管理費等滞納の背景
管理費等滞納の背景について解説しています。
未曾有の危機に直面した日本経済
世界不況であけた平成21年(2009年)以降、日本経済は、世界的な金融危機によって第一次石油危機直後の1975年2月と並ぶ約34年ぶりの急激な悪化を示し、 企業の資金繰りが厳しくなっているほか、雇用や設備にも過剰感が広がっていました。
2007年7月30日に内閣府の景気動向指数研究会が2002年2月から始まった景気拡大の期間が、06年11月に「いざなぎ景気」(1965年11月〜70年7月の57カ月)を超えて「戦後最長になった」と発表しましたが、 その好況感は輸出主導の製造業を主体としたもので、 内需に依存する非製造業や中小企業、そして多くの生活者にとっては、およそ実感のない「空疎な」景気拡大でした。
輸出企業の代表格のトヨタでさえも2008年3月期の最高益から一転して2009年3月期の連結営業損益が戦後初の営業赤字となるなど、日本経済は、政治の迷走と停滞で、景気回復は実現せず、 財政悪化だけがさらに進行していきます。
1) 下がり続ける勤労者世帯の収入
下がり続ける世帯主の収入を補おうと、配偶者がパートでがんばっている家計の姿がみえて来ます。
2) 完全失業者数の推移
1992(平成4年)有効求人倍率1.0のとき、完全失業者数は146万人でしたが、2002年(平成14年)に有効求人倍率0.56 完全失業者数、360万人と最悪となり、その後、ゆるやかな回復を見せ始めますが、 世界不況であけた平成21年(2009年)は、政治の混迷も加わって、平成14年の最悪の時期のピークをオーバーしていきます。
3) 住宅ローンのゆとり返済の落とし穴
住宅ローンを完済するまでの20年、30年のうちには様々な予想外の事態に遭遇します。
低金利時代に全期間固定金利型のローンを組んでいれば何の心配もない訳ですが、現実には、多くの人が金利変動によって返済額が変わるローンを利用しています。
住宅購入後に収入がアップして、金利が上がっても多少の返済額の増額は充分に吸収できると思ったのに、現実は、金利が上がって、収入も下がったために、ローンが返済不能になったというケースは決してまれなケースではありません。
(旧)住宅金融公庫ローンのゆとり返済(ステップ償還)を利用してデフォルトに陥った利用者の債務残高は平成19年末で1兆4,753億円にのぼっています。
住宅支援機構が平成20年(2008年)9月30日発表した「ゆとり返済に関するデータの公表について」によれば、平成19年度末のゆとり債権残高は8兆3,101億円、うちリスク管理債権残高は1兆4,753億円。
4) 住宅ローン新規貸出推移(住宅金融支援機構)
(注)住宅金融公庫は平成19年4月1日から「独立行政法人住宅金融支援機構」となり、民間金融機関へ資金の融通を支援するための貸付債権の譲受け等の業務が主となっています。
住宅ローンは民間金融機関にとって、1件あたりの契約金額が大きく、個人向け金融商品の収益の柱となっているため、銀行は商品化を競っています。 住宅ローンが返済不能になっても銀行は最終的には保証会社に代位弁済してもらうので、銀行の損害は発生しない。
住宅の抵当権の価値に対して貸し付け、いざとなったら抵当権を実行して無担保債務は融資した金融機関が負うものをノンリコースローンという。住宅ローンや不動産ローンは、デフレで資産価値が下がっても、たとえ耐震偽装で建物が壊されても、 残債務が無担保債務として残るリコースローンです。
5) 個人の自己破産件数の推移
平成20年時点で毎月12,000件を超える破産が申請されていました。平成20年10月の全国地方裁判所が受け付けた「破産事件」の統計では全地裁総数で12,494件、うち自己破産が12,417件、うち自然人(つまり、法人ではなく、個人)が11,396件と なっています。全国の破産件数の6割以上が東京です。(同月の統計で東京高管内地4,609件+東京地管内2,229件=6,838件)
1990年(平成2年)11月のバブル崩壊以後、リストラや企業倒産により、個人破産が増加し、2003年(平成15年)には242,377件の最高件数を記録していきます。その後の景気回復の影響もありますが、 同時に、債務整理の手法が多様化して自己破産件数は調停や個人再生に分散していきます。
