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共通テーマ (COMMON THEMES )

本報告書では、共同住宅の問題を5つに区分して分析し、法の改定を通じて解決する方法を提案しています。

この「共通テーマ」では、5つの区分の詳細な分析に入る前に、それらに共通するテーマを横断的にとりあげています。

共通テーマ  目次

  ○ 共同社会の育成
  ○ 情報の入手を容易に
  ○ 透明性と説明責任
  ○ 理事会と区分所有者間の不公平な権限の格差   ○ 管理規約の役割   ○ 共同体との契約
  ○ オンラインツールの使用   ○ 7つの基本的な価値感
【各分野の最重要推奨案】   ○ 共同住宅庁   ○ 消費者保護    ○  財務管理   ○ 紛争解決
                   ○  ガバナンス  ○  共同住宅の管理

共通テーマ  (COMMON THEMES)

本報告で取り上げている5つの主要な分野には幾つかの共通テーマがあることは、法制
改革第U期の始めに明らかになりました。これらのテーマは、全てとはいえないまでも、
その多くはそれぞれ異なるテーマの審議を通して持ち上がったものです。

このようにして各作業部会の権限を横断して切り取られた共通テーマを下記に示します。


 ○ 消費者保護作業部会は、将来の共同住宅購入予定者向けに、共同住宅の所有権と義務、
    及び共同住宅での暮らし方についての広報誌「共同住宅ガイド」を作ることを提案しました。

 ○ 財務管理作業部会は、管理組合の財務管理についての学習支援のためのオンラインコース
    を立ち上げる事を提案しました。

 ○ ガバナンス作業部会は共同社会における区分所有者、管理者のそれぞれの役割についての
    権利と義務を理解するための「権利義務憲章」を提案しました。 

これらの3つの推奨案はそれぞれ異なるテーマからもたらされたものです。
しかしながら、すべてが「共同社会の育成」という共通のテーマの原因となるものです。

共同社会の育成 (EDUCATION)

私達は、「共同住宅の管理組合は自主統治の共同体である(condo corporations are self-governing communities)」 という見方を持っています。この言い回しは二つの基本的な考えにつながっています。

「管理組合(the corporation)はひとつの共同体(a community)である」ということは、必然的に、その構成員は、 共同の利益を共有し、その利益を促進するためにお互いが協力して達成していくという構成員同士の関係性が 共同体には欠く事のできない必須のものです。つまり、お互いが他者を必要としているということです。

「管理組合は、暗に自主統治を意味する(community is self-governing implies)」という事は、「選ばれたリーダー に権限を与え、管理規則を自分達で作る」ということです。このことはつまり、暗に、共同体の全構成員に対し、 確実な権利と義務を遂行する責任を与えるという意味を含んでいます。

共同住宅法の見直し過程の中で、挑戦すべき中心的課題としたのは、区分所有者が自主統治の共同体の 一構成員として、自分達の共同体を良くしていくために、その責任を受け入れ、自らの住戸を管理していくこと を、励まし元気付けるということでした。

このことは同様に、第T期の問題摘出報告書に、なぜ、そのような強い共同社会の育成を強調しているのか の説明があります。居住者委員会はその点を下記のように明確にしました。

共同体の構成員と利害関係者(居住者、理事会理事、弁護士、不動産仲介業者、管理者を含む)が為すべき ことは、積極的に首尾一貫した知識を学ぶこと、自らに期待された役割を効果的に遂行するための知識技能 を発展させること、そして、共同住宅での暮らしとその質を高め、それを守るために、積極的かつ深い知識に 基づいた共同社会の構成員であるべきです。

この明確なメッセージが示しているのは、もしも法が改定を必要としているなら、共同社会の育成はその制度 改革の中心的課題であるということです。 同様に、共同社会の育成には、始めに全構成員を含めてその中で学ぶ機会を作ることが望まれます。

たとえば、新任理事のための強制的な短い受講コースと、更に拡張した管理者コースと区分所有者のための 情報パンフレットなどです。

情報の入手を容易に  (ACCESSIBLE INFORMATION)

共同社会の構築に向けての作業で重要な段階では、よりよき情報の入手のしやすさが関係してきます。 建物や、進行中のプロジェクトに関係する信頼できる情報を全メンバーが容易に、タイムリーに入手できることが必要です。

例えば、集会に参加して十分に建設的な意見を提案しようとした区分所有者にとって必要なのは、 修繕工事の費用や修繕積立金の現在の状態の最新の情報です。複合用途(商業用と居住用の複合共同住宅)の 購入予定者の多くは、その用途別の費用負担について知りたがっています。

