滞納対策の実務 目次 > 【前頁】 8.内容証明の書き方 > 9.滞納債権の圧縮と放棄の手続 > 【次頁】 10.最近の滞納事情

滞納債権の圧縮と放棄の手続

1. 債権管理の適正化と債権整理の必要性

共用部分リフォーム融資が受けられない

住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」では、滞納割合が10%を超過していたら、融資を受けることができません。(2003年1月改訂で従来の5%以内から10%以内に緩和された。)
* 「融資条件」
修繕積立金が、一年以上定期的に積み立てられており、管理費や組合費と区分して経理されていること。
修繕積立金が適正に保管されており、滞納割合が10%以内であること。
財団法人マンション管理センター又は(社)全国市街地再発協会に債務保証を委託していること。
マンション管理センターに支払った債務保証料を助成する制度があります。(港区:助成限度額は150万円)

滞納は組合員間の衡平を害し、管理費や修繕費の不足で管理及び修繕に支障を来たし、滞納があるために融資も助成も受けられなくなるなど多くの問題を引き起こします。言うまでもなく、管理費・修繕積立金等の滞納は区分所有法6条1項に規定する「共同利益背反行為」です。

滞納管理費等の扱いについては、次の二つの意見に代表されます。
(1)逃げ得は許さないとの姿勢を示し、法的手段を駆使して滞納を整理すべきである。
(2)債務者の状況により履行させることが著しく困難又は不適当なときは、債務の免除及び債権の放棄を行い、債権の整理を進め、滞納債権の圧縮・解消を目指すべきである。

これらは何も対立する意見ではなく、(2)の滞納債権の圧縮と放棄の手続の前に、債権管理の適正化につとめ、回収の強化を推進することは当然であり、それでもやむを得ず、滞納債権の圧縮・解消を行わなければならない場合があるというのが現実でしょう。

滞納債権の圧縮と放棄の手続の前に、債権管理を適正に実行してきたかを下記によりチェックしてみてください。

債権管理の適正化につとめたか?
@管理の徹底⇒滞納未然防止・債権の保全
・債権発生時のチェックの徹底
・債権管理簿の整理・管理
・債務者の資産状況等の把握
・債権を危うくする事態が発生した場合の保全・取立ての措置

A回収の強化⇒債権の確実な回収・滞納抑止
・督促や催告交渉、所在及び財産調査を徹底し、訴訟提起・強制執行を適切に実施
・債権管理回収業務の民間委託(サービサー)化を検討

それでも、回収できなかった場合
B債権の整理⇒滞納債権の圧縮・解消
企業会計や公益法人会計では次のような条件を挙げて、滞納債権の圧縮・解消を進めることができます。
・債務者の状況により履行させることが著しく困難又は不適当なときは、債務の免除及び債権の放棄を行い、債権の整理を進める。

ところが税法や商法の定めにより合法的に債務免除及び債権放棄による損金処理ができる企業会計などの場合と異なり、管理組合の場合には、後述するように、滞納債務の免除及び債権放棄は簡単な事ではありません。
安易にやってはいけない事情が存在します。「債務者の状況により履行させることが著しく困難又は不適当なとき」という条件だけでは債務免除及び債権放棄はできません。

規約に債権放棄する条件を明示しても、マンションの場合、現実として無意味なのは、債権の請求は債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができるからです。そして、滞納債務者の多くは、結果としてその区分所有権(住戸)を手放しているという現実があります。

また、債務者が個人から債務の免除などにより利益を受けた場合は、贈与を受けたとみなされて贈与税がかかります。法人から債務の免除を受けた場合は贈与税ではなく、所得税がかかりますが、人格なき社団は相続税法上、個人とみなされるので贈与税です。

C制度の管理⇒さらに適正な制度へ
・回収強化・滞納防止の観点から制度の見直しを進め、ルールを明確にしておく。

2. 管理組合債権の特殊な事情 (区分所有法8条)

当事者間の私的契約は、当時者間でしか効力を有さず、第三者には影響を及ぼさないという民法の基本原則があります。

この基本原則によれば、債務者たる区分所有者と債権者たる管理組合の取決めは、その合意の当事者と包括承継人しか拘束せず、特定承継人はその拘束を受けません。しかし、管理組合の場合は区分所有法8条で、特定承継人に対しても、その効力を受けるものと規定しています。(区分所有法は民法の特別法であり、特別法は一般法(民法)に優先する。)

