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弁護士費用を請求できるか

概説 〜弁護士費用の請求は認められるか〜

 1) 債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟
滞納している管理費等を払えという訴訟は「債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟」に含まれます。
わが国では弁護士強制主義が採用されていないので、弁護士に対する訴訟委任は当事者の自由な選択に任せられており、 弁護士に依頼した費用も請求できるとすることは、当事者間の公平を損なうため、 弁護士費用は被告に請求できないとする「当事者各自負担の原則」が採用されています。 (民事訴訟法155条などによって裁判所から選任を命じられた場合のほかは民訴法61条に定める訴訟費用には弁護士費用は含まれない。)

金銭債務の不履行についての最高裁判例(昭和45(オ)851 手形金等請求 昭和48年10月11日最高裁第一小法廷判決 「金銭債務の不履行による損害賠償と弁護士費用」債権者は、金銭を目的とする債務の不履行による損害賠償として、 債務者に対し弁護士費用その他の取立費用を請求できない。参照条文:民法419条 )

対等な当事者間における、自立した市民としての「権利のための闘争」の「武器は自弁する」という原則であるとも言われています。

このような手続法上の原則をふまえつつ、他方で実体法上の損害賠償の問題として、 高度の専門性を必要とする医療過誤や人身交通事故などの損害賠償請求訴訟では、 原告本人では訴訟自体がきわめて困難であり、「対等」な関係にあるともいえず、被害者救済の意味もあって、 弁護士費用を損害賠償金額の中に含める形で被告への請求を認めてきました。 また、金銭債務以外の一般債務の不履行についても、安全配慮義務違反訴訟で弁護士費用を賠償すべき損害として肯定する最高裁判例も現れました。(最判平24.2.24 判時2144号89頁)

また、不当提訴行為、或いは不法応訴行為の場合は弁護士費用の賠償を認めてきました。
不当提訴行為というのは、提訴者の主張した権利が根拠を欠くものであることにつき提訴者が悪意・重過失である場合など、 訴え提起が裁判制度の趣旨・目的に照らして不当とされる行為、
不法応訴行為というのは、応訴後に被告が虚偽の陳述・証拠の提出をする場合、 或いは訴訟を遅延させるために上訴する場合などの不法行為のことです。

 2) 不法行為にもとづく損害賠償請求
不法行為にもとづく損害賠償請求とは、違法行為により損害を被らされた場合に、 相手方に賠償を求める請求のことで、自ら違法性のある行為をして他人に損害を与えておいて、 被害者にその権利実現のための弁護士費用を全部負担させるのは衡平ではないという考え方から、 この場合は相手方に対して弁護士費用の一部の請求が出来ることがあります。 但しこれも、裁判をして判決を出してもらった場合に限られます。 示談や調停、和解での解決の場合には弁護士費用の請求は出来ません。

 3) 違約金としての弁護士費用の請求

違約金というのは債務の履行を心理的に強制することを目的とした違約罰としての制裁金であり、 損害が発生しない場合にも適用されます。

消費者契約法2条1〜3項では、『事業者と消費者の間の契約』を『消費者契約』と呼び, 契約に違反した場合の違約金については、消費者契約法で認められています。(但し年14.6%を超えた部分は無効)

しかしながら管理組合の場合は、マンション管理規約は『消費者契約』には該当しません。 マンション管理規約は対等当事者間の自治という性格上、消費者契約から除外することとされています。

この違約金と言う用語は国土交通省の標準管理規約に出てきます。

債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟では弁護士費用は被告に請求できないとする最高裁判例(昭和45(オ)851) の制約を回避して違約金(違約罰)を課す趣旨ですが、 本頁判例2の東京地裁判例では「同規約に定める違約金としての弁護士費用は確定金額ではない」として、 請求額の半分を認容しました。

このことから、控訴審本頁判例3の東京高裁判例では、 「管理規約の文言の「違約金としての弁護士費用」「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましい」と指摘しています。

国土交通省 標準管理規約 最終改正 平成28年3月14日国土動指第89号、国住マ第60号

(管理費等の徴収)
第60条 管理組合は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料について、 組合員が各自開設する預金口座から自動振替の方法により第62条に定める口座に受け入れることとし、 当月分は前月の○日までに一括して徴収する。 ただし、臨時に要する費用として特別に徴収する場合には、別に定めるところによる。

