フランチェスコ ヴィリ 対 保険会社 [控訴審判決](Neutral Citation: 1998 ONICDRG 30)
裁判の経緯
(1) ヴィリ氏は、1993年11月26日(当時44歳)、自動車事故で負傷し、オンタリオ州保険委員会に
訴えを起こし、自動車事故による、うつ病と不眠症の病歴(history of depression and insomnia)
を明らかにしていた。その後、保険会社から毎週の保険給付を受け取っていたが、1995年1月
22日にその給付が終了した。
(2) ヴィリ氏は、その後、訴えを起こし、1996年7月3日にオンタリオ州保険委員会が下した
自動車事故保険金の仲裁裁定
( Villi v Co-operators General Insurance Company 1996 ONICDRG 115 (CanLII) )
を不服とし、ヴィリ氏が控訴(Appeal)していたが、判決は1998年2月26日控訴棄却となった。
(Villi v Co-operators General Insurance Company Neutral Citation: 1998 ONICDRG 30 (CanLII) )
本頁は、この1998年2月26日控訴審の判決です。
控訴審判決(APPEAL ORDER Neutral Citation: 1998 ONICDRG 30) 目次
○ 事件概要
○ 控訴審判決 (APPEAL ORDER)
○ 判決理由 (REASONS FOR DECISION)
T 控訴請求内容 (NATURE OF THE APPEAL)
U 背景 (BACKGROUND)
V 分析 (ANALYSIS)
W 経費 (EXPENSES)
控訴審判決 Neutral Citation: 1998 ONICDRG 30 Appeal P96-00067
Neutral Citation: 1998 ONICDRG 30
Appeal P96-00067
OFFICE OF THE DIRECTOR OF ARBITRATIONS
Francesco Villi. Appellant
and
CO-OPERATORS GENERAL INSURANCE COMPANY
Respondent
BEFORE: Frederika M. Rotter, Director’s Delegate
COUNSEL: Francesco Villi, representing himself
Stephen M. Malach (for the Respondent)
DATE: February 26, 1998
裁判所: OFFICE OF THE DIRECTOR OF ARBITRATIONS (仲裁裁判所)
事件名: フランチェスコ ヴィリ 対 コ・オペレーターズ・ジェネラル保険会社
原告: フランチェスコ・ヴィリ (本人弁護)
被告: コ・オペレーターズ・ジェネラル保険会社
裁判長: フレデリカ. M. ロッター
被告代理人 弁護士ステファン.M.マラシュ
決定日付 1998年2月26日
控訴審判決 (APPEAL ORDER)
保険法第283条R.S.O. 1990, c.I.8に基づき、下記を命ずる。
1. 本件控訴は棄却する。仲裁廷の1996年7月3日付けの命令は確定とする。
2. 控訴に係る費用はこれを課さない。
日付: 1998年2月26日 (February 26, 1998)
裁判長 : フレデリカ.M.ロッター (Frederika M. Rotter / Director’s Delegate)
決定理由 (REASONS FOR DECISION)
T 控訴請求内容 (NATURE OF THE APPEAL)
本件は、フランチェスコ・ヴィリによる仲裁廷定決定に対する異議申立てである。
1996年7月3日付けの決定は、1994年1月1日以前の事故について、法定事故
給付附則12(1)項に基づき、彼に追加の週給付を拒否した。
U 背景 (BACKGROUND)
ヴィリ氏は、1993年11月26日の同じ日に2つの自動車事故で負傷した。
事故当時、彼は44歳であった。 彼はコ・オペレーターズジェネラル保険会社(以下
「保険会社」と略記)に対し、毎週の保険給付を申請し、それを受け取っていたが、
1995年1月22日にその給付が終了したとき、彼は首と背中に事故の後遺症が
残っており、彼のもとの職業であるレンガ職人と建築業の職業に戻ることはでき
ないとして、保険会社の給付終了に異議を申立てた。
仲裁審理は1995年10月と1996年1月に行われた。当初は、継続的な受給権と
給付額の両方が問題となり、保険会社は過払い金を請求した。
金額の問題については当事者の間に和解が成立したが、ヴィリ氏の継続的な
福利厚生を受ける権利については仲裁人に決定を依頼した 。
仲裁人の前に提出された証拠は、ヴィリ氏には1973年11月にさかのぼる重大な
事故で、首、背中、肩に整形外科的損傷を負った履歴があることを示していた。
ヴィリ氏のかかりつけ医であるP.C.ヤウ博士の医療記録には、 少なくとも1990年
2月、彼は自動車事故で追突され、ヴィリ氏は、それ以来、首、肩、背中の激しい
痛みを訴えていた。 これら 軟部組織の損傷は、1990年5月に2回目の追突事故で
悪化した。 ヴィリ氏は1990年10月2日に仕事に復帰したが、その1週間後 1990年
11月1日、仕事中に事故に遭い、腰椎を負傷。1991年8月にパートタイムで仕事に
復帰したが、まだ痛みを訴えていた。
