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ハラスメント(14) 【控訴審判決】 (REASONS FOR DECISION) (2023 ONSC 3834)

【年度別目次】 (2021)  (2022)  (2023)  (2024)

この頁は(14)です
No.事件番号件名判決日
(7)2023 ONCAT 9 (7) 【抗告】弁護士資格剥奪の申立て・却下 2023年1月25日
(8)2023 ONCAT 10 (8) 【抗告】弁護士資格剥奪の申立て・却下 2023年1月26日
(9)2023 ONCAT 36 (9) 【抗告】訴えを却下(裁判管轄) 2023年3月7日
(10)2023 ONCAT 37 (10) 【判決】訴えを却下(通気口ベントダンパー) 2023年3月10日
(11)2023 ONCAT 46 (11) 【判決】事件記録提出請求棄却 2023年3月21日
(12)2023 ONCAT 48 (12) 【抗告】双方の申立てを却下(裁判管轄) 2023年3月22日
(13)2023 ONSC 3758 (13) 【控訴審判決】控訴棄却2023年6月26日
(14)2023 ONSC 3834 (14) 【控訴審判決】言い渡しを延期 2023年6月27日
(15)2024 ONSC 4415 (15) 【控訴審判決】控訴棄却 2024年8月8日
解説:(2023.04,20) 【ハラスメント概論と判例 目次】 

【控訴審判決】 (REASONS FOR DECISION) (2023 ONSC 3834)

ONTARIO SUPERIOR COURT OF JUSTICE

DATE: 2023-06-27
COURT FILE NO.:: CV-20-3993
Citation: Rahman v. Peel Standard Condominium Corp. No. 779, 2023 ONSC 3834
BETWEEN:Aqib Rahman Plaintiff -and-
           Peel Standard Condominium Corporation No. 779 Defendant
Aqib Rahman, acting in person
Antoni Casalinuovo & Victor Yee , for the defendant
Heard: May 31, 2023
Justice. STRIBOPOULOS J.:

【判決理由】 (REASONS FOR DECISION) (2023 ONSC 3834)

判決日:     2023年6月27日
事件番号:  CV-20-3993
事件名:    ラーマン 対 ピール スタンダード コンドミニアム管理組合(登記番号779), 2023 ONSC 3834
原 告:    アキブ・ラーマン/本人弁護
被 告:    ピール スタンダード コンドミニアム管理組合(登記番号779)(”PSCC779”と略)
         代理人  アントニー・カサリヌォーヴォ、ビクター・イー
聴聞開催日:2023年5月31日
裁判官:    ステリボポロス J

判決理由 (REASONS FOR DECISION)

序文(ntroduction)
[1] この訴訟は、コンドミニアムの区分所有者と管理組合との間の紛争に関するものである。この
  紛争は、駐車場に関する両者の意見の相違から始まった。残念ながら、この紛争はその時より
  もはるかに拡大し、双方が相手に対して嫌がらせやそれ以上の行為を行ったと競合する主張を
  している。

[2] 両当事者は過去2年半にわたって、多くの訴訟的アプローチを追求し、手段を駆使して紛争の種
  を撒き、コンドミニアム裁判所("CAT")、人権裁判所 (Human Rights Tribunal of Ontario"HRTO")、
  高等裁判所 (the Superior Court of Justice,)、地方裁判所(the Divisional Court,)、州控訴裁判所
  (the Court of Appeal for Ontario) を巻き込んで、訴訟を追求してきた。
  本訴訟はそれらの両当事者間の多くの法廷闘争の場における一つの特別なものである。

(訳注:「カナダの裁判所の体系」 及び 「控訴裁判所(Divisional Court)とは」 参照)

[3] 原告ラーマン氏は、管理組合内の住戸所有者であり、本人弁護で裁判に臨んでいる。
  原告は2020年10月25日、ピールスタンダードコンドミニアム管理組合No779(以下、管理組合)を
  被告として、訴状を提出した。

  基本的に(Essentially)、ラーマン氏は、管理組合とその代理人が、障害者用駐車場に車を駐車する
  障害者である彼の必要性に配慮せず、彼の障害に対して差別的扱いをしたと主張している。さらに、
  管理組合とその代理人(弁護士を含む)が、彼の車に不当に違反切符を切らせるよう手配し、彼に
  嫌がらせするために発生した訴訟費用を未払いのコンドミニアム共益費として強制執行する措置を
  講じることにより、嫌がらせキャンペーンを展開したと主張している。これには彼の住戸に抵当権を
  設定し、住宅ローン貸し手にそれらの「費用」を支払わせようとする試みも含まれる。

  救済策として、ラーマン氏は同管理組合による「数々の障害と受けてきた嫌がらせ」の認定
  (acknowledging)を求める命令と、「この件に関するあらゆる措置の無効化(revoke)、中止(cease)、
  または撤回(reverse)」を求める命令を求めている。

[4] 2020年10月29日、管理組合は答弁書および反訴陳述書を提出し、続いて2021年1月に修正答弁書
  及び反訴陳述書を提出した。管理組合は、訴状の中で、ラーマン氏が申し立てた様々な主張を否定し、
  ラーマン氏は管理組合の宣言書の条件に反して車を駐車しており、障害者用駐車場に駐車する必要
  のあることを裏付ける十分な医学的証拠を提出していないと主張している。

  さらに管理組合は、ラーマン氏が、弁護士を含む代理人に繰返し辛辣な電子メールを送信し、建物の
  管理スタッフや他の居住者と直接やりとりする際に威嚇的(menacing)で威圧的(intimidating)な態度
  をとるなど、嫌がらせキャンペーン(campaign of harassment)を行っていると主張している。

  管理組合はラーマン氏の行動により、弁護士を雇い、弁護士が責任を負う訴訟費用を負担する必要が
  あったと主張している。同管理組合は、ラーマン氏に対して20万ドルの損害賠償を請求し、また、管理
  組合が負担した訴訟費用を彼の住戸の共益費としてチャージバックし、不履行による共益費として
  回収するよう要求している。さらに同管理組合は、ラーマン氏に対し、管理組合の役員および代理人
  に対する嫌がらせを控えるよう命じる判決を求めている。
  最後に、同管理組合は、判決前及び判決後の利息と費用を全額補償で請求している。