そのような情報は、最新の情報を、すぐに、容易に入手可能でなければなりませんが、現在はそうはなっていません。

透明性と説明責任 (TRANSPARENCY AND ACCOUNTABILITY)

第T期の問題摘出報告書で示されたのは、多くの区分所有者が理事会と建物管理者から置き去りにされていると感じていることでした。 彼らはどのような理由で決定し、どうやって実行しようとしているのかの情報が余りにも少ないと言います。

そして、管理組合の運営について、もっと透明性を高めて説明責任を果たしてほしい、最低でも、 現在についての情報は透明性と説明責任の質を上げて欲しいと願っています。

しかし、彼らはまた、論争を招くような理事会の決定の後で、その理論的な根拠について、いろいろな角度から論じる、 より広い機会を要求しています。理事会に対して説明のための報告を求める集会を召集する有効な手段も必要かもしれません。

この報告書で出された情報の入手に関する多くの推奨案は、透明性と説明責任を高めるための集会の新しい規則の提案です。

理事会と区分所有者間の不公平な権限の格差
  (THE POWER IMBALANCE BETWEEN BOARDS AND OWNERS):

共同住宅法は、ある意味では行政法です。
法令順守(compliance)は政府による治安の維持と同じではなく(not policed by the government same way as)、 いってみれば、あなたが支払う税金のようなものです。

共同住宅に関係する紛争の基本的な解決手段としては、調停(mediation:裁定には強制力がない)、 仲裁(arbitration:裁定には従う強制力がある)、または裁判(courts)があります。 しかし、これらの手段は通常、長期間を要し、準備費用もかかります。

これらの現実は、区分所有者にとっては理事会の不当な扱いに対してひどく挫折感を抱かせることになります。 弁護士に相談する余裕もない区分所有者に対し、理事会は顧問契約をしている弁護士に相談できるし、 事件を早く解決する理由に迫られることもありません。加えて、理事会は区分所有者からの重要な文書や情報の提出要求を妨害することもできます。

その結果、理事会を訴えようとする区分所有者は深刻な不利益を蒙ることになり、 一方的な戦いの場になります。何人かの関係者(主として区分所有者)は、既存の法律の不公平な格差を大きな欠陥として見ています。

区分所有者が理事会の不当な扱いに納得せず、または信頼できないと感じたとき、その問題を解決する、 或いは、理事会の主導者に掛け合うのは容易ではありません。ある関係者は「法には効力がない」と言います。

区分所有者はこの権限の不公平の解消を望んでいます。彼らは迅速かつ効果的な、そして公正・公平な紛争処理を望んでいます。 全体的に見て、この報告書では、不公平な格差の是正を目指す、特に新しい紛争処理手段を提案しています。

管理規約の役割  (THE ROLE OF CONDO BY-LAWS)

作業部会は、かって特別な問題を発見していました。それらはたびたび第2の質問を提起していました。

その質問とは、その解決は共同住宅法に定められた規定に基づく解決法か、或いは、 単純に最良の結果となるよう自分達で決めることができるようにするための奨励策かというものです。

この報告書の中で提案された多くの意義ある推奨案では、管理規約の改訂を通じて最良の解決手段とすることが可能というものでした。

しかしながら、法が存在している中で、管理規約を改訂するのは、しばしば困難でした。 この意味は、実際問題として、ひどく困っている時の変更は、決して最良の手段を与えることにはならないということです。

ここには深い緊張があります。管理組合コミュニティ自身の責任で判断するか、それとも、一律の判断基準を法に求めるなら、 それゆえに、個別の共同体の自治権を侵すことになる。

専門部会は管理規約改訂決議を通すための決議要件を引き下げることを推奨するが、しかし、 適切な決まったやり方についてもさらに研究が必要としました。

共同体との契約  (ENGAGEMENT WITH THE COMMUNITY)

もしも共同住宅の共同体が政府の第4番目の機関(訳注:連邦政府−州政府ー地方自治体ー共同住宅管理組合)に属するとしたら、 彼らは他の3つの機関と共通の不調 ―それは公共社会に対する無関心(public apathy)― をも分担するように見えます。

連邦政府、州及び地方政府において、過去20年は、パブリックインボルブメント=「住民参画」は落ち込んでいました。 (訳注:Public involvement:詳しくは、管理組合総会・目次― 「6.合意形成プロセスの変遷」 参照)

ひとつの理由は、政府決定や施策に対して市民がそれらが現実に対応できていないと感じていたからです。 その結果、多くが撤退することになりました。政府部門が協力して、もっと開かれた、透明性をもって、 すぐに反応して説明責任を果たすこと、そして、もっと意味のある決定をして社会と結びつく道を見出すことが、 社会の無関心に対する政府の正当な対応といえます。

