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分析項目と推奨案 : 4.共同住宅のガバナンス
     (DETAILED ANALYSIS AND RECOMMENDATIONS :4. GOVERNANCE)

ガバナンスの概要  (GOVERNANCE)

すでに知られているように、共同住宅の管理組合は自主統治コミュニティ(self-governing communities)
と同じです。区分所有者は選挙で自分たちの「政府(“government”)」を選び、そのコミュニティの
業務を理事会が、例えば、建物の修繕、ペット飼育規則、そして月額の管理費支払額などを決定し、
管理運営を行います。

他の民主主義制度における組織と同じく、理事会の役割はコミュニティ全体の利益を法に従って行動すること
です。組織を健全に運営するためには、透明性をもって説明責任を果たす仕組みでなければなりません。

第T期問題摘出報告書が示していたのは、多くの区分所有者は、自分たちの管理組合の理事会は、透明性と
説明責任の履行に関しては適正な基準に照らしても十分ではないと感じていたことでした。

彼らの不満は選挙の取り扱いに関する基本的な文書がタイムリーに入手できることを保証すべきなのに、
投票を操作するためにそれらが為されていない等の理事会の広い範囲に及ぶ欠点がその原因です。

第T期問題摘出報告書は、理事会運営規則と運営実務の改善すべき点について、5つの主要な分野に分類
しました。

 (1) 記録文書の閲覧・入手: (Access to records and information)
 (2) 集会: (Meetings)
 (3) 理事会と役員: (Directors and officers)
 (4) 説明責任の強化を目的とする罰則: (Fines to enhance accountability)
 (5) 区分所有者と理事の権利と義務: (Rights and responsibilities of owners and directors)

ガバナンス作業部会は、この5つの項目すべてについて推奨案を系統的に明確に示しました。

(1) 記録文書の閲覧・入手 (Access to records and information)

作業部会と専門部会はこの問題の検討にあたって3つの到達すべき目標を定めました。

 (1) 記録文書の保存期間を明確にする
 (2) 管理組合の記録と文書を区分所有者が入手できることを保証する
 (3) 個人情報を不正な使用から保護することを保証する。

 (1.1) 記録文書の保存期間の設定 (SET REQUIREMENTS FOR RETENTION OF RECORDS)

推奨案: 改正法では、管理組合が設定している記録文書の保存期間よりも長い期間を
     法定保存期間として設定すべきです。
推奨案: 管理組合の記録文書の最低保存期間の詳細は次の表の通りとする。
     この表における保存期間とは、その記録文書が容易に閲覧・入手できる期間とします。
推奨案: 管理組合の記録文書は、可能な限り、電子化された様式に変換されることが望ましい。

管理組合文書の最低保存期間
 (1) 管理業務に関する文書 (Administrative)
 保存期間(年) 記録文書の種類 (※原注7)

設備点検及び管理報告書 (Inspection and administration reports)
保険約款 (Insurance policies)
査定評価書 (Apprasals)
雇用記録 (Employee records)
非居住部分の先取特権記録 (Non-unit liens)

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修繕積立金計画書 (Reserve fund studies)
建物検査報告書 (Engineering reports)

永久保存

保証書 (Waranties)
監査報告書 (Audited financial statements)
各種契約書 (Contracts)
権利変換文書 (Turnover documents)
竣工図書 (Drawings)
議事録、登記事項証明書、管理規約、使用細則
組合員名簿(抵当権者) (Owners list (mortgagees))
 (2) 法律に関する文書
 保存期間(年) 記録文書の種類

民事訴訟記録 (Lawsuit)
人権に関する紛争記録 (Human rights complaints)
 (3) 財務に関する文書
 保存期間(年) 記録文書の種類

監査済の財務諸表 (Audited financial statements)
監査を要しない財務諸表 (Unaudited financial statements)
解決済の保険求償手続書類 (Resolved insurance claims)
出資証券 (Investments)
貸付金/借入金 (Loans)
抵当証券 (Mortgages)
納税書類 (Taxes)
期限満了又は解約の契約書 (Expired or cancelled contracts)
期限満了の保険証書 (Expireed warranties)
 (4) 区分所有者に関する文書
 保存期間(年) 記録文書の種類

