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国交省統計データ不正事件・検証委員会・報告書 全文

令和4年(2022年)1月14日 国交省統計データ不正事件検証委員会報告書が発表されました。

本報告書の全文を(余計な論評や注釈を加えずに)、ご紹介しています。
(国交省発表はPDF版ですが、当HpにてWeb版に編集したものです。)

1.国交省統計データ不正事件検証委員会調査報告書(令和4年1月14日)について

2.「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書」目次
  第1章 本委員会の概要等
  第2章 建設受注統計調査について
  第3章 本件統計室の概要について
  第4章 本件各問題について
  第5章 本件各問題についての評価
  第6章 本件各問題の原因論
  第7章 再発防止策 (提言)
  第8章 追補
  第9章 終わりに (委員長及び委員長代理より)
  別紙1 本委員会による関係者へのヒアリング状況

(参考) 統計調査用紙(OCR)
(追記) 報告書を受けて責任者らの処分を発表

国交省統計データ不正事件・検証委員会報告書(令和4年1月14日発表)

 (正式名称)
       「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る調査報告書」

令和4年1月14日11時に、「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会」より、
国土交通大臣に報告書が提出されました。

「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会」委員名簿

委員長寺脇 一峰(弁護士 元大阪高検検事長)
委員長代理舟岡 史雄(信州大学名誉教授)
委員(事務局長)岸  秀光(弁護士 元名古屋地検特別捜査部長)
委員池田 順一(弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
委員国友 直人(東京大学名誉教授)
委員西郷 浩 (早稲田大学政治経済学術院教授)
委員白石 俊輔(弁護士 元東京地方検察庁検事)
委員中城 重光(弁護士 中城・山之内法律事務所)
委員山下 智志(統計数理研究所副所長)
委員和田 希志子(弁護士 ふじ合同法律事務所 第一東京弁護士会副会長)
事務局長補佐川崎 玉恵(東京理科大学理学部第一部特別講師)
事務局長補佐和氣 礎 (弁護士 桃尾・松尾・難波法律事務所)

第1章 本委員会の概要等

第1 本委員会設置の経緯

 令和3年12月15日、国土交通省(以下「国交省」という。なお、本報告書においては、 平成13年に施行されたいわゆる中央省庁再編以前の旧建設省についても、原則として単に「国交省」という。 また、同省大臣を「国交大臣」という。) の建設工事受注動態統計調査(以下、当該統計を「建設受注統計」といい、当該統計の 調査全体を「建設受注統計調査」という。)(※1)において、令和3年3月まで、調査対象の事業者から提出された調査票の数値が書き換えられており 「二重計上」が生じていた、との報道がなされた。

 同報道等を受けて、岸田文雄内閣総理大臣より「統計の学者のみならず、元検事や弁護士を入れた第三者委員会を国土交通大臣の下に立ち上げ、 徹底的に検証し、一ヶ月以内にまとめ、統計委員会に報告し、政府統計の信頼回復を図ること」との指示がなされた。

 かかる指示を踏まえ、国交省は、 令和3年12月23日に「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員会」(※2)( 以下「本委員会」という。) を設置した。


(※1) なお、国交省が行っている調査には「建設工事受注動態統計調査(大手50社調査)」という調査も存在するが、 本報告書において単に「建設受注統計調査」と述べる場合、大手50社調査ではなく、 第2章で説明する抽出事業者を対象とした調査を意味する。 なお、「建設受注統計」と「建設工事受注動態統計調査(大手50社調査)」の区別が重要となる場合、 前者を「甲調査」、後者を「乙調査」と呼ぶ場合がある。

(※2) 本委員会は総理大臣指示を受け国交大臣の下に設置されていることから、名称を「検証委員会」とした。 ただし、本報告書第1章第3及び第4記載のとおり、日本弁護士連合会の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」 (2010年12月17日改訂) において要求されている委員会の独立性・中立性は十分に確保されており、 起案権等においても同ガイドラインの内容を踏まえている。


第2 調査・検証対象

本委員会の主な調査・検証対象は、以下のとおりである。
@ 建設受注統計において、調査票に記載された数値の書き換えや二重計上が行われた経緯・
   国交省における事後対応の状況などの事実関係の調査
A @の調査の結果認定された事実の評価
B @の調査の結果認定された事実についての原因の検証
C 再発防止策

上記@の調査の結果、本委員会は問題点を3つの項目に整理し(後記第4章第1)、詳細な事実認定を行った
(後記第4章第2)。それぞれについて、上記Aの「認定された事実の評価」については後記第5章に、
同Bの原因究明は後記第6章に、同Cの再発防止策については、後記第7章において述べる。

第3 本委員会の構成

 本委員会の構成員は、「建設工事受注動態統計調査の不適切処理に係る検証委員 会構成員」記載のとおりであり、10名の委員及び2名の事務局長補佐から構成されており、 統計学の専門家又は弁護士( 検察官としての職務経験を有する者を含む。) である。 一部の委員においては、過去において国交省主催の会議体の委員となった経験を有するが、 外部有識者として独立・中立の立場で関与したものであるし、 審議対象も本件の調査・検証対象とは異なっており、本件における構成員の独立性・中立性は保持されている。

 なお、本委員会は、関係者に対するヒアリングを実施する上で必要となる関係者への連絡及び国交省の関連部署に対する資料提出要求等の事務的作業については、 国交省大臣官房監察官ら(以下「国交省監察部署」という。) の協力を受けている。 しかしながら、その関与は事務的作業に限定され、事実認定やその評価・検証は委員及び事務局長補佐によって行われ、 最終的な本報告書の内容も本委員会の意思決定に基づき作成され、確定したものである。

第4 本委員会の調査方法等の概要

 本委員会は、令和3年12月23日に設置され、国交省監察部署が収集した初期資料(公表されている過去の統計資料・審議会等の資料・ 国会議事録関連新聞記事、統計関連部署内の人員配置等の資料及び建設受注統計調査の事務処理に関する客観的資料)の提供を受けた。 本委員会は、当該資料を検討した上で、以下の方法で追加調査を行った。

@ 関係者に対するヒアリング( 詳細は別紙1 記載のとおり。国交省の関連部署の各職位の
  歴代の関係者のみならず、都道府県の担当者や他省庁の本件関与者からの聞き取りも実施した。)

A 初期資料及び関係者へのヒアリングを踏まえて本委員会が必要と判断した追加資料の収集

 これらの資料が公表されることとなれば、今後、同様の検証を行う委員会を設置し調査を行う際に、 調査対象者からの協力を得ることが困難になると考えられることから、本委員会においてこれらの資料を公表する予定はない。
これらの資料については、本委員会による調査終了後、事務局長にて保管する予定である。

 また、本委員会の委員及び事務局長補佐は、調査終了後も含め、秘密の保持を徹底する。
上記の追加調査と並行し、本委員会は、令和3年12月23日、同月28日、令和4年1月5日及び同月10日に全体会議を実施し、 調査方針及び本報告書の内容等について議論を行った。その詳細は別紙2記載のとおりである。

第5 本委員会の事実認定の概要

 本委員会の調査結果等の詳細は第2章以下に記載したとおりであるが、本委員会が認定した事実関係のうち主要な点をまとめると以下のとおりである。

@ 建設受注統計調査においては、提出が遅れた月の分の調査票(以下「過月分調査票」という。) の受注額の数値を、当月分の調査票 (本調査書では、本来集計がなされるべき月のことを「当月」といい、当月に予定通り提出された調査票を「当月分調査票」という。) の受注額の数値に合算し、 当月分の受注額として計上していた( 以下、このような処理を「本件合算処理」という。)。

A 本件合算処理は、時期による変遷があった可能性もあるものの、基本的に調査票を書き換える( 過月分調査票と当月分調査票の数値を消した上で、 当月分調査票に当月の数値として合算額を記載する) ことで行われていた。

B Aの書き換えは、平成12年に建設受注統計調査が開始される以前に実施されていた「公共工事着工統計調査」等の時代から存在したものと考えられ、 建設受注統計調査の開始時から本件合算処理がなされていたと考えられる(ただし、建設受注統計調査よりも前の時代に都道府県に対する指示があったかは不明である。) 。

C Aの書き換えは、建設受注統計調査が始まった平成12年時点で国交省から都道府県に対して、調査票の受注高を消して、 当月分の数値を書き直すよう指示がなされていたが、都道府県で書き直しをしていない場合は、国交省の担当部局(おって定義する本件統計室) においても行っていた。

D 建設受注統計調査においては、平成25年4月分から、調査票を提出しなかった事業者に関する受注額の数値(欠測値) を、 調査票を提出した事業者の受注額から推測して計算するという推計方法が採用された。 この推計は、ある月において調査票を提出しない事業者の受注額に、調査票を提出した事業者の層別平均値を代入する方法であったため、 この推計とAの本件合算処理が合わさることで、一つの事業者の過去分の数値が二重に計上されることとなる (例えば、X事業者が5月分の調査票を6月分の調査票とまとめて提出した場合、この調査票の受注額は過月分調査票として6月分の調査票の数値として計上 されることになる。しかし、X事業者の5月分の受注額は、上記推計計算によって既に5月分として同一階層の他の事業者の平均値で計上されている。 そのため、X事業者の5月分の受注額は、(i)推計計算によって5月分として既に推計に反映されて計上され、かつ、 (ii)本件合算処理によって6月分としても計上されるため、二重に計上されることになる。以下、これを「本件二重計上」という(※3) 。


(※3) ただし、(i)は他事業者の実績からの推計額が計上され、(ii)はX事業者の回答実額が計上されるため、全く同じものが2回計上されているわけではなく、 二重計上というのはあくまで概念的なものである。


E 本件二重計上については、平成25年4月分から導入された推計方法を検討していた職員がAの本件合算処理を認識していなかったか、 ( 本件合算処理を認識していたとしても) それによって本件二重計上が生じることを認識していなかったことによって生じたものと考えられる。 本件二重計上が生じることを認識した上で、あえて推計計算と本件合算処理を併存させたことは確認できず、 過大な数値を導く目的で作為的に本件二重計上を生じさせたことは確認できない。

F 国交省の担当部局( おって定義する本件統計室) の責任者は、令和元年11月頃には本件二重計上を認識していたと考えられるが、 令和3年4月分までの本件合算処理( ただし、令和2年1月分以降は、合算は前月1ヵ月分のみとし、また、 過月分調査票の数値は消さずにマスキングテープ(白色のものと思料される。以下同じ。) を上に貼る形とし数値の復元が可能な形にしていた。) を継続した。

G 国交省の担当部局( おって定義する本件統計室) は、本件合算処理と本件二重計上に関連する問題の矮小化を図り、 関係部署に対して必ずしも明確でない説明を繰り返すなど、その事後対応は適切だったとは言い難い。

第2章 建設受注統計調査について

第1 建設受注統計調査の概略

 建設受注統計調査とは、統計法(平成19年法律第53号) に基づいて実施される基幹統計調査(同法2条6項) の一つであり、 全国の建設業許可業者(以下「建設業者」という。) から抽出された約1万2千の建設業者を対象とした月次調査である。

 建設受注統計調査の目的は、建設業者の建設工事受注動向及び公共機関・民間等からの受注工事の詳細を把握することにより、 各種の経済・社会施策のための基礎資料を得るとともに、企業の経営方針作成等のための参考資料を提供することにある。

 建設工事統計は工事額のストックとフローの両面から活用される。工事の着工額あるいは受注額が先行きの見通しを捉える際に有用であり、 これが受注統計調査により把握される。一方、受注工事の毎月の出来高は雇用の動向や資材の動きに密接に関連し、 公共工事や民間設備投資の進捗を捉える上で重要であるが、進捗状況を統計調査から直接把握することは困難であり、 建設受注統計調査にもとづく着工額等のストックデータに工事の種類ごとの進捗状況の分布等を使用して推計される。 このように加工して作成された統計情報が建設総合統計として公表され、広く利用されている。

 建設総合統計は、国内の建設活動を出来高ベースで把握することを目的として、昭和43年から作成され、 月別・都道府県別・発注者別・工事種類別等に建設工事の進捗状況が明らかになる有用な統計であり、 GDP の四半期ごとの速報値の公共投資の計数や地域別の建設投資の推計、公共事業の進行状況の把握等に活用されている。

 建設総合統計では、建築着工統計調査及び建設受注統計調査から得られる工事費を、着工ベースの金額として捉え、 これらを工事の進捗に合わせた月次の出来高に展開し、月毎の建設工事出来高として推計している。 推計手順は、以下のとおりである。

@ 建設工事進捗率調査の結果から算出した工事別( 土木・建築) 、工期別の進捗率と冬期補正率を用いて、 工事1件ごとに当月着工相当額を当月以降の月次出来高に展開する。

A 年度で別途、決算書から推計される建設投資額と毎月の着工額から求めた出来高の年度合計値との乖離を補正し、 発注者別・地域別・工事種類別に当月の出来高を合計する。

B 当月着工工事の当月分出来高に前月までの手持ち工事高から展開された当月分出来高を合算して当月分の出来高合計を算出する。

第2 建設受注統計調査の開始経緯

 国交省は、平成12年3月以前において「公共工事着工統計調査」、「民間土木工事着工調査」及び「建設工事受注調査」の3調査を実施していた。 国交省は、建設工事の動向を受注面から総合的にとらえるために上記3 調査を再編・統合し、平成12年4月から建設受注統計調査を開始した。

第3 建設受注統計調査の方法

 建設受注統計調査は、全国の建設業者から抽出された約1万2千の建設業者から、紙媒体又は電子データで調査票の提出を受ける方法で行われている。 電子データで提出される調査票は調査対象の建設業者から国交省に直接提出されるが、紙媒体で提出される調査票は調査対象の建設業者から都道府県に提出された上で、 都道府県から国交省に送付される。