2 組合員が前項の期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、 その未払金額について、年利○%の遅延損害金と、 違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、 その組合員に対して請求することができる。

3 理事長は、未納の管理費等及び使用料の請求に関して、理事会の決議に より、管理組合を代表して、訴訟その他法的措置を追行することができる。

4 第2項に基づき請求した遅延損害金、弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用に相当する収納金は、 第27条に定める費用に充当する。

5 組合員は、納付した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。

 

4) 管理組合の滞納金訴訟の判例

 マンションにおける管理費等の滞納は、特段の事情がない限り、通常は不法行為とまではいえません。 では実際の裁判ではどのような判断をしているのでしょうか。

判例1 マンション管理規約は対等当事者間の自治によって合意したものであり、その合意に基づいて その弁護士費用を未納者に請求する規約規定は有効である。(東京簡裁平成19(ハ)28255・平成20年03月25日判決)

判例2 同規約に定める違約金としての弁護士費用は確定金額ではないことからすると、 実額ではなく、当該事案につき、その請求等に要する相当額ということになり、これは裁判所によって認定されるべきものとなると解釈し、 弁護士費用102万余の原告請求に対して半額の50万円とするのが相当として認容した。 (東京地裁 平18(レ)16961号 管理費等請求事件 平成19年7月31日判決)

滞納者側はこれを不服として控訴し、管理組合は訴訟中にさらに増大した未払い管理費用やその遅延損害金等を加えて付帯控訴し、 上記弁護士費用についても全額の請求を求めたのが次の控訴審の本頁判例3です。

判例3 金銭債務の不履行についての最高裁判例(昭和45(オ)851)を意識しつつ、 規約自治の原理に基づく管理規約の定めを前提に、本件規約の「違約金」を違約罰(制裁金)とする趣旨と 解した上で、民法419条の制約を回避した構成をとり、弁護士費用全額の請求を認容した。 (東京高裁 平25(ネ)6530号・平26(ネ)432号 管理費等請求控訴・同付帯控訴事件 平成26年4月16日判決)

本判決は上告受理申立てがなされているので、最高裁の対応に注意する必要があります。

判例1の争点 東京簡裁平成19(ハ)28255・平成20年03月25日判決

争点: 原告は被告に対し、原告の弁護士費用を請求できるか

(原告の主張の要旨)
  原告の管理規約には違約金として弁護士費用を請求できると定められている。また国土交通省標準管理規約等においても同様の規定がある。 これらの規定は、建物の区分所有等に関する法律 (以下 「区分所有法」 という。)30条1項に定める「建物の管理に関する事項」であり、 被告は本件以前にも管理費等の未払いを繰り返してきたのであるから、訴訟提起のために要した弁護士費用を負担させることは何ら不合理ではない。

(被告の主張の要旨)
  我が国において敗訴者が弁護士費用を含めた訴訟費用を負担するという制度を取っておらず、法改正等で議論されているところである。 従って、管理規約に弁護士費用を請求できる旨の記載があるとしても、その規定自体が違法なものであって、被告が負担すべきものではない。
また、簡易裁判所の事案であり、原告は本人として訴訟をすることができるのであるから、本件請求は棄却されるべきである。

(裁判所の判断)
  争点について
  (1) 証拠によれば、原告の管理規約62条2項には、管理組合は、区分所有者等が管理費等を納付しない場合には、未払管理費等に加えて、年14.6パーセント以内の約定の遅延損害金及び違約金としての弁護士費用を請求することができると記載されていることが認められる。

  (2) 敗訴者に相手方の弁護士費用を負担させるかどうかについては、法制度上議論のあるところであり、今だ敗訴者に相手方の弁護士費用を負担させる旨の法律が制定されていないことは、公知の事実である。しかし、現行法制上においても、敗訴者に相手方の弁護士費用を負担させる旨の合意等(本件規約を含む)を定めることは、一律に違法とまではいうべきではなく、 既存の法律の趣旨、条項に違反しない限りは、その効力を認めるべきである。