組合員証明書(Status certificates)
住戸点検保守記録 (Maintenance records)
対応記録文書 (Correspondence)
賃貸届け/改修届け書類 (lease or renewal)
懸案事項 (Pending issues)
先取特権登記事項記録 (Unit liens)
その他の区分所有者の情報 (Owners information)

永久保存

共同住宅法第98条関係(共有部への変換文書)
(Section 98 changes to common elements)

(※原注7):
管理業務 (Administrative)に関する文書は、現在(current)契約中の文書を意味しています。
対して、財務(Financial)関係の文書は、期間満了後(expired records)の契約文書を指しています。

専門部会は、管理組合の記録文書の保存期間を定めること、及び、その設定期間については下記を除いて同意しました。
推奨案: 専門部会は、共同住宅法第98条関係(共有部への変換文書)が永久保管としている点については、 漠然として意味不明であるので、同意できない。

専門部会の何人かのメンバーは、他の点についても懸念を示しました。例えば、 偶発的に破棄又は紛失した文書の法的保管責任を理事に問えるのか?  多くの場合、永久保管の理由など取るに足らないものだ。そのような無制限の要求は必要ないと主張しました。
推奨案: 最良の実践は、記録文書の法定期限よりも長く保存することです。

 (1.2) 管理組合文書を容易に閲覧・入手できる方法を提供
     (PROVIDE EASY ACCESS TO CORPORATE RECORDS)

作業部会と専門部会は、透明性をもって説明責任を果たすために管理組合文書を容易に閲覧請求できるように
することについて合意しました。
同時に、下らない理由で、もしくは人をいらだたせる為の策略として文書請求権が使われ、そのために理事会が
無駄な時間を割いている現実も認識していました。

作業部会は住民参画と権利濫用防止の両方のバランスをとる事について検討してきました。

推奨案:
 (1) 改正法では、文書請求及びその請求に対する回答の手順を規定するものとする。
 (2) 文書請求を拒絶する場合、管理組合はその理由を文書で請求者に告知しなければならない。
 (3) 文書請求は個人の基本的権利の行使に関わる部分は無料とし、その他の文書は費用を請求できる。
 (4) 文書請求に関わる費用は、その文書の準備のための合理的な額とする。
 (5) 文書請求に関わる費用は、前もって提示しておかなければならない。
 (6) 改正法においては、罰金の額を1,000ドルから5,000ドルの範囲で罪の重さに応じて規定
    するものとする。(※原注:8)
 (7) 改正法においては、文書の提供は電子化文書での提供を認めるものとし、その請求費用は無料
    若しくは低額に抑えた額としなければならない。

(※原注8):
専門部会から、現在の救済策は法55条9項10項に簡易裁判所への提訴として規定されており、
そこで適用される罰金は500ドル以上の規定であることが報告された。

専門部会は、これらの推奨案に同意した上で、下記を付け加えることにした。
推奨案: 費用の請求は文書の回復(電子化文書の紙への出力)、編集(個人情報部分の抹消)費用も請求
    できるものとする。
推奨案: 請求があった現在の文書は10日以内に、その他の文書は30日以内に請求者に提供するものとする。

 (1.3) 個人情報保護と記録文書の適正使用 
    (PROTECT PRIVACY AND ENSURE APPROPRIATE USE OF RECORDS:)

作業部会では下記を推奨案として提示しました。
 (1) 文書請求には、その理由を記すこと。
 (2) 申請理由は法に基づいた合理的なものであることの宣誓供述書に署名すること。

これらの要求は、個人情報保護と管理組合機密情報を保護し、権利の濫用による情報の悪用を防ぐ目的で 企画されたものです。

専門部会の多くのメンバーは、この案に同意しませんでした。
 専門部会のメンバーは、申請書に申請理由を書かせることは、区分所有者や他の権利者の正当な権利を制限するもので、 ふさわしくないという意見を提示しました。
 推奨案: 最上の方法は、管理組合と第三者の契約によって、いつ、 どのような方法で文書の閲覧・入手できるかについての明確な決まりを作るべきで、区分所有者、 購入者、抵当権者など、他のグループとの関係性を決定づける上で、特に重要です。

(2) 集会: (Meetings)

