5. 複合用途の防火と防災
(消防法改正) テナントビルの防火・防災体制を強化
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5.4 共同防火管理制度
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テナントビルの防火・防災体制を強化 近年、雑居ビル等で多くの死傷者等を伴う火災が相次いで発生していること、東日本大震災では都市部でも大きな被害が発生したことを受け、高層ビル等の防火・防災管理体制を強化するため、消防法が改正されました。
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防火管理と防災管理の強化 ( 従来、不明確だった管理体制の役割分担を明確化) |
防火管理 |
防災管理 |
「防火管理」とは、火災の発生を予防し、かつ、万が一発生してしまった場合でもその被害を最小限にするために対策をとることです。 「防火管理者」とは、「防火管理」に関する推進責任者を言います。防火管理義務対象物であれば、テナント(管理権原者)ごとに選任しなくてはなりません。 防火対象物等で、その管理権原が分かれているものについては、当該防火対象物の管理権原者のうち主要な者を代表者とする共同防火管理協議会を設け、統括防火管理者の選任、防火対象物全体にわたる防火管理に係る消防計画の作成、消火、通報及び避難訓練の実施等について協議し、防火対象物全体の防火安全を図ることを各管理権原者に対して義務付けている。(消防法第8条の2) 近年、建築物全体の防火管理体制が曖昧な雑居ビル等を中心として多数の死者を伴う火災被害が頻発していることから、建築物全体の防火管理業務を行う統括防火管理者の選任を法律上義務付け、 統括防火管理者に各防火管理者への指示権を付与することを内容とする消防法の一部を改正する法律が平成24年6月27日に公布(施行日:平成26年4月1日)された。 |
「防災管理」は、火災以外の災害(地震など)に関する事項について被害を想定して対策をとることであり、 「防災管理者」は災害管理の推進責任者です。 「防火管理者」と同様、義務対象物であれば、テナント(管理権原者)ごとに選任しなくてはなりません。 「防災管理者」は平成19年の消防法改正で創設されたものです。 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による被害は、死者・行方不明者約2万人の人的被害、全壊約13万棟、半壊約25万棟の住家被害など、まさに戦後最大の規模となった。 この大災害を受け、消防庁長官の諮問機関である第26次の消防審議会で平成23年6月から5回にわたり集中的に審議が行われ、平成24年1月30日に、消防審議会から「東日本大震災を踏まえた今後の消防防災体制のあり方に関する答申」が行われ、 東日本大震災における被害の甚大さ、我が国における少子高齢化等の社会情勢等を踏まえ、今後発生が懸念されている東海地震、東南海地震、南海地震が連動して発生する、いわゆる三連動地震や首都直下地震などの大規模地震に対する備えとして、 「自助」、「共助」、「公助」それぞれの充実・強化を図ることが重要であると謳われ、地震・津波対策や地域総合防災力、消防本部や消防団の活動、緊急消防援助隊による広域応援体制、民間事業者における対策について、 東日本大震災における被害や活動等を踏まえ、更なる充実・強化を目指すための対処方針が示された。 |
統括防火管理者が必要となる防火対象物 |
統括防災管理者が必要となる防火対象物 |
管理権原が分かれている防火対象物で次のものです。 (1)高層建築物(高さ31mを超える建築物) (2)消防法施行令別表第1(以下、「令別表第1」という。)(6)項ロ及び(16)項イ((6)項ロに掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものに限る。)に掲げる防火対象物のうち地階を除く階数が3以上で、かつ、収容人員が10人以上 (3)「令別表第1」(1)〜(4)項、(5)項イ、(6)項イハニ、(9)項イ、(16)項イ((6)項ロの部分が存するものを除く。)に掲げる防火対象物のうち、地階を除く階数が3以上で、かつ、収容人員が30人以上 (4)「令別表第1」(16)項ロに掲げる防火対象物で地階を除く階数が5以上で、かつ、収容人員が50人以上 (5)「令別表第1」(16の3)項に掲げる防火対象物
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共同住宅、倉庫、格納庫等以外の全ての用途で管理権原が分かれている次のものです。 (1)地上11階以上の防火対象物(延べ面積10,000u以上) (2)地上5階以上10階以下の防火対象物(延べ面積20,000u以上) (3)地上4階以下の防火対象物(延べ面積50,000u以上) (4)地下街(延べ面積1,000u以上) (備考) |
「防火管理者」は比較的小規模の建物から必要となることが多いですが、「防災管理者」の方は大規模の建物について必要となります。これは、「防災管理者」という制度が、近年その切迫性が指摘されている大地震に備えるためのものであり、大地震が発生した際に、円滑な避難誘導が求められるような多数の者が利用する建物について設置を義務付けたものであるからです。 互いに間違いやすい制度ですので、届出の際には様式などお間違えのないようご注意ください。
共同防火管理制度、防災管理制度ともに所轄消防署への多くの届出書類の作成が必要です。
罰則の強化
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消防法の改正に伴う用語の変更 |
