1. 長期修繕計画とは Maintenance Plan
マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、 建物等の経年劣化に対して適時適切な修繕工事等を行うことが重要です。 そのためには、次に掲げる事項を目的として建物調査診断を実施し、長期修繕計画を作成します。
長期修繕計画の目的
(1)将来見込まれる修繕(改修)工事の内容、時期、概算費用を明確にする。
(2)計画修繕工事の実施のために積み立てる修繕積立金の額の根拠を明確にする。
(3)修繕(改修)工事に関する長期計画について、あらかじめ合意しておくことで、計画修繕工事の円滑な実施を図る。
長期修繕計画とは、マンションを構成する部材や設備の耐久性にあわせ、マンションごとに設定される長期の修繕計画であり、
通常、20〜30年程度の長期展望にたち、マンション共用部分等の各部分の修繕周期と概算費用が示されます。
修繕の必要額をその都度徴収したのでは、個々の生活に影響するだけでなく、
未納等により費用の不足が発生して、計画修繕の適正な実行に支障をきたすおそれもあります。
このため、定期的に一定額を徴収し、まとめて計画修繕に充てるものが修繕積立金で、長期修繕計画は、
必要とされる修繕積立金の算定根拠となります。
長期修繕計画の作成方針
@建物及び設備の性能・機能を新築時と同等水準に維持・回復させる修繕工事を基本とする。
(upkeep of common area assets within the community)
A法定点検等の点検及び経常的な補修工事を適切に実施することを前提条件とする。(ongoing maintenance)
B金利、消費税の税率、費用の価格変動などは作成時点において想定した条件を明示する。
長期修繕計画の見直し
(1) 長期修繕計画は、対象不動産の経年劣化の状況やメンテナンスの状態を反映するために、
一定期間(すくなくとも5年)ごとに定期的に更新する必要があります。
(2) 長期修繕計画は、20〜30年先までの推定修繕工事の内容、時期、費用等を概算で求めていますが、
策定後の技術の発展や経済・社会情勢などの変動要因はカバーしていません。
2. 長期修繕計画の作成・見直しの手順
一般的な長期修繕計画の作成・見直しの手順を示しました。
理事会の発意から長期修繕計画の作成まで、継続して数年の期間を要します。
専門的な知識も必要です。
そのため、理事会の諮問機関として維持管理に関する検討や修繕工事実施のための継続性のある専門委員会を設けて、 経験や知識のある区分所有者の参加を求めることが必要です。
標準管理規約 第55条(専門委員会の設置)
第55条 理事会は、その責任と権限において、専門委員会を設置し、特定の課題を調査又は検討させることができる。 |
(コメント) @ 専門委員会の検討対象が理事会の責任と権限を超える事項である場合や、理事会活動に認められている経費以上の費用が 専門委員会の検討に必要となる場合、運営細則の制定が必要な場合等には、専門委員会の設置に総会の決議が必要となる。 A 専門委員会は、検討対象に関心が強い組合員を中心に構成されるものである。必要に応じ検討対象に関する専門的知識を有する 者(組合員以外も含む)の参加を求めることができる。 |
専門委員会の運営には、必要に応じて、適切なアドバイスをしてくれるような専門家を選ぶことも必要です。
3. 規約における長期修繕計画
長期修繕計画の作成と見直しは通常、管理組合の業務として義務付けられています。
標準管理規約 第32条 (管理組合の業務)
第32条 管理組合は、次の各号に掲げる業務を行う。
|
コメント 第32条関係 (1) 建物を長期にわたって良好に維持・管理していくためには、一定の年数の経過ごとに計画的に 修繕を行っていくことが必要であり、その対象となる建物の部分、修繕時期、必要となる費用等に ついて、あらかじめ長期修繕計画として定め、区分所有者の間で合意しておくことは、円滑な修繕の 実施のために重要である。 (2) 長期修繕計画の内容としては次のようなものが最低限必要である。 1 計画期間が25年程度以上であること。なお、新築時においては、計画期間を30年程度にすると、 修繕のために必要な工事をほぼ網羅できることとなる。 2 計画修繕の対象となる工事として外壁補修、屋上防水、給排水管取替え、窓及び玄開扉等の 開口部の改良等が掲げられ、各部位ごとに修繕周期、工事金額等が定められているものであること。 3 全体の工事全額が定められたものであること。 また、長期修繕計画の内容については定期的な(おおむね5年程度ごとに)見直しをすることが 必要である。 (3) 長期修繕計画の作成又は変更及び修繕工事の実施の前提として、劣化診断(建物診断)を 管理組合として併せて行う必要がある。 (4) 長期修繕計画の作成又は変更に要する経費及び長期修繕計画の作成等のための劣化診断 (建物診断)に要する経費の充当については、管理組合の財産状態等に応じて管理費又は 修繕積立金のどちらからでもできる。 ただし、修繕工事の前提としての劣化診断(建物診断)に要する経費の充当については、 修繕工事の一環としての経費であることから、原則として修繕積立金から取り崩すこととなる。 (5) 管理組合が管理すべき設計図書は、適正化法第103条に基づいて宅地建物取引業者から 交付される竣工時の付近見取図、配置図、仕様書(仕上げ表を含む。)、各階平面図、 2面以上の立面図、断面図又は矩計図、基礎伏図、小屋伏図、構造詳細図及び構造計算書である。 ただし、同条は、適正化法の施行(平成13年8月1日)前に建設工事が完了した建物の分譲に ついては適用されてないこととなっており、これに該当するマンションには上述の図書が交付されて いない場合もある。 他方、建物の修繕に有用な書類としては、上述以外の設計関係書類(数量調書、竣工地積測量図等)、 特定行政庁関係書類(建築確認通知書、日影協定書等)、消防関係書類、機械関係設備施設の 関係書類、売買契約書関係書類等がある。 このような各マンションの実態に応じて、具体的な図書を規約に記載することが望ましい。 (6) 修繕等の履歴情報とは、大規模修繕工事、計画修繕工事及び設備改修工事等の修繕の時期、 箇所、費用及び工事施工者等や、設備の保守点検、建築基準法第12条第1項及び第2項の 特殊建築物等の定期調査報告及び建築設備(昇降機を含む。)の定期検査報告、 消防法第8条の2の2の防火対象物定期点検報告等の法定点検など、維持管理の情報であり、 整理して後に参照できるよう管理しておくことが今後の修繕等を適切に実施するために有効な 情報である。 (7) 建替え等により消滅する管理組合は、管理費や修繕積立金等の残余財産を清算する必要がある。 なお、清算の方法については、各マンションの実態に応じて規定を整備しておくことが望ましい。 |