第T期問題摘出報告書では、区分所有者と他の利害関係者は等しく、 集会の開催とその通知には深い関心をもっていることが報告されています。 逆に言えば、能力のない貧弱な理事会のガバナンスには無関心どころか、 汚職や腐敗すら発生させてしまう危険もあります。

作業部会では集会に関する複雑な側面に狙いを定め、次の6つの問題を系統立ててとりあげました。


 (1) 代理人の取り扱い(The use of proxies) 
 (2) 会議の成立に必要な定足数の規則(Quorum rules)
 (3) 区分所有者の要求による集会の召集(Requisitioned meetings)
 (4) 区分所有者との意思伝達・コミュニケーション(Communication with owners)
 (5) 集会と議案の告知事項(Notice of meetings and agendas)
 (6) オンラインの活用(Use of online technologies)

 (2.1) 標準的な代理人規定を作る (STANDARDIZE PROXIES)

集会に出席できない人は、代理人届を提出して代理人を指名することができます。この代理人は
 (1) 集会の成立に必要な定足数にカウントされます。 
 (2) 代理人は、議事への参加、立候補者への投票を行うことが出来ます。

代理人制度の悪用は、第T期の問題摘出報告書でも多くの議論のテーマとなっていました。

第T期の参加者は、代理人届の標準様式を決定するために集められました。
その目的は、代理人制度の悪用を制限し、透明で明確な制度を確立するためです。
作業部会では、代理人制度は、集会に出席できない人がとり得る区分所有者の投票権の行使であり、
議案にノミネートされた候補者に対して、投票者の利益に基づいて判定することを法の下で認めている、
有意義で十分根拠のある正当なものであることは認識しています。

作業部会は、代理人制度のこれらの利益は、その悪用を防ぐことで保護することができると感じていました。 最後に、代理人届の標準様式を作成し、代理人制度を確固としたものにするための推奨案を示しました。

作業部会は、代理人制度のこれらの利益は、その悪用を防ぐことで保護することができると感じていました。 最後に、代理人届の標準様式を作成し、代理人制度を確固としたものにするための推奨案を示しました。

推奨案:
 (1) 代理人の申請が認められるのは、遅くても集会開催日の前日までとする。
 (2) 代理人届の不正や取扱いの誤りを防ぐために、代理人届には本人署名、指名する
    代理人氏名、議決事項及び候補者へのへの賛否を記入しなければならない。
   (訳注:日本の議決権行使書に相当する内容が代理人届にも同時適用される)
 (3) 代理人届の用紙に予め印刷されている名前への賛否投票に代わり、指名した者
    の名を記入することができる。
 (4)  代理人届と投票用紙は90日間保存しなければならない。
    この期間内に紛争が発生した場合は紛争が解決されるまで保存しておかなけれ
    ばならない。紛争なき場合は90日後に廃棄しても良い。
 (5) 代理人届は電子化又は自動化でも良い。

専門部会は、これらの推奨案に同意しました。そして投票用紙を(多分、小型金庫に)保存することは
信頼性の確保につながるとする意見を追加することを提案しました。

 (2.2) 新しい定足数の基準値 (A NEW QUORUM THRESHOLD)

第T期の問題摘出報告書は集会の参加率が低いのは区分所有者の無関心に原因があることに
注目しました。

定期総会や他の集会のたびごとに減少していきます。この状況を作り出している原因のひとつに、
カナダに居住していない外国人の投資目的の区分所有者が多いということがあります。

その結果、ある管理組合は、最低の定足数にも満たない悲惨な状況に陥りました。
もし集会が成立しなかったら、重要な決定が出来ずタイミングを逃してしまいます。
それがたびたび続いたら、共同住宅コミュニティ全体が麻痺してしまいます。

そこで、作業部会はもっと活動的な参加者が増えるための方法について協議を重ねてきました。
その結果、最も魅力的な選択肢は定足率の規定をゆるめることでした。

推奨案: 定足数の規定を最初の集会から2回目までは25%とすることで、
       区分所有者本人又は代理人のどちらかが参加して集会が成立することが可能となり、
       今よりは前進することになるでしょう。
 

 (2.3) 区分所有者による集会の召集に関する規則の明確化
      (CLARIFY THE RULES FOR REQUISTIONED MEETINGS)

 