紙媒体の調査票は別添1のもの(以下「本件調査票」という。) が使用されている。 本件調査票は光学文字認識( 以下「OCR」という。) による読み取りが可能な調査票であり、 建設業者は本件調査票に鉛筆で数値等を記入し提出する。
本件調査票が集計され統計として公表されるまでの流れはおおむね以下のとおりである。

@ 調査対象の建設業者は、調査対象月の翌月10日までに必要事項を記入した本件調査票を都道府県に提出する (例えば、調査対象月が4月の場合、建設業者は、5月10日までに本件調査票を都道府県に提出する。)。

A 都道府県は@で提出された本件調査票を、調査対象月の翌月20日までに国交省に送付する( 例えば、調査対象月が4月の場合、都道府県は、5月20日までに本件調査票を国交省に送付する。) 。

B 国交省はA で送付された本件調査票を国交省内にあるOCR 読み取り装置で読み取りデータ化し、 電子データで提出された調査票をデータ化したものと併せて集計し( 詳細は第3 章第3 参照) 、調査対象月の翌々月10日前後に統計として公表する。

第3章 本件統計室の概要について

第1 建設受注統計の所管部署

 建設受注統計は、平成12年4月から平成13年1月5日までは建設省建設経済局調査情報課が、 平成13年1月6日から平成19年6月までは国交省総合政策局情報管理部建設調査統計課が、 平成19年7月から平成20年9月までは同省同局同部情報安全・調査課建設統計室が、 平成20年10月から平成23年6月までは同省同局同課建設統計室が、 平成23年7月から平成26年3月までは同省同局情報政策課建設統計室が、 平成26年4月から現在に至るまでは同省同局同課建設経済統計調査室が所管している (以下、これらの建設受注統計の所管部署をまとめて「本件統計室」という。)。

このように、本件統計室は、平成19年6月までは単独の「課」であったが、平成19年7月からは「室」となっている。 なお、本委員会が本件統計室の歴代職員に対して実施したヒアリングでは、 本件統計室は必ずしも体調が万全でない職員や時間外労働等に従事することが困難な職員が配置されることが多かった等の事情から、 慢性的な人員不足に陥っていたとの供述があった。

第2 本件統計室の組織概略及びレポートライン

 本件統計室には複数の係が存在するが、このうち建設受注統計を担当するのは建設統計係である。

平成12年4月から現在まで、建設受注統計に関するレポートライン(※4)は、基本的に、下から順に、以下のとおりである。
@ 担当係員( 建設統計係員のうちの1名。
   ただし、建設受注統計を担当する係員が存在しない時期も存在する。)
A 担当係長(建設統計係長)
B 担当課長補佐
C 企画専門官等(平成18年3月以前は統計企画官又は建設統計企画官、平成18年4月以降は企画専門官。)
D 室長(平成19年7月から平成26年3月までは建設統計室長、平成26年4月以降は建設経済統計調査室長。
   本件統計室が単独の「課」であった平成19年6月以前は室長が存在せず、Eの課長がこの立場を務めていた。)
E 課長(平成12年12月までは調査情報課長、平成13年1月から平成19年6月までは建設調査統計課長、
   平成19年7月から平成23年6月までは情報安全・調査課長、平成23年7月以降は情報政策課長。)
F 担当審議官等(平成13年1月5日までは建設経済局の担当審議官、平成13年1月6日から平成20年9月までは
   情報管理部長、平成20年10月から平成30年6月までは情報政策等の担当審議官、
   平成30年7月以降は担当局長級の政策立案総括審議官(以下「政総審」という。)

 ただし、担当係員とは別に、期間業務職員が在籍している期間もあり、 当該期間においては当該期間業務職員も建設受注統計に関与している(現在も在籍し、関与している)。 また、令和2年4月から令和3年3月までは総合政策局総務課専門調査官が本件統計室の併任を命じられ、 室長の事実上の補佐役(いわゆるスタッフ職) として、建設受注統計調査に関与した。


(※4)  ここで述べるレポートラインとは、建設受注統計に関与し得る職員において、 業務上の報告や相談を行う上位者が誰になるかを意味する。 そのため、建設受注統計に関する全ての事項がこのレポートラインに沿って報告されるという意味ではなく (第4章で認定するとおり、その上長に報告や相談をするかは報告や相談を受けた職員により判断されることもある。) 、 また、建設受注統計の公表にあたっては他部署が決裁に関わることもある。


第3 本件統計室における建設受注統計に関する業務フロー等

1 業務フロー
 建設受注統計に関与するレポートラインは上記第2 のとおりであるが、建設受注統計に関する定期的な業務 (いわゆるルーティンワーク)は以下のとおりである。

 建設受注統計調査では、抽出された建設業者がある月分の実績を記載した本件調査票を当該実績があった月 (以下「実績月」という。)の翌月10日までに都道府県に送付し、都道府県はこれを実績月の翌月20日までに本件統計室 に送付することとされている。なお、建設業者から本件調査票が本件統計室に直送されてくることもある。

本件統計室は、その本件調査票について、以下の@〜Eの作業によって統計データを作成する。
@ 調査票に誤記がないか等を目視で確認し、必要な修正作業を行う。
A @が完了した本件調査票をOCR で読み込み、テキストデータ化する
B 電子データで提出された調査票についてもテキストデータ化する。
C A及びBで作成されたテキストデータを、エラーチェックシステムに通してチェックし、必要な修正を行う。
D C で作成されたデータをアップロードする。
E D でアップロードしたデータを独立行政法人統計センターがダウンロードして確認し、 必要に応じて本件統計室に照会を行った上で集計データを作成し、本件統計室に送付する。

 なお、時期による変化もあるものの、上記の作業は、A とE を除き、基本的に本件統計室の担当係長、 担当係員又は期間業務職員によって行われている(かつてはA も担当係長以下によって行われていたが、 現在は外注業者によって行われている。)。ただし、ヒアリングによると、@の作業を担当課長補佐が手伝っていた期間もあったとのことである。

2 本件調査票
本件調査票の記載事項は建設受注統計調査の開始以降変更されておらず、建設業者によっておおむね以下の内容が記載される。

・表面
  企業名、所在地、建設業許可番号
  受注高( 工事種類及び発注者区分ごと)
・裏面
  公共機関からの個別受注工事の内訳(1件500万円以上の元請工事に限る。)
  民間等からの個別受注工事の内訳( 土木工事及び機械装置等工事は1件500万円以上の元請工事に限る。
  建築工事及び建築設備工事は1件5億円以上の元請工事に限る。)

裏面に個別工事内訳を記載する際に1枚の本件調査票のみでは記載欄が不足する場合、 建設業者は1つの月の分の調査票として2枚以上の本件調査票を提出することとなる。 この場合、表面の「受注高」を記載するのは1枚目のみとし、2枚目以降には表面の「受注高」を記載しない。そ して、都道府県にて、受注高が記載された1枚目には表面の右上の端にある「※ 」との記載欄に「1」を記載し、 受注高が記載されない2枚目以降には同記載欄に「2」と記載する ( 「2 」と記載した本件調査票の表面に「受注高」が記載されていると上記1のCでエラーとして認識され修正を求められる。)。

3 調査票に関する制約
建設受注統計における調査票のOCR 読み込み( 電子データで提出された調査票においては同調査票のテキストデータ化) において、 当該調査票がいつの情報を記入したものであるか( 別添1の「令和(引用注: かつては平成)年月分」という記載部分) は、読み取られない。

読み取られた調査票がいつの実績数値であるかは、(本件調査票の「令和年月」という記載ではなく)調査票を上記1の業務フローに乗せた時期によって決定される。 そのため、ある建設業者が1つの月に本件調査票を(遅れた分を含め)2つの月分以上提出した場合、 その2つの月分以上の本件調査票をそのままOCR 読み込みすると、1つの月に1つの事業者の「受注高」データが複数存在することとなり、 上記1のCにおいてエラーとして認識され、そのままでは上記1のD以降の作業を行うことができない。

また、上記1の業務フローでは専ら当月分のデータに関してしか作業することができない。 そのため、平成12年4月から現在まで用いられているシステム上、過月分調査票を1の業務フローに乗せる方法では、 集計済みの過去の月の数値に組み込むことはできない(そのような遡及的な修正は、 遅れて提出された個別の本件調査票に記載されている数値を集計済みのデータに別途組み込む方法で行う必要がある。)。

4 全国説明会
建設受注統計の本件調査票は、上記1のとおり、まず建設業者から都道府県に対して送付され、 都道府県担当者の一次的な審査を経て、国交省に送付される。

そのため、本件統計室は、平成12年以降、毎年(新型コロナウイルス感染症の影響で中止となった令和2年は除く。) 、 都道府県に対して建設受注統計に関して実施を求める作業等について説明を行う建設工事統計調査全国説明会 (建設受注統計調査開始前の事前説明会を含む。) を実施している(以下「全国説明会」という。)。

全国説明会の運営について、建設受注統計の開始当初の状況は判然としないところがあるが、 毎年同じような内容で行われていた模様である。

第4章 本件各問題について

第1 確認された問題の概略

本委員会は、調査の結果、確認された問題点を、次の3つの項目に整理した。

@ 平成12年の建設受注統計調査の開始時点から、過月分調査票に記載された「受注高」の数値を当月分調査票の「受注高」に合算し、 過月の「受注高」を当月の「受注高」に算入していたこと(都道府県に対して、その旨を指示していたことを含む。 以下、これに関する問題を「本件合算問題」という。)

A 平成25年4月から、建設受注統計調査について、回収率を考慮し、期限までに本件調査票が回収されなかった事業者の受注高については、 回収できた事業者の受注高に抽出率の逆数と回収率の逆数を乗じて推計する方法を採用したが、 この際に上記@の本件合算処理を継続したことによって、当月分受注高に合算した過月分受注高が過剰に統計に反映されてしまったこと (以下、これに関する問題を「本件二重計上問題」という。)

B 事後対応の問題として、平成31年の一斉点検の際に本件合算問題又は本件二重計上問題を報告しなかったこと 及び会計検査院への調査への対応や総務省統計委員会への報告の在り方(以下、これに関する問題を「本件事後対応問題」という。)

以下では、上記の諸点を巡る事実経過と、その原因等について考察していく。

第2 建設受注統計調査を巡る事実関係

1 平成12年から平成20年まで
  ア 調査票の提出の実情
    建設受注統計調査に再編・統合される以前の「公共工事着工統計調査」及び「民間土木工事着工調査」の時代から、 調査対象となる建設業者の中には、調査に協力的でなかった者もあり( とりわけ中小零細企業は期日どおり調査票を提出していたわけではなく)、 複数月分の調査票をある月にまとめて提出する場合があった。

そのころから、遅れて提出された調査票(過月分調査票) については、その開始時期は明らかではないものの、 本件統計室において、当月に合算する扱いがされていたことが認められる。

このような経過の中で、以下にみるように、本件統計室は、都道府県に対し、 過月分調査票に関する本件合算処理の指示を行うようになったものと認められるが、その背景には、 本件調査票の数値を国交省に対する送付前の段階で合算させれば、国交省が行うOCR 読み取り後のエラーチェックシステムによるチェックの際 (第3章 第3の1C) にエラーが出なくなるため、本件統計室の担当者の事務負担が軽減されるという面があったものと考えられる。

イ 都道府県に対する合算の指示
    平成12年4月分からの建設受注統計調査の開始に先立つ同年3月21日に全国説明会( 事前説明全国会議) が実施されている。 同説明会にて配布された資料には、調査対象事業者が過月分を含む複数月分の調査票を同時に提出した場合、 「当該各調査票の金額を1枚にまとめ、その他の調査票の当該項目欄の金額は、すべて削除」することが「注意点」として記載されている。

上記の記載に本委員会によるヒアリングの結果を併せ考えると、本件調査票が提出期限に遅れて提出された場合、 過月分調査票表面の「受注高」の数値と当月調査票表面の「受注高」を合算するように、少なくとも、 建設受注統計調査が開始されたときには本件統計室が都道府県に対して指示をしていたことが認められる。

本件統計室が都道府県に対する本件合算処理の指示を開始した際に、 本件統計室のどの職位の者までがかかる指示を行うことを把握していたかについては明らかではない (上記資料には「疑問点等の照会先」として本件統計室の職員の氏名が記載されているが、 記載されているのは係長までである。) 。しかしながら、下記ウでも記載するとおり、 歴代の係長は本件統計室でも合算処理を行っており、都道府県に対して合算処理の指示を開始した際にも、 それを認識していた可能性が高い。そして、合算処理を行った理由としては、 歴代の係長は、遅れて提出された本件調査票の数値(表面の「受注高」の数値のみならず、 裏面に記載された個別工事内訳の数値を含む。) を廃棄せずに有効活用するには本件合算処理以外の方法がなく、 また、合算をしないことにより年間の受注額が実数値よりも少なくなることを懸念した旨供述している。

そのため、都道府県に対する指示の背景にも、年間での受注額の正確性を確保するという意図があった可能性が高い。

こうした本件統計室から都道府県に対する本件合算処理の指示は、建設受注統計開始後である平成13年以降の全国説明会等においても、 繰り返し行われていたことが確認できる( ただし、このような指示を行うことについて、 本件統計室のどの職位の者まで把握していたか明らかになっていない点は上記と同様である。) 。

ウ 本件統計室での合算処理
   平成12年度以降に本件統計室で建設受注統計を担当していた係長及び係員は、本件統計室においても、 建設受注統計調査が開始された直後から、過月分調査票の「受注高」の数値を当月分調査票の「受注高」の数値に合算し、 当月の数値として処理していた旨供述する。

一方で、係長らは本件統計室にて本件合算処理を行った本件調査票の数は多くなかったと供述している。 これは、都道府県で合算がなされなかった(いわば合算漏れの) 本件調査票及び電子データで提供された複数月分の調査票について、 本件統計室で合算処理を行っていたためであると考えられる(ただし、係長らの中には、 都道府県での合算処理を認識していなかったと供述する者も存在する。) 。

