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7.1 財務諸表では見えてこないもの

 決算報告書に示される財務諸表は「木の果実」であり、事業報告書及び事業計画書は「木の幹」ですが、 それらには表れてこない「木の根」の部分がコミュニティ要素です。

資産とは何か

会計は貨幣的価値を尺度として考えますから、会計的な言い方をするとコミュニティ資産(負の要素を含めれば財産といういいかた)となりますが、 管理組合コミュニティには狭義の、或は近視眼的・直截的な「果実」としての貨幣価値としてはとらえられない「根」の要素のほうが実は重要な意味を持っています。

管理組合コミュニティの実態を会計学的に資産として捉えた場合、コミュニティ資産は次の4つに分類されます。

(1) 「人的資産」:
 区分所有者と組合役員など組合構成員全体の資質・モラル・コンプライアンス、関与度、賃貸率、空室率、年齢層別構成比などの社会的な環境尺度に基く人的な評価資産

(2) 「組織資産」:
 管理プロセスや業務のながれの中で、蓄積されたノウハウ・継続性・規約・細則・ガイドブック・広報紙発行などの日々の活動中で蓄積された組織的な資産

(3) 「関係資産」:
 管理(マネジメント)に関して完全委託、部分委託、自主管理などの形態に応じて、近隣地域との良好な関係や管理会社を含む取引先などと長期的、安定的に、 時代の変化に対応できる体制かなどのリレーションシップ資産

(4) 「都市資産(地域間格差)」:
 耐震診断、大規模修繕、福祉制度(バリアフリー化等)、環境政策(照明のLED化等)、 防火防災設備などへの公的支援制度や助成金は、都市と地方で格差があります。

公的助成金は大都市ほど充実し、地方は助成制度など全くないか、あっても貧弱です。
地方は教育、医療、福祉などでの地域格差解消のほうが優先度が高く、 集合住宅への助成や支援制度にまで目を向ける余裕などありません。

財務諸表では見えてこないもの

 これらの「根の部分」を無視した議論、例えば「平米あたりの修繕積立金の額」などは価値評価の絶対基準にはなり得ません。

 幾ら「平米あたりの修繕積立金」の額が高くても、管理会社に全面お任せの人的資産に劣る組合、所有者と管理組織間につながりと信頼がない管理組合、 受託責任を自覚していない倫理観が欠如した管理組合組織などの組織資産に劣る組合、管理会社の選択を誤った関係資産に劣る組合などに対し、 栄養学的に基礎代謝量が少なくて済む組合、言い換えれば会計学的にも経営能力の高い管理組合、豊かなコミュニティを持ち、 人的、組織的資産及び関係資産に優良な評価が与えられる管理組合とでは、 管理の目的とする建物設備の維持保全の結果、即ち、健康度にも歴然とした差が表れてきます。

 コミュニティ資産が優良な組合はコストパフォーマンスに優れています。
要するに、無駄なお金やエネルギーは使わないということですが、これらの「根の部分」を見ない「平米あたりの適正な修繕積立金の額」の議論からは、 物事の本質は見えてきません。

相対的なある尺度の一つにすぎないものを、ある目的で政策的に利用しようとすると、その尺度自体が一人歩きを始め、 全体像もその中の本質も、見失われていきます。
一方で、住宅政策における制度上の地域間格差などは、単一の管理組合の努力の範囲を超えています。

 国の不適正な住宅政策

 均一化された社会を前提として考えてきた結果の「細則主義」に基く日本や米国の会計基準が、 多様性価値観を重視する「原則主義」の国際会計基準に呑み込まれていったように、 もはや、均一化された社会を前提として考える時代は終焉を迎え、多様性の価値観を重視せざるを得ない時代になってきましたが、 いまだ我が国の国家の住宅政策にはその認識はなく、省益を目的とし、 均一化の前提に立って啓蒙をその手段として利用してきた統制管理の過去の概念から抜け切れていません。

2013年のカナダ・オンタリオ州政府の共同住宅法制改革プロジェクト「第U期報告書」で示された 「共通テーマ/7つの基本的な価値感」を見てください。 多様性価値感の根底にあるものは、わが国の官製の統制管理の価値感とは、まるで異なります。

その統制管理を天下り機関のビジネスと収益に利用しようとしたのが「マンションみらいネット」です。

「マンションみらいネット」とは
 「マンションみらいネット」は国の補助金1億5000万円を投じて開発したマンション履歴管理データベースの名称で、 2005年10月に試験運用、2006年4月に本格運用を始めています。
運用は(公財)マンション管理センター、運営費に約1億4000万円の補助金を受けている。

管理組合にとっては登録料を払ってまで情報をオープンにすることのメリットがない、ストック重視という目標を掲げるばかりで、具体的な事業がないなど不評で、 登録数が2年間で350件、うち約260件は、初年度の登録料(5万1450円)が無料だった試験運用時期に登録されたもの。
開設13年後の2019年7月現在の登録件数、全国でたったの379件(東京都94件)

分譲業者名や管理会社名が表示されるので、業者が実績をPRする広告宣伝にはなる。
登録料を払えば(ロゴマーク使用登録料は2回分の更新料込みで17万円前後)、物件広告に「みらいネットのロゴマーク」が使え、 「適正な管理に配慮したマンションであることをアピールできる」とPRしていますが、 認識がズレています。笑うしかありません。

令和2年1月・マンション管理センターからの「制度の見直し及びシステムの改良のお知らせ」
「より使い勝手の良いサービスを提供するため、2020(令和2)年2月1日以降新規申込分より年間利用料を税込み2万円とし、 利用者がいつでも自由に修繕履歴情報を入力(登録)できる機能を追加した新システムを2020(令和2)年2月3日以降稼動します。」

民間では考えられない異常に高額な資金投入、そして、その内容の貧弱さのアンバランスは会計的にも異常な(不適正な)世界です。
これが過去に何度も繰り返されてきたわが国の住政策です。

終わりに

第1章で会計の定義を説明しておきましたが、最後にもう一度、挙げて本稿を終わります。
 「会計とは、情報利用者が、事情に精通した上で、判断や意思決定を行うことができるように、 経済的な情報を識別し、測定し、伝達するプロセスである。」