区分所有者による集会の召集は説明責任の中心となる問題です。
もしも区分所有者の15%が嘆願書に署名して集会の召集を求めた場合(理事の解任を含む)、
理事会はその請求に応じて集会の招集を行わなければなりません。
(訳注:日本の区分所有法第34条では議決権・区分所有者両方の20%以上の請求が必要)

第T期における何人かの参加者は、集会召集の規定値を15%からもっと下げることについて
議論しました。非居住の投資者の増大、高い賃貸率、そして区分所有者の無関心層の増大から、
幾つかの共同住宅では、この15%でも高すぎると感じていたからです。

一方でこの制度は理事会の意思決定が困難になった時の防衛策であるという評価もありました。
メンバーは、この集会召集の規定値を15%からもっと下げることは、理事会の怠惰と無活動
に対して不満を持つ区分所有者がこの制度を濫用するのではないかと懸念しました。

ガバナンス作業部会では、現在の集会召集の15%の規定値をそのまま維持することを推奨案と
しました。しかしながら、集会召集手続きと集会召集の有効性の評価についても、現行制度
をよりスピーディに、公正なものに改善するための提案を行いました。

推奨案:
(1) 理事会は、区分所有者から集会の召集を要求された場合は諾否の回答を10日以内に
   行うものとする。
(2) 理事会は、区分所有者による集会の召集を拒否する場合は正当な理由を必要とする。
(3) 理事会が区分所有者による集会の召集を拒絶した事を不服として告訴した原告は、
   要求した比較的短期間の欠陥に対して救済を求めることができる。
   理事会の回答の最終期限はこの期間内は停止される。
(4) 理事会は、正当な理由に基づく区分所有者による集会の召集を拒絶した場合、
   その活動は法により停止される。
(5) 法は、新しい集会の召集様式と上記の新しい制度を規定しなければならない。

 (2.4) 管理規約の制定と改定 (MAKE BY-LAWS EASIER TO PASS)

 

専門部会は、規約の制定と改定に関する決定の採決基準値を下げることについて、次の3つの案を
提示しました。
 案(1):現に居住する全組合員総数の過半数の賛成をもって決する。これは、集会において決しても
     良いし、公示後30日以内に全組合員総数の過半数の賛成が得られることでも良いものとする。
 案(2):集会出席区分所有者・代理人総数の2/3の賛成をもって決する。
 案(3):集会出席区分所有者・代理人総数の過半数の賛成をもって決する。

推奨案: 管理規約の制定と改定に関する採決基準は現行法の規定より下げることを推奨案とするが、
     適切な基準については、尚、検討を要する

 (2.5) 集会で区分所有者と討議すべき事項 (COMMUNICATE WITH OWNERS ABOUT MEETINGS)

現行法では定期総会以外には理事会と区分所有者との対話を要求していないし、 特別な判断を要する事項についても何も触れていません。

作業部会では、この規定の欠落が情報公開のレベルを下げていると感じていました。
区分所有者には住民を巻き込んだ形での迅速な情報の提供を受ける権利があるという見方から、
次の事項について討議しました。
 (1) 費用の問題
 (2) 時期的な問題
 (3) 健康と安全に関する問題
 (4) 法的な紛争に関する問題

p>作業部会では、より一層の透明性と説明責任のための理事会と区分所有者との契約文化として、
幾つかの方法を提案しました。

推奨案: 改正法では下記の状況において、管理組合と区分所有者との対話を促進する
 ための具体策を、管理組合に対して要求すべきです。
 (1)管理組合は財務、修繕積立金、法的な紛争などに関する問題について、正確な情報を
   区分所有者に伝えること。
 (2)管理組合は修繕積立金の目的から逸脱するような場合、直ちにその情報を区分所有者
   に伝えること。

推奨案: 最良の実践的方法として、管理組合は次の方法をとるべきです。
○管理組合のウエブサイトを製作し、透明性を高める。
○コミュニティの共同意識を育てるための下記の手段による広報 
 ・定期的にコミュニティイベントの開催を知らせる 
 ・広報
 ・Eメール
 ・掲示板
 ・チャット・ライン
 ・区分所有者集会
 ・ソーシアルメディア
 ・管理組合のウエブサイト
 ・区分所有者が相互に、或いは理事会に対してこれらのメディアを通じて交流する機会を提供
 ・理事会と区分所有者の学習の場を設けて最良の対話と実務を融合させる