新 | 旧 |
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防火・防災管理者選任(解任)届出書
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防火管理者選任(解任)届出書
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※ 従来の「共同防火管理協議事項届出書」は新法による「統括防火管理者選任(解任)届出書」の添付書類の中に含まれる。 |
(注) 届出書に必要な添付書類 |
1.統括防火管理者選任(解任)届出書に必要な添付書類 |
@ 協議会に関する契約書
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2.全体についての消防計画作成(変更)届出書に必要な添付書類 |
E 構成員一覧 (押印は不要)
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5.1 複合用途の共同住宅における防火管理の実施単位複合用途防火対象物とは、令別表第1の(1)項から(15)項までの防火対象物の用途のいずれかのうちの、2つ以上の異なる用途がある防火対象物をいい、令別表第1の(16)項イ、(16)項ロに分類されています。 防火管理の義務は収容人員で決まります。 |
(16)項 | イ | 複合用途防火対象物のうち、その一部が(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているもの |
収容人員30人以上 |
ロ | イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物 |
収容人員50人以上 |
防火管理の義務があるかないかの判断は、各々の事業所、テナント、住居ごとではなく、防火対象物全体の用途と全体の収容人員で判断しなければなりません。一つの建物の中に、複数の事業所、テナント、 住居が入っている場合、火災の危険は一つの事業所やテナント、住居にとどまらず、建物全体に及びます。 つまり、防火管理の実施単位は、その防火対象物が全体として防火管理が義務付けられている防火対象物であれば、たとえ個々の事業所、テナント、住居ごとの収容人員が少なくても、
そこに入っているすべての事業所、テナント、住居の管理権原者に防火管理が義務付けられることになります。そして、複数の管理権原者が共同で防火管理にあたらなければなりません。 共同防火管理を行わなければならない防火対象物は、次の防火対象物で、その管理について権原が分かれているものです(法第8条の2・政令第4条の2)。 |
5.2.1 複合用途防火対象物にならない例防火対象物に2つ以上の異なる用途があっても、それが主たる用途に従属している場合には複合用途防火対象物にはなりません。 たとえば劇場は(1)項イに属していますが、この劇場に付属している喫茶は令別表第1の(3)項、売店は(4)項に属しています。この場合、@ 主たる用途の部分と、管理権原者が同一、A 利用者が同一あるいは密接な関係にある B 利用時間がほぼ同一 の3つの条件を満たす場合には、これらは主たる用途の部分に従属しているとされ、複合用途対象物にはなりません。(令1条の2第2項) 従属の規定以外にも面積による判断基準があります。(根拠規定は本文末尾 「消防予第41号」参照 ) 主たる用途に供される部分の床面積(廊下、階段、便所等共用部分は床面積に応じて按分する)が全体の90%以上で、かつ、主たる用途以外の部分の床面積が300u未満の場合は複合用途防火対象物にはなりません。
つまり、事務所ビルにレストランが入居した場合、レストランの床面積が300u以下で、事務所の面積は全体の90%以上の2つの条件を満たした場合には、複合用途防火対象物にはなりません。
なお、同一敷地内にある独立棟として存する電気室、ボイラー室、トイレ、更衣室等は常に(15〕項(1〜14項に該当しない事業場)に掲げる防火対象物として捉え、倉庫、駐車場、宿舎等は本来主たる用途に供される防火対象物に関係なく、独立的な性格を有する防火 対象物として捉えることとなっています。 |
5.2.2 みなし従属の対象から除外された例近年、共同住宅の一部を利用して小規模なグループホーム等の福祉施設を開設する例が増加しています。 このように共同住宅の一部に住戸単位で居住型福祉施設が入り込む場合、「令別表第1に掲げる防火対象物の取り扱いについて」(昭和50年4月15日付け消防予第41号、消防安第41号。以下「41号通知」という。)1(2)に適合する部分については、 令第1条の2第2項後段に規定する「従属的な部分を構成すると認められるもの」に該当するものと取り扱われてきました (この取り扱いを以下「みなし従属」という。)が、 (6)項ロ等のうち、令別表第1(2)項ニ及び(6)項ロについては、 平成20年8月28日付け消防予第200号及び平成21年3月31日付け消防予第131号により、みなし従属の対象から除外されました。
さらに、平成22年2月5日総務省令第8号及び平成27年2月27日付けの改正41号通知によって、 これらに加えて(6)項ハの用途も除外対象となりました。(6)項ロは「居住型」、(6)項ハは「通所型」です。 ただし、現設備が改正後のスプリンクラー設備規定に適合しない場合は、平成30年3月31日までの間は、なお従前の例によるとして猶予期間を設けています。 詳しくは 「23. 複合型居住施設の省令改正」を参照
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