● Aマンション(荒川区) 1990年竣工・RC7階建・54戸 全面委託管理
その事故は、小野崎さんが理事をしていた築4年目に起こり ました。夏の集中豪雨(時間最大雨量58o/h・40分程度) で機械式駐車場が冠水し、地下に駐車してあった10台が 全て水没したのです。 この時、管理会社は真っ先に「この雨量は天災。施工に不備 はない」と主張。管理組合は、1年近く販売会社と協議を重 ねました。最終的には、販売会社による補修工事の実施と 水没車両への補償が決まりましたが、ディベロッパー系列の 管理会社は「必ずしも住民の立場に立てるところではない」 ことを身をもって知ったのです。 そして、その4年後、管理会社から驚きの提案を受けました。 |
● 管理会社からの驚きの提案とは? | |
1回目の大規模修繕の提案です。工事概算は4800万円ということでした。 修繕積立金の残高は4400万円になる予定でしたので、400万円が不足ですから、 予備費を入れて約1000万円を借り入れようという内容でした。 これには、理事全員、驚きました。築10年で借金するわけにはいきませんよね。 4年前の水没事故での不信感もあり、管理会社からの提案を鵜呑みにする気には なれませんでした。 本当に4800万円かかるのか、セカンドオピニオンを聞こうと相談にいった先で、 その後ずっとマンションを見てもらうことになる羽鳥建築士と出会いました。 |
● セカンドオピニオンでは何と?管理会社は、10年の保証が切れるので、屋上防水(約960万円)は最優先項目と言っていました。 が、屋上を見た羽鳥建築士は「この工法(アスファルト防水シンダーコンクリート抑え)は耐久性が ありますし、屋上防水工事は足場がなくてもできますから、急ぐ必要はありません。 立ち上がり部分(露出防水)から水が入ったとしてもその下が居室ではなくバルコニーという作りになって いますから、影響が少ないです」と言ってくれました。 それが本当なら、屋上防水工事を見送れることになります。我が意を得たりの気持ちでしたね。 羽鳥建築士による建物診断の結果報告を聞き、納得した私たちは、大規模修繕を管理会社に依頼せずに、 コンサルタント(以降、コンサル)による設計監理方式で行うことにしました。 屋上防水は一部の補修で対応しましたので、借金をせずにすみました。でもそれだけではありませんでした。 このときの施工がどれだけ質のいいものだったのか、12年後に証明されることになりました。 |
● 小野崎さんはもともとマンション管理に詳しかったのですか?実は、マンションに住むのが初めてでしたので、車の水没事故が起こるまでは、マンションは管理費さえ払えば OKだと思っているようなレベルで、当然、設計監理方式というものも知りませんでした。 ですから、建物診断をした専門家と一緒に工事の予算と範囲を決め、その専門家が作った共通仕様書をもとに 競争見積で施工会社を選び、そのコンサルに第三者として施工を監理、指導してもらうという方法が、自分 たちに利益をもたらすということが、この1回目ではっきりとわかったのは大変ラッキーだったと思います。 |
● それで方針を決めたのですねその6年後の鉄部塗装(220万円)の時も、マンションNPOに依頼して設計監理方式で行いました。 金額もさほど大きくないので、管理会社に任せようかという考えもよぎりました。 でも、それでは、筋が通りませんよね。輪番制の理事会ですから、その後の方針のぶれにつながりかねません。 「100万円以上になるような工事は、設計監理方式で行う」という方針を守るべきだと思いました。 その翌年に機械式駐車場の撤去(490万円)をしたのですが、この時も、マンションNPOに相談し 設計をしてもらい、競争見積で施工会社を選び、工事監理をしてもらいました。 結局、羽鳥建築士には、事あるごとにマンションを見てもらってきたことになります。 |
● ずっと理事会に出席していたのですか? | |
理事や修繕委員でない時でも、できるだけ理事会に出席するようにはして きましたが、出られない時期もありました。 その間は、マンションセミナーや、マンション交流会等に参加して、 他のマンションの取り組みを知ろうと心がけました。 東浅草のマンションの工事見学会(築28年・50戸)では、玄関扉を交換した様子を 見ました。これはいいなあと思いました。改修した実感がわくなあと。 大規模修繕では、何か目に見えて変化することも大事だと教えてもらいました。 | |
● 昨年2回目の大規模修繕を実施されました |
2回目の大規模修繕も、もちろん設計監理方式で実施しま した。私は、14名の修繕委員会(理事7名・一般7名) の一員として係わりました。今回の目玉は、各戸の玄関扉 の交換(写真)とモニター付のインターフォンへの改修 (各戸玄関にもカメラがついているタイプ)でした。 どちらも1千万円以上の費用がかかる工事でした。が、 羽鳥建築士が「バルコニーや共用廊下・階段の防水工事 (長尺シートの貼りかえ)は通常は実施するのですが、 | |
