1. 防火管理制度の概要(令和6年度版)
1.1 消防関係法令
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1.5 防火管理業務
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1.6 防火管理者に求められる条件
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1.1 消防関係法令 消防関係法令は年2〜3回の頻度で頻繁に改正されていますので、インターネットで防火管理に関する記事を参考にする場合、
それはいつの時点の規定に基いているのかを確認する必要があります。 本文でも最新の改正内容でご紹介するよう努力していますが,参考までに、下表に、本文において参照した各法令の改正日を記載しておきます。 多数の人が寝泊りなどをし実質的に居住していながら、各部屋の仕切りが燃えやすい材料でできている、窓がないなど建築基準法に違反している建築物の存在が問題となっています。 消防法だけではなく、建築基準法の改正についても注意が必要です。 尚、本文では消防法及び建築基準法にならって「マンション」という用語は「共同住宅」に統一しています。
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略 語 | 法 令 名 | 本文が根拠としている最終改正日 |
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法 | 消 防 法 (昭和23年7月24日法律第186号) | 平成27年9月11日法律第66号 |
政 令 | 消 防 法 施 行 令 (昭和36年3月25日政令第37号) | 平成30年3月28日政令第69号・平成31年10月1日施行 |
省 令 | 消防法施行規則 (昭和36年4月1日自治省令第6号) | 令和2年4月1日総務省令第35号 |
建 基 法 | 建 築 基 準 法 (昭和25年5月24日法律第201号) | 平成28年6月7日法律第72号 |
建 基 令 | 建築基準法施行令 (昭和25年11月16日法律第338号) | 令和元年政令第181号/令和2年4月1日施行 |
条 例 | 地方自治体が定める地方条例(例)火災予防条例等 | 条例に基づく規則: 火災予防条例施行規則等 |
最近の 関係法改正 |
住宅用火災警報器設置対策基本方針の改正について | 消防予第365号(令和2年11月18日)消防庁長官 |
最近の 消防法改正 |
1:消防法施行令の改正(平成31年10月1日施行)、
150u未満の小規模な飲食店等における消火器具の設置義務付け 「1.8 最近の大火事例」 参照
2:「共住省令第40号」及「消防用設備点検基準」の改正 詳細は、「16.共住省令第40号」 を参照 |
改正年月日:平成30年6月1日 総務省令第34号及消防庁告示第12号 |
※ 法(消防法・建基法)は国会で成立、政令(施行令)は内閣の閣議で、省令(消防法施行規則)は総務大臣決済、 告示は消防庁長官決済、市町村の火災予防条例は各市町村議会で成立します。 |
1.2 住宅火災の現状
【出火件数及び火災による死者数の推移】
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【住宅火災の件数(放火を除く。)及び住宅火災による死者数(放火自殺者等を除く。)の推移】
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1.3 防火管理制度のしくみ火災を未然に防止し、火災による被害の軽減を図るためには、すべての建物で自主的に防災管理が適切に行われる必要があります。 しかし、過去に発生した火災からも分かるように、自主的な防火管理を期待するだけでは、安全が十分に確保できない場合があります。 このため、消防法第8条では、一定規模以上の建物などの管理について防火管理上必要な業務を行わせるよう義務づけています。 消防法は、大惨事火災が発生するたびに規制が強化されてきました。
2001年の東京・歌舞伎町の雑居ビル火災を受けた消防法改正で消防署員はいつでも、事前通告なしで査察ができるように改められました。