本件統計室において行われていた合算処理の方法については、職員の供述が一致していない。 建設受注統計開始直後の担当係長は、都道府県に指示していたのと同様の方法(本件調査票の記載内容そのものを書き換える方法) で本件統計室でも合算を行っていたと供述しているが、それよりも後の担当係長の中には、本件調査票の記載内容そのものは書き換えずに、 本件調査票のOCR 読み込みを行った後にパソコン上のデータを修正する際(第3章 第3の1のCの作業の際) に、 合算処理を行ったと供述する者もいる。

本件統計室での本件合算処理を行っていた担当係長の一部は、 上司( 当時の課長補佐) に対して相談した上でかかる合算処理を行っていたと供述しており、少なくとも、 平成12年前後の本件統計室の担当課長補佐には本件合算処理が報告されていたと考えられるが、 当該担当課長補佐よりも上の職位の者に対してその報告等がなされていたことは確認できていない。

なお、本件統計室において本件合算処理を行っていた係長らは、本件合算処理を行った理由について、 おおむね以下のように供述している。

・過月分調査票を公表済みの統計に遡及的に組み込むことは実務上困難であった。
・過月分調査票を完全に除外してしまうと、年間で見た際の「受注高」の数値が正しい数値を下回ることになるため、 本件合算処理を行った方が( 月次での数値が正確でなくなるとしても) 年間での「受注高」は正確な数値となる。
・過月分調査票を完全に除外してしまうと、 本件調査票表面の「受注高」のみならず本件調査票裏面に記載された個別工事内訳の情報等も活用できなくなり、 建設業者から提供を受けた情報が無駄になってしまう。

2 平成21年〜平成25年4月( 欠測値見直し作業)
  ア 推計方法の見直しについて
    平成21年3月、「公的統計の整備に関する基本的な計画」が閣議決定され、 同決定において「証拠に基づく政策立案への要請が高まっていることから、 公的統計の要求水準が質・量ともに高まり、そういった要請に適切に応えていかなければならない。」との方向性が示される中、 建設受注統計調査においては、建設投資の急激な減少等によって調査票の回収率が平成20年度には60.2% まで落ち込み(※5)、 統計精度の低下が懸念される状況となった。

本件統計室は、そのころから、統計精度向上に向けての検討を開始し、 平成22年1月、第1回建設工事受注動態調査検討会(※6)が開催され、 同年3月の第3回まで会合がもたれて検討が進められた。


(※5) 平均回収率は、平成15年度が65.2% 、平成16年度が63.9% 、平成17年度が63. 7% 、
     平成18年度が63.1% 、平成19年度が62.2% 、平成20年度が60.2% であった。

(※6) 建設統計室及びコンサルタント会社を事務局として、統計学者らを含む外部有識者を委員とする検討会である。


この検討会では、回収率の低下の原因の調査のほか、建設工事施工統計調査の完成工事高と建設受注統計調査の受注額の年額との比較対象(※7) が行われるなどし、いわゆる欠測値の補完(※8)の検討が進められ、同年3月に、抽出率の逆数に加え、 抽出層別の回収率の逆数を乗じる手法の優位性が明らかであるとする報告書をとりまとめた。

同年7月からは、建設工事施工統計調査を含む建設工事統計調査の精度向上方策等を検討する建設工事統計調査検討会が設置され、 建設工事施工調査の事業者抽出方法なども併せて検討され、平成23年4月までに4回の検討会が開催された。

平成23年7月、国交大臣より総務大臣に対し、「基幹統計調査の変更について( 申請) 」が提出された。 この変更申請は、建設工事施工統計調査の調査対象事業者の抽出方法の変更についての承認申請であったが、 添付資料に建設受注統計調査の推計方法の見直しが必要との記載がある。

同月中には、前記変更とともに建設受注統計調査の推計方法の見直し(従来の抽出率の逆数を乗じる方法に加え、 抽出層別の回収率の逆数を加味する方法に見直す) についても総務大臣から統計委員会委員長に諮問され、 同年8月、第29回及び第30回産業統計部会(※9)の審議を経て、同年9月に、同委員会より総務大臣に対し、 変更を承認して差し支えない旨の答申が提出され、同年10月、総務大臣より国交大臣に、一部条件を付した上で、 建設工事施工統計調査の調査対象事業者の抽出についての申請が承認された。

建設受注統計調査について、従前の抽出率の逆数を乗じたことに加えて、抽出層別の回収率の逆数を乗じる方法で推計することは、 本件承認の対象となってはいなかったが、上記統計委員会の答申の中で、統計精度の改善を図るための変更であり、 同推計方法は適当であるとされていたことから、同推計方法に変更されることとなった。

これと並行して、本件統計室は、平成23年度に国交省が保有する建設工事受注動態統計調査の各システムの改修を行い、 平成24年度には、独立行政法人統計センターに推計方法の見直しに伴う回収率の逆数の算出等の依頼を行っている。

以上の経過を経て、建設受注統計調査の推計法は、平成25年4月分から、抽出率の逆数と回収率を加味した推計方法に変更された。

上記建設工事受注動態調査検討会、建設工事統計調査検討会、統計委員会産業統計部会には、 室長、課長補佐が参加し、係長は書記係として参加していた。また、会議資料作成は、課長補佐が全て作成していた。

なお、平成24年度に独立行政法人統計センターに回収率の逆数の算出等を依頼した際、 過月分を合算する集計方法について言及された形跡は認められない。


(※7)建設工事施工統計調査は、年単位の調査で、抽出された建設業者から年間の完成工事高を集計している。 同調査における平成19年度の工事完成高は約85兆円であり、建設受注統計調査の受注額の年度合計額は約52兆円となっており、 近接する数値となっていなかったため、建設受注統計調査の受注額を、完成工事高に整合させる補完措置が検討された。

(※8)欠測値の補完とは、工事受注実績がありながら調査に回答しなかった事業者があることを想定し、調査の結果実際に集計された数値を、 本来受注があったにもかかわらず回答しなかった数値を推計した上でこれを加算して修正補完する措置である。

(※9)産業統計部会とは、統計委員会の下に設置され、同委員会の所掌事務のうち、農林水産、鉱工業、 公益事業及び建設業の統計に関する事項を調査審議している。


イ 全国説明会での説明
    上記のとおり、本件統計室では、全国説明会において、各都道府県担当者に対し、 過月分の調査票を含む複数の調査票が提出された場合は当月分に過月分を合算して記入し直すとの作業指示をしてきたところ、 平成21年から平成23年の説明会においても、同様の指示をしていたことが認められる。

平成24年5月27日、平成24年度建設工事統計調査全国説明会が開催されたが、その開催に当たっては、大部な資料が作成されている。

建設受注統計調査に関する資料には、OCR 読取りのための数字の記入例、対象業者からの問い合わせへのQA のほか、 「受注動態統計調査調査票審査の手引き」と題するパワーポイント資料( 以下「手引き」という。) が含まれており、 同手引きの9 ページ目には「万が一、複数月で提出されてしまった場合について」との表題の下に、 表面の受注高は複数枚それぞれの受注高を合算して1枚目に計上し、 2枚目以降の表面の受注高の数字を消して空欄にして提出するよう求める説明がされていた。

 この資料は、確認された限り係長以下が作成しており、平成24年5月の全国説明会資料の出席者名簿には、 企画専門官、建設統計情報分析官、課長補佐の名前が記載されていた。

ウ 推計方法の変更と都道府県に対する本件合算処理の合算指示の矛盾と関係者の認識
    建設受注統計調査において回収率の逆数と抽出率の逆数を用いて欠測値を補完するという推計方法を採用した場合、 本件調査票が期限内に提出されなかった月については、回収率の逆数を乗じることによって推計した数値を当該過月に計上することになるが、 さらに、本件合算処理によって当該過月分の実績をこれが提出された月に計上すると、本件二重計上が生じることになる。

そうすると、本件統計室で行っていた推計方法の見直しに合わせて、都道府県に対して行っていた本件合算処理の指示を取りやめて、 過月分を集計の対象から外さなければならなかった。

しかるに、本件統計室では、統計精度の向上のために回収率の逆数を乗じる欠測値補完措置を講じるとしながら、その一方では、 平成24年5月の全国説明会資料として「万が一、複数月の調査票が提出された場合について」と本件合算処理を指示する資料を作成し、 統計精度の向上とは相容れない方向に動いてしまっていた。

次に、本件統計室における本件合算処理の運用に関する室長、課長補佐、係長、係員の認識について検討すると、まず、 推計方法の変更が検討され始める以前においては、本件合算処理は、本件調査票集計上の実務の運用の方法であり、係長、係員は認識していた。

他方、本件調査票の集計チェックに関わったり、全国説明会に出席したり、 配付資料を確認したことのある課長補佐の中には本件合算処理を十分に認識していた者もいると認められるが、代々の室長は、 本件合算処理を知らなかったと認められる。

推計方法の変更を検討する過程における室長らの認識については、推計方法の変更に関わった当時の室長は、 本委員会のヒアリングにおいて、本件合算処理が行われていたことは知らなかったと述べている。また、平成23年9月まで在籍した課長補佐は、 全国説明会に出席しており、全国説明会での本件合算処理の説明を聞いていたと認められるが、 係長以下の行う集計業務は自分の所掌外の事務であったという意識から、その説明に耳を傾けて聞いていたことはなく、推計方法の変更の過程で、 本件合算処理は意識にはなかったと述べ、その後任の課長補佐も同様に供述する。しかし、当時の係長は、課長補佐も本件合算処理を認識しており、 課長補佐とも相談の上で本件合算処理を続けたと供述している。

以上のように、課長補佐が本件合算処理を認識していたかについては、供述が対立するところもあって、 事実の確定は現時点での証拠関係からは困難ではあるが、少なくとも、次の点は指摘できよう。

すなわち、推計方法の変更の検討の過程で、本件統計室全体で、推計方法の変更を行うことについての情報を共有し、 建設受注統計調査の業務フローの全てをもう一度点検し直しておきさえすれば、本件合算処理が行われていることを知り得たことは間違いない。 そうであれば、推計方法の変更と合わせて、本件合算処理の運用を解消し、統計精度を高めるとの本来の目的を達することができた。

なお、室長らが、導入を検討していた欠測値補完措置と本件合算処理を併存させれば本件二重計上が生じることを認識しつつ、 あえて統計的により大きな数字を公表しようとするなどの作為的な意図によって併存させることにしたとは認められず、とりわけ、 時の政権のために本件二重計上を生じさせたこと( そのような介入があったことを含む。) は確認できなかった。

3 平成25年4月〜平成30年(欠測値見直し後の二重計上)
 ア 平成25年4月、前記の欠測値補完措置が開始されたが、本件合算処理は、変更・廃止されることなく、
    従前と同じ方法で続けられた。その結果、本件二重計上問題が生ずることとなった。

 しかし、後記のとおり令和元年に担当課長補佐が本件合算処理について疑義を唱えるまで、本件合算問題や本件二重計上問題について、 表立って問題提起を行う者は現れなかった。しかも、前記のとおり、 平成24年5月の全国説明会に際して手引きが作成・配付されてから平成30年度の全国説明会まで、毎年の全国説明会において、 同様の手引きや文章で記載した資料( 表題は「建設工事受注動態統計調査にかかる毎月の作業について」など) 等を配付し、 過月分合算の方法を説明することが続けられた。加えて、平成27年5月の全国説明会からは、 本件調査票の画像を明示して更に詳細に過月分合算の方法を解説した参考資料を配付するようになった。

このように、本件統計室では、欠測値補完措置の開始後も、本件合算処理を継続し、本件二重計上問題を発生させただけでなく、 都道府県の担当者に対する過月分合算の方法の説明をより分かりやすく進化させ、都道府県の担当者に遺漏なく過月分合算をさせるよう努め続けていた。

ただし、例年、全国説明会の配付資料作成及び実際の説明は担当係長以下で担当していたところ、担当係長は、 事前に配付資料を担当課長補佐に提出し、これを全国説明会で配付することについて了承を得るのが通例であったが、歴代の担当課長補佐が、 配付資料の内容を読み込み、全国説明会で過月分合算の方法を説明することを把握していたのかどうかは、 本調査におけるヒアリングによっても不明であった。

他方、歴代の担当課長補佐が、当該配付資料を企画専門官以上に提出し、全国説明会での配付等について了承を得ていたかどうかについては、 本件調査におけるヒアリングの結果、そのようなことはしないのが通例であることがうかがわれた。

イ このような状況の中、平成30年10月、室長が本件合算問題及び本件二重計上問題を認識し得る、以下の
    出来事があった。

本件統計室では、毎月、建設受注統計の数値の公表前に、担当係長が、室長、企画専門官、 担当課長補佐らに対して公表数値等を説明すること( 以下、本件統計室での呼称にあわせ、これを「室レク」という。) が恒例となっていた。 担当係長によれば、平成30年10月5日の室レクにおいて、担当係長は、建設受注統計で本件合算処理をしていることに言及した。

当該担当係長は、ヒアリングに対し、もともと本件合算処理について説明する予定はなく、偶々本件合算処理に触れたところ、 室長( 同年8月着任) がけげんな表情をした上、他の室レク出席者が触れてはならないことに触れたという雰囲気になったため、 上記室レクでは、それ以降本件合算処理については述べなかったとのことである。

担当係長は、上記室レクの後、当時の担当課長補佐から、本件合算処理を行っていることは、おそらく、 代々課長補佐以下しか知らないことであるとの説明を受けた旨述べている。

なお、室長は、上記室レクにおいて本件合算処理への言及があった記憶はないと供述しているが、 本委員会が確認した上記室レク後の室長と担当係長のやりとりからすればかかる供述は信用しがたく、 少なくとも室長が同室レクにおける発言の趣旨を担当係長に確認すれば、本件合算問題及び本件二重計上問題を認識し、 改善策を検討する契機となったと思われる。