 (2.6) 集会の注意事項 (NOTICE OF MEETINGS)

区分所有者は集会議案を提案できる機会をもっと与えられるべきであると作業部会は感じていました。
集会に区分所有者の有意義な声が届けられるよう、さまざまな方法について討議しました。

推奨案: 改正法では、理事会からの定期総会又は臨時特別総会の組合員への召集通知は
 集会開催日の35日前までに提供されること、及び、理事選挙における理事立候補者の募集を行う
 ことを義務づける規定をおくことととすべきです。その後、立候補者名を記して投票を行うため
 の議案を添付した公式の集会召集通知は、集会開催日の15日前までに発送されることとします。
 これら二つの通知は期日、場所、目的その他の項目に漏れがないか、チェックリストで確認され
 なければなりません。

推奨案; 理事会から組合員への召集通知には、集会目的の説明と共に、総会議案募集の通知を
 入れることとすべきです。回答に対する処理過程のため、回答期日を明確に示すこととします。
 改正法では、これらの回答手段として、電子化手段による回答を受け入れるべきもの、推奨すべき
 ものとして規定しなければなりません。

 (2.7) 理事会のインターネット使用を促進
     (PROMOTE THE USE OF INTERNET TECHNOLOGY FOR BOARD MEETINGS)

専門部会では、理事会の会合では例えばSkypeのようなオンラインツールを使って、理事同士が各議案
ごとに討議して理事会とすることを、改正法で許可すべきとする推奨案を出しました。専門部会では、
新しい技術には、親しみがない、それを使いこなす人のスキル(経験・時間)が要求されるという問題
があることは認めています。それを考慮して、法では、特定技術を指定することは避けて、日々進化して
出現してくる技術に合わせた最良の手段を選択できるようにすべきです。

推奨案: 改正法では、理事会への参加には例えばSkypeのようなオンラインツールの使用を認める
     べきです。

(3) 理事会と役員: (Directors and officers)

共同住宅の区分所有者はすべての職歴の人が集まっています。理事会が決定しなければならない問題の
扱い方や理事会理事としての経験のない人がほとんどです。理事会が不慣れだと共同住宅コミュニティは
リスクを抱えることになります。修繕や投資、保険の求償範囲などで誤った判断に導くことがあります。

実務の知識をもつ管理者、弁護士、外部契約者、及び他の理事など、彼らの未熟さに対する助言を受ける
立場の人から、非難を受けやすくなりがちです。

第T期問題摘出報告書で参加者は、理事就任1回目の経験不足の理事に対するトレーニングの基準に関して
検討してきました。理事会の理事に彼らの役割についての自覚を持たせることが急務であるというものでした。

ガバナンス作業部会では、理事に要求されるそのような基準を作って実行した場合、理事になった人のやる気を
失わせるリスクにつながるのではということも懸念しました。

これらの意見のバランスをとって、作業部会では4つの行動分野を提案しました。
 (1) 新人理事のトレーニング(Training for new board members)
 (2) 任期と区分所有者に与えられている選挙権の規則(Term limits and the owner-occupied rule)
 (3) 理事としての職業意識を高める(Enhancing director professionalism)
 (4) 理事としての説明責任を高める(Enhancing director accountability)

 (3.1) 新人理事のトレーニング (TRAIN NEW BOARD MEMBERS)

推奨案:
 新任理事に対する下記の最低限の理事トレーニング講座の受講を法で義務付けるべきです。
 (1) 基礎を重点に3時間程度の短時間で行うものとする。
 (2) 講座の履修課程(カリキュラム)と最終目標を消費者省が設定する。
 (3) 講座はオンラインと対面教室型の両方で利用できること。
 (4) 講座を自由に提供でき、講座修了者を認証する機関を政府外機関として外部に置くこと
 (5) 理事に選任された者は、就任後6ケ月以内に講座を修了しなければ、理事資格を剥奪することを
   可能とする制度とする。

作業部会はまた、継続的な理事教育の推進に関するガイドラインの提案を消費者省に提出することも決めました。
しかし、この初級講座の後の追加コースについては、共同住宅コミュニティを対象にしたより広い努力を要する
部分として見るべきであり、法制化による義務付けはすべきではないということになりました。

