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修繕の用語説明

 マンションの大規模修繕工事の現場では、耳慣れない専門用語が使われます。 診断報告書の説明文や改修見積内訳書には、必ず出てくる言葉ですから少し知っているだけで、理解しやすくなります。

<おことわり>
 用語は、それを用いる人が共通の理解を得るために定義されますが、本文に掲載の解説は著者の解釈であり、 業界や学会で承認された定義ではないことをお断りしておきます。

1. 維持保全(メンテナンス)

1. 保全(メンテナンス)の種類

○ 保全 ( maintenance )

 建築物・設備・諸施設、外構、植栽等の対象物の全体または部分の機能および性能を使用目的に適合するよう維持または改良する行為で、 予防保全と事後保全に分けられる。

○ 1,1 予防保全の種類

 ○ 予防保全 ( Preventive maintenance )
 日常の手入れ(清掃、点検、給油、増し締め)と点検によって、機器の健全な状態を保持し、障害を防止するための保全業務。定期点検や予知保全を含む。予防医学によって人間の寿命が延長されてきたことと同じ。

 ○ 定期保守 ( Periodic maintenance )
 ある一定周期で、点検、補修、修理を行う保全で時間基準保全( Time Based Maintenance - TBM)とも言われる。消耗部品の定期的な交換も含む。

 ○ 予知保全 ( Predictive maintenance )
 重要な部品の寿命を検査または診断に基づいて予測する方法。予知保全は劣化に関するデータを測定し分析することにより、トレンド値を管理し、オンラインシステムを介して条件を監視するように設計された監視システムを使用する。(surveillance system)
 この連続したサーベイランスシステムにより劣化状態を把握し寿命を予測して部品交換、修理、更新を行うことを状態基準保全( Condition Based Maintenance - CBM))という。 
 1983年6月28日米国コネチカット州マイアナス橋の崩壊事故後、劣化を事前に検出するモニタリングシステムの開発が進んだ。

 ○ 改良保全 ( Corrective maintenance )
 (1) 装置に関する設計上の弱点を持つ機器の信頼性を向上させるための再設計や保守性を向上させるための改善・改良の措置を行う保全業務。
 (2) 対象物の性能または機能を上回って改良するために行う保全で、元よりも資産価値を高めるために行う修繕のこと。

 このための費用を会計学上は「資本的支出」と呼ぶが、管理組合の会計実務では、「維持保全」も「改良保全」もすべて「修繕費」として扱い、会計上は区別しない。
(企業の場合、改良保全の修繕費は税務上、資産の増加とみなされ費用として計上できずに課税資産になるから、企業の会計担当者は「資本的支出」という言葉には敏感になる。注意!)

※補足説明:
 法律で争われる修繕費、つまり、誰がその修繕費用を負担するのかといった争いに用いられる用語には「必要費」、「有益費」、「償金」の3つがあります。

(1)「必要費」:目的物の現状維持ないし原状回復の費用及び目的物を通常の用法に適する状態において保存するために支出した費用をいう。
 必要費を支出したときは、賃借人又は占有者は賃貸人又は所有者に対して支出した費用の償還を請求することができる。(民法608条1項、196条1項)

(2)「有益費」:客観的に判断して、目的物の価値を増加させるために支出した費用をいう。
 有益費は、契約終了時に賃貸人又は所有者の選択により、賃借人又は占有者の支出額又は現存する増加額(残存価格)のいずれかが償還される。(民法608条2項、196条2項)
 但し、賃借人の有益費償還請求権は目的物返還後1年以内に請求しなければならない。(民法621条1項、600条)

(3)「償金」 :物の添付(民法242条ないし246条)によって物の所有権を失った者が、その損害の填補のために、符合(一致)した物の所有権を取得した者(受益者)に対して請求し得る金銭(民法248条)のことで、 償金請求権は、受益者が善意の場合には、利益の現存する限度で認められる。(民法248条ないし246条)
また、償金請求権は占有者、賃借人以外の者、たとえば、請負業者にも認められる。

