管理組合の運営 > 【前頁】 1.「自主管理」を「自力管理」と言い換えるのはなぜ? > 2.自主管理の長所と短所
                    > 【次頁】 3.「改正」か、「運用解釈」か

2.自主管理の長所と短所

1.自主管理の長所

1.コストの削減

自主管理の最も魅力的な理由は、管理委託費の支出がないことで得られる潜在的なコスト削減です。
管理会社に委託すると管理組合の規模と委託内容にもよりますが、年間300〜700万円が必要になります。
これらを、建物設備の修繕やコミュニティの改善、繰越金に充てることができます。 または区分所有者が拠出する修繕積立金の負担を下げることができます。

2.利害の一致

自主管理では住民と理事会は共通のオーナーシップに基づいているので利害が完全に一致します。
(かっこ良く言えば、自分自身に忠実ってこと)
資金の使途についてもより賢明で、より真剣に住民の立場を取ることができます。

管理会社は口先ではどういっても現実には委託責任(スチュアードシップ/Stewardship)よりも自社の利益を優先します。
日本の不動産業界では利益相反回避措置(for avoiding conflicts of interest)についての規制はまったくありませんから、 利益相反行為を行っても実際にはコンプライアンスや法的な責任を問われることはありません。 すべて契約自由の原則(双方が納得した契約は有効)で押し切ることができます。

管理会社は長期修繕工事の策定から大規模修繕工事の受注まで、すべて管理会社を通させるように営業活動しています。 管理会社が策定する長期修繕計画は、管理会社の売り上げ予定表になっています。

3.仲介者がいないことの利益

区分所有者や住民と理事会との間に仲介者として存在する管理会社がないので、居住者の問題に、より迅速な対応がとれます。 区分所有者や住民とのタイムリーで直接的な対話は管理組合運営の成功への鍵です。

4.DIY精神における充実感・達成感

管理会社は、理事会決定事項を含む組合管理のすべての面、収支、支出時期、年間予算案策定などを管理会社の支配下に置く傾向があります。 管理会社のバイアスがかかった状態=常にゲタをはいた状態・隔靴掻痒(かっかそうよう)になるのは仕方がありません。

自主管理では、理事会が管理のすべての面に対して完全な(法律、契約、慣習上の)権原及び権限を持っています。 そして、理事会に実行すべき具体的な目標がある場合、その実施に向けての可能性が高まります。
成功したときの充実感・達成感は何物にも代えがたいものがあります。

「最良を望むなら、自分でやれ」( If you want to do something done well, you shuld do it yourself. )というのは世界共通の古い格言(old adage)です。

DIY(ディー・アイ・ワイ)は、専門業者に任せずに自らの手で生活空間をより快適に工事しようとする概念のことで、「DIY精神」(DIY ethic)のDIYはDo It Yourselfの略語で、「自分でやろう」の意、
1945年、戦後のロンドンで破壊された街を自分達の手で復興させる国民運動としてイギリスで始まり、スローガンとして「D.I.Y.」=「Do it yourself」がうまれた。 中国語でも「発揮極致DIY精神!」で通じる。

(注)この格言を皮肉った言い方もあります。
「自分よりうまくやれる者がいるなら、そいつにやらせろ、 自分以外の人間に頼むことができて、しかも彼らの方がうまくやってくれるとしたら自分でやる必要はない」
ベルトコンベヤーで車を大量生産したヘンリーフォードの言葉です。後にチャップリンが映画「モダンタイムス」で、 ひたすらねじをまわし続ける工員を演じて皮肉った。

上品な言い方もあります。
「あなたにできることは、必ずしもあなたがすべき事ではありません。あなたにしかできないことに自分の時間と労力を使うべきです。」
これって、自主管理をしている管理組合に対する管理会社のキャッチコピーに最適ですね。
「自主管理」を敵視して「あれは金のない連中がやる自力管理だ」などと言うより、ずっとスマートだと思いますが。

2.自主管理の短所

1.拘束される理事の時間

自主管理は時間的なリスクを伴います。理事長は住民からフルタイムの仕事であることを期待されています。日常的な問題を処理し、日中の業者との打ち合わせがある上に、理事会の少なくとも一人のメンバーは、緊急事態に対処するために、常に連絡を取れる状態にしておく必要があります。 朝方午前2時の水漏れを扱うと、大抵の理事は神経をすり減らし急速に燃え尽きてしまいます。

