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2. 長期修繕計画の作成方法

1. 長期修繕計画の作成レベル

新築工事では、例えば「外壁:モルタル吹き付けタイル塗装 (微弾性フィラー(1.0kg/u)+水性シリコン2回)」と書けば仕上がりも工事費も ほぼ定まってきますが、修繕工事では、塗装の劣化やクラック幅のレベルに応じて詳細な修繕手順(はつり、Vカット、下地モルタル撤去の範囲、補修方法等)を示すなど、 現況状態を説明し、範囲と補修方法を図面にて明示し、仕上げを指定するという詳細な説明をきちんとしておかないと、工事費の精度にも影響し、 修繕の意味も曖昧なものになってしまいます。

調査・診断をせずに机上の予想だけで、工事費の概算値を求める方法は幾つかありますが、このように 調査・診断により現況をしっかり把握しなければ、精度の高い工事費の算定も難しいということは留意する必要があります。

 

長期修繕計画の設定方法には次の4段階のレベルがあります。

レベル内  容
T

建物診断を行わずに簡易的にモデル化して算出する方法
工事項目と部位ごとに工事モデル仕様を定め、戸当り標準工事費に対象となるマンションの建物データを入力し、 これに一定の係数を乗じて工事費を定める方法で、長期修繕計画の作成費は最も安い。
築年数の浅いマンションで修繕積立金の根拠を出すための簡易的なシステムとして使用される。

U

建物診断を行わずに部位別数量等を用いて算出する方法
設計図書を基に工事項目と部位ごとに工事仕様を定め、各部位の大枠の数量を拾い上げ、各工事の単価を乗じて 算出する方法で、@よりは多少、精度が高い。

V

過去の工事実績を反映して算出する方法
1回目の大規模修繕を終えたマンションで、過去の実績数値を基に算出する方法。

W

建物診断を行い、実施設計を基に算出する方法
実施設計の仕様を根拠に算出する方法で、実施設計のレベルに近づくほど、長期修繕計画を 作成する手間(=費用)がかかるが、精度は最も高い。

2. 修繕工事金額の算定

数量計算

(1) 新築マンションの場合、設計図書、数量計算表のほか、請負代金内訳書を参考として算定します。
(2) 既存マンションの場合、現状の長期修繕計画を踏まえ、保管している設計図書、数量計算表、修繕履歴、法定点検 結果報告書等を参考として更に建物及び設備の劣化状況を調査・診断した結果に基づいて算定します。

単価の設定

(1) 新築マンションの場合、請負代金内訳書を参考として算定時点の工事市況価格に基づいて設定します。
(2) 既存マンションの場合、過去の修繕工事の契約実績を参考として、算定時点の工事市況価格に基づいて設定します。
(3) 現場管理費及び一般管理費は、見込まれる修繕工事ごとの総額に応じた比率の額を単価に含めて設定します。

修繕積立金の運用益、借入金の金利及び物価変動は作成時点において想定した比率、及び消費税は作成時点において決定 している税率を明示しておきます。

3. 長期修繕計画の作成方法

長期修繕計画書の構成。

長期修繕計画書は、次に掲げる項目で構成されます。
(1) マンションの建物・設備の概要
(2) 調査・診断の概要
(3) 長期修繕計画の作成・修繕積立金の設定の考え方
(4) 長期修繕計画の内容
(5) 修繕積立金の額の設定

(解説)
(1) マンションの建物・設備の概要
     詳細については、[建物診断の基礎データ]を参照ください。
     建物・設備の概要、分譲・竣工・管理の会社名、法定点検・維持管理の状況、
     会計の状況、設計図書等の保管状況
(2) 調査・診断の概要
     劣化の現象と原因、修繕(改修)方法の概要
(3) 長期修繕計画の作成・修繕積立金の設定の考え方
     長期修繕計画の目的、計画の前提等、計画期間の設定、推定修繕項目の設定、修繕周期の設定、
     推定修繕工事費の算定、収支計画の検討、計画の見直し及び修繕積立金の額の設定の考え方
(4) 長期修繕計画の内容
     a)計画期間の設定
     b)推定修繕項目の設定
     c)修繕周期の設定
     d)推定修繕工事費の算定
     e)収支計画の検討
(5) 修繕積立金の額の設定
     修繕積立金の積立方法、修繕積立金の額の設定方法、住戸別の月当たりの積立金の額

