【前頁】6. 個人情報取扱規定はなぜ必要か > 7. 個人情報保護法と管理委託契約書改訂 > 【次頁】8. 組合員名簿の閲覧請求事件

7.個人情報保護法と管理委託契約書改訂

管理委託契約書・平成30年3月改訂の概要

管理組合と管理業者の間における管理委託契約書はマンション管理適正化法第73条の「契約成立時の書面」として規定されている。

平成30年3月9日 国交省土地・建設産業局不動産業課より「マンション標準管理委託契約書」の改訂を発表した。

改訂の理由は下記の3点

1.改正個人情報保護法に対応した見直し<標準契約書第16 条本文・コメント>
改正個人情報保護法により、平成29 年5月から個人情報を取り扱うすべての事業者が個人情報保護法の適用対象となることに対応した変更。

2.反社会的勢力の排除条項の追加<標準契約書第24 条として本文・コメント新設>
マンション標準管理規約の改正(平成28 年3月)で暴力団等の排除規定が新たに設けられたことなどを踏まえ、 マンション管理業者自身が反社会的勢力に該当しないことを確約し、違反した場合には、管理組合が本契約を解除することができる旨の規定を追加。

3.理事会及び総会支援業務の記載の明確化<標準契約書別表第1 2(1)(2)本文・コメント>
理事会及び総会支援業務のうちの一部について、その支援業務の内容に関してトラブルを防止するため、 管理組合及びマンション管理業者が協議して決定することが望ましい旨などを記載。

第24条に「反社会的勢力の排除」を盛りこんで、旧条文の第24条以下を第25条以下にずらした以外は、 定期総会を通常総会とする等の軽微な字句の訂正に終わっていて、 国交省が改訂目的として発表した「改正個人情報保護法により、平成29 年5月から個人情報を取り扱うすべての事業者が個人情報保護法の適用対象となることに対応した変更」 については、標準契約書第14条(宅地建物取引業者の媒介等の業務に係る管理規約の提供等)及び第16 条(管理業者の守秘義務等)において、 本文をいじらずに、単に下記のように解説のコメントを変えただけの改訂に終わっています。

旧契約書のコメント
 「個人情報の保護に関する法律の適用を受ける事業者はもとより、 適用を受けない小規模事業者等も「国土交通省所管分野における個人情報保護に関するガイドライン」に準じて、 個人情報の適正な取扱いの確保に努めるもの」

新契約書のコメント
 マンション管理業者は、人情報の保護に関する法律を遵守することはもとより、 「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」等を参考にして、 個人情報の適正な取扱いの確保を図ることを踏まえた規定である。

4.その他、管理業務の実態等を踏まえた主な改訂項目

・管理対象部分に宅配ボックス等を追加<標準契約書第2条本文>
・マンション管理業者に別途委託するコミュニティ活動業務の支援内容を修正
<標準契約書第3条コメント>

・マンション管理業者が各区分所有者から専有部分内の設備の修繕等で対応を求められることがある現状を踏まえ、 こうした場合の考え方をコメントに追加<標準契約書第3条コメント>

・高齢化の進展に伴い、マンション管理業者による主に高齢者等の特定の居住者を対象とする業務が想定されるが、 こうした場合の考え方をコメントに追加<標準契約書第3条コメント>

C 高齢化の進展に伴い、マンション管理の現場においても高齢化の問題が深刻化しつつある。 こうした状況を踏まえ、マンション管理業者によって主に高齢者等の特定の区分所有者を対象とする業務が想定されるが、 費用負担をめぐってトラブルにならないよう、基本的に便益を受ける者が費用を負担することに留意した契約方法とする必要がある。

ただし、各マンションの個別の事情を踏まえ、 マンション全体の居住環境の維持及び向上や防災に資するなどマンション標準管理規約第32 条第12 号に該当すると認められる業務は、 管理組合から依頼があるときに本契約に含めることも可能である。

下記はその中で、平成29年5月に施行された改正個人情報保護法に対応した見直しに関する部分をご紹介しています。

7.1 第14条(管理規約の提供等)

標準管理委託契約書第14条(管理規約の提供等)
第14条 乙は、宅地建物取引業者が、甲の組合員から、当該組合員が所有する専有部分の売却等の依頼を受け、 その媒介等の業務のために、理由を付した書面又は電磁的方法により管理規約の提供及び別表第5に掲げる事項の開示を求めてきたときは、 甲に代わって、当該宅地建物取引業者に対し、管理規約の写しを提供し、及び別表第5に掲げる事項について書面をもって、 又は電磁的方法により開示するものとする。