2.理事の交代で失われる知識と経験

理事会メンバーが全員任期1年で交代する場合、新しい理事会メンバーがうまく連携して動かない場合、ベテラン理事が抜けたあとの一貫したリーダーシップの欠如などは、理事会の健全性と機能にとって非常に有害である可能性があります。 経験のある理事が業務を円滑にこなしている間に新しい理事会メンバーにアドバイスやガイダンスを提供することができるように理事の任期を2年とし、一斉に交代するのではなく、理事の半数ごとに交代する方法は新しい理事会メンバーへのトレーニングプロセスを確立することになります。

3.経験不足

不動産管理の経験の不足がトラブルになることがあります。 マンションの管理は、会計や法律上の問題についての理解だけでなく、造園の知識、ビルメンテナンス、官公庁への届出書類、浄化槽やエレベーターなどの設備のための管理知識なども必要になります。 国や自治体の定めに従わなければ罰則を受ける場合もあります。

理事会メンバーには、これらのさまざまな事柄についての学習が必要ですが、プロの会計士・税理士や経験豊富なマンションの管理に詳しい弁護士の支援が日常的に得られるような仕組みやネットワークを構築しておくと 自主管理組合の運営は精神的にもずーっと楽になります。自主管理組合の理事さんたちが燃え尽き症候群にならないためにも考慮すべきです。 (但し、本当に信頼のおけるプロ(会計士・税理士・弁護士)なのかの選定は慎重に。いいかげんなのたくさんいますから。)

 

3.長所と短所

専門業者とのつながり

理事会メンバーに専門業者とのつながりがないことを自主管理の短所として挙げる例はたびたび見られます。
このことはしばしば論争を引き起こします。管理会社は建築・塗装・外構工事・水道工事・電気通信工事業者などの外注業者リストを持っています。 理事会メンバーはそれらの業者を探すことから始めるのが普通です。

しかし、業者とのつながりがないことは自主管理の短所ではなく逆に長所であるともいえます。

管理会社は多くの業者ごとの価格や品質、業務を請け負わせた場合の管理会社のリスクなどの情報についても把握しています。 彼らは適正な価格と品質を確保して重要なビジネスを失うリスクを防止する代替手段を準備しています。 企業の機能として当然です。 但し、それが、そのまま管理組合の利益につながる保証はありません。

1.2で述べた如く、利益相反回避措置が担保されていない日本の場合、 多数のマンションを扱っているという理由で大手の管理会社は集約のメリットをPRしています。
そのために、管理会社の言いなりになる閉鎖的なグループ系列・下請け企業群を構成していますが、 これらの企業系列は優越的な元請と支配される下請との間での貸し借りの関係で出来上がっています。 そのツケは最終的に競争原理の働かない価格及び保証内容で管理組合に降りかかってきます。
管理会社のいいようにコントロールできる管理組合かどうかは管理会社が判断しています。

管理会社は労働集約産業といわれるように人件費商売ですから委託管理費の収入だけでは限界があります。
そのため、工事を受注してマージンをとって利益を増やそうとしますから、工事費は割高となります。
管理組合が個別に専門業者と直接契約を結ぶことで、実際には約2割は費用を削減できます。

個別契約にするなら管理は引き受けられないと妨害する管理会社も少なくないことから、 平成15年10月24日付け公正取引委員会の調査報告書で高層住宅管理業協会と日本エレベーター協会に対して、 「管理組合が管理会社に管理委託契約の見直しを求めたり、専門業者と個別 契約を結ぼうとした際に 、管理会社が契約解除に応じなかったり、必要な会計資料の提出を拒否するなどして妨害するケースが増えている」として是正を求めています。

管理業者によるこのような行為は、管理組合が他の管理業者や設備保守業者と契約することを阻止するために行ったとして、 「不当な取引妨害」(一般指定第15項)として、独占禁止法違反事案となる場合があります。

平成15年10月24日付け公正取引委員会の調査報告書  (PDFダウンロード)
「マンションの管理・保守をめぐる競争の実態に関する調査について《公正かつ自由な取引の実現に向けて》

管理会社のいいなりにならず、管理組合が利益相反回避措置が担保されている公正な第三者に依頼して、 業者を公募して選定し、管理組合が専門工事会社や設備保守業者と直接契約を結ぶことは、いまや賢い管理組合の常識になっています。

この場合、委託管理なら管理会社との軋轢や攻防から始まりますが、自主管理の場合でしたら、 自らの裁量権で競争入札の上、専門工事会社や設備保守業者と直接契約することには何の障害もありません。