 しかし、室長は、本件合算処理の実態を調査等することはなく、その後も本件合算処理及び本件二重計上は続けられた。

4 平成31年1月(一斉点検)〜 同年3月(点検検証部会における基幹統計調査の予備審査)
 ア 一斉点検について
    総務省は、毎月勤労統計における不適切事案を受け、平成31年1月16 日、各府省に対し、 基幹統計の点検作業の内容( 実施要領) を説明するとともに、各府省における点検結果の報告を依頼した。

その実施要領では、「調査対象の選定方法(全数調査/抽出調査の別、抽出方法、抽出率、報告者数等)」について 「承認された調査計画や対外的な説明どおりに調査が行われているか」が点検項目とされ、また、 抽出調査における「復元推計の実施状況」すなわち「抽出調査において、統計的な処理( 復元) が適切に行われているか」 という項目についても点検項目とされたほか、重大な支障のある統計についても報告するよう求めていた。

各府省は、これに対し、チェック方式の「点検作業表」に必要事項を記入して総務省に提出することが求められていた。 点検作業表では「復元推計の実施」として「復元乗率、プログラムの確認年月、確認方法等を記載」とされていた。

また、点検を機に新たに問題等が把握できた場合についても報告するよう求められたが、 建設受注統計調査についての国交省の回答内容は「復元乗率」と「プログラムの確認年月・確認方法」に限られており、 前者については「抽出率の逆数及び回収率の逆数」と、後者については「乗率: 平成24年3月調査対象者名簿抽出プログラム改修時の完了検査平成31年1月統計センターに確認復元:平成24年3月 集計システム回収時の完了検査平成31年1月統計センターに確認」とそれぞれ記載されている。

ところで、一斉点検に先立つ平成30年12月27日に、同年11月分の建設工事受注動態統計調査(大手50社調査) の結果を公表したところ、 平成31年1月4日に建設事業関連業者から「施工高」と「手持ち工事高」が他の月に比して大きな数値となっている旨の指摘を受けたため、 国交省が本件調査票を提出した事業者に確認したところ、事業者が金額欄の単位を誤って記載していたことが判明した。

その後の国交省の精査により、当該事業者以外の7事業者についても誤記載などの問題が判明した。

総務省は、平成31年1月24日、各府省における一斉点検の結果を取りまとめ公表した。 点検結果は、毎月勤労統計のように承認された計画や対外的な説明内容に照らして実際の調査方法、 復元推計の実施状況に問題のある事案はなかったというものであった。

上記の建設工事受注動態統計調査( 大手50社調査) における誤記載の問題は、実施要領に示された点検項目ではなかったものの、 一斉点検の結果の一環として公表され、今後は「正確な値を確認した上で訂正して公表する」こととされた。

このように、一斉点検では、点検項目以外の問題も報告されたものの、本件合算処理について報告されることはなかった。 この点、本委員会のヒアリング等の調査の結果によれば、当時の係長は、過月分合算については、 一斉点検の調査項目とはされていないと理解していたものの、 過月分合算を報告した方がよいと考えて上司である課長補佐及び企画専門官に相談したが、 これらの上司が消極的な立場であったため、一斉点検の際の報告の対象にしなかったことが認められる。

イ 点検検証部会における基幹統計調査の予備審査について
    総務省による一斉点検の結果の公表後、毎月勤労統計の不適切事案に端を発する一連の流れを受け、 公的統計に対する信頼を回復すべく更なる検証に取り組むため、統計委員会の下に点検検証部会が新たに設置された。

点検検証部会における基幹統計に関する調査の一環として総務省統計委員会担当室は、平成31年3月8日、 各府省に対し、基幹統計調査の予備審査のため「基幹統計調査に係る書面調査票」の回答を依頼した。

建設受注統計調査についての書面調査票における国交省の回答においても、一斉点検の際と同様、 過月分合算処理が報告されることはなかった。

ちなみに、建設受注統計調査についての国交省の書面調査票における回答を見ると、 まず、「プロセスごとの管理者の役割」のうち、「課室長級の管理者は、 企画、審査、疑義照会、集計、公表の各プロセスにおいてどのような場面で関与しているか。」の質問のうち、
【審査・疑義照会・集計】の欄では、「審査や疑義照会( 軽微なものを除く) 、集計の状況について、 情報を共有の上、必要に応じて確認すべき事項等の指示をする。」と回答している。

本委員会の調査の結果によれば、集計レベルの情報が室長に共有されることはほとんどなかったと認められ、 当該回答は、実情を反映していない不正確なものであると言わざるを得ない。

また、書面調査票の「B 調査・集計方法の透明性」のうちの「業務マニュアルの整備状況」、「担当者が異動しても手順やノウハウが継承され、 統計の品質が確保されるよう、統計作成上のポイントや手順等が整理された文書( 名称、体裁は問わない。) の有無」について「有」とチェックされている。

この点についても、 担当者が個々に作成する個別の引継書をもって「担当者が異動しても手順やノウハウが承継され、 統計作成のポイントや手順等が整理された文書」ということができるのかは疑問なしとしない。

5 平成31年4月〜令和元年11月(全国説明会資料の書き換え指示削除等)
 ア 令和元年5月の全国説明会前後
     平成31年4月、本件統計室に新任の担当課長補佐が着任したが、
     当該担当課長補佐は、着任後まもなくして、本件合算問題に気付いた。

担当課長補佐は、さらに、担当係長から令和元年5月16日開催予定の全国説明会の配付資料の事前提出を受け、 これをチェックしたところ、手引き中に本件合算処理を説明したページがあることに気付き、担当係長に対し、 当該ページは削除すべきではないかとの問題意識を伝えた。これを受け、担当係長は、手引きから当該ページを削除するとともに、 「建設工事受注動態統計調査にかかる毎月の作業について」と題する配付資料における「調査対象業者が複数月分( 過去分と当月分) をまとめて提出してきた内、「実績あり」が1ヵ月でも含まれている場合は、全ての調査票を重ねて「実績あり」に分類してください。」 との記載を「調査対象業者から複数枚提出があり「実績あり」が1枚でも含まれている場合は、 全ての調査票を重ねて「実績あり」に分類してください。」との表現に変え、全国説明会でも同様に説明した。

しかし、都道府県に対し、本件合算処理を取りやめるよう指示することはなく、その後も引き続き本件合算処理は続けられた。

イ 和元年6月頃
    担当課長補佐は、令和元年6 月頃、室長及び企画専門官に対し、 本件合算処理をしている実態及び本件合算処理を取りやめるべきことを訴えたが、室長及び企画専門官が、 本件合算処理の取りやめに向けて動くことはなかった。

なお、担当課長補佐は、ヒアリングに対し、この問題について室長及び企画専門官と話し合った際、 室長及び企画専門官から公表はしない旨の発言があったと供述している。

ウ 令和元年9月〜11月前半頃
    担当課長補佐は、その後も引き続き、室長及び企画専門官らに対し、本件合算処理を取りやめるべきである旨訴え続けた。 そうしたところ、室長及び企画専門官は、まず本件合算処理によってどの程度実態と乖離するのかを検証してみることとし、 令和元年9月上旬頃、企画専門官が、担当係長に対し、令和元年7月集計分と平成31年3月集計分について、 過月分を除いた数値を試算するよう指示した。

担当係長が当該試算を実施し企画専門官に報告した際、企画専門官は、担当係長に対し、本件合算処理自体は続ける前提で、 都道府県に対して過月分合算を取りやめて事業者から提出された本件調査票をそのまま国交省に提出するよう指示することが可能かどうか持ち掛けたところ、 担当係長は、当該指示は可能だが、すぐに指示を反映してくる都道府県は一部であり、徹底されない可能性があること、 都道府県に過月分合算をせずに本件調査票を提出するよう指示するだけで、本件合算処理自体は続けるのであれば、 国交省担当者において本件合算処理をすることになるが、作業量過多となることから困難であるとして、難色を示した。

 このことについては、企画専門官から室長に報告されたものと推測される。こうして、このタイミングで、 都道府県に対して本件合算処理を取りやめるよう指されることはなかった。

6 令和元年11月〜和2年7月
  (本件調査票の直接本省送付指示、前月分だけの合算の経緯、会計検査院対応)

 ア 令和元年11月15日〜 同年末まで
    毎月勤労統計調査の不適切処理問題を受け、参議院決算委員会から「公的統計の整備に係る業務の実施状況等について」 に関して検査要請を受けていた会計検査院は、都道府県に対する実地調査を開始し、 令和元年11月中に都道府県が国交省の指示に基づいて本件合算処理を行っていることを確認した。

一方、上記の実地調査の存在を把握した本件統計室では、室長以下が、本件合算処理が会計検査院の知れるところとなった問題について、 どのように対応すべきか検討を開始したが、同室内では、
・ 本件合算処理をしていることをこの段階で対外的に公表すべきか、
  それとも国交省が会計検査院から指摘を受けてから動くべきか
・ 総務省に相談するべきか、するべきとして、いつ相談するべきか
・ 都道府県に対して本件合算処理を取りやめ、提出された調査票は
  そのまま提出するよう指示した上で、本件合算処理を取りやめるべきか、
  それとも、国交省において合算処理を行い、本件合算処理自体は継続すべきかについて、意見が割れ、室長自身の考えも揺れ動いた。

なお、室長が本件合算処理問題のみならず本件二重計上が生じていることまでを認識した具体的時期は必ずしも明確でないが、 上記検討と並行して室長が作成したと思われるメモには室長が本件二重計上を認識していることを前提とした記載があり、 遅くともこの頃には室長も本件二重計上を認識したと考えられる。

そうした中、室長は、令和元年12月上旬頃、企画専門官及び担当課長補佐とともに、情報政策課の職員に対応を相談し、 過去に公表した数値について、過月分がどのくらい含まれているのかの検証を先にする必要があり、また、 総務省への相談も必要であるとの助言を受けた。

本件統計室内には、当該検証作業は無駄であるとの意見を述べる者もいたが、室長の指示により、上司への報告・相談をする前に、 室員総出で検証作業を開始することとなった。

引き続き、室長、企画専門官及び担当課長補佐らは、上司への報告・相談内容を検討したが、 そのとりまとめ等に時間がかかり、結局、課長への報告・相談は令和元年12月24日に、 政総審への報告・相談は仕事納め当日の同月27日となった。

室長らが、課長及び政総審に、本件合算問題及び本件二重計上問題を報告し、対応を相談したのは、このときが初めてであり、 しかも、どのように対応するかの結論は、年内には出なかった。

イ 令和2年1月6日〜同月下旬頃
    本件統計室内における室長の対応能力等に問題ありと判断した課長は本件合算問題及び本件二重計上問題の検討を主導するようになり、 仕事始め当日の令和2年1月6日及び翌7日、室長、企画専門官及び担当課長補佐らと話し合い、
@ 都道府県に対して、過月分合算処理を取りやめるよう指示を出す
A 令和2年1月31日までに、平成30年4月分から同年12月分までの公表数値の検証作業を行う
との方針を決め、政総審の了承も得た。

これに基づき、令和2年1月8日、担当係長が、都道府県の担当者に対し、同月提出分(令和元年12月分) 以降、 事業者から複数枚調査票が提出された場合、本件合算処理はせずに国交省に提出するよう電子メール(以下「本件指示メール」という。) 及び電話連絡により指示し、担当課長補佐が、本件統計室の室員らに対し、同月下旬までを目途に、 平成30年4月から同年12月分の本件調査票から過月分が入っているものを抜き出す作業を行うことを指示した。

他方、令和2年1月公表分以降の集計方法をどうすべきかについては、同月7日の段階では、 同月公表分(令和元年11月分) については従来どおり本件合算処理をして公表し、 令和2年2月公表分(令和元年12月分)以降の集計方法について、引き続き検討することとされた。

本件統計室では、都道府県に本件合算処理を取りやめさせたのであるから、 令和2年2月公表分から合算処理しない数値を公表すべきであるとする意見と、 建設受注統計の精度向上の一環として都道府県に合算処理を取りやめさせたが、 本件合算処理自体には問題がないとの説明を表向きには行い、従来どおり合算処理をして公表すべきであるとの意見が対立していたが、 同年1月下旬頃、課長の判断により、統計の継続性の観点から、過月分を全く入れない場合には数値の変動が激しくなるとの理由で、 過月分は前月分のみを入れるが、個別工事が完了したものは除外するとの方針、いわば折衷案を採用することに決まった。

これにより、令和2年2月公表分から、事業者から複数月の本件調査票が提出された場合、 本件統計室において、( 元の記載内容を消さずに合算を行うために) 表面の受注高の欄にマスキングテープを貼ってその上に前月分を合算した受注高を記載するとの処理が行われるようになった。

ウ 令和2年1月末頃〜同3月

 (ア)  会計検査院は、その後も都道府県に対する調査を続け、令和2年1月中には、
     本件指示メールを確認している。
     このような調査結果も踏まえ、会計検査院は本件統計室に対する調査も開始し、
     本件統計室と会計検査院の間で複数回の打合せがなされ、また、国交省からは
     同打合せでの宿題事項に対する回答がなされた

 (イ)  本件統計室は、会計検査院から本件統計室に連絡があった直後から、課長及び
     政総審を交え、対応を検討している。同室内では、本件合算処理に問題があると
     認識していることをそのまま述べるべきであるとの意見を述べる者もいたが、結局、
     都道府県に対する合算処理の取りやめ指示は統計の精度向上の一環として
     取扱いを見直したものであって会計検査院の調査を理由に取りやめさせたわけ
     ではないとのスタンスで打合せに臨むこととなった。
     この方針に基づき、本件統計室は、会計検査院に対し、上記( ア) の打合せ
     等で、概要、以下のとおり説明している。

   @ 本件調査票の提出期限が受注月の翌月10日と短く、事業者としても、どうしても
     提出が間に合わない場合がある。どの月の集計対象となるかは契約のタイミング
     次第ということもあり、調査に協力してくれた事業者の本件調査票を遅れたとの
     理由で無効とするのはどうかという考えがあったと思われる。
     一方で、過月分を除外したり、別の月に入れるという作業をした場合、
     公表に間に合わなくなるなどマンパワー的に課題がある。また、訂正があるたびに
     統計センターに修正を依頼することになる上、頻繁にデータが修正されると、
     利用者の利便性を損なうと思われる。