区分所有法が昭和38年4月1日に初めて施行されたとき、第4条で「共用部分は区分所有権の目的とならないものとする」と定められましたが、 これによって同法施行以前に共有部の所有権を取得していた者が第4条第1項の規定の適用により損失を受けたときは、その者は、「民法第703条の規定に従い、 償金を請求することができる。」旨の経過措置が、区分所有法附則第2条第3項で規定されました。

○ 1,2 事後保全の種類

 ○ 事後保全 ( Breakdown maintenance )
 突然の事故・故障が発生してから対応することで、故障しても全体に大きな影響を与えないか、又は修理費用以外の重大な損失を発生させない場合に採用されることもあります。 ただし、修復するまでの停止時間が長くなり、また不意に多額の修理費用が発生するので、重要な設備では結果的に回復コストは予防保全のコストより確実に高くなる。

 ○ 繰延保全 ( Deferred maintenance )
 資金がなく修繕の予算が取れない、コストを節約する締め付けが厳しいなどの状況で資金をやりくりするために修繕を延期する方法です。 ただし必要な修理を行うことに失敗すると、資産は劣化し最終的に資産の減損につながります。一般的に、継続的な繰延保守のポリシーは、健康と安全を巻き添えにして、資産の障害とより高いコストを招きます。 (・・・と、外国の教科書には書いてありましたが、北海道の某鉄道会社がこの状況に陥ったのはご承知の通りです。私たちの周りの高経年マンションでも、同様の事例は多く見られます。)

”Deferred maintenance is the practice of postponing maintenance activities such as repairs on both real property (i.e. infrastructure) and personal property (i.e. machinery) in order to save costs, meet budget funding levels, or realign available budget monies. The failure to perform needed repairs could lead to asset deterioration and ultimately asset impairment. Generally, a policy of continued deferred maintenance may result in higher costs, asset failure, and in some cases, health and safety implications.”


2. 点検と修繕

○ 点検
 建築、設備等の状態や磨耗、劣化の程度等をあらかじめ定められた手順により調べること。 法律で義務付けられている法定点検と、管理権原者(建物、設備等の管理を法律、契約、慣習上当然に行うべき者、通常、管理組合の理事長)と 委託業者との契約に基づいて、年間の回数を定めて行う定期点検、継続的に行われる日常点検があります。

○ 保守点検
 建物の機能を維持するために、建物各部の不具合や設備機器等の状態を定期的に検査し、消耗品の交換や作動調整、 補修(軽微な修繕)等を行うこと。保守点検には法定点検と自主点検があります。

○ 補修
 劣化した建築物や設備の部分の性能および機能を実用上支障ない状態まで回復させる行為。 但し、保守の範囲に含まれる定期的な小部品の取替え等は除く。

○ 修繕
 建物各部の劣化や機能低下に対し部材や設備の劣化部の修理や取替を行い、劣化した建物又はその部分の性能・機能を 実用上支障ない程度まで回復させること。
 一般的には、建物の建設当初の水準まで回復させることを目標とします。修繕に改良を付加したのが改修です。

 修繕には、補修・小修繕(劣化の発生、性能・機能の低下の都度行う)と、計画修繕(一定の年数の経過ごとに計画的に行う)が あります。

 法律上の区分では、軽微な修繕と大規模修繕に分けられ、区分所有法17条では「”改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないもの”と”要するもの”」という区分でしたが、 「著しく多額の費用」の解釈をめぐって訴訟が相次いだことから、平成14年に費用の過分性の要件は削除され、「”その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの”と”伴うもの”」に改訂されました。

 11.総会を成功させよう

○ 改良工事
 建物・設備の性能・機能を改良(グレードアップ)する工事で、材料や設備を新しい種類のものへ取替えること(レベル1)や 新しい機能を付加すること(レベル2)など。

