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住民へのハラスメント (4) あとがき・訳注

あとがき
本シリーズの狙いは、今現在、この世界で起きている問題をそのまま伝えること、
その上で、その問題をどう判断するかは、皆様のご判断に委ねようと思います。

判断は、その人の経験知で異なります。知識や経験を積むと、判断も変わります。

いつか、あのHpにこんなのがあったなと思い出して見て頂いたときに、ご自身の中で、
最初に見たときに感じた事と異なる、新しい発見をしていただければ、幸いです。

訳注 (1) 抗告 関係

(1) 「MOTION DECISION」と「MOTION ORDER」の違い
通常の抗告判決の表題は、「MOTION ORDER」で、命令(ORDER)として文末に下記の書式で言い渡されます。
(1)The motion to dismiss this Application is denied. (請求棄却)
(2)The motion to dismiss this Application is dismissed. (請求認容)

本事件では、判決の表題は「MOTION DECISION」で、文末もORDER(命令)ではなく、
Conclusion(結論) として、「以上、述べた理由により、請求棄却」としています。
棄却請求を却下して訴訟を継続し、判決で「REASONS FOR DECISION」を言渡すことから、
裁判官は、本事件の争点についての判断を中間判決の形で示していることがわかります。
通常の抗告判決のパラグラフが10〜15なのに対し本判決は[24]段と、力が入っています。

(2) Motionと抗告の意味
米国やカナダの法律用語の「Motion」は、日本の民事訴訟法では「抗告」にあたります。
但し、日本の民訴法英語版では、この抗告を「審理中の控訴: Appeal Against a Ruling」と訳しています。

「Motion」は、もともとは会議中にメンバーから提出される「動議」のことで、 下院(日本の衆議院)の議会審議中に議員が採択するよう議長に提出する動議と、 裁判中に、当事者の一方が判決前に裁判長に命令を下すよう要求する動議は共通に[Motion]ですが、 日本では、裁判用語に「動議」はなく、「抗告」を使います。

裁判中の「抗告」の提出には手数料がかかります。当事者以外の人でも、 例えば、証人召喚状を出された人が、召喚状に異議を唱える動議(抗告)を出して、 出席を免除される命令を望むこともできます。

今回の事件では、裁判開始直後に、被告管理組合が、「この訴えは却下すべき」として抗告し、 裁判官は理由を示してその抗告を却下したのが、(1)抗告審判決です。 この判決のパラグラフ(段落)[19]で裁判官が、「被告管理組合には、裁判所(CAT)に対する 不信と軽蔑を示す冷笑と皮肉のシニシズム(Cynicism)が存在している」と冷静に観察して述べたように、 相手を見くびった傲慢な態度は、区分所有者に対しても同様の態度を重ね、 管理組合が自分で上告した高等裁判所の控訴審でも変わる事はありませんでした。 管理組合の、この傲慢さ・「根拠なき自信」は、一体どこから来るのでしょうね。   「本裁判が提起する問題点」

(3) 裁判用語について
この事件の基本的な争点は、「原告は障害者用駐車場を使用する正当な権利を有するか」でしたが、 一審敗訴の被告管理組合が抗弁したのは、裁判所に対する不信感を背景として、 抗告(motion)、控訴(appeal)、再審(Judicial Review)、上訴(appellate)などの 裁判制度の適用についてでした。(括弧内は英連邦国家群及び米国の裁判用語です。)

この事件では、裁判制度が重要な意味を持っていて、翻訳は、 わが国の民事訴訟の手続きを定めた民事訴訟法の用語と一致させないと、読者は混乱します。

上記で挙げたカナダの裁判用語は、日本の民事訴訟法の英語版(Code of Civil Procedure)では、 抗告(Appeal Against a Ruling)、控訴(Appeals to the Court of Second Instance)、 再審(Retrial)、上訴(Appeals)となっていて、英米の実体法の用語とは全部異なります。

日本の民事訴訟法英語版は、その意味する内容を誤解のないように説明する点において多分、 「学術的に正確」なのでしょうが、ただし英米の法律実務家には殆ど通じません。実務には使えないこの英語版は誰が使うのかな?
実際の裁判で適用する「裁判規範としての条文」は、翻訳する国の実体法の用語に一致させる必要があります。

(ア) 本頁では、カナダの裁判用語を、同じ意味で使われる日本の実体法の用語に置き換えています。
(イ) あえて、本頁の訳語を日本の民事訴訟法にはない用語で代用している場合もあります。

  裁判官が当事者に聞く(hearing)とき、民訴法では「審尋」と「尋問」がありますが、 この語を民事に使うには抵抗を覚えます。本頁では、「聴聞」に代えました。 立法府(議会)用語の「聴聞」は、民訴法にはありません。
細かく述べるときりがありません。本頁の訳語は独断かつ不完全なものが含まれることを重ねてお断りしておきます。、

