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6. 定期点検報告制度

目次

(まえがき) くらしの安全を守る定期点検制度
6.1 定期点検報告制度
6.2 新宿区歌舞伎町雑居ビル火災で44名死亡の教訓
6.3 定期点検報告を行わなければならない防火対象物

6.4 点検結果報告書
6.5 点検基準
6.6 点検報告の特例認定
6.7 「消防計画」についての点検実施上の留意点

くらしの安全を守る定期点検制度

ここで取り上げるのは消防法の定期点検報告制度です。

消防法以外の定期点検報告制度
 建築基準法第12条の建物・設備の定期検査、ビル管理法の空調管理、給水・給湯設備の定期検査、 水道法に基づく給水設備定期検査、水質汚濁防止法による浄化槽の7条・11条定期検査、電気事業法に基づく電気設備の定期点検、ガス事業法に基づくガス設備の安全点検、 更に個人の分野でも消費生活用製品安全法第2条第4項指定製品の長期使用製品安全点検制度及び長期使用製品安全表示制度、 道路運送車両法に基づく自動車の定期点検整備など、くらしの安全は多くの定期検査制度で守られています。

6.1 消防法の定期点検報告制度

点検および報告の義務

防火対象物の関係者は、その防火対象物に設置されている消防設備について、総務省令で定めるところにより、 定期的に、政令で定めるもの(施行令第36条)にあっては消防設備士又は消防設備点検資格者に点検させ、その他のものにあっては自ら点検し、 その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない。(消防法第17条の3の3 平成19年6月22日改正)

令別表第1 (5)項ロ、(7)項、(8)項、(9)項ロ、(10)項から(15)項まで及び(16)項ロに掲げる防火対象物で、延べ面積が1,000平方メートル以上のものは 消防設備士免状の交付を受けている者又は総務省令で定める資格を有する者に点検をさせなければならない。(消防法施行令第36条第2項第2号 平成19年6月13日改正)  (注)共同住宅は別表第1 (5)項ロです。)

点検の内容と期間

消防法施行規則第31条の6第1項及び第3項の規定に基づき、消防用設備等又は特殊消防用設備等の種類及び点検内容に応じて行う点検の期間、点検の方法 (平成18年7月改正告示第32号)

消防用設備等の種類等 点検の内容 点検の期間

消火器具、消防機関へ通報する火災報知設備、誘導灯、誘導標識、消防用水、非常コンセント設備、無線通信補助設備及び共同住宅用非常コンセント設備

 機器点検  6ケ月

屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備、二酸化炭素消火設備、ハロゲン化物消火設備、粉末消火設備、屋外消火栓設備、動力消防ポンプ設備、自動火災報知設備、ガス漏れ火災警報設備、漏電火災警報器、非常警報器具及び設備、避難器具、排煙設備、連結散水設備、連結送水管、非常電源(配線の部分を除く。)、総合操作盤、パッケージ型消火設備、パッケージ型自動消火設備、共同住宅用スプリンクラー設備、共同住宅用自動火災報知設備、住戸用自動火災報知設備並びに共同住宅用非常警報設備及び共同住宅用連結送水管

 機器点検  6ケ月
 総合点検  1年
配線  総合点検  1年

6.2 新宿区歌舞伎町雑居ビル火災で44名死亡の教訓

 2001年(平成13年)9月1日1時1分 東京都新宿区歌舞伎町1丁目18-4 雑居ビル「明星56ビル」(耐火4階建 地下2階地上4階 複合用途(16項イ))の3階麻雀店エレベータ付近から出火し、4階飲食店に延焼拡大しました。
出火時、3階の客と従業員19名のうち3名が脱出し、16名が死亡、4階には客と従業員28名がいて全員が死亡。
火災の2年前、1999年10月、新宿消防署は消防査察でこの雑居ビルの定期立ち入り検査を実施した際、下記の9項目にわたる消防法違反を指摘していましたが、その後もほとんど改善していませんでした。