○ 改修工事
 修繕と改良工事をあわせて改修工事といいます。

 この改修工事には、次の二つのレベルがあります。
レベル1: 既存部位の材料や設備機器をより新しく、性能の高いものにグレードアップする改良工事
レベル2: 増築・改造等の大掛かりな工事によりマンションに新たな性能や機能を付加する改良工事

○ 大規模修繕工事・計画修繕工事・大規模改修工事
 計画修繕は長期修繕計画に基づいて実施されますが、実際の工事を行う上では、建物各部の傷み具合に対応した 有効な修繕を実施するために、調査や診断を行い、それに基づいた修繕設計により工事部位や工事内容を確定します。

 計画修繕では、効率的な工事実施のため、複数の部位や工事項目をまとめて実施することが多く、 修繕積立金を充当して行う計画的な修繕等を大規模修繕と呼び、通常は10年以上の周期で大規模に実施されます。

2. 施工と監理

○ 設計監理方式と責任施工方式

 詳細: 5.専門家の選定と委託業務内容

○ アフターサービス
 売買や請負等の契約において、契約に基づいて物件の欠陥箇所の補修を無償で行うこと。売主や請負人が営業上 または消費者サービスの観点から自主的に行うもの。

○ 現場説明
 見積参加業者に対して、現場での実際上の説明をすること。図面や仕様書に示された事柄や、交通、電力等の状況や 支払い条件の説明をすること。

○ 現場代理人
 請負者の代理人のこと。請負契約履行のために現場に常駐し、工事現場の運営・管理などを行う工事の責任者。 一般的には現場監督と呼ばれる。

○ 工事請負契約書
 注文者氏名、請負者氏名、工事内容、請負代金の額、支払い方法、工事着手、完了、引渡しの時期などが記載されて いる契約書。工事契約約款、工事仕様書等も含まれる。

○ 工事請負契約約款
 契約に関する詳細な約束事が書かれているもの。工事の変更や中止、延期、完成引渡し、請負代金の支払い、 履行地縁違約金、紛争処理 等々。

○ 工事監理
 大規模修繕の場合、仕様書の意図を施工者に伝達し、仕様書どおりに工事が行われているか監督して品質を 確保する業務。現場代理人が工事施工者側の立場で現場を指揮することに対して、工事監理は依頼者(管理組合)の立場から、 工事が正確に行われているかを確認する。

○ コンサルティング
 大規模修繕の基本計画の原案作成、管理組合の合意形成、工事費用のチェック、施工会社の選定などを 専門知識に基づいてアドバイスし、管理組合の判断、意思決定に必要な知識や情報を提供すること。

○ 共通仕様書(仕様書・見積内訳書・見積要項書)
 見積り参加業者に、同一条件で見積書を出してもらうためのもの。
 仕様書…工事の範囲、工法、使用材料を指定したもの
 見積り内訳書…工事別補修箇所の数や数量が入ったもの
 要項書…工期、見積りの提出期限などの約束事、アフターメンテナンス条件等
 これらを合わせて共通仕様書と呼ぶ。

○ 基本設計
 建物診断の結果を踏まえ、修繕すべき範囲と箇所、修繕の方法や材料、数量などをきめていく修繕設計業務で修繕の方針を決める基本的な計画業務

○ 実施設計
 基本設計に基づき、詳細な見積や工事を行うために必要な設計内容を策定する業務

○ 竣工図
 建物を新築する際に工事請負契約書に添付される設計図に対し、当初の設計と変更のあった部分を反映して建物の竣工時に実態に即して作成される図面

○ 仕様書
 図面に表現できない事柄をまとめた「工事の指示書」のこと。品質、性能、施工方法、部品や材料のメーカーなどを指示する。また、保証の内容、検査方法なども記載される。