甲の組合員が、当該組合員が所有する専有部分の売却等を目的とする情報収集のためにこれらの提供等を求めてきたときも、 同様とする。

2 乙は、前項の業務に要する費用を管理規約の提供等を行う相手方から受領することができるものとする。

3 第1項の場合において、乙は、当該組合員が管理費及び修繕積立金等を滞納しているときは、 甲に代わって、当該宅地建物取引業者に対し、その清算に関する必要な措置を求めることができるものとする。

コメント

@ 本条は、宅地建物取引業者が、媒介等の業務のために、 宅地建物取引業法施行規則第16 条の2に定める事項等について、 マンション管理業者に当該事項の確認を求めてきた場合及び所有する専有部分の売却等を予定する組合員が 同様の事項の確認を求めてきた場合の対応を定めたものである。

管理組合の財務・管理に関する情報を、 宅地建物取引業者又は売主たる組合員を通じて専有部分の購入等を予定する者に提供・開示することは、 当該購入予定者等の利益の保護等に資するとともに、マンション内におけるトラブルの未然防止、 組合運営の円滑化、マンションの資産価値の向上等の観点からも有意義であることを踏まえて、 提供・開示する範囲等について定めた規定である。

A 本来、宅地建物取引業者への管理規約等の提供・開示は組合員又は管理規約等の規定に基づき管理組合が行うべきものであるため、 これらの事務をマンション管理業者が行う場合にあっては、管理規約等において宅地建物取引業者等への提供・ 開示に関する根拠が明確に規定されるとともに、これと整合的に管理委託契約書においてマンション管理業者による提供・ 開示に関して規定されることが必要である。

また、マンション管理業者が提供・開示できる範囲は、原則として管理委託契約書に定める範囲となる。 管理委託契約書に定める範囲外の事項については、組合員又は管理組合に確認するよう求めるべきである。 マンション管理業者が受託した管理事務の実施を通じて知ることができない過去の修繕の実施状況に関する事項等については、 マンション管理業者は管理組合から情報の提供を受けた範囲でこれらの事項を開示することとなる。

なお、管理委託契約書に定める範囲内の事項であっても、「敷地及び共用部分における重大事故・事件」 のように該当事項の個別性が高いと想定されるものについては、該当事項ごとに管理組合に開示の可否を確認し、 承認を得た上で開示することとすることも考えられる。

B 提供・開示する事項に組合員等の個人情報やプライバシー情報が含まれる場合には、 個人情報保護法の趣旨等を踏まえて適切に対応する必要があるため、マンション管理業者は、 管理組合の求めに応じ、具体的な対応方法についてあらかじめ明らかにしておくことが望ましい。

なお、別表第5に記載する事項については、 「敷地及び共用部分における重大事故・事件」に関する情報として特定の個人名等が含まれている場合を除き、 個人情報保護法の趣旨等に照らしても、提供・開示に当たって、特段の配慮が必要となる情報ではない(売主たる組合員の管理費等の滞納額を含む。)。

C 管理規約が電磁的記録により作成されている場合には、記録された情報の内容を書面に表示して、 又は電磁的方法により提供するものとする。

D 管理規約等において購入予定者等に対する管理規約等の提供・開示を含めて規定されている場合は、 当該規定を踏まえて第1項の規定内容の追加等を行うものとする。

E マンション管理業者が、甲の組合員から当該組合員が所有する専有部分の売却等の依頼を受けた宅地建物取引業者に対する総会議事録等の閲覧業務について、 管理規約の提供等の業務とあわせて受託している場合は、当該閲覧業務についても第1項の規定の内容に追加等を行うものとする。

この場合において、議事録が電磁的記録で作成されているときは、当該議事録の保管場所において、 当該電磁的記録に記録された情報の内容を紙面又は出力装置の映像面に表示する方法により表示したものの閲覧をさせるものとする。

なお、議事録には個人情報やプライバシー情報が含まれる場合も多いことから、個人情報保護法の趣旨等を踏まえて適切に対応することが必要である。

F マンション管理業者が第1項に基づいて提供・開示した件数、第2項に基づいて受領することとする金額等については、 第9条第3項の報告の一環として管理組合に報告することとすることも考えられる。

7.2 第16条(守秘義務等)

