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民法改正と管理組合の対応

○ 目次
  1. 制度改正の概要
  2. 配偶者居住権に対する管理組合の対応
  3. その他の相続法改正点
  4. 不動産登記法の改正
  5. 相続登記の義務化
  6. 相続土地国庫帰属制度
  7. 所有者不明建物管理制度

(注記) 本頁では物権法、相続法という言い方をしていますが、
      民法第二編(175条〜398条)を物権法、民法第五編(第882条以下)を相続法と呼んでいます。
      「物権」とは、物を直接的かつ排他的に支配する権利をいいます。(所有権、賃借権(専有権原)、居住権)
      本頁では民法改正全般の解説ではなく「区分所有者が死亡した場合に適用される範囲」に限定しています。

 

1.制度改正の概要 (平成30年民法改正と令和3年不動産登記法改正)

相続に関する制度改革の流れ

1.平成30年民法改正 〜民法の相続法分野が昭和55年以来約40年ぶりに大幅に改正
              平成30年7月13日公布、令和2年4月1日に全面施行

2.令和3年不動産登記法改正  〜相続登記義務化 令和6年4月1日施行予定

3.相続土地国庫帰属制度の創設 令和5年4月27日より施行

4.共有制度の見直し
  不明共有者がいる場合の問題⇒利用に関する共有者間の意思決定や持分の集約が困難
  (1) 裁判所の関与の下で、不明共有者等に対して公告等をした上で、残りの共有者の同意で、
     共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度を創設する。
  (2) 裁判所の関与の下で、不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭の供託により、
     不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する仕組みを創設する。
     ⇒ 不明共有者がいても、共有物の利用・処分を円滑に進めることが可能になる。

5.財産管理制度の見直し
  (1) 所有者不明土地・建物の管理制度の創設
    個々の所有者不明土地・建物の管理に特化した新たな財産管理制度を創設する。
    ※ 裁判所が管理命令を発令し、管理人を選任(裁判所の許可があれば売却も可)
    ⇒ 所有者不明土地・建物の管理を効率化・合理化する。
  (2) 管理不全土地・建物の管理制度の創設
    所有者が土地・建物を管理せずこれを放置していることで他人の権利が侵害される
    おそれがある場合に、管理人の選任を可能にする制度を創設する。
    ⇒ 管理不全化した土地・建物の適切な管理が可能となる。

1.平成30年民法改正の検討経緯

  平成25年(2013年)9月、嫡出でない子の相続分に関する最高裁違憲決定を受けて、
  同年12月、国会審議で配偶者の保護のための相続法制の見直しについて問題提起。
  平成26年1月〜27年1月にかけて法務省にて検討し27年2月法務大臣に諮問。
  平成28年7月〜9月末日 パブリックコメント(中間試案)、平成29年7月追加試案
  平成29年8月〜9月22日 パブリックコメント(追加試案)、平成30年2月16日法務大臣答申
  平成30年(2018年)7月6日 参議院本会議法案可決・成立、7月13日公布

改正民法の骨子
  第1 配偶者の居住権を保護(配偶者居住権新設・新民法1028条-1041条)
  第2 遺産分割等に関する見直し(持戻し免除の意思表示推定規定・新民法903条4項他) 
  第3 遺言制度に関する見直し(自筆証書遺言の方式緩和・新民法968条他・遺言書保管法 ) 
  第4 遺留分制度に関する見直し(金銭債務の支払に裁判所が期限を許与・新民法1042-1049条)
  第5 相続の効力等に関する見直し(登記をしなければ第三者に対抗することができない・新民法899条の2)
  第6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(特別の寄与を行った者の金銭請求・新民法1050条他)

  以上は法務省民事局 平成30年11月発行広報資料 「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律
  法務局における遺言書の保管等に関する法律」に詳しい解説があります。

2.令和3年不動産登記法改正の検討経緯

  所有者不明土地問題の対策として、
  令和3年(2021年)2月10日法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議にて民法・不動産登記法
   (所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定。
  令和3年(2021年)4月21日 民法・不動産登記法の改正が参議院本会議で成立
  同じく義務化された住所変更登記の施行日は公布後5年以内の政令で定める日とされており、現段階で未定。