ところで、管理費等の未納者に対し、規約において違約金を定めることは、原告のようなマンション管理組合が区分所有であるマンションを管理運営する上で必要な事項であり、区分所有法30条1項に定める「建物の管理に関する事項」に該当するというべきである。

そして、規約において、弁護士費用相当額を違約金として規定することについては、管理費等の未納者に対しその支払いを求める場合において、事案に応じて、その手続を弁護士に依頼する場合が想定され、弁護士に依頼をすれば相応の弁護士費用がかかることになり、その費用を違約金として規約に定めること自体は合理性があり、区分所有法の趣旨に反するものではないというべきである。

また、本件では、被告は本件以前にも管理費等の未払いがあり、本件訴訟提起後においても管理費等の未払いの状態が一定期間続いていたこと、違約金として弁護士費用相当額が2万6250円であること等を考慮すると、弁護士に対して簡易裁判所へ本件の訴えを提起することを依頼したことについて不合理であるとの点は認められない。
(3) よって、原告の主張は理由がある。その他、原告の請求を妨げるに足りる証拠もない。よって、原告の請求は理由があるので認容し、主文のとおり判決する。

判例3の争点 東京高裁 平成26年4月16日判決 (判例2の控訴審)

争点: 「違約金としての弁護士費用」について

(被控訴人の主張の要旨)
  本件管理規約36条3項(平成24年8月26日第7回定時総会の特別多数決議による改定後のもの、以下、同じ。)は、 区分所有者が、管理費及び修繕積立金、専用使用部分の使用料、駐車場等の使用料その他本件管理規約に基づき被控訴人に支払うべき費用を、 所定の支払期日までに支払わないときは、被控訴人は、当該区分所有者に対し、年18%(年365日の日割計算)の割合による遅延損害金及び「違約金としての弁護士費用」を加算して請求することができる旨定める (「違約金」とは、債務不履行による損害賠償とは別途請求できる制裁金としての性格を有する。)。

その趣旨は、区分所有者に管理費等の滞納がある場合において、被控訴人が弁護士に法的手続を依頼することが必要になったときは、 その費用を他の区分所有者に負担させるのではなく、当該区分所有者に負担させることを予め定めておくことにより、 迅速かつ公正な問題解決を図るものである。

この趣旨からすれば、被控訴人が委任契約に基づき弁護士に対し支払義務を負う一切の費用を当該区分所有者に負担させるものと解するのが相当であって、 弁護士費用の額が著しく合理性を欠くなど特段の事情がない限り、当該区分所有者がその全額の支払義務を負うものというべきである。

 そして、被控訴人が控訴人に請求する弁護士費用は、東京弁護士会の旧報酬基準に準拠した報酬基準に基づいて算出したものであり、 控訴人の平成25年1月30日時点での未払管理費等及びこれに対する遅延損害金の合計額473万6937円を経済的利益として、 着手金32万6846円、報酬金65万3693円(合計98万0539円)を算出し、これに消費税を加算したものであって(102万9565円)、 控訴人がその後も管理費等の滞納を続け、控訴しているため、被控訴人において、さらなる対応を余儀なくされているのであって、 上記弁護士費用の額が著しく合理性を欠くものとはいえない。

(控訴人の主張の要旨)
  本件管理規約36条3項の「違約金としての弁護士費用」は、抽象的表現であり、 「管理組合(被控訴人)が負担した一切の弁護士費用」と規定されていないから、 未払管理費等について訴訟が提起された場合には、当該区分所有者において、 裁判所が相当と認定した金額を支払う義務を負うことを規定したものというべきである。 被控訴人の主張は、違反者に過度の負担を強いるものであって、不合理である。 控訴人の未払管理費等が459万5360円であることに照らせば、その弁護士費用は50万円が相当である。

(裁判所の判断)
  1 当裁判所は、控訴人に対し、785万6229円及びうち511万9510円に対する平成26年2月1日から支払済みまで年18%の、 うち102万9565円に対する平成25年2月28日から支払済みまで年5%の各割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の請求は、 理由があるものと判断する。

 その理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」1項ないし4項に記載のとおりであるから、これを引用する。

