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共同利益背反行為の停止等請求事件

〜消防法適用の障害者施設の存在が共同利益背反行為とされた事例〜

2022年(令和4年)1月20日大阪地方裁判所判決
平成30年(ワ)第5280号 共同利益背反行為の停止等請求事件

裁判の要旨
 1階全9戸の店舗と2階から15階まで251戸の専有部分を持つ昭和63年建築(判決時築34年)の複合用途共同住宅で、 1階テナント2室に平成15年(判決時の19年前)からグループホームが入っていたが、 平成27年4月1日の改正消防法施行令の施行により、平成28年,消防署から 自動火災報知設備の設置及び定期点検が必要と指摘を受けて、同年に管理組合総会で管理規約を改定し、 グループホームに供することの禁止及び専有部分を特定防火対象物となる用途に供することの禁止を追加した上で、 翌年の平成29年にグループホームを運営する社会福祉法人に対し、グループホームの停止を求めたが、 同法人側が拒否したため管理組合は平成30年4月21日,臨時総会を開催し、訴訟を提起することを決議して提訴に至ったものです。

 グループホームの存在が管理組合に負担を与え、共同利益背反行為にあたるとして、 管理組合がグループホームを運営している社会福祉法人に対し、 グループホームの停止と弁護士費用を含めた違約金を求めた裁判で、 原告請求のすべてが認容された事件です。

長文の判決ですが、大半は判決根拠となる消防法令の説明なので、消防関係法令に詳しい方は、後半の
第3 当裁判所の判断 からお読み下さい。本頁は一切の評論や注釈なしに判決原文のみ掲載しています。

○1. 目次
判決主文
事実及び理由
第1 請求
第2 事案の概要
 1 前提事実
  (1) 当事者
  (2) 本件各住戸の使用状況等
  (3) 本件マンションの管理規約の変更等
  (4) 訴訟提起等に関する決議
 2 争点及び争点に関する当事者の主張
  (1) 争点1(管理規約に違反するか)
  (2) 争点2(管理規約の規定が無効か)
  (3) 争点3(区分所有者の共同の利益)
  (4) 争点4(障害者への不当な差別)
  (5) 争点5(請求金額)

 

 

第3 当裁判所の判断
 1 認定事実
  (1) 法令の定め等
  (2) 本件マンションの概要
  (3) 本件マンションにおける消防用設備等の設置等
  (4) 本件訴訟に至る経緯
  (5) 被告による本件各住戸の使用状況
 2 争点1(管理規約に違反するか)
 3 争点3(区分所有者の共同の利益に反するか)
 4 争点4(障害者への不当な差別)
 5 争点5(請求金額)
第4 結論

 

判  決

主文

1 被告は,別紙物件目録記載2及び3の専有部分の建物をいずれもグループホームとして
  使用してはならない。
2 被告は,原告に対し,85万0430円及びこれに対する平成30年6月23日から支払済みまで
  年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1 請求

       主文第1項及び第2項同旨

第2 事案の概要

 本件は,マンションの管理組合の管理者である原告(提訴時においてはC,口頭弁論終結時においてはA)が社会福祉法人である被告に対し, 被告が賃借したマンションの専有部分の建物をグループホームとして使用することは,区分所有者は専有部分を住宅として使用するものとし, 他の用途に供してはならない旨を定めたマンションの管理規約の規定に違反し,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。) 6条3項が準用する同条1項所定の区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するとして,同法57条4項が準用する同条1項に基づき, 上記専有部分の建物をグループホーム事業の用に供する行為の停止を求めるとともに,上記管理規約によって定められた違約金として, 調停費用,訴訟費用等の合計85万0430円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成30年6月23日から支払済みまで平成29年法律第44号 による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。


1 前提事実 (争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者

 

 原告は,別紙物件目録記載1の1棟の建物(以下「本件マンション」という。) の区分所有者全員により構成される区分所有法3条前段所定の団体であるg管理組合(以下「本件管理組合」という。)の理事長であり, 同法25条1項所定の管理者である。(弁論の全趣旨)

 

 被告は,居宅介護支援事業等の公益事業を行うことにより高齢者や障害者に対する福祉サービスを提供することを目的とする社会福祉法人であり, 本件マンションの専有部分である別紙物件目録記載2の建物(以下「m号室」という。)及び同目録記載3の建物(以下「n号室」といい,m号室とn号室を合わせて 「本件各住戸」という。)の各区分所有者から本件各住戸を賃借して占有している。(争いのない事実,乙9)


(2) 本件各住戸の使用状況等

 

 本件マンションは,昭和63年9月17日に新築された地下1階,地上15階建ての区分所有建物であり, 建築延面積は1万8687.18uである。1階の9戸の専有部分(延床面積567.78u)は店舗であり, 2階から15階までの251戸の専有部分(延床面積1万4641.96u)は全て住戸である。 (甲1の1・2,甲2,3,10,11,弁論の全趣旨)

 

 被告は,遅くとも平成15年8月11日から現在までn号室(床面積56.11u)において, 遅くとも平成17年9月2日から現在までm号室(床面積56.21u)において,それぞれ, 障害者グループホーム(以下「本件グループホーム」という。)を運営し,入居者に対し,
@入浴,排せつ及び食事等の介護
A整姿,整容に必要な援助及び助言
B日中生活上及び夜間生活における介護及び助言
C健康の維持増進に必要な介護及び助言
D日中活動の場等との連絡,調整及び移動支援
E余暇活動及び社会参加支援
F緊急時等の対応及び介護
G金銭管理又は財産管理等に必要な援助及び相談支援
H住居家事援助
I前各項に附帯する必要な介護及び相談支援
といった福祉サービスを提供している。

 なお,m号室には,平成17年9月2日に2名,平成21年2月13日に1名が入居し,現在,合計3名が 上記サービスを利用している。n号室には,平成15年8月11日に1名,平成18年2月27日に1名, 同年7月31日に1名が入居し,現在,合計3名が上記サービスを利用している。 (甲11,乙1の1〜3,乙2の1〜3,乙9,弁論の全趣旨)


(3) 本件マンションの管理規約の変更等

 

 本件管理組合が定めた管理規約(以下「本件管理規約」という。)12条1項は,「区分所有者は, その専有部分を住宅として使用するものとし,他の用途に供してはならない。」と規定している。(甲1)

 

 本件管理組合は,平成28年,o消防署から, 本件マンション内の住戸のうち福祉施設が運営されている本件各住戸には自動火災報知設備の設置が必要であるとの指摘を受けた。 本件管理組合は,被告に対し,同年6月1日付け書面により,本件各住戸において福祉施設を運営することは本件管理規約12条1項に違反するとして, 平成29年5月31日までに本件各住戸から退去するよう求めた。

 被告は,本件管理組合に対し,平成28年7月7日付け書面により,本件各住戸の使用は本件管理規約に違反しないとして, 上記要求に応じない旨を通知した。(甲5,6,32)

 

 本件管理組合は,平成28年11月19日,通常総会を開催し,本件管理規約に専有部分を民泊に供することの禁止(本件管理規約12条の2), 専有部分をシェアハウスに供することの禁止(同12条の3),専有部分をグループホームに供することの禁止(同12条の4) 及び専有部分を特定防火対象物となる用途に供することの禁止(同12条の5)の各規定を追加する旨の議案の審議を行った。その結果, 上記各議案は,いずれも,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の賛成により可決された。上記改正後の本件管理規約の定め(抜粋)は, 別紙管理規約のとおりである。(甲1の1・2,甲38)

 

 本件管理組合は,被告に対し,平成29年6月21日付け書面により,本件各住戸の使用を速やかに停止するよう求めた。 被告は,本件管理組合に対し,同年7月6日付け書面により,本件各住戸の使用は本件管理規約に違反しないとして, 上記要求に応じない旨を通知した。(甲7,8)


(4) 訴訟提起等に関する決議

 

 本件管理規約68条1項は,「区分所有者または占有者が建物の保存に有害な行為その他の管理または 使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合またはその行為をするおそれがある場合には, 区分所有法第57条から第60条までの規定に基づき必要な措置をとることができる。」と規定し,同条2項は, 「前項,法令,規約または使用細則もしくは総会の決議の違反者に対し,訴訟等の法的措置によることとした場合, その者に対して弁護士費用その他の法的措置に要する費用について実費相当額を請求することができる。」と規定している。(甲1の1・2)

 

 本件管理組合は,平成30年4月21日,臨時総会を開催した。この臨時総会において, 被告に対して本件各住戸をグループホームとして使用する行為の停止を求めて訴訟を提起すること並びに民事調停の申立て に要した下記の弁護士費用等及び本件訴訟の提起に要する下記の弁護士費用等を請求することの承認を求めることを内容とする 「共同利益背反行為の停止請求訴訟に関する件」と題する議案の審議が行われた。

同議案は,賛成組合員数168名,賛成議決権数182個,反対組合員数3名,反対議決権数3個,棄権組合員数4名, 棄権議決権数4個となり,区分所有者及び議決権の過半数の賛成で可決された(以下「本件決議」という。)。(甲9)
民事調停に要した弁護士費用等
 a 着手金 16万2000円
 b 印紙代 6500円
 c 郵券代 530円
 d 登記事項証明書代 600円
訴訟提起に要する弁護士費用等
 a 着手金(依頼時) 21万6000円
 b 報酬金(終了時) 43万2000円
 c 実費 印紙代,郵券代等(数万円程度)


2 争点及び争点に関する当事者の主張ー争点1(管理規約に違反するか)

2 争点及び争点に関する当事者の主張

(1)争点1 (被告が本件各住戸をグループホームとして使用することが本件管理規約
         12条1項に違反する行為であるかどうか)

(原告の主張)

 

 本件管理規約12条1項は, 区分所有法30条1項の「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」として定められたものである。

本件管理規約12条1項の目的は,個々の住戸における平穏さを確保することだけではなく, 住戸を住宅以外の用途に供することが本件管理組合の業務等に影響を及ぼすことを防ぐことにもある。

 そうすると,専有部分の使用が本件管理規約12条1項の「住宅」としての使用に該当するか否かを判断するにあたっては, 居住用建物としての平穏さが確保されるか否かのみならず,本件管理組合の業務等に及ぼす影響の有無及び程度が十分に考慮されなければならない。

 

 消防法施行令別表第1に掲げる防火対象物は,同法施行令第3節の規定に従って消防用設備等を設置しなければならないが, 同法施行令32条は,所定の要件を満たす場合には,第3節の規定を適用しない旨を定めている。

