分析項目と推奨案 : 1.消費者保護
(DETAILED ANALYSIS AND RECOMMENDATIONS : 1.CONSUMER PROTECTION)
1.消費者保護 (CONSUMER PROTECTION)
共同住宅の購入は人を怖がらせることがあります。契約書は冗長で、ときどき高度な技術用語
がでてきて、素人には分かりづらい法律用語の羅列です。
第T期の報告書で指摘されたのは、購入者が契約文書を理解することは暗号解読に匹敵する
くらい困難だということでした。
契約文書の用語と購入条件を確実に理解しようと思うなら弁護士を雇うしかないと思わせられ
ます。それをすると高額の費用がかかります。多分、殆どの購入者が、そのことに手数をかける
ことなく誤解されやすい社会的弱者の立場に置き去りにされたままになっています。
消費者保護の作業部会では、購入を予定している人がより良き判断ができる方法を探ってきました。
そのうえで、問題を、次の6つの主要なテーマに区分しました。
(1) 役に立つ情報の提供
(1.1) 購入者に注意すべき要点を伝えること
(1.2) 文書をオンラインで提供する
(1.3) 不動産開発宣言書の標準化
(1.4) 「重要な変更」の明確化
(1.5) 現況証明書の改善
(2) 共用部を取引対象に含ませることを禁止(環境グリーン設備は除外)
(3) 繰り延べ費用
(4) 不平等な割り勘
(5) 修繕積立金の最低ラインの設定(財務管理作業部会による勧告推奨案として)
(6) 騒音(専門部会による追加事項)
(1) 役に立つ情報の提供 (SMARTER DISCLOSURE )
(1.1) 消費者教育:購入者に注意すべき要点を伝えること (EDUCATE BUYERS):
購入者が購入しようとしている物件の重要な状態を、確実に理解するための、もっとわかりやすい
情報を提供する、ということではありません。作業部会が注目したのは、購入予定者が求めている
多量の文書はすでに購入予定者の手元に提供されているということです。
現実の問題は、油断できない、もっと注意をはらうべき点をどうやって見つけるか、そしてそれを見つ
けるために支援できることは何かということです。
作業部会メンバーは彼らの豊かな経験に基づいた、きわめて重要な評価項目リストの草案を作成しました。
リスト作成グループでは、消費者が購入の契約前に、難しい契約のトラブルに会うことなく確実な意思
決定ができるよう、多くの推奨案を作成しました。
このグループでは、情報を二つの基本区分にわけています。
一般的事項: 共同住宅の住戸を購入するときの一般的な注意点、及び、
住戸所有者の権利と義務と管理組合について。 そして、
特別事項 : 住戸と管理組合に関する特別な注意点
このグループが作成したリストはこれらの二つの区分ごとの分冊となっています。
推奨案: 消費者省に読み易い「共同住宅ガイドブック」を作成発行することを提案します。
そこには、共同住宅での生活に関する注意点、例えば、区分所有者の権利と義務、及び建物設備
共用部の保守と維持について、管理組合が管理していくことについての精選された内容
を含みます。
このガイドブックは、販売事業者が販売説明時に購入予定者の求めに応じて配布することになります。
共同住宅の住戸販売時は、購入者がこのガイドブックを読む前の契約について、このガイドブックを
手渡してから、10日間のクーリングオフ期間を設けることといたします。
専門部会はこのガイドブック、及び消費者保護の重要なポイントを網羅したリストの趣旨に賛同しました。
このガイドブックは平易な言葉で書かれており、価値あるものとして評価されることになるでしょう。
(1.2) 文書をオンラインで提供する (POST DOCUMENTS ONLINE)
オンライン手段で情報提供をする事は、消費者の啓蒙、情報の入手、透明性と説明責任を果たすうえで、
自然の流れです。
推奨案: 分譲業者は分譲計画のウエブサイトを開設し、開発計画届出書及び関連する文書を掲載
しなければならない。このウエブサイトは管理組合のウエブサイトに変換することができるものとする。
(1.3) 不動産開発宣言書の標準化 (STANDARDIZE THE DECLARATION):
不動産開発宣言書(THE DECLARATION)とは、共同住宅の全住戸(個別の住戸よりもむしろ全体の)、
管理組合、資産管理上の主要な規則、区分所有者と居住者についての生の情報を含む文書のことです。
この不動産開発宣言書は、広い範囲の、さまざまに異なる開発計画のもとで、区分所有者にそれぞれ異なる