     このような理由から、本件合算処理を行うことになったと思われるが、
     取扱いの開始時期等は不明である。

   A 令和元年12月分から集計方法を変えたのは、会計検査院が都道府県に対して
     建設受注統計調査の話を聞いているという話を把握したこともあったが、統計の
     精度向上の一環として、過月分を合算するのがいいのか検証したかったため、
     都道府県に対して過月分を合算しないで国交省に提出してほしいと依頼した。、
      しかし従前と同様、合算処理は行っている。合算処理を都道府県で行うか、
     国で行うかの違いである。

   B 一斉点検において、本件合算処理が問題視されなかったかということについては、
     一斉点検の際にもこのような方法で集計していたことは知っていたが、一斉点検時は、
     調査計画との齟齬や復元推計に関することが調査内容であったため、問題意識はなかった。

   C 過月分の本件合算処理を都道府県に実施させていた理由等は明確でないが、
     実務のスケジュール上、公表までの期間が短いため、国ではなく都道府県に実施
     してもらい、国は回収した調査票のエラーチェックなどに時間を充てたほうが効率的で
     精度が上がるという考えがあったと思われる。

   D 令和元年度の全国説明会資料から本件合算処理の記載が削除された理由は、
     この取扱いが都道府県に対してすでに十分に周知されていたことや過月分の受注
     額を1 枚目に合算して提出させるのは実務上の理由による取扱であること、また、
     遅れて提出されたものの取扱いは例外的な措置であることがあげられる。
      説明会の場で資料の変更点について説明したかどうかは把握していないが、
     本件統計室としては上記の理由から改めて記載する必要がないと考えていた。
      説明会後も都道府県から従前どおり過月分を含めて本件調査票が提出されて
     おり、当方の集計においても従前どおりの集計を行っている。

   E 会計検査院のご指摘も踏まえ、本件統計室において必要な調査を行った上で
     国交省としての今後の対応について決定し、総務省と協議を行いたいと考えており、
     できるだけ早くに総務省と協議ができるように取り組む。

  (ウ) この間、室長は、令和2年2月中旬頃、担当課長補佐らに、 過去に公表した数値に過月分がどのくらい含まれているのかの検証作業を指示している。 これが同年3月末までの間にどのくらい進展したのかについては、明確な資料を見いだせなかったが、上記検証作業のため 人員増強がない状況下において、本件統計室では、通常業務に忙殺され、検証作業は遅々として進まなかったようである。

  (エ) 以上のように、会計検査院が、本件合算処理を問題視し、早急にこれを見直し総務省に相談すべきではないかと質したのに対し、 本件統計室は、あくまで統計精度の向上の一環として都道府県に過月分合算を取りやめさせたのであり、 本件合算処理はやむを得ない措置である、精査した上で総務省に相談するが、時間がかかるから待ってほしいという、 本件合算処理の問題点を取り繕った上、時間稼ぎともいえる姿勢に終始した。

エ 令和2年4月〜7月
  (ア) 令和2年4月、総合政策局総務課専門調査官が本件統計室との併任を命ぜられ、これ以降、本件統計室では、 同専門調査官が中心となり、平成31年4月以降の公表値に過月分がどのくらい含まれているのか等の検証作業を進めた。

その結果、同年7月中には、公表値に占める過月分の割合は、受注高ベースで、平成31年4月分から令和元年11月分 (都道府県に対し過月分合算を取りやめるよう指示する前の分) につき0.2%〜8.6% 、令和元年12月分から令和2年3月分 (都道府県に対し過月分合算を取りやめるよう指示した後の分) につき1.0%〜5.8% であること等の検証結果が得られた。

しかし、この受注高に関する検証結果が総務省への報告や会計検査院への回答に活用された事実は、確認することができない (過月分を提出した事業者数がどのくらいかを、会計検査院への回答に活用したのみである。)。

  (イ) 一方、本件統計室は、引き続き、会計検査院から照会等を受けており、概要、以下のとおり回答している。

   @ 事業者からの調査票の提出は、お願いベースで行っており、時に大幅な遅れとなって提出される場合がある。 現行の提出期限が短いため、事業者からの提出に一定の遅れが生じることはある程度やむを得ない側面もあるが、 極力なくすことが望ましい。調査票提出の遅れは、調査結果に影響を与えると考えるが、その影響がどの程度であるかを十分精査し、 必要な検討を進めていきたい。

   A 建設工事統計調査規則15条に定められている調査票の提出の延期については、 当省で把握している範囲で過去に延期の申出がなかった。申出に伴い延期がなされた場合の集計方法については、 延期の理由に応じてその都度判断することとなるため、あらかじめ統一的な方法を定めてはいない。

   B 建設受注統計調査以外の統計について、調査票が遅れて提出されることはない。 建設受注統計調査は、調査対象事業者数が約1万2000社と多く、提出期日までの期間が短いため、どうしても、 期日までに提出してもらえない事業者が存在する。確報として公表するまでの期間が限られているなかで、 提出してもらった調査票の情報をより統計に反映させる等の考え方のもと、現行の取り扱いとなっていたものと想定される。

   C 平成25年4月分以降から建設受注統計調査における推計方法が変更されているが、 (「公的統計の整備に関する基本的な計画」平成21年3月13日閣議決定) における公的統計の質的向上の要請を踏まえ、 建設受注統計調査についてはその受注高が建設工事施工統計調査の完成工事高と比べ相当程度小さい推計値 (平成19年度実績で約6割) となっていることから、推計手法の見直しを行ったものである。 母集団への復元を実施するに当たっては、 各標本毎に定められる抽出率の逆数及び回収率の逆数を各標本の調査結果に乗じることとし、 この作業は毎月の回収率に応じて実施している。

   D Cの処理によって回収率は「本来集計すべき期間に回収されたとして集計する場合と比べ、低下」する。 その結果、その逆数を乗じて母集団の推計を行うと、母集団への復元結果が高めに算出されるのではないかという点については、 回収率の逆数を乗じる値も変化する可能性があることから、高めに算出される場合もあれば、低めに算出される場合もあるので、 その影響については、どの程度であるかを十分精査する必要がある。

   E 現行の集計方法について、月額の受注額という観点からの精度が低いものとなっている点については 改善に向けての検討が必要と考えている。今後、過月分調査票の取り扱いが集計に与える影響について十分精査を行った上で、 どのような精度向上方策があるか、また、そのような集計手法の実施可能性等を含めて検討を進めていきたい。

7 令和2年8月〜令和3年4月
    (総務省への報告、令和2年10月第8回評価分科会への説明、令和3年4月の合算措置廃止)

 ア 令和2年10月の第8回評価分科会への説明
   令和2年8月、本件統計室に新たな室長が着任したが、そのころから、室内では、総務省に対し、
   本件合算処理について、どのように説明をするかについて議論していた。

本件統計室においては、そのころ、 かねてから総務省統計委員会の評価分科会で検討とされてきていた建設工事施行統計調査における欠測値の補完(※10)についての見直し作業が行われていたが、 この建設工事施工統計調査の欠測値の補完の見直しに乗じ、本件合算処理を評価分科会に参考資料として提出して報告したことにし、 同部会において審議を経たとの説明ができるようにしようと企図した形跡が認められる。

すなわち、本件統計室においては、令和2年10月30日に開催された第8回評価分科会(※11)資料として、 建設工事施工調査の推計方法の見直しに関する検討状況を説明したパワーポイント資料に加え、「参考資料」として、 「建設工事受注動態統計調査への影響@ないしB」として3枚の説明文を添付したが、その中の最後のBに、 「建設工事受注動態統計調査について、報告者のやむを得ない事情等により提出期限( 翌月10日) から遅れて提出があった調査票については、 可能な限り当月分の調査結果に反映させるよう柔軟な運用を行っているところであるが、それでも間に合わない調査票は、 翌月に実績があったものとして計上しているところ。⇒ 今般の建設受注統計調査の推計方法の見直しに併せて、 遅れて提出があった調査票についても当月分の調査結果に適正に反映すべく、毎年度の年度報の公表にあわせて遡及改定を行うこととする。」と記載し、 「調査票の反映状況」として、当月分の調査結果に反映61.6% 、翌月に実績があったものとして反映5.9% 、未提出分32.5% とする円グラフを掲載している。

そして、第8回評価分科会では、室長が評価分科会委員に対する説明を行ったが、その議事録を見ると、参考資料については、 建設工事施工統計調査における推計の見直しが建設受注統計調査にも影響することの資料として添付した旨を説明したものの、 上記Bの本件合算処理に関する部分の説明はしておらず、各委員からの質疑もなく、全く議論の対象になっていなかった。


(※10) 建設工事施行統計においても、無回答事業者が約4万事業者存在し、回収率が60%
     程度であったこと から、回収率を考慮して、その欠測値を補完する方向で見直しが
     進められていた。

     平成25年4月分から変更された建設受注統計調査の推計方法の見直しは、建設工事
     施工統計の完成工事高の金額に建設受注統計調査の受注額の年間合計を近似させ
     ることを目的にしていたことからも明らかなように、建設工事施行統計の完成工事高の
     推計方法の見直しは、建設受注統計調査の受注額の推計方法にも影響を与える。

     そのため、この建設工事施工統計の推計方法の見直しに便乗して、建設受注統計
     調査の過月分合算 をも報告することとしたものと認められる。

(※11)評価分科会とは、統計委員会令( 平成19年政令第300号) 第1条1項に基づいて
     統計委員会に設置 され、統計委員会の所掌事務のうち、統計法55条3項に基づき、
     総務大臣から統計法施行状況の報告がなされたときに主として統計技術の観点から
     評価を行い、その結果に基づき意見を述べる事務をつかさどる。

     特段諮問を受けるものではなく、通常の統計委員会の取組とは独立して、自ら課題設定
     して調査審議を行う機関である。


イ 第8回評価分科会に先立つ総務省とのやりとり
  第8回評価分科会に先立つ令和2年9月17日、政総審からの指示を受け、 室長が総務省統計委員会担当室の政策企画調査官らと面談を行っている。 同面談において、建設工事施工統計の欠測値補完の話題に続けて、建設受注統計についても話が及び、 暫定値と確定値を公表する2段階公表化について相談した可能性はうかがわれるが、 ここにいう「2段階公表」とは、単に過月分調査票の数値を後日確定値として公表するという意味合いと解され、 本件合算問題を正確に説明したとは読み取れない。本件合算問題について評価分科会で審議をすることについても 「評価分科会で扱うテーマになじむかと言われると、欠測値補完とは異なる内容である」とコメントされている。

同年10月15日、本件統計室専門調査官及び係長は、室長の指示の下、 総務省政策統括官付副統計審査官らと事前の打合せを行っている。

本件統計室側出席者が後に作成した資料の中には上記副統計審査官が合算処理を問題視しなかったかのような記載も存在するが、 同打合せにおいて、どの程度具体的に本件合算処理による本件二重計上問題を説明したかは必ずしも明らかではなく、 同打合せに同席した係長は、総務省がはっきりと問題ないとは述べてはいなかったと供述している。

ウ 会計検査院からの問い合わせに対する対応
  他方、会計検査院対応については、令和2年6月には書面回答を行い、 その後もデータの追加提出依頼を受けて本件統計室内で提出資料案を検討するなどの作業がなされてきたが、 過月分を提出した事業者数がどれくらいかを会計検査院に提出するにとどまり、 本件合算問題や本件二重計上問題を正面から説明した形跡はない。

エ 令和3年4月の合算措置廃止
  本件統計室は、令和3年4月分の集計から、過月分を合算しない方法、 つまり当月のみを計上する方法に切り替えることとし、同年6月に公表した令和3年4月分には、当月分のみを計上し、 欠測値の補完については、回収率の逆数を乗じるほか、 建設工事施工統計調査における未回答業者の新たな欠測値補完方法に基づく乗率を乗じる方法により計算した結果を公表した。

この際、同じく過月分調査票の数値を全く合算しない方法で、 令和3年4月分から変更された推計方法により再計算した令和2年1月分から令和3年3月分の数値も併せて公表された。

オ 一連の経緯の評価
  以上のような一連の経緯からすると、本件統計室においては、総務省に対して、 実質的に審議が行われていていない過月分合算の修正についても、審議が行われて、 評価分科会からの了解が得られたもののような形作りをした上で、当月分のみを計上する方法に修正をしたものと認めざるを得ない。

なお、一連の経緯の最中の令和2年9月18日に、 国交省において「公表数値等の誤りに係る疑義及び誤り発見後の対応について」との文書が発出されている。

本件二重計上問題は、同文書の「誤りを発見した場合」に該当すると考えられるが、 同文書で示した手順に則した対応は取られていなかった。

8 令和3年4月〜 現在

上記のとおり、令和3年4月分からは、合算措置が廃止され、令和2年1月分から令和3年3月分の数値についても、 過月分を除外した上で、新たな推計方法で再計算されたが、この再計算にかかる建設受注統計は、以下のように作成された。

・ 令和2年1月分以降の数値として公表されていた「遅れて提出された調査票のうち前月分は合算する方法
  による建設受注統計」を作成する際に、本件調査票にはマスキングテープを貼った上で元の数値を復元
  することが出来る形で合算を行う。

・ 上記のマスキングテープを一つずつ剥がして、合算前の数値を確認し、集計済みのデータを修正する。

令和3年9月、会計検査院により「会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書 『公的統計の整備に関する会計検査の結果について』」が公表され、同報告書の41ページ以下において、本件合算処理問題が指摘された。
ただし、同報告書においては、本件合算処理問題によって本件二重計上問題が生じている点の指摘はなされなかった。

