第3章 管理と運営 ・ 第3部:運営(OPERATION)
はじめに
※免責事項
このマンションNPOのHpでは国連発行文書(UNITED NATION PUBLICATION-ECE/HBP/198)の
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また文中の翻訳表現は権威ある公式の翻訳ではない事をお断りしておきます。(マンションNPO)
※ 本文の章・項・号番号は便宜的に当Hp日本語訳でつけたもので、報告書原文には付いていません。
3.6 運営・保全・修理(Operations, maintenance and repairs)
ほとんどの国においては、区分所有者による適切な投票で選ばれた理事会が、 共用部の使用(use)、運営(operation)、再建(rehabilitation/reconstruction)、改良(improvement), 改造(reorganization)に関する決定を行います。 管理者はその間、理事会の要求に応えてその決定を支えます。 管理者はまた、共用部全般に関する日常的な保全、修繕及び管理運営を行うと共に、 必要な設備と備品の購入を行います。 管理者の活動は公式の保全作業の指導書と運営マニュアル、 又は職業的専門管理者の経験の範囲内で業務を行っています。 (1) 点検・検査 (Inspection)建物の構造、各部、外壁・外構、及びその他の附帯構造物、屋外スペースなど, 対象物の性能・品質などの状態を技術的に評価する、共用部の保全と改善のための点検計画を作成し、 毎年定期的に検査を行わなければなりません。 最初の点検を実施するときは、管理組合で将来の技術的管理の基礎を確立するときでもあります。 それゆえに、十分な時間と注意を払わねばなりません。 点検時期を遅らせることは、初期の点検の実施結果とその経験から得られる利益にとって、 重要な結果を招きます。 事業年度の終了がカレンダー月の年末だと仮定すれば、 秋が過ぎて次年度の予算編成に多大の時間がとられる年末の時期を考慮すると、 点検時期はその前に設定しなければなりません。 "検査"という言葉(The word“inspection”)は、定期検査(regular service inspections)の意味で使用されます。 管理組合の業務における運営と保全の一部です。 日々の点検と定期検査をはっきり区別することが重要です。 加えて、管理組合内で行う検査では、 管理者は必要に応じて、行政や政府機関の検査部門からの技術的支援を受けるべきです。 (a) 責任 (RESPONSIBILITY) 管理者と理事会には定期検査の履行責任がありますが、実際にやることとしては、 検査者に評価権限を与えることだけです。 検査は技術者と管理人の2名で行うこと、並びに、 技術的な問題に関しては熟練した職人又は専門家の意見を聞くことを推奨します。 (b) 検査報告書 (REGISTRATION AND REPORT) 「点検と保全の目的たる対象物」(objects of operation and maintenance objects)の定型様式は、 報告書を作成する上で役にたちます。モデル規定を付録11につけました。 付録11 点検業務管理表 参照 完全なる定期検査報告書を構成する様式には全ての記載事項と共に他の建築材料に関する参考資料も添付されます。
(b) 標準的な様式に独自の異なるカテゴリーを追加することができます。
検査が終了して報告書を提出した後で、異なる意見を受けることがあります。 すべての対象物は良く考えた上で分類しなければなりません。 幾つかの対象物は、型式、状態と年数など複数の分類項目にまたがることがあります。 この章の3.6.2「運営」で示した「点検カード」(Activity cards)は、 この指針検討委員会において「点検に関する活動」(section “Operational Activities”) において議論された課程で、対象物を各分類項目別に分けたものです。 (c) この項目「点検の種別」(“type of activity”)は、主となる活動の広い概念から 取り上げるべき作業又は活動に個別化して用いなければなりません。 それが、この「点検カード」の注意点です。 (d) 最後の項目「注釈/参考」(“comments/references”)は、すべての目的に使用できます。 短い注釈(short comments)は注記(notes)です。主として用いられるのは「参考」(“references”)です。 