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違法民泊損害賠償請求訴訟  (大阪地裁平成29年1月13日判決)

1.違法民泊損害賠償請求訴訟

(大阪地裁平成29年1月13日判決)
訴訟請求内容
管理組合の代表者X(原告)が、当時の区分所有者Y(被告)に対して
(1)区分所有法第57条第1項に基づく民泊営業の停止
(2)管理組合が支出した弁護士費用のうち50万円の損害賠償請求を求めた。

事案の概要
Y(被告)は、2007年に大阪・日本橋のマンション(築14年、15階建て、70戸)の10階の1室(3LDK約70u)を購入した。
Yは、2014年11月頃から、1日当たり15,000円で居室を賃貸する営業を開始し、 その営業は、少なくとも2016年8月上旬ころまでの約1年9か月間続いた。

利用者は、Airbnb等のインターネット上のサービスを通じて申し込んだ、2人から7人の外国人グループがほとんどであり、 利用期間は長くても9日程度であった。

居室は3LDKの間取りで、居住用のマンションに一般的に備えられている設備(水道、トイレ、浴室、 給湯設備、ガスコンロ、エアコン等)を備えているほか、ベッド(フレーム及びマットレスのみ)も備え付けられいる。

管理組合の管理規約では、2015年3月8日頃まで、専有部分の用途について次のとおり定められていた。
第12条 区分所有者は、その専有部分を次の各号に掲げる用途に使用するものとし、他の用途に供してはならない。
 一 住戸部分は住宅もしくは事務所として使用する

2015年3月8日に管理規約第12条1号の内容が、以下のとおり変更された。
  「住戸部分は住宅もしくは事務所として使用し、不特定多数の実質的な宿泊施設、 会社寮等としての使用を禁じる。
 尚、本号の規定を遵守しないことによって、他に迷惑又は損害を与えたときは、その区分所有者はこの除去と賠償の責に任じなければならない。」

民泊営業によって生じた問題
Yは、居室の利用者のために、マンションの東隣の建物の金網フェンスにつり下げられたキーボックスの中に居室の鍵を置き、 居室の利用者に対しAirbnbからの案内メールを通じてキーボックスの所在を知らせるなどして、 各利用者に居室の鍵を扱わせた

居室の鍵は、本件マンションの玄関のオートロックを解除する鍵でもあり、居室の利用者が、鍵を持たない者を内側から招き入れることもあった。

Yによる営業のため、本件マンションの居住区域に、短期間しか滞在しない旅行者が入れ替わり立ち入る状況にあった。

旅行者が多人数で利用する場合にはエレベーターが満杯になり他の居住者が利用できない、利用者がエントランスホールにたむろして他の居住者の邪魔になる、 部屋を間違えてインターホンを鳴らす、共用部分で大きな声で話す、 居室の使用者が夜中まで騒ぐといったことが生じていた。

大型スーツケースを引いた大勢の旅行者が、本件マンション内の共用部分を通るため、共用部分の床が早く汚れるようになり、 清掃及びワックスがけの回数が増えた。

ごみを指定場所に出さずに放置して帰り、後始末を本件マンション管理の担当者が行わざるを得ず、 管理業務に支障が生じていた。また、ゴミの放置により害虫も発生していた。

居室およびエレベーターの非常ボタンが押される回数が、月10回程度と多くなっていた。

裁判にいたるまでの交渉経過
管理組合はYに対し、2015年1月16日に「厳重注意連絡」の書面を送付し状況の改善を求めるとともに警告を行った。

管理組合は同年3月8日に前記のとおり管理規約を改正した。

Yが民泊営業をやめなかったため、管理組合はYに対し、同年5月18日に民泊営業の即時停止を求める勧告書を送付した。

同年8月13日に、管理組合の代理人弁護士がYに対し、上記勧告書と同様の趣旨で、本件建物について管理規約に反する使用を停止するよう請求した。

これらに対し、Yは同年8月26日付けの書面で、
@本件建物の各使用者とは賃貸借契約を締結しており違法性はない、
A旅館業法に違反しないことは大阪市保健所等に確認済みであり不特定の者を相手とする宿泊には該当しない、
BYは外国人にのみ賃貸しようとしているわけではないし、外国人が賃借すること自体は問題ないはずであるなどと回答した。

翌2016年になり、管理組合が提訴。

訴訟中である2016年10月に、Yは居室を売却したため所有者ではなくなった。

2.判決の要旨

前記の事実を前提に、裁判所は以下のとおり判断して損害賠償請求のみを認容した。

停止請求について
法57条1項は、区分所有者である行為者等を請求の相手方とするものであるから、 区分所有権を失った者に対し同項に基づく請求をすることはできない。

損害賠償請求について
Yの行っていた賃貸営業は、実質的には、インターネットを通じた募集の時点で不特定の外国人旅行者を対象とするいわゆる民泊営業そのものであり、 約1年9か月の営業期間を通じてみると、現実の利用者が多数に上ることも明らかである。 これについては、旅館業法の脱法的な営業に当たる恐れがあるほか、改正の前後を通じて本件マンションの管理規約12条1項に明らかに違反するものと言わざるを得ない。 Yの営業が賃貸借の形式をとっているとしても許容されるものではなく、 そのようなYの主張は採用できない。

すべてが不法行為に当たるとまで言えるかはともかく、 Yの行っていた民泊営業のために、上記に記載したような区分所有者の共同の利益に反する状況(鍵の管理状況、床の汚れ、ゴミの放置、非常ボタンの誤用の多発といった、 不当使用や共同生活上の不当行為に当たるものが含まれる。)が現実に発生し、原告としては管理規約12条1項を改正して趣旨を明確にし、 Yに対して注意や勧告等をしているにもかかわらず、Yは、あえて居室を旅行者に賃貸する営業を止めなかったため、 管理組合の集会でYに対する行為停止請求等を順次行うことを決議し、弁護士である原告訴訟代理人に委任してYに対する本件訴訟を提起せざるを得なかったと言える。

そうすると、Yによる居室における民泊営業は、区分所有者に対する不法行為に当たると言え、Yは弁護士費用相当額の損害賠償をしなければならない。 本件の経緯等にかんがみると、Yが居室を売却したことはYに有利な事情とは言えず、弁護士費用としては50万円が相当である。

Yは、本件管理組合の理事や理事会の好みで区分所有者の経済活動が不当に制限されてはならないと言うが、 上記のような事情の下では、Yの居室における民泊営業は、正当な経済活動の範囲を逸脱したものと言わざるを得ず、Yの主張は採用できない。

掲載 2018/5/17