従って、債務者にどのような事情があるにせよ、滞納債権は債務者たる区分所有者と特定承継人のどちらにも請求できます。相続で引き継いだ包括承継人は勿論のこと、滞納債権つきの住戸を競落した、或は、任意売買で住戸を購入した特定承継人も、滞納債権は承継しなければならない。従って、債権放棄する条件を債務者たる区分所有者個人の状況で定義したところで意味がない。

逆に、管理組合が滞納債権を放棄した後に区分所有権を取得した特定承継人は、滞納債権を放棄して整理された後の債権残高についてのみ債務を有します。管理組合は放棄した分にさかのぼって特定承継人に請求することはできません。

最高裁が滞納管理費・修繕積立金の時効を5年とした背景(区分所有法8条)

最高裁判決(最判平成16.4.23)で、滞納管理費の時効を一般民事債権の10年を採用せずに、定期給付債権の5年と定めた理由の一つに、仮に10年を採用した場合、競売実務においてはマンションの時価よりも滞納管理費のほうが多額に上るケースがあり、最低売却価格を決定することが出来ず、競売が機能しないという問題が発生しており、法8条によって特定承継人(買受人)が承継すべき滞納管理費を5年に限定すれば、競売実行が可能とされるケースがかなり存在するという背景もあったといわれています。

3. 管理規約に債務免除・放棄の条件を規定できるか?

地方自治体でも給食費や地方税などの滞納債権の回収に苦労しており、各市町村で債権管理条例が作られていて、透明性の観点から債権放棄できる条件(例えば生活保護受給者、破産法第253条第1項、会社更生法第204条第1項の債務者など)を明示しています。(債権管理条例ではなく、債権放棄条例だという皮肉な見方もあります。)

地方税などの、「債務者個人」に係る債権は、包括承継人以外は承継する義務がない。

だからこそ、債権放棄する条件を債務者個人の条件として定義できる。債務者が死亡し、回収できる財産がなければ債権も消滅する。マンションの場合、たとえ、債務者たる区分所有者が死亡したとしても、この区分所有権(住戸)についた債権は、消滅せずに残り続けます。

債権放棄できる条件を明示するには、回収不能であることの高度の蓋然性が必要になることと、組合自治の意思決定機関である集会の決議を経て債権放棄を行う手続の両方が必要であることから、組合自治の形態と管理処分の権能(民法組合、人格なき社団、管理組合法人)によっても、その規約規定の有効性は異なります。

「債務者の状況により履行させることが著しく困難又は不適当なとき」という抽象的条件では規約の法的効果はないばかりか、法8条を否定することにもなりかねない。

「法的に債権が消滅するまで滞納管理費等の全額を未収入金として計上しなければならない」という原則をわきまえた上で、法的に債権が消滅していない場合の、債権放棄の手続をどう進めるかについては具体的に後述していきます。

4. 損金処理における債務確定の原則

損金とは、税法などの法令に別段の定めがあるもの(減価償却や各種引当金など)のほか、費用及び損失のことです。 「損金の額に算入される金額は原則としてそれが発生し債務が確定したものでなければならない」という原則があります。
これを債務確定の原則といいます。

 「債務」とは、区分所有者が管理組合に管理費を払う義務、「債権」は管理組合が区分所有者に管理費を払わせる権利のことです。 決算書では、債務は負債に、債権は資産に計上されます。資産を損金(債務)として処理することを損金処理といいます。 債権が損金処理で債務に移動します。ここでは、移動した側の「債務」を使っています。
「債務」(義務)と「債権」(権利)は一枚の硬貨の裏表のように一体のものであり、どちらから見るかで呼び方が変わるだけです。

「債務確定の原則」の要件

「それが発生し」というのは、例えば費用又は損失の見積計上は認められないということです。
「債務が確定している」とは、次に掲げる3つの要件すべてに該当することをいいます。


(1)

債務の成立

企業会計、及び、管理組合法人の場合は「期末までにその費用に係る債務が成立していること」ですが、 人格なき社団の形態をとる管理組合の場合は透明性の観点から、 「法的に債権が消滅していること」が必要となります。

「法的に債権が消滅」とは、「 訴訟の種類と方法」で述べているような滞納債権請求訴訟等の法的対応の結果、和解調書や判決等の法的強制力のある決定を根拠として、債務の圧縮や債権の消滅を行うか、
或いは、滞納者が自己破産して裁判所から「免責の決定」を得た場合も、「破産開始の決定」以前の滞納金は請求できず、法的に債権が消滅したことになりますので、管理組合は、債権放棄する事になります。