定期検査を通じて見えてくるものは、考え方(thoughts and ideas) (訳注:thought は理性に訴えて心に浮かんだ考え; idea は心に描く考え)であり、 短くは表現できません。 ほとんどのケースで必要なのは、対象物の状態と、 取るべき対策を出来る限り詳細に記述しなければならないということです。 それゆえに、検査者は、参考意見を含めて将来に展開できるよう詳細な報告書を作成しなければなりません。 参考意見はまた、専門家や熟練者及び製造者のマニュアルやサービスガイドに活かされます。 (2) 運営 (Operations)運営とは建物とその環境を含む要素を維持していく日々のすべてのサービスを意味します。 実際には、よりよき生活を可能にするために、共同住宅を適正に維持して良い状態に保つことであり、 そのために注意深く計画を練り上げ、そして実践していくことです。 そのような計画づくりの基本となるのが検査報告書です。 (a) 点検活動 (OPERATIONAL ACTIVITIES) 付録11 点検業務管理表(form “operation and maintenance objects”)において、
すべての対象物に関する点検業務は点検対象ごとに個別化される必要があります。
これらの対象物の点検名称と個別化された番号が「点検カード」(Activity cards)に示されています。
このカードの目的は、特別な点検対象物に対して、責任を引き受ける作業=仕事を記述していくことにあります。
階段や通路を清掃すること、熱源システムの毎日又は毎週の点検、又は排気孔のフイルターの交換、 これらの活動は定型作業として或いは指示により詳細に規定されていなければなりません。 カードはまた、毎日か、週単位か、月単位か、季節単位かの周期を規定していなければなりません。 また、このカードには専門技術者との契約による点検作業も含まれます。 幾つかの活動の記述には、実務的なノウハウと技術的情報、点検指導書、 法律や規則が基礎になっているものもあります。 専門家、製造者、契約者他の参考になる文書も実行可能なら追加されるべきです。 管理者と理事会は、「点検カード」を作成する義務があります。
とはいえ、
実際に作成する作業は、点検・検査を通じての助言や専門家からの必要な支援を受けて実行することになります。
このカードは綴じて保存し、作業の説明書として、或いは建物の構成要素が変更になったときに、 カードもまた編集更新されなければなりません。 (b) 運営経費の算定 (CALCULATION OF OPERATING COSTS) 運営経費は次の二つのタイプに分けることができます。
費用の算定とその公開は幾つかの目的と意図に役立ちます
年次予算の編成課程では運営経費として計上されます。
そこでは共用部の経費から区分所有者の負担分が計算されます。
前年度の実績費用は前年度の事業年度における費用管理上の基礎的資料として重要な情報です。 すべてのサービス経費は請負契約により確定しているものと、変動的市場価格で決まるものがあります。 人件費は、フルタイムの雇用契約によるものと、作業量に応じてパート契約にするものがあります。 清掃作業費には二通りの計上方法があります。
費用の分類は(b)に示すように、通常の活動名称とは異なる場合があります。 最も多いケースは、請負又は外部契約企業から供給をうけている例です。 これらの経費は直接、運営予算に計上されます。 (c) 運営活動の決定的な優先権と評価尺度 運営経費として計上された請負作業の実施者及び契約者はその作業の供給について査定評価を受けています。
この作業の特徴として建物及び周囲環境の共用のスペースと設備に関する日々の作業の必要性に基づいていることが挙げられます。
管理者/理事会の責任は優先順位を評価し、決定を下し、定期総会に年間活動計画及び予算案を提示することです。 (d) 運営経費予算 (OPERATING BUDGET) 運営経費予算は、運営活動にかかわるすべての活動、サービスの供給、
通常の日々の共用部及び環境の管理に必要な経費、たとえば次の経費が含まれます。
運営経費は年次予算の一部です。予算における経費は共用部の管理に係る費用です。 経費は管理組合によってカバーされますが、運営予算上は提供されない区分所有者の専有部に関係する経費でもあります。 管理者/理事会は、運営経費予算を年次予算の一部として定期総会に公表しなければならない義務があります。 運営経費予算は前年度の予算を丸写しすべきではありません。新規に評価、計算、請負契約をすべきです。 費用は、定型見本(付録13 管理費予算書の定型様式)で示した予算上のそれぞれのグループとポジションに変換されます。
