分析項目と推奨案 : 2.財務管理
(DETAILED ANALYSIS AND RECOMMENDATIONS : 2. FINANCIAL MANAGEMENT)
(4) 修繕積立金の投資運用
|
2.財務管理 目次
(1) 対話と教育・広報
(2) 修繕積立金
(2.1) 修繕積立金を見直すきっかけを作る
(2.2) 標準積立額の検討
(2.3) 毎年の上げ率を最低10%とする
(2.4) 正当な環境下での柔軟性の提供
(3) 管理費会計予算
(3.1) 「通知なし」に変更するための判断基準
(3.2) 重大な変更に関する手続きの変更
(3.3) 修繕と保守の定義
(3.4) 「標準住戸」の定義を整備する
(3.5) 毀損行為に対する過失責任
(3.6) 先取り特権の公正な行使
(3.7) 特別賦課金
(3.8) 剰余金の運用を制限なしに許すこと
財務管理の概要
区分所有者は共用部の利益を分け合っているので、それらの設備の保守と修繕の費用もまた分担することになります。 管理組合の健全な財務管理はこのような資産価値の危機に対する全員の保護意識に基づいて成り立っています。しかしながら、それはまた、衝突の原因にもなります。
今回の法制改革プロジェクト第T期の見直し作業のとき、一人の専門家が思い切って言ったことは、
共同住宅コミュニティにおける衝突の半分は、財務問題に関する意見の不一致から始まっているということでした。
財務管理が共同住宅コミュニティの福祉に高い優先順位が与えたときは全員が賛成します。
財務管理の作業部会に与えられた任務は、透明で、説明責任を果たせる、
公正かつ効果的な管理組合の財政管理を作り上げるための方法を見出すことでした。
作業部会では検討課題を5つの区分に分けました。
(1) 対話と教育・広報
(2) 修繕積立金
(3) 管理費予算
(4) 修繕積立金の投資
(5) 詐欺
(1) 対話と教育・広報 (COMMUNICATION AND EDUCATION)
財務に関する区分所有者の教育と広報 (EDUCATE AND INFORM OWNERS ON FINANCE):
第T期の問題摘出報告書で提案された新入居者のためのウエルカム・パッケージ(” welcome package”) のアイデアは、財務問題の範囲を明確な言葉で説明し、管理組合についての重要な背景を含むものになるはずでした。 作業部会は、区分所有者が健全な財務管理の重要性にもっと気づくことを支援する方法の提案について考慮するよう要請を受けました。
作業部会は、そのような財務管理に関する情報はコンドミニアム・ガイドの部分、 もしくは現況証明書をもっと強化して、その中に入れることを結論としました。 消費者保護の作業部会は、その両方に入れる事を推奨案としました。 このようにしてウエルカム・パッケージ案は廃案となりましたが、 それでも、新しいガイドを提案したグループと現況証明書の強化を提案したグループの間には大きな溝が残りました。
財務管理の基本実務及び特に保険についても、区分所有者が理解することは複雑で一筋縄ではいきません。
推奨案: 入門的なオンライン講座を提供することを推奨します。
その講座内容は、管理組合の財務諸表の基本から、共益費(特別徴収費を含む)、
及びそれらの財務諸表を閲覧または入手する区分所有者の権利に関するものです。
財務情報特有の様式が区分所有者が情報を入手する上で第2の溝となっています。
管理組合の保険料を抑えると、結果的に、保険補償額が下がって、
本来受け取るべきもしものときの保護が制限されます。管理組合の包括的な保険契約内容によって、
区分所有者の個人賠償責任保険の控除額も決まります。
管理組合の包括的な保険契約内容を決めるのは区分所有者の責任でもあります。
推奨案: コンドミニアムガイドでは、所有者に対し、いつでも説明会の開催要求ができることを知らせるべきです。
・ 推奨案: 理事会が管理組合資金の投資計画を公式に承認する際には、監査人に対して
監査証明を請求しなければなりません。
・ 推奨案: 理事会は、管理費会計予算に加えて、修繕積立金会計からの各事業年度ごとの支出
計画を作らなければなりません。
・ 推奨案: 予算額を超える重要な支出が必要となった場合、理事会は、その作業の必要性を
区分所有者に告知しなければなりません。このような支出は不測の修繕を繰返す
ことや、計画修繕外の突然の事態による支出を含みます。
専門部会は、この最後の推奨案に対して、時間をかけて討議しました。
そして、予算外支出に対してもっと明文化した規定を設けることを提案しました。
・ 推奨案: たとえ区分所有者に予算計上額よりも低い額で運営すべきとする要求を採決をもって求める集会の
開催を要求する権利があるとしても、予算外支出についての告知については、区分所有者の承認を
