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ニューサンス概論とペット訴訟 目次

1.ペット訴訟 目次

ペット訴訟の判決を3例 挙げました。
(1)(2)は日本の個人対販売会社の裁判、(3)はカナダの管理組合対住民の裁判です。

〜法制度の欠陥が招いた混乱と紛争(日本)〜
  ○ .ペット訴訟(1): 販売会社に責任はない     2004年(平成16年)9月22日 福岡地方裁判所判決
  ○ .ペット訴訟(2): 販売会社に賠償命令      2005年(平成17年)5月30日  大分地方裁判所判決

〜判決文で人間愛を感じたこと、ありますか?〜
  ○ .ペット訴訟(3): 住民に飼育禁止と賠償命令  2021年10月1日 コンドミニアム裁判所(カナダ)
  ○ ペット訴訟(4): 判例解説に代えて

ニューサンス概論

 ニューサンス(Nuisance)とは、迷惑行為、生活妨害行為のことで、共同住宅の生活紛争
としてはペット(Pet)、騒音(Noise)、喫煙(Smoking) などが世界共通の身近な問題です。
他に違法駐車・違法駐輪、水漏れ、ごみ処理等々がありますが、いずれも居住者の生活
管理上の問題です。共同住宅での生活は他者への気配りが特に必要です。

ペット訴訟(1)と(2)は、販売会社(分譲会社)の売り方の問題で、日本では、共同住宅
を購入してからの住人の住み方の制限に関わる住居管理は、建前として分譲後に設立
される管理組合の管理規約に委ねています。最近、先に分譲会社で原始管理規約(案)
をつくり、購入者は購入前にその内容に同意して購入する事が一般的になっていますが、
もともとこの原始管理規約は分譲側に都合よく作られているという批判 (注1) も多く、
コンプライアンスの強制力(enforcing compliance)についても充分ではありません。
また法制度上も原始管理規約作成の行政指導はあるものの義務化されてはいない。
ペット訴訟(1)と(2)はそれが原因で起きた紛争です。

 これらが、外国ではどのように対策されているかを考える上で、今回(3)の宣言書(Declaration)
を取り上げたのですが、同時に(3)では、生活紛争解決のための多くの視点を提供しています。
それらの視点のポイントは、下記の「(4): 判例解説に代えて」 に記載しました。

(4): 判例解説に代えて

ここでは、.ペット訴訟(3): 住民に飼育禁止と賠償命令 2021年10月1日 コンドミニアム裁判所(カナダ)
についての補足説明です。

(1). 宣言書(Declaration) の実際の例を挙げます。

これは、ペット訴訟(3)のカナダのコンドミニアムの宣言書ではありません。 米国フロリダ州のあるコンドミニアムの宣言書の例で、分譲会社(Condominium Developer)が、所有権(condominium ownership)の登記 をする際に、フロリダ州コンドミニアム法の規定(Chapter 718, Florida Statutes, known as the Condominium Act) に従って提出したもので、細かな文字でびっしり書かれており、全36頁あります。

この宣言書内のペットに関する規定14.4 項(P27)は下記の通りです。
14.4 Pets. Small, noiseless household pets are permitted, subject to reasonable limitations as to their use, restraint and conduct as may be further promulgated by the Board of Directors from time to time. Renters and guests will not be permitted to have pets at any time without express approval of the Board of Directors. Owners having pets shall promptly remove any and all pet droppings from condominium property, and shall keep pet leashed at all times when the pet is on condominium elements.


宣言書は、(3)のカナダだけの特殊な制度ではないことがおわかりいただけると思います。
尚、(3)のカナダの宣言書のペット条項の内容は、実際の判決文の中で丁寧に引用記述されています。

(2). 受忍限度の判断基準、合理性の判断基準

日本の生活紛争裁判の中で、必ずといっていいほど出てくるのがこの受忍限度です。
被害者の感じる受忍限度と、裁判官の感じる受忍限度には大きな開きがあります。
そのような判決を見るたびに「裁判官に受忍限度を判断させるな! ろくな判断にはならない」と思います。

このカナダの判決のパラグラフ(段落)[26]では、他の判例を引用して次のように述べています。
    「管理組合が統治文書に基づいて強制力の行使を法廷に求めるとき、その根拠となる理事会
    にとっての合理性とは何か、という見方は、法廷が代わりに判断する合理性の基準ではない。
    そこには大きな違いがあることを裁判所は示さなければならない。
    その判断に恣意的な要素がない限り、理事会が合理的と判断してとった行動は、裁判所として
    支持することが重要である。」

被害を受けた側の判断基準を尊重するべきで、裁判所が代わって判断するべきではないと言っています。
    これは権威主義のパターナリズムで「司法判断の責任の放棄」と見るか、
    多様性と寛容を重んじるリベラリズムで個人の権利を尊重するかで評価は異なります。

(3). 多様な判断基準を整理して提示

この(3)の判決では他の4つの裁判における判決文を引用しています。
日本では、原審判決を判断する控訴審判決以外ではこのような例はあまり見られません。
この判決で引用されている他の裁判の判決文は司法判断の重要なエッセンスです。

(4). あなたは判決文で人間愛を感じたこと、ありますか?