[5] 両当事者は、この特別な訴訟において、それぞれが提起した競合する申立ての聴聞のために、
  私の前に現れた。

[6] ラーマン氏は1990年民事訴訟規則、RRO 1990,Reg.194、裁判所法、RSO 1990、c C.43に基づく規則
  20.01(1)に基づき、即決判決を求めている。また、欠席判決命令を求める意向である。しかし、管理組合
  が答弁書を提出したため、その救済は受けられない。規則19.01を参照。

{7} 反対動議により、管理組合は、規則25.11に基づき、ラーマン氏の訴状全体を修正許可なしに削除する
  よう動議を提出した。その理由は、管理組合は、訴状が不道徳、軽薄または迷惑であり、また裁判の
  手続きの濫用であると主張する。
  (it is scandalous, frivolous, or vexatious and is also an abuse of the court's process.)

  あるいは、管理組合は、規則21.01(3)に基づき、同じ当事者および争点に関係する他の未解決の訴訟
  の結果が出るまで、この訴訟を停止するよう動議を提出する。

[8] この判決は、当事者が提起したこれらの競合する申立てを扱っている。この判決は、申立てが提起
  する個別の問題を扱う前に、裁判所における証拠記録を要約して当事者の争いに必要な背景を
  提供することから始めることとする。

裁判所における動議の記録 (The Record Before the Court on the Motions)

[9] ラーマン氏は、即決裁判(summary judgment,)を求める申立ての裏づけとして、自ら宣誓した4ページの
  宣誓供述書(affidavit sworn by him.)を提出した。同氏は宣誓供述書に証拠書類を提出せず、この訴訟
  の答弁書を申立て記録の一部として含めなかったが、管理組合は含めた。とはいえ、ラーマン氏は、
  さらに2件の訴訟で提出した訴状を含むさまざまな他の文書を提出しており、1件はオンタリオ州コンド
  ミニアム管理庁(CAO)とコンドミニアム裁判所(CAT)を被告として挙げ、もう1件では、同氏との係争中
  に管理組合の代理人を努めた法律事務所と弁護士を訴えている。

[10] さらに(Additionally)、管理組合はラジャ・アミール・カーン(Raja Amir Khan.)氏からの2通の長い
  宣誓供述書を提出した。カーン氏は最初の宣誓供述書を提出した時点では、管理組合の理事長
  兼理事会の理事として、2番目の宣誓供述書を提出した時点では、管理組合の名誉副理事長
  ("Honorary Vice-President")であった。
  (ちなみに、記録の一部を構成する管理組合の管理規約ではそのような役職を設けていないことに
   留意する。)

  カーン氏の宣誓供述書と添付の証拠書類は、ラーマン氏の宣誓供述書と比較して、当事者間の
  紛争の時系列と内容に関して、はるかに詳細な情報を提供している。ラーマン氏の宣誓供述書は、
  重要な事実の一部にざっと触れているだけで、管理組合とその弁護士の行為に関するラーマン氏
  の評価と結論が主である。

[11] この段階では、競合して提出されている動議のさまざまな争点の前後の文脈(contextualize
  the various issues)に沿って紛争の概要とそのいきさつ(its history)を理解する必要がある。

紛争の発端:駐車場をめぐる争い
(The genesis of the conflict: a dispute about parking)

[12] 管理組合は、非営利の居住用コンドミニアム管理組合としてコンドミニアム法1998,
  S.O.1998,c.19に基づいて登記されている。210の住戸と295台分の駐車場及び共用部で
  構成され、ミシサガ市バトルフォード通り2900番地に位置している。

  管理組合は、管理規約の規定により、3人の無報酬の理事会理事により運営されている。
  管理組合は、オンタリオ州のコンドミニアム管理業者規制庁から認可登録を得た管理会社
  のコンドミニアムマネージャーとビルディングマネージャーを通じて運営されている。

[13] 2020年4月14日、ラーマン氏はコンドミニアム内の1戸の住戸と、それに付随する2つの
  駐車場区画を権利証書付きで購入した。
  ラーマン氏は入居直後から、彼の車を、自身が使用権利証書を有する駐車場ではなく、施設
  内の屋外平置きの3台の障害者用駐車場のうちの一つを使用して駐車するようになった。

[14] ラーマン氏は、オンタリオ州の障害者用駐車場の使用許可証を持っている。
  彼はコンドミニアム複合施設の来客用駐車場の障害者用駐車スペースに車を停めるときは
  いつでもそれを表示していたと主張したが、然しながら、彼の宣誓供述書は管理組合と代理人
  弁護士の行動を非難することに専念(preoccupied with impugning)しており、これについては、
  何も触れられていなかった。(made no mention of this.)

[15] 管理組合の宣言書の第4条の2(b)項によれば、3台分の駐車場区画はコンドミニアムの
  障害者用駐車場として区分所有者又は来客のみが使用できるとの記載がある。
  (下線強調部分を追記:原文 注) そして、
  宣言書は区分所有者による来客用駐車場の一般区分所有者の使用を禁じていた。(第4条2項(a))

[16] カーン氏の最初の宣誓供述書によれば、ラーマン氏が入居して1ケ月以内に、ビルディング
  マネージャーはラーマン氏に対し、障害者用駐車場の使用を正当化する医学的な証明書の提出
  が必要である旨伝え、彼は、明白に(Apparently)、医師からの「非常に詳細な文書」の提出を
  要求した。

  カーン氏の宣誓供述書では、ラーマン氏の車に障害者用駐車許可証が掲げられていたかどうか
  については言及されていないが、証拠として添付された文書は、掲げられていたことを示唆して
  いる。いずれにせよ、当初から、理由は不明であるが、管理組合は、障害者用駐車許可証は、
  ラーマン氏が来客用駐車場の3つの障害者用駐車区画の1つに車を駐車したことを正当化する
  証拠としては不十分であるとみなしていた。