大阪市は,昭和50年6月17日消防長訓第18号において,共同住宅につき,同通知の要件に適合する場合には, 消防法施行令32条による特例(いわゆる共同住宅特例)を認めている。 本件マンションは,共同住宅特例)の適用があるマンションとして分譲され, 本件管理組合の業務も,それを前提として行われることが当初から想定されていた。

 ところが,本件マンションは,「共同住宅」(消防法施行令別表第1の5項ロ)と「共同生活援助を行う施設」 (同別表第1の6項ロ)の二つの用途に供されているため,「複合用途防火対象物のうち, その一部が1項から4項まで,5項イ,6項又は9項イに掲げる防火対象物の用途に供されるもの」  (同別表第1の16項イ)に該当し,共同住宅特例の適用対象である「共同住宅」に該当しない。

 本件マンションにおいて共同住宅特例が適用されないことになれば,本件管理組合は, 消防関係法令を遵守するために新たに各種消防用設備を設置するなどの必要が生じることになるが, そのための総会決議を経ることや予算を確保することは,極めて困難であり, 本件管理組合の業務に極めて重大な影響を及ぼすことになる。

 なお,現時点における共同住宅特例の適用の要件は, グループホームとして使用される住戸の床面積が合計1000u未満かつ住戸の延べ床面積の50%以下と緩和されているところ, 本件マンションは,現時点ではこの要件を満たしており,共同住宅特例の適用を受けている。 しかし,一般に,障害者グループホームとしての使用は「住戸利用施設」として共同住宅特例の適用除外の原因となる用法とされており, 障害者グループホームは防火対策に関して明らかに普通の住宅とは異なる規制を受けているから,この点は, 被告による本件各住戸の使用が本件管理規約12条1項の「住宅」に該当するか否かの判断において考慮されるべき事情である。

 

 障害者グループホームの事業は,共同生活を営むべき住居という側面と,日常生活上の援助という側面を一体として, 利用者である障害者にサービスを提供するものであり, 賃貸住宅事業のように入居者の起臥寝食の場を提供するものの事業者が入居者の生活自体に関与しない事業や, 在宅介護サービス事業のように事業者が日常生活上の援助を提供するものの起臥寝食の場を提供しない事業とは異なる。

 このような障害者グループホームの事業の特性を踏まえると, その運営主体には,本来的に利用者の安全確保に万全を期すべき責任がある。 特に,本件各住戸の利用者のように,療養判定がA,障がい支援区分が4又は5であるような重い障害を有する場合, 火災等の際に障害者グループホームで共同生活をする利用者が自らの責任において安全を確保することには限界がある。

 上記の点を踏まえると,障害者グループホームの場合,火災発生時における利用者の安全確保の ためには, 消防関係法令により,運営主体による日常の対策や訓練の実施,自動火災報知設備やスプリンクラー等の消防用設備の設置等, 普通の住宅に求められる以上の防火対策が講じられる必要がある。 加えて,障害者グループホームは,公的資金が投入されて運営されており,普通の住宅とは異なる公共性が備わるから, 利用者の安全確保については,個々の運営主体による独自の判断に委ねるのではなく, 統一的な水準による規制が求められることになる。障害者グループホームは,利用者にとっては住居の側面があるとしても, 事業者にとっては大阪府指定障害者福祉サービス事業者の指定並びに指定障害福祉サービスの事業の人員, 設備及び運営に関する基準を定める条例による設置基準に従い開設,運営している施設にほかならない。

 障害者グループホームの事業に内在する性質や特性からも,被告が本件各住戸を障害者グループホームとして使用することが, 本件管理規約12条1項の「住宅」としての使用でないことは明らかである。

 以上のとおりの本件マンションに適用される消防関係法令に基づく規制の在り方や, 同規制に関して共同住宅特例を受けて本件マンションが竣工・分譲された経緯, 消防用設備を含む共用部分等の管理を行うべき本件管理組合の業務の在り方等に照らせば, 本件管理規約12条1項の「住宅」は,いわゆる普通の住宅を指すものである。

 障害者グループホームのように,普通の住宅とは異なる厳しい防火対策を講じるべき特性を有する施設は, 同項の「住宅」に該当しない。被告が本件各住戸を障害者グループホームとして使用することは, 同項に違反する行為である。


(被告の主張)

 

 本件各住戸の使用が本件管理規約12条1項の「住宅」としての使用であるか否かは, 本件各住戸が入居者の生活の本拠であるか否かによって判断されるべきである。生活の本拠とは, 専ら日常的な寝食のための居住用建物としての平穏さが確保されるべきものであることを意味するものと解するのが相当であり, 生活の本拠であるか否かは,消防関係法令や各種補助制度における取扱い等の実体とは離れた形式面で判断されるべきではない。

仮に本件マンションの住戸部分の区分所有者が,専有部分を事業の用に供し,あるいは第三者に専有部分を使用させることがあったとしても, これを実際に使用している者が生活の本拠として平穏さを確保しているのであれば,同様に,本件管理規約12条1項に違反しない。

 

 障害者グループホームは,知的障害者が,過去,家族や住み慣れた地域から引き離されて, 僻地の入所施設に隔離収容されるなどした歴史的経緯に対する反省や, 知的障害者が自分の力で仕事を身につけて生活を整えるための場づくりなどといった考え方から,制度化されたものである。

障害者グループホームは,知的障害者が少人数制で障害のない人と同じように暮らす仕組みとして必要不可欠な制度であり, 知的障害者が特別な環境ではなく普通の環境の中で,地域住民として普通の生活を送るために,普通の住宅であることが求められている。

 障害者グループホームの現状としても,入居者の障害者グループホームに対する意見は「自由」,「静かさ」, 「安心」,「自分の家」,「家庭的」,「家」,「安心」といったものであり,周辺住民と良好な関係を築いている。

 本件各住戸の使用実態は,住宅としての使用に他ならないものである。 本件各住戸の入居者は,被告との間の指定共同生活介護サービス利用契約に基づき, 実質的には賃貸借契約における賃借人とほぼ同程度の保護が与えられている。 入居者の住民登録における住所地は本件各住戸である。 入居者は,本件各住戸において日常生活を営み,本件各住戸が自宅であると認識している。被告の職員は, 画一的な対応が求められる入居施設とは異なり,入居者に対し,食事や入浴の手助け等の日常生活の援助を行っているものの, 基本的に本件各住戸に職員が1名ずつ配置されている程度であり, 在宅介護サービスが提供される住居と差はない程度の人員配置となっている。

  そうすると,本件各住戸は,その実態としても各入居者の生活の本拠としてふさわしい平穏さが確保されている。

 

 本件管理組合が消防関係法令に基づき本件マンションに消防設備等を設置しなければならないか否かは, 被告が本件各住戸を本件管理規約12条1項所定の「住宅」として使用しているか否かとは無関係である。

 以上によれば,被告が本件各住戸を障害者グループホームとして使用することは, 本件管理規約12条1項の「住宅」としての使用に該当し,同規定に違反するものではない。


2 争点及び争点に関する当事者の主張ー争点2(管理規約の規定が無効か)

(2) 争点2 (本件管理規約12条の4及び12条の5の各規定が無効であるかどうか)

(被告の主張)

 

 本件管理規約12条の4及び12条5の各規定は,後記(被告の主張)のとおり,被告のみを狙い撃ちにし, 障害者差別の意図に基づくものであるから,公序良俗に反して無効である。

 

 本件管理規約に12条の4及び12条の5の各規定を追加する旨の変更は,区分所有法31条1項後段の  「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当するから, 本件各住戸の区分所有者の承諾を得なければならない。 しかし,本件管理組合は,本件各住戸の区分所有者から,上記変更につき,承諾を得ていないから,上記変更は無効である。

 

 被告は,約15年間にわたり,本件各住戸において,入居者に対して共同生活援助を行ってきたから, 本件各住戸の使用につき,本件管理規約12条の4及び12条の5の適用を受けない。


(原告の主張)

 

 被告は,本件各住戸の使用が住宅としての使用であると主張して, 本件管理規約12条1項に違反する状態の改善を拒んだため,本件管理組合は,被告以外の者による違反行為の発生を防ぐために, 本件管理規約に12条の4及び12条の5の各規定を追加する旨の変更を行った。

これらの規定は,本件マンションの住戸の専有部分の全ての区分所有者及び占有者に等しく適用されるものであって, 上記規約変更は,障害者差別を企図したものではない。

 

 被告による本件各住戸の使用は,専有部分をグループホームに供するものであり,本件管理規約12条の4に違反するとともに, 専有部分を特定防火対象物となる用途に供するものであり,本件管理規約12条の5に違反する。


2 争点及び争点に関する当事者の主張ー争点3(区分所有者の共同の利益)

(3) 争点3 債務不履行及び不法行為による損害

(原告の主張)

 

 本件マンションにおいて共同住宅特例の適用が除外されると, 本件管理組合は,多額の費用を投じて建物に屋内消火栓設備,放送設備及び自動火災報知設備を設置しなければならず, これらの費用を捻出するためには,修繕積立金を取り崩したり,区分所有者から一時金を徴収したりしなければならない。 また,上記消防用設備の新設に伴い,長期修繕計画の見直しも必要となり,修繕積立金の増額も必要となる可能性がある。

現在,本件マンションにおいて,共同住宅特例の適用は除外されていないが,適用が除外された場合の影響が重大であることに鑑みれば, 本件管理組合が多額の費用を投じて上記の対応をしなければならないリスクを排除することが,区分所有者の共同の利益に資する。

また,障害者グループホームの事業者が本件マンションの専有部分を障害者グループホームとして使用し, 本件管理規約12条1項に違反しているにもかかわらず, 共同住宅特例の適用が除外されない限り区分所有者の共同の利益に反する行為に該当しないと解することは, 先に障害者グループホームとしての使用を開始した事業者のいわゆる早い者勝ちを許容する結果になりかねず,妥当ではない。

 

 本件マンションにつき共同住宅特例が適用されても,本件管理組合は,本件マンションの安全の維持, 防災に関する業務を行わなければならない。 今後,本件マンションの専有部分において障害者グループホームを運営する事業者が増えた場合, 個々の障害者グループホームの位置関係や利用者の人数等の把握,これらを勘案した避難計画や消防計画の策定も必要になり, 場合によっては,障害者グループホームの運営主体との連携等も必要となる。 これらの負担は,専有部分が本件規約12条1項の「住宅」として使用されている場合には発生しないものであり, 障害者グループホームの事業者が住戸たる専有部分を障害者のための施設として使用することにより発生するものである。

 

