滞納対策の実務 目次 > 【前頁】 6. 小額訴訟の実務 > 7. 競売になったとき > 【次頁】 8. 内容証明の書き方

破産と競売

 区分所有者が破産した場合は、破産宣告前に生じた滞納管理費等債権と、宣告後に生ずる滞納管理費等債権とでは、破産法上、区別され取扱いが異なります。

1. 破産宣告前に生じた滞納管理費等債権

破産手続きに従い、区分所有法第7条の先取特権の規定により、優先弁済を受けるべき債権(先取特権)を適用するのか、破産法第39条の優先権ある破産債権として優先弁済を受けるのかは、解釈上、問題になります。

いずれにしても、破産管財人に対し、財団債権としてその全額を請求できることにはなりません。

2. 宣告後に生ずる滞納管理費等債権

破産法第47条第3号の「破産財団の管理に関する費用」に該当し、破産管財人に対し、その全額を請求することができます。

3. 破産者が出た場合の管理組合の手続き

1)破産管財人に対し、a)「区分所有者変更届」及び b)占有者に関する「使用者届出書」の提出を要求し、管理費等の支払義務者及び用法遵守義務者を確定し、滞納管理費等の債務者(いつから、いつまで、誰が、幾らを負担すべきか)の確定をします。

「区分所有者変更届」及び 占有者に関する「使用者届出書」は書式集(ダウンロード)の中にあります。

債権の整理をするのが管財人の任務ですが、整理がついたときは報告して下さいという意志表示と、占有者がいる場合は、その状況を報告してくださいということの二つの意味があります。

競売にかかったとき、裁判所は
(1)執行官を派遣して写真撮影して調査し現況報告書を作成し、
(2)不動産鑑定士に委託して評価鑑定書を作成し、最低落札価格を決定します。

競売で落札した買受人を特定承継人といいます。特定承継人は滞納額を支払う法的義務があります。
  現況報告書に管理費滞納の存在が明記されていること、最低落札価格の算定に際し、 その価格の決定には滞納額が織り込まれて算定されたものであることの二つの証拠があれば、管理組合は、特定承継人に、今迄の滞納金を支払えと請求できます。
競売後は注意して登記内容を監視し、買受人から管理組合に連絡がなくても、変更登記があれば登記されている新所有者(すなわち特定承継人)に対し、速やかにその請求時点までの全滞納額の請求を行い、支払がなければ、裁判を提起して滞納額を支払わせます。

先取特権(さきどりとっけん)とは、債権を有する者が、債務者の財産について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利をいいます。(民法第303条)
この先取特権は「登記された抵当権」(例えば、住宅ローンや、根抵当など)より優先順位が劣るため(これを劣後債権といいます)、競売落札価格より多額のローン残高がある場合には、 競売しても、管理組合は滞納金を回収できません。
この場合には、特定承継人から、滞納金を回収します。この手段の根拠となるのが区分所有法の7条と8条です。

(先取特権)
第七条  区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。
2  前項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、共益費用の先取特権とみなす。
3  民法 (明治二十九年法律第八十九号)第三百十九条 の規定は、第一項の先取特権に準用する。

(特定承継人の責任)
第八条  前条第一項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。

(注)特定承継人
  相続などで財産を引き継いだ人のように「権利と義務を一括して承継する」ことを包括承継、又は一般承継といいます。
これに対して、売買、交換、贈与、或は、競売物件を競落して所有権を取得した競落人(買受人)などにより、他人の権利義務を個別的に取得することを特定承継といい、取得した人を「特定承継人」といいます。
  合意による取決めは、その合意の当事者と包括承継人のみを拘束し、特定承継人を拘束しません。区分所有者の合意による規約と集会の決議については規約設定当事者及び集会決議当事者と包括承継人は拘束されますが、特定承継人を拘束しませんので、区分所有法8条で、特定承継人に対しても、その効力を受けるものと規定しています。

4. 競売の現実

都市の市街地にある環境のよいマンションの競売には、必ず、ハゲタカ(プロの競売屋)が入札に参加しています。安い価格で落とせるからで、その目的は転売して売買益を上げることにあります。
このような業者は、滞納額を支払いません。督促すると言いがかりをつけてくる、或は、管理組合の督促を無視したり、のらりくらりと言を左右にして組合の出方を見て、時間稼ぎをしながら、次の転売先を探します。
管理組合はこのような相手の属性を見きわめた上で、早めに訴訟に持っていかないと、その間に転売されて、次の承継人と併せてどちらかが払うまで、両方に督促を続けなければなりません。時間がたつと問題がこじれて、面倒なだけです。

債権者が抵当権の実行(競売)を裁判所に申請し、裁判所から調査がはいったときや、管理会社に滞納額の問い合わせがあったときには速やかに上申書を提出しなければなりません。「上申書」は書式集(ダウンロード)の中にあります。

あわせて、競売落札者又は任意売買の買請人が特定承継人としての義務を無視し、滞納債権を支払わなかったときの対応として、法人でない管理組合であれば、訴訟当事者適格要件をそなえておくための準備(管理費等の額を決めた総会議事録、規約、代表者選任議事録等)も必要です。

ハゲタカ対策のウルトラC

競売後のこのような紛争と手間を避けるため、滞納住戸を59条の競売請求にかけて競売手続を行い、競売時には管理組合(法人)が自ら落札して競売住戸を管理組合の共有財産とし、滞納額を清算する会計処理を行った後、その住戸を一般の不動産市場で売却し、 滞納債権の整理と管理費徴収の正常化を図る例も実際に行われています。

競売については、「15.管理費滞納対策の国別比較」にも、詳しい解説があります。