標準管理委託契約書第16条((守秘義務等)

(守秘義務等)
第16 条 乙及び乙の従業員は、正当な理由がなく、 管理事務に関して知り得た甲及び甲の組合員等の秘密を漏らしてはならない。 この契約が終了した後においても、同様とする。

2 乙は、甲の組合員等に関する個人情報について、その適正な取扱いを確保しなければならない。

コメント

個人情報保護法改正以前の旧契約書のコメントでは、「個人情報の保護に関する法律の適用を受ける事業者はもとより、 適用を受けない小規模事業者等も「国土交通省所管分野における個人情報保護に関するガイドライン」に準じて、 個人情報の適正な取扱いの確保に努めるもの」としていたが、このコメント部分を改訂したもの。

@ 第1項は、適正化法第 80 条及び第 87 条の規定を受けて、マンション管理業者及びその使用人の守秘義務を定めたものである。 なお、適正化法第 80 条及び第 87 条の規定では、 マンション管理業者でなくなった後及びマンション管理業者の使用人でなくなった後にも守秘義務が課せられている。

A 第2項は、マンション管理業者は、その業務に関して個人情報に接する機会が多く、 個人情報の保護に関する法律を遵守することはもとより、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」等を参考にして、 個人情報の適正な取扱いの確保を図ることを踏まえた規定である。


※ 平成30年3月9日国交省より発表された「マンション標準管理委託契約書」の「個人情報の保護に関する法律の改正による改訂」部分は、 以上の通りです。

今回の標準契約書の改訂には実務上重要な点が見逃されていて、不備があります。そのことを次に説明します。


7.3 国交省の標準管理委託契約書の不備

当ホームページで平成29年(2017年)1月20日に掲載した 「1. 個人情報保護法と管理組合」 で取り上げた問題のうち、 管理委託契約に関係する部分を再び掲載しておきます。

平成27年改正個人情報保護法の成立・平成29年5月30日施行によって、明文化された事項があります。
@ 管理組合も個人情報取扱事業者になった。
A 個人情報取扱事業者は情報の取扱いに関して個人データの安全管理が図られるよう委託先を監督する義務を負う(新22条)
B 委託先の管理会社は「情報提供を受ける第三者」には該当しない。(新23条第5項第1号)
   委託先の管理会社への名簿提供は本人の同意を必要としない。
C 組合員本人には当該本人の保有個人データの開示請求権があり、本人から請求があれば管理組合は遅滞なく、 当該保有個人データを開示しなければならない。(新28条)など。

改正個人情報保護法では、管理組合は自らの管理業務のために区分所有者及び居住者の名簿を作成し、 それを管理会社との委託契約の際に、 個人情報管理委託契約を締結した上で、名簿受渡し記録を作成して名簿を渡し、 場合によっては管理会社が会計業務を再委託している先まで立入って名簿の管理状況を監督しなければならない責務を負っています。

委託先の管理会社だけではなく、管理組合内部においても個人情報にアクセスできる権限をもつ者を限定し、 個人情報の保管・管理方法にも厳重なセキュリティが要求されます。

個人情報はみだりに公開してはいけない。 しかし、管理組合の業務を遂行する上で必要な個人情報は、管理組合の責任のもとに、本人の同意を得て収集し、 名簿作成、保管、利用に関しての規則に則り、適正に管理されなければならない。 これが個人情報保護法の基本的な立法趣旨です。

 標準管理委託契約書の不備

 1. 組合員名簿の作成・保管・利用に関する責任元が規定されていない

  (管理事務の内容及び実施方法)の項目において、第3条 事務管理業務(別表第1に掲げる業務)の基礎データとなる組合員名簿の作成・保管・利用に関して、 個人情報取扱事業者である管理組合が主体的に責任を負う立場となるが、現行標準管理委託契約書では、 乙(管理会社)だけが組合員名簿の作成・保管・利用できる前提で契約書が作られており、 甲(管理組合)は、 第9条(管理事務の報告等)、第10条(管理費等滞納者に対する督促)等において乙(管理会社)から報告を受ける立場となって、 個人情報保護法の趣旨と逆転した立場の契約書となっている。

 2. 組合員名簿の作成・保管・利用に関する責任元が規定されていない

この標準契約書では、適正化法第二条第六号に定める管理事務をマンション管理業者に委託する場合を想定しており、 警備業法に定める警備業務、消防法に定める防火管理者が行う業務は、管理事務に含まれない。