[17] カーン氏は、ビルディングマネージャーの要求にも拘わらず、ラーマン氏は障害者用駐車場
  の使用を正当化する証拠をタイムリーに提供しなかったと証言した。駐車場をめぐる紛争は、
  すぐにラーマン氏と管理組合及び代理人との関係悪化させた。最終的に(Eventually)、
  管理組合代理人弁護士であるイー氏が関与することになった。

[18] 2020年6月、イー氏はラーマン氏に3通の書簡で管理組合スタッフに対するラーマン氏の
  嫌がらせ行為を時系列(chronicling)で指摘し、今後はこのような行為をやめるよう求めた。
  そして、管理組合の基本的な立場として、ラーマン氏が障害者用駐車場を必要としている
  ことを示す「十分な証拠、若しくは情報」の提供をしていないことを挙げた。

[19] 2020年6月23日、イー氏は、ラーマン氏に下記の裁判例を引き合いに出して、この裁判で
  原告管理組合に対し、被告住民に対して、より一層の情報提供を求める権利を与えた例
  は、ラーマン氏の要求が行為無能力であることと関連 (disability-related needs.) している
  と伝えた。「Simcoe Condominium Corporation No. 89 v. Dominelli, 2015 ONSC 3661 」

  (私(当裁判官)は、この裁判と本件との下記の相違について留意する。この裁判は管理組合が、
  ペット飼育規定の体重制限を超過している犬を飼育している区分所有者に対して訴えた裁判で
  あり、本件の場合は、州から障害者用駐車場駐車許可証を取得するために必要な医療文書が、
  あれば、障害者用駐車場を個人が利用資格を有することを容易に証明できるのと対照的である。

  この書簡の中で、イー氏は、ラーマン氏のEメールでのやりとりのせいで管理組合が追加の訴訟
  費用の追加を招いたのであるからラーマン氏はこの責任を負うべきであり、管理組合はこの費用
  はラーマン氏の負担すべき共益費に加算してチャージバックとして請求すると伝ええている。

  イー氏は、「共益費滞納明細書」と題する文書を同封し、その中に「法的執行費用のチャージバック」
  として2,522.16ドルを記載し、ラーマン氏にその金額の支払を要求した。

[20] その後、状況はさらに悪化した。2020年10月2日、イー氏はさらなる書簡をラーマン氏に送付した。
  その書簡の内容は、管理組合が「未払いのチャージバック」の支払いを受け取っていないことを
  通告するものである。書簡にはまた、ラーマン氏が、事前に控えるよう指示されていたにも拘わらず、
  現場の管理事務所を訪れ、短期間に2回にわたってビルディングエンジニアにメールを送るなど、
  嫌がらせ行為を行ったと苦情が書かれていた。さらにイー氏は、管理組合がラーマン氏に要求した
  医療文書をまだ受け取っていないと指摘した。

[21] さらに、イー氏は書簡の中で、管理組合の立場を援用するために、他の裁判の判決
  「Taite v. Carleton Condominium Corporation No. 91,2014 HRTO 165」を引用して、「区分所有者
  は州の駐車許可証とは別に、障害者であることを管理組合に納得させる必要があり、そのために、
  宣言書の下では駐車が禁止されているにもかかわらず、訪問者用駐車場に駐車することを許可
  する特別な例外を認めてもらう必要がある」という管理組合の立場を支持している。

  (ちなみに(Parenthetically)、私'(当裁判官)は、この裁判の原告はそのようなことは言っていないこと
  に留意する。この裁判の原告は、そのような許可証があれば居住者は障害者用駐車場に駐車で
  きると認めている。引用した裁判の争点は 、割り当てられた障害者用駐車場が 原告の車両を収
  容できないことを考慮すると適切であったかどうか、また彼のフォード F-150 ピックアップ トラック
  が彼の障害に対応するために必要であったのか、それとも彼の選択の問題であったのかという点
  である。この判決の段落61-62を参照)

  最後に、イー氏はラーマン氏に対し管理組合の追加訴訟費用を支払う義務があると再度警告した。

[22] 結局(Eventually)、2020年10月8日、ラーマン氏はイー氏にEメールでアンドリュー・モラン博士
   (Dr. Andrew Moran)からの同日付の書簡を添付した。モラン博士の書簡の抜粋を下記に示す。

   ラーマン氏は、手首の痛み、腰痛、左右両側の脛と足関節の痛み、及び、
   脳震盪(のうしんとう)後遺症候群(post-concussion syndrome.)を患っています。
   彼の障害は2016年1月6日に発生した作業事故の障害に起因しており、複数の筋骨格系の
   症状((musculoskeletal complaints)が続いています。

   ラーマン氏は、屋根職人として作業中、転倒し、4箇所の脊椎骨折(vertebral fractures,)、
   両手首骨折、両足首骨折を負った。ラーマン氏は右手首の広範囲外科手術を受け、その後、
   金属器具を除去しました。しかし事故以来、両足首と右手首にはまだ数本のネジが残っています。
   ラーマン氏は、理学療法(physiotherapy)、脊柱指圧療法・カイロプラクティック(chiropractic care,)、
   マッサージ(massage)、鍼(はり)治療(acupuncture)を受け、精神科医(psychiatrist)の診察も
   受けた。しかし、このような処置にも拘らず(Despite this treatment)、彼には慢性的な痛み
   (chronic pain)と機能障害(reduced function)に悩まされています。

   脳震盪後遺症の現在の状態として、ラーマン氏は、明るい光、ストレス、睡眠不足によって
   悪化する偏頭痛が月に 7 〜 9 日あると報告しています。
   ラーマン氏は障害者用駐車許可証を持っており、コンドミニアム管理者による嫌がらせについて
   私に何度も話してきました。その嫌がらせが生活にストレスと不安をもたらしていると私に話し
   ました。このストレスを軽減するあらゆる行動は、明らかにラーマン氏の健康全般に有益です。

[23] 残念ながら、(Unfortunately,)、モラン博士の書簡にも拘わらず、管理組合は、ラーマン氏が
  来客用駐車場にある障害者用駐車区画に駐車する権利があるという主張を相変わらず納得
  できなかった。(remained unconvinced)