要しないとするべきです。告知に関する新しい要求は、それ自体で十分な透明性を高めるものであり、
それによって、誤解を防ぐのに役立つからです。
・ 推奨案: 告知の義務化は、ある一定の限度額を超えた予算外支出に限るべきです。
専門部会の何人かのメンバーは、その限度額の範囲を予算額の10%以上とすることを提案しました。
共同住宅はその規模によって予算額も大から小まで広がっていることから、一律の基準を設ける
ことを懸念する他の意見もありました。彼らはスライド式の基準を用いることを提案しました。
最初に10%で始めて、予算規模に合わせて緩やかに比率を下げていくというものです。
専門部会は、総額別の固定金額よりもむしろ予算総額に対するパーセンテージとする相対的尺度の案に同意しました。
作業部会は、財務に関するコミュニケーションに関係するひとつの推奨案を作りました。
推奨案: 年次定期総会資料は区分所有者に対して説明すべき内容でなければなりません。
その説明とは彼ら自身が管理組合方針に従って保険料控除のリスクを負うということです。
区分所有者は下記の場合は直ちに告知されなければなりません。
(1) 管理組合保険料が増額となったとき、
(2) 保険の手続きの怠慢や過失によって、理事会が理事と職員の責任を負えなくなったとき
このような告知はまた、なぜ理事会が理事と職員の責任を負えなくなるのかについての説明
が必要です。理事会は年次定期総会資料を有用な教材として用いて、管理組合の、例えば
保険料の引落し額などの重要な情報を告知しなければなりません。
(2) 修繕積立金 (RESERVE FUNDS)
多くの共同住宅では、大規模修繕や共用設備の更新を確実に実施するための築年数に応じた
修繕積立金を設定しています。修繕・更新項目の代表的なものを挙げれば、屋上、建物外壁、
車道、通路、給水、暖房、電気設備、ポンプ設備、エレベーター、そしてレクリエーション設備などです。
修繕積立金は、オンタリオ州では1978年以来、法で定められていました。
1998年に理事会に修繕積立金が十分かどうかを確実に検証する義務が課せられました。
これにより、共同住宅コミュニティの管理を改善することに向けての重要な貢献がなされました。
しかしながら、多くの管理組合の修繕積立金は、彼らの管理組合が必要とする額には及ばない
小さなものでした。特に、古い建物では顕著でした。これらの築年数が経過した共同住宅では、
修繕のための重要な特別徴収が必要とされていましたが、先行きの修繕計画もなく、
そしてしばしば余裕がありませんでした。
財務管理の作業部会では、彼らの各々の共同住宅に必要な修繕積立金を確実に保証する
ための、及び、同時に、透明で公正な財務管理を保証するための方法に関する提案を
依頼されました。作業部会では、これらの目標に適合する設計案を作り上げました。
(2.1) 修繕積立金を見直すきっかけを作る:(SET A TRIGGER FOR UPDATES)
管理組合に修繕積立金の検討を委任すると想定されること。
検討を始めるや否や、設備の主要な部品が突然故障し、管理組合は緊急の修理をすることになる。
管理組合はそのために準備していた積立金から、予想していた額よりもはるかに多く支出することになる。
現在の法に従えば、理事会が修繕積立金を検討した後3年間は計画の更新を要求されていない。
その間に、予期せぬ支出に対して徴収額は低いままに据え置かれ、不足額は増大する。
このような事態になってようやく管理組合は修繕積立金の見直しの必要性に迫られる。
作業部会は、この見直しのきっかけを自動的に作るための尺度となる数値目標を設定することにしました。
推奨案: 現在の積立額が、予想期間内における現時点の目標額の50%以下である場合、
管理組合は今後3年間の更新計画に関する調査報告書の作成を立案者に依頼しなければならない。
この調査報告書は管理組合の公式記録として提出されなければならない。
(2.2) 標準積立額の検討:(STANDARDIZE RESERVE FUND STUDIES)
法制改革第T期の問題摘出報告書では、標準積立額の研究の必要性は明確には要求されていません。
作業部会ではこの点について、幾つかの変更点を提案します。
・ 修繕積立金の「適切」の定義の明確化(CLARIFY THE MEANING OF AN “ADEQUATE”
RESERVE FUND): 法の規定では、区分所有者から共用部及び管理組合資産の大規模修繕と
更新費用に見合う適切な修繕積立金の徴収をすることを理事会に要求しています。しかし不幸にも
「適切」の用語は定義されず、資金不足を誇張するリスクと意見の相違の間にとどまっています。