3. 防水の工法の用語

@「露出防水」
 防水層がそのまま露出している工法で、閉鎖されている屋上で採用していることが多い。耐用年数10〜15年

A「保護コンクリート仕上防水」
 コンクリートで覆うことで日射による紫外線劣化や人の歩行から、防水層を守る工法。ルーフバルコニーや、日常的に使用される屋上で使われている。アスファルト防水[下記@]の上に施すことが多い。コンクリートに多少のひびが入っていても防水層(耐久性)に影響がない場合が多い。
耐用年数17〜20年

● 防水の種類の用語

@ 露出アスファルト防水
 水平な部分に施されるもので、アスファルトを合成繊維に含ませたシートを何枚か重ねて防水層をつくる。屋上防水では、最も多く使われている。熱工法、冷工法などがあります。
コスト削減を考慮し、12年サイクルで実施している大規模修繕工事と同時期に実施する場合が多い。

A ウレタン塗膜防水
 液状のウレタン樹脂をハケやローラーで塗布、あるいは吹付機で防水被膜を作る方法。屋上庇、バルコニーなどに使われる。液体状の材料を使うので、狭い場所にも施工しやすい。改修工事では、廊下・バルコニーの排水溝・巾木にも使用する。新築工事では施工していない場合も多く、そのため、上階の排水溝のひび割れから漏水するケースがあります。

B 長尺塩ビシート貼
塩化ビニル性のシートを貼る工法。廊下やバルコニーや階段(専用シート)などに使われる。新築工事では、シートのジョイントが、突き付けのままとなっており、端部がめくれることがあります。改修工事では、継目処理は熱溶接工法がよい。防水性能の確保のため、廊下やバルコニーの排水溝や巾木部分は、ウレタン塗膜防水を併用する。

4. シーリング関係の用語

シーリング (Sealing):アルミサッシ枠の周囲や外壁目地などに充填される弾性の充填防水材のこと。 下記@〜Bのほか、排気口(ベンドキャップ)、玄関扉・メーターボックス、手摺り支柱廻り等に施されている。

シーリング材(合成樹脂やペースト状)のもつ弾性効果により、部材間の機密性、水密性が保たれているが、耐用年数を越えると弾性効果が失われ、風化が進むと躯体との接着破壊、表面のひび割れ、破断が起こり、目地からの漏水などが発生する。
補修は基本的に大規模修繕時に行う。防水工事の一部とする例が多い。

 @ 打継目地シーリング
 建物の各階の打継部に施している目地。ほとんどの建物で約3mピッチで水平に入っている。コンクリートのジョイント部から居室への雨水の浸入を防止している。補修には足場が必要。

 A サッシ廻りシーリング
 バルコニーや廊下、出窓等のサッシ廻りから雨水の浸入を防いでいる。シーリングが破断すると雨水の侵入が容易なため定期的な修繕が必要となる。
 特にルーフバルコニーの掃出しサッシ廻りのシーリングは紫外線により劣化が進むため注意が必要。

 B タイル端末廻りシーリング
 タイル貼り仕舞い部からの雨水の浸入を防ぐ。エフロレッセンスやタイルの付着力低下、浮きの発生を防止する役割があります。

5. 屋上廻りの部位に出てくる用語

 @ パラペット
 屋上やルーフバルコニー等の外周部分に立ち上げられた低い壁のこと。この部分で防水を立ち上げて、防水層の端部処理をする。

 A 笠 木
 屋上パラペットの上面やバルコニー手摺の上面などの天端や上端面をいう。笠木は、仕上げにモルタル※を塗っている場合がありますが、モルタル仕上は、経年により亀裂や浮き・剥離が発生しやすい。バルコニーや廊下の手摺天端のひび割れ防止対策も重要。
 ※セメントモルタルのこと。モルタルに砂利を加えたものがコンクリート。 タイル貼りの下地に使われたり、外壁に塗ったり、仕上材としても使われる。