平成12年2月17日施行の特定調停法(*1)、平成13年4月1日施行の民事再生(個人再生)手続(*2)、弁護士等による任意和解手続(*3)などで、債務整理の選択肢が増えて自己破産手続が減少したことが、平成16年以後の減少の背景として挙げられます。
債務整理の選択肢が増えた事情
(*1) 「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」平成11年(1999年)12月17日法律第158号(施行:平成12年2月17日) 支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生を目的とした調停。 但し、債権者に対しては調停委員による調整に応じる義務はなく、債権者が調停期日に出頭せず、調停不成立になる場合がある。
(*2) 「民事再生法等の一部を改正する法律」(個人版民事再生法)平成13年(2001年)4月1日施行:金融機関の資産を圧縮して、マイホームを守りながら 再生を図る。但し、あくまで消費者金融などの住宅ローン以外の債務であり、住宅ローンそのものは減額できず、返済期間の延長や、一時的な元金返済の猶予にとどまる。
(*3) 「品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない」(弁護士職務基本規程第9条第2項)と規定していた日本弁護士連合会(日弁連)は、平成12年(2000年)3月24日、臨時総会を開き、 従来禁止されていた弁護士業務の広告を原則自由とする会則改正案を賛成多数で可決した。 続いて『弁護士及び弁護士法人並びに外国特別会員の業務広告に関する運用指針』を平成12年5月8日制定し、弁護士業務の広告は平成12年10月1日から解禁(改正会則施行)となった。 以後、多重債務者を対象とする債権整理業務の弁護士広告が電車の車内広告、立て看板、TVのCMなどで広く目にするようになった。
6) 管理費等の滞納戸数割合
管理費等の滞納は、自己破産などの債務整理の前にすでに発生していることを示すデータがあります。
平成11年度においてマンションの所有者の半数が滞納していた滞納戸数のピークの時期から数年おくれて、平成15年度に自己破産申立件数がピークを示しています。
どうにもならなくなって、自己破産するのですから、自己破産に至る前に、すでにマンションの管理費の滞納が始まっていることは当然のことなのです。
7) 債権回収の実務
〜住宅ローンの返済が遅れると〜
一般には一度返済が遅れた程度であれば、督促の通知がくる程度ですが、何度も繰り返すと電話が入るようになります。
延滞が6ケ月に達すると、債権は保証会社に移行します。保証会社が銀行などにその時点の残高を一括返済(代位弁済)して、保証会社が債務者であるローン利用者から取立てを行うことになります。
保証会社は債権回収のプロですから、銀行の督促のように甘くはありません。まずはローン利用者である債務者に任意売却を迫ります。
自主的に売却してローン残金を清算するわけですが、不動産価格が低下しているとそれも簡単ではないので、任意売却が不可能とみなされたときには、競売に付されます。
こうなると、マイホームを失った上に、競売の落札価格とローン残高の差額の借金だけが残ってしまうことになり、大切な住まいを失った上に、ローンの返済だけが続くという悲惨な状況に陥ります。
銀行は最終的には保証会社に代位弁済してもらうので、損害は発生しないのですが、保証会社が銀行の関連会社であることが多く、間接的には被害をこうむる場合もあり、
それだけに銀行としても何とか救済策を講じて、返済を続けてもらうほうが得策であり、
返済に困ったときは積極的にローン相談窓口をたずねて相談したほうがいいのです。
くれぐれも、消費者金融に走らないで下さい。
金利が雪だるま式にふくらんで、それこそ自己破産など、とりかえしのつかないことになります。
8) 消費者信用関係等訴訟の原告側の実情
貸金や割賦販売斡旋等を業とする会社は、業績をあげるために業務拡大の姿勢を取り、広く消費者に対して利用を宣伝しているので、当然ながら、債権の焦げつく案件も少なくありません。