状態がいいので、クリーニングで済ませ、次回に送りましょう」と提案してくれました。 それで、1千万円ほど浮かすことができました。大助かりだったのは言うまでもありません。 そのうえ、仕上がりはまるで新しくしたかのようで、満足しています。 クリーニングでの対応を可能にしたのは、羽鳥建築士に設計と監理をしてもらった12年前の防水工事の 材料と施工の質が良かったからに他なりません。 そして、それを担当した彼だからこそ、次回に送れますよと自信を持って提案できたのではないでしょうか。 私たちは、一人の専門家と出会って信頼関係を築き、設計監理方式という方針を貫いてきました。 それは、修繕にかかる費用の大幅な節減はもちろんですが、このマンションの維持保全の面でも、 相当な価値を生み出していると感じています。 |
◎ 管理組合をひっぱってきた小野崎さんに運営についてさらに伺いました! |
Q 修繕積立金の推移について教えてください。竣工時はu単価21円(月額平均1,160円)と、あまりに 低い設定でした。入居してすぐに管理会社から 値上げの提案があり、3年後にu単価160円になりました。 築9年の時に、大規模修繕を目前にしてお金が足りないということ になり、これも管理会社の提案で210円に値上げしたと記憶して います。 |
Q 大規模修繕後の値上げは、210円から300円とかなり大幅です。反対はなかったのですか?一番強く訴えたのは 「今回は、自分が修繕委員長をしたが、一番苦労したのはお金が足りないということ だった。次に担当する人達のためにも、この値上げは絶対に必要」 ということでした。 総会では、満場一致で賛成してもらえました。大規模修繕直後というタイミングもよかったと思っています。 これまで3回の値上げをしてきましたが、長期修繕計画を根拠にしていたわけではありませんでした。 今年、長期修繕計画の見直しをマンションNPOに依頼し、25年先までの修繕工事の内容とその時期の 目安が把握でき、いくら値上げが必要なのか、いつ借入れが必要なのか見えてきました。 今度は、しっかりと根拠を示して説明するつもりです。 |
Q 設計監理方式を貫くのは難しいことだと感じているとのこと。どういうことですか?管理会社のフロントマンが変わった時など、今までの経緯を知らずに、さらっと改修工事の提案をしてきたり します。注意していないと、あれよあれよと管理会社主導の修繕になる可能性があります。 2年の半数交代制にはしていますが、それでも理事は輪番で変わっていくわけです。 「設計監理方式で行く」とか「建物をずっと見てもらっている専門家がいる」ということが、5年、10年と 受け継がれていくのは、そう簡単ではないと思っています。 |
Q 広報活動で注意していることとは? | |
総会や説明会に出てくる人には、必要なことは伝わっていると 思いますから、お知らせなどの広報は、出てこない人を意識 しなければと思っています。時折、説明会などに出席して、 今までの経緯や決まった事柄を踏まえないで発言するような 人がいますが、それは、こちらの広報の仕方や内容に足りな いものがあったからだと考えるようにしています。昨年の大規模修繕の際に「かべしんぶん(NO1〜4)」 を修繕委員会の広報を担当した女性2人が作ってくれ ました。とても、わかりやすい紙面でした。 私は、修繕委員会の事務局長という立場でしたので、 自分のメールアドレスと携帯の番号を入れてもらいました。 | |
いつでもアクセスできますよという姿勢を示すことは大事だと考えています。 |
Q 話し合いの場で心がけていることは?初めて参加する人がいたら、なぜこの議題について話し合っているかを説明してから始めるようにしています。 例えば、3回連続で同じ議題を話し合ってきた場合は、要約をしてから始めます。 平等な参加ができるようにです。 |
Q 今後のことをお聞かせください。建物の修繕においては、設計監理方式を基本方針にして、うまくやってこられたと思っています。 難しいのは運営面です。マンション全体としての参加意識とかコミュニケーションが取れているかという と、なかなか……。 マンションには、いろいろな方がいます。マンション管理への優先順位、管理運営の知識や価値観も様々です。 実際、私も最初の頃は、何もわからなかったわけですし。 ですから、管理組合では、丁寧な情報公開、徹底した説明と意見の交換が必要なのだと思います。 そして、若い世代に少しずつ引き継いでもらえるよう、人材を見つける努力は続けていきたいと思っています。 |
「マンションNPO通信66号(2014/11/15発行)所載」