・ 推奨案: 最初に、以下に示す推奨案の適用する相手は、管理組合の理事会、その中でも、
将来の修繕積立金の計画に当たる人であることに注意しておきたいと思います。
修繕積立金の設定には多くの分析と考察が要求されます。
これらを踏まえて修繕積立金の推奨案は、最初の3年間に設定される徴収額総計の伸び率を除いては、
想定できるインフレーション率よりも大きくない範囲で、年毎の徴収額総計の伸び率パーセンテージを
設定するよう変更することを推奨します。
(2.3) 毎年の上げ率を最低10%とする:(RAISE THE 10% MINIMUM CONTRIBUTION IN YEAR ONE)
現状では、分譲開発会社が作成する初年度の管理組合の予算書において、修繕積立金の徴収額を
設定する前に修繕積立金の検討をするよう管理組合を指導することはありません。
その代わり、初年度の修繕積立金の徴収額を管理費の10%という最低水準に設定しています。
しかしながら、区分所有者と専門家の意見では、この数値では余りにも低すぎることで一致しています。
作業部会では、修繕積立金の徴収額の新しい最低基準として毎年10%を超えることを法で規定する
ことには同意できないとしました。(原注※4)
(原注※4):
現行法では、分譲開発会社は大規模修繕と更新のための充分な修繕積立金の額を定めるよう、
要求されます。このときの計算の根拠が予想期間内の共用部資産に対する修繕と更新の費用です。
計算値が管理費予算の10%を超える場合、事実上、初年度の修繕積立金はその額で賦課されます。
管理費予算の10%以下の場合は、10%が初年度の修繕積立金となります。
専門部会でこの推奨案を討議した結果、管理費と連動した修繕積立金の設定は誤解を招くものであり、
管理費と修繕積立金の各々の設定は、それぞれ異なる考えに基づいて適用されるべきとしました。
推奨案:
修繕積立金の毎年の徴収額は下記を超えない範囲に設定されるものとする。
() 修繕積立金総額の検討は分譲開発会社が請け負って設定する。または
() 建設コストを基準にして公式に設定された総額を基準とする。
専門部会では、単位面積(u)あたりの建設コストや、その他の尺度を規準にしたものを公式の基準
とすることはできないとして懸念を示しました。実際の建物の分量調査に基づく情報を提示し、
より深い検討や分析を経た正確な公式単価を出すべきであるとしました。
専門部会は、公式単価は実際の対象物の理論的根拠を詳細に説明したものでなければならない
ことを明確にしました。積立額は管理費を基準にした単純なパーセンテージで決めるべきではありません。
(2.4) 正当な環境下での柔軟性の提供(PROVIDE FLEXIBILITY IN THE PLACES)
第T期の問題摘出報告書では、修繕積立金の用途に関しては厳格に管理されるべきであることは
明確になっていました。その規則は時には融通のきかない硬直したものであることも認識されてきました。
例えば、理事会は法律で定められた車いす用傾斜路の工事や修繕に修繕積立金から自由に支出する
ことはできません。第T期の報告書では、グリーンエネルギー技術への投資(訳注:太陽光発電パネルや
電気自動車の充電設備など)には明確な規準を設けたうえで、修繕積立金からの支出を許可すべき
との提案がありました。
推奨案: 修繕積立金は例えば車椅子用傾斜路などのような法律に規定された改良工事や修繕工事
に対しては、区分所有者の承認なしに適用可能とされるべきである。
専門部会は、また、修繕積立金はグリーンエネルギープロジェクトについても区分所有者の承認なしに
取り扱うことができるようにすべきであるとの提案をしました。
推奨案: 装置及び設備のエネルギー効率化の改良工事に関しては、修繕積立金を区分所有者の
承認を得ることなく適用してもよいものとします。ただし、これらの装置は省エネルギー試験の公式の
判定基準に適合したことを専門技術者が証明した独立第三者機関の認証があるものを条件とします。
推奨案: グリーンエネルギープロジェクトは、進める前にその必要性について検討しなければなりません。
この意味は、管理組合は修繕積立金の使途に関して他のすべての装置に便宜を与えることができるほど
余裕があるわけではないからです。
推奨案: グリーンエネルギープロジェクトのコストが高すぎる場合は、現在の修繕積立金と将来の
積立額とを検討したうえで、その結果を反映したものでなければなりません。このことは、積立金を
使うことができる他の工事に関しても同様です。
専門部会は、省エネルギー試験の公式の判定基準はグリーンエネルギー装置の購入に際して適用
されるべきものであることを提案しました。
推奨案: 共同住宅管理組合がグリーンエネルギープロジェクトのエネルギー削減予想値