第5章 本件各問題についての評価

第1 過月分調査票の統計処理に関する統計上の問題点

1  月遅れで提出された調査票(過月分調査票)の受注額を当月の受注額として合算して
    集計したことについて

ア 本委員会の結論
  過月分調査票の受注額を当月の受注額として合算して集計したことについては、以下に述べるとおり、
  本委員会としては、
  @ 国民の利用の観点からみて統計の注記に記載するなど公表なしに行われていたこと、
  A 調査票の書き換えによって収集された有用な情報の活用を損ねた点において、
  不適切であったと考えた。

イ 国民の利用の観点からの不適切さ
  まず、@ の点に関し、改めて、過月分調査票の受注額を合算してきたことの理由について考察すると以下の点が指摘されうる。

 すなわち、第2 章第1の建設受注統計調査の概略で述べたように、建設総合統計においては、 着工ベースの金額を、工事の進捗に合わせて月次に出来高を展開し、月毎の出来高を推計している。
このような推計手順において、当月の出来高の推計値にはストックである手持ち工事高が大きく影響しており、 月遅れで提出されたとしても手持ち工事高を的確に把握することが重要ととらえられていたと考えられる。

とりわけ、大規模な工事であれば工期が長くなることから、これを推計に含めないことによる各月の出来高に 与える影響は、1 、2 ヵ月程度の時期の計上のずれに比べてはるかに大きい。
本来は、次年度に前年度の月次の着工額を改定するのが適切な手順であるが、以上の認識に加えて、 当時の担当者からのヒアリングを踏まえると、工事ごとに受注と着工の時期のずれの把握の困難、報告者が 時間を割いて記入・提出した調査票情報を無駄にはできないとの姿勢と既に発表した統計の月次の計数を 変更しないことへのこだわりの意識及び作業負担を軽減したい気持ちと年度の計数の推計値は真の値により 近くなることへの安心が作用して、過月分調査票の計数の当月への合算を正当化したのではと推察しうる。

その背景には、昭和50年代に入っても、公共工事着工統計調査の回収率は90%程度で推移し、 かつ未回収の事業者には零細・中小事業者が多かったことも、過月分調査票の扱いを見直すに至らなかったことに 作用したのであろう。

このような合算処理は、昭和62年に、公共工事着工調査等においてOCR による調査票の読み取りが導入された後も続けられた。 欠測に対応していなかった時期の集計においては、合算処理が年度計・年計の受注額の過大推計を引き起こすことはなかった。したがって、 集計結果の精度に関して一定の合理性を持っていたといえ、建設受注統計調査へ引き継がれていった。

過月分調査票の処理それだけに関しては、統計データの行政上の利用の観点から行ったものであり、 真実を歪める何らかの意図が働いたとはいえず、その意味では、統計実務の観点から絶対に許容されない行為なのかは議論の余地がある。 しかしながら、基幹統計は、国が作成する統計の中でも、公的統計の中核的役割を果たす重要なものであり、 多種多様な政策の企画立案またはその実施に活用され、民間における意思決定や研究活動にも広く活用されるものであるため、 適切で合理的な方法により、信頼される統計となるべく作成がされるべきものである。 こうした統計法の下における基幹統計の果たすべき役割に照らせば、国交省が行ってきた本件合算処理は、 統計調査における処理のやり方として少なくとも妥当であったとはいえない。

とりわけ平成19年に全面改正された統計法は、それまでの「行政のための統計」から「国民が広く利用する公共財としての統計」へと公的統計の理念を大きく転換した。

建設受注統計について、当時の行政ニーズの観点から、月次のフローの統計情報よりもストックの統計としての精度向上を優先させたいとの意向はあったとしても、過月分調査票の統計処理に関して、 少なくとも統計の注記として記載しておくことが、国民の利用の観点からも必要であった。

2 本件調査票の書き換えが有用な情報の活用を阻害したことについて

  上記のとおり、過月分調査票の受注額を合算するという処理は、OCR の読み取りの制約 (合計額を読み取ってデータ化した際にエラー表示がされること) から、やがて、都道府県に対し、 月遅れで提出された過月分の受注額を当月に合算するように指示したが、その方法は、 鉛筆書きされていた受注合計額を消して、過月分と合わせて当月の数値を書き直すというものであった。

しかしながら、国土交通省令の調査規則において、調査票の2年保存を規定している。 その規則に反しているとはいえないまでも、調査票情報を保存する理由は、不測の事態に直面した場合でも、 調査票情報が保存してあれば、最初から集計しなおすことによって、作成されるべき統計が作成できるようにするためである。

さらに、調査票情報の利活用に資する観点から、統計調査によって収集された調査票情報等の適正な管理とともに、 調査票情報等の漏えい、滅失、毀損等を防止するための指針として、総務省政策統括官(統計基準担当) は平成21年2月に「調査票情報等の管理及び情報漏えい等の対策に関するガイドライン」を制定している。

調査票情報の書き換えは、統計調査によって収集された情報の有用な活用を損ねていると批判されよう。

第2 推計方法の見直しにおける統計的な問題点

1 建設受注統計調査において推計方法を見直したことに伴う本件二重計上の発生について

 ア 建設受注統計調査における推計方法見直しの経過(詳論)
   建設受注統計調査における推計方法の見直しの経過については、第4章でも触れたところであるが、
   改めて、その経過及び見直しによって生じた問題を見ていくと、以下のとおりである。

  (ア) 建設受注統計調査における回収率の継続的な低下とその影響
     近年における調査票の回収率の低下は、公的統計調査が共通して直面する問題であり、
     建設受注統計調査も例外ではなく、創設時の平成12年度に約67%であった平均回収率が
     平成20年度には60.2% に低下していた。

回収率が100%であることを前提とした推計方法によれば、層化無作為抽出法の下では、 各々の層の回答事業者の受注額にその層における抽出率( その層に属する事業者のうち、 標本に抽出された事業者の割合) の逆数を乗じて合計すれば、その層における受注額合計の推計値となる。 標本として抽出される事業者が変われば、推計値も変化する。

 推計値は、真の受注額合計( その層に属する全ての事業者の受注額の合計) よりも小さくなる場合もあれば、 大きくなる場合もある。しかし、各々の層において無作為に標本を抽出すれば、 偏りなく真の受注額合計を推計できることが知られている。 ところが、回収率が100% に満たない場合、かつて多くの府省庁の統計で行われていた、 未回収の調査票に記入されるべき受注額(欠測値) を0 とする推計方法を適用すると、 受注額が過小推計されやすくなる。

すなわち、調査票が回収された事業者の受注額に抽出率の逆数を乗じて合計しても、 真の受注額合計よりも小さくなる可能性が高くなる。もし、欠測値が実際に0 であれば、 この推計方法によって受注額合計を偏りなく推計できるが、欠測値が正であれば、過小に推計する。 そして、回収率が低いほど、そして欠測している値が大きいほど、偏りは大きくなる。

第1回建設工事受注動態統計調査検討会において、平成19年度について、 建設工事施工統計調査( 年次調査) における完成工事高合計と建設受注統計調査(月次調査) の受注額の年度合計との比較から、かなりの欠測値が0でないと結論された。 時期のずれなどを勘案しても、後者が前者の6割程度であることがその根拠である。

それを受けて、平成19年度の建設受注統計調査に12ケ月すべて未回答であった2,432事業者を精査したところ、 その約半数から同年度の建設工事施工統計調査に回答があった。

年間を通して施工実績がない事業者は17に過ぎず、 未回答事業者全体の受注額が建設工事施工統計調査の完成工事高と同様な分布をしていると仮定して平成19年度の受注額を推計すると、 受注額の合計は建設工事施工統計調査における完成工事高の92%程度となり、近接した結果となった。

平成18年度の試算結果も同様であった。こうした結果を踏まえて、建設受注統計における未回収事業者のなかには、 受注実績がある事業者が少なからず含まれていると結論付けた。

その結果、建設受注統計調査において、欠測を調整する方法について検討を進めることになった。

  (イ) 建設受注統計調査における欠測の影響の調整
     第1回以降の建設工事受注動態統計調査検討会において、 全項目無回答への対処として利用される重みづけや一部項目無回答への対処として利用される無回答部分の補完など、 欠測の影響を調整するための複数の方法が検討された。これら方法の比較の結果、各々の層において、欠測が無作為に生じると想定して、 調査票の回収率によって集計乗率を調整する方法が採択された。

すなわち、各々の層において、その層の抽出率の逆数にその層における調査票回収率の逆数を乗じ、 それを回収された調査票の受注額に乗じて合計してその層の受注額合計の推計値とする方法が選ばれた。

数値上、その結果は、各々の層において、回収された調査票の平均受注額を欠測値に代入し、 回収された調査票の受注額と代入された値にその層の抽出率の逆数を掛けて合計した値と同じになる。

いわば、欠測部分を回答事業者のデータから予測して、欠測値に代入して推計する方法が新しい推計方法として選ばれた。 欠測を調整しない方法との差は、欠測値に層ごとの回答事業者の平均受注額を代入するか、 欠測値に0を代入するかの違いであるとも言い表せる。

実際に、提案された欠測値処理によって建設受注統計における受注額等の年度合計を推計したところ、 建設工事施工統計調査における完成工事高等との乖離が相当程度縮まり、提案する手法の有効性が確認された。

推計段階における欠測値処理は、他の公的統計でも利用されている。たとえば、 国交省の平成15年法人土地基本調査においても、ここで述べたのと同様の方法で層の合計が推計されている。

欠測による影響の調整方法の適否は、回答発生の仕組みに関する想定の適否に依存する。 その想定が実際と近ければ推計値の偏りを修正できる。もちろん、その想定が完全に正しいとは限らない。 しかし、欠測の影響を処理しないことは欠測値に0を代入して集計することに相当し、 それ自体、欠測の発生について強い仮定を設けることになる。
もし、欠測の影響を処理しなければ、推計値が過小となる可能性が高い。

2 推計方法の見直しによって問題が生じた理由

ア 欠測の影響が調整される場合に合算集計が過大推計を引き起こす理由
  既に述べたように、欠測の影響が調整されない推計は、欠測値に0を代入して推計することと同じである。
このような推計において、過月分調査票が当月に加算されると、当月の受注額合計の推計値は本来あるべきものよりも、 大きくなりやすくなる。しかし、1年を通してみれば、年間受注額の推計値が真の値に近くなるという効果があった。

しかし、欠測の影響が調整される推計においては、欠測値に層内の回答事業者の平均受注額が代入されることになる。 この推計方法の下で過月分が合算されると、当月では欠測値と扱われてその月における層内平均受注額が代入されて集計され、 さらに実際に提出された月において過月分として加算されることになる。

結果的に、月次の統計としては、過月分に抽出率の逆数と回収率の逆数を乗じて加算する分だけ推計値が過大になりやすくなる。 年次の統計としても、 過月分が本来提出されるべき月(欠測値に代入される値によって) と実際に提出された月とで二重に加算されるために過大推計となる。

イ 推計方法の変更によって過大推計が発生することが未然に発見されなかった理由
  標本として抽出された事業者に配布された調査票は、回収後に、記入漏れや誤記入などの
  チェック(調査票の審査) を経て、調査票をOCR等で読み取ってから電子計算機で集計され、
  統計として公表される。

推計方法の見直し時においては、調査票の審査の際に、都道府県又は本件統計室によって過月分が当月分として合算されて、 当月分の調査票の受注額の数値が書き換えられていた。

しかしながら、上記のとおり、平成21年から建設受注統計調査における推計方法の変更が検討され、 平成25年4月分から推計方法が変更された際、 過月分が合算されていることが本件統計室内で共有されていなかったと考えられる (この点の詳細については、第4章第2の2 ウで検討したとおりである。)。

結局、推計方法の変更によって合算が過大推計を引き起こすことが発見されないまま、検討が進められて、 総務大臣から承認がなされ、その後の集計プログラムを発注する際も、過大推計になることに気づかないまま、 平成25年4月分から推計方法が変更されて統計が公表されることとなった。

以上のように、推計方法の変更によって合算が過大推計を引き起こすことになった理由は、 建設受注統計調査の全体を通して、調査の各段階における一つ一つの手続きが最終的な統計の作成にどのような影響を及ぼすかを精査する役割の担当者が決まっておらず、 形式的にも実質的にもそうした役割を持つ担当者がいなかったことに起因していると認められる。

加えて、以下の点を指摘しておきたい。
まず、集計プログラムの変更を発注する時は、調査全体の過程を精査する機会となる。
特に、プログラムの内容と集計方法が合致しているのか、集計方法に対応したデータが入力されるようになっているかを確かめることは、 集計の誤りを未然に発見する上で有効であるが、本件ではプログラム変更時のチェックも漏れていた。

第3 問題発覚後の国交省内部における対応上の問題点

 本件統計室の室長は、遅くとも令和元年6月頃には、担当課長補佐からの報告等により本件合算問題を明確に認識するに至っている (上記のとおり、平成30年10月5日の室レクにおいて担当係長が本件合算処理に言及したことが認められ、 その頃から室長が本件合算問題を認識していた可能性はあるが、室長は、本委員会のヒアリングに対し、これを否定している。) 。

 その後、同年11月頃までには、本件合算処理の結果として本件二重計上が生じていることを把握し、 同年12月下旬に、上司である課長及び政総審に報告し、その結果、令和2年1月上旬には、都道府県に対し、 令和元年12月分から過月分調査票をそのまま国交省に送付するよう指示を発出することになったが、 本件合算処理については、複数の過月分を合算しないものの前月分までは合算することにし、 以降は、この方法での集計を続けている。

第4章第2の6に記載したとおり、本件統計室内では過月分合算を一切やめるべきとの意見と本件合算処理を続けるべきとの意見とが対立し、 その折衷案として、 それまでの統計数値との継続性の観点から、直ちに過月分を一切合算しないで集計した場合に数値が変動することは好ましくないとの理由付けで考え出されたものであったが、 まずは、総務省(統計委員会) に報告し、前月分のみの合算が適切か否か、 合算せずに計上すべきかについての意見を確認した上で決定すべきではなかったかと思われる。