背景には、慢性的な消防署員の不足があります。雑居ビルなど対象の建物が388万棟と1割も増えたのに対し 自治体の財政難から職員数は横ばいで、消防庁が示す定員の7割強に過ぎません。(消防庁資料「消防機関の査察等の現状」) |
※ 図はH20年度までですが、その後のデータは下記の通り ネットカフエ、カラオケボックス、さまざまな福祉施設など小規模で新たな用途の施設が次々と生まれており、 「後追い行政」、「イタチごっこ」などど言われながらも、消防法が頻繁に改正され、そのたびに規制が年々細かくなり、 罰則も強化されてくるのは、止むを得ない面があります。また、既存遡及(きぞんそきゅう)も消防法の特徴のひとつです。 消防法が頻繁に改正される理由:@ 経験の積み重ねにより逐次その内容の強化を図る、
既存遡及消防法の改正に伴って、既存の消防用設備等を現行基準が適用される消防用設備等に更新しなければならないことがあります。
建築基準法第3条第2項(建築済み等の建築物には新たな規制を適用しない=不遡及の原則)と対照的ですね。
防火管理の体系 |
1.4 管理権原者共同住宅の代表者は、法律が求めている役割によって、管理者、理事長、管理権原者と名前が変わります。 区分所有法では、建物の維持管理権限を有する者を「管理者」といい、 標準管理規約では、「理事長は、区分所有法に定める管理者とする」という規定を置いて理事長の職務権限の根拠を示しています。 消防法では、管理組合理事長は、「共有部の管理権原者」になります。
消防法第8条により共同住宅における共有部の管理について権原を有する者(管理権原者=理事長 )は、 火災、地震等から自分達の共同住宅を守るために、 防火管理者を定めて、消防計画を作成させ、自衛消防組織 (※下記注) を設置し、防火管理業務を行わなければなりません。 実際の消防計画及び自衛消防組織については、 「(※)共同住宅用消防計画の自衛消防組織について」 を参照ください。 (※注)自衛消防組織には、自主防災組織と、法定の組織の二つがあります。
下記は適切な防火管理を行わなかったとして、管理権原者に実刑判決が下された事例です。
(解説)防火対象物:防火・防災管理制度を義務付けている対象のこと。
権原(けんげん):ある行為をすることを正当とする法律上の原因。権限とは職能・権能の範囲のこと。
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(略称:建築物衛生法)」でも、建築物の衛生的環境を確保するために特定建築物の管理権原者が遵守すべき事項を定めていますが、実務に関わるビルメンテナンス業界の人達はこの(衛生管理)権原者を、「ごんげんしゃ」と呼ぶ人が多いようです。
管理権原者は、防火管理者の選任や権限の付与などの人事管理権を有し、防火管理上必要な経費を支出し、建物や設備を管理できる権限を有している者というのが法律上の定義であり(下記 ※1 参照)、 使用体系と管理体系が分かれている大きな商業ビルなどでは、そのビルの管理を請け負っている管理体系の代表者が管理権原者にあたります。(※2) 防火管理者が防火管理の推進責任者であるのに対し、管理権原者は防火管理の最終責任者です。 (※1) 「管理について権原を有する者」(以下「管理権原者」という。)のうち、「管理」とは、防火対象物又はその部分における火気の使用又は取扱いその他法令に定める防火についての管理をいい、「権原」とは、ある法律行為又は事実行為を正当ならしめる法律上の原因をいう。管理権原者とは、「防火対象物又はその部分における火気の使用又は取扱いその他法令に定める防火の管理に関する事項について、法律、契約又は慣習上当然行うべき者」をいう。 (※2) 法8条の「管理について権原を有する者」(管理権原者)は、共同住宅の場合、単純ではありません。 分譲共同住宅の場合、一般に個々の住宅の世帯主が、それぞれの住戸部分の管理権原者であると解され、共用部分等については、基本的には各管理権原者が共同で権原を有することになりますが、規約等で責任関係が明確にできる場合には、管理組合理事長が管理権原者となります。 賃貸住宅の場合、防火管理について実質上誰が権原を有しているかについてはさまざまなケースがあります。公営住宅やUR賃貸住宅の場合は、自治体(都府県市町村)や都市再生機構が管理権原者であることが多いのですが、民間の賃貸住宅の場合には 所有者(または所有会社の代表者)の場合や、所有者から委託を受けた管理会社の場合もあり、極端な場合には、管理権原者を特定することができない場合もあります。 なお、同一敷地内に複数棟の共同住宅があり、その管理権原者が同一である場合には、 当該敷地内にある共同住宅を一の防火対象物ととらえて法8条を適用することとされています。(令第2条) 管理権原が複数である防火対象物