@防火管理者の未選任  A消防計画の未作成  B避難場所の障害物  C消火訓練の未実施
D消防設備の未点検  F火災報知機の不備  G避難器具の未設置  H誘導灯の不点灯(2階)

 業務上過失致死傷罪などでビルの実質経営者ら5人が有罪(2008年7月2日東京地裁判決)となったほか、火災の7ヶ月後(平成14年3月)に建築基準法9条1項に基づく建築物使用禁止の行政処分及び消防法5条に基づく建築物使用禁止の行政処分がなされました。 遺族が提訴した損害賠償訴訟の過程で保全処分が出され、2006年4月18日総額10億円以上とする和解が成立し保全処分が解かれた後にビルは解体されました。

 この火災で幾つかの課題があげられました。本例の雑居ビルのように「権利関係や管理形態が複雑化、多様化した防火対象物」が急増していること、実効性のある防火管理を行うためには、防火対象物の管理権原者等による防火管理の徹底が重要であること、 しかしながら、火災予防に関するかなりの知識や経験が必要とされるようになってきていること、管理権原者や防火管理者のみでこれを行うことの限界性などが指摘されました。

 そのため、2002年(平成14年)4月26日 消防法が改正され、「一定の防火対象物の管理権原者が1年に1回、高度な知識をもつ防火対象物点検資格者に防火対象物の点検を実施させ、その結果を消防機関に報告する」こととした防火管理の新しい制度が導入され、平成15年10月1日から施行されました。(消防法第8条の2の2)

 罰則:「報告をせず、又は虚偽の報告をした者は30万円(※)以下の罰金又は拘留」(法第44条第11号)、及びその法人に対しても罰金を課す両罰規定(法第45条第3号)あり。
(※) 平成19年6月の消防法改正により20万円から30万円に引き上げられた。

 この制度は、管理権原者の責任において行わなければならない防火管理業務等の管理体制を、防火対象物点検資格者に、火災予防に関する専門的な観点から補強させ、防火対象物の基準適合状況を継続維持きせ、火災の危険性を排除し、人命安全の確保を図ろうとするものです。

 この点検報告制度の適切な運用により、防火対象物の管理権原者等による防火管理の徹底が図られることになります。
一方、点検報告義務を履行し、一定の基準を満たしている防火対象物に対しては、その旨の表示「防火基準点検済証」を、消防長又は消防署長の特例認定を受けた場合は、「防火優良認定証」をそれぞれ掲出させることにより、 外見では判断がつかない防火対象物の消防法令基準適合状況について、正確な情報を提供し、施設等の利用者が容易に判断できるようにしました。

防火セイフティマーク

 定期点検が行われた防火対象物のすべての部分(特例認定を受けている部分を除く。)が、防火対象物点検資格者により点検基準に適合していると認められると「防火基準点検済証」を表示することができます。

 また、消防機関から特例認定を受けると「防火優良認定証」を表示することができます。防火優良認定証は、消防署長の特例認定を受けた防火対象物において表示できるマークで、利用者への安心・安全情報の提供を趣旨とするものです。(平成18年9月29日総務省令第116号)

6.3 定期点検報告を行わなければならない防火対象物

令別表第1(5)の項ロ、(7)項、(8)項、(9)項ロ、(10)項から(15)項まで及び(16)項ロに掲げる防火対象物で、延べ面積が1,000平方メートル以上のものは 消防設備士免状の交付を受けている者又は総務省令で定める資格を有する者に点検をさせなければなりません。(消防法施行令第36条第2項第2号)

 定期点検と報告を行わなければならない防火対象物は、消防法第8条第1項に該当する特定防火対象物のうち、次のいすれかに該当する防火対象物です。(消防法第8条の2の2第1項、消防法施行令第4条の2の2)

(1) 防火対象用途に応じて収容人員の規定があります。(下図参照))
(2) 地階又は3階以上の階に特定用途部分があり、その部分から地上に通じる階段が1系統である防火対象物(その階段が屋外階段、特別避難階段又は消防庁長官が認める屋内階段である場合を除く。)
表1の用途に使われている部分のある防火対象物では、表2の条件に応じて防火対象物全体で、点検報告が義務となります。

