CATの裁判権と請求棄却 (2022 ONCAT68 ) DISMISSAL ORDER
裁判長の訴状審査権に基づき口頭弁論を経ないで訴えを却下した事例です。この手続きは日本も同じです。
訴状が提出されると、裁判官が(単独であっても裁判長として)訴状審査を行います。(日本・民事訴訟法第137条)
(1) 形式的審査:訴状の必要的記載事項の具備、所定の印紙の貼用の有無を審査し、不備があれば期間を
定めて書記官を通じて補正を命じ(日本・民事訴訟規則56条)、期限内に補正されない場合は、訴状を
受理できないとして裁判長の命令という裁判の形式で提出者に返還します。(日本・民事訴訟規則第58条)
(2) 口頭弁論を経ないで訴えを却下:
形式的審査に通ると被告に訴状が送達され裁判所の係属訴訟となります。その後に訴状の訴訟要件
(請求の趣旨、請求の原因、裁判権、法律上の争訴性、他)の欠陥が明らかになって、その不備を
補正することが出来ないときは、裁判所は口頭弁論を経ないで判決手続きを経て、不適法却下、
請求棄却の判決を下します。(日本・民事訴訟法第140条)
カナダ・オンタリオ州のコンドミニアム裁判所(CAT:CONDOMINIUM AUTHORITY TRIBUNAL)における (2)の事例で、裁判長の命令の形式で請求棄却(DISMISSAL ORDER)が言い渡された事件で、 CATに与えられた裁判権(裁判の管轄権・事物管轄の範囲)には該当しないとして、訴えを却下しています。
目次
○ 請求棄却 (DISMISSAL ORDER)
○ 訳注
請求棄却 No.2022 ONCAT68 DISMISSAL ORDER
CONDOMINIUM AUTHORITY TRIBUNAL DATE: June 22,2022
|
請求棄却 (DISMISSAL ORDER)
判決日: 2022年6月22日
事件番号: 2022-00023R
事件名: チェン 対 トロントスタンダードコンドミニアム管理組合(法人番号1644)
裁判官 イアン・ダーリング、CAT議長判事
原告 ヤオ・シン・チェン 本人弁護
被告 トロントスタンダードコンドミニアム管理組合(法人番号1644)
請求棄却 (DISMISSAL ORDER)
[1] 本件は、2022年5月9日、コンドミニアム裁判所Condominium Authority Tribunal (CAT)に提訴された
が、訴状を審査した結果、CATは本件を受理しないこととする。
[2] CATの審査においてコンドミニアム裁判所実務規則19.1に基づき、請求棄却とする理由を下記に述べる。
1.CATの裁判権は、コンドミニアム裁判所の権限と運営管理規定を定めたコンドミニアム裁判所規則
オンタリオ州法令番号179/17で規定する範囲内でのみ審理し、判決を下すことができる。
2.本件は、コンドミニアムの記録に関する紛争として提訴されたが、記録の争訴性は提起されていない。
3.本件は、CATの裁判権の範囲外の事件である。
[3] 本件は、原告に対して被告が課したチャージバック (訳注(1)) に関する紛争である。
1.原告代理人ペイ・ホン・フエン(“Pei Hong Feng”)が被告管理組合の管理情報を公衆に向けて公表した。
2.それについて、被告管理組合の代理人弁護士が対応した。
3.被告管理組合は、管理組合が支出した法的費用を弁償するためのチャージバックを原告に課した。
[4] 原告の訴えは、この被告管理組合が原告に課した法的費用のチャージバックに関するものである。
CATは、賠償金または補償金の紛争を扱うことができるが、但し、これらの紛争は、
管理組合の統治文書 (訳注(2)) に関する下記の規定に関係するものでなくてはならない。
1. ペット(Pets and Animals)
2. 自動車・バイク・自転車(Vehicles)
3. 駐車場・保管庫(Parking and Storage)
4. 騒音(Noise)
5. 臭気(Odour)
6. 照明(Light)
7. 振動(Vibration)
8. 煙・蒸気(Smoke and Vapour); または(or)
9. その他、管理組合統治文書に規定する迷惑行為、不快を与える行為、秩序を破壊する行為
(Other types of nuisances, annoyances or disruptions set out
in a condominium corporation’s governing documents.
[5] 原告の賠償金紛争は、上記のいずれにも該当しない。
(以上 マンションNPO 訳) (2022年10月16日初版掲載・随時更新)
訳注
(1) 「チャージバック」
[3]で述べられた「チャージバック」は、簡単にいうと、共同住宅コミュニティにとって有害な
行為をして損害を与えた場合、その損害回復にかかる費用は、その行為者の負担に帰する
という原則のもとに、管理組合が区分所有者に課す賠償金・補償金のことです。
カナダでは一般的に、宣言書の中で次のように規定されています。
「制裁金、弁護士費用を含むすべての費用、弁護士及び弁護士自身の依頼人、区分所有者
の権利を守らせるための管理組合の費用、法及び宣言書及び管理規約、使用細則他の
法定費用、法134条の裁判費用は、管理組合の区分所有者が管理組合に対して支払う
ものとする。区分所有者が管理組合に対して支払うすべての金銭、利息、費用に関して
共益費に加算して支払うことができる。それによって管理組合がうけた損害を回復できる
ものとする。」
(2) [4]で述べられた管理組合の統治文書についての詳しい説明は、
[ペット訴訟(3] ,飼育規則に違反した住民に飼育禁止と賠償命令」の
[(4)宣言書(declaration)と統治文書 (governing documents)]を参照
(3) [4]で挙げた9項目は、ニューサンス項目です。
詳しくは 「ニューサンス概論」[(注2). 迷惑行為の9つの類型] を参照
(2022年10月16日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 16 October 2022/ Revised Publication -time to time)