 B 防水アゴ
 パラペットのアゴ状につきだした部分。防水層をアゴの下部に立ち上げることによって、雨水が防水層の裏側に入り込むのを防ぐ。

 C ハト小屋
 通気管などを屋上に立ち上げる場合に、その突き出し部分を覆う屋根付きの箱状のもの。屋上に出す配管配線をする場合に屋上防水を貫通させないために作られる。漏水防止の役目があります。

6. 劣化状況を示す用語

(1) コンクリートかぶり厚
 コンクリート表面から内部に配筋された鉄筋表面までの距離。 鉄筋が表面ぎりぎりのところで、配筋されてしまうと、外部応力がかかった時、表面にヒビがはいってしまう。 コンクリートは本来アルカリ性で鉄筋を腐食から防いでいるが、表面から少しづつ中性に傾いていくから、表面近くに配置された鉄筋は錆びて膨張しコンクリートを表面に押し出す、→(爆裂という)。 火災などで、コンクリートは鉄筋の高熱による強度低下を食い止めるが、そのためには十分なかぶり厚さが必要。
 建築基準法施行令第79条では部位毎にその最低の距離が決められている。(耐力壁、柱、梁→(屋内/屋外) 3p/4p以上、耐力壁以外→(屋内/屋外) 2p/3p以上)

(2) コンクリートの中性化
 コンクリートは、本来アルカリ性の材料であり、それによって鉄筋コンクリート内の鉄筋の発錆を防いでいる(防蝕領域PH10〜14)。長い間、空気中にさらされていると 大気中の二酸化炭素(CO2)がコンクリート内に侵入し、炭酸化反応を引き起こすことにより、徐々にアルカリ度が低下し中性化の領域が内部に進行していく。これを中性化(PH10未満)という。
 中性化が進行すると鉄筋が錆びてしまう。仕上げ材により進行は異なる。上げ裏※のコンクリート(リシン材仕上)は、進行が早いため中性化抑止対策等の検討も含め注意が必要。

(3) 鉄筋爆裂
 コンクリートの内部に配筋された鉄筋が何らかの原因(亀裂からの雨水の浸入、コンクリートの中性化の進行等)によって発錆、膨張し外側のコンクリートを押出し、剥落に至る現象の通称。鉄筋爆裂部は、同じ位置に鉄筋があるため、錆発生の端部を十分たたいてコンクリート中にある不具合部を斫り出して補修することが大切。

(4) エフロレッセンス(白華現象) (efflorescence) 
 表面にできる粉状の体積物
 亀裂(ひび割れ)等からコンクリートの内部に侵入した雨水が内部のセメント成分を溶かし、再び外壁表面に浸出した時にできる白い結晶状の付着物。漏水の目安となる。
 エフロレッセンスは、出口であり、雨水の入口となっている亀裂(ひび割れ)を補修しないと再発する。

(5) 貫通亀裂
 コンクリート構造部材の内部まで進行しているひび割れ(内外・上下の貫通)。バルコニーや廊下の天井(上げ裏)や一部の手摺りなどに見られる。
 地震等の揺れで再発する可能性が高いため、対策として、Uカット+シーリング処理や誘発目地新設等の検討が必要。

(6) ヘアクラック ( hair cracking )
 髪の毛のように細い、0.2〜0.3o未満程度のひび割れのこと。

(7) チョーキング ( Chalking )
 外壁材、鉄部塗料、防水材等の表層部が経年劣化等により粉状に劣化する現象。塗り替えの時期の目安になる。

(8) 腫れ.腫脹/ (swelling),ブリスター;水疱状のふくれ( blistering)