6.4 点検結果報告書

「消防用設備等(特殊消防用設備等)点検結果報告書」

@「下記のとおり消防用設備等(特殊消防用設備等)点検を実施したので、消防法第17条の3の3の規定に基づき報告します。」

A防火対象物(所在地、名称、用途、構造・規模)、点検期間、消防用設備の種類

B点検者の点検資格(消防設備士又は消防設備点検資格者の資格種別、交付年月日、講習受講状況)

「消防用設備等(特殊消防用設備等)点検結果報告書」の書式は消防庁告示「消防法施行規則の規定に基づき、消防用設備等又は特殊消防用設備等の種類及び点検内容に応じて行う点検の期間、点検の方法並びに点検の結果についての報告書の様式を定める件」(改正 平成18年7月消防庁告示第32号) に記載されており、消防庁の頁からダウンロードできます。
ダウンロードはここをクリック

 点検結果報告書には、実際に点検をした消火器具、共同住宅用スプリンクラー設備、共同住宅用自動火災報知設備などの消防用設備の「点検票」が添付されます。 点検票は次の「6.5 点検基準」で説明しています。

6.5 点検基準

 点検項目に係る消防法令上の基準が、当該防火対象物に適用がない場合は、その項目を点検する必要はありません。(消防法施行規則第4条の2の6)

点検基準及び点検票の様式は下記に規定されています。
[消防用設備等の点検の基準及び消防用設備等点検結果報告書に添付する点検票の様式を定める件]
昭和50年10月16日消防庁告示第14号平成22年12月改正告示第24号
消防庁の頁からのダウンロードはここをクリック

 点検報告対象の防火対象物が行う点検基準は、下記の9項目ですが、この項目は更に関連事項を整理し54の細項目となっています。

(1) 消防機関に消防計画と防火管理者選任(解任)届が届け出されていること。
(2) 定められた消防計画に基いて、所定事項が適切に行われていること。
(3) 管理について権原が分かれている防火対象物では、共同防火管理協議事項が定められ、消防機関に届け出されていること。
(4) 避難通路や避難口、防火戸等の管理について、避難の支障となる物件が放置されたり、みだりに存置されたりしていないこと。
(5) 防炎対象物品の使用を要する物品に、防炎性能を有する旨の表示が付されていること。
(6) 圧縮アセチレンガスや液化石油ガス等、火災予防又は消火活動上重大な支障を生ずるおそれのある物質を貯蔵し、又は取り扱っている場合には、その届け出がされていること。
(7) 消防用設備等、特殊消防用設備等が防火対象物の用途、構造及び規模等に応じて設置されていること。
(8) 消防用設備等、特殊消防用設備等を設置したとき、必要な届出がされ、消防機関の検査を受けていること。
(9) その他法又は法に基く命令に規定する事項で、市町村が定める基準に適合していること。

6.6 点検報告の特例認定

  管理権原を有している者の申請により消防機関が検査を行い特例用件に適合すると認められた防火対象物については、3年間点検報告が免除されます。認定を受けてから3年を経過したとき、又は、管理権原者の変更があったとき、特例認定は失効します。
(消防法第8条の2の3、消防法施行規則第4条の2の8)
  但し、特例認定を受け、防火対象物定期点検報告が免除されている期間でも、消防用設備等の点検報告は、消防法第17条の3の3に基づいて行うことが必要です。

6.7 「消防計画」についての点検実施上の留意点

防火対象物点検資格者における点検実施上の留意点

○届 出 関 係  防火管理者選任(解任)

1 防火管理者証のチェックを行う。
  (1)選任届の届出年月と受理印の確認を行う。
  (2)人事異動等で変更されていないか、確認を行う。
  (3)届出が不明な場合、防火管理者証の記載内容をチェックする。
  (4)届出書類の内害の確認を行う。
  (5)内部、外部委託選任は、手続き上不備がないか、防火担当責任者の指定に誤りはないか、確認を行う。
  (6)甲種防火管理者再講習の受講対象者には、受講状況の確認を行う。

