滞納対策の実務 目次 > 【前頁】 4. 訴訟の種類と方法 > 5. 支払督促の実務 > 【次頁】  6. 小額訴訟の実務

1.支払督促の概要

支払督促は、法的手続きの中でも、管理組合が簡単、かつ、少ない費用で時間をかけずに行える方法で、 訴訟代理人弁護士を選任せずに、管理組合自らが簡便に訴えを提起できる制度のひとつです。

支払督促の制度は平成8年6月18日に新しい民事訴訟法が成立し、平成10年1月1日に施行されたもので、民事訴訟法上は「督促手続」といいます。 督促手続では申立人(管理組合)を「債権者」と呼び、相手方(滞納者)を「債務者」と呼びます。

支払督促は、通常の訴訟手続によらないで、確定判決と同様の効果を持つ「債務名義」を取得し、債権回収を目的に行うものです。

債権の目的が「金銭その他の代替物又は有価証券の一定量の給付」の場合に債権者が債務者の住所のある地域の簡易裁判所に申し立てますと、 簡易裁判所書記官が債権者の申立てに理由があると認めれば、債務者の言い分を調べることなしに債務の支払いを命ずる制度(民事訴訟法382条)で、 支払督促は債務者に支払を督促する簡易裁判所書記官の裁判のことを云います。

ただし、債務者から支払督促を発した書記官の所属する簡易裁判所に異議の申立てがあった場合(この異議のことを督促異議といいます)は、通常の訴訟に移行します。

また、最初の支払督促申立書は公示送達ができません。債務者へ送達不能の場合は、送達不能の通知を受けた日から2月以内に、 別の新たに送達すべき場所の申し出をしなければ、支払督促の申し立てを取り下げたものとみなされます。
支払督促申立書が受理された後の仮執行宣言付支払督促正本の送達に関しては、公示送達の方法が認められています。

支払督促は
1)  金銭の支払又は有価証券若しくは代替物の引渡しを求める場合に限ります。
2)  相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。
3)  書類審査のみなので、訴訟の場合のように審理のために裁判所に来る必要はありません。
4)  手数料は、訴訟の場合の半額です。
5)  債務者が支払督促に対し異議を申し立てると、請求額に応じ、地方裁判所又は簡易裁判所の民事訴訟の手続に移行します。

金銭、有価証券、その他の代替物の給付に係る請求について、債権者の申立てにより、その主張から請求に理由があると認められる場合に、 支払督促を発する手続であり、債務者が2週間以内に異議の申立てをしなければ、裁判所は、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言を付さなければならず、債権者はこれに基づいて強制執行の申立てをすることができます。

この支払督促制度の特徴としては、

ア  裁判所書記官は、債務者の言い分を聞かないで金銭等の支払を命じる「支払督促」を発することとされています(同法第386条第1項)。 (督促手続は債権者の申立てのみに基いて、債務者を尋問することなく発付する手続)

イ  債務者は、支払督促又は仮執行宣言を付した支払督促の送達を受けた日から2週間以内に、その支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に「督促異議の申立て」をすることができます(同法第386条第2項、第391条第1項)。
 仮執行宣言を付した支払督促について督促異議の申立てがない場合には、その支払督促は、確定判決と同一の効力を有するものとされます(同法第396条)。債権者は、「仮執行の宣言が付された支払督促」又は「確定判決と同一の効力を有するものとされた支払督促」に基づいて強制執行の申立てをすることができます。

ウ  ただし、債務者が所定の期間内に「督促異議の申立て」をすると、通常の訴訟手続に移行し、その手続の中で、裁判官が改めて債権者の請求が認められるかどうかを審理することになります(同法第395条)。

2.支払督促の流れ

申立ては、書面(民訴法133条)または口頭(民訴法271条)によって行いますが、ファクシミリによる申立ては認められません。(民訴規3条1項1号)