会計の原点、それは正しい情報開示を行い、透明性を確保し、説明責任を果たせということです。

人格なき社団の形態をとる管理組合における債権放棄のデュープロセス(適正な手続)には、滞納債権請求訴訟の結果の和解調書や判決を得て債権放棄を行う法的な手段と、組合自治の意思決定機関である集会の決議を経て債権放棄を行う手続とが必要です。

法的に債権が消滅していないのに、勝手に損金処理した場合、「法的に債権が消滅していないのに、決算の財務諸表において損金計上するなどの虚偽文書を作成した理事会と債務者の行為は共同不法行為を構成する。逃げ得をはかる滞納者と理事会が内部でつるんで、不正な損金処理をして組合資産をごまかし、組合財産に損害を与えた。損害賠償せよ.」と訴えられたら、反論できますか?。

 その訴えが適正かどうかの判断は、その損金処理が会計の原点(正しい情報開示、透明性の確保、説明責任)に則ったものであるかどうかが判断の分かれ目になります。

時効完成後の滞納金の処理

Q1.時効になってしまった滞納金があります。会計上はどのように処理すれば、いいのでしょうか?
A1)時効が完成しても法的に債権が消滅するまでは滞納管理費等の全額を未収入金として計上しなければなりません。

時効の効果と時効の援用

時効の効果は起算日にさかのぼり(民144)、起算日に債権が消滅していたものとして扱われます。
但し、この時効は当然に発生するものではなく、当事者が援用(時効の利益を受ける者による時効の利益を受けようとする意思表示)しなければ裁判所も時効について判断してはいけないことになっています。(民145)

時効制度を利用する、しないは当事者に委ねられています。
特定承継人も時効の利益を受ける者ですので、債務の消滅時効を援用できます。

時効の利益の放棄

時効の利益を、時効完成前に放棄することは認められませんが(民146)、時効完成後に放棄することは認められます。

時効完成後に債務の一部を弁済したり、弁済の猶予を求めた場合には、たとえ時効が完成していることを知らずに債務者が弁済の猶予を求めた場合であっても、信義則上、その後に時効を援用することは許されません。(最高裁判決昭41.4.20 民集20-4-702))

したがって、時効が完成している債権であっても、諦めずに請求することは必要なのです。

時効完成後といえども、債務者から「債務の確認並びに弁済契約書」に類する書類を取得すること、即ち(民147条第三号の「承認」)にあたる時効中断手続の道が残されている以上、時効完成後の滞納金といえども免除できません。全額が未収入金となります。

企業会計及び管理組合法人における債権整理でも、「法的に債権が消滅している事」が基本になっていますが、それ以外の方法も企業会計原則や税法で認められています。

これらの場合は後述する損金処理、或は 引当金の方法がありますが、その場合には、次の(2)及び(3)の要件が必要となります。


(2)

具体的給付原因事実の発生

期末までにその債務に基く具体的給付原因となる事実が発生していること


(3)

金額の明確性

期末までにその金額を合理的に算定することができるものであること

滞納引当金処理

企業会計の場合、取立不能となった売掛金は貸倒損失として処理しますが、法律上は債権が消滅しているわけではないので、申告上の減算は認められません。では、どうするかというと、貸倒引当金勘定を使います。納税申告書の「貸倒引当金の損金算入に関する明細書」の中で、実績による貸倒れの発生明細、法定の繰入率などを計算して作成していきます。

企業会計においては、保守主義の原則、費用収益対応原則から将来発生することが予想される費用又は損失は、これを予め見積もって各会計期間に割り当てて、引当金などとして計上すべきものとされています。

この企業会計の要求に応ずるため、特に法令の「別段の定め」により認められたものが引当金、準備金の制度です。

管理組合法人の場合も、滞納引当金処理が可能です。(第6項参照)

5. 管理組合の3つの形態別に見る債権整理の注意点

財産の管理処分の権能から見た管理組合の3つの形態

財産の管理処分行為に限定した場合、(1)債権整理は財産権の法律上の変動を生じさせる行為(処分行為)であり、(2)債権の帰属主体と管理処分の権能で見た場合、マンション管理組合には任意組合、人格なき社団、そして管理組合法人の3つの形態があり、債権整理方法はそれぞれで異なってきます。

