ホーム > 大規模修繕目次 【前頁】 > 6.建物診断 > 7.改修設計 > 【次頁】 8.工事中に予想される生活支障

改修設計

 改修基本計画に基づき、改修設計を行い、改修工事仕様書及び設計図を作成します。

1. 改修設計の要点

1.改修により実現しようとする耐久性・耐用性・居住性等の目標値を定め、実際に使用する材料・工法が適合するかの検討を重点に基本設計を行います。

2.劣化箇所の補修による維持保全だけでなく、居住者の改善要望も視野に入れた実施設計に進みます。
 アンケートでの要望事項を改修計画へ反映することは、住民の改修工事への参加意識を大事にすることにもつながります。
 生活への支障の程度について、作業方法の検討を行い作業性との兼ね合いをはかりながら、生活支障を少なくするための検討を行います。

3.修繕設計だけではなく、改良(初期の水準以上にする改修)設計も 考慮に入れていくつかのパターンについて検討します。

2. 仕様書の作成

 下記の仕様書を作成し、理事会に提出します。

 ・改修工事仕様書・改修設計図(使用材料・工法の指定)

 ・工事内訳概算書(概算予算書)

 (金額欄を消したものを業者選定見積書式に使用)

 ・工事項目数量積算書

 ・補足図面

3. 躯体・外壁・仕上げの改修

・躯体・外壁の改修技術は、多様な工法が開発されており、調査・診断結果に基づき、ひび割れを 補修する技術(被覆工法、注入工法、充てん工法等)や、既設塗膜を補修する技術(塗装・吹付け直し工法)だけでなく、 劣化事象を回復する技術(劣化部分の除去工法、吹付け工法、表面含浸工法等)等を組み合わせて活用する。

 

外壁・躯体の劣化状況と適用技術
評価 外観の劣化症状 補修技術
健 全 めだった劣化症状はない
軽 度

乾燥収縮等による幅0.3mm未満のひび割れが認められる(腐食ひび割れはない)。
中性化は鉄筋位置まで到達していない。

・ひび割れ補修工法
(被覆工法、充てん工法)
中 度

鉄筋腐食による幅0.5mm未満のひび割れがみられる。
中性化が少数の鉄筋位置まで進行している。

ひび割れ補修工法(注入工法、充てん工法)
表面処理工法(表面被覆工法、面含浸工法)による中性化抑制
【鉄筋腐食箇所】断面修復工法(左官工法)による鉄筋腐食補修 (※周辺コンクリートのはつり、欠損したコンクートの断面修復を含む)

重 度

鉄筋腐食による幅0.5mm以上のひび割れ、浮き、鉄筋の露出などがみられる。
中性化が半数以上の鉄筋位置まで進行している。
(鉄筋腐食による)ひび割れやかぶりコンクリートの剥落が見られる。
【鉄筋】
鉄筋腐食が進行し、鉄筋の断面欠損が生じている。

ひび割れ補修工法
(注入工法、充てん工法)
表面処理工法
(面被覆工法、面含浸工法)による中性化抑制
断面修復工法によるコンクリート欠損部の打ち直し
電気化学的防食工法(再アルカリ化工法)
【鉄筋腐食箇所】
断面修復工法(左官工法、吹き付け工法)による鉄筋腐食補修 (周辺コンクリートのはつり、欠損したコンクリートの断面修復を含む)

(参考)日本建築学会「鉄筋コンクリート造建築物の耐久性調査・診断および補修指針(案)・同解説,1997年

充てん工法によるひび割れ補修

ひび割れ補修においては、ひび割れ幅や挙動に応じて、被覆工法や注入工法および充てん工法が用いられている。


コンクリートひび割れの改修(注入工法)

ひび割れ部の条件(ひび割れ幅、挙動の有無、乾燥・湿潤)により、エポキシ樹脂やセメントスラリーなどの注入材を、注入器具を用いてひび割れ深部まで充填


鉄筋腐食部の補修(表面含浸工法・断面修復工法)