改正不動産登記法の骨子
  (1) 相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の名義変更登記をすることを義務化。
    違反すると10万円以下の過料が科せられる。改正以前の相続登記をしていない不動産についても遡及適用。

  (2) この3年以内に遺産分割協議がまとまらない場合の「相続人申告登記」が新設され、「不動産の所有者につき、
    相続が開始したこと」「自らが相続人であること」を登記する制度が新設され、その後遺産分割が行われた場合、
    相続登記を申請する義務が再度発生し、遺産分割の日から3年以内に、相続登記を申請しなければならない。

  (3) 住所変更した場合も不動産登記が義務化 され、2年以内に正当な理由がなく手続 きをしなければ5万円以下
    の過料。ただし、住所変更登記の施行日は公布後5年以内の政令で定める日とされており、現段階で未定。

  (4) 所有者情報など連絡先の把握
    新たに不動産の所有権を取得する個人は、 名義変更登記時に生年月日等の情報の提供が義務化される。
    生年月日は登記簿には記録されないが、法務局内部において検索用データ として保管される。
    所有者が会社など法人であるときは、商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記簿に記録される。
    海外居住者は、その国内における連絡先 (第三者も含む)の申告が必要。その連絡先が登記簿に記録される。
    所有している不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))を本人又は相続人か ら法務局に対して
    交付を請求できる。

3.相続土地国庫帰属制度の創設

 「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(通称「相続土地国庫帰属法」)が成立し、
 相続または遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により土地を取得した者(共有の場合は共有者全員)は、
 所定の要件を満たし法務大臣(法務局)の承認を受けて、その土地を国庫に帰属させることができる制度が新設。
  (令和5年4月27日より施行)

 

1.配偶者居住権に対する管理組合の対応 (平成30年民法改正)

 (1) 配偶者居住権 (2020年4月1日施行)

 管理組合が扱う物権には、所有権と賃借権がありますが、相続法改正により新たに居住権が創設されました。

これに伴い、管理組合としても、区分所有者が死亡後、相続人が決まらない間の配偶者短期居住権(第1037条1)、及び、 配偶者居住権の登記(第1031条)が為された場合、 更に、新設された第1033条1(居住建物の修繕等)、第1038条1(配偶者による使用)についても対応を検討しておく必要があります。

 (2) 負担付き所有権

 負担付き所有権とは、使用と収益が被相続人の配偶者に限定され、所有者本人は住めない所有権のことです。
亡くなった被相続人の評価額2,000万円の自宅建物についての権利を「負担付きの所有権」と「配偶者居住権」に分け、 遺産分割で、配偶者が1,000万円評価の「配偶者居住権」を取得し、 配偶者以外の相続人(子)が「負担付きの所有権」(評価額1,000万円)を取得する制度が創設されました。

配偶者が自宅に住み続けることができる権利ですが、完全な所有権とは異なり、人に売ったり、 負担付き所有権の所有者の同意なしに自由に貸したりすることができない分、評価額を低く抑えることができます。

改正前では、配偶者が自宅に住み続けるために2000万円の建物をそっくり相続すると、 相続者間の遺産分割で生活資金となる他の預貯金等の相続額が少なくなってしまいます。 そこで、建物の権利を所有権と居住権に分割し、配偶者居住権を取得した場合は、その財産的価値相当額を相続したものとして扱います。


 (3) 管理費等の支払義務者は誰? 居室の改築や用途転用の申請者は誰?