(9) 不同沈下
建物の部分によって異なった地盤変状が生じ、沈下が大きい部分と小さい部分が生じること。 建物の傾斜が生じ、使用性に不具合を生むことがあります。

(10) 塩害
練り混ぜ時に塩分を含んだ砂を用いた等によりコンクリート内部に混入した塩分により、 コンクリート内部の鉄筋が腐食する不具合。

(11) アルカリ骨材反応
セメントなどのアルカリリートに混入したために骨材が膨張し、 コンクリートにひび割れを生じさせる不具合

(12) 凍害
コンクリート中の水分の凍結による体積膨張によりひび割れが生じる不具合。

7. 耐震改修に出てくる用語

(1) 耐震診断と耐震改修

法律上の定義:
「耐震診断」とは、地震に対する安全性を評価することをいう。(建築物の耐震改修の促進に関する法律 第2条1項)
「耐震改修」とは、地震に対する安全性の向上を目的として、増築、改築、修繕、模様替若しくは一部の除却又は敷地の整備をすることをいう。(同 第2条2項・H26改正)

一般的には:
 「耐震改修」とは「耐震診断」により建物の耐震性能を正確に把握した上で必要に応じて主要構造体の補強工事を行ったり、 主要構造体に地震による揺れが伝わらないようにする工事を行うこと。

 東日本大震災では、後述するように二次壁などの損傷により建物の継続使用が困難になった事例が見られたことから、 現在の耐震改修は、安全性だけでなく、結果として損傷制御、すなわち継続使用の可能性を高めることも重要な目的となっています。

(2) 耐震診断法による耐震性能の判定

耐震診断の方法には各種ありますが、耐震改修促進法4条1項に基づき、 国土交通大臣が定めた「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針」(平成18年国土交通省告示第184号) に耐震診断の指針として、耐震診断の方法が示されています。

また、その方法と同等以上の効力を有すると認める方法として、国土交通大臣が認めた方法があります。 主に共同住宅で活用可能な方法を下表に示します。

建物の構造 耐震診断基準
鉄筋コンクリート造 (一財)日本建築防災協会による「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」
鉄骨鉄筋コンクリート造 (一財)日本建築防災協会による「既存鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準」
鉄骨造 (一財)日本建築防災協会による「既存鉄骨造建築物の耐震診断指針」
壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造・壁式鉄筋コンクリート造 (一財)日本建築防災協会による「既存壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断指針」 「既存壁式鉄筋コンクリート造等の建築物の簡易耐震診断法」

 

建物の耐震性能とは、地震のエネルギーを吸収できる能力のことで、下記を考慮して決められます。

  IS≧ISOのとき「耐震性を満足する」

 IS:構造耐震指標(建物の保有性能)
  IS=(強度)×(靭性能)×(形状・年による補正係数)

 ※ 「形状・年による補正係数」は、建物状況 (建物の平面形、断面形、バランス)、
   経年状況 (建物の老朽化の度合い)で決定されます。

 ISO:構造耐震判定指標
  ISO=(基本指標)×(建物用途などによる補正係数)

 IS(建物の保有性能)の値を向上させるためには、強度や靭性能を増大させることが有効。

*1)強度増大:
  建物が地震による水平力に抵抗する「強さ」を向上させること。
*2)靭性能増大:
  僅かな変形で脆く破壊することがないように粘り強さを与えて変形することを可能にすること。

構造耐震指標ISの算定

*1)強度指標
建物の強さ(地震力に耐える「頑丈さ」)
建物が地震力によって破壊する時に最大限耐えている力と建物重量の関係から算定します。

構造耐震判定指標IS0の算定

 Es=0.8(第1次診断法)
 Es=0.6(第2次,第3次診断法)

Esの値は、Z,G,Uが1.0の時、IS≧ISOとなる建物が新耐震設計法により設計される建物と、 ほぼ同等の耐震性能を持つという判断のもと設定されています。

*2)靭性指標
建物の粘り(地震力を逃がす「しなやかさ」)、建物の変形性能を表わす。
例えば、薄いガラスの板を曲げようとするとある程度力を加えたところで粉々に割れてしまう。 このように最大限耐えられる力を発揮した直後に崩壊してしまうような性質を「脆性的である」という。
一方、薄い鉄板を曲げようとすると、ある程度力を加えると板が割れることなく曲がっていく。
このように最大限耐えられる力を発揮しながら変形できる性能を「靭性能」という。