既存躯体の劣化部分を除去後、防せい処理し、ポリマーセメントモルタル等による断面修復を行った上で、表面被覆することで、その後の劣化進行を抑制


中性化・欠損した躯体の修復(再アルカリ化工法・断面修復工法)

既存躯体の劣化部分を除去し、鉄筋の取り替えやひび割れを補修した後に、アルカリ含浸材の付与、ポリマーセメントモルタルの吹き付けなど、 複数の材料を段階的に使用して耐久性を確保
(左図は求道学舎(築後約80年)の躯体改修)

塗装の補修
(塗装吹付直法)

・塗装の補修技術には、躯体等を保護する塗装・吹付け直し工法がある。

概要:建築物の内外部に施され仕上げとしての美観を回復するとともに、 各種の劣化外力(雨水、飛散・浮遊物質、二酸化炭素ガス、 紫外線など)や経年劣化などから被塗物を保護することによって、 建築物の耐久性を向上させる。

(左図)塗装・吹付け直しの例

4.外壁タイルの補修

タイル仕上げの外壁は、劣化が進行することにより補修を要するタイルが増加する。
補修は、張替工法及びアンカーピンニング・注入併用工法により行われ、 劣化の進行は必要工事量の増加、補修費の増加につながる。なお、劣化が重度の場合、外壁複合改修構工法(ピンネット工法) を採用して全面的な改修が必要となるケースもある。

外壁タイルの劣化状況と適用技術
評価 外観の劣化症状 補修技術
健 全 めだった劣化症状はない
軽 度

タイル単体浮きやタイル目地のひび割れが見られる。 著しい機能低下はないと判断される。

・張替工法(部分)
アンカーピンニング・注入併用工法
(タイル単体での補修)
中 度

打診等により、タイルあるいはタイル下地の面的な浮きが確認できる。
躯体のひび割れによる、タイルのひび割れが見られ る。

・張替工法(部分)
アンカーピンニング・注入併用工法
(面的なタイルの補修)
重 度

タイルあるいはタイル下地の欠損・落下が発生している。

張替工法(部分/全面)
アンカーピンニング・注入併用工法
外壁複合改修構工法(ピンネット工法)(全面)
(外壁タイル面積の30%〜全面の補修)

 

外壁タイル等の複合改修構工法
(ピンネット工法)

外壁タイルの補修技術には、張替工法とともに、繊維ネットを使用して剥落を防止する複合改修構工法がある。
いずれの場合も調査・診断結果に基づき適切な工法を選択し活用する。

タイル、モルタル塗り外壁において、繊維ネットをモルタルや樹脂で張付け、仕上げ材の剥落防止層を形成し、 この層をアンカーピンで固定することで施工範囲全体の剥落を防止する。

(左図)既存仕上げ層と剥落防止層を合わせて躯体に固定する方法の例(タイル外壁の場合)

アンカーピンニング・注入併用工法によるタイルの浮きの補修

浮き、欠損部の補修についてはアンカーピンニング工法、エポキシ樹脂注入、断面修復改修については、ポリマーセメントモルタルによる修復等が用いられている。

5.屋上防水の改修

防水・仕上げを改修する技術には、劣化した部位を部分補修する工法、防水層等を全面撤去し再施工 する工法、従前の防水層を撤去せずに行う補修(かぶせ工法)等がある。

 

