執行命令」の規定はなく、具体的には、 「マンション管理の新制度の施行に関する検討会」(令和2年7月30日第1回開催以降令和3年3月までの予定) で管理計画認定基準等が決定された後、施行令及び施行規則で改訂告示される「委任命令」によります。 (同法第104条の3:国土交通省令への委任) 従って現在、内容未定です。

つまり、「認定を申請する」という事は、「何らかの自己の利益の供与を受けるために認定を求める」という事であって、 利益がなければやらない。
この「何らかの利益(incentive)」の中身については、現在、内容未定です。

4.区分所有法における 過料事件の手続の流れ

過料についての裁判の手続に係る事件を「過料事件」といい、その手続きは非訟事件手続法によります。 管轄裁判所は管理組合の所在地を管轄する地方裁判所ですが、 地方によっては他の裁判所に嘱託する事もありますので(非訟事件手続法第161条及び総則12条)、 管理組合所在地の地方裁判所の窓口で「過料事件を扱う非訟・過料係」の担当部を確認下さい。

事件の実際の手続きと文書例は次の頁で説明しますが、 ここでは、以下、事件の流れを簡単に説明しておきます。

1. 申立ての手続

過料を課す根拠が各区分所有者から委任された受任者としての委任事務に関する注意義務違反ですので、 その事実に関しては区分所有者からの申立てがなければ、裁判所ではわかりません。

過料事件の申立の手続は利害関係人の書面または口頭での申立て(書記官の面前で行い、 書記官が調書を作成)に基づき、当事者の陳述を聴き、裁判官が当事者に理由を付した決定の告知をします。 当事者の陳述を聴かないで決定の告知をすることもあります。(164条の略式手続)
申立ての費用は無料です。

 用語に注意

民事訴訟法でいう訴訟は、非訟事件手続法では手続といい、訴えではなく申立て、
申立てする人を申立人といいます。民事訴訟ではないので原告とはいわない。
裁判を受ける人を民事事件では「被告」、刑事事件では「被告人」といいますが、
過料事件では「当事者」といいます。
裁判官が下す「判決」は非訟事件手続法では「決定」といいます。
裁判の過程と決定の内容は検察官と当事者以外には非公開です(第13条)。

申立て書証の記載事項(第9条)
(1) 申立ての年月日,(2) 裁判所の表示,(3) 申立人の氏名,住所,(4) 代理人が申請する時は代理人の氏名,住所, (5) 違反者の氏名,住所 (6) 申立ての趣旨及びその原因たる事実

任務懈怠による過料処分請求の場合は管理者の注意義務違反の内容を特定する必要があるので、 申立内容は簡潔具体的に記載します。

申立人の区分所有者と当事者の理事長との間には何らかの対立感情があるのが普通ですが、 過料事件の本質は委任事務の注意義務違反に対する制裁を通して事後救済を図ることにあるので、 当事者が防御の反論のしようがない感情的な表現は裁判官の決定には逆効果になります。

2. 抗弁の陳述書

裁判所からあなたは過料事件の当事者として申立されましたという告知文書と申立書が来ます。
記載されている申立ての趣旨及びその原因たる事実についての意見を求められます。
ここで、反論しないと、過料20万円のほかに過料事件の手数料も払わされてしまいます。
不処分の場合は払う必要がありません。この場合の手続き費用は国庫負担となります。
そこで、不処罰処分を望む旨の抗弁の陳述書を作成して、指定期日内に裁判所に提出します。

裁判所が申立書を受理したということは、 そこに区分所有法の強行規定である義務違反の存在の可能性を認めたということですから、 原因たる事実についての説明と根拠を明確にする必要があります。 強行規定に対しては、慣習も管理規約の規定も集会の決議も効力は及びません。

事実関係を認めた上で、不可抗力、或いは悪意なきこと、 怠慢ではなく、関係者間の連絡上の齟齬等の結果であり、 事後、速やかに手続きの瑕疵を治癒する行為を行い(これが重要)、 現状では不都合は生じていないことなどを具体的に記載します。

3. 裁判所からの決定通知

 裁判所から決定通知が来ます。

4. 不服の抗告申立て

 裁判所の決定に不服があれば、当事者又は検察官は不服の抗告申立てができます。
 但し、「1週間の不変期間内に」という期限付きです。

 マンション管理適正化法と建替え円滑化法の令和2年改正の概要  (老朽化対策と法改正)

2020.11.18 掲載