 申立書の記載事項

 @ 当事者・代理人の表示

  (a) 当事者

  (b) 法定代理人・代表者

  (c) 訴訟代理人・代表者

 A 請求の趣旨

 B 請求の原因

 C 申立手続費用

 D その他 事件の表示、
   債権者または代理人の
   記名押印、裁判所の表示

3.支払督促の実務

申立に必要な書類は、本ホームページの書式一覧(ダウンロード)No16〜22にあります。

実際には、簡易裁判所の受付窓口(4は法務局)にてご確認ください。

申立に必要な書類
※ 手続き費用のうち、支払督促正本送達費用と支払い督促発付通知費用は各裁判所で異なりますので、申立てをする裁判所に確認してください。

1.「支払督促申立書」 1通 (ダウンロードNo.16)
2.「当事者目録」 (債務者の数に1を加えた通数)(ダウンロードNo.17)
3.「請求の趣旨及び請求の原因」 (債務者の数に1を加えた通数)(ダウンロードNo.18)
4.債権者(管理組合)や滞納の相手(債務者)が法人の場合、それぞれの法人登記簿謄本又は登記事項に変更なきことの証明書1通(法務局で申請します。1通 1,000円)
5.郵便切手 1,130円(1,000円1枚+50円1枚+80円1枚)=債務者が1名の場合
(注)債務者が2名以上のN名の場合は、(1,000円N枚+50円N枚+80円1枚)
長形3号の大きさの封筒に債務者の住所、氏名(法人の場合は、登記簿謄本にある商号及び代表者の資格、代表者名)を書き、1,000円1枚+50円1枚の切手を貼り、債権者(管理組合)あての封筒には同じく住所、氏名を書き、80円1枚の切手を貼ります。
6.申立書貼付用収入印紙
(1) 請求額が30万円までは、(請求額/5万円)を求め、切り上げて整数にして、その数に250円を掛けます。
(計算例:請求額5万円は250円、30万円では1,500円)
(2) 請求額が30万円以上では、(請求額−30万円)/5万円を求め、切り上げて整数にして、その数に200円を掛け、1,500円を加算します。(35万円では1,700円、100万円では4,300円、200万円では8,300円)
(3)請求額が100万円以上では、(請求額−100万円)/10万円を求め、切り上げて整数にして、その数に350円を掛け、4,300円を加算します。(110万円では4,650円、200万円では7,800円、300万円では11,300円)
(4)請求額が300万円以上では、(請求額−300万円)/20万円を求め、切り上げて整数にして、その数に500円を掛け、11,300円を加算します。(320万円では11,800円、500万円では16,300円)
(5)請求額が300万円以上1,000万円まで、20万円ごとに500円加算
7.送達結果通知用郵便(官製)はがき 債務者の数
8.管理規約原本写し 1部
9.管理組合理事長を選任した総会議事録写し 1部
10.理事長を区分所有法第26条第4項の管理者として申立てする場合には、その旨を決議した総会議事録写し1部
11.管理組合が支払督促の申立てをすることを決議した総会議事録 1部

(その他、参考資料として、提出を求められる書類もありますので、督促手続きにあたっては事前に裁判所と充分に打ち合わせしてください)

1.「支払督促申立書」の書き方

ダウンロードした用紙をそのまま、使用できます。
この中で、□の項目がありますが、ワープロ変換の「しかく」で入力して、該当する項目部分を■の黒塗りにして下さい。
(例)(送達場所等の届出)■当事者目録記載の債権者の住所等

(1)申立手続費用 金 ○○○円は、下の内訳を合計した金額を入れます。
(イ)申立手数料=上の「申立に必要な書類」の6.申立書貼付用収入印紙の額です。
(ロ)督促正本送達費用 =支払督促正本を債務者に送達するための切手代
(ハ)支払督促発付通知費用 =
(ニ)申立書書記料 =450円(支払督促申立書、当事者目録、請求の趣旨の3枚×150円=450円)
(ホ)資格証明手数料 =上の「申立に必要な書類」の4.債権者(管理組合)や滞納の相手(債務者)が法人の場合、それぞれの法人登記簿謄本を法務局から取り寄せた場合の登記印紙代

(2)送達場所等の届出=通常は■当事者目録記載の債権者の住所等にします。

(3)債権者=(管理組合理事長)の管理組合名と理事長職名(法人登記している組合では理事、または代表理事になっているから注意)、氏名と理事長 印

(4)簡易裁判所名は、見本では東京簡易裁判所になってますが、提出する簡易裁判所名に書直してください。

(5)価格○○円は、滞納の請求額です。

(6)貼用印紙○○円は、「申立に必要な書類」の6.申立書貼付用収入印紙の額です。

(7)添付郵券は「申立に必要な書類」の5.郵便切手で説明の額(債務者が1名なら、1,130円

(8)はがき 枚=債務者が1名なら、1枚と書く(債務者の数)