本件統計室では、令和元年12月中から、室長以下総出で、都道府県による書き換えの痕跡等を手がかりとして、 本件合算処理の影響の有無及び程度を調べるため、国交省が保管していた調査票(毎月約7000 枚) の一枚一枚を目視で確認する検証作業を開始したが、 担当係長以下の建設受注統計担当者は、集計業務に手一杯であった上に、 更に過去の月当たり約7000枚の調査票の消し跡のチェックをする作業に忙殺され、 余計な作業を行わされているとの意識のためか、室長と担当係長以下が対立するような状態に至り、 室内の雰囲気を悪化させてしまっている。

会計検査院対応について見ても、本件統計室は、二重計上になっていることについて、明確な説明を避けていたし、 総務省への報告についても、令和2年10月、建設工事施工統計調査の推計方法の変更に便乗して、 本件合算処理を総務省統計委員会評価部会に報告し、 あたかも統計委員会評価部会から承認されたように装っていたことの当否も更に問題となる。

また、令和3年6月(同年4月分) の公表の際の「建設工事受注動態統計調査の推計方法の変更について」 の説明文では、過月分調査票の扱いについては、「翌月に実績があったものとして計上している。」と記載しているが、 前月分のみを合算していたのは令和元年12月分からのことで、それ以前は、複数月分を合算していたことは明らかにしていないし、 合算した数値が二重計上になっていたことも明らかにしていない。

こうした会計検査院対応、総務省対応以前の問題として、平成31年1月の一斉点検時の対応もある。 この時は、担当係長が本件合算処理を報告すべきかどうかを直属の上司に相談したが、 上司から報告しなくてよいと言われて報告しなかったことは第4章第2の4に記載したとおりであり、 これも事なかれ主義の現れと言っても厳しすぎることはなかろう。

第6章 本件各問題の原因論

第1 本件合算問題の原因

1 直接的な原因
   建設受注統計に使用されているシステム上、通常の業務ルーティンにおいては、 過月分調査票の数値を公表済みの集計結果に反映させる方法が存在しなかった。

通常の業務ルーティンにおいて遅れて提出された本件調査票を(既に集計・公開済みの) 正しい月の集計結果に反映させる方法がない以上、 通常業務ルーティン外で正しい月の集計結果に反映させる方法を検討すべきだったと考えられる(本件統計室では、 書き換えられていない本件調査票が残存している期間について、 遅れて提出された本件調査票の数値を正しい月に反映させた数値を令和4年4月以降に公表予定であり、 これはまさに上記のような発想によるものである。) 。

本件統計室は、通常業務をこなすだけで手一杯となっており、 上記のような通常業務ルーティン外の集計作業の点検や見直しを行うだけの人的及び物的余裕がなかったため、 本件合算処理の是非を検討し、これを見直す機会もないまま、それが続けられたと考えられ、 これが本件合算問題の直接的な原因と考えられる。

2 間接的な原因
  本件合算問題の直接的な原因は上記1のとおりであるが、本件合算処理を継続してきたことについて、 本件統計室の室長以上の職位の者が、これを認識していたことは確認できていない。

本件合算処理を行うことは、建設受注統計調査が調査計画に合致する形で実施されているかに関わる事項であって、 本来、室長以上の職位の者が、集計方法を含めて把握し、 適切な処理が行われているかについて常に意識を働かせていれば、本件統計室内において、 本件合算処理が行われていることを把握でき、 その妥当性の検証が行われ、その問題に対する検証が行われていた可能性が高い。

本件統計室の職員に対するヒアリングによれば、本件統計室においては書面決裁がなされることは少なく、 上司に対する報告等は口頭で事実上伝えるだけにとどまることも多いとのことである。

上記全国説明会資料についても、室長の決裁を受けていれば、都道府県に対する調査票の書き直しの指示も、 室長の目に触れ、室長がこれを把握できていたはずである。

本件統計室において、集計業務は、係長以下が行う現場作業で、室長ら幹部は現場任せという意識であったようであるが、 このような分業意識が間接的な原因になっていると考えられる。

第2 本件二重計上問題の原因

1 直接的な原因
  本件二重計上は、平成22年から平成23年10月までにかけて検討されていた推計方法の変更の過程において、 集計の現場で本件合算処理が行われていたにもかかわらず、回収率の逆数を乗じる推計方法を採用したことによって生じたものである。

また、平成25年4月分の推計方法の変更以降の本件統計室の係員は、回収率の逆数を乗じて補正をしていることに加え、 過月分合算を承知していたのであるが、そのことに疑問を持たずに、本件合算処理を継続した。

係員レベルでは、平成25年4月の変更時に必要な検討がされて、統計的に改善されて、完全なものができあがっていたと認識し、 疑問を抱かなかったことがうかがわれる。

本件合算問題については、平成31年4月に本件統計室に着任した課長補佐がその処理に疑問を抱き、 その問題点の洗い出しをしたことが、本件二重計上の発覚につながっており、係長又は係員において、 同課長補佐のような「気づき」を得られなかったことが原因になっていると考えられる。

2 間接的な原因
  平成22年から平成23年10月にかけての推計方法の見直しの過程で、本件統計室課長補佐以上の者が本件二重計上問題を認識できなかったのは、 建設受注統計調査の集計等の実務を担当していた本件統計室の係長以下の者と、欠測値の推計による補完方法を検討していた課長補佐以上の者の間で十分な 情報共有がなされておらず、いわば情報の分断が生じていたことにあると考えられる。

ここでも合算問題と同様に、集計作業は係員以下の現場作業で、室長ら幹部が集計作業を現場任せにしていたという分業意識が背景にあったと考えられる。

また、平成25年4月以降において、係長以下の係員が本件二重計上に気づかなかった原因も、 目先の業務で手一杯で、回収率の逆数を乗じる推計方法の変更といった統計の理論的な問題と現場集計作業の実際とを結びつけるような思考を働かせることができなかったことにあると考えられる。

第3 事後対応問題の原因

1 直接的な原因
  本件統計室の本件二重計上問題の発覚後の対応は、上記のとおり、対外的に、本件二重計上の事実を明らかにせず、 令和3年4月分からの推計方法の変更に潜り込ませて本件二重計上の問題が表沙汰にならない形で収束させようとしたと認められ、 これを「隠ぺい工作」とまでいうかどうかはともかく、幹部職員において、責任追及を回避したいといった意識があったことが原因と考えざるを得ない。

また、会計検査院に対して平成31年の一斉点検の際に本件合算問題を報告しなかった理由を報告するに当たり、 本件二重計上問題を正直に伝えないまま、本件合算問題だけに事柄を矮小化し、 本件合算問題については問題意識がなかったなどと報告している点も、上記同様の意識の下での行動であったと認められる。

2 間接的な原因
  上記の間接的な原因についてみると、次の点が指摘できよう。

@ 短任期と業務過多
  本件統計室の室長、課長及び審議官といった建設受注統計に関連する歴代管理職は、
  短ければ1年、長くとも2年程度で異動することが通例となっている(なお歴代の室長の中には
  わずか2 ヶ月で異動となったものも存在する。)。

このように短期での人事異動が前提となっている場合、職員は自らの任期中に問題を発見したとしても、 当該問題への対処を行うことが自らの利益にならない( むしろ不利益になる) 場合、 それを隠蔽して自らの任期をいわば「やりすごす」インセンティブを持つことになる。

そして、本件統計室は慢性的に業務過多となっていたところ、問題への対処という通常業務外の業務が発生することは、 本件統計室の通常業務が回らなくなってしまうという管理職としての大きな不利益の発生を意味することになる。

このように、本件統計室の業務過多と管理職の短任期が合わさり、本件統計室に関連する管理職は、 自らで問題を解決せずに先送りするインセンティブを有するという構造的な問題が存在した。

A 問題の発覚が現職職員の不利益になる構造
  本委員会のヒアリングによれば、本件統計室は、平成31年の一斉点検で建設受注統計以外の
  統計に問題が発覚したことにより、一部管理職が非常に神経質になっていたとのことである。

これは、問題が発覚した際に、自らがその問題の原因でないとしても、「問題の発覚した業務の担当者である」ということをもって、 組織内外から批判やマイナス評価を受けるためであったと考えられる。

このように、問題の発覚が(その原因でない) 現職職員の不利益になる構造ゆえに、 問題への対処を行う職員において問題を隠蔽し又は問題を矮小化させるインセンティブを有するという構造的な問題も存在した。

第7章 章再発防止策(提言)

第6章で検討した本件各問題の原因も踏まえ、本委員会は、以下の再発防止策を提言する(※12)。

@ 業務過多の解消
  本件各問題の背景には、本件統計室における慢性的な業務過多があったものと考えられる。

そして、その業務過多は本件統計室への所属人員の数の問題ではなく、必ずしも十分に業務を遂行できない職員も配置されていた結果、 一部の職員に業務が集中するという形で生じていたものと考えられる。

そのため、見せかけ上の所属人員の数ではなく、業務を遂行するために必要十分な数の人材が適切に配転されるという形での人員配置を行い、 業務過多の解消を行うことが必須と考えられる。

また、上記のような過去の人員配置の背景には、人事政策における統計業務の軽視があるように見受けられるところ、 統計業務の重要性を認識した上での人員配置がなされるべきである。

また、システムの不備を労働力(職員の業務量) で補填するという発想も業務過多に繋がっていると考えられる。 そのため、システムの不備を発見した際には適切な予算措置を行い、労働力ではなく、システムの改修が行われるべきである。

A 統計を統合的に理解する職員の配置
  本件合算問題及び本件二重計上問題の背景には、建設受注統計について、
  制度設計(見直しを含む) を行う者と集計の実務を行う者の間に情報の分断
  があったと考えられる。

そこで、建設受注統計を含む統計一つ一つについて、集計から制度設計までを統合的に理解する職員を配置し、 情報の分断を防ぐべきである。

もっとも、ある統計を統合的に理解する職員は新設の職員である必要はないが、 上記@のとおり、本件統計室は慢性的な業務過多になっている以上、現職職員の一人をこのような職員として位置付ける場合、 その分、現在担っている業務内容を削減する必要があることは言うまでもない。

また、集計方法を含めた業務マニュアルが作成されていれば、制度設計を見直す者においても、 当該マニュアルを確認することで具体的な集計方法を把握することができ、制度設計の見直しに 活用できるのであって、集計方法も含めた業務マニュアルの作成も重要である。

B 職員の専門知識の習得
  本件合算問題及び本件二重計上問題の背景には、本件統計室の職員が
  統計についての十分な知識を有していないことがあると考えられる。

そこで、統計に関する十分な知識を習得する機会を設けるべきである。 また、人事政策としても、一度統計に関わったことがある者が再度統計に関わるようにすべきであり、 とりわけ、本件統計室の室長には、統計に関する十分な知識・経験を有する職員が就任することを原則とすべきである。

C 専門家との相談体制の構築
  本件各問題の背景には、本件統計室の職員に、統計に関する疑問や
  問題を気軽に相談できる専門家がいないという問題があると考えられる。

そこで、統計の専門家(例えば、若手研究者が考えられる。) を本件統計室のアドバイザーに任命し、 定期的(月に1回程度) に打合せを実施し、統計に関する疑問や問題を気軽に相談する体制を構築することが考えられる。

他の府省庁においては、学識経験者が参加する基幹統計に係る研究会を恒常的に開催しているところもある。 そのような恒常的な研究会でなくとも、大学の助教クラスの若手研究者等から、1名程度を統計のアドバイザーとして任命し、 定期的に、本件統計室全員で専門的な助言を仰ぎ、意見交換する機会を持つことは非常に有用である。

本件統計室にあっては、統計学の専門的な知識を享受できることに加えて、日常の業務で発生した問題や 疑問に対してサポートしてもらえるという利益がある。

一方、若手研究者等にとっては、統計の現場を知ることを通して研究分野を広げることにつながり、 統計実務に造詣を深める過程で、その助言は一段と的確なものとなり、建設統計、ひいては公的統計のさらなる発展に大きく寄与することが期待される。

D 問題発見時の対応方法の明確化及び問題の発見と解決を奨励する風土の形成
  本件における事後対応が不適切となった背景には、問題発見時の対応方法が
  不明確であり、かつ、問題の発見が現職職員の不利益になるという構造が存在する。

そこで、問題発見時の対応方法を事前に定め、明確化すべきである。また、問題の発見と解決を 奨励する風土を形成し、問題を発見した者が人事上も不利益を受けなくする (むしろ、問題を発見し解決した者が人事上プラスに評価されるようにする) ことも必要と考えられる。


(※12) なお、これらは、統計委員会が令和元年9月30日に取りまとめた「公的統計の総合的品質管理を目指した取組について」と重なる部分もあり、 本来、既に対応がなされていなければならないものであることを付言する。


第8章 追補(本委員会の調査開始後に判明した建設受注統計調査の統計処理上の問題)

 本委員会の調査開始後、建設受注統計調査の統計処理につき、以下の問題が浮上したので、
これらの点について、簡単に触れておく。

1 令和元年12月分以降の本件調査票についても、一部の都道府県で書き換えが継続されて
  いた可能性があること

統計調査室は、令和2年1月、都道府県に対し、本件合算処理にかかる書き直しをしないで、 本件調査票をそのまま国交省に郵送するように指示しており、都道府県がこれを遵守している限りは、 同月分以降は、本件合算処理をした本件調査票は送付されないことになっていた。

 しかし、本委員会の調査開始後に、本件統計室において本件調査票の点検を行っていたところ、 一部の都道府県において、本件調査票表面の受注額実績がないが裏面に個別工事の記載があるなど書き換えの可能性が高いものがあったことが確認されている。

そのため、今後、国交省は、このような書き換えが継続されないように本件統計室から都道府県に対して明確な指示をすべきであるし、 過月分混入の影響についても、判明次第これを明らかにすべきである。