 被告が本件各住戸を障害者グループホームとして使用していることに伴い,本件マンションの防火対象物の用途区分は, 非特定防火対象物(共同住宅)から特定防火対象物に変更された。これにより,本件管理組合は,消防法に基づき, 従前は不要であった防火対象物定期点検報告を実施する義務を負うことになった。

この負担も,本件各住戸が本件管理規約12条1項の「住宅」として使用されている場合には発生しないものである。 現在,本件管理組合は,消防署に対し,本件訴訟が係属している旨を報告して, 防火対象物定期点検報告の実施を見合わせてもらっているものの,その義務自体は免除されていない。

 本件管理組合が上記定期点検報告を実施する場合には, 障害者グループホームとして使用されている本件各住戸及び本件各住戸から1階の屋外までの避難経路についての現地確認等が必要となり, 本件管理組合の負担は増加する。本件マンションにおいて障害者グループホームとして使用される専有部分が増加すれば, 本件管理組合の負担はさらに増大する。

 

 以上によれば,被告が本件各住戸をグループホームとして使用することは, 区分所有法6条3項が準用する同条1項の区分所有者の共同の利益に反する行為に該当する。


(被告の主張)

 

 障害者グループホームは,普通の住宅での普通の生活を意図して制度化されたものであり, 障害者がグループホームに入居することは,障害のない者が戸建て住宅やマンションの住戸に入居するのと何ら変わりはない。

障害者グループホームにおける生活は,少人数での生活であり,近隣住民の平穏な生活を害することはない。 世話人等の関与もあるため,障害者グループがあることにより,近隣住民が何らかの負担を強いられたり,迷惑を被ったりすることはない。 本件マンションのような大型マンションの一部の専有部分において障害者グループホームを運営することは, マンションの区分所有者の共同の利益に反する行為ではない。

実際に,大阪府のような都市圏における障害者グループホームは,約67%が共同住宅内に設置され, そのうちの民間マンションの割合も32%に上る。このように,多数の障害者グループホームがマンション内に設置されている事実は, 障害者グループホームが設置されることによってマンション全体への大きな支障は及ばず,区分所有者の共同の利益に反していないことを示すものである。

 本件各住戸の入居者は,普通の暮らしを営んでいる。 被告又は本件各住戸の入居者が過去に本件マンションに関して何らかのトラブルを生じさせたこともない。

 

 被告が本件各住戸において障害者グループホームの事業を開始した平成15年から平成17年頃の時期は, 消防法施行令の改正前であり,本件グループホームの存否にかかわらず,本件マンションは,全体が非特定防火対象物であった。 そのため,本件グループホームは,上記事業開始当初,本件マンションの区分所有者の共同の利益に何らの影響を与えなかった。

消防関係法令の改正については,実質的に「住宅」であるグループホームの実態を踏まえつつ, マンションにおいて障害者グループホームが存続することができ,かつ他の区分所有者に負担が生じないように規制の修正等が施されたため, 本件マンションの区分所有者に現実的な負担は生じていない。

 本件においては,本件各住戸の入居者が適法,適切に入居を開始し,長年にわたり問題なく暮らしていること, 重度の障害を有する入居者にとって本件各住戸での生活と本件グループホームでの生活は切り離すことができないことを考慮すべきである。

 

 平成19年の消防法施行令の改正では,福祉施設における防火管理体制の義務が強化され, 消防用設備等の設置が義務化されたものの,その対象は,床面積が275u以上の施設であり,本件グループホームは対象となっていない。 上記改正により,本件マンションは全体が消防施行令別表第1の16項イの複合用途防火対象物となり, スプリンクラー,自動火災報知器,誘導灯の設置や,共同住宅特例の適用除外の可能性が生ずることとなったが, その後の運用により,本件マンションのように一定の防火区画が設置されている場合には,スプリンクラー,自動火災報知器, 誘導灯の設置義務は免除されることになり,本件マンションにおいても, 障害者グループホームとして使用されている本件各住戸における自動火災報知器の設置が義務付けられるのみとなった。 こうした運用は,障害者グループホームが住居であるという実情を考慮したものである。

 平成25年の消防法施行令の改正では,防火安全体制の規制が強化され,床面積275u以上との面積要件が撤廃されるなどしたものの, 自治体の判断による緩和措置(特例)を設けることが認められた。

大阪市は,共同住宅を利用したグループホームにつき,1住戸100u未満及び内装不燃若しくは3分以内に避難可能という要件に適合する場合には, スプリンクラーの設置を免除可能としたことから,本件グループホームにおいては,スプリンクラーの設置を要しないこととされた。

 防火対象物点検についても,令和2年12月23日の消防法施行規則の改正により,点検の範囲は, 障害者グループホームとして使用されている本件各住戸内と本件各住戸から1階屋外までの避難経路の点検のみで十分であるとされた。

 

 大阪市は,平成22年当時,共同住宅を利用した障害者グループホームにおける共同住宅特例につき, グループホームの部分の床面積の合計が建物全体の床面積の10%以下かつ300u未満という要件を設けていたところ, 本件グループホームを含めて上記要件を満たさない事例はなかった。

大阪市は,平成31年3月1日,共同住宅特例の要件を変更し,共同住宅に供する部分が共同住宅全体の50%を超えること, 障害者グループホーム部分の合計床面積が1000uを超えないこと,各障害者グループホームの床面積が100u以下であることを満たす場合には, 共同住宅全体につき共同住宅特例の適用を認めることとした。

 その結果,本件マンションにおいては,共同住宅特例の適用は継続しており,適用が除外されたことはない。 上記の共同住宅特例の要件についても,本件マンションにおいて床面積が100uを超える住戸はなく, また,251戸の住戸の約半数に当たる125戸が障害者グループホームとして使用されることや, 障害者グループホームとして使用される住戸の合計床面積が1000uを超えることは,現実的には起こりえない。

被告は,本件マンションにおいて,本件各住戸の2戸(合計床面積約107u)を使用するにとどまる。 したがって,本件マンションにおいて,共同住宅特例の適用が除外される現実的可能性はないといえる。

 

 本件マンションの管理費等の増加についても,令和2年12月の消防法施行規則の改正に伴い必要とされる防火対象物点検は, 本件各住戸内及びその避難経路の書類による点検のみで足り,本件管理組合に対して現実的に大きな負担を強いているとはいえないし, 現在,防火対象物点検は実施されていないから,その負担は現実化していない。仮に, 本件管理組合が負担すべき費用が増加したとしても,本件グループホームの存在により増加したものとはいえない。

 さらに,上記の防火対象物点検のうち本件各住戸内の点検は,被告が責任を持って行うものである。 避難経路の確認については,以前から消防用設備等の点検を実施している本件管理組合はこうした点検事務にも慣れているから, 大きな影響はない。本件管理組合が防火対象物点検を行うことは,本件マンション全体の防火安全性を向上させるものであり, 本件マンション全体の利益に資するものである。

 

 被告が本件各住戸を使用することが区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するかどうかは, 下記(4)(被告の主張)の点も考慮されるべきである。

 

 以上のとおり,被告が本件各住戸を障害者グループホームとして使用する必要性の程度, これによって他の区分所有者が被る不利益の有無及び程度等の諸事情を比較考慮すると, 被告が本件各住戸を障害者グループホームとして使用することは, 区分所有法6条3項が準用する同条1項所定の区分所有者の共同の利益に反する行為であるとはいえない。


2 争点及び争点に関する当事者の主張ー争点4(障害者への不当な差別)

(4) 争点4 (本件管理組合の被告に対するグループホーム事業の停止請求及び本件決議が,
     障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。)
     8条1項の「不当な差別的取扱い」及び障害者基本法4条1項の「障害を理由」とする
     「差別」に該当し,違法無効であるかどうか)

 (被告の主張)

 

 本件管理組合は,本件マンションの建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うために区分所有者が構成する団体であり, 障害者差別解消法8条1項の「事業者」に該当する。

 

 障害者差別解消法8条1項の「不当な差別的取扱い」とは,正当な理由なく,障害者を, 問題となる事務・事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことであるから, その要件は,@障害者が,A障害を理由として,B問題となる事務・事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者との比較において, C正当な理由なく,D権利利益の侵害を受けることである。

そして,本件管理組合の被告に対するグループホーム事業の停止請求及び本件決議は,以下のとおり,上記要件を充足する。

  (ア)

 障害者基本法2条1号及び障害者差別解消法2条1号に定める「機能の障害がある者」とは, 現に機能の障害がある者のみならず,障害福祉サービス事業者等の一般に「機能の障害がある者」のみと関係する者も含まれると解される。

被告は,「機能の障害がある者」のみを対象とした事業であるグループホーム事業を営む障害福祉サービス事業者であり, 一般に「機能の障害がある者」のみと関係する者に該当するから,上記@に該当する。

  (イ)

上記Aの「障害を理由として」とは,障害と不当な差別的取扱いとの間の結びつきを意味するところ, 障害ないしこれに随伴する症状,特性等が存在せず,又は差別的取扱いをする者がこれらを認識していなかったとすれば, 差別的な取扱いが行われていなかったであろうという関係が認められる場合には,上記結びつきが認められる。

 本件管理組合は,被告が本件各住戸を障害者グループホームとして使用していることを認識していなければ, 被告に対して本件各住戸における障害者グループホーム事業の停止請求や本件各住戸からの退去請求といった不利益な取扱いをしなかったから, 上記Aに該当する。

 (ウ)

 上記Bについて,被告との比較対象となるのは,本件マンションを住宅として使用している非障害者である。 本件管理組合の被告に対する本件各住戸におけるグループホーム事業の停止請求及び本件各住戸からの退去請求は, 被告のみを対象とするものであるから,上記Bに該当する。

 (エ)

 上記Cにつき,正当な理由は,客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり,その目的に照らしてやむを得ないといえる場合に限られる。

 被告は,本件各住戸において,障害者グループホームを運営し,障害のある利用者の住居として 使用しているから, 被告が本件グループホームの運営を継続したとしても, 本件マンションの他の住戸部分においてなし崩し的に障害者グループホーム以外の事業目的による使用や住居以外の目的による使用がされるおそれは生じない。
また,本件マンションにおいて共同住宅特例の適用が除外されるおそれはなく,本件管理組合の負担が増大するおそれもない。 そうすると,本件は上記Cに該当する。

 (オ)

上記(ア)ないし(イ)のとおり,本件管理組合は,被告に対し,障害を理由とする不当な差別的取扱いをしたから,上記Dに該当する。

 

 本件各住戸の入居者は,いずれも,平穏に,特段のトラブルもなく居住してきた。現に, 本件管理組合の元理事長であるCは,本件各住戸の前を通る機会があったものの,特段問題を感じたことがなかった。 本件管理組合は,従前,被告が本件各住戸を障害者グループホームとして利用していることを認識していたにもかかわらず, 被告に対し,本件管理規約に違反している旨を指摘しなかった。