そこで、機動的かつ効率的な回収を図るために、消費者信用関係等訴訟自体を業務の中に取り込み、コストを抑えるために顧問弁護士ではなく、社員に担当させています。
また契約書に、本店所在地の簡易裁判所を合意管轄裁判所とする旨の文言を入れて、回収部門をおいた大都市の簡易裁判所に、社員を許可代理人として、大量に訴訟を持ち込んでいるのが実情です。
簡易裁判所の消費者信用関係等訴訟には七つの訴訟類型があります。
「@貸金請求訴訟、A立替金請求訴訟、B求償金請求訴訟、C保証債務履行請求訴訟、Dリース料請求訴訟、E通話料金請求訴訟、F取立金請求訴訟」
この中でも圧倒的多数は信販会社や消費者金融業者が原告となり、個人消費者や小規模企業を被告として訴えを提起するものが簡易裁判所の民事通常事件の実に7割から8割程度を占めており、
次に述べるような共通する特徴を備えています。
9) 消費者信用関係等訴訟の特徴
(A)定型的な契約に基づく請求
取立金請求訴訟を除いては、すべて定型的な契約に基づいて、その履行を請求したり契約解除をしたうえで損害賠償を請求する訴訟である。
原告は、これらの契約を営業として行っているため、大量に画一的な処理をする必要から、契約の様式も事業者ごとに定型的に定めている。
(B)原告・被告間の格差
大規模企業対個人消費者という図式で行われる訴訟であるから、両者の間には極めて大きな経済的格差がある。また、一般的に法律知識にも格段の相違があり、これが弱者保護として種々の消費者保護立法がなされてきたゆえんである。
したがって、訴訟においても、その法律知識や証拠収集能力等の格差を考慮して、裁判所は民事訴訟の基本原則に抵触しない程度で、訴訟指揮において実質的衡平を図ることが多い。
(C)原告の基準による処理
大量に同一処理をする必要から、原告は、内部基準で和解の条件等を詳細に定め、それをマニュアル化して訴訟に臨むことが多い。また、裁判所も、衡平の観点から特段の事情がない限りあまり特異な条件による和解などは行わない。
(D)3段階の法律適用
@民法・商法という基本法、A基本法の特則としての消費者契約法、B各契約を規制する特別法規の3段階の法律が適用される。この法律相互間の関係は、「特別法は一般法に優先する」という原則に従い、
B各種消費者保護法規(貸金業法、利息制限法、割販法など)、
A消費者契約法、@民法・商法の順で適用される(消費者契約法11条1項・2項参照)。
従って、たとえば、損害賠償額の予定について利息制限法4条の規定は消費者契約法9条2号の規定に優先適用される。
しかし、@消費者信用関係等訴訟は数が多いので定型的に処理されるが、契約条項や適用法規が複雑であり、簡易裁判所の民事事件の中においては決して単純な訴訟ではなく、 A許可代理人として裁判を担当させる社員には経験豊富な者をあて、当該事件の処理についての十分な権限を与えているところもあるが、会社の末端部署のひとつとして経験も浅く、 法律的な専門知識に欠け、Bローテーションにより裁判期日ごとに担当社員が替わるなど、 責任をもった対応姿勢がないところも相当数あることなどが原因で被告から真摯に争われると適切な対応ができず、裁判所や被告側からその裁判対応姿勢について批判を受ける場合がしばしばあり、 そこで、被告が争い、争点が複雑な訴訟については途中から弁護士を依頼するケースもかなりあります。
10) 消費者信用関係等訴訟の被告側の実情
消費者信用関係等訴訟における被告は、@法律的な知識および証拠収集能力の面、A訴訟に応じる経済的・時間的な余裕の面の両方で原告に比して格段に弱い立場におかれており、その上、手持ちの証拠が散逸している場合も多く、原告の主張に対して十分な反論能力がないケースがほとんどです。
これらの被告の中には単に手元不如意である者も相当数あり、契約を自己管理しきれず返済不能に陥ったなど、被告自身に問題があるケースもありますが、企業側のなりふり構わず利潤のみを追求する営業姿勢の犠牲になって、不当な請求を受けているケースもないわけではありません。 また、被告が自己管理できなかったからといって、それに付け込んで法律上許される以上の請求ができるわけではないことは当然です。社会的弱者としての消費者や、零細企業者の適切な相談役として弁護士会、消費者センター等の相談窓口があります。