  イー氏は、2020年10月20日、モラン博士に書簡を送り、博士からの更なる情報を求めた。
  それは、管理組合がラーマン氏が主張する障害者用駐車場の使用に疑いを持っている事を
  示していた。なぜなら、コンドミニアム内の監視カメラの記録には、2020年4月下旬に、ラーマン氏
  が重い荷物を建物内に持ち込んでいく様子や、2020年7月には大きな水入りケースを運びこんで
  いた姿が数回記録されていたからである。

[24] それ以来(Since then,)、両者の関係は悪化の一途をたどった。2つの、不幸な、そしておそらく
  関連性のある展開が起こった。最初に、多くの訴訟が続き、そして2番目に、紛争が悪化するに
  つれて、ラーマン氏の行為はしばしば過剰かつ不適切(excessiveand inappropriate)になって
  いった。

多重訴訟 (Multiplicity of proceedings)

[25] 本件訴訟も含め、執拗かつ様々な訴訟(litany of different legal proceedings,)が繰り返されてきた。
  様々な段階で、口火を切ってきたのは主にラーマン氏であるが、しかし、それらのうちの幾つかは、
  管理組合によるやや攻撃的な訴訟戦略によってエスカレートしてきた。これらの様々な訴訟手続き
  の概要、どの当事者が開始したのか、そして現在どのような状況にあるかは、管理組合の反訴に
  関連がある。

[26] 2020年10月25日、ラーマン氏はこの訴訟で訴状を提出した。2020年10月29日、管理組合は
  答弁書および反訴状を提出し、続いて 2021年1月に答弁書および反訴状の修正を提出した。

[27] 2022年7月29日、この裁判所に提出された競合する動議を審理する予定だった。
  その日、動議のための聴聞の予定時間は1時間未満だった。当事者による重要な訴状の束を
  与えられて、「ちょっとした動議」どころではない。それで、2023年5月31日まで延期することになり、
  審理のために、私(当裁判官)の前に持ち込まれた。

[28] 2020年10月25日 ラーマン氏がこの訴訟を起こした同じ日に、ラーマン氏は人権裁判所 (HRTO)
  に管理組合を被告として提訴した。申立て理由は居住に関する障害者、その他の差別であった。
  結局のところ、ラーマン氏の訴えのベースになっているのは、本質的には、この法廷における争点
  と同じであったため、人権裁判所 (HRTO) は、人権法第34条第(11)項(section 34(11) of theHuman
  Rights Code, R.S.O. 1990, c. H.19)を適用し、これを却下した。
  「Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779, 2022 HRTO 1300」 参照.

[29] さらに(Additionally)、2020年11月17日 ラーマン氏はコンドミニアム裁判所(CAT)に訴えを提起した。
  訴えの内容は、本裁判と同じく、障害者用駐車区画の使用と、管理組合が彼に科した法的費用と
  チャージバック及び駐車場紛争の取扱を巡るものであった。

[30] 管理組合は、コンドミニアム裁判所(CAT)に対し、ラーマン氏の訴えを却下するよう、動議を提出した。
  コンドミニアム裁判所には本件の裁判権がないか、或いは、ラーマン氏の訴えは、厄介で裁判制度の
  悪用(vexatious and an abuse)であるというのが動議の理由であったが、CATは下記に示す判決で、
  この動議を却下した。
    Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779, 2021 ONCAT 1. 参照
  【訳注】法で禁じている不正な目的での多重訴訟を用いた裁判制度の悪用についての解説は、
       「厄介な訴訟(Vexatious litigation)」 参照

[31] CATにおける聴聞は2020年12月から2021年1月までオンラインで実施された。
  CATは、当事者達から陳述書と証拠を受け取った。

  CATは、管理組合がその立場を支持すると主張するコンドミニアムの宣言書の条項と、紛争を決定
  するCATの管轄権に対するさらなる異議申し立てを含む、管理組合が提出した様々な法的主張を
  検討した。最終的にCATは、ラーマン氏が確かに障害者用駐車区画の1つに駐車する権利があり、
  管理組合は紛争で発生した費用を彼の住戸に対するチャージバックとして請求することはできない
  という結論を下すための包括的な書面による理由を発行した。
  Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779、2021 ONCAT 13を参照。

[32] その後、管理組合はCATの決定に対する司法審査を申し立てた。控訴裁判所は、管理組合が
  まず法定控訴権を行使しておらず、その時点で司法審査による裁判所の介入を正当化するよう
  な例外的な状況がなかったとして、その申し立てを却下した。
  Peel Standard Condominium Corporation No. 779 v. Rahman、2021 ONSC 7113を参照。

[33] 定められた期間内に控訴を申し立てることができなかったため、管理組合を代理する法律
  事務所は弁護士専門賠償責任会社(「LAWPRO」)に通知し、同会社は管理組合の代理人
  として別の弁護士を任命し、CATの決定に対する地方裁判所への控訴期限延長の申立てと、
  地方裁判所による司法審査の拒否に対するオンタリオ州控訴裁判所への控訴許可の申立
  てを行った。

[34] 2022年2月16日、ハーヴィソン・ヤング上級裁判官 (Harvison Young J.A.,) は、未発表の
  判決(unreported endorsement)において、オンタリオ州控訴裁判所への控訴を地方裁判
  所が司法審査請求を却下したことに対する控訴の提出期限の延長を管理組合に認めた。
  しかし、彼女はまた、地方裁判所における控訴手続きの解決を待つ間、控訴を保留した。
  (stayed the appeal pending)

[35] 2022年4月25日、両当事者は、管理組合の司法審査申請を却下した審理委員会の裁判官
  の一人であるフィッツパトリック判事(Fitzpatrick J.,)の前に出廷した。この出廷が必要に
  なったのは、ラーマン氏が、管理組合の司法審査申請の却下に関して管理組合が作成した
  命令案の承認を拒否したためである。フィッツパトリック判事は、報告されていない承認に
  おいて、ラーマン氏の修正案を拒否し、管理組合の弁護士が起草した命令書に署名した。