 本件管理組合は,平成28年3月,o消防署から本件各住戸が福祉施設として利用されているとの指摘を受けたことを奇貨として, 本件マンションから障害者グループホームを排除するため,被告や入居者に対するヒアリング等の調査を実施することなく, 被告に対して退去を求めることを決定した。本件管理組合は,共同住宅特例の適用についても,調査を実施せず, 又は調査をした上でもなお,本件マンションから障害者グループホームを排除しようとした。 本件管理組合は,被告が本件グループホームの実態は住宅であると主張しているにもかかわらず,実態調査をしていない。

被告は,本件管理組合に対し,消防関係法令の遵守に関連して生じる費用を負担する旨を申し出たが,本件管理組合は, この申出を考慮しなかった。

 複数の株式会社が本件マンションの専有部分の住戸に株式会社本店や主たる事務所を設置しており, これらの住戸は住宅以外の用途に供されている可能性があるが,本件管理組合は, 住戸の使用についての実態調査や住宅以外の用途に供されている住戸の使用者に対する退去要請を行っていない。 本件管理組合のこのような対応の違いは,本件管理組合が本件マンションの専用部分において事業が行われていることを問題視しているのではなく, 障害者グループホームという障害にかかわる事業が行われることを問題視していることによるものである。

 

 以上によれば,本件管理組合の被告に対するグループホーム事業の停止請求及び本件決議は, 障害者差別解消法8条1項が禁止する障害を理由とする不当な差別的取扱い及び障害者基本法4条1項が禁止する障害を理由とする差別に該当し, 公序良俗に反して違法無効である。


 (原告の主張)

 

 被告は,本件各住戸を住宅以外の用途に供している。被告の主張は, 被告が本件各住戸を住宅として使用していることを前提とするものであるから,前提を欠き失当である。

 

 本件管理組合は,被告が本件各住戸を障害者グループホームとして使用していることが発覚して以降, 一貫して,被告による本件各住戸の使用が本件マンションの消防用設備の管理や防火体制に影響を及ぼし, 本件管理組合の負担が増大することを問題としてきた。 本件管理組合は,本件各住戸が本件管理規約に違反する用途に供されていることを解消するとともに, 被告による本件各住戸の使用が消防用設備の管理や防火体制に影響を及ぼすことを回避するため, 被告に対して,是正を求めた。

したがって,本件管理組合の被告に対するグループホーム事業の停止請求及び本件決議は, 障害者差別解消法8条1項が禁止する障害を理由とする不当な差別的取扱い 及び障害者基本法4条1項が禁止する障害を理由とする差別のいずれにも該当しない。


2 争点及び争点に関する当事者の主張ー争点5(請求金額)

(5) 争点5 (被告が本件管理規約68条2項に基づき負担する費用及びその額)

(原告の主張)
 被告は,原告に対し,本件管理規約68条2項に基づき,下記の民事調停に要した弁護士費用等
 及び訴訟提起に要した弁護士費用等の合計額85万0430円について,実費相当額の違約金の
 支払義務を負う。
 ア 民事調停に要した弁護士費用等 合計16万9630円
    着手金 16万2000円
    印紙代 6500円
    郵券代 530円
    登記事項証明書代 600円
 イ 訴訟提起に要した弁護士費用等 合計68万0800円
    着手金 21万6000円
    報酬金 43万2000円
    印紙代 2万6000円
    郵券代 5000円
    登記事項証明書代 1800円
 ウ 合計 85万0430円

(被告の主張)
 否認ないし争う。

第3 当裁判所の判断ー1 認定事実ー(1) 法令の定め等

1 認定事実
 前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる
 (認定根拠は,各事実の末尾に記載している。)。

 (1) 法令の定め等

  ア 別紙関係法令のとおり(公知の事実)
  イ 消防法及び消防法施行令に基づく規制の概要は,以下のとおりである。

  (ア)防火対象物の定期点検報告について

 

 学校,病院,複合用途防火対象物(防火対象物で政令で定める2以上の用途に供されるもの) その他多数の者が出入りし,勤務し,又は居住する防火対象物で政令によって定められるものの管理について権原を有する者は, 防火管理者を定めて,防火管理上必要な業務を行わせなければならない(消防法8条1項)。

消防法8条1項により防火管理者を定めなければならない防火対象物は,消防法施行令別表第1に掲げる防火対象物のうち, @各種老人ホームや避難が困難な障害者の共同生活援助のための施設等(同別表第1の6項ロ), 複合用途防火対象物のうち, その一部が病院や各種老人ホーム, 各種障害者の共同生活援助のための入所施設等を含む同施行令に掲げる防火対象物の用途に供されているもの (同別表第1の16項イ)及び地下街(同別表第1の16項の2(ただし及びについては, 同表6項ロに掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものに限る。)で,収容人員(当該防火対象物に出入りし,勤務し, 又は居住する者の数)が10人以上のもの(同施行令1条の2第3項1号イ), A劇場等,キャバレー等,飲食店等,百貨店等,旅館等,病院や診療所,老人デイケアサービスセンターや厚生施設,保育所, 障害者の共同生活援助の施設のうち上記@以外の施設及び幼稚園や特別支援学校,蒸気浴場,熱気浴場等の公衆浴場, 上記@並びに地下街(ただし上記@ 及び地下街にあっては,上記@の用途に供される部分が存するものを除く)で, 収容人員が30人以上のもの(同施行令1条の2第3項1号ロ),B寄宿舎や共同住宅,小学校や中学校等,図書館や博物館等, 蒸気浴場や熱気浴場以外の公衆浴場,車両の停車場,神社,工場,映画スタジオ,車庫,倉庫,これら以外の事業場等, 上記@以外の複合用途防火対象物及び重要文化財等の防火対象物で, 収容人員が50人以上のもの(同施行令第1条の2第3項1号ハ)と規定している。

 

 消防法8条1項により防火管理を義務付けられる防火対象物のうち火災の予防上必要があるものとして政令で定めるもの (特定防火対象物と呼ばれる。甲14) の管理権者には,防火対象物の定期点検報告が義務付けられている(同法8条の2の2第1項)。 特定防火対象物は,消防法施行令別表第1の1項から4項まで,5項イ,6項,9項イ, 16項イ及び16項の2項に掲げる防火対象物で,@収容人員が300人以上のもの, A同別表1の1項から4項まで,5項イ,6項及び9項イに掲げる防火対象物の用途に供される部分が避難階以外の階に存する防火対象物で, 当該避難階以外の階から避難階又は地上に直通する階段が2以上設けられていないものとされている(同施行令4条の2の2各号)。

なお,障害者グループホームは,従前,同施行令別表第1には規定されていなかったが, 平成19年6月13日の改正(平成21年4月1日施行)により, 別表第1の6項ロに「障害者自立支援法に規定する共同生活介護を行う施設(主として障害の程度が重い者を入所させるものに限る。)」, 別表第1の6項ハに「共同生活援助を行う施設(同項ロの施設を除く。)」として規定され, 平成25年3月27日の改正(平成27年4月1日施行)により,別表第1の6項ロに「共同生活援助を行う施設」 (避難が困難な障害者等を主として入所させるものに限る。), 同項ハに「共同生活援助を行う施設(同項ロの施設を除く。)」として規定された。

なお,消防庁予防課長「消防法施行令の一部を改正する政令等の運用について(通知)」 (平成26年3月14日消防予第81号)(乙33)によれば,同項ロの「避難が困難な障害者等を主として入所させるもの」とは, 障害者総合支援法に定める障害支援区分が4以上の者が概ね8割を超えることを原則とするとされている。

上記の定期点検報告が義務付けられる防火対象物の場合,管理権者は, 1年に1回,防火対象物における火災の予防に関する専門的知識を有する者で一定の資格を有する者(防火対象物点検資格者)に, 当該防火対象物における防火管理上必要な業務等(点検対象事項)について, 消防法等が規定する事項についての総務省令で定める基準(点検基準)に適合しているかどうかを点検させ, その結果を消防長又は消防署長に報告しなければならない(消防法8条の2の2第1項, 消防法施行規則4条の2の4第1項,同施行規則4条の2の6,平成14年消防庁告示第12号)。

なお,令和2年12月25日号外総務省令第123号による消防法施行規則の一部の改正及び同日の施行により, 消防法8条の2の2第1項の規定による防火対象物の点検について, 特定共同住宅等における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令(平成17年総務省令第40号) 2条1号に規定する特定共同住宅等(これに類する防火対象物であって, 火災の発生又は延焼のおそれの少ないものとして消防長又は消防署長が認めるものを含む。)に係る点検基準については, @消防法施行令別表第1の5項イ,6項ロ,ハに掲げる防火対象物の用途に供される部分及び A上記@に掲げる部分から地上に通ずる主たる廊下,階段その他の通路以外の部分に関する一部の点検項目 (避難上必要な施設等の管理,防炎対象物品の指定表示状況,圧縮アセチレンガス等の取扱等に関する届出状況, 消防用設備等の設置状況,消防用設備等の検査状況及び市町村長が定める基準の充足状況)について, 現地確認又は書面確認の点検が免除され,免除されない点検項目(防火管理者及び消防計画の届出状況, 自衛消防組織を置いた場合の届出状況,消防計画に基づく管理の実施状況並びに統括防火管理者及び消防計画の届出状況) はいずれも書面確認の方法により行われるものとなっている。

なお,上記@及びAの部分については,上記の全ての点検事項について, それぞれ書面確認ないし現地確認が必要となる(消防法施行規則4条の2の6第1項各号,同条2項1号)。


 (イ)消防用設備等に関する基準について

 

 学校,病院,複合用途防火対象物その他の防火対象物で消防法施行令別表第1に掲げる防火対象物 (消防法施行令6条)の関係者は,政令で定める技術上の基準に従って,一定の性能を有する消防の用に供する設備, 消防用水及び消火活動上必要な施設(消防用設備等)を設置し,維持しなければならない(消防法17条1項)。

 

 消防法17条1項が定める消防用設備は,消火設備,警報設備及び避難設備である。 消火設備は,水その他消火剤を使用して消火を行う機械器具又は設備をいい,消火器や屋内消火栓設備,スプリンクラー設備などがある。