義務を課しており、文書様式も標準化されていません。例えば、区分所有者にとって修繕やメンテナンスに
関係する住戸の境界の定義もそれぞれ異なっています。その結果、重要な情報を見つけるのに苦労し、誤りも発生します。
推奨案: 消費者省は、区分所有者にとって修繕やメンテナンスに関係する住戸の境界の基本となる定義を作成
すべきです。事業者は、それに幾つかの特有の条件を追加して所有者の責任範囲と責務を明記することは構いません。
このような宣言書の標準化は空き地管理組合の共用部分や工業用、または商業用の共同住宅管理組合には適用
しないものとします。
(1.4) 「重要な変更」の明確化 (CLARIFY “MATERIAL CHANGE”):
開発宣言文書(disclosure statement)の中には、管理組合の初年度の予算書、既存の開発届出申請書の写し、
管理規約や使用細則が含まれています。
これらの文書に記載された内容に対する「重要な変更」は、購入者が契約をキャンセルできる合理的な理由となっています。
推奨案: 改正法においては、「重要な変更」の定義の範囲を下記のように拡大すべきです。
区分所有者が支払う共益費の10%以下の変更は「重要な変更」を構成しないものとする。
しかしながら、作業部会ではまた、この規則の除外を下記のように提案しています。
推奨案: 共同住宅開発計画時における、課税、徴収費の見積予想額に対する新たな追加、または変更
については「重要な変更」から除外するものとし、最終的には購入者の負担になります。
この案に対して専門部会が、インフレーション要素は10%から除外するべきとして
推奨案: 公開される初年度予算書の計上額は上限として考えるべきですが、現実にはインフレーション
があり、このインフレーション要素は上記の10%を限度とする「重要な変更」の定義からは除外すべきです。
(1.5) 現況証明書の改善 (IMPROVE STATUS CERTIFICATES ):
現況証明書は共同住宅の住戸を再売却する際の財務と管理組合に関する重要な情報です。この中には、例えば、
月額の支払共益費の値上げが予定されているか、住戸に先取特権が設定されているかなどです。第T期報告書では、
この現況証明書に特別に記載すべき情報について、徴収費見直し改訂と合わせて提案がありました。
推奨案: 証明書は、住戸の改修検査(他の定期検査を除いて)が済んでいない場合の管理組合からうける
警告、未解決の訴訟係争継続中の保険求償範囲、ペット飼育に関する管理組合規約規定など、新分野の情報を
含めるべきです。
推奨案: 現況証明には、期初の公開情報の写しだけではなく、最新の積立金の要約も含むべきです。
推奨案: 現況証明書の発行費用には、法が改定された以後の最新のインフレーションを考慮して、消費税(HST)
込みで100ドルから125ドルとすべきです。(HSTについては、「訳注 ※1」 参照)
専門部会が追加した案
推奨案: 現況証明書の有効期間を設けるべきです。従来はこの期間は10年を超えないものとされてきました。
(2) 共有部を取引対象に含める事を禁止
(PROHIBIT SELLING OR LEASING ASSETS THAT COULD BE COMMON ELEMENTS )
多くの取引事例の中で、アメニティ設備、例えばゲストルーム、エクササイズルーム、イベントルームなど
共用部の一部であるにもかかわらず、最近の幾つかの業者の間では、これらのアメニティ設備を分割して
売買や賃貸の取引対象に含める例が見られます。
文書の中で廊下やロビーと同じように、完全に共用部として公開されているにもかかわらず、購入者の
中には、そのようなアメニティ設備もまた、購入金額に含まれているのだと思い込む例もみられます。
その結果、購入者は、新しいアメニティ設備の抵当権や賃借料が共益費に加算されて値上げされる
ことに驚かされることになります。
作業部会では、そのような共同社会の信頼に水を差すような不要の緊張を生む取引事例を見てきました。
推奨案: 改正法で業者が、管理組合資産である下記の共用部を取引対象に含めることを禁止しなければならない。
○ レクリエーション設備
○ ゲストルーム、管理者室、管理事務室、レクリエーション監督室
○ ロビー、階段、サービスルーム、ロッカールーム
○ 暖房、冷房、配管、排水、機械設備、通風設備、電気ガス等のサービス設備その他毎日使用する共同住宅の共用設備
作業部会の幾人かのメンバーは、業者が共有部の資産を売買や賃貸の取引対象にする事を許可することを
強く望むとする自分の意見を述べました。それは、公開されている管理組合の初年度の費用と負担すべきコスト