○任意組合

民法667条第1項「組合契約」に規定する組合契約により成立する組合(以下「任意組合」)のことで、ひとつの建物を数人が区分所有し、共益費を全員が持分に応じて出資しあい、一人が便宜上の代表者となって共益費の事務を執行するけれども、それは事務の執行役員というだけで、全員の意思を代位するわけではなく、したがって法律上の管理者ではない。財産の処分に関しては全員の合意が必要であり、多数決では決められない(民法251条)。

管理組合の団体としての意思はなく、個々の構成員の意思で決定される。(注:多数決で決めるのは人格なき社団となる)

したがって任意組合は、構成員(組合員)の個性が強く表れ、任意組合の団体性は緩いものになる。

・ 任意組合には、人格なき社団における代表者のような代表機関はない
 したがって、一般的に代表者とされる業務執行組合員が締結する契約は、各組合員全員の名前で締結した契約ということになる。

・ 任意組合の権利は、各組合員が共有する。
全体の利益は個人の利益よりも優先するという「団体法理」を適用するには4つの要件を満たさなければならないが、この4つの要件を満たしていないのが民法上の任意組合です。(民法第667条)

この形態をとる管理組合の滞納債権の整理は全員の合意が必要です。多数決では決められません。

○ 人格なき社団

人格なき社団とは以下の条件を満たしたものをいう。
(1) 共同の目的のために結集した人的結合体であって
(2) 団体としての組織を備え
(3) そこには多数決の原理が行われ
(4) 構成員の変更にもかかわらず、団体そのものが存続し
(5) その組織によって、代表の方法、組合の運営、財産の管理その他団体として主要な点が確定しているもの

                       (昭和39年10月15日最高裁判例)

上記条件を備えた組織は、人格なき社団と判断される。そもそも設立登記というものはない。
これらの条件の内、(1)の条件は、ほとんどの組織成立の基本であるため、実際は上記(2)(3)(4)(5)の4条件を満たす任意の組織が「人格なき社団」です。
人格なき社団の特徴
・ 構成員とは独立した法主体として、社団法人に準じた取扱いがされる。
・権利義務については、構成員に総有的に帰属し、構成員各人は、人格なき社団の債務についての有限責任を負う。
 これをわかりやすく説明すると、「人格なき社団であるところの任意の組織が、債務超過に陥っても、その債務は、組織の資産を限度として、それ以上構成員に責任を及ぼさない」ということになる。
・ 代表者が行った事業遂行目的のための法律行為の効力は、人格なき社団に帰属する。
・ 構成員の増減があっても、その組織自体は同一である。
・ 収益事業に対して法人税及び法人住民税・事業税が課せられる。
(5.3 税法と商法・管理組合の3つの形態における適用例)

総有的に帰属する…
 共同所有の一形態、所有権が質的に分有され、その財産の管理処分の権能は団体自体に属すると解する。法人に準じて扱われる。 処分行為についても、法人の意思決定手続きによってできる。管理組合の最高意思決定は総会決議であるので、 理事長は管理費等滞納金の債権放棄を総会に提案し承認を受けると、その未収金を損金として計上することが可能となる。

○ 管理組合法人として登記されている団体
 法人登記することによって、人格なき社団におけるみなし規定ではなく、その財産の管理処分の権能は団体自体に属することを明確に宣言した団体です。

5.1 管理組合は当然には存在しない

  区分所有法3条の「〜できる」という表現は多数決原理に基く団体を擬制したもの

管理組合運営の参考書に、おまじないのように唱えられている一つの言葉があります。
「管理組合は当然に存在する」という言葉ですが、実際のところ、その意味を正しく理解している人は少ないようです。 この言葉の出所(でどころ)を下記に示しました。この文章を読めば、真の意味がわかると思います。
管理組合は当然に存在するのではありません。

区分所有法 第三条(区分所有者の団体)
  「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。」

この条文の 「〜できる」という表現は、区分所有者の間に具体的に管理組合という団体を創設する規定ではなく、既に全区分所有者の間に当然に団体が存在するものと擬制して(みなして)、 宣言した確認規定であり、その立法趣旨はマンションの管理について、多数決による決定によって、マンションの維持管理と区分所有者相互の法的関係の円滑な処理を実現させるところにある。
民法上では共有者間にはこのような団体は存在しないから、共有物の変更や処分について全員の一致を必要とする。 これに対して、区分所有建物、その敷地及び付属施設の管理(広義)については多数決による決定を認めることが望ましく、 その論理的前提として民法の共有の世界には存在しない団体がここに存在するものとして擬制したのである。  「コンメンタール マンション区分所有法 」稲本 洋之助 ・鎌野 邦樹 (著) 日本評論社(1997年3月版)