警報設備は,火災の発生を報知する機械器具又は設備であり,自動火災報知設備やガス漏れ警報設備などがある。 同項が定める避難設備は,火災が発生した場合において避難するために用いる機械器具又は設備をいい,すべり台,避難はしご, 誘導灯などがある。同項が定める消防用水は,防火水槽又はこれに代わる用水である。 同項が定める消火活動上必要な施設は,排煙設備,連結散水設備などである(消防法17条1項,消防法施行令7条1項から6項まで)。

 

 消防長又は消防署長が,火災の発生又は延焼のおそれが著しく少なく,かつ, 火災等の災害による被害を最少限度に止めることができると認めるときは, 消防用設備等の設置及び維持の技術上の基準を定めた消防法施行令第2節の規定は適用されない(同施行令32条)。

    

大阪市は,「共同住宅等に係る消防設備等の技術上の基準の特例について」(昭和50年6月17日付け消防長訓(防・予)第18号) により,「共同住宅,寄宿舎,又は下宿は,常時多数の者が生活しているものであるが,いわば個人住宅の集合体であり, その構造によっては火災の危険性が著しく少いと認められるものがあることにかんがみ, 消防法施行令別表第15項ロに掲げる防火対象物(消防法施行令第8条の規定の適用により同項に掲げる防火対象物とみなされるものを含む。 以下「共同住宅等」という。)に係る消防用設備等の技術上の基準については, 次のとおり消防法施行令第32条の規定による特例を認めるものとする。」として,@消火器具,A屋内消火栓設備,屋外消火栓設備, 動力消防ポンプ設備,Bスプリンクラー設備,C自動火災報知設備,D非常警報設備につき, 特例(以下「共同住宅特例」という。)を定めた。共同住宅特例が適用される建物においては, @10階以下の部分について消火器具を設置しないことができ,A屋内消火栓設備,屋外消火栓設備, 動力消防ポンプ設備を設置しないことができ,B11階以上の階にある共用室にスプリンクラー 設備を設置しないことができ,C自動火災報知設備を設置しないことができ,D非常警報設備について, 非常ベル又は自動式サイレンを設けることで足り,放送用設備を設置しないことができることとされた。(甲29)

 d

 大阪市消防局長が平成25年7月29日付けで発出した「共同住宅の一部に福祉施設等が入居する場合の取り扱いについて (通知)」(消規第795号・消予第667号)(乙38)は,防火対象物の一部に福祉施設等が入居した場合, 防火対象物全体の用途が特定防火対象物となり,共同住宅特例が適用できなくなるため,屋内消火栓設備, 自動火災報知設備及び放送設備などの消防用設備等の設置が必要となる場合があるとしつつも, @共同住宅等及び福祉施設等の用途以外の用途に供する部分が存しないもの, A福祉施設等の床面積の合計が,延べ面積の10%未満,かつ,300u未満のもの, B福祉施設等の各独立部分(構造上区分された数個の部分の各部分で独立して住居その他の用途に供されることができる部分をいう。) の床面積がいずれも100u以下であること,C福祉施設等を含めて, 共同住宅特例の要件に適合していることの各要件に適合する共同住宅を対象に,共同住宅等の部分については, 消防法17条の3第2項4号の規定により必要となる消防用設備等を設置しないことができるものとした。

なお,福祉施設に関しては,上記a,bのとおり,原則として,面積にかかわらず,スプリンクラー設備の設置が義務付けられるところ, 大阪市消防局長が平成28年3月31日付けで発出した「小規模社会福祉施設等に係るスプリンクラー設備に関する技術上の基準の特例の適用について(通知)」 (消規第1501号・消予第1994号)(乙37)は,一定の要件に適合する小規模社会福祉施設等において, スプリンクラー設備を設置しないことができることとした。

また,大阪市消防局長が平成31年3月1日付けで発出した「共同住宅特例を適用している防火対象物の一部に住戸利用施設が入居する場合の取扱いについて(通知)」(乙39)は, @消防法施行令別表第1の5項ロに掲げる用途に供する部分及び住戸利用施設以外の用途に供する部分が存しないこと, A消防法施行令別表第1の5項ロに掲げる用途に供する部分の床面積の合計が,当該防火対象物の延べ面積の50%以上であること, B住戸利用施設の床面積の合計が,1000u未満であること,C住戸利用施設の各独立部分 (構造上区分された数個の部分の各部分で独立して当該用途に供されることができる部分をいう。)の床面積が, いずれも100u以下であること,C住戸利用施設を含めて,共同住宅特例の要件に適合していることの各要件に適合する防火対象物を対象に, 消防法施行令別表第1の5項ロに掲げる用途に供する部分については消防法17条の3第2項4号の規定により必要となる消防用設備等を設置しないことができることとした。


第3 当裁判所の判断ー1 認定事実ー(2) 本件マンションの概要

(2) 本件マンションの概要

 

 本件マンションは,昭和63年9月17日に新築された鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付地上15階建の区分所有建物である。 本件マンションは,JRp駅から徒歩17分,阪急q駅から徒歩16分,阪急r駅から徒歩14分の場所に位置する。(前提事実(2)ア,甲10,11)

 

 本件マンションの1階の9戸の専有部分は店舗であり,2階から15階までの251戸の専有部分は全て住戸である。 住戸の床面積は,狭いもので約46u,広いもので約77uである。多数の住戸の間取りは3LDKである。(前提事実(2)イ,甲1,11)

 

 本件マンションの分譲事業者であるE株式会社が作成した本件マンションの冊子には, 周辺環境について「現地より徒歩11分のs商店街は便利で楽しいショッピングゾーン。 その他,教育施設・公共施設・ファミリーレストランなども周辺に充実した,暮らしに便利な好環境」との記載がある。 同冊子には,その他にも,生活の利便性,快適性,安全性等が強調する事項が記載されていた。(甲10)


第3 当裁判所の判断ー1 認定事実ー(3) 本件マンションにおける消防用設備等の設置等

(3) 本件マンションにおける消防用設備等の設置等

 

 E株式会社は,昭和62年5月9日,大阪市消防長から,新築予定の本件マンションにつき, 共同住宅特例の承認を受けた。これにより,新築後の本件マンションの住戸部分においては, 屋内消火栓設備及び放送設備を設置しないことができ, 2階から10階までの部分につき自動火災報知設備を設置しないことができることとされた。(甲30)

 

 本件マンションの新築後,本件マンションの2階から15階までの住戸部分は, 消防法施行令別表第1の5項ロの「共同住宅」に該当し,本件マンション全体は, 同16項ロの「イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物」(非特定防火対象物)に該当するものとして扱われた。 (弁論の全趣旨)

 

 平成27年4月1日の改正消防法施行令の施行により, 障害者グループホームとして使用されている本件各住戸は,同施行令別表第1の6項ロの「共同生活援助を行う施設 (避難が困難な障害者等を主として入所させるものに限る。ハにおいて「短期入居等施設」という。)」又は同項ハの 「共同生活援助を行う施設(短期入所等施設を除く。)」に該当し,その結果,本件マンション全体は,同16項イの「複合用途防火対象物のうち, その一部が1項から4項まで,5項イ,6項又は9項イに掲げる防火対象物の用途に供されているもの」(特定防火対象物)に該当することとなった。
これに伴い,本件管理組合は,本件マンション全体につき,防火対象物の定期点検報告義務を負うことになった。 (甲13,14,弁論の全趣旨)

 

 本件管理組合は,平成28年,o消防署から,本件マンション内の一部の住戸の一部が福祉施設として使用されている旨の指摘を受け, 本件各住戸が障害者グループホームとして使用されていることが判明した。

当時,共同住宅特例の要件が変更されたため,本件マンションは共同住宅特例の要件に適合しない状態になっており, 本件管理組合は,本件マンションにつき,共同住宅特例による上記アの緩和措置を継続して受けるためには, グループホームとして使用されている住戸に一定の消防用設備を設置するなどの措置をとることが必要となった。

被告は,平成30年4月,55万0800円の費用をかけて,本件各住戸に必要な消防用設備として自動火災報知設備を設置した。 本件管理組合は,同年2月23日,大阪市消防庁に対し,共同住宅特例の承認の願出を行い,上記願出はその後承認された。 (甲33,乙5の1〜4,乙6,7,15,弁論の全趣旨)

 

 本件マンションでは,自動火災報知設備の設置義務が免除されていない11階から15階までの部分につき, 新築時に自動火災報知設備が設置されているところ,平成28年11月19日に開催された本件管理組合の通常総会において, 11階から15階までの部分に設置されている自動火災報知設備の更新工事について,1000万円の予算を計上することが承認された。 (甲38,証人C・4〜7頁)

 

 本件管理組合は,平成28年3月にo消防署から上記ウの指摘を受けた後,株式会社Fに対し, 防火対象物定期点検(年1回)の見積りを依頼したところ,同年8月23日,51万8400円(消費税込み)との提示を受けた。 なお,本件管理組合は,o消防署に対し,本件訴訟が係属している旨を説明した上で, 現在まで,防火対象物定期点検報告の実施を見合わせてもらっている。(乙8,弁論の全趣旨)


第3 当裁判所の判断ー1 認定事実ー(4) 本件訴訟に至る経緯

(4) 本件訴訟に至る経緯

 

 本件管理組合は,平成28年3月19日に開催された理事会において,o消防署からの上記ウの指摘を受け, 対応につき審議した結果,本件マンション内の住戸を福祉施設として使用することは本件管理規約に違反する行為であるから, その使用者に対して退去を依頼すること,退去時期については,即時退去までは求めず, 当該施設の対応を見守り今後の検討事項とすることが承認された。(甲32,証人C・15頁)

 

 本件管理組合は,被告に対し,平成28年6月1日付け書面により, o消防署から福祉施設として運営されている本件各住戸に自動火災報知機の設置が必要となるとの指摘を受けた。 理事会で審議した結果,福祉施設が運営され,個別に自動火災報知機が設置された場合でも, 非特定防火対象物から特定防火対象物へ用途変更がされ,それにより,本件マンション内の防火体制の変更が必要となり, 本件管理組合が大きな負担を負うことになる,本件各住戸において福祉施設を運営することは本件管理規約12条に違反する行為であるとして, 1年以内に本件各住戸から退去するよう求める旨の申入れを行った。

被告は,本件管理組合に対し,同年7月7日付け書面により,大阪市及び消防庁に問い合わせたところ, 被告が本件各住戸でグループホームを運営することによって本件マンション全体の防火体制について大きく変更する必要はないとの回答を受けた。 本件グループホームは障害者総合支援法5条15項の「住居」であるので, 被告は本件管理規約に違反していないとして,退去には応じない旨回答した。(甲5,6)

 