[36] 2022年9月29日、エメリー判事(Emery J.,)は、地方裁判所の決定に対する控訴期間の延長を
  求める管理組合の申し立てを認めた。(PSCC No. 779 v. Rahman、2022 ONSC 5166を参照)
  地方裁判所は2023年6月12日に管理組合の控訴を審理し、決定を保留したと理解している。

[37] さらに(Additionally,)、ラーマン氏は2023年2月3日にCAOとCATに対して訴状を提出した。
  本質的に(In essence,)、彼はCAOとCATの権限を明確にするさまざまな命令と、カナダ権利
  自由憲章に基づく彼の権利を侵害したとして一般損害賠償と懲罰的損害賠償を求めて いる。

[38] 2023年2月8日、管理組合は、2022年秋に初めて行われた管理組合の紛争調停の申し出を
  ラーマン氏が拒否したことを受けて、ラーマン氏に対して仲裁通知を発行した。ラーマン氏は
  調停にも仲裁人の任命にも同意していない。2023年4月25日、管理組合は、理事会、不動産
  管理チーム、およびその代理人に対するラーマン氏の嫌がらせ行為(管理組合によると、
  彼らにとって「危険な状態("dangerous condition")」を生み出している」に関するさまざまな問題
  を裁定し、ラーマン氏の行為に対処するための費用の補償を求める仲裁人を任命する命令を
  求める申請通知を発行した。この申請は2023年6月30日に審理される予定である。

[39] 2023年5月1日、ラーマン氏はイー氏と彼の法律事務所、および同事務所の他の2人の弁護士
  に対して訴状を発行し、被告らがラーマン氏との紛争で管理組合を代理する際に詐欺行為を
  行ったと主張している。彼は懲罰的損害賠償請求を含め75万ドルの損害賠償を求めている。

[40] その上(Furthermore)、ラーマン氏は駐車場紛争とは別の問題に関してCATに対して
  管理組合に対するいくつかの追加申請を行った。これには以下のものが含まれる。

(1)コンドミニアムの宣言書と管理規約、発行された定期情報証明書、および請求前の12か月間に
  開催された集会の議事録に関する追加情報の提出を求める訴訟を起こした。
  Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779、2021 ONCAT 32
   (申請を却下)

(2)カーン氏の管理組合の「名誉副会長」および「名誉副書記」への任命に異議を唱える:
  Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779, 2022 ONCAT 5
   (管轄権の欠如を理由に申し立てを却下)

(3)窓用エアコンからの水漏れによる迷惑行為についての苦情:
  Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779、2022 ONCAT 107
   (管轄権の欠如を理由に申し立てを却下)

(4)誤解を招く駐車場標識についての苦情:
  Rahman v. Peel Condominium Corporation No. 779 ,2023 ONCAT 10
   (利益相反の疑いでラーマン氏による管理組合の弁護士解任申請を却下)
  また、Rahman v. Peel Condominium Corporation No. 779 ,2023 ONCAT 36
   (管轄権がないとして申請を却下)

(5) 臭いが自分の部屋に入ってくるとの苦情:
  Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779 , 2023 ONCAT 9
   (Rahman氏による管理組合の弁護士解任申請を利益相反の疑いで却下)
  Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779 , 2023 ONCAT 37
   (管轄権の欠如を理由に申請を却下)
  Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779 ,2023 ONCAT 48
   (ラーマン氏の再考動議を却下)

(6)「アキブ・ラーマン氏に関して保管されているすべての事件報告書」に関する記録
  を管理組合に求める
  Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779, 2023 ONCAT 46 
   (求められて いる記録は実際の訴訟または計画されている訴訟に関連
    するものであったため、申請を却下)。

ラーマン氏の行為 (Mr. Rahman's Conduct)

[41] 当事者間の法廷闘争が続き、エスカレートするにつれ、ラーマン氏は弁護士、裁判官、裁定人、
  裁判所や審判所の職員など、さまざまな訴訟に少しでも関係のあるほぼすべての人に何百通
  ものメールを送った。例えば、彼はラメッティ法務大臣(Justice Minister Lametti) や 首相、
  州首相、ミシサガ市長(Mayor of Mississauga.)の事務所に通信文を送った。
   このやり取りによって作成された膨大な記録を詳細に検討してもあまり意味がないであろう。

[42] 確かに(To be sure)、ラーマン氏の通信の多くは、たとえほとんどでなくても、極めて無節操
  なものである。これらを検討すると、管理組合が両者間のさまざまな法的手続きに対処する
  ことを決定した方法に対するラーマン氏の不満は明白である。

[43] さらに(Additionally)、ラーマン氏は、イー氏と彼の法律事務所がこの進行中の苦難における
  基本的な敵対者(principal antagonizers)であると間違いなく認識しており、彼らに対して不正
  行為の重大な申し立てを行い、彼らが欺瞞的、詐欺的、偽証的、恐喝的な行為に関与している
  と主張している。 (claiming they have engaged in deceptive, fraudulent, perjurious, and
  extortionist conduct.)

  前述のように、これらの申し立ては現在、別の訴訟の対象となっている。ラーマン氏は、イー氏
  と彼の法律事務所に対する訴訟を起こすだけでなく、オンタリオ州弁護士会(the Law Society
   of Ontario, LAWPRO)、カナダ詐欺対策センター(the Canadian Anti-Fraud Centre.)など、
  さまざまな機関に苦情を申し立てている。彼はまた、法執行機関に同じ申し立てを行うと脅して
  いる。ラーマン氏がこれらの脅迫を実行したかどうかは不明である。しかし、たとえ実行したと
  しても、警察が彼のこの紛争におけるイー氏と彼の法律事務所の行為の特質(characterization)
  に同意するとは想像できない。

[44] さらに(Furthermore)、ラーマン氏のコミュニケーションの中には、ある電子メールでイー氏の
  人種について遠回しに言及したり、別の電子メールで女性の理事に関して性差別的なコメント
  をしたりするなど、不快なものもあった。

[45] 最後に(Finally)、ラーマン氏は、様々な訴訟の結果に不満を抱いた際、自分に不利な判決を
  下した決定者の能力と客観性を疑問視することを躊躇しなかった。例えば、彼は、ハーヴィソン・
  ヤング上級裁判官とフィッツパトリック裁判官に対してカナダ司法評議会に苦情を申し立てたと
  伝えられており、自分に有利な判決を下さなかったCATの裁判官に対しては、人権機関'HRTO)
  に苦情を申し立てると脅した。

[46] ここまでの背景を踏まえて、次に両当事者が提起した競合する動議について述べることとする。

法律と分析 (Law and Analysis)

[47] 管理組合の反訴を検討することから始めるのが賢明である。なぜなら、管理組合が反訴の
  申立てのいずれかで勝訴した場合、ラーマン氏の即決判決申立ては、それが正当であるか
  どうかにかかわらず、意味をなさなくなるからである。

ラーマン氏の訴状は、不合理、迷惑、または中傷的であるという理由で、修正の許可なく
却下されるべきであろうか?