第1034条 (居住建物の費用の負担)「 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。
       第583条第2項(買戻しの実行に伴う有益費の償還)の規定を準用する。」
第1032条1(配偶者による使用及び収益)「配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、
       居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。」
第1041条(使用貸借等の規定の準用) ・民法第597条第3項(借用物の返還時期)、第600条(損害賠償請求権),
       第616条の2(使用貸借の規定の準用)等

管理組合にとっては、下記の事項について法的に責任を持つ義務者は誰なのかが問題になります。、
@ 管理費・修繕積立金等の共益費の負担
A 専有部で実施する雑排水管の清掃や設備点検等の実施時の対応
B 専有部室内の改修工事等の管理組合への届出
C 組合の役員就任義務免除と引き換えに外部居住者の協力金負担制度のある組合における
  費用負担の適用の可否
D 居室の改築、または第1038条1の第2項の賃貸に転用する場合等の組合に対する申請

第1034条(居住建物の費用の負担)で必要費は配偶者が負担すると定めていますが、生活に必要な電気・水道光熱費・通信費は当然としても、 その中に管理費等の共益費が含まれるのかは法では明確にしていません。

第1032条1(配偶者による使用及び収益)の第3項、第4項、及び、第1041条(使用貸借等の規定の準用)などは、 民法の賃借規定を準用しているので、所有者と賃借人の関係として解釈する事もできます。
ただし、配偶者居住権は賃借ではなく無償で住む事ができる権利なので、 収益を目的とした第三者への一般賃借とは根本的に異なります。 上記Cの免除適用が成立する理由です。

一方で、配偶者居住権、負担つき所有権のそれぞれの評価額の配分比率による共有名義と解釈することも出来るわけで、 この場合は当事者同士の話し合いで代表者を定め、管理組合に届け出てもらうことになります。
(共有持分登記の存在を適用条件とするかどうかの問題は残ります。)

いずれにしても管理組合としての統一的な対応を決めておかなくてはなりません。


 (4) 配偶者居住権の創設の背景

 被相続人の配偶者が、相続の開始時点(所有者名義人が死亡した時点)において、 賃借ではなく無償で相続財産となる建物に住んでいた場合、最低6か月間の短期的な居住権を認め(配偶者短期居住権)、 また法の定める要件を充足すると、終身も含む長期間の居住権を認めることとしました(配偶者居住権)。

 配偶者居住権が出来た背景には、遺産相続をめぐる争いの末に、 「死亡した所有者と同居していた配偶者」が他の相続人から退去を迫られ、不当利得の返還請求等を受けるなどの事例がありました。

平成8年 最高裁「不当利得の返還請求事件」判例
 「特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、 遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、 引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、 被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、 被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、 右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。

 けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、 遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、 被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。」
(最高裁「不当利得の返還請求事件」平成8年12月17日民集50巻10号2778頁)

 本改正では、居住権を法定化することにとどまらず、さらに「特別受益の持戻し免除」も規定しています。
詳しくは本頁後段の 「その他の相続法改正点」 で解説しています。


 (5) 民法で追加となった配偶者居住権に関する条文

(配偶者居住権)
第1028条1

 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、 被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、 次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。 ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、 配偶者居住権は、消滅しない。

3 第903条第4項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

(審判による配偶者居住権の取得)
第1029条

 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、 配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、 居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき (前号に掲げる場合を除く。)。

(配偶者居住権の存続期間)
第1030条

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、 遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、 又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

(配偶者居住権の登記等)
第1031条

 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、 配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。

2 第605条の規定は配偶者居住権について、第605条の4の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

(配偶者による使用及び収益)
第1032条1

 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。 ただし、従前居住の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。

2 配偶者居住権は、譲渡することができない。

3 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、 又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができない。

4 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、 その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。

(居住建物の修繕等)
第1033条1

 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。

2 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、 居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。

3 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、 又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、 遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

(居住建物の費用の負担)
第1034条

 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。

2 第583条第2項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

(居住建物の返還等)
第1035条

 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。 ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、 居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。

2 第599条第1項及び第2項並びに第621条の規定は、 前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

(使用貸借及び賃貸借の規定の準用)
第1036条

 第597条第1項及び第3項、第600条、第613条並びに第616条の2の規定は、配偶者居住権について準用する。

(配偶者短期居住権)
第1037条1

 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、 次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、 その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。) に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、 その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。 ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、 又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りでない。