 本件管理組合は,平成28年7月16日に開催された理事会において,上記イの被告の回答を受け, 今後の対応について審議した結果,従前どおり本件マンションの2階以上の部分は全て住宅専用として運用していく方針であり, 今後は被告に対する訴訟も辞さない方針で交渉を進めていくことなどが承認された。(甲37)

 

 本件管理組合は,平成28年11月19日,通常総会を開催した。上記通常総会において, 本件管理規約に民泊,シェアハウス及びグループホームの禁止並びにバイク置場に関する文言を追加することを内容とする 「管理規約の変更に関する件」と題する議案(本件管理規約の変更日は平成29年1月1日)が提出された。

上記議案の審議において,代理出席者は,これまで15年グループホームに住み続けており, 理事会の役員との協議中であるから,グループホーム禁止の記載は削除して欲しいとの意見を述べた。 議長は,専有部分について住宅以外の使用は本来的に禁止されているところ, 平成28年3月に消防署から専有部分の2住戸がグループホームとして使用されており, 消防法改正により上記2住戸に火災報知設備の設置と共用部分全体の防火対象物点検等が必要になる旨の指摘を受けたことを踏まえ, 理事会で協議した結果,今後の対策として代表的にグループホーム等を記載したことなどを説明した。

上記議案は,組合員総数248名,議決権総数260個のうち,賛成組合員数196名,賛成議決権数208個, 反対組合員数4名,反対議決権数4個となり,区分所有者及び議決権の各4分の3以上の特別多数の賛成により承認された。(甲38)

 

 本件管理組合は,平成29年5月20日,臨時総会を実施した。上記臨時総会において, 被告への対応を弁護士に委任することを内容とする「グループホームの施設利用についての対応に関する件」と題する議案が提出された。 上記議案の審議において,出席賃借人は,点検費用の年額51万8400円を負担すればグループホームの使用を継続できるのかと質問した。 議長は,いったん持ち帰って検討すると回答するとともに,上記点検費用を負担する考えはあるのかと質問したところ, 出席賃借人は,全く負担できない金額ではないので,前向きに検討している旨回答した。 上記議案は,区分所有者及び議決権の各過半数の賛成により承認された。(甲39)

 

 本件管理組合から委任を受けた代理人弁護士は,被告に対し,平成29年6月21日付け通知書により, 被告が本件各住戸のグループホームとして使用することは本件管理規約12条1項に反する行為である, 被告が本件各住戸をグループホームとして使用しているため防火対象物の用途区分に変更が生じ, 本件管理組合は,消防法令に基づく新たな点検義務等が課され,負担の増加を余儀なくされているとして, 本件各住戸のグループホームとしての使用の停止を求める旨の通知書を送付した。

被告から委任を受けた代理人弁護士は,本件管理組合に対し,同年7月6日付け回答書により, グループホームは障害者総合支援法5条15項の「住居」であり, 被告による本件各部屋のグループホームとしての使用は本件管理規約12条1項に反するものではない, 本件管理組合による退去申出は,障害者差別に該当するものであり,許されないのであって, グループホームとしての利用を停止する必要はない旨回答した。(甲7,8)

 

 本件管理組合は,平成29年7月28日,大阪簡易裁判所に対し,被告を相手方として, 本件各住戸におけるグループホームとしての使用を停止するよう求める民事調停を申し立てたが(大阪簡易裁判所平成29年(ユ)第109号), 調停不成立により終了した。(甲9)

 

 本件管理組合は,平成30年4月21日,臨時総会を開催した。 被告に対して本件各住戸をグループホームとして使用する行為の停止を求めて訴訟を提起すること 並びに民事調停及び本件訴訟提起に係る弁護士費用等を請求することの承認を求めることを内容とする 「共同利益背反行為の停止請求訴訟に関する件」と題する議案の審議が行われ, 同議案は,区分所有者及び議決権の各過半数の賛成により承認された。(前提事実(4)イ)

 

 原告は,平成30年6月14日,本件訴訟を提起した。(当裁判所に顕著な事実)

 

 本件管理組合は,上記民事調停に要する費用として,弁護士に対する着手金16万2000円,印紙代6500円, 郵券代530円,登記事項証明書代600円を負担し,本件訴訟に要する費用として,弁護士に対する着手金 21万6000円,印紙代2万6000円,郵券代5000円,登記事項証明書代1800円を負担した。 (当裁判所に顕著な事実,甲9,弁論の全趣旨)


第3 当裁判所の判断ー1 認定事実ー(5) 被告による本件各住戸の使用状況

(5) 被告による本件各住戸の使用状況

 

 被告は,被告との間で指定共同生活介護サービス利用契約を締結した6名の利用者を,本件各住戸に3名ずつに分けて入居させている。 上記利用者は,いずれも,療育手帳の区分はA判定(重度の知的障害),障害支援区分は4又は5(区分は1から6までの6段階であり, 数字が大きいほど支援の度合いが高くなる)である。

上記利用者は,いずれも,入居中の住戸(m号室又はn号室のいずれか)を住所として住民登録している。 (乙1の1〜3,乙2の1〜3,乙9,証人D・4,5頁)

 

 本件各住戸に入居している利用者は,午前6時から午前7時頃に起床し,被告の職員が調理した朝食をとり, 午前9時頃に,被告の職員の付添いで,作業所又はデイサービスへ出発する。利用者は,午後3時半から4時半頃に,本件各部屋へと戻り, 午後5時半頃に被告の職員が調理した夕食をとり,その後は入浴や趣味の時間等を過ごし,午後9時から10時頃に就寝する。 被告は,m号室については,宿直者に午前8時頃まで常駐させ,利用者の朝食の手助け等を行うが,n号室については, 巡回員による巡回のみで対応している。

被告の職員は,利用者が作業所等へ行っている間は本件各住戸に滞在しておらず, 利用者が本件各住戸に戻る前の午後2時から午後3時頃に本件各住戸に入って利用者を受け入れる準備を行い, その後利用者を迎え入れて,夕食や入浴の手助けを行う。被告の職員は,午後8時頃,m号室については宿直者と交代し, n号室については巡回員に交代する。本件各住戸の鍵は,被告の職員が管理している。 被告の職員は,合計5,6名で本件各住戸の担当を交替している。(乙10,24,55,証人D・12,13,15,16,20頁)


第3 当裁判所の判断ー争点1(管理規約に違反するか)

2 争点1 (被告が本件各住戸をグループホームとして使用することが,
        本件管理規約12条1項に違反する行為であるかどうか)について

 (1)

 本件管理規約(甲1の1)は, 区分所有法30条1項の「建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」として定められた規約であり, 区分所有者の共同の利益を増進し,良好な住環境を確保することを目的とし(1条), 区分所有者は,その専有部分を住宅として使用するものとし,他の用途に供してはならないと定めている(12条1項)。

本件マンションの専有部分が住宅以外の用途に供された場合,良好な住環境が確保されなくなるおそれがあるだけでなく, 本件マンションの維持管理の在り方に変動が生じ,建物又は敷地若しくは附属施設の管理に要する負担及び費用が増加するなどして, 区分所有者の共同の利益が損なわれるおそれがある。

そうすると,区分所有者又は占有者が専有部分を住宅として使用しているというためには, 住宅としての平穏さが確保される態様,即ち生活の本拠として使用しているとともに,その客観的な使用の態様が, 本件管理規約で予定されている建物又は敷地若しくは附属施設の管理の範囲内であることを要すると解するのが相当である。

 (2)

 まず,被告が本件各住戸を生活の本拠として使用しているか否かについて検討すると,被告は, 平成15年8月11日から平成21年2月13日にかけて,順次, 被告との間で指定共同生活介護サービス利用契約を締結した合計6名の利用者(いずれの利用者も重度の知的障害を有している)を本件各住戸に入居させた (前提事実(2)イ,認定事実(5)ア)。

上記各利用者は,被告の職員から食事の調理や鍵の管理等について援助を受けながら,現在に至るまで, 本件各住戸に居住している(認定事実(5)イ)。本件各住戸に出入りする者は,入居者及び被告の担当職員に限られており(認定事実(5)イ), 不特定多数の者が本件各住戸に出入りしていることを認めるに足りる証拠はない。

これらの事実によれば,被告は,上記利用契約を締結した利用者の生活の本拠として本件各住戸を使用していることが認められる。

 (3)

 次に,本件各住戸の客観的な使用の態様が, 本件管理規約で予定されている建物又は敷地若しくは附属施設の管理の範囲内であるか否かについて検討する。

  ア

 本件マンションの2階から15階までの専有部分は,従前,消防法施行令別表第1の5号ロの「共同住宅」であり, 本件マンションは,1階の店舗部分を合わせても,同表16号ロの「イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物」 (非特定防火対象物)として扱われていた(認定事実(1)イ(ア)b,(3)イ)。

本件マンションの総戸数は260戸であり,収容人員は少なくとも260名であるから(前提事実(2)ア), 本件管理組合は,防火管理者を置かなければならないものの(消防法8条1項,消防法施行令第1条の2第3項1号ハ, 認定事実(1)イ(ア)a),本件マンションは,本来,特定防火対象物としての消防法令上の規制を受けない建物である。

ところが,本件各住戸の6名の入居者は,いずれも障害支援区分が4又は5であるから(認定事実(5)ア), 本件グループホームは,消防法施行令別表第1の6項ロの「共同生活援助を行う施設(避難が困難な障害者等を主として入所させるものに限る。)」に該当する。
そうすると,本件マンションは,本件グループホームが存在することにより,その一部が共同生活援助を行う施設としての用途に供されていることとなり, 本件マンション全体が,特定防火対象物としての複合用途防火対象物(消防法施行令別表第1の16項イ)に該当することになる。

そのため,本件管理組合は,本件マンションについて,年に1回,防火対象物点検資格者に対して,本件マンションの点検を依頼し, その点検結果を消防長等に報告する義務を負うことになる(消防法8条の2の2第1項,消防法施行規則4条の2の4第1項,同規則4条の2の6)。

その点検内容は,グループホームの用途に供されている本件各住戸及び本件各住戸から地上に通ずる主たる廊下,階段その他の通路については, 消防法施行規則4条の2の6第1項各号(@防火管理者及び消防計画の届出状況,自衛消防組織を置いた場合の届出状況, 消防計画に基づく管理の実施状況並びに統括防火管理者及び消防計画の届出状況,A避難上必要な施設等の管理, 防炎対象物品の指定表示状況,圧縮アセチレンガス等の取扱等に関する届出状況,消防用設備等の設置状況, 消防用設備等の検査状況及び市町村長が定める基準の充足状況)の全ての点検基準について, 書面確認または現地確認を,それ以外の部分については,上記@の点検基準について,それぞれ書面によって確認するものである。 (消防法施行規則4条の2の6第1項各号,同条2項1号,令和2年12月25日号外総務省令第123号)