(このことは、単純回収期間(”simple payback” periodとして知られている)に達しない部分を
カバーして追加費用を負担する場合は、その達しない部分の穴埋めの費用以下とすべきです。
事例: ある専門家はひとつの例として、仮定に基づいた回収期待値(life expectancy)
は66%であることを示しました。共同住宅建物のボイラーは古くなると更新する必要があります。
新しいボイラーの価格は150Kドル(約1,275万円)、>省エネ型になると(例えばグリーンエネルギー
プロジェクト型)200Kドル(約2,167万円)です。その差は50Kドル(約425万円)です。
省エネ型の回収期待値(life expectancy)は20年です。
省エネ型ボイラーの年間省エネ効果は10Kドル(約85万円)/年です。
普通型から省エネ型にアップグレードした場合の追加費用は50Kドルですから、これを年間省エネ効果の
10Kドルで割ると5になります。つまり、単純回収期間(”simple payback” period)は5年です。
省エネ型の20年間の平均回収期待値(life expectancy)66%は13年になります。
単純回収期間(”simple payback” period)5年は平均回収期待値13年より短い。
つまり、省エネ型ボイラーの単純回収期間は回収期待値よりも短いということです。
これが新しい装置を導入したときの省エネ判定公式(the threshold energy-savings form)です。
このことが、区分所有者の承認なしに省エネ型ボイラーの更新工事に修繕積立金を使うことができる理由です。
ある参加委員は回収期待値の試験判定値として用いられるパーセンテージは50%から66%以下であり、
66%はその範囲の中の高い値であることを指摘しました。専門部会はこの事例には更に検討を要するとして、
推奨案には特定のパーセンテージは用いない事としました。
(3) 管理費会計予算 (OPERATING BUDGETS)
管理組合理事会は共益費または管理運営費の管理を改善するうえで何を行うべきか?
第T期の報告書を通して、この問題の提起は困難な意見の分裂を招くものでした。
幾つか挙げられた意見は、規則は余りに制限的で、理事会が必要に応じて下す判断を困難な、
或いはたびたび不可能にさせるものだということでした。他の信頼すべき意見としては、理事会は
すでに管理費の使途に関しては充分慎重であるというものでした。
理事会に広い自由裁量の余地を与えることは、ペットプロジェクト(”pet projects” 馴れ合いの事業)
における誤った管理や不始末、甘えを助長するもので、実体は汚職(corrupt practices)だ
という意見もあります。
作業部会と専門部会における管理費会計予算の審議では両方ともに多くの意見がでました。
彼らは幾つかの変更を提案しました。
しかし、これらの変更を最上の方法とすることには同意が得られませんでした。
(3.1) 「通知なし」に変更するための判断基準
(ADJUST THRESHOLD FOR CHANGES “WITHOUT NOTICE”)
「通知なし」に変更するとは、共用部の修繕や改良工事などの資産の変更、または管理組合の
事業内容の変更について、区分所有者の投票の方法による承認を得ることなく理事会が実施
することを指します。
法の規定では、工事見積り額が月額予算で1,000ドル(約8万5千円)もしくは年間予算の1%の
どちらかを超えない場合は、区分所有者の承認を必要としません。
作業部会のメンバーは、幾つかの理事会ではこの制限がごまかしの道具に使われていること、
そして、「通知なし」の許可は、月額基準ではなく、現在の年間予算に対する工事予算の総額を
基準とすることに同意しました。
推奨案: 12ケ月の期間内(月ごと(“any given month”)に対する対照的な表現として)における
工事見積り額が3万ドル(約255万円)もしくは年間予算の3%を超えない範囲の工事に関しては
区分所有者の承認を必要としない。
推奨案: 上記に加えて、この変更の結果、重要な削減もしくはサービスの廃止につながる
場合は、管理組合は区分所有者にその旨通知しなければならない。
この推奨案では3%もしくは30万ドル以下の場合は通知なしとしたが、3%もしくは30万ドルを超えて、
なおかつ10%以下の場合は、区分所有者に対する通知は必要である。
(3.2) 重大な変更に関する手続きの変更(CHANGE PROCEDURE FOR SUBSTANTIAL CHANGE)
費用の問題に加えて、年間予算の10%を超える共用部の修繕や更新工事が資産価値に対し、或いは