一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日

二 前号に掲げる場合以外の場合第3項の申入れの日から6箇月を経過する日

2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。

3 居住建物取得者は、第1項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。

(配偶者による使用)
第1038条1

 配偶者(配偶者短期居住権を有する配偶者に限る。以下この節において同じ。)は、 従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用をしなければならない。

2 配偶者は、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることができない。

3 配偶者が前2項の規定に違反したときは、居住建物取得者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者短期居住権を消滅させることができる。

(配偶者居住権の取得による配偶者短期居住権の消滅)
第1039条

 配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、配偶者短期居住権は、消滅する。

(居住建物の返還等)
第1040条1

 配偶者は、前条に規定する場合を除き、配偶者短期居住権が消滅したときは、 居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、 居住建物取得者は、配偶者短期居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。

2 第599条第1項及び第2項並びに第621条の規定は、 前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

(使用貸借等の規定の準用)
第1041条

 第597条第3項、第600条、第616条の2、第1032条第2項、第1033条及び第1034条の規定は、 配偶者短期居住権について準用する。

 

3.その他の相続法改正点

(1)自筆証書遺言の方式を緩和(2019年1月13日施行)

  自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンで可能に

  (自筆証書遺言)
  第968条第二項中「自筆証書」の下に「(前項の目録を含む。)」を加え、同項を同条第三項とし、
  同条第一項の次に次の一項を加える。
   2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第一項に
  規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、
  その目録については、自書することを要しない。
  この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合に
  あっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

(2)遺産分割前の預貯金制度の見直し(2019年7月1日施行)

  相続発生により預金口座が凍結され、葬儀費用や介護費用の支払いが出来なくなるケースに対して、
  遺産分割協議の成立前でも家庭裁判所の関与なく、一定額の預金引き出しが可能になった。

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
  第909条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に
  第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の
  必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省
  令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。
  この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の
  分割によりこれを取得したものとみなす。

(3)法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度(2020年7月10日施行)

  法務局で自筆証書による遺言書が保管可能に

(4)特別受益の持戻し計算

  特別受益とは、相続人が被相続人から生前に住宅等の生前贈与など、被相続人から特別な利益を
  受けていることを言います。
  特別受益を受けている相続人と、法定相続分に従って遺産を承継する相続人の間での不公平を是正
  するために、相続法では、相続分の計算をするうえで生前贈与や遺贈を「特別受益」とし、遺産にその
  特別受益の額を反映したうえで、各相続分を計算することができると規定されています。
  このような計算を「特別受益の持戻し計算」といいます

(5)持戻し免除の意思表示(2019年7月1日施行)

  持戻し免除の意思表示とは、被相続人から遺言等で「特別受益の持戻し計算はしなくていい」との意思
  表示があれば、遺産分割時に持戻し計算をする必要がなくなるという規定です。

  (特別受益者の相続分)
  第903条第4項(新設)
  「婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物
   又はその敷地について遺贈又は 贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について
   第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。」

(6)特別の寄与の制度の新設(2019年7月1日施行)

  介護など特別な寄与をした者は、相続人に対する相応の金銭請求が可能になりました。

第九章 特別の寄与
   第1050条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の
   維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条
   の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以 下この条において「特別寄与者」という。)
   は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において
   「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
    2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、
    又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求する
    ことができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、
    又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
    3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の
    事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
    4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した
    残額を超えることができない。
    5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により
   算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

 

4.不動産登記法の改正 (令和3年民法改正)

 (1) 相続登記義務化の背景

「所有者不明土地」の定義
 @ 不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
 A 所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地

背景
○ 相続登記の申請は義務ではなく、申請しなくても不利益を被ることは少ない
○ 都市部への人口移動や人口減少・高齢化の進展等により、地方を中心に、土地の所有意識が希薄化
  ・土地を利用したいというニーズも低下
○ 相続発生後は、遺産分割がなければ全ての相続人が法定相続分の割合で不動産を取得(共有)した
  状態となる。現行法の下でも、この共有状態をそのまま登記に反映する方法(法定相続分での相続登
  記)があるが、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が必要であるため、被相続人の出生
  から死亡に至るまでの戸除籍謄本等の書類の収集が必要であった。
  遺産分割をしないまま相続が繰り返されると、土地共有者がねずみ算式に増加する