そうすると,被告が本件各住戸をグループホームとして使用していることに伴い,本件管理組合は, 新たに上記の防火対象物点検義務を負担しなければならなくなったものと認められる。ところが,本件管理規約(甲1の1・2)には, 平成28年11月19日の改正の前後を通じて, 本件マンションが特定防火対象物となる用途に供されることを前提とする火災の予防等の対策を定めた規定はないから, このような防火対象物点検は,本件管理規約で予定されている建物又は敷地若しくは附属施設の管理の範囲外のものといえる。

  イ

 本件マンションは,被告が本件各住戸をグループホームとして使用しているかどうかにかかわらず, 複合用途防火対象物であるから(消防法8条1項,消防法施行令別表第1の16項), 本件管理組合は,原則として,消防用設備等の設置義務を負う(消防法17条,消防法施行令6条)。

上記設置義務は,消防長等が,消防用設備等の基準によらなくとも火災の発生や延焼のおそれが著しく少なく,かつ, 火災等の災害による被害を最少限度に止めることができると認めた場合に限り,緩和されるところ(消防法施行令32条), 本件マンションを分譲したE株式会社は,昭和62年5月9日,大阪市から,本件マンションにつき,共同住宅特例の承認を受けた。

本件管理組合は,平成28年にo消防署から本件マンション内の一部の住戸がグループホームとしての使用されている旨の指摘を受けた後, 共同住宅特例の基準に適合するように,本件各住戸に自動火災報知設備を設置した上で,大阪市消防長に対し, 共同住宅特例の適用の願出を行い,承認を受けた(認定事実(1)イ(イ)c・d,同(3)ア,ウ)。

なお,現在,本件マンションに適用される共同住宅特例の床面積に関する要件は,共同住宅の用途に供する部分の床面積の合計が, 本件マンションの延べ面積の50%以上であること, 住戸利用施設の床面積が合計1000u未満であること,住戸利用施設の各独立部分の床面積がいずれも100u以下であることなどとなっており, 従前の要件から緩和されている(認定事実(1)イ(イ)d)。

上記の経緯によれば,本件マンションの分譲当時,共同住宅特例の適用は, 本件マンションが福祉施設等の住戸利用施設がない複合用途防火対象物であることが前提とされており,本件管理組合において, 福祉施設等の住戸利用施設の存在は想定されていなかったところ,本件管理組合は,o消防署からの指摘を受け, 住戸利用施設の存在を前提としてもなお共同住宅特例の適用を維持するために, 本件各住戸に自動火災報知設備を設置することを余儀なくされたといえる。

また,本件各住戸の床面積はいずれも約56uであり,合計しても約112uである(前提事実(2)イ)から,現在, 本件マンションは,共同住宅特例における面積要件に適合しているが,将来,本件マンションにおける福祉施設等としての使用が増加した場合, その合計床面積が1000uを超える可能性は否定できない。そして,本件マンションにつき共同住宅特例が適用されない場合, 本件管理組合は,共同住宅特例により免除されていた消火器具や屋内消火栓設備,屋外消火栓設備,動力消防ポンプ設備, スプリンクラー設備,自動火災報知設備及び非常警報設備の設置が義務付けられ(認定事実(1)イ(イ)c), 多額の費用の負担を余儀なくされる(なお,証人Cは,これらの設備の設置に数千万円以上の費用がかかる旨証言する(証人C・6〜7頁))。

そうすると,被告が本件各住戸をグループホームとして使用しているため,本件管理組合は, 共同住宅特例の適用を維持するための対応を余儀なくされるとともに,共同住宅特例の要件に適合しなくなる危険を負担しているものと認められる。

ところが,本件管理規約(甲1の1・2)には,平成28年11月19日の改正の前後を通じて, 本件マンション内に福祉施設等の住戸利用施設が存在することを許容することを定めた規定はない。

一部の区分所有者が専有部分を福祉施設等の住戸利用施設として使用することに伴い本件マンションが共同住宅特例の要件に適合しなくなる危険を負担することは, 本件管理規約で予定されている建物又は敷地若しくは附属施設の管理の範囲外のものといえる。

 (4)

 以上によれば,被告は,被告との間で指定共同生活介護サービス利用契約を締結した利用者の生活の本拠として本件各住戸を使用しているが,その客観的な使用の態様は, 本件管理規約で予定されている建物又は敷地若しくは附属施設の管理の範囲外のものと認められる。 被告が本件各住戸をグループホームとして使用することは,本件管理規約12条1項の規定に違反する行為に該当する。

 (5)

 被告は,本件各住戸の使用が本件管理規約12条1項の「住宅」としての使用であるか否かは, 本件各住戸が居住者の生活の本拠であるか否かによって判断されるべきであり, 本件管理組合が消防関係法令に基づき本件マンションに消防用設備等を設置しなければならないか否かは, 被告が本件各住戸を同項の「住宅」として使用しているか否かとは無関係である旨主張する。

しかし,上記のとおり,専有部分が住宅以外の用途に供された場合,良好な住環境が確保されなくなるおそれがあるだけでなく, 管理の在り方に変動が生じ,区分所有者の共同の利益が損なわれるおそれがあるため, 本件管理規約12条1項の規定は,専有部分の使用の用途を住宅に限定したものと解される。

本件マンションの専有部分が同項の「住宅」以外の用途に供されているか否かを判断するに際し, 本件管理組合の業務等に及ぼす影響の有無を考慮することは合理性を有すると解される。
 よって,被告の上記主張は採用できない。


第3 当裁判所の判断ー争点3(区分所有者の共同の利益に反するか)

3 争点3 (被告が本件各住戸をグループホームとして使用することが,区分所有法6条3項により
       準用される同条1項の「区分所有者の共同の利益に反する行為)に該当するかどうか)
       について

 (1)

 区分所有法は,区分所有者及び専有部分の占有者に対して, 「建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」と規定し(区分所有法6条1項,3項), これに違反した場合,他の区分所有者の全員は,区分所有者の共同の利益のため, 行為の停止等を請求することができ,また,管理者等は,集会の決議に基づいて,訴訟の提起をすることができる(同法57条1項ないし4項)。

そして,区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するかどうかは,当該行為の必要性の程度, これによって他の区分所有者が被る不利益の態様,程度等の諸般の事情を比較考量して決すべきものであると解するのが相当である。

 (2)

  これを本件についてみると,上記2のとおり,被告が本件各住戸をグループホームとして使用する行為は, 本件管理規約12条1項の規定に違反するものである。 本件管理規約は, 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互の利害調整のための共通規範として制定されたものである(区分所有法30条参照)から, 本件管理規約に違反する行為は, 共同の利益に反する行為に該当するか否かの考慮要素として重視されるべきである。

また,上記2のとおり,被告が本件各住戸をグループホームとして使用することにより,本件管理組合は, 法令に基づき,本件マンションにつき防火対象物点検義務を負うとともに, グループホームの用途に供されている本件各住戸への自動火災報知設備の設置義務を負うこととなり, 管理業務の負担を余儀なくされている。

防火対象物点検の費用は,1年当たり51万8400円が見込まれており(認定事実(3)オ), 相当に高額である。本件管理組合は,現在に至るまで,共同住宅特例の適用を受け, 10階以下の部分の消火器具の設置義務,屋内消火栓設備,屋外消火栓設備, 動力消防ポンプ設備の設置義務等を免れているが,将来にわたり,本件マンション内の消防用設備の設置の要否につき, 福祉施設等の住戸利用施設の増減にかかわらず,共同住宅特例の適用において, このような住戸利用施設が存在しない場合と同等の取扱いがされることが確実であることを認めるに足りる証拠はない。

こうした負担が現実化した場合には,本件管理組合の経済的負担等に影響を及ぼすことは明らかであるし, こうした負担が現実化しない場合であっても,本件管理組合は,福祉施設等の住戸利用施設が存在する限り, こうした負担が現実化する場合に備えた対応を検討しなければならないから, 他の区分所有者が被る不利益の態様や程度を軽視することはできない。

これに対し,被告が本件各住戸で営む障害者グループホーム事業は, 障害を有する利用者に共同生活の場所を提供するという公益性の高い事業であることは否定できない。 しかしながら,被告が本件管理規約12条1項の規定に違反して本件各住戸において事業を営むことによる利益が, 他の区分所有者が被る不利益よりも優先されるとは認められない。

なお,被告は,本件マンション以外のマンション等においてもグループホームを経営していることが認められる(証人D・16頁)から, 被告が本件各住戸以外の建物においてグループホームを経営することができないとはいえない。

以上のとおり,被告が本件各住戸をグループホームとして使用する必要性の程度, これによって他の区分所有者が被る不利益の態様,程度等の諸事情に鑑みれば,被告が本件各住戸をグループホームとして使用する行為は, 区分所有法6条3項により準用される同条1項の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に該当すると認められる。

したがって,原告は,被告に対し,区分所有法57条4項により準用される同条1項に基づき, 本件各部屋をグループホームとしての使用する行為の停止を求めることができる。

 (3) ア

 被告は,障害者がグループホームに入居することは障害のない者が戸建て住宅やマンションの住戸に入居することと何ら変わりない, 障害者グループホームにおける生活が近隣住民の平穏な生活を害することはないし,実際にそのようなトラブルは生じていない, 実際に都市圏における障害者グループホームの多くは,マンションなどの共同住宅内に設置されているとして, 被告が本件住戸をグループホームとして使用する行為は区分所有者の共同の利益に反する行為に該当しない旨主張する。

しかし,上記のとおり,被告が本件各住戸をグループホームとして使用することにより,本件管理組合は,防火対象物点検義務を負うとともに, 将来における消防用設備の設置に伴う多額の金銭的負担の危険を負うことを余儀なくされている。

この点について,被告は,こうした業務や金銭の負担は,大きなものではないし,本件マンションの防火体制に資するものであるとも主張するが, 本件管理組合と被告との間において被告がそのような費用を負担する旨の合意が成立したことを認めるに足りる証拠はないし, グループホームとは無関係の専有部分の区分所有者にそのような費用を負担させるべき合理的理由を見いだすことはできない。
 よって,被告の上記主張は採用できない。

 

 被告は,被告が本件各住戸をグループホームとしての使用していることより本件マンションの管理に生じた影響は, 本件各住戸における自動火災報知設備の設置や,本件各住戸及びそこから1階屋外までの避難経路の防火対象物点検にとどまる, 区分所有者に具体的な費用負担は生じておらず,上記点検業務等は被告が責任を持って行うものであるとして, 被告が本件各住戸をグループホームとして使用していることは本件管理組合に大きな影響を及ぼすものではない旨主張する。