 財産の管理処分の権能から見た場合、管理組合はすべてが人格なき社団或は管理組合法人というわけではありません。 法務省もそのことを昭和59年1月1日施行改正区分所有法について、下記のように説明しています。

「区分所有者の団体の性格  〜 この新法3条の団体がどのような性質のものかは、その現実の活動の姿をみて具体的な局面において決するほかありません。 〜(中略)〜管理者も規約もなく、将来これが定められることも予想されない場合まで、社団だということはできないように思われます。」法務省民事局参事官室編「新しいマンション法(一問一答による改正区分所有法の解説)(昭和58年11月12日初版)」P42

(*) 「人格なき社団」は「権利能力なき社団」とも言われます。
詳細は「管理組合総会の進めかた〜 4.1.1 管理組合とはどんな組織でしょうか 〜」を参照下さい。

(注解 法文解釈・区分所有法3条)
「〜団体を構成し、」で一旦区切り、ここで「管理組合は観念的に当然に出来ているものとみなす」と解釈し、 その管理組合の多数決原理に基づく団体としての具体的活動を定義しているのが後段の「出来る規定」だという解釈をとります。

下記は区分所有法が国会審議に掛けられた昭和58年4月の衆議院法務委員会における政府委員の説明です。
「区分所有者は当然に一つの団体を構成いたしまして、区分所有法に従って建物とその敷地を共同管理していくものでありますから、 区分所有法(新)第3条におきましては、その趣旨を国民一般の皆さんに理解しやすいようにするために確認的に宣言をしたものであります。 現在(昭和58年当時)でも、ただいま御質問にありましたように、 ほとんどの区分所有建物におきまして任意に管理組合を結成をするという形をとっておるわけでありますけれども、 この管理組合の結成という行為は、ただいま申しましたような考え方から申しますと、 法律上当然のことを区分所有者間で確認し合うものであるというふうに考えられるわけであります」

(注)昭和58年4月のこの政府委員の答弁は、昭和39年10月15日最高裁判決で示された団体法理を前提にしています。 それが、3条後段の「出来る規定」につながっています。
※ 最高裁判決(昭和39年10月15日)で示された団体法理は下記で詳細に説明しています。
    「4.管理組合総会の進め方」 ⇒ 「管理組合とはどんな組織でしょうか」

   預金保険機構における
5.2 管理組合の3つの形態別に異なるペイオフの扱い

団体の預金者の皆様へ

預金保険で保護される預金額は、決済用預金(注)は全額、決済用預金以外の預金は1金融機関毎に預金者1人当り元本1,000万円までとその利息です。
  (注)決済用預金とは、無利息、要求払い、決済サービスを提供できること、という三要件を満たす預金です。
 預金保険において、団体の預金は、団体の性格により扱いが異なります。

・ 法人格がある団体や、法人格はないが実態として法人と同じような活動をしている団体(以下「権利能力なき社団・財団」といいます)は、1預金者として扱います。
・ 上記以外の団体(以下、「任意団体」といいます)は、1預金者とはならず、その預金は各構成員の連名による預金として扱います。このため、決済用預金以外の任意団体の預金は、各構成員に分割され、構成員各自の預金として扱います。

金融機関に保険事故が発生した場合、預金者の皆様が預金の払い戻しや保険金の支払を円滑に受けるには、預金保険で保護される預金額の確定(これを「名寄せ」といいます) などを迅速に行う必要があります。このため、預金保険法では、金融機関に対し名寄せに必要な預金者の名称(カナ名称)、設立年月日、電話番号、所在地などのデータを整備 しておくことを義務付けています。団体の預金について、金融機関は、「法人」、「権利能力なき社団・財団」、「任意団体」のいずれに該当するか、データを整備する必要があります。

このため、預金先の金融機関から、何れの団体に該当するか や 名寄せに必要なデータをご確認させて頂く場合があります。また、「権利能力なき社団・財団」 である預金者には、規約等の写しのご提出をお願いすることがあります(注)。

団体の預金者の皆様におかれましては、こういった趣旨をご理解頂き、金融機関のデータ整備にご協力頂きますようお願い申し上げます。

(注) 「権利能力なき社団・財団」は、一般的には、マンション管理組合、町内会、設立登記前の会社などが該当します。 「権利能力なき社団・財団」の要件は、最高裁判所の判例で示されています。このため、「権利能力なき社団・財団」に該当するか否かを確認するために、規約等の写しのご提出をお願いすることがあります。