問題点
○ 所有者の探索に多大な時間と費用が必要(戸籍・住民票の収集、現地訪問等の負担が大きい)
○ 所有者の所在等が不明な場合には、土地が管理されず放置されることが多い
○ 共有者が多数の場合や一部所在不明の場合、土地の管理・利用のために必要な合意形成が困難

【相続が発生してもそれに伴って相続登記がされない原因】
@ 相続登記の申請が義務とされておらず、かつ、その申請をしなくても相続人が不利益を被ることが少ない
A 相続をした土地の価値が乏しく、売却も困難である場合には、費用や手間を掛けてまで登記の申請をする
 インセンティブが働きにくい ⇒  公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まず、民間取引が阻害されるなど、
 土地の利活用を阻害している。

 (2) 不動産登記法の改正条文 (令和6年(2024年)4月1日施行予定)

(相続等による所有権の移転の登記の申請)
第七十六条の二
 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、
自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の
移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。

2 前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。
 次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、当該遺産の分割によって当該相続分を超えて
 所有権を取得した者は、当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

3 前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、
 適用しない。

(相続人である旨の申出等)
第七十六条の三
 前条第一項の規定により所有権の移転の登記を申請する義務を負う者は、法務省令で定める
 ところにより、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人
 の相続人である旨を申し出ることができる。

2 前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該
 申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。

3 登記官は、第一項の規定による申出があったときは、職権で、その旨並びに当該申出をした者の氏名及び住所
 その他法務省令で定める事項を所有権の登記に付記することができる。

4 第一項の規定による申出をした者は、その後の遺産の分割によって所有権を取得したとき(前条第一項前段の
 規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く。)は、当該遺産の分割の日から
 三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。

5 前項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、同項の規定による登記がされた場合には、適用しない。

6 第一項の規定による申出の手続及び第三項の規定による登記に関し必要な事項は、法務省令で定める。

法改正以前から住所等の変更登記をしていない不動産についての遡及適用
民法等の一部を改正する法律 
附則 第5条 7 第二条の規定(附則第一条第三号に掲 げる改正規定に限る。)による改正後の不動産登記法
(以下この項において「第三号 新不動産登記法」という。)第七十六条の五の規定は、同号に掲げる規定の施行の
日 (以下「第三号施行日」という。)前に所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があった
場合についても、適用する。この場合において、第三号 新不動産登記法第七十六条の五中「所有権 の登記名義
人の」とあるのは「民法等の一 部を改正する法律(令和三年法律第   号)附則第一条第三号に掲げる規定の
施行 の日(以下この条において「第三号施行 日」という。)前に所有権の登記名義人と なった者の」と、「あった日」
とあるのは 「あった日又は第三号施行日のいずれか遅い日」とする。

※ 改正法附則の条文では「”変更のあった日”又は”施行日”のいずれか遅い日」と規定されており、法改正以前から
  住所等の変更をしていない場合には施行日から2年以内に行う住所等の変更登記をする必要があります。

 

5.相続登記の義務化 令和3年民法改正

相続が行われていない住戸では、管理費等の滞納が発生するほか、専有部分内で実施する雑排水管の清掃や設備点検 等が適切に実施できなくなる

相続が行われていない住戸の増加、あるいは相続が行われていない状態の長期化により、総会決議が不安定となるほか、 管理費等の未収金に係る時効(5年)の到来により管理組合会計に負担が生じる恐れ

区分所有者の高齢化・単身化の進行に伴う管理会社に求められる対応

管理会社は管理委託契約の範囲内で、入居者名簿の確認・親族への連絡、管理費等の督促業務を行うが、 未収金回収のための法的措置や孤独死発生後の対応など、管理組合から実務的な支援を求められる場面が増加


 