しかし,防火対象物の点検は,防火対象物の管理権者が責任主体として行うべきもの(消防法8条の2の2第1項)であり, 被告のみで行うことができるものではなく,本件管理組合と協力して実施する必要がある。 現時点では,本件管理組合において,消防用設備の設置に伴う費用負担は発生していないが(認定事実((2)オ),本件管理組合は, 共同住宅特例が適用されない限り,被告が本件各住戸をグループホームとして使用していることに伴い, 消防用設備を設置する法令上の義務を負うから, 消防用設備の設置に伴う費用負担の現実的可能性が皆無であるとはいえない。

なお,本件マンションにおいて被告と同様の福祉施設の利用が増加した場合, 本件管理組合はその全専有部分について防火対象物点検に協力しなければならず,相応の負担になることは明らかである。
 よって,被告の上記主張は採用できない。

 

 被告は,現時点において本件マンションにつき共同住宅特例の適用は除外されていない, 大阪市における共同住宅特例の運用状況等からすれば,本件マンションにつき共同住宅特例が適用されない現実的可能性はないとして, 被告が本件各住戸をグループホームとして使用していることによる本件管理組合の管理業務への影響は生じていない旨主張する。

しかし,現時点において,本件マンションにつき,共同住宅特例の適用が継続しているとしても, 今後,本件マンションにおける障害者グループホームや高齢者福祉施設等の住宅利用施設としての利用が増加することによって, 本件マンションが共同住宅特例の要件を充足しなくなる可能性が皆無であることを認めるに足りる証拠はない。 将来の負担増加の可能性を考慮して本件管理組合の管理業務への影響を検討することには合理的理由があるといえる。

また,本件管理組合は防火対象物点検義務を負うに至っているから, 被告が本件各住戸をグループホームとして使用していることにより本件管理組合の管理業務への影響が現実に発生していることは明らかである。
 よって,被告の上記主張は採用できない。

 

 被告は,被告が本件各住戸を使用することが区分所有者の共同の利益に反する行為に該当するかどうかは, 本件管理組合の被告に対するグループホーム事業の停止請求及び本件決議が, 障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当する点も考慮されるべきである旨主張する。

しかし,後記4のとおり,本件管理組合の被告に対するグループホーム事業の停止請求及び本件決議は, 障害を理由とする不当な差別的取扱いには該当しない。
 よって,被告の上記主張は,前提を欠き採用できない。


第3 当裁判所の判断ー争点4(障害者への不当な差別)

4 争点4 (本件管理組合の被告に対するグループホーム事業の停止請求及び本件決議が,
       障害者差別解消法8条1項の「不当な差別的取扱い」及び障害者基本法4条1項の
       「障害を理由」とする「差別」に該当し,違法無効であるかどうか)について

 (1)

 障害者差別解消法8条1項及び障害者基本法4条1項の「差別」とは,いずれも, 障害を理由とする差別の解消を目的とする上記各法律の目的等に鑑み,不利益取扱い一般を指すものと解される。

また,障害者基本法4条1項の「障害を理由」とする行為かどうかについては,少なくとも, 障害ないしこれに随伴する症状,特性等が存在せず,又は不利益取扱いの行為者がこれらを認識していなかったとすれば, 不利益な取扱いが行われていなかったであろうという関係が認められる場合には, これに当たるものと解するのが相当である。

 (2)

 本件管理組合は, 被告が本件各住戸をグループホームとして使用することが本件管理規約12条1項に違反する行為であることを理由として, 被告に対し,本件各住戸をグループホームとして使用する行為の停止を求めている。

上記請求は,被告による本件各住戸の使用の態様が同項規定に違反していることを理由とするものであることからすれば, 上記請求が障害者基本法4条1項の障害を理由とする不利益な取扱いに当たるかどうかは, 障害を有しない者が本件管理規約12条1項の規定に違反した場合における本件管理組合の対応と比較して検討するのが相当である。

障害を有しない者が本件管理規約12条1項の規定に違反した場合における本件管理組合の対応についてみると, 本件全証拠に照らしても,障害を有しない区分所有者又は占有者が専有部分を住宅以外の用途に供した場合であれば, 本件管理組合が当該区分所有者又は当該占有者に対して当該専有部分を住宅以外の用途に供する行為の停止を求めなかった事情が存在したとは認められない。

そうすると,本件管理組合が被告に対して本件各住戸をグループホームとして使用する行為の停止を求めることは, 障害を理由とする不利益な取扱いであるとは認められない。

以上によれば,本件管理組合の被告に対するグループホーム事業の停止請求及び本件決議が, 障害者差別解消法8条1項の「不当な差別的取扱い」や障害者基本法4条1項の「障害を理由」とする「差別」に該当し, 違法無効であるという被告の主張は,その余について検討するまでもなく,理由がない。

 (3) ア

 被告は,障害を理由とする不利益な取扱いであるか否かの検討において被告と比較対象すべき者は, 本件マンションの専有部分を「住宅」として利用している非障害者である旨主張する。 しかし,上記2において検討したとおり,被告は,本件各住戸を本件管理規約12条1項所定の「住宅」以外の用途に供し, 同項の規定に違反している。

本件管理組合が被告に対して本件各住戸をグループホームとして使用する行為の停止を求めることが障害を理由とする不利益な取扱いであるか否かの検討において, 本件マンションの専有部分を同項所定の「住宅」の用途に供し,同項を遵守している非障害者を比較対象とすることは合理性を欠くといえる。
 よって,被告の上記主張は採用できない。

 

 被告は,@本件管理組合は,被告が本件各住戸をグループホームとして使用していることを認識していたのに, 被告に対して何ら指摘しなかったこと,A本件管理組合は,平成28年にo消防署から指摘を受けると, 被告による防火対策費用負担の申出を考慮せず,実態調査等もすることなく被告の排除を進めたこと, B複数の株式会社が本件マンション内の専有部分に本店又は主たる事務所を置いているにもかかわらず, 本件管理組合は,これらの会社に対して当該専有部分から退去するよう求めていないことからすれば, 本件管理組合が被告に対して本件各住戸をグループホームとして使用する行為の停止を求めることは障害を理由とする不当な差別的取扱いである旨主張する。

上記@について,証拠(証人C・13頁)によれば,本件管理組合の元理事長であるCは,n号室の前の廊下を通った際, 障害者がn号室に居住していることを認識したことが認められるけれども, このような事実によっては,本件管理組合が,本件各住戸がグループホームの用に供されていることを認識していた事実を推認するに足りない。

なお,被告は,本件各住戸を各区分所有者から賃借するに際し,本件管理組合に対し, 本件各住戸をグループホームとして使用することを説明しなかった旨主張する(平成30年12月14日付け準備書面3頁)。

 上記Aについて,本件管理組合は,本件各住戸がグループホームの用途に供されていることが判明したため, これを運営する被告に対し,本件各住戸をグループホームとして使用しないよう求めたことが認められる(認定事実(4)ア,イ)。

上記Bについて,証拠(乙19,乙20の1・2,乙21)によれば,株式会社Gは本件マンションのt号室に本店を置き, H株式会社は本件マンションのu号室に本店を置いていることが認められる。 しかし,株式会社Gの代表取締役の住所地は同社の本店所在地と同一であり, H株式会社の代表取締役の住所地は同社の本店所在地と同一である(乙20の1・2,乙21)。
そうすると,t号室及びu号室が会社の本店所在地とされている事実によっては,これらの住戸が住宅以外の用途に供されている事実を推認するに足りない。
 よって,被告の上記主張は採用できない。


第3 当裁判所の判断 ー争点5(請求金額)

5 争点5 (被告が本件管理規約68条2項に基づき負担する費用及びその額)について

 (1)

 本件管理規約68条1項は,区分所有者又は占有者が区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合には, 本件管理組合は区分所有法57条から60条までの規定に基づき必要な措置をとることができる旨を規定し, 同条2項は,本件管理組合が本件管理規約に違反した者に対し訴訟等の法的措置を行った場合, その違反者に対して, 弁護士費用等その他の法的措置に要する費用について実費相当額を請求することができる旨規定している(前提事実(4)ア)。

被告は,本件各住戸の使用方法につき, 区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う(区分所有法46条2項)から, 専有部分の使用についての違反行為に対する措置を定めた本件管理規約68条1項及び同条2項の規定は, 本件各住戸の占有者である被告にも適用されると解される。

 (2)

 本件では,上記2ないし4のとおり,被告が本件各住戸をグループホームとして使用することは, 本件管理規約12条1項の規定に違反し,かつ,区分所有者の共同の利益に反する行為であるから, 他の区分所有者の全員は,被告に対して, 区分所有法57条4項が準用する同条1項に基づき, 本件各住戸をグループホームの用に供する行為の停止を請求することができ, 管理者である原告は,集会の決議に基づいて被告に対する訴訟を提起することができる。

そして,本件管理組合が被告に対して本件各住戸をグループホームとして使用する行為の停止を求める民事調停を申し立てたこと, 原告が本件決議に基づいて本件訴訟を提起したことが認められる(認定事実(4)キ,ク,ケ)から, 原告は,被告に対し,本件管理規約68条2項に基づき,実費相当額を請求することができる(区分所有法26条4項参照)ところ, 本件管理組合は,民事調停に要する費用として,弁護士に対する着手金16万2000円, 印紙代6500円,郵券代530円,登記事項証明書代600円を負担し,本件訴訟につき要する費用として, 弁護士に対する着手金21万6000円,印紙代2万6000円,郵券代5000円,登記事項証明書代1800円)を負担したことが認められる (認定事実(3)コ)。

また,原告の被告に対する本件各住戸をグループホームとして使用することの停止を求める請求には理由があるから, 本件管理組合は,本件決議に基づき,弁護士に対する報酬として43万2000円の支払義務を負うこととなる。 そうすると,被告は,原告に対し,本件管理規約68条2項に基づき, 法的措置に要する費用についての実費相当額の違約金85万0430円の支払義務を負う。


第4 結論

以上によると,原告の請求はいずれも理由があるから,これらをそれぞれ認容し,主文のとおり判決する。
なお,主文第1項について,仮執行宣言は,相当でないから,これを付さないこととする。

    大阪地方裁判所第22民事部
      裁判長裁判官   龍 見 昇
          裁判官   坂 川 波 奈 子
          裁判官   大 山 洸 来

(別紙物件目録省略)

(2022年4月22日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 22 April 2022/ Revised Publication -time to time)