ヤウ博士は1992年2月、ヴィリ氏が4年から5年の間、重大な腰の症状を経験し続
けたこと。 さらに3年から4年の間、肩や頸椎の症状の再発に苦しむこともあったと
報告した。
ヴィリ氏は、1993年11月の事故の前の6ヶ月間はフルタイムで働いていたと主張
した 。しかし、仲裁人は、 医学的証拠に基づいて、ヴィリ氏は事故の前の数ヶ月
間も持続的な激しい痛みを経験していたことを認めた。仲裁人はヴィリ氏は信頼
できる証人ではないと判断し、事故前に実質的に雇用されて仕事を確立していた
との彼の主張は真実ではないと判示した。
仲裁人はさらに、ヴィリ氏の1993年11月の自動車事故と彼の進行中の医学的障
害との間の因果関係を否定した。したがって、彼は、ヴィリ氏は、さらなる毎週の
収入給付を受ける権利がないと裁定した。
控訴は口頭ではなく、提出記録に基づいて進められた 。ヴィリ氏は、彼の控訴
文書に仲裁人には提出されなかった他の多くの文書を添付した。
保険会社は、新しい証拠は存在しないことを控訴審で認められるべきと主張
した。
V 分析 ( ANALYSIS)
A. 新しい証拠 (New Evidence)
裁判官の印象では、控訴審に提出された文書は、ヴィリ氏が仲裁事件の再
審理を求めているということである。彼は仲裁廷の決定に満足せず、仲裁人
の決定を再考してもらうために文書を提出したことは明らかである。
この目的のために、彼は多くの文書の写しを提出した それは、彼が認めた
ように仲裁廷には提出していなかった文書である。控訴審に証拠として提
出された文書は下記の通り。
○ 1995年 1月19日付けの保険会社の請求査定書
(Assessment of Claim)
○ 1995年 2月 8日付けの調停人選任申請書
(Application for Appointment of a Mediator)
○ 1993年12月17日付けのHryko社報告書
(Report of Hryko and Associates Inc.)
○ 建物修繕会社の営業許可証 #B027500
(Business Licence for building renovator)
トロント市 メトロポリタン免許委員会発行 (有効期限1993年12月31日)
○ 1995年 3月23日及び1995年10月19日付けのP. C. ヤウ博士からの
文書とレター (Dr. P. C. Yau)
○ 1996年 9月17日付けのボルトン理学療法クリニック報告書
(Bolton Physiotherapy Clinic)
○ 1996年 4月26日及び1996年 7月10日付けのロスコー博士からの
レター (Dr. Martin W. Roscoe)
○ 1996年 5月28日付けのヴィリ氏の破産宣告書
(Statement of Affairs (Bankruptcy of Mr. Villi))
○ 1996年 9月 6日付けのM.J.ハットン裁判官の命令の写し
(子供扶養延滞 child support arrears)
1996年 9月の2ケ月後、ヴィリ氏は、さらにロスコー博士からの他の文書を
提出した。そのひとつは1996年11月 7日付けのものである。
この控訴審の決定を下す前に、この新しい証拠の採用を許可するかどうか
について慎重な検討を要する。
しかしながら、この検討は判決プロセスにおける決定的かつ最終的結論
にその証拠が必要であるかどうかのバランスを考慮しなければならない。
このような場合、通常では、新しい証拠は次の条件を満たすものとなる。
(原注1)参照
(i) 証拠は、公聴会前に当事者の誠実義務(due diligence)から提出さ
れたものである。
(ii) 証拠は、 合理的に信じることができるものである。
(iii) 証拠は、問題に対し、潜在的かつ決定的に関連しているものである。
(iv) 証拠は、公聴会の結果に重要な影響を与えたと合理的に予想され
るものである。
(原注1):
これらのガイドラインは、プラウ&ジェブコ保険会社
(Plows and Jevco Insurance Company,)で確立されたもの
( May 22, 1992, OIC P-000175 and OIC P-00058 )で、その後、
Shehadeh and the General Accident Insurance Companyof Canada,
( June 23, 1995, OIC P-002235) 及び、Alisha and Allstate Insurance
Company of Canada, (April 26, 1996, OIC P-002780),
Schneider and State Farm Mutual Automobile Insurance Company,
(June 12, 1997, OIC P96-00029)
その他で、続いて適用されてきた原則である。
本件の場合、調停人選任申請書はすでに仲裁廷に提出されていて、その結果、
仲裁廷の決定が出されている。他の文書に関しても、何故、公聴会の前にこれ
らが提出されなかったのかについての説明は受けていない。(保険会社の請求
査定書、Hryko社報告書、営業許可証、1995年3月23日付ヤウ博士の報告書)
仮に裁判官がこれらの文書を許可したとしても、それらのどれもがヒアリングの
結果に何らかの影響を与えるものであることを合理的に期待することはできない。
したがって、裁判官はこれらを証拠として採用することを拒否する。
(Accordingly, I decline to admit them.)