管理組合が提供するサービスの面で、重大な変更が発生することがあります。そのような変更は公式の
集会で少なくとも3分の2の区分所有者本人または代理人が承認しなければできません。
作業部会によれば、多くの共同住宅コミュニティでは所有者に対する説得のための集会の定足数の確保に
苦慮しています。この意味では、そのような承認が得られる事はまれです。高い定足数の規定は理事会の
暴走をたびたび防いできたのは確かです。
作業部会は、この欠点を修正する提案として
() 最初に、承認を要する要件は工事費予算が年間予算総額の10%、もしくは150Kドル(約1,275万円)
のどれでも超えた場合とし、
() 次に、承認手続きは現行区分所有者または代理人総数の66と3分の2から、3分の1の賛成に変更する。
専門部会は長い時間をかけてこの提案について討論しました。
変更を持続可能なものとするために年間予算総額の10%はそのまま残すことに同意しました。
しかしながら、専門部会は150Kドル(約1,275万円)については、客観的かつ明確な基準ではない、
理論的根拠がない、金額に関する判断基準は彼ら自身が決めるもので、専門部会のメンバーが決めるものでは
ないとして拒絶しました。更に進んで、承認手続きで、集会における承認要件3分の2から、3分の1に変更する案
についても、25%に下げる案が提案されました。
ほとんどの部会メンバーがこの修正案に同意しました。
とはいえ、重要な変更を余りにも簡単に許してよいのかという幾つかの懸念が提起されました。
推奨案:
()承認を要する工事は工事費予算が年間予算総額の10%以上のものとする。
()承認手続きは現行区分所有者または代理人総数の25%以上の賛成による。
専門部会の一人のメンバーはこの推奨案の基本的な傾向に強く反対しました。
管理費総額が増加してきているので10%をもっと下げるか、或いはスライド式で定義するかのどちらかとするよう
提案しました。スライド式とは最初に10%で始めて、予算規模に合わせて緩やかに比率を下げていくというものです。
(3.3) 修繕と保守の定義 (DEFINE “REPAIR” AND “MAINTENANCE”):
作業部会の修繕と保守の定義に関する討論は、二つの部分に分けられます。ひとつは、両者の管理費の
用途を区別する方法、他のひとつは費用の支払い科目の修繕費と保守費の意味を明白にすることです。
最初の問題は、作業部会は、修繕と保守の明確な定義を求めました。この討論では仕事のカテゴリーの
違いが提起され、欠く事のできない非常に重要な仕事(essential tasks)、例えば穴のあいた道路の
アスファルト舗装に継ぎをあてるパッチ(patching)作業と、重要ではない仕事もしくは化粧直し(non-essential
or “cosmetic” projects)作業、例えば、ロビーに大理石の柱を置く作業の違いが挙げられました。
作業部会が注目したのは、修繕と保守の区別が注意深く行われた場合、それは、理事会が必要に応じて
もっと柔軟な決定を下すことができる判断基準を提供することになるということでした。
法97条の告示は美的改良にのみ重点をあてたものです。
このような区別は理事会と区分所有者の間の予算の使いすぎに対する緊張を弱めることになるかも知れません。
しかしながら、作業部会はまた、改良工事から保険まで含む複雑で広い範囲の仕事を意味するこの用語の
定義を明確にする事に注目しました。
推奨案: 消費者省は、修繕と保守の定義を明確にする事について主導権を発揮して更に検討していただきたい。
この検討には、各界の専門家グループと、更なる分析と結論を導くための時間を確保していただきたい。
作業部会の討議の第2課題は費用でした。部会メンバーは法の規定は、理事会と区分所有者の間の紛争の
種を生むもので、修繕と保守の費用に関して明確ではないか、もしくは不十分という点で一致していました。
推奨案: 法における保守の定義は、共用部において、例えば専用使用権を有するバルコニーなどの
部分における通常の損耗と劣化に対する区分所有者の責任を除去するよう修正されなければならない。
修繕積立金は、このような部分の修繕に使われるべきである。
推奨案: 管理組合は、区分所有者が専用使用権を有する部分であっても、すべての共用部の修繕を
行わなければならない。
(3.4) 「標準住戸」の定義を整備する (PROVIDE A “STANDARD UNIT” DEFINITION):
「標準住戸」(“standard unit”)とは、下記の共同住宅の住戸内部における区分のひとつです。(※原注5)
(1): 管理組合が定めた保険方針に基づいて保証がカバーされている定着物または備品、例えば台所