ほとんど同じことが共同住宅の管理組合にも当てはまります。もしも、区分所有者が義務を放棄して、 重要な集会の、或いは理事会選挙の参加者が議決に必要十分な数が集まらなかったら、 組合員意識を高めるための挑戦は確実に必須のものとなります。

これは現状の個別化した領域をすべて横断する行動を(ー可能な限りもっとー)求めています。

報告書で提案した多くの制度改革案は区分所有者の間にもっと意味のある参加意識を創ることを狙いとしています。 但し、それは徹底的なものではありません。何事も討論一回で仕事を成就させることはできません。

第U期の終わりにあたって作業部会と専門部会は、幾つかの主要な問題を現実に意義あるものとすることができ、期待以上の成果をあげました。

オンラインツールの使用  (USE OF ONLINE TOOLS)

オンラインツールの使用を促進することは、すべての共通テーマの中で、共同社会の育成、情報を入
手しやすくすること、透明性と説明責任、そして共同体の社会契約で、横断的に取り上げられました。

7つの基本的な価値感  (SEVEN BASIC VALUES)

  カナダの共同住宅法制改革プロジェクトの第T期において、居住者委員会は、
  成功する共同住宅コミュニティを作り上げるための7つの必須の価値感を示しました。

 (1) 全体の福祉を目指すこと(Well-being)
 (2) 公正・公平を旨とすること(Fairness)
 (3) 専門的な詳しい情報を構成員と利害関係者に告知すること(Informed community
    members and stakeholders)
 (4) 責任をもって応えること(Responsiveness)
 (5) 共同体の強い絆の育成と維持(Strong communities)
 (6) 財政的継続性があること(Financial sustainability)
 (7) 効果的で有効なコミュニケーションが取れていること(Effective communication)

共同住宅法改定のための委員会はこれらの価値観を基本としました。
この報告書の共通テーマはこの価値観で貫かれています。

問題提起された「理事会と区分所有者間の不公平な権限の格差」は公正・公平と応答性が
基本になっており、同様に、「情報」は関係者間に良好な情報が広報として提供されていて、
各共同住宅の共同社会における効果的なコミュニケーションが存在することを保証する情報
のあり方を価値感の基本としています。

問題の分析と推奨案は、これらの価値観と共通テーマで貫かれています。私達はあなたが
この報告書の残りを読むとき、このことを心に留めておいていただける事を願っています。

各分野の最重要推奨案  (SUMMARY OF RECOMMENDATIONS)

下記は5つの作業部会と専門部会が纏めた推奨案の各分野の最重要点を示しています。

 共同住宅庁(CONDO OFFICE:)

消費者省の傘下に共同住宅庁を設けて、四つの分野「共同社会の育成と共同管理意識の醸成涵養」
「紛争処理」「職業管理者に免許制度を設けて管理」「管理組合の登録と更新管理」を担当するべき
ことを提案しました。

共同住宅庁は政府が関与するが、政府から権限を委任されるものとします。
組織運営に関する費用はユーザーである地域内の各区分所有者から月額1ドルから3ドルの範囲で
徴収するものとします。

 消費者保護(CONSUMER PROTECTION:)

 ○ 賢い情報開示:作業部会は、共同住宅を売買するときに関係する問題点に気づいてもらうための
    ポイントを示した文書の発行を提案しました。
 ○ 共同住宅の生活の注意点をまとめた読みやすい「共同住宅ガイド」の発行を提案しました。
 ○ 共同住宅の購入者と所有者に共同住宅の財産権利関係と管理組合についての重要な情報を
    掲載した標準の規準書の発行を提案しました。
 ○ 分譲業者に対して、共用部に属するものの売却、若しくは賃貸の対象とすることの禁止
    分譲業者は共同住宅の共用部に属するもの、たとえば、レクリエーションルーム、管理事務所、
    ゲストルーム等を売買または賃貸の対象資産とすることはできない。これらは、しばしば
    初年度以降の共益費の金額をふくらませるために実行されてきました。
    管理組合の利益を目的として、明確に公表されているエネルギー効率化装置の設置などは、
    禁止対象の例外とすることができるものとします。

 ○ オンラインによる情報提供
   分譲業者は分譲計画のウエブサイトを開設し、開発計画届出書及び関連する文書を掲載しなけ
   ればならない。このウエブサイトは管理組合のウエブサイトに変換することができるものとします。

財務管理  (FINANCIAL MANAGEMENT)