自主管理の共同住宅については、理事の教育に関しては自主管理の中で彼ら自身が行っていることであり、
受講を義務付けることに関しての疑問が提起されました。
作業部会では、自主管理の理事はすでに特別の重荷を負わされていることは認めています。

推奨案:
自主管理を行っている理事会の理事は、提案されている3時間の受講課程のトレーニングの強制は、
管理業務としての理事の追加的な責務として捉えるべきです。

 (3.2) 理事の任期 (TERM LIMITS)

作業部会では、改正法では理事の任期を規定すべきかということについて検討しました。
作業部会のメンバーは、予め任期を法で強制的に規定することは、よりよい理事会活動にとって
望ましいことではないという意見に同意しました。
多くの議論の中で、多くのメンバーは、この問題は改正法の真剣で十分な根拠にはならないと
感じていました。

推奨案; 理事の任期は各管理組合が管理規約で個別に決定すべき事項の中に残すべきです。

専門部会の一人のメンバーは、管理規約で理事任期を規定することは、理事会の断絶を招いてしまう
可能性がある。少なくとも改正法では、任期を15年以下に制限する規定をおくべきとする意見を述べました。

 (3.3) 区分所有者に与えられている選挙権 (THE OWNER-OCCUPIED ELECTED POSITION)

精力的に議論を進めた後で、作業部会では、既存の15%規定(全区分所有者の15%以上の要求で理事会選挙を
要求できる共同住宅法の規定)は余りにも複雑で理事改選の重荷になっており、この規定は廃止すべきと
する案に満場一致で同意しました。
これらは管理規約の自由裁量事項に含められるべきです。

推奨案; 現行法における理事会選挙における区分所有者の選挙権規定は廃止されるべきです。

 (3.4) 理事の倫理コードを創る (CREATE A CODE OF ETHICS FOR DIRECTORS)

 作業部会では理事会の実行力を強化促進する方法と同時に、理事資格を剥奪できる理由について検討しました。
現行法では理事の義務不履行は、理事としての専門性、又は理事会への出席などの市民としての義務に関する事項、
個人のプライバシー、秘密に関わる事項、誠実さなどの個人的事項として扱っており規定がありません。

第T期報告書では、理事に期待されている役割と現実のギャップについて指摘していました。

推奨案; 下記を強調した倫理コードを創るべきです。
 (1) あいまいな言葉ではなく、単純で、率直に、明快な言葉で記述すること。
 (2) 業界の一切の関与がなく、厳然たる法のもとに置くこと。
 (3) 理事と役員に要求される標準的善管注意義務に加えて、
    倫理コード自体の独立規定や義務、資格剥奪の背景となる責任に関する規定を置くこと。
 (4) 倫理コードは管理規約でも改定することが出来ないものとする。

 (3.5) 理事の資格認証と資格剥奪
     (DIRECTOR QUALIFICATIONS AND DISQUALIFICATION)

第T期問題摘出報告書では、理事会理事の最低限の資格認証と、資格剥奪の明確な規定を求めていました。

推奨案: 作業部会は下記の理事会理事の資格認証と資格剥奪を推奨致します。
 (1) 法定理事トレーニング講座の完全履修
 (2) 1住戸からは1名の理事しか選出できない
 (3) 理事候補者の犯罪履歴調査を管理規約に規定することを認める
 (4) 理事候補者が管理組合に対する訴訟当事者である場合はこれを公開する。

専門部会は、資格剥奪条項に詐欺、性的犯罪、暴行、嫌がらせ(ハラスメント)を含めることに同意しました。
しかしながら、そのような規定は、改正法に含めるべきではなく、むしろ理事の資格として明記すべきなのは、
推奨すべき望ましい事例であると感じていました。

あるメンバーは、例えば管理組合の業務に関連する会社を経営しているとか、提供するサービスが組合に
関連しているなどの、利益相反義務に抵触する情報公開義務を負わせるべきではないかと主張しました。

 (3.6) 説明責任の強化目的に罰金制度を用いること
     (USE OF FINES TO ENHANCE ACCOUNTABILITY)

第T期報告書で改正法では理事会の説明責任を強化するための罰金や科料を科すことの可能性についての提案がありました。 理事会が区分所有者の義務不履行に対する制裁として科料を科すこと、及び、 理事会自身の義務不履行に対しても科すことができるかというものです。