屋上アスファルト露出防水の劣化状況と適用技術
評価 外観の劣化症状 補修技術
健 全 めだった劣化症状はない
軽 度

保護塗料(トップコート)が変色・白亜化し始めている。 立上がり部の一部に防水層の露出箇所が見られる。

アスファルト露出防水の改修工法(保護塗料の塗替え)
かぶせ工法(露出防水)による立上り部等の部分補修
保護塗料の塗替えは基本的に全面
かぶせ工法は部分的

中 度

保護塗料(トップコート)に減耗・ひび割れを生じ、 防水層が露出してほとんど防水層の保護としての役割を果たせなくなっている。 急速に劣化が進行する可能性がある。

アスファルト露出防水の改修工法(防水層の部分的 補修)
かぶせ工法(露出防水)による新たな防水層の敷設

部分的が主流であるが、かぶせ工法の場合は全面施工を行うこともある。

重 度

保護塗料(トップコート)の劣化から防水層の劣化損傷に至っている。 既に漏水している可能性が高い

アスファルト露出防水の改修工法(既存防水層全 面撤去後に新規防水層の再施工)
基本的に全面施工となる。

 

かぶせ工法による屋上防水改修

屋上防水の改修では、既存防止層を全面撤去せずに、 防水補修・改修を上乗せしていく「かぶせ工法」が用いられることが多い。

屋上防水改修
(屋上防水のかぶせ工法)

保護防水の改修例(左図)と露出防水の改修例(右図)
(出典)外装仕上げおよび防水の補修・改修技術;9:屋根防水の 補修改修技術 、1993日本建築センター編建築保全センター編 建設大臣官房技術調査室監修

5. 共用設備配管の改修

排水設備の修繕には、劣化の程度に応じて洗浄、更生、更新の技術が選択して適用され、 劣化が進行しているほど適用される技術の単価は高い。
躯体に打ち込まれた共用設備配管及び専用部に設定された共用設備配管の更新は、 外部への露出配管新設工事や間仕切壁等の撤去・復旧費が加わる。

設備排水管の劣化状況と適用技術
評価 外観の劣化症状 補修技術
健 全 めだった劣化症状はない
軽 度

排水管内部にスケール等の汚れの付着や表層のみの錆が発生している。

排水管高圧洗浄工法
中 度

排水管内部のねじ等の接続部に錆が発達している。
放置するとスケール等の堆積により閉塞が発生し、 排水の流れが阻害され漏水の可能性がある。

排水管更生工法
(反転挿入による雑排水管更生)

給水・排水配管更生工法
(ライニング工法)

重 度

排水管内部に部分的に大きく発達した錆が認められ、配管の外部や周辺には漏水の跡が確認できる。

排水管更新工法
(排水管一般更新)

排水管の高耐久仕様への変更

 

共用設備配管の改修

共用設備配管を改修する技術には、洗浄工法、更生工法、更新工法があり、 配管の劣化状況に応じて組み合わせて利用することができる。

設備排水立て管の高圧洗浄工法
設備排水立て管の高圧水洗浄は、高圧洗浄車内のポンプで加圧した水を、延長ホースを経て洗浄ホースへ送り、 先端に取り付けた噴射ノズルで逆噴射させ、 その衝撃力により管内付着物を破砕剥離する。

(左図){トラップ洗浄工法」
専用部排水トラップよりノズルを入れ、排水立て管を2〜3層下の階まで洗浄する方法

設備給排水管の更生工法

給水・排水配管更生工法(ライニング工法)
給排水管内面にライニング用樹脂を注入し、 吸引力を利用してライニングし更生する。

設備排水立て管の更新工法

専用部内の排水立て管更新
スライド継手や、やりとり継手との組合せにより、排水立管を切断することなく更新する。

6. 劣化状況による改修工事費の比較

劣化度に対して適用される工法による概算改修工事費の試算


上の図に対応する適用技術と補修範囲

※「マンション改修見積」((財)建設物価調査会、2011年1月)に示されるモデル共同住宅の大規模改修工事の試算をベースに、 劣化状況及び改修部分の数量を推定し、改修技術の適用性をもとに劣化度による改修工事費の傾向把握の目安となる概算改修費用を算出
モデル共同住宅の概要:
構造:RC造7階竣工年度:1985年総戸数:46戸敷地面積:2,385u 建築面積:644u

出典:
国土交通省
持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会資料別紙2
共同住宅ストック再生のための技術の概要(耐久性・耐用性)