[48] 民事訴訟規則第25.11条(b)は、訴状が「不道徳、軽薄、または迷惑 ("scandalous,
  frivolous or vexatious.")」であるという理由で、修正許可の有無にかかわらず、訴状の
  全部または一部を削除または抹消する権限をこの裁判所に与えている。
  控訴院は最近、対象となる訴状の種類に関する指針を示した。

  Abbasbayli v. Fiera Foods Company、2021 ONCA 95、456 DLR (4th)668
  の段落 49 で下記のように説明されている:

  中傷的な訴状には、無関係な部分、論争的な部分、または印象操作のために挿入
  された部分および当事者の誠実さに対する根拠のない扇動的な攻撃が含まれる。
  (A scandalous pleading includes those parts of a pleading that are irrelevant, argumentative
  or inserted for colour, and unfounded and inflammatory attacks on the integrity of a party:)
  (George v. Harris、[2000] OJ No. 1762 (Ont. SCJ)の20段落を参照)

  この規則に基づいて訴状への異議を検討する際の焦点は、訴状と訴訟原因または防御
  との関連性である。この裁判所における最近の判決 
  .Huachangda Canada Holdings Inc. v. Solcz Group Inc 2019 ONCA 649、147 OR (3d) 644
  . (Ont. CA)の段落15で、下記のように指摘している。

  「段落[15] [a]、訴訟原因に関連する事実は、不名誉、軽率、または迷惑なものであっては
  ならない。一方、訴訟の結果に影響を与えない無関係な、または余分な申し立てを提起
  する答弁は不名誉、軽率、または迷惑であり、却下されるべきである。」
  at para. 15, "[a] fact that is relevant to a cause of action cannot be scandalous, frivolous
  or vexatious. On the other hand, a pleading that raises irrelevant or superfluous allegations
  that cannot affect the outcome of an action is scandalous, frivolous or vexatious,
  and should be struck out".

[49] 何が適格となるかに留意しつつ、管理組合は、裁判所が本訴訟におけるラーマン氏の
  請求陳述書全体を規則25.11 (b) に基づいて却下すべきであることを証明していない。
  私はいくつかの理由からその結論に至った。

[50] まず、ラーマン氏の訴状は弁護士が作成したものとは殆ど類似性はないが、裁判で証明
  されれば、管理組合に対する差別の主張を立証し、駐車場紛争で管理組合がとった行動を
  「撤回、中止、または元に戻す("revoke, cease or reverse")」命令を正当化するのに十分な
  重要な事実を主張している。

[51] 第二に、訴状の各所では、管理組合とその代理人がラーマン氏の障害に対応する代わりに
  「嫌がらせ("harassed")」をしたと主張しているが、その主張はラーマン氏の差別(discrimination)
  の主張と関連していると言える。

[52] 第三に、訴状には確かに議論の余地のある部分があり、例えば、修辞的に、ラーマン氏が
  車椅子に乗っていたり高齢者であったりしたら、彼の扱いは違っていたかもしれないと疑問視
  しているが、管理組合は訴状のそれらの個別の側面を削除する命令を求めていない。

[53] その代わりに、管理組合は、ラーマン氏の訴状全体が不道徳、軽薄、または迷惑であるとして
  却下する命令を申し立てた。前述のように、ラーマン氏が主張した内容の多くは、彼が主張する
  法的請求に間違いなく関連しており、したがって、管理組合が主張したように裁判所が訴状全体
  を却下することは適切ではないであろう。

[54] 重要なのは、管理組合が訴状のどの部分も不服として標的にしなかったことである。
   動議通知書で規則25.11 (b)を主張した以外は、管理組合の弁護士は審理中にこの主張を
  しなかった。

[55] これらすべての状況において、どちらの当事者も裁判所がそうすべきかどうかに関して意見を
  述べていないため、私は訴状の中の「確信的に不愉快な部分」を削除することを拒否する。
  I decline to strike what are arguably objectionable aspects of the Statement of Claim,

ラーマン氏の訴状は訴訟手続きの濫用であるため、修正の許可なく却下されるべきか?

[56] 民事訴訟規則第25.11条(c)は、この裁判所に、訴状の全部または一部を、修正許可の有無に
  拘わらず、裁判所の手続きの濫用であるという理由で却下または削除する権限を与えている。

[57] この規則は、裁判所が永年にわたって確立してきた固有の思慮分別の裁量権を成文化し、
  当事者にとって明らかに不公平であるか、または他の何らかの形で司法行政の評判を落とす
  ような不適切な目的での訴訟手続きの悪用を防止するものである。
  (That rule codifies the court's long-established inherent and residual discretion to control its
  process to prevent its misuse for some improper purpose that would either be manifestly
  unfair to a party or would in some other way bring)

  Behn v.Moulton Contracting Ltd. , 2013 SCC 26 , [2013] 2 SCR 227、39-41段落;
  Toronto (City) v. CUPE, Local 79 , 2003 SCC 63(CanLII) , 2003 SCC 63 , [2003] 3 SCR 77、
  37段落を参照。Canam Enterprises Inc. v. Coles (2000)、 2000 CanLII 8514 (ON CA)、51 OR
   (3d) 481 (CA) 、第55段落、Goudge JAの反対意見により、2002 SCC 63、[2022] 3 SCR 307
  で承認。