(2): 改良とみなされる部分、例えばフローリングまたはカーペット。この部分は保険目的にとって重要で、
管理組合保険がカバーしている範囲は「標準住戸」に限定されます。
法は開発分譲業者に対して売買契約書別表の中で共同住宅資産の各クラスにおける標準住戸の構成を定めることを
規定しています。しかし、このような定義はさまざまな方法で簡略化され、不確実な要素と保険求償範囲を巡る
トラブルを発生させています。
その上更に,そのような法の規定が存在していなかった2001年5月5日以前の多くの管理組合は、標準住戸の定義も
していなかったので、自分達の管理規約で標準住戸の定義をして規約改正しました。
第T期問題摘出報告書の「法は標準住戸の基本定義を含めて債務不履行の定義を修正すべき」というが提案には、 作業部会も同意しました。
推奨案: 標準住戸の用語は州内においてすべての共同住宅に適用されるよう適格に定義されなければ
ならない。標準住戸は、居室の壁、シーリング、台所などの定着物(fixtures)、作り付けの戸棚(cabinetry)等、
生活可能な住居としての範囲をカバーしたものとして定義されるものとする。
定義の記述内容は保険対象としての住戸の評価に対して適合する必要がある。
このような定義の標準化は、空き地管理組合、共用部管理組合、または工業用及び商業用の共同住宅の
資産には適用しない。
推奨案: 標準住戸を管理規約で定義している管理組合が修正するかどうかについては、それぞれの
管理組合の自由とすることが望ましい。売買契約書付属表の中で定義されている場合、または、規約で
定義している場合は、それらが優先されるものとする。
専門部会はこれらの推奨案に同意し、さらに提案を示しました。
推奨案: この定義は新築及び既存の共同住宅の両方の資産に適用されるべきである。そして、
債権放棄の標準住戸についても同様である。
(※原注5) :標準住戸(“standard unit”) とは住戸内部を構成している1セットのことです。
他の住戸や共用部との境界は含みません。
(約注:)“standard unit”の本当の意味は「素のままの住戸」という意味です。
standardは「素うどん」の素で、余計なものは何もない、「そのままの、素のままの」という意味です。
もともと、standardはstand(立つ)の「立っている場所」や「まっすぐな木・燭台」が原意で、
他との比較に用いられて「標準」という意味になっています。
(3.5) 毀損行為に対する過失責任 (ASSIGN RESPONSIBILITY FOR DAMAGE)
区分所有者の不注意、怠慢(carelessness or negligence)による共用部やその他の毀損に対して、
管理規約で管理組合としての免責事項について大要[あらまし]を述べているに過ぎず、現行法では、
管理組合が過失責任を負う者からそのその損害回復費用をを徴収できるかについては明確になって
いません。
第T期の問題摘出報告書では、この点についてより明確にすべきとしました。
作業部会では、区分所有者の毀損行為に対する過失責任をとりあげることに同意しました。
推奨案: 法は共用部または他の住戸に対する区分所有者の責任に基づく損害について、
管理組合の保険求償範囲かどうかに関らず、その損害回復に要する費用を管理組合が当該
区分所有者または居住者から徴収することを規定すべきである。
専門部会では、この推奨案に対して、次の案を付け加えました。
推奨案:管理組合が管理規約に上記の推奨案に代わる規定を設けることは禁止されるべきである。
加えて、専門部会では、区分所有者が管理組合からの請求に応えて支払うことを保証するための
個人賠償責任保険に加入することを義務付けることを原則とすることに同意しました。
しかしながら、複数の部会メンバーは、保険業者が果たして支払に応じるかどうか、その求償範囲に
ついては疑問があると主張しました。彼らは、更に検討した結果をもって最終決定とすることに同意しました。
(3.6) 先取り特権の公正な行使(USE LIENS FAIRLY)
先取り特権は財務管理上、滞納対策を用心深く行う上で、重要なツールとなっています。
しかしながら、この権利を濫用している理事会も幾つか出現しています。
例えば、管理組合は弁護士に警告文書の作成から管理組合と所有者間の紛争処理まで依頼することが
できます。この警告文書作成費用だけでも通常、5〜7百ドル(約4万〜6万円)かかります。
幾つかの管理組合ではこの作成費用も自動的に所有者に課しています。
住戸所有者が支払いに応じなければ、その所有者の住戸に先取り特権を設定すると脅迫します。
(訳注:threatening to place a lien 原文通りの直訳です)。