5.3 税法と商法・管理組合の3つの形態における適用例

詳しくは 「3.3.7 納税していない時の修正申告」を参照下さい。
(キーワード):管理組合の収益事業判定、民法組合の特例制度、有限責任事業組合(LLP)、合同会社(LLC)、匿名組合

6. 人格なき社団における損金処理の例

会計の原点(正しい情報開示、透明性の確保、説明責任)に則った損金処理のモデル例を示します。 決算書でいきなり損金処理するのではなく、次期の収支予算書で損金処理を提案していることに注意してください。

(1) 「総会開催のご案内」の記載例

審議事項 : 第1号議案   【第24期(平成21年4月1日〜平成22年3月31日】
                  事業報告及び収支決算報告並び監査報告に関する件
         第2号議案   【管理費等未収納金の現況報告及び損金処理に関する件】

 (2) 「議案説明書」の記載例

【第2号議案    管理費等未収納金の現況報告及び損金処理に関する件】
(現況報告)
管理費等未収納金の発生状況は下記の通りです。
   (一般会計)            金額 1,350,300円
   (特別会計)修繕積立金     金額 1,277,300円
           駐車場使用料    金額 57,000円
         (未収金内訳明細は各勘定別の財産目録に記載)      
(損金処理)
 下記の管理費等未収入金につきましては、719号室競売事件にて落札し特定承継人となった新所有者との話し合いの結果、 所有権移転日平成20年12月1日起点における過去の滞納分のうち5年分の一括納付について同意いただきました。 それ以前の滞納分については特定承継人からの時効の援用の主張がありましたので損金処理することを提案いたします。

 (3) 収支予算書にて雑損失を計上し損金処理をしています。

7. 管理組合法人における滞納引当金処理の例

滞納引当金処理の例

管理組合法人でなければ出来ない引当金処理の例です。

(1) 貸借対照表
流動資産に延滞未収入金を、流動負債に延滞未収入金引当金を計上しています。

(2) 財産目録
財産目録で各科目の内訳明細を説明しています。

(3) 収支計算書
延滞未収入引当金繰入額は繰入額と取崩額の差額を計上しています。


引当金計上基準
企業会計原則 注解18 商法287条の2

「将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合には、 当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。」

通常、引当金は貸借対照表の負債の部に計上され、その繰入額は損益計算書の費用・損失の部に計上されます。

発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできません。このため、 その可能性がある特定の支出または損失にそなえて、当期の収益の中から一定の金額を留保するのが準備金です。準備金は利益処分によって積み立てられ、貸借対照表上は資本の部に計上されます。

どんな場合に引当金繰入が認められるか

企業会計の貸倒損失の処理については金銭債権が回収不能に陥っているかどうかの事実認定をめぐってトラブルの生ずることが少なくありません。そこで税法上は (1)債権の切捨てなどがあった場合の貸し倒れ (2)回収不能の場合の貸し倒れ (3)売掛債券の貸し倒れ の特例の三つにわけて、判定基準を明らかにしています。

 (1) 債権の切捨て等の事実とは、会社更生法による更生計画の認可決定により債権の切り捨てが行われた場合など法令上の整理手続によるもののほか、 法令上の整理手続によらない関係者の協議決定(債権者集会の協議決定、行政機関または金融機関その他の第三者の斡旋による当事者間の協議決定)及び、 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、債権の弁済を受けることができないと認められるため、書面により債務免除を行った場合を挙げています。
以上は、債権が法律的に消滅したことによるものとして税法で定められている判定基準です。

 (2) 回収不能の場合の貸し倒れは(1)と異なり、法律上は債権が消滅しているわけではないので、貸倒処理は決算上必ず行う必要があり、減算処理は認められず、また担保物がある場合は、担保物を処分しその処分代金の受け入れをした後でなければ、貸倒処理をすることが認められません。

 (3) 売掛債券の貸し倒れについては、債務者との取引停止以後一年以上を経過した場合などで、その売掛債権の金額から備忘価格(1円)を控除した金額について貸倒損失として処理することができます。

以上は企業会計の場合の貸倒損失の処理基準ですが、管理組合の滞納管理費等の損失処理についても、上記の貸倒損失の処理基準を準用することになります。