 (4) Condominium Act 共同住宅法(コンドミニアム法)の法令体系

コンドミニアム裁判所実務規則は、「コンドミニアム裁判所 実務規則」参照

オンタリオ州法179/17 関係

   法令体系

 【 Act 】
   Condonium Act, 1998, S.O. 1998, c. 19 ※1

 【 Regulation 】
    O.Reg. 48/01 (Act の内容全般にわたって実施のために必要な細則又は手続き)
    O.Reg. 49/01: Description and Registration 
                (宣言書(Declaration)・管理組合登録データベースの管理規定)
    O.Reg. 181/17: Designation of Condominium Authority コンドミニアム庁規則
                (コンドミニアム庁(CAO)の権限と運営管理規定)
    O.Reg. 179/17: Condominium Authority Tribunal コンドミニアム裁判所規則
                (コンドミニアム裁判所(CAT) の権限と運営管理規定)
    O.Reg. 377/17: Condominium Returns (管理組合登録に関する申告手続と罰則の規定)

 【 Administrative Authorities 】
        Condominium Authority of Ontario (CAO)
        Under The Ministry of Government and Consumer Services

※1 修正コンドミニアム1998年法は(2015年法案Bill 106)で改正法案が可決されたことから、
   別名「コンドミニアム所有者保護法.2015」と呼ばれています。
   2015年12月3日法案成立(Royal Assent)・2017年11月1日施行
   The short title of this Act is the Protecting Condominium Owners Act, 2015.

[(5)抗告に対する決定 ]パラグラフ[20]
「トランシェモンターニュ対オンタリオ州長官、障害者支援プログラム」(HRTO Claim):
HRTO Claim, since the decision of the Supreme Court of Canada in Tranchemontagne v. Ontario
(Director, Disability Support Program),[2006] 1 S.C.R. 513, 2006 SCC 14,

訳注 (2) 判決 関係

(6) 宣言書(declaration) については、「宣言書(declaration)と統治文書 (governing documents) 」参照

訳注 (3) 控訴審判決 関係

(7)  ENDORSEMENTの意味
 ENDORSEMENTは、会計用語では小切手などの「裏書」の意味ですが、「裏書して銀行に廻すと現金になる」
のではなく、「控訴を棄却して原審を裏書する=原審の判決通り実行せよ」という意味です。
「裏書は小切手より生ずる一切の権利を移転す。(日本国 小切手法第17条)」

(8)  控訴裁判所とは
 控訴裁判所(カナダ:Divisional Court 米国:appellate court )は高等裁判所(オンタリオ州で7箇所)内にある。
本件の控訴裁判所はオンタリオ州ブランプトン市にある高等裁判所のCentral West支部で行われた。

高等裁判所(Superior Court of Justice)の組織,
民事部(Civil)、刑事部(Criminal)、控訴裁判所(Divisional Court)、家庭裁判所(Family)
少額裁判所(Small Claims Court)、出版禁止部(Publication Ban Forms)

控訴裁判所は、控訴(appeals)と再審(judicial review)事件のみ扱う。通常は3名の裁判官で行う。

(9)  裁判の公平性
 公平性は裁判の大原則です。原告管理組合は、控訴審含めて、ここまでの裁判は公平ではないと主張
してきた。確かに、(1)抗告に対する決定 の段落[14] で裁判官自身が述べているように、弁護士
がついて、言いたい放題の主張を繰り広げる管理組合に対して、裁判官は、本人訴訟で臨む区分所有者
の側の主張をなんとかくみ取ろうとしている。

裁判では、当事者が主張しないものは、判決に盛り込めない。(日本の民事訴訟法第246条も同じ)、
この段落[14]では、その想いがどうしても出てきます。この高裁控訴審の裁判官たちもその同じ想いを
引き継いで、「そのような状況下では、当事者を公平には扱えない。」と逆に宣言しています。
裁判官が守っているのは、法の正義であり、社会正義です。

本裁判が提起する問題点

 理事会と区分所有者間の不公平な格差

訴訟で管理組合と住民が争うとき、管理組合は住民より優位な立場にあり、「訴訟負担の不平等」の問題は
従来から指摘されてきました。    理事会と区分所有者間の不公平な権限の格差

管理組合は理事自ら手を出す事はなく、弁護士に代理人を依頼し、その費用は管理組合からの支出です。
対して住民は訴訟手続きから弁論まで本人が行うか、或いは弁護士を雇うなら自費です。
勝訴すると訴訟費用が補償される場合もありますが、基本的には弁護士費用までは補償されない。
下記はそのことが原因で争われた別の裁判です。
        「コンドミニアム裁判所 判例3.訴訟費用の監査請求 No. 2018 ONCAT 1」


(2022年9月20日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 20 September 2022/ Revised Publication -time to time)