ボルトン理学療法クリニックからのレポートには仲裁審理後、1996年1月から3月
の間にヴィリ氏が受けた治療について書かれているが、公聴会での問題に関連
した情報や証拠は提供されていない。
したがって、この報告書は控訴審の新しい証拠としては認められない 。
残りの文書は、ヤウ博士とロスコー博士からの医療報告書である。ヤウ博士
(家庭医 a family physician )とロスコー博士 (整形外科医 an orthopaedic surgeon )
は、1993年11月23日の事故の前後にヴィリ氏を治療し、両方の医師は彼の状態
を認識しており、仲裁公聴会で医療情報と意見、関連する情報を提供することが
できた。公聴会では、 両医師の診断書と記録が証拠として認められ、ヤウ博士
は保険会社から反対尋問を受けた。
公聴会でヴィリ氏は代理人弁護士を通じて ロスコー博士からの報告書を提出したが、
ロスコー博士を証言に呼ばなかった。
控訴審の公聴会で、彼は裁判官が指摘した証拠の矛盾を埋めることはできなかった。
ヴィリ氏が紹介したいと思っている医学的証拠のすべては、 仲裁審理の前に、誠実
義務(due diligence )によって取得されたもので、したがって、控訴審で証拠として認
められたものであるが、いずれにせよ、 ロスコー博士からの最後の報告を除いて、
仲裁人には、医療文書のどれもが問題に関連する新しい情報ではなかった。
1996年11月7日付けのロスコー博士の報告は、ヴィリ氏の1993年11月の自動車事
故との関連に直接言及している唯一のものである。この報告書は、 仲裁廷で仲裁
人が認定した結果に基づいて決定を下した後に作成されたものである。ロスコー博
士の報告書は、ヴィリ氏の首の怪我は1993年の自動車事故によって引き起こされ
たものであると述べている。
彼の意見は、事故前は首の障害を訴えることはなかったという彼自身の証言に基づ
いていた。しかし、公聴会における仲裁人に提出された証拠では、明らかにそうでは
ないことを示していた。
控訴審でロスコー博士の報告書を認めるには、 すべての証拠の完全な再審理を必要
とする。さらに、裁判官は同博士の報告には納得していない。 ロスコー博士の報告は、
たとえそれが認められたとしても、 仲裁の公聴会における状況からは、保険会社から
の指摘は、ロスコー報告の証拠価値を上回るであろうことが推定される。
したがって、裁判官はそれを認めることを拒否する。
B. 仲裁人の認定 (Arbitrator’s Findings)
仲裁は3日間にわたって行われた。仲裁人にはヴィリ氏とヤウ博士の二人の証言を
直接聞くという利点と、彼らの証言で提示された他の証拠を検討することができると
いう利点があった。控訴審での裁判官の役割は、仲裁人による証拠の調査に二重
の検討を重ねる事ではない。特に、当事者の主張に関する信頼性の評価は重要
である。
控訴審の目的は、当事者から事件をもう一度聞いて検討することではない。その代
わりに、裁判官は仲裁廷の決定に至った理由、仲裁人が正確かつ的確に裁判権を
行使したかどうかを決定しなければならない。
仲裁人が証拠に裏付けられていない調査結果を作ったり、重大な誤りを犯した場合
にのみ控訴審は仲裁人の決定を覆すことができる。つまり、仲裁人の決定は、その
結果ではなく、その決定に至った過程に誤りがあったことを示すことができなければ、
その決定は有効とみなされる。
控訴審において、ヴィリ氏は次の主張を行った。
○ 仲裁人は、〈うその事実を〉捏造(ねつぞう)した。 ( manufactured the facts )
○ 仲裁人は、証拠の謄本を見落とした。
(neglected to read the transcript of the evidence)
○ 仲裁人は、事実ではない保険会社の主張に焦点を合わせた。
○ 仲裁人は、ヴィリ氏の証拠と事実を無視した。
○ 仲裁人は、ヤウ博士の証言を無視した。
○ 仲裁人は、ヴィリ氏の証言を信用できないものとして扱った。
ヴィリ氏は仲裁人の決定とは異なる結果を望んでいたのは明らかである。
しかしながら、仲裁人の役割は提示された2つの矛盾する証拠のうちのどちらかを
検討して決定することである。
仲裁人が間違ったアプローチを採用したことを示すことができない限り、または、
法律、その他の重大な誤りを犯したことを証明出来ない限り、証人に直接会った
仲裁人が信頼性を判断して決定した結果は妨げられるべきではない。