作業部会のメンバーは、月額支払金の滞納対策に限っていえば、この処理は正当であるという見方をとりました。
しかしながら、部会メンバーは、警告文書の作成送達費用を所有者に課すことは不適切だと感じています。
作業部会は、警告文書を区分所有者に送付する費用を区分所有者に課すことは,アンフェアで高圧的な
やり方だとすることに同意しました。偏見のない第三者による決定が下されるまでは、区分所有者は支払を
課せられるべきではありません。
推奨案: 現在では、区分所有者が共益費を滞納したとき、管理組合から先取り特権の設定に対する
差し迫った危険を意味する警告文が最初に送達されます。
この手続き自体は残されるべきですが、しかし、理事会、所有者それぞれが権利を主張する新しい紛争処理
機関(「紛争解決」の章参照)の場で、理事会と区分所有者間における真剣な話し合いが行われ、そこでの
結論が出るまでは、管理組合は、弁護士費用も先取り特権の設定登記にかかる費用も所有者に請求する
ことは凍結されるべきです。
もしも、管理組合の手続きや所有者に対する扱いが正当であることが証明された場合に、先取り特権の設定
登記とその費用の負担を所有者に課すことができる権利は復活する。管理組合が不当である事を所有者が
証明できたときは、文書の費用は管理組合が負担する。
専門部会の一人のメンバーは、先取り特権の登記前に15日間の猶予期間を設けている現行法の規定に
反対しました。他のメンバーは、それらは共益費の支払に失敗した個人の責任に帰せられないさまざまな
事情を考慮したものであることを説明しました。支払に小切手を使う場合は現金化に遅れが発生すること、
または、管理者の手違いがあることなどです。
専門部会は、月額共益費の滞納に限れば紛争の手続きは公正で適切であるという見方について討議しました。
専門部会は、区分所有者が月額共益費を滞納したときに管理組合から警告文を受け取るのは権利ではなく、
管理組合からのひとつの自由な通知は最良の手段として推奨されるべきで、要求として法制化されるものでは
ないという結論に達しました。この意見に反対するメンバーは法制化すべき要求だと主張しました。
(3.7) 特別賦課金・チャージバック (CHARGE-BACKS)
チャージバック(“charge-back”特別賦課金)とは、法の規定以外の、ある行為の結果として負う特別の
費用で管理組合から共益費に付加されて請求される金額の合計をいいます。
ある行為(action)には、すべき事をしなかった怠惰や不活動(inaction)も含まれます。
専門部会では、チャージバックは必要であるという前提に立って、その明快な取扱規定を取り上げました。
推奨案: 法は「特別賦課金」(”charge-back”)を関連する用語「例外的対応」(”exceptional services”)
と同様に定義するべきです。イタリアーノ対トロント・スタンダード・コンドミニアムNo.1507[2008]
O.JNo. 2642 (Ont. S.C.J.)の判決は、本件を法制化するもとになった裁判です。
管理組合のガバナンスを検討した作業部会でもまた、チャージバック(下記の章を参照:「チャージバックの
合法的な使用」)について討議しました。
(3.8) 剰余金の運用を制限なしに許すこと (ALLOW SURPLUSES)
現在、理事会は剰余金を制限なしに運用することが許されています。第T期問題摘出報告書によれば、
参加者の何人かは、大きな剰余金の運用は安全な管理の実践にはならないと感じていました。
剰余金は予算を膨らませる事、賄賂(”slush fund”)を作ること、馴れ合い事業(”pet projects”)またはもっと
悪いことに使われ、助長します。それらを抑止するために剰余金の使用に制限をかけることが提案されてきました。
作業部会では、剰余金の使用を制限することは管理組合が追加工事や修繕工事、改良工事を抑制して
管理組合を開発から保護し、或いは設備に急に大きな費用が掛かった時の緩衝(buffer)になると感じていました。
推奨案: 剰余金の運用は制限され、健全な財務状態は維持されなければならない。
専門部会の多くのメンバーは作業部会の結論に同意しました。彼らは下記の意見を述べました。現行法は
剰余金を将来の共益費や修繕積立金の備えとして使われなければならないと規定している。
加えて、推奨案はそれらが悪用されることを防ぐために厳しい制限をかけるべきとしたものである。
剰余金の使用に一層の透明性が確保されるよう、共用部の変更計画、投資、サービスの変更に関する
説明文書(これらは後述のガバナンス参照)での財務報告書における新しいルールが必要である。
これに対してひとりのメンバーが強く反対しました。剰余金の使途に制限をつけないのは、区分所有者からの