この裁判では被告を審理に参加させるのに、原告も裁判官も相当苦労したことが述べられています。
これがメアリー・アン・スペンサー判事だったら、最後にキツーイ1発がくるなと予想して読んでいたら、
なんと、モウリーン判事は終段のパラグラフ[44]で、こう述べています。

  「しかしながら、正真正銘の個人的事情により聴聞に参加しなかったのは事実であるが、 彼女は
  CATの審理プロセスとの戦いに苦しんでいたのであり、 それが彼女と彼女の代理人の問題でもあった。」

思わず、唸りました。私の貧弱な翻訳能力のせいで、裁判官の想いが伝わるかどうかは自信ないのですが.。

CATが権威的にこれが正しいのだと法の判断を押し付けるのではなく、「当事者と共にあり、援助的に接する」
という思想とそれを裏付けるファッシリテーション技術に基づいて運営していることの凄さをあらためて感じさせます。

※ (1)当事者を主体に考え (2)公平で適正な紛争解決方法であって (3)コンドミニアムの健全なコミュニティを促進すること。 これがCATの運用指針です。(コンドミニアム裁判所実務規則 「2. 規則の適用指針」 を参照)

コンド紛争専門のコンドミニアム裁判所(the Condominium Authority Tribunal 略称CAT)が発足したのは2017年11月1日です。 カナダ゛の裁判所制度は日本とほぼ同じで州裁判所(Provintiial Court)管轄の裁判所として日本の簡易裁判所にあたる Small Claim Court があります。州裁判所には地裁に相当する一般部(general)と日本の家裁に相当する家裁部Family)の二つの部があります。 コンドミニアム裁判所のトリビュナル(Tribunal)とは行政裁判所のことで、州の行政規則、規定に関わる訴訟を扱う裁判所です。

日本でも大日本帝国憲法下でドイツ法にならって行政裁判所がありましたが、戦後、法曹一元化で廃止されています。 日本国憲法第76条第2項「特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行うことができない。」  現在の日本ではこのようなコンド紛争専門の行政裁判所は設置できません。

既存の裁判所制度があるカナダで、なぜ新たにこのようなコンド紛争専門の裁判所を必要としたのでしょうか?。
それは、 コンドミニアムの健全なコミュニティを促進するという言葉に集約されます。
既存の裁判所の一般法理ではここまで踏み込めない。すべてオンラインで3ケ月以内に結審という制度も挑戦です。

費用負担についても、全コンドミニアムの区分所有者から、毎月1ドルの費用を徴収してコンドミニアム庁の運営に充て、 そこからこの裁判所の運営費用もまかなわれています。カナダでも行政の官僚組織は全く信用されていないから、 行政契約で民間の非営利組織としてのコンドミニアム庁に独立機関としての行政執行権と司法権を与えています。 その司法権を執行しているのがこのコンドミニアム裁判所です。 日本でも行政事務を民間に委託する「行政契約」はありますが、司法権どころか行政執行権すら与えていない。 単なる行政の下請け業務しか認めていません。行政は権力を手放さない。

このCATができたいきさつは、下記に詳しく述べています。
 共同住宅法制改革の公共政策 「住宅法制改革第U期報告書」
    〜 市民が結集して共同住宅法の見直しと改正を行ったカナダの実例報告 〜

(注1). 原始規約の問題

2008年9月20日初版第1刷が発行された「これからのマンションと法」(ISBN978-4-535-51365-5)(出版:日本評論社)
の「第4部 管理制度」の章(p328)で、「原始規約の諸問題」と題して弁護士山上知裕さんが書かれているなかから、
「V 日弁連意見書」を紹介されている部分を一部抜粋させていただきます。

(以下引用)
「このような問題認識を踏まえ日本弁護士連合会は、平成12年6月16日、区分所有法改正問題について意見書
(以下「日弁連意見書」という)を公表した。

 「(1) 原始規約について、行政庁による審査手続きを新設し、行政庁に不公正条項について改正命令ないし
    改正勧告権限を与える。
  (2) 分譲業者や等価交換方式の元地主に対して特別な利益を与えるような不平等条項については無効とする
    規定を設ける。 
  (3) 分譲業者や等価交換方式の元地主作成の原始規約に限っては過半数決議で改正することができることとし、
    この場合には『特別の影響』の規定は適用しないものとする。(第4の1)

このような原始規約に関する日弁連提言は、原始規約をめぐる多くの訴訟を担当した法律実務家の声を如実に反映
したものであって、同意見書における最重点課題の一つであった。」(引用 終わり)

上記の問題に対して、カナダではまさに日弁連提言(1)の通り、建物登記と同時に宣言書を審査官(Examiner エクザミナ)
が審査して認可したものを登記法(Registry Act)に従って登記官(Registrar レジストラ)が登記する制度になっています。

平成12年(2000年)6月16日の日弁連意見書公表から22年、日本はいまだに変わらないどころか、ますます悪くなる。

(2022年3月10日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 10 March 2022/ Revised Publication -time to time)