2.「当事者目録」の書き方

上段に債権者(管理組合理事長)の住所、氏名、郵便番号、電話番号、ファックス番号及び債権者の希望する送達場所を記載する。
下段に相手方=債務者(滞納区分所有者)の住所、氏名、郵便番号、電話番号、ファックス番号を記載する。

3.「請求の趣旨及び請求の原因」の書き方

請求の趣旨とは、あなたが求める裁判のことです。

1.金○○円は、滞納の請求額です。
2.規約の定め、または総会にて遅延損害金を請求することが決議されている場合、上記金額○○円に対する遅延損害金の割合を記入します。

4.「管理組合が支払督促の申立てをすることを決議した総会議事録」

管理組合を代表して管理者が支払督促の申立をする場合、管理規約に管理者が原告又は被告になるとの規定がある場合を除き、区分所有法第26条第4項に基づき、管理者を支払督促の債権者とすること及び債務者より督促異議がなされた場合に原告となることについて、総会議事録に記載しておくことが必要です。

以上を準備し、簡易裁判所の受付窓口に提出してください。

相手方が督促異議を申立てることのできる期間は、支払督促を受け取った日の翌日から数えて2週間以内です。
この期間内に督促異議を申立てなかった場合、申立人は、それから30日以内に仮執行宣言の申し立てをしないと、支払督促は効力を失います。

簡易裁判所から債務者に対して支払督促正本が送達された後、債権者に対しては支払督促を発した旨の通知があるだけです。
訴訟のように申立人が裁判所の法廷に出頭する必要はありません。

5.「仮執行宣言の申立て」

支払督促が送達されてから、2週間以内に債務者が督促異議の申立てをせず、また、支払督促による債務の支払もしない場合、申立て人(債権者)から支払督促を申し立てた簡易裁判所に仮執行宣言の申立てをします。

仮執行宣言の申立てには下記の書類が必要です。

1.「仮執行宣言の申立て」 1通 (ダウンロードNo.19)または(ダウンロードNo.20)
(FORM19は、債務の全額を支払わない場合、FORM20は、債務の一部を支払ったが、残額を支払わない場合です。)
2.「当事者目録」のコピー (債権者、債務者の数)=支払督促申立てに際して提出したもの
3.「請求の趣旨及び請求の原因」 (債権者、債務者の数)=支払督促申立てに際して提出したもの
4.郵便切手 1,050円×当事者数
長形3号の大きさの封筒に債権者の住所、氏名(法人の場合は、登記簿謄本にある商号及び代表者の資格、代表者名)を書き、債権者(管理組合)あての封筒には同じく住所、氏名を書き、どちらにも1,000円1枚+50円1枚の切手を貼ります。
5.送達結果通知用郵便(官製)はがき 債務者の数

仮執行宣言の申立てが受理され、それが認められると、裁判所より仮執行宣言付支払督促正本が債務者と債権者あてに送達されます。

6.「送達証明申請書」

仮執行宣言付支払督促の送達は、裁判所が行う為、送達証明申請を裁判所に申請して、その証明を受けます。

申請には下記が必要です。
1.送達証明申請書 2部
2.手数料(収入印紙) 150円
3.受書 1部(ダウンロードNo.21)

7.「確定証明申請書」

以上で支払督促が確定しましたので、確定証明申請書を提出して確定証明を発行してもらいます。

確定証明申請書(ダウンロードNo.22)

4.支払督促の注意点

(1) 簡易裁判所書記官から債務者(滞納者)に支払督促を送達する際には、アンケート方式の異議申立書の書式が同封されており、 異議申立てが容易にできるようになっているため、正当な理由もないのに異議申立てが出されることも実務上はよくあります。

(2) 異議申立てが出され、通常訴訟に移行した場合には、印紙を追加貼付することになります。

(3) 滞納者の異議申立てが予測できるのであれば、最初から訴訟を提起したほうが簡明です。