月額徴収の値上げなしに大規模な修繕工事への支出が理事会の決定で可能にするためである。
メンバーは、上記の推奨案はそのような行為を区分所有者の投票による意思決定に基づいて行うことと
するものであると主張しました。
(4) 修繕積立金の投資運用 (RESERVE FUND INVESTMENTS)
作業部会では理事会が管理組合の資金を投資運用に振り向けるには非常に小さな柔軟性(flexibility)
しか有していない問題を取り上げました。
作業部会は運用の更なる柔軟性を求めて、その方法について討議しました。結論には至りませんでしたが、
それでも少なくとも二つの選択肢については研究する価値があると感じました。
推奨案:
現在の金融制度では、管理組合の預金には高度の制限が掛けられています。
カナダの他の州を含めた保険会社と金融機関が運用の選択の検討に参加する機会が与えられるべきです。
作業部会では管理組合がプールしている資金を幾つかの長期資金、
例えば公共住宅部門などへの特別投資基金の創設などに振り向けられないかについて討議しました。
モデルとしたのはハイリターン・ミニマルリスクが顕著な投資部門です。
州内の共同住宅の預金残高は現在、2.5億ドル(約2,125億円)の規模に達していて、増え続けています。
これだけの規模の管理組合プール資金の投資について、作業部会では更に検討が必要であると感じました。
推奨案:
管理組合がプールしている管理と修繕積立の資金を高利回りが期待できる2つ以上の機関に投資運用
できるよう検討することは許可されるべきである。
(5) 詐欺 (FRAUD)
区分所有者の主な関心は管理組合資金の詐欺と窃盗(fraud and theft)の可能性についてです。
もし発生したらどうすればいい? 地位の濫用(abuse)はどうやって防ぐ?
一方で、刑法は他の法令の強制力を執行する部分を担当しています。それにもかかわらず、
作業部会は、詐欺犯罪を防止するのは、遠い道のりだと感じています。
この問題は3つの主要なカテゴリーに分けられます。
・ 窃盗と横領(Theft and embezzlement)
・ ピンはね・キックバック・リベート(Kickbacks)
・ 無駄な浪費(Frivolous spending)
(5.1) 窃盗と横領 (Theft and embezzlement)
オンタリオの強力な積立金は今や大きな金額となって積み上がっています。
不正な管理者または理事による窃盗と横領のリスクは増大しています。
作業部会の報告書は「忠実な保険はそのような信頼を裏切る行為に対する原則的保護を表明している」
としています。しかしながら、保険販売代理業の報告書(industry representatives report)によれば、
最初の100万ドルから200万ドル(約1,700万円)の間の支払は容易ですが、それ以上の額の保険の
引き受けは一般的に費用がかさむとしています。
それゆえに、作業部会では、修繕積立金を確実に管理する他の方法を考える必要があるとしました。
しかし、それははるかに困難です。プールされた修繕積立金の投資(修繕積立金の章を参照)には、
その資金を引き出すとき、引き出す方法について、潜在的な窃盗と横領のリスク軽減対策が必要です。
(5.2) ピンはね・キックバック・リベート (Kickbacks)
契約にともなうキックバックは多くの共同住宅にとって深刻な悩みの種となっています。
不幸な事に、それを防止することは困難です。
作業部会では、キックバックを防ぐ最良の手段は、適正な執行(well-executed)、
厳正な入札方式(sealed-bid contract process)の標準的安全策が全てだとしました。
推奨案:
サービス契約に関する重要な文書、たとえば、予定価格5万ドル以上の、封をした競争入札の差入書
(値札)のようなものは、適正な執行(well-executed)、厳正な入札方式(sealed-bid contract process)
の標準的安全策をとらなければならない。
専門部会はこの推奨案を支持しました。
(5.3) 無駄な浪費 (Frivolous spending)
多くの区分所有者は理事会が管理組合の資金を不要な或いは無駄なプロジェクトに浪費しているのではないかと
懸念しています。作業部会は、理事会の財務計画には、透明性と説明責任を高め、区分所有者を巻き込んで
議論することが、そのような職権濫用の機会を制限することになると感じました。
(2021年8月28日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 28 August 2021/ Revised Publication -time to time)