建物も構造特性の違いから脆性的なものや靭性能に富むものがあります。
耐震性能上は靭性能に富む構造が望ましい。

(3) 耐震診断

耐震診断は計算のレベルの異なる第1次診断法、第2次診断法および第3次診断法があります。
耐震診断の実施にあたっては、診断の目的、建物の構造特性等に応じて適切な診断法を選定します。

耐震診断レベル
診断次数 第1時診断法 第2時診断法 第3時診断法
適した構造特性

壁の多い建築物に適する。

主に柱・壁の破壊で耐震性が決まる建築物

主に梁の破壊や壁の回転で耐震性が決まる建築物

計算に必要な項目 床面積、階数、階高、柱断面寸法、柱内法長さ、壁断面寸法、腰壁、垂れ壁寸法 (同左)+ 壁開口部寸法、柱配筋、壁配筋、コンクリート強度、柱鉄筋強度 (同左)+ (同左)+ 梁断面、梁スパン、梁配筋、柱・梁鉄筋強度
計算の難易度 易しい 難しい 非常に難しい

 

第1時診断法
比較的耐震壁が多く配された建築物の耐震性能を簡略的に評価することを目的とした診断法であり、 対象建物の柱・壁の断面積から構造耐震指標を評価します。

第2時診断法
梁よりも、柱、壁などの鉛直部材の破壊が先行する建築物の耐震性能を簡略的に評価することを目的とした診断法で、 対象建物の柱・壁の断面積に加え、鉄筋の影響も考慮し、構造耐震指標を評価します。 第1次診断法よりも計算精度の改善を図っており、一般的な建物の構造特性に適した、最も適用性の高い診断法です。

第3時診断法
柱、壁よりも、梁の破壊や壁の回転による建物の崩壊が想定される建築物の耐震性能を簡略的に評価することを目的とした診断法で、 対象建物の柱・壁(断面積・鉄筋)に加えて、梁の影響を考慮し、構造耐震指標を評価します。 第3次診断法は、計算量が最も多く、解析においてモデル化の良否の影響を大きく受けるため、高度な知識と慎重な判断を要する診断法です。

※ 第1次診断法は極めて簡易な診断法であるため、耐震性能があると判定するための構造耐震判定指標ISOの値が、第2次診断法・第3次診断法よりも高く設定されています。
したがって、壁式構造を除き、第1次診断法で耐震性能があると評価される例は少なく、第2次診断法または第3次診断法により耐震性能の評価を行うことが一般的です。

※ 構造躯体の劣化が著しい建物は、耐震診断基準の適用に慎重を要します。
以下のような建物では耐震診断基準の適用の可否を検討する必要があります。

  • コンクリートコアの圧縮強度が平均値で13.5N/muを下回る建物
  • 不同沈下が著しく、構造亀裂の生じている建物
  • 火害を受け、亀裂、剥落等の痕跡の残っている建物
  • 竣工後30年以上経過したもので、老朽化の著しい建物
  • 塩害アルカリ骨材反応の影響により、鉄筋の腐食が著しい建物
  • 凍害などによりコンクリート断面欠損が著しい建物

現行の新築設計でもルート1、ルート2、ルート3と呼ばれる複数の許容応力度等設計法の他、 限界耐力設計法、時刻歴応答解析等、複数の設計法の中から建物の性状に相応しい設計法を選択する必要がありますが、 既存建物の耐震診断においても、建物の特性に合わせた適切な診断法を選択する必要があります。