運営費予算を完結するために、共用部に関するサービス経費は14番以下に示されています。
管理組合の保険料は15番、税金は16番に、保安監視費は17番に示しています。
付録13 管理費予算書の定型様式で示した運営費予算は、すべての供給サービスが、 財政的にコントロールできることをベースとして用いられることを前提にしています。 この提示した見本様式は、管理組合の年次予算書として入力できるようになっています。 (e) 点検活動の指示書と報告書 (OPERATIONS INSTRUCTIONS AND REPORT) 上記で示した管理組合の運営手順についての解説は 日々の運営に関する定型業務を計画し、実行することについて示したものです。 実際の点検業務の処理手順を以下に示します。 考えられる取り組み方としては作業指示を与える、 或いは作業手順書、月次定期作業の場合の毎月の報告書などです。 「点検カード」にあるそれぞれの作業/対象物−継続的・周期的な(日、週、月ごとの)作業−
については、この点検カードの Activity の項目で作業手順を指示する事になります。
管理者、理事会、又は権限を与えられた人は、月次の作業指示と報告書を準備する責任があります。 作業指示書は管理者または理事会の承認を得なくてはなりません。 (f) 保全と修繕 (MAINTENANCE AND REPAIRS) 新築の近代的建築物の保全と修繕に関しては、注意深く保全・修理計画が準備され、 必要な注意が払われて、それが実行される限りにおいては典型的かつ顕著に長期の管理がしやすくなっています。 一方、古い建物においては、経年劣化によるたびたびの修繕を必要とし、設備においては、 保全に努めたとしても余りに古すぎて所定の水準が保てないこともあります。 このようなケースにおいては、保全や修繕を繰り返すよりも改善工事を行ったほうが、 長期間で見れば経済的なケースもあります。 この判断の基準となるのが年次定期検査報告書に基づく系統的な保全・修繕計画です。 (g) 計画修繕活動 (PLANNED MAINTENANCE ACTIVITIES) 付録11 「点検業務管理表」(form“operations and maintenance objects”)は、
保全作業のためにすべての対象物を分類したものです。
幾つかの保全作業では、実施日程が、例えば熱配管と装置のオーバーホールは年1回のように、 年間計画の中で、それぞれ異なる周期で計画されていますが、ある活動では例えば、 廊下や階段吹き抜け部の塗装を6年ごとに行う、 などのように年間での繰返し周期を持たないものもあります。 幾つかの作業は非反復性のものですが、検査報告書と突然の故障を防ぐための保全業務は、 計画修繕の基本になっています。例えば、 熱供給システムのバルブ交換や窓枠の交換は、錆びや腐敗という明確な証拠に基づいています。 作業の種別にかまわず、とにかく、作業のための説明書或いは手順書カードには、 作業に必要な情報を詳細に入れることと、 それを作業の優先度を加味して判断を支援し、修正することができるようにすべきです。 幾つかの活動では、実務のノウハウと他の技術的情報、点検手順書、 法律と規則が作業の参考資料として追加されます。 実行可能な参考資料として追加されるべきものに熟練者、製造者、請負契約者その他の資料があります。 管理者/理事会は「点検カード」作成者としての責任があります。 とはいえ、実際の作業にあたっては熟練者の支援を受けるのは賢明な方法です。 「点検カード」は、管理者/理事会、又は権限を与えられた人の承認を得るべきです。 作成された「点検カード」は、製造者の取扱安全注意や保全、 修繕作業の系統的かつ重要な部分について、 内容が正当であることを評価されたものでなくてはなりません。 カードは作業指導に使うだけではなく、予算編成の費用の算定にも使われます。 「点検カード」には請負契約の背景情報としての外部請負作業文書も綴じておきます。 (h) 修繕 (REPAIRS) ある事例では、修繕(Repair)はすぐに実行しなければならない作業で、 その間、他は作業予定表の、或いは資産保全計画上の修理(fit)予定からは遅らせても良いというのがありました。 最近の問題では、保全(maintenance)と修繕(repair)をはっきり区別するのが困難だというのがありました。 一般に、一過性の突発事故で復旧対策に実際に費用が発生するものを修繕(Repair)としています。 管理組合の中で、なぜ修繕が高い優先権を与えられているのかには多くの理由があります。