2 適任者の選任
※ 複合ビルの小規模テナント事務所で、若い女性事務員が防火管理者として選任され、適正執行をためらっている例もある。いつも事務所に残っているという理由だけで選任されたものと推測される。このような場合、管理権原者から防火管理に係わる権原を与えられたのであるから、ためらうことなく自信を持って防火管理業務を行うよう助言する。また、上司がいれば、防火管理業務の要件と重要性を説き、より適任者の選任について助言する。

3 小規模事業所は、防火管理者を内部選任している例が多い。契約書により要件は満たしているが、委託者側の防火担当責任者が、防火管理者を知らない場合や面識の無い事例がある。また、防火管理者が変更した場合、委託した管理橿原者から選解任届が出されていない場合がある。防火管理者の委託制度についての理解が欠けているもので、制度全般の説明を行う必要がある。

○自衛消防組織
  1 組織編成で初動体制を円滑かつ完璧に行うため通報、消火、避難の任務が明確に指定されているかをチェックする。隊員要員が多数いるところでは、役職名をもって指定してもよいことを説明する。
  2 消防計画書の任務をもとに、スーパーマーケット、飲食店、物品販売店舗等従業員が多いところでは、実名で編成表を作成し、目に付きやすいところに掲示し、朝礼等の機会をとらえて、自分の任務をお互いに確認しあうことも方法の一つだと助言している。
  3 法令では、初動時の対応として通報、消火、避難がより強く示されているが自衛消防隊の任務としては、応急救護(傷病者の安全確保と応急措置、救急隊との連絡)と安全防護(防火戸、防火シャッターの閉鎖、電気、ガスの安全)も編成に組み入れる必要があることを説明する。

○消防計画
火災予防上の自主検査
 1 消防計画の内容に基づいて実施されているかを確認する。
 2 事業所等では、独自の点検票により実施しているところがあるが、消防計画との整合性が図られているかを確認する。
 3 警備業者、ビル管理会社等が実施しているところもあるが消防計画書の点検内容と整合性が図られているかを確認する。

○消防用設備等又は特殊消防用設備等の点検及び整備
 1 法定点検を実施しているか、又は実施していれば指摘された項目があるかを確認し、更に改修状況を確認する。
 2 テナントの中には、独自の消火器を設置しているものも見受けられるが、法定点検を実施しているかを確認する。
 3 小規模な室内の間仕切り変更などで、消防用設備等が未警戒になるところがあるか否かを、目視により確認する。

○避難施設の維持管理及びその案内
 1 消防計画の自主検査チェック表に検査項目として明記されているかを確認し、現場チェックをする。
 2 竪穴区画、エスカレーター区画、防火シャッターライン、通路の避難障害、非常用進入口、避難器具の設置状況等を目視で確認する。
 3 百貨店、地下街等においては、避難通路等に避難上の障害物が放置されていないかを目視で確認する。
 4 旅館、ホテル、宿泊所等においては、見やすい箇所に屋外に通じる避難経路図が掲出されているかを目視で確認する。

○構造の維持管理
 1 建物の増築又は改築が行われていないかを確認する。
 2 階段下に物品等を置いていないか、あるいは区画し別用途での使用はないかを確認する。
 3 防火戸、防火シャッター付近に閉鎖障害となる物品が置かれていないか確認する。

○収容人員の適正化
 1 劇場、公会堂、競技場等においては、定員管理を適正に行っているかを確認する。
 2 定員表示板が掲出されているか、火気使用の禁止を規制する禁止行為の表示があるかを確認する。
 3 火災等有事の際、階段、避難ロは滞留するおそれがあることから、一挙に避難できる人数に限度があり、効率的な避難誘導が必要であることも助言する。

○防火上必要な教育
 1 消火、通報、避難訓練の回数、内容及び防火教育が適正に実施されているかを確認する。
 2 春、秋の火災予防週間や防災の日などをとらえ、防災教育を実施することを助言する。

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