2 平成25年4月分から令和3年3月分までの建設受注統計調査において用いられていた
  回収率の計算方法に誤りがあった点

建設受注統計には、(抽出事業者を対象とした甲調査とは別に) 大手50社のみを対象とした乙調査が存在するが、 乙調査においては回収率の逆数をかける欠測値補完は行っていない。 平成25年4月分から開始された回収率の逆数を欠けて欠測値を補完するという推計は、 甲調査に関してのみ行われている。

そのため、甲調査の欠測値補完において用いる回収率は( 大手50社を含まない) 抽出事業者の回収率である必要がある。しかしながら、平成25年4月分からの推計変更の際、 回収率の計算から大手50社を除外するように本件統計室が統計センターに依頼しておらず、 結果として、大手50社の数値が、回収率を計算する際の分母及び分子に含まれていた。

大手50社の回収率は他事業者の回収率よりも高いため(通常100% である)、 これを分子・分母に入れてしまうと、回収率が高く計算される。その結果、回収率の逆数は小さい数値となるため、 若干ではあるが、甲調査の推計が、(本件二重推計問題の影響を無視すると) 本来予定されていたよりも低く算出されていたこととなる。 なお、回収率の計算方法の誤りは令和3年4月分から修正済みとのことである。

この問題は、本委員会の調査対象事項ではないため、本委員会において詳細な調査は行っていないが、 上記誤りが生じた理由や上記誤り発見後の対応の妥当性については、国交省において調査して公表すべきである。

3 完成予定年月の書き換えについて
  甲調査及び乙調査の調査票に記載されている個別工事の完成予定年月が受注月
  よりも前の月になっているものについては、本件統計室が、事業者に確認せずに、
  完成予定年月を受注月に修正する運用を行っていたことが確認された。

これにより毎月の出来高に加工して、これを反映する建設総合統計に影響が生じるおそれがある。 この問題も、本委員会の調査対象事項ではないため、本委員会において詳細な調査は行っていないが、 上記のような運用が行われていた理由や上記運用の発見後の対応の妥当性、その影響の程度については、 国交省において調査し、公表すべきである。

4 本件二重計上が生じている期間の建設受注統計調査の遡及改定
  本件二重計上が生じている期間の建設受注統計は、その公表された数値には誤りがある。

本件二重計上の影響の調査は、前記のとおり、令和2年4月頃から専門調査官が行っており、 平成31年4月分から、過月分を除外した推計値が算出できると考えられる。 書き換えられていない本件調査票が残存していない期間については、本来の数値に基づいて直接推計することは困難と考えられるが、 平成31年4月からのデータを活用した上、一定の仮定を置くなどし、 書き換えられていない本件調査票が残存していない期間の数値を推計することは、不可能ではないと判断される。

国交省は、本件二重計上が生じている期間の建設受注統計調査については、 そのような推計によって遡及的に改定を行って公表することが望ましく、それに向けて努力をすべきである。

第9章 終わりに(委員長及び委員長代理より)

本委員会は、令和3年12月23日に第1回会合を開いて調査を開始し、年末年始をはさみ令和4年1月13日まで調査を継続した。

その間、各委員及び事務局長補佐は、休日返上で、資料検討やヒアリング調査等に当たり、 ヒアリング等のご協力をお願いした方々には、年末年始という極めて多忙で重要行事も控えているなか、 全員から快くご協力をいただいた。

また、事務方を担っていただいた国交省監察部署の方々も、本委員会の独立性を十分ご理解くださり、 早朝から深夜まで、本委員会の活動をお支え下さった。

まずもって、今回、この調査に関与されたこれらの方々に対し、心から感謝申し上げる次第である。

ところで、建設受注統計調査の不適切処理に関する本件調査は、あくまでも任意による調査であり、 極めて短期間に実施したものであることから、調査手法が限られたものとなったことは事実であり、 国交省の全面協力を得たとはいえ、その調査範囲は、現実に提供された資料に基づくなど限界がある。

そのため、本件合算問題及び本件二重計上問題について、一応の調査を終えたとはいえ、 これ以外にも、解決すべき課題が残っている。

いうまでもなく、公的統計は、わが国の政策を企画立案するための根拠となるばかりではなく、 国民が我が国の運営の実情を知り、政策を評価し、意思決定に利用するために不可欠な社会的情報基盤であり、 公的統計は国家の基盤をなす情報であると言わなければならない。 しかしながら、残念なことに、近時は、統計に絡む不祥事が多発しており、国民の公的統計に対する信頼は揺らいでいる。

このような事態は、各省庁の統計担当者だけの責任として片付けてはならず、ましてや国交省だけの問題でもなく、 政府全体で深刻に受け止め対応しなければならない課題であるというべきである。

 建設受注統計調査の創設時の平成12年頃は、我が国の統計行政の変わり目となる時期であったといえよう。 戦後の統計再建時に入省した統計に志のある人たちが平成に入り定年退職し、 平成12年頃にはこれら先輩の薫陶を受けて、統計に熱意を持って取り組んだ人たちも退職する時期であった。 国家の情報基盤としての統計を維持する仕事は重要であるといわれながら、 行政のなかでは、地味でなかなか評価されず、建設統計に係る部署においては、 統計予算・人員の削減と専門性を有する人材の不足に直面していた。

労働統計、産業統計等において、不適切な処理案件が発生したことにも通底する問題であるといえる。

報告書本文中にも述べている通り、各省庁の統計部門は、その業務量に見合った人的物的な資源を十分には与えられておらず、 統計専門家を育成する有効なプログラムがあるとは言い難く、統計部門に配置される職員の多くは、 統計実務の未経験者で、突然統計部門に配置されるという状況にあると思われる。

このように、統計に関する専門知識が乏しく、統計に対する情熱もない職員にとっては、 「統計の継続性」の倣い言葉で先人の統計手法を踏襲するやり方は、安直で実践的であったと言えよう。

稼働しうる人員の減少で日常業務に忙殺される状況に鑑みれば、それもやむを得ないともいえる。 従前から行われている手順に従って黙々と業務をこなすことに疑問を持たず、その結果、 今回発覚したような不適切処理が永年無批判に継続して行われることとなったと考えられるのである。

本委員会は、国交省において発生した不適切な統計処理事案を調査するために設置されたものであるが、 今回の報告書では、同種事案が連続して発覚した各省庁の公的統計実務部門に横断的に存在すると考えられる原因をも明示し、 提言を示している。

本委員会としては、国交省のみならず、政府全体で、提言に示した省庁横断的かつ抜本的な対策を可及的速やかに立案して実施されることを願っている。

最後に、統計分析審査官について触れておきたい。
令和元年に統計分析審査官が内閣官房から各府省に派遣されることとなった。
今後公表される統計の審査の徹底と誤り発覚時の対応指揮等を担うポストであるとされているが、 現段階で機能しているとは思われない。それまでに統計の業務に就いたこともなく、統計に関する専門的知識も皆無であった職員が、 十分な研修を受けることもなく、係長相当の職位で派遣されたとしても、 この者に、派遣先の上司に対して厳しく指摘することを期待すること自体不可能を強いるものであろう。

本委員会は、本件事案が良い契機となり、統計実務を取り巻く環境が改善され、不適切な統計事務が一掃されて、 国民の公的統計に対する信頼が1日も早く取り戻されることを願っている。

別紙1 本委員会による関係者へのヒアリング状況

 本委員会は、令和3年12月24日、同月25日、同月26日、同月27日、同月28日及び 同月29日並びに令和4年1月4日、同月5日、同月6日、同月7日及び同月10日に、以下のヒアリングを実施した。

本件統計室(第3章第1にて定義)に関係する以下の(元)職員に対するヒアリング (異なる役職で本件統計室に複数回所属した者については、高い役職においてのみカウントしている。)。
・係員8名 ・係長9名(うち2名は2回ヒアリングを実施した。) ・統計分析審査官2名 ・専門調査官2名( うち1名は2回ヒアリングを実施した。) ・課長補佐8名(うち3名は2回ヒアリングを実施した。)  ・企画専門官4名 ・本件統計室長10名(うち3名は2回ヒアリングを実施した。) ・課長9名 ・担当局長・審議官級8名(うち1名は2回ヒアリングを実施した。)

 本件統計室に関係する(元)職員のヒアリング対象者は合計60名、ヒアリング回数は合計70回である。 8つの都府県(埼玉県、東京都、愛知県、京都府、大阪府、奈良県、広島県、福岡県) の職員に対するヒアリング

別紙2 本委員会の全体会議実施状況
1 令和3年12月23日第1回(14時30分〜16 時15分)
場所:TKP 市ヶ谷カンファレンスセンターバンケットルーム9E
出席者: 寺脇委員長、舟岡委員長代理、岸委員、西郷委員、中城委員、和氣事務局長補佐
議事要旨:
・冒頭国土交通大臣からの挨拶の後、国土交通省より事案の概要について説明
・総理指示を踏まえ、徹底的に検証し、1月中旬までに報告書を取りまとめることを決定
・調査審議事項について議論を行い、建設受注統計調査の不適切な処理の検証に向けて調査することを決定

2 令和3年12月28日第2回(10時〜12時)
場所:TKP 市ヶ谷カンファレンスセンターバンケットルーム9E
出席者: 寺脇委員長、舟岡委員長代理、岸委員、池田委員、国友委員、西郷委員、白石委員、中城委員、和田委員、川崎事務局長補佐、和氣事務局長補佐(池田委員 及び川崎事務局長補佐はオンライン参加)

議事要旨:
・本件統計室より建設受注統計調査の集計方法の実態についてオンラインを使ってヒアリング
・関係者ヒアリングの進捗状況の確認及び追加ヒアリングの要否の検討

3 令和4年1月5日第3回(15 〜18時)
場所:TKP 市ヶ谷カンファレンスセンターバンケットルーム9E
出席者: 寺脇委員長、舟岡委員長代理、岸委員、池田委員、国友委員、西郷委員、白石委員、中城委員、山下委員、和田委員、川崎事務局長補佐、和氣事務局長補佐
議事要旨:
・総務省、会計検査院及び国土交通省統計グループよりヒアリング
・関係者ヒアリングの進捗状況の確認
・報告書作成について議論

4 令和4年1月10日第4回(15時〜18時)
場所:TKP 市ヶ谷カンファレンスセンターバンケットルーム9E
出席者: 寺脇委員長、舟岡委員長代理、岸委員、池田委員、国友委員、西郷委員、白石委員、中城委員、山下委員、和田委員、川崎事務局長補佐、和氣事務局長補佐 (中城委員はオンライン参加)


議事要旨:
・報告書作成について議論

ーーー- 報告書完 −−−令和4年 (2022年) 1月14日 国土交通省発表


(参考)  建設工事統計調査・国土交通省 様式第1号(第8条関係)

国土交通省 建設工事受注動態統計調査票甲(共通)

T. 企業等の概要(受注高がない場合でも記入してください。)
U. 受注高(貴社で請け負った元請・下請工事の受注高を別々に記入してください。) (単位:百万円)
   この調査は、統計法に基づき政府が実施する基幹統計調査です。
   秘密の保護には万全を期していますので、ありのままを記入してください。
[記入上の注意]
U. 受注高は、国内で施工されるすべての建設工事
V. 公共機関からの受注工事は、1件500万円以上のすべての元請工事
W. 民間等からの受注工事は、以下の範囲のすべての元請工事
   1件500万円以上 建築工事・建築設備工事は、1件5億円以上
V. W.公共機関から受注した元請工事のうち、1件500万円以上の工事を
   民間等から受注した元請工事のうち、1件500万円以上の土木工事及び機械装置等工事
   1件5億円以上の建築工事・建築設備工事
@ 消費税込みの金額を十万円単位で四捨五入し、百万円単位で記入してください。
  減額変更などで受注高がマイナスになった場合は、頭数字の左隣枠に「−」を付してください。
A 元請工事の受注高は公共機関・民間等の発注者別で記入し、共同請負工事(以下「JV工事」という。)
  は持分額を計上してください。

(追記)報告書を受けて責任者らの処分を発表

○ 上記の検証委員会の報告を受けて2022年1月21日に当時の責任者らの処分を発表

1. 国土交通省を監督する政府の政務三役6人の処分

No.役   職処分量定 (給与の自主返納)
 1斉藤鉄夫国土交通大臣就任時から1月分までの給与 (4ケ月分)・賞与 (1回分)
 2渡辺国土交通副大臣就任時から1月分までの給与 (4ケ月分)・賞与 (1回分)
 3中山国土交通副大臣就任時から1月分までの給与 (4ケ月分)・賞与 (1回分)
 4加藤国土交通政務官就任時から1月分までの給与 (4ケ月分)(※)
 5泉田国土交通政務官就任時から1月分までの給与 (4ケ月分)(※)
 6木村国土交通政務官就任時から1月分までの給与 (4ケ月分)(※)


※ 大臣政務官の賞与額については、返済可能額がない。

2.  国土交通省責任者10人の処分

No.役   職処分量定
 1山田邦博国土交通事務次官訓 告
 2石田優国土交通審議官訓 告
 3元大臣官房政策立案総括審議官 ※1減給3月間 (1/10) 相当
 4横田正文元大臣官房政策立案総括審議官減給2月間 (1/10)
 5青柳一郎元大臣官房政策立案総括審議官減給1月間 (1/10)
 6橋本亮二元情報政策課長 ※2減給1月間 (1/10)
 7元建設経済統計調査室長減給3月間 (1/10)
 8元建設経済統計調査室長減給1月間 (1/10)
 9元建設統計室長戒 告
10元建設統計室長訓 告

 

 

※1 退職者であるため処分できないが相当する額の自主返納を求める。

 

※2 現在出向中のため国復帰時に処分実施予定。



3. 総務省責任者7人の処分

統計法を所管する総務省も対応が不適切だったとして、黒田武一郎事務次官ら計7人を厳重注意など
の処分にした。2022年1月21日総務省発表



令和4年(2022年)2月15日掲載