4. 修繕工事項目の概要と修繕周期の目安

下記に目安となる修繕周期を挙げておきましたが、このまま設定されるわけではありません。
(1) 新築マンションの場合、推定修繕工事項目ごとに、マンションの仕様、立地条件等を考慮して設定します。
(2) 既存マンションの場合、更に建物及び設備の劣化状況等の調査・診断の結果等に基づいて設定します。
(3) 長期修繕計画では更に、経済性を考慮し、推定修繕工事の集約を検討します。

  [維持保全の目的とその手段]

修繕工事項目 対象部位 工事区分 修繕周期
建 物
屋上防水(保護)屋上、塔屋、ルーフバルコニー補修・修繕
撤去・新設
12年
24年
屋上防水(露出)屋上、塔屋
傾斜屋根防水屋上
庇(ひさし)防水庇天端、笠木天端、パラペット天端、架台天端修繕12年
バルコニー床防水バルコニー床の防水(側溝、幅木を含む)修繕12年
開放廊下防水開放廊下、階段の防水(側溝、幅木を含む)修繕12年
コンクリート補修外壁、屋根、床・手すり壁、軒天、庇等修繕12年
外壁塗装外壁、手すり壁等の塗装塗替
除去・塗装
12年
36年
軒天塗装開放廊下、階段、バルコニーの軒天
タイル張外壁、手すり壁補修12年
シーリング外壁目地、バルコニー壁、スリーブ廻り打替12年
鉄部塗装(雨掛かりの部分)
開放廊下・階段、バルコニーの手すり、屋上・外構フエンス、設備架台、屋外鉄骨階段
塗替4年
鉄部塗装(雨掛かりでない部分)
住戸玄関ドア、共用部分ドア、PS・メーターボックス扉、手すり、設備機器(消防・配電盤類)
塗替6年
非鉄部塗装(アルミ製・ステンレス製)サッシ・面格子・ハッチ清掃12年
(ボード・樹脂・木製)隔て板、雨樋、木部全般塗替12年
建具関係住戸玄関ドア、共用部分ドア、自動ドア点検・調整
取替
12年
36年
窓サッシ、面格子、網戸、シャッター
手すり開放廊下・階段、バルコニーの手すり取替36年
付属金物縦樋支持金物、笠木、集合郵便受け、ロッカー取替24年
共用部の内部管理員室、集会室、内部廊下、内階段壁張替・塗替12年
設 備
給水管屋内共用給水管更正15年
屋内共用給水管、屋外共用給水管更新30年
受水槽受水槽、貯水槽、高架水槽取替25年
給水ポンプ揚水ポンプ、加圧給水ポンプ、直結給水ポンプ補修8年
取替16年
排水管屋内共用雑排水管更正15年
屋内共用雑排水管、汚水管、雨水管更新30年
排水ポンプ排水ポンプ補修8年
取替16年
ガス管屋外埋設ガス管、屋内共用ガス管取替30年
空調・換気設備共用部管理室・集会室のエアコン取替15年
換気設備屋外埋設ガス管、屋内共用ガス管取替30年
電気設備同上の換気扇、ダクト類、換気基地、換気ガラリ取替15年
防災・消防設備感知器、発信器、表示灯、音響装置、受信機等取替20年
消火栓ポンプ、連結送水管設備、消火栓箱等取替25年

(注)修繕周期は使用されている材質や施工方法、環境、管理状況などで大きく変わります。
例えば、給水管の材質は亜鉛めっき鋼管(これにもコア付きとコアなし、エポキシライニングなど多種あり)、硬質塩化ビニルライニング鋼管、ステンレス管、 ポリエチレン樹脂管など、材料と工法の進歩に伴い多種多様にあり、脱酸素・磁気処理・高圧洗浄など使用に伴う保全と管理の技術も、多種多様にあります。 他の部位についても同様で、修繕周期をひとくくりで定義することは実際には無理があります。 (!)
ここで示した修繕周期は、あくまでおおまかな参考として見てください。