ひとつには、修繕は居住者にとって公共サービスの供給を、
危険のない、安全な状態に保つために必要だというのがあります。言い換えれば、
もっとひどくなる前に予防するということです。
しばしば、生命の維持に必要な修繕が最初に行われ、費用の心配は後から付いてきます。 しかし、やるべき事を注意を払って規定し、費用の算定又は業者見積査定を厳正に行うことは最も重要な作業です。 (j) 保守料と修繕費の算定 (CALCULATION OF MAINTENANCE AND REPAIR COSTS) 保守料と修繕費を算定し提示する理由にはいくつかあります。
それらは年次報告書の予算編成の課程における保守料と修繕費の入力項目であり、
その中には、共有部における各区分所有者の負担分の算定に使うこともあります。
運営費に関しては経験の差によって算定方法に違いが出ることがあります。
保守料の計画には点検カード(Activity cards:この章の3.6.2「運営」参照)が提供されています。 この中で、保守料と修繕費の合計とその細目が掲載されています。(付録14 修繕積立金予算書の定型様式 参照) 以前までの経験では、前年度の予算書を算定基礎情報として重要視していました。
保全と修繕作業には多くのケースがあり、 特殊な技量(skills)や知識(equipment)、そして労力の消費(labour-consuming)が要求されます。 それゆえに、外部契約者との契約は競合する各社の仕様と価格の比較をした上で、 慎重に行ってください。
いずれにしても、コストデータを事実に基づいて推定することを基本とすることは重要であり、
ノウハウも必要です。
(k) 保全と修繕の決定的な優先権 (DECIDING MAINTENANCE AND REPAIR PRIORITIES) 外部契約者から提示される保守料は優先的に評価されます。 評価の基準は管理組合の財務上の支出とのバランスで決定されます。 それゆえに、技術面及び財務面の両方に優先権を与えることは、結果として、 管理者または理事会が行う査定・評価の重要な責務です。 そしてまた、 定期総会に対して年次予算と年間事業計画の中で最終的な選択肢が提示されます。 (m) 保全と修繕の予算 (MAINTENANCE AND REPAIR BUDGET) 保全と修理の予算は、保全、修繕、交換に関係するすべての費用を計上します。 そして品質と建物の水準を維持し、劣化、故障を防止するために計画を実行していきます。 計画保全(そして計画修繕)は、対象物ごとに費用を算定して予算書で提示されます。
前年度の予算をそのまま写して計上すべきではありません。
予算書に入力すべき勘定項目に関して、 それぞれの予算勘定科目コードが入った完全な定型様式が提供されています。 保全と修繕の予算書を定期総会に提出することは管理者または理事会の義務です。 予算書は会計年度終了前の12月31日、 若しくは管理組合によって決められている定期総会開催日の前に提出されなければなりません。 (n) 保全作業の指示書と報告書 (MAINTENANCE INSTRUCTIONS AND REPORT) 運営活動としての実際の作業は、保全計画書(そして少額の修理計画書)に関連しています。 これらの作業には、作業の指示書と報告書が基礎となっていなければなりません。 指導書は毎月の作業ごとに交付されるものです。 個別の活動又は対象について、その回数と作業手順が記載されています。 指導書は、少額の修理と保全についても、劣化や故障が予想される部分、 及び注意すべき部分についても記載しておかなければなりません。 大規模な修繕や交換には、通常は個別の仕様書と請負者の計画に則り、 実行されることになります。 管理者、理事会、又は権限を付与された人は、月次保全の責任に基づいて、 作業指導書と報告書を準備します。 指導書は管理者、理事会の承認を得なくてはなりません。 (3) 改良工事 (Improvements)築年数が経過してある時期になったら、
建物の経年劣化と財務状態の改善を図ることが必要になります。
そのような改良工事には下記が含まれます。
建物の断熱性能を高めるための追加工事や集会室を売店に改装する(用途変更)、
子供広場(children's playground)の中に小屋(shed)を作るなど、
すべて改良工事の例です。
多くの場合、管理者と理事会は設計・計画・計画実施に向けて外部のコンサルタントと請負契約します。
(4) 運用・保全・修繕の費用管理
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