 ○ 二つの予算書:
   理事会は、管理費会計と修繕積立金会計の二つの予算書をコンパイルしなければならない。
   (訳注 compile: 「管理組合会計ー4.2 管理組合監査ー8 監査は信用をコンパイルする」参照 )

   修繕積立金会計の財務諸表は、更に正確に定義した修繕積立金定型書式を基礎として作成しな
   ければならない。この定型書の規準から外れている部分については修繕積立金会計予算書に注
   記を記載しなければならない。

 ○ 特別徴収費の通知:
   理事会は、管理費会計または修繕積立金会計の重要な予算外の支出については区分所有者に
   告知しなければならない。

 ○ コミュニケーションの改善:
   管理組合の財務状態に関する情報公開とコミュニケーションはより強大でなければならない。

 ○ 区分所有者の啓蒙:
   区分所有者の管理組合財務に関する知識はオンラインによる財務諸表の見方の講座によって
   増強されなければならない。

 修繕積立金の特別な適用:
   下記の用途の修繕積立金の取り崩しは柔軟な対応ができるものとする。
    (1) 法定の修繕または改良工事。車いすのための工事など
    (2) グリーンエネルギーまたはエネルギー効率化の改良工事

 ○ 告知なき予算超過に対する限度額:
   管理費の月額予算の1%(または1,000ドル)、または、年間予算の3%(または30,000ドル)を
   超える支出に関しては、区分所有者への告知を必要とする。

 ○ 修繕と保守に対する明確な対応:
   たとえば、バルコニーなど本来は共用部であるが、区分所有者の専用使用が認められている
   エリアなど、一定のエリアで維持責任者が不確定となっている事を減らすため、維持責任の
   所在を法に明確に規定しなければならない。

紛争解決  (DISPUTE RESOLUTION)

新しい紛争解決機構(A New Dispute Resolution Mechanism):

新しい共同住宅庁に幾つかの紛争解決部署を設けることとします。

 ○情報提供部署:共同住宅庁は、区分所有者、理事、管理者のために、共同住宅法の解説と、
   共同住宅に関する問題に対して迅速に、確かな、偏見のない、信頼される、安価な(又は無料の)
   情報を提供する部署

 ○迅速に解決する部署:共同住宅庁は、紛争当事者間の意見の不一致について法に基づく裁定
   権限を与えられた部局を創設し、区分所有者の議決権、請求権、代理権、支払った費用の返還
   請求、及び記録や文書などをめぐる紛争に対し迅速に決定を下します。

 ○紛争解決手段:共同住宅庁はまた、更に複雑な係争事件に対しては、次の段階で法廷に準じた
   手段により解決していくものとします。紛争解決庁は、権威ある法曹資格者のもとで、迅速、中立、
   費用のかからない方法で、法に則り、事件の裁定を下すものとします。
   (紛争解決庁における迅速な裁定の進行は、同一人による訴えの場合に適用されるものとします。)

ガバナンス  (GOVERNANCE)

 ○ 記録保管の改善(Improved Record Retention):
   短期間で管理組合の記録保存を確立しなければならない。
   また管理組合の記録は容易に入手できるよう確実に保存されなければならない。

 ○ 新しい集会規則(New Meeting Rules):
   代理人申請は明確に規定されなければならない。また、集会召集通知に関する規則は見直され
   なければならない。

 ○ 新しい定足数の規則(New Quorum Threshold):
   集会の定足数は、下記によるものとする。
   2回目までの集会の定足数は総議決権数の25%を下限とする。この下限に達しないときは、
   この下限を超える3回目の召集を行うことを法の規定とする。

理事の資格を引き揚げる
    (1) 初めての理事に対し法定トレーニング受講を義務付ける。
    (2) 理事になれるのは1住戸1名に限る。
    (3) 理事選任条件として刑事事件の前歴調査を規約に規定することを妨げない、
    (4) 個人と管理組合間の訴訟事件の進行状況を公開するものとする。

倫理コード、権利憲章、責務規定
    理事会理事に対して倫理コードの遵守を誓約させること、及び、権利憲章と責務規定に関しては、
    区分所有者と理事双方に誓約させること。

共同住宅の管理  (CONDOMINIUM MANAGEMENT )

管理者資格:
 ○ 地域をまたがる管理組合の管理者には資格審査と資産管理経験の2段階の免許制度を設け
   なければならない。第一段階では専門資格の基礎となる基本的な能力審査、第2段階では
   実務における先進的な知識と経験と処理能力の審査です。
 ○ 共同住宅管理者の国際資格認証機関となるであろう政府機関としての新しい免許管理局は、
   共同住宅庁の下部機関となります。

(2021年8月28日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 28 August 2021/ Revised Publication -time to time)