を提供してくれるからというものでした。しかしながら、作業部会は、これらの規則を太陽熱暖房システムなどの
エネルギー効率化に限って区分所有者の利益となることで奨励すべきことであるとして除外することとしました。
推奨案: 禁止の除外規定は、居住者の利益に寄与するグリーンエネルギーとして特別に提案される
エネルギー効率化のための装置について、下記の条件のもとで適用されるべきものとします。
○ 除外される装置は、オンタリオ建築基準法とグリーンエネルギー法2009年法に適合するものとする。
○ 売買及び賃貸契約時に課されるグリーンエネルギー装置の費用は管理組合に対する支払であり、かつ、
管理組合初年度に課される費用であることを、全面的に開示されなければならない。
○ グリーンエネルギー装置設置費用に対するローンの年間支払額は、第三者が査定した同年のエネルギー削減
費用以下に制限されなければならない。
多くの事例において、このようなローンはおよそ10年とされていますが、しかしながら、 この要求はもっと分析と熟慮すべきであろうと考えます。 財務管理作業部会は、このグリーンエネルギーオプションについて、 積立金の使用用途に関係するこのような装置と同様の財務的性格をもつものについても詳細に討議しました。
(3) 繰り延べ費用 (DEFERRED COSTS):
作業部会では、「繰り延べ費用」として知られている慣行は中止されるべきであると感じていました。
例えば、新築共同住宅におけるエレベータの購入価格を初年度の保守費に含めて回収する方法です。
その結果、管理組合の初年度の予算書にはエレベータの保守費は繰り延べされて2年目から計上が
開始されます。このため、支払経費と区分所有者が払う月額管理費を押し上げます。
そのような費用は販売文書で公表されているとはいえ、消費者は値上げに驚かされます。作業部会
では満場一致で、このような慣行は消費者に不要な緊張を強いるものであり、禁止しなければ
ならないとの結論を出しました。
推奨案: 分譲業者は、繰り延べされる近い将来の管理運営保守費用は初年度から
通常の管理費に含めて加算することとし、費用の繰り延べは禁止されるべきである。
初年度予算から除外されている同様の事例についても同様とする。
(4) 不平等な割り勘 (SUBSIDIZATION):
共同住宅の区分所有者は、ときどき、共用部の水道やガスといった公共料金や共用部の費用について、
自分が他の居住者や商業用スぺースの賃借人の分まで、余計に割高で支払っていることに気づくこと
があります。
問題は複合用途(例えば、商業用、居住用の両方の住戸が存在している)の事例に表れます。
開発業者が水道、電気、ガスのメータを共同住宅の建物一括のワンメータで一括支払している
場合では、商業用、居住用に関係なく、割り勘で支払わされるのは不公平です。
コーヒーショップのような商業企業は戸別の住居よりも多量の水と電力を使います。
しかし、事前に決定されている割当ては後々になって不均衡な費用の負担となることがあります。
第T期報告書ではこの問題に触れて、不平等な割り勘の慣行は見直されるべきだとする見解を
発表していました。作業部会のメンバーの幾人かは、同一建物内のワンメータ制における公共
料金を使用量に応じた戸別課金とする事の難しさについて考慮すべきという意見もありました。
推奨案: 同一共同建物内にひとつ以上の商業用或いは民泊、または在宅勤務の
住戸がある場合は、それらの住戸の電気・ガス・水道等の料金は、それらの専用のメータと
しなければならない。
推奨案: プールやパーティルームなどの共用施設を、管理組合の外部関係者または
団体に利用させる場合、組合員における共用施設の利用協定における費用の負担についての
条件は明確かつ具体的に実態に応じて規定されなければならない。
利用者別のメータや補助メータを設置するなど、物理的、実用的に可能な方法としなければならない。
技術者や建築士は、同建物を登記する際には同時に、これらの個別のメータが設置されていることを証明
しなければならない。
作業部会の幾人かのメンバーは費用を分担することについての一般的、普遍的な協定書の作成は
困難であることの懸念を表明しました。そもそも、正確な戸別の消費量がわからない状態で割当を
決定する事自体が共有設備の共用使用の概念から外れているからです。
(5) 修繕積立金の最低ラインの設定
(MINIMUM CONTRIBUTION TO RESERVE FUND):
修繕積立金の最低ラインに関する議論は財務管理作業部会の限界に陥ってしまいました。それでもなお、