作業部会では、改正法で理事会が区分所有者又は賃借者の義務不履行に対して、 制裁を科すことを正当化すべきかどうかについて討議しました。 この問題は、そのような権力は共同住宅コミュニティに深い溝を生じさせ、 理事会の職権濫用を招く事になるという結論に至りました。

それゆえに、理事会にそのような権限を与えることを拒否しました。専門部会では、この作業部会の意見に同意しただけではなく、 そのような制裁は、共同住宅コミュニティの不和と分裂を招き、作業部会が結論としたように、 理事会の職権濫用を招くようなものになる。むしろ法の外で適切な対策をとるべきであるとして、次の提案を提出しました。

推奨案;
政府は、管理組合役員が科料を科すことのできる懲戒権限を持ち、区分所有者と賃借者から科料を徴収するようなことがあってはならず、 これを禁止するよう検討すべきです。(例えば、迅速裁定庁を通すなどの方法を考えるべきです。)

 (3.7) 合法的なチャージバックを認めること
     (RECOGNIZE CHARGE-BACKS AS LEGITIMATE)

作業部会では、罰金・科料と利用者が支払う例外的なサービスに課すチャージバックの違いを明白に認識
しています。この基本原則に対し、専門部会の意見はチャージバックを課すことを理事会の権利として
改正法の中に規定すべきとする方向に傾きましたが、しかしながら、この「例外的なサービス」の定義
が重要であることにこだわりました。
推奨案: 改正法では、「例外的なサービス」の定義を明確にした上で、チャージバックを認めるべきです。

 (3.8) 区分所有者と理事の「権利と義務」
     (OWNERS’AND DIRECTORS’RIGHTS AND RESPONSIBILITIES)

第T期の問題摘出報告書では、多くの区分所有者と理事は彼らの権利と義務が明確になっていないことを
問題提起していました。
この不確実性は誤解と緊張と無関心をもたらします。
作業部会では、この問題を明確にするために取り上げました。

推奨案:
 区分所有者と理事の権利と義務に関する基本的な文書が作成されるべきです。
 この権利と義務に関する宣言書(又は憲章)は、共同住宅コミュニティにおける区分所有者と理事の役割
 についての理解を深めるための教育文書として提供されるのが望ましいでしょう。
 この宣言書の中身は改正法のさまざまな条項のなかで共有されるべきものです。

推奨案:
権利と義務に関する宣言書は共同住宅法及び同規則に矛盾するものであってはならない。

言い換えれば、権利と義務に関する宣言書は現行の権利と義務を前提としたものであるべきですが、
新しい分野、或いは特別に追加される権利と義務を阻むものではないということです。

推奨案:
提案される権利と義務に関する宣言書は、下記の状態に適合するものでなければなりません。

 (1) 区分所有者の権利と義務は「管理組合との契約」という概念に基づいて、1頁の文書内に制限された
   内容で定義されるものとする。

 (2) 特別な参照文なしに区分所有者の権利と義務の原則の上にアーチを架けた明確なステートメントを
   含むものであるべきです。

 (3) 文書は法と管理組合文書を参考文献としても良いが、これらの文書が関係する、例えば、建物の保守と
   修繕のような区分所有者の権利と義務に関係する特有の事項を、探求し勇気付ける方法とします。

 (4) 権利と義務に関する宣言書の趣旨は、単なる推奨すべき事例というよりも、むしろ実践すべき最良
   の事例として、改正法の中に組み込まれなければなりません。

 (5) 管理組合は、権利と義務に関する宣言書をさまざまな方法で広めるべきです。例えば
  (5.1) コピーを共同住宅のロビーに置く。(Posting a copy in condo foyers)
  (5.2) 配布する現況報告書に綴じこむ(Including it in status certificates)
  (5.3) 定期総会議案書パッケージの中に綴じこむ(Including it in the annual general meeting package)
  (5.4) 管理組合のウエブサイトに掲載する(Posting it on the corporation website)
  (5.5) 消費者省のウエブサイトに掲載する(Posting in on the ministry website)

 (6) 消費者省は宣言書を公式文書とすることを検討すべきです。

(2021年8月28日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 28 August 2021/ Revised Publication -time to time)