[58] 上記のベーン(Behn)事件において、最高裁判所は、訴訟手続き濫用の原則を「正義の利益
  に反するほど不公平な」訴訟手続きに関係するものと規定したR. v. Power, 1994 CanLII 126 ,
   (SCC)[1994] 1 SCR 601と、R . v . Conway , 1989 CanLII 66 (SCC) , [1989] 1SCR 1659
  の 段落39を参照。

[59] これらの理由は、訴訟手続き濫用の原則を、このように要約した上で、裁判所はその根拠に
  基づいて訴状を却下すべきであるという管理組合の主張に対応するものである。

[60] この主張において、管理組合は、両者の紛争が起こって以来のラーマン氏の行為の累積的な
  影響が、このような命令を正当化すると主張している。その点において、管理組合は、ラーマン氏
  が行ってきた多数の訴訟、彼が送信した数百通の電子メール、その無節操でしばしば不快な内容、
  管理組合の弁護士に対する非専門的かつ犯罪的な行為についての彼の度重なる不当な申し立て、
  そして彼に有利な判決を下さなかった裁判官や審判員に対する彼の苦情や脅迫を強調している。

[61] 確かに、裁判所はラーマン氏の行為の多くの点を極めて問題視している。これらの申立てに
  関する裁判所の全記録から浮かび上がる避けられない印象は、ラーマン氏が改革運動に
  取り組んでいる人物であるということである。裁判所は、ラーマン氏と管理組合との継続中
  の紛争で彼を苦しめたと彼が考える人々を苦しめ、嫌がらせするための道具ではないことを、
  ラーマン氏は、理解しなければならない。ある時点で、彼が管理組合との継続中の紛争の
  不当性と彼が考えることに何らかの役割を果たした他の人や機関に対して訴訟を起こし
  続けると、相手方からのそのような宣言の申立てにより、裁判所が彼を司法裁判所法
  第140条(1)に基づき嫌がらせ訴訟当事者と宣言するという重大なリスクを負うことになる。
  そのような命令が出されれば、彼は裁判所の許可なしにそれ以上の訴訟を起こすことが
  できなくなる。第140条(3)を参照。

[62] その点に関して、私はラーマン氏に対し、イー氏とその事務所に対する彼の執着、および
  彼らが犯罪行為に関与したという彼の主張は、これらの申し立てに関する本裁判所の膨大な
  記録では裏付けられていないことを警告しなければならない。残念ながら、審理中のラーマン氏
  の発言や記録の一部として提出された彼の書簡の多くは、弁護士の役割に関する根本的な
  誤解を露呈している。

[63] 弁護士は依頼人から指示を受ける。依頼人が事実は「Y」であるのに「X」であると主張した
  場合、弁護士が依頼人の説明が真実ではないことを知っていない限り、依頼人の弁護をし、
  裁判所や法廷に依頼人の主張を受け入れるよう促すことは、職業上の不正行為にあたること
  にも、犯罪行為にあたることにもならない。同様に、弁護士が誠意を持って裁判所や法廷が
  最終的に受け入れない法的主張を展開することは、不適切でも詐欺的でもない。

[64] とはいえ、この訴訟は訴訟手続きの濫用であるという管理組合の主張を受け入れるのは
  困難である。記録に基づくと、ラーマン氏が行ったすべての主張の中で、この訴訟でラーマン氏
  が主張したものが最も正当なものであるように思われる。すべての状況において、この紛争を
  最初からエスカレートさせた管理組合の役割を非難しないわけにはいかないと思う。

[65] ラーマン氏の障害者用駐車許可証が、来客用駐車場にある 3つの障害者用駐車区画のうち
  1つを使いたいという同氏の要求に応えるのに、管理組合の立場から見てなぜ不十分だったのか、
  私には理解できない。たとえ管理組合が当初、ラーマン氏が障害者用駐車区画を使用する権利
  について疑問を抱いていたとしても、モラン博士の2020年10月8日の書簡によって、その疑問は
  間違いなく払拭されたはずである。しかし、管理組合は、その後展開した多くの事態を引き起こ
  したラーマン氏の障害者用駐車区画への駐車の権利を否定し続けた。

[66] 管理組合は、特に設立当初は、この紛争に対して過度に攻撃的なアプローチを取ってきた。
  その結果、その行動は、自ら訴訟を起こした原告を敵に回す結果となった。原告の医師に
  よれば、原告は脳震盪後遺症候群を患っており、その結果、モラン医師が2023年2月14日付け
  の書簡で報告しているように、「精神的に安定していない」状態にある。

[67] もちろん、そのどれもが、ラーマン氏の無節操な電子メールや管理組合の弁護士に対する
  個人攻撃を正当化するものではない。しかし、それは、ラーマン氏と管理組合の関係がなぜ
  ここまで悪化したのか、そして管理組合が現在、ラーマン氏の訴状を訴訟手続きの濫用として
  却下することを正当化すると主張する行為の多くを引き起こした原因を説明するのに役立つ。

[68] あらゆる状況を考慮すると、駐車場紛争に対するラーマン氏の無知で過剰な対応が、これまで
  のように、管理組合の紛争訴訟に対する強引なアプローチによって煽られ、裁判所が、一見
  すると正当な請求であるように見えるラーマン氏の訴状を却下する結果となったとしたら、皮肉
  なことである。管理組合のラーマン氏の訴状を訴訟手続きの濫用として却下する動議に応じる
  ことは、正義の利益に反するであろう。

[69] 本裁判所の記録によれば、管理組合は訴状を訴訟手続きの濫用として却下することを正当化
  する高い基準を満たしていない。

この訴訟は、CAT の決定に対する管理組合の控訴の結果が出るまで保留にすべきか?