専門部会の委員は、この問題は消費者保護の観点から重要であり、この章に含むべきであると感じました。
財務管理作業部会では、修繕積立金の最低ラインの設定は開発分譲会社によって初年度会計予算において
非現実的な低い額に抑えられていました。
推奨案: 修繕積立金の年度ごとの予算は下記の額を上回るものとしなければならない。
) 開発分譲業者が請け負って行った調査結果に基づいた修繕積立金の総計、或いは
) 既存の共同建物で一般的な公式の基準額の総計、但し、建設費を基準にすることが望ましい。
この推奨案に対して、開発分譲業者は、独立した第三者の技術者、または、公認コンサルタントに修繕
積立金の調査研究を委任するべきであるとの意見がありました。調査研究は開発分譲業者の計画に
用いた建築図面や仕様書など、根拠の確実な資料をベースに行うべきです。
修繕と更新の費用の見積は、管理組合の初年度の運用経過後に見積を行うことになります。
修繕積立金の総額は初年度予算書に輪郭が示されます。予算書は、公開文書に含まれるべきです。
開発分譲業者は、共同住宅資産(開発分譲業者の支払った費用)の登記に先立って行った修繕
積立金の設定見積額に対して最初の入居が完了した時点で更新することになるでしょう。
もしも、技術者やコンサルタントが総額を値上げすべき理由を見つけた場合は、初年度の共益費は
それに応じて値上げすることになるでしょう。
開発分譲業者が慎重に行動した結果に基づいて行うこの値上げは重大な変更にはあたりません。
そして瑕疵でもありません。
(6) 騒音 (NOISE):
多くの共同住宅の所有者は隣人の機器から繰り返される騒音の深刻な被害を受けています。
硬いフローリンク上の足音による騒音被害の程度は騒がしい音響機器並みです。
不当な扱いに苦しめられている区分所有者は彼らの隣人に音を下げてと頼みますが、
彼らは多くの場合、無視されます。
同様に、管理者や理事会の理事の説得の努力は実を結ばないことの証明かも知れません。
専門部会の委員の一人は区分所有者の尊重されるべき静穏に暮らす権利としての静穏の程度は
明確に規定することができるものかと質問しました。
他の委員は、この状況において所有者に同情的ですが、しかし、また、解決が難しい問題であることにも
注目しています。
建築基準法(the Building Code)に違反した建築物の設計上の問題に起因する騒音問題については、
共同住宅法の改定を審議する本会議の目的範囲とはかけ離れています。
消費者省は住宅自治省(the Ministry of Municipal Affairs and Housing)と一緒に建築基準法の
見直しを進めることができます。他の専門部会の委員は、法は所有者が自宅で静穏に暮らせる権利を
守る事ができないのかとたずねました。
しかしながら、数人の他の委員は、そのようなことを強制するのは非常に困難なことであるといいました。
多くの古い共同住宅は、防音対策が要求されていなかった時代に建てられたものです。
このような建物の防音対策は困難です。
他の部会の委員は、多くの管理組合にはすでに、過度の騒音に対して強制力をもつ規則があると
報告してきました。それでも、専門部会は、騒音対策に対する特別の行動を取ることに同意しました。
推奨案: 居住者が静かな環境で静穏に住む権利を正当な権利として認めるための法の改正と、
そのための強制力のある合理的な対策をとることを管理組合の責任とすることを提案する。
管理組合の理事会がやかましい居住者や音響機器からの騒音に強力な手段がとれるよう、
更に自分達の管理規約で騒音被害抑止を強化する権限を理事会に与えることについての、
専門部会の上記の提案は信任されました。
管理規約に強制力を持たせ、効果的なガバナンス体制がとれるような臨時法案も重要な手段です。
訳注 ※1
カナダのHST税を本文では消費税と書きましたが、正確には「統一売上税」 (HST:Harmonized Sales Tax)のことで、
連邦政府の物品サービス税 (federal government’s Goods and Services Tax (GST)) と州売上税 (Provincial Sales Tax (PST);) を組み合わせたものです。
詳細は [ 課税(Taxation)] 参照
(2021年8月28日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 28 August 2021/ Revised Publication -time to time)