仲裁人は、仲裁決定書の8ページと9ページに次のように書いている。
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ヴィリ氏の事故前の医療に関する証拠と状態と作業状況が一致していない。
ヴィリ氏は、事故前6か月の早い時期から仕事を休んだり、辞めたりしたことは
ヴィリ氏は、1993年11月26日午後12時30分の最初の自動車事故の直前では
ヴィリ氏はまた、事故前はフルタイムで仕事に関連するすべての業務をこなして
ヴィリ氏は反対尋問で、その時刻に、そのような状態で、 なぜ重い肉体労働に
これにヤウ博士とロスコー博士のヴィリ氏に関する診療記録の予後(prognoses
この証拠に基づいて、裁判官はヴィリ氏を信頼できる証言者と認めることはでき
|
仲裁判断書決定のこの部分において、仲裁人は、 彼がヴィリ氏の証拠を拒絶した
理由を明確に説明している。
仲裁人は、ヴィリ氏自身の証言は矛盾していると判断した。
彼は主任尋問で陳述をした後、彼はそれを修飾するか、または反対尋問で説明
しようとして失敗した。
さらに重要なことに、ヴィリ氏の証言は、 彼自身の医師からの証拠書類と矛盾す
る。ヴィリ氏は、自分はフルタイムで働いていると主張した 。医療記録によると、
彼は事故前の数ヶ月間、重度の腰痛障害を継続的に訴えていた 。病歴とヴィ
リ氏の証言の食い違いに対する満足のいく説明は提出されていない。
したがって、すべての証拠を検討した後、仲裁人は ヴィリ氏は信用できないと
判断した。裁判官は、その判断は証拠によって十分に裏付けられており、適切
だったと結論付ける。
裁判官は、仲裁廷決定文書、および公聴会での証言の謄本を含む控訴文書を
確認した。裁判官は仲裁人が以前に証拠を公正かつ正確に処理したことを認め
る。仲裁人は「事実を捏造」 (“manufacture facts”) しておらず、ヴィリ氏の証拠
を無視していなかった。しかしながら、ヴィリ氏は証拠の裏づけも理由の説明も拒
絶した。また、仲裁人はヤウ博士の証拠を無視していないどころか、実際は逆で
あった。裁判官は、仲裁人はヤウ博士の証拠を十分に注意深く検討したことを認
める。
仲裁人はまた、ヤウ博士のみならず提出された他のヴィリ氏の1993年11月26日
の自動車事故に係る医学的症状の継続的な医療情報も正確に精査した。
ヴィリ氏の問題を改善すべき負担は、最近の事故によってさらに悪化し、彼の
事故前の状態を継続することはできなかった。仲裁人が認めたようにヴィリ氏
が重荷を開放できなかった事は証拠によって裏づけされている。
結論として、裁判官は仲裁人が重大な誤りを犯したとは思わない。裁判官が仲裁
人の決定に干渉することを正当化するような重大な誤りはない。
よって、異議申し立ては棄却する。
IV. 費用 ( EXPENSES)
ヴィリ氏が仲裁人の判断は間違っていると心から感じている事を裁判官は受け
止める。しかし、これまでの控訴審判決と同様に、それは控訴審で費用を命ずる
ための十分な根拠ではない。 これまでの判決では、仲裁人による証拠の評価
に対する不満を理由としたした控訴の費用は 不成功に終わった控訴人に課せら
れる。本件はそのようなケースであり、裁判官は通常の方法から逸脱する理由を
見出だすことができない。
保険会社は、控訴の適切な根拠がなかったため、ヴィリ氏に罰則を科す命令を
下すべきであると主張した。また、 ヴィリ氏は、彼の提出物で、保険会社の医療
専門家の一人に侮辱的な言葉を使用したため、それも主張理由の背景にある。
裁判官は、ヴィリ氏の言葉遣いは不適切で遺憾であることに同意する。しかし、
裁判官は、ヴィリ氏が彼の発言のために罰せられたり、また、本件は保険法第
282条(11.2)に基づき、 控訴は「軽薄で、厄介で、手続きの乱用(frivolous,
vexatious or an abuse of process.)に該当するという他の理由等で、罰金を支
払うことを要求されたりすべきだとは思わない。
裁判長 フレデリカ・M・ロッター (Frederika M. Rotter)
判決日: 1998年2月26日 (February 26, 1998)
(以上 マンションNPO 訳) (2023年12月5日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 5 December 2023/ Revised Publication -time to time)