● 防火対象物等の「管理について権原を有する者」について
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1.5 防火管理業務防火管理業務管理権原者は、防火管理者に消防計画を作成させ、次のような防火管理上必要な業務を行わせなければなりません。
防火管理者の変更又は選任した後、速やかに消防計画を作成し、これを添付して「防火管理者選任届」を消防署に提出します。
防火管理者の権限、責務、業務内容の詳細は 「 3. 防火管理者の業務」 を参照ください。 罰則たとえ火災が発生しなくても、法に従わなかった場合、管理権原者は次の処分を受けることがあります。
「防火管理者の選任の届出を怠った者」 罰金30万円以下又は拘留(消防法44条8項) 「8条3項の命令違反=防火管理者選任を命じられたのに選任せず、命令に従わなかった者」
「8条4項の命令違反=消防計画に従った防火管理業務を行っていないとき」
違反対象物の公表 (東京都火災予防条例第64条の3第1項) 東京都は火災予防条例を改正し、平成23年4月1日から「違反対象物公表制度」がスタートしています。 公表の基準法第8条第1項又は第2項の規定に違反する場合
一 次に掲げる義務ごとに、一の義務の不履行を一の義務違反とする。
二 一に掲げるもののほか防火管理上必要な業務に係る義務であつて省令第3条第1項各号に規定する消防計画に定めるべき事項に係るもののうち、次に掲げる義務ごとに、一の義務の不履行を一の義務違反とする。 「共同住宅」における公表された違反事例実際には、防火対象物名称(マンション名)と所在地の地番も公表されていますが、ここでは違反指摘事項を知っていただくのが目的ですから、 それらは記載していません。また、例示したのはごく一部であることをお断りしておきます。 共同住宅と事務所、店舗が入っている複合用途防火対象物での、事務所、店舗側の違反と、共用部を管理する管理組合との共同防火管理体制の不備、及び防災制度に関連する自衛消防組織の不備が違反の大半を占めています。
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建物名称 | 所在地 | 違反指摘事項 | 根拠法令等の条項 | 違反の位置等 | 公表日 | 所轄消防署 |
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○○ | 荒川区荒川 | 防火管理者未選任 | 法8-1 | 共用部及び共同住宅部分 | 平成27年5月7日 | 荒川消防署 |
防火管理に係る消防計画未作成 | 法8-1 | 共用部及び共同住宅部分 | ||||
○○ | 港区西麻布 | 自動火災報知設備感知器一部未設置 | 法17-1 | 4階「スペースネットワーク」共同住宅玄関部分 | 平成27年1月19日 | 麻布消防署 |
○○ | 江東区扇橋 | 自動火災報知設備未設置 | 法17-1 | 共同住宅部分 | 平成26年11月20日 | 深川消防署 |
○○ | 東村山市栄町 | 自動火災報知設備一部未設置 | 法17-1 | 共同住宅部分 | 平成25年2月8日 | 東村山消防署 |
○○ | 中央区築地 | 防火管理者未選任 | 法8-1 | 共用部分及び共同住宅部分 | 平成26年8月25日 | 京橋消防署 |
防火管理に係る消防計画未作成 | 法8-1 | |||||
自衛消防訓練未実施 | 法8-1 | |||||
防火対象物点検未実施 | 法8の2の2-1 | |||||
○○ | 豊島区長崎 | 防火管理者未選任 | 法8-1 | 防火対象物全体及び共同住宅部分 | 平成25年7月18日 | 池袋消防署 |
防火管理に係る消防計画未作成 | 法8-1 | 防火対象物全体及び共同住宅部分 | ||||