[70] 規則21.01(3)(c)は、「オンタリオ州または他の管轄区域で、同じ当事者間で同じ主題に関する
  別の訴訟が係属中である」場合、被告が訴訟の停止または却下を申し立てることを認めている。
  この規則は既判力の原則を擁護し、限られた裁判資源を保全し、最終性を保証し、矛盾した
  判決のリスクを回避している。

[71] 前述の通り、駐車場紛争に関しては、CATはラーマン氏に有利な判決を下した。CATは、
  ラーマン氏は利用可能な駐車区画の1つに駐車する権利があり、管理組合は紛争で発生した
  費用を彼の住戸に対するチャージバックとして請求することはできないと結論付けた。

[72] CATによるこの決定は、司法審査の申し立ての対象となっていたが、却下された。管理組合は、
  司法審査の申し立てを棄却した地方裁判所の決定を控訴裁判所に控訴したが、この控訴は、
  CATの決定に対する当局の地方裁判所への控訴の結果が出るまで保留されている。
  地方裁判所は、2023年6月12日に管理組合の控訴を審理し、判決を保留した。
  (reserved its decision.)

[73] 控訴裁判所(the Court of Appeal)と地方裁判所(the Divisional Court)への控訴は、いずれも、
  ラーマン氏が障害者用駐車区画に駐車する権利に関するCATの決定と、その紛争で発生した
  訴訟費用について管理組合が請求したチャージバックに関するものである。したがって、
  これらの訴訟は、本訴訟と同じ当事者と争点を扱っている。

[74] 陳述の中で、ラーマン氏はこの訴訟を現在控訴中のCATの判決と区別しようとした。
  同氏は、この訴訟は管理組合が同氏に対する受託者義務に違反し、詐欺行為を行ったという
  主張を含むため、異なると主張した。これらの主張の正当性はさておき、ラーマン氏にとっての
  難しさは、この訴訟で出された訴状の中でそのような訴訟原因を主張していないことである。

[75] 訴状、請求陳述書、修正 答弁書および反訴は、本訴訟の主題である紛争を規定するもので
  ある。これらに基づき、私は、本訴訟は、駐車紛争に関する決定においてCATが扱ったのと同じ
  当事者および主題に関係していると確信している。

[76] その結果、この訴訟の判決は延期されなければならない。(this action must be stayed.)
  Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779、2021 ONCAT 13 における
  CATの決定に異議を唱える未解決の上訴のいずれかが管理組合に有利な判決を下した
  場合、その時点で,ラーマン氏はこの訴訟の再開を申し立てることができる。
  【訳注:】stayは法律用語では、(stay of execution =死刑執行の延期)のように、延期、
       若しくは、猶予の意味で使われます。Para.72では、reserve=保留を使っています。

結論 (Conclusion)

[77] この判決を延期する決定(Given the decision to stay this action,)により、ラーマン氏の
  即時判決を求める申立ては意味をなさなくなった(summary judgment is moot.)。
  しかし、管理組合が未解決の控訴のいずれかで勝訴し、ラーマン氏がこの訴訟の再開を
  求める申立てに成功した場合、この申立てを更新する彼の権利がこれによって損なわれる
  ことはない。

[78] もしそうなったら、私はラーマン氏に、カナダ司法評議会の『自弁訴訟者のための民法ハンドブック』
  をダウンロードして読むことを強く勧めます。このハンドブックは、以下のリンクから入手できます。
https://cjc-ccm.ca/sites/default/files/documents/2021/Civil%20Handbook%20-%20EN%20MASTER%202021-10-19.pdf   【参考】参照

[79] 管理組合の仲裁人選任申請(appoint an arbitrator)は私の前に提出されていない。
  別の裁判官が2023年6月30日に審理する。そうは言っても、この紛争には嫌がらせの申し立てが
  相反するため、管理組合がこの紛争を解決するには調停と仲裁が適切な手段であると信じて
  いたのなら、なぜ最初からその提案をしなかったのか私には理解できない。
  もしそうしていたら、この3年間に起きたことの多くを避けられたかもしれない。

[80] 管理組合がこの訴訟の差し止めを求める申立てに成功したことを踏まえると、通常、管理組合は
  その申立ての費用を請求する権利がある。しかし、費用の裁量権は、規則57に列挙された要素
  に従って、裁判所の裁量に委ねられている。民事訴訟規則57.01(1)、司法裁判所法、第131(1)条
  を参照。(Rules of Civil Procedure, Rule 57.01(1); Courts of Justice Act, s. 131(1). )

[81] すべての状況を考慮し、特にこの紛争の始まりからの管理組合の行動に留意して、
  私は管理組合に有利な費用の支払いを命じることを拒否する。

                      署名: “J. Stribopoulos J.”

公開日: 2023年6月27日


【訳者あとがき】

ハラスメントは他者の心に対する暴力ですから、被害者の心の表現が重要になってきますが、
被害者を裁判で積極的に救済しようとしてきた社会では、感情表現の法律用語が論理的に
体系化されています。対して、わが国では、感情表現が情緒的表現にとどまって、法律用語
として論理的に体系化されていないこと、その上、裁判で受忍限度とかの用語が出てくる事
に絶望を感じています。

個人の倫理と感情に共感し、それを社会で共有し改革していくためのコミュニケーション技法
その基礎が法律用語ですが、わが国の法律用語は、権威主義で偉そうに飾る用語だけで、
社会で共有する意識もない。(昔の医学用語もそうでしたが、さすがに今は変わりました。)

・・なので、本文訳語の下に、判決原文をそのまま掲載したほか、重要な法律用語や、文節
冒頭の副詞(Eventually,Additionally,Furthermore,Finally)等の多用も、原文併記しました。
ごちゃごちゃと読みづらくなっていますが、意図を汲み取っていただければ幸いです。

【参考】『自弁訴訟者のための民法ハンドブック』
     Civil Law Handbook for Self-Represented Litigants

Table of Contents
1. Self-Represented Litigants'Rights,Responsibilities $ Supports
2. Legal Research Case 〜 3. Building Your Case
4. Legal Writing  〜 5. Starting a Civil Court Case
6. Disclosure / Discovery / Questions
7. Becoming Familiar with Court Processes 〜 13. Resources

図表入りで、
わかりやすく
解説しています。
全109Pages
PDF(2,718kB)



(以上 マンションNPO 訳)       (2024年11月18日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 18 November 2024/ Revised Publication -time to time)