2 違約金としての弁護士費用について
 国土交通省の作成にかかるマンション標準管理規約は、管理費等の徴収について、 組合員が期日までに納付すべき金額を納付しない場合に、管理組合が、未払金額について、「違約金としての弁護士費用」を加算して、 その組合員に請求することができると定めているところ、本件管理規約もこれに依拠するものである。

 そして、違約金とは、一般に契約を締結する場合において、契約に違反したときに、債務者が一定の金員を債権者に支払う旨を約束し、 それにより支払われるものである。

 債務不履行に基づく損害賠償請求をする際の弁護士費用については、その性質上、相手方に請求できないと解されるから、 管理組合が区分所有者に対し、滞納管理費等を訴訟上請求し、それが認められた場合であっても、管理組合にとって、 所要の弁護士費用や手続費用が持ち出しになってしまう事態が生じ得る。

 しかし、それは区分所有者は当然に負担すべき管理費等の支払義務を怠っているのに対し、管理組合は、その当然の義務の履行を求めているにすぎないことを考えると、衡平の観点からは問題である。 そこで、本件管理規約36条3項により、本件のような場合について、弁護士費用を違約金として請求することができるように定めているのである。

 このような定めは合理的なものであり、違約金の性格は違約罰(制裁金)と解するのが相当である。したがって、違約金としての弁護士費用は、上記の趣旨からして、管理組合が弁護士に支払義務を負う一切の費用と解される(その趣旨を一義的に明確にするためには、管理規約の文言も「違約金としての弁護士費用」を「管理組合が負担することになる一切の弁護士費用(違約金)」と定めるのが望ましいといえよう。)。

 これに対して、控訴人は、違反者に過度な負担を強いることになって不合理である旨主張するが、そのような事態は、自らの不払い等に起因するものであり、自ら回避することができるものであることを考えると、格別不合理なものとは解されない。

 以上の判断枠組みの下に、本件をみるに、被控訴人は、本件訴訟追行に当たって、訴訟代理人弁護士に対し、102万9565円の支払義務を負うが、その額が不合理であるとは解されない。  したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件管理規約36条3項に基づき、「違約金としての弁護士費用」102万9565円の支払義務がある。

 以上に加え、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、被控訴人に対し、平成22年9月分から平成26年1月分までの管理費等を支払っていないことが明らかであり、別紙「管理費等債権明細計算表」記載のとおり、@未払管理費等511万9510円、A上記511万9510円に対する平成26年1月31日までの確定遅延損害金170万7154円、B上記511万9510円に対する同年2月1日から支払済みまで本件管理規約所定の年18%の割合による遅延損害金、C弁護士費用102万9565円、D上記102万9565円に対する平成25年2月28日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払義務がある。

 結論
 以上によれば、被控訴人の請求は、理由があるから全部認容すべきである。  これと異なり、639万2259円の限度で一部認容し、その余を棄却した原判決は一部失当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴は理由があるからこれを認容すべきである。  よって、原判決主文1、2項を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

 集会決議が無効とされた例

総会は、管理組合という集団の意思決定手続きの最上位に位置しますが、 すべての意思決定を総会で決することができるわけではなく、議案によっては、 規約で定めるという方法によってのみすることができ、 集会の普通決議では決することができない事項があります。

「議案の最後のチェック」の頁の「集会決議が無効とされた例T」で説明している通り、 裁判では「集会決議によって弁護士費用の負担を課すことは許されない。」(東京高判平7.6.14 判タ895号139頁)とされています。   「議案の最後のチェック」

規約に定める要件に該当する場合には、すべての区分所有者が同様の義務を負うことになるのに対し、集会決議では滞納者の個性等に起因して、 恣意的(しいてき=その場の気分や雰囲気で)、偏頗的(へんぱてき=かたよって一方的な、平等を害するような)集会決議がされるおそれも否定できないなど、 区分所有者間の衡平の観点から特定事案に対する個別的な授権に関する集会決議の効力を限定したものです。

管理規約の中で管理費等の徴収に関する弁護士費用の請求に関する規定がないか、又は、 国土交通省の標準管理規約と同じく違約金としての弁護士費用の請求を規定している場合には、判例3で裁判所が指摘した用語の使い方も含めて この機会にぜひ見直してください。