○○ | ○○ | 屋内消火栓設備未設置 | 法17-1 | 防火対象物全体 | 平成25年2月8日 | 練馬消防署 |
スプリンクラー設備未設置 | 法17-1 | 防火対象物全体 | ||||
○○ | ○○ | 防火管理者未選任 | 法8-1 | 所有者管理部分 | 平成25年9月17日 | 足立消防署 |
防火管理に係る消防計画未作成 | 法8-1 | 所有者管理部分 | ||||
自衛消防訓練未実施 | 法8-1 | 所有者管理部分 | ||||
共同防火管理協議事項一部未決定 | 法8の2-1 | 防火対象物全体 | ||||
避難器具未設置 | 法17-1 | 地下1階 | ||||
○○ | ○○ | 防火管理者未選任 | 法8-1 | 共同住宅及び共用部分 | 平成25年3月26日 | 大森消防署 |
防火管理に係る消防計画未作成 | 法8-1 | 共同住宅及び共用部分 | ||||
共同防火管理協議事項未決定 | 法8の2-1 | 防火対象物全体 | ||||
○○ | ○○ | 自動火災報知設備未設置 | 法17-1 | 防火対象物全体(1階北西側、物品販売店舗部分を除く) | 平成23年12月6日 | 蒲田消防署 |
○○ | ○○ | 防火管理者未選任 | 法8-1 | 1階「株式会社×××」 | 平成25年9月6日 | 麹町消防署 |
防火管理に係る消防計画内容不適 | 法8-1 | 管理組合管理部分、1階「株式会社×××」 | ||||
自衛消防訓練未実施 | 法8-1 | 管理組合管理部分 | ||||
共同防火管理協議事項未決定 | 法8の2-1 | 防火対象物全体 |
1.6 防火管理者に求められる条件防火管理者は、次の条件を満たしている者でなければなりません。
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防火管理者は、防火管理上必要な業務を行い、積極的に推進する責任者として、自衛消防組織など防火管理の業務に従事する人々を指揮、監督する立場にあります。
防火対象物の区分によって適用制度が変わります。 共同住宅でも、居住人員や、単棟か団地か、店舗を有する複合用途か、その店舗の用途は何か、さらに31mを超える高層建築物か などによって、適用制度は変わります。
最近の法改正によって、防火管理者のみならず、防災管理者、統括防火管理者などを選任しなければならない事例も出てきています。 消防法におけるご自分の「共同住宅の位置づけ」と、それによって「法令上求められる義務は何か」を次頁以降で確認して下さい。 1.8 最近の大火事例1.平成28年12月新潟県糸魚川大火懸命の消火活動(糸魚川市消防本部提供)平成29年版 消防白書より 2016年(平成28年)12月22日(木)10時20分頃に新潟県糸魚川市で発生した火災は、 フェーン現象に伴う強い南風により広範囲に延焼拡大し、昭和51年10月29日(金)の山形県酒田市における大火以来、 40年ぶりとなる大規模な市街地火災(地震を原因とするものを除く。)へと発展し、 焼損床面積30,213u、焼損棟数147棟、けが人17名(一般人2人、消防団員15人)(死者0名)の被害が発生した。 糸魚川市消防本部は、県内外の19消防本部から消防車両38台及び消防職員175人の応援を受け、出火から30時間後に鎮火した。 この事例により、飲食店等(消防法施行令(昭和36年政令第37号)別表第1(3)項に掲げる防火対象物をいう。以下同じ。)においては、 延べ面積150u以上のものに限り、消火器具の設置が義務付けられていたところであるが、 延べ面積150u未満の飲食店等(以下「小規模飲食店等」という。)における初期消火を確実とするために、 消防法施行令の一部を改正する政令(平成30年政令第69号)を公布した。(平成31年10月1日施行) ※火元建築物の概要
2.平成30年12月北海道札幌市廃エアゾール製品の不適切な取扱いによる爆発火災2018年(平成30年)12月16日(日)20時29分覚知-12月17日2時10分鎮火
消防法令の適合状況
過去の重大事例
平成13年9月新宿区歌舞伎町雑居ビル火災で44名死亡
(H21年度版)平成21年01月14日掲載(H21年度版)平成21年11月27日改訂
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