例えば、壁の多い建物であれば第1次診断法の適用が可能ですが、 梁の性状が支配的な建物に第1次診断法を適用すると耐震性を過小評価することがあります。

第3次診断法など精緻な計算を必要とする耐震診断法の場合は、 建物のモデル化の良否により計算結果が大きく左右されるので、 慎重なモデル化が必要となります。

(4) 二次壁

設計上、耐震要素として期待していない壁のことです。その形状から、腰壁、垂壁、袖壁、立法壁などと呼ばれる。 東日本大震災では、地震動による共同住宅の大破倒壊は殆ど見られず耐震基準が目的としている「地震動による倒壊の防止」は概ね達成できていると考えらましたが、 その一方で、二次壁などの損傷により建物の継続使用が困難になった事例が見られました。

(5) 二次壁の損傷防止

・近年の共同住宅は二次壁に構造スリットを設け、二次壁に地震による力を伝達させないようにすることで、 二次壁を損傷させないように計画しているものが多い。

・既存建物についても、二次壁に耐震スリットを設ければ、二次壁へ力を伝達させないことは可能ですが、 二次壁に伝達されなくなった力は柱や耐力壁に伝達されることになるため、柱等の負担が増えることになります。
不用意なスリットの計画により柱の崩壊などより危険な地震被害を招く恐れもあり、慎重な検討が必要です。

・耐震改修によって建物全体を剛強なものにすることは、二次壁の損傷防止にもつながる方向ですが、 二次壁の損傷を確実に制御できる設計法は未だ確立されていないため、被害例の調査、研究等、今後も継続して検討することが必要となっています。

(6) 耐震改修工法の種類

強度増大型補強
ブレース,耐震壁の新設など

靭性能増大型補強
柱鋼板巻立て補強など

免震改修
免震層以外は建物の使い勝手は変わらない
免震層変位が大きいので敷地に余裕が必要。設備の免震化も必要。

制震改修
在来補強よりも補強箇所が減る場合がある
変形性能(靭性能)が低い建物には不向き

強度・靭性能増大のための補強工法の種類

(7) 補強工法の事例

外付けフレーム補強の事例

バットレス補強の事例

バットレスによる補強事例
建物の外側に耐震改修部材を配置する場合は、建物の形状が変化するため、 建築基準法との関係に注意を要する場合があります。

建物の外部に補強部材を取り付けた事例
方立壁位置に耐震改修部材を新設しており、ベランダが少し狭くなった以外、生活環境への 影響は殆どない。

外側改修工法のメリットと制約:
耐震改修後も居住空間は改修前と変わらないメリットがありますが、 一般的に耐震壁増設などと比べると補強効果が小さく、外側改修だけでは目標性能を満足できないことがあります。

制震改修工法

制震改修工法には、減衰力を付加する方法のバリエーション、制震装置(ダンパー)の形状のバリエーションにより様々な種類があります。
既存建物の耐震性能に影響されるが、制振装置を用いることで、強度増大型の補強工法よりも補強個所を減じることができる場合があります。

制震改修工法の種類(ダンパーの種類)
オイルダンパー

・ シアリンク形
・ 筋違形

粘性ダンパー

・ 壁形
・ シアリンク形
・ 筋違形
・ トグル形

粘弾性ダンパー

・ シアリンク形
・ 筋違形
・ パネル形

弾塑性ダンパー

・ 筋違形
・ 間柱形
・ パネル形

摩擦ダンパー

・ シアリンク形
・ 筋違形
・ パネル形

免震改修工法

免震改修工法のメリットと制約:
免震層より上部は耐震改修後も居住空間は改修前と変わらない、 地震による被災リスクが改修前よりも著しく低くなるメリットがありますが、 建物周囲の敷地に余裕が必要(免震層が数10cm変位する)、 新築と異なり、免震装置に作用する力を自由にコントロールできないため、 免震層の設計が困難な場合があります。

出典:(「7. 耐震改修」関係)
国土交通省・持続可能社会における既存共同住宅ストックの再生に向けた勉強会資料 別紙4「共同住宅ストック再生のための技術の概要(耐震性)」