6.相続土地国庫帰属制度 令和3年民法改正

背景
@ 土地利用ニーズの低下等により、土地を相続したものの、土地を手放したいと考える者が増加している。(※1)
A 相続を契機として、土地を望まず取得した所有者の負担感が増しており、管理の不全化を招いている。
(※1)
(1)土地問題に関する国民の意識調査(出典:平成30年度版土地白書)
   土地所有に対する負担感負担を感じたことがある又は感じると思う  約42%
(2)令和2年法務省調査土地を所有する世帯のうち、土地を国庫に帰属させる制度の利用を希望する世帯
   約20%

制度の概要
○ 所有者不明土地の発生を抑制するため、 相続又は遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度を創設。

○ 管理コストの国への転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、一定の要件(詳細は政省令で 規定)を設定し、法務大臣が要件審査をする(新法2V、5T)。

○ 要件審査を経て法務大臣の承認を受けた者は、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費 相当額の負担金(地目、面積、周辺環境等の実情に応じて対応すべく、詳細は政令で規定)を納付する(新法10T)。 (参考)現状の国有地の標準的な管理費用(10年分)は、粗放的な管理で足りる原野約20万円、市街地の宅地(200u)約80万円

○ 国庫に帰属した土地は、普通財産として、国が管理・処分する。
・主に農用地として利用されている土地・主に森林として利用されている土地⇒農林水産大臣が管理・処分(新法12T)
・それ以外の土地 ⇒財務大臣が管理・処分(国有財産法6)

手続き:申請権者が申請手数料を納付して申請する。⇒法務大臣(法務局)が要件審査・承認 
・法務局に実地調査権限を持たせる・国有財産の管理担当部局等に調査への協力を求めることができる
・運用において、国や地方公共団体に対して、承認申請があった旨を情報提供し、
 土地の寄附受けや地域での有効活用の機会を確保

(土地の要件)
土地の管理コストの国への不当な転嫁やモラルハザードの発生を防止する必要がある。
そのため、「通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地」に該当しないこと
を国庫帰属の要件として求め、法令で具体的に類型化している。

却下要件
承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない(新法2V)
下記のいずれかに該当する場合には、法務大臣は、承認申請を却下しなければならない(新法4TA)
1 建物の存する土地
2 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
3 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
4 土壌汚染対策法上の特定有害物質により汚染されている土地
5 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

不承認要件(費用・労力の過分性について個別の判断を要するもの)
法務大臣は、承認申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権
の国庫への帰属についての承認をしなければならない(新法5T)。
1 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、
 その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
2 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
3 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
4 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として
 政令で定めるもの
5 上記のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
これらのいずれかに該当する場合には、法務大臣は、不承認処分をする(新法5T)。
※ 却下、不承認処分のいずれについても、行政不服審査・行政事件訴訟で不服申立てが可能

 

7.所有者不明建物管理制度 改正民法第264条の8

改正民法において所有者不明建物管理制度(改正民法第264条の8)が創設されましたが、
区分所有建物に関しては建物の管理に関する特別のルールがあるため、区分所有法制における
区分所有者不明状態への対応の観点から別途検討が必要であるとして、改正民法の規定は区分
所有建物については適用しないこととなりました。
                  (令和3年法律第24号による改正後の区分所有法第6条第4項)。

現行法においては、所有者不明状態となっている専有部分を管理するための法律には、
(1) 不在者財産管理制度(民法第25条第1項)
(2) 相続財産管理(清算)制度(改正民法第952条第1項)、
(3) 清算会社・法人の清算人制度(会社法〔平成17年法律第86号〕第478条第2項、
(4) 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律〔平成18年法律第48号〕第209条第2項等)
があり、これらの財産管理制度により選任された管理人は、専有部分の保存・利用・改良行為等を行う
ほか、裁判所の許可を受けて区分所有権の処分を行うことも可能ですが、問題となっている専有部分
だけでなく、所在等不明区分所有者の財産全般を管理する必要があるため、成年後見人制度のように
所有者不明専有部管理人を裁判所が選任する方向で区分所有法制審議会での検討が予定されています。

(2022年6月18日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 18 Jun 2022/ Revised Publication -time to time)