理事長解任に関する最高裁判決
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理事長解任に関する最高裁判決  平成29年12月18日

目次
 1.事件の経緯
 2.理事長解任に関する最高裁判決
 3.解説

要旨
多くの組合では標準管理規約にならって、理事の互選により理事長を選任すると定めている一方で、 理事長解任については特に規定を設けていない。

(1) 区分所有法25条1項では、「規約に別段の定めがない限り、集会の決議によって、管理者を選任し、 又は解任することができる」とされているから、字義通り解釈すると 規約には解任に関する別段の定めがないので、「管理者の解任は集会の決議による」と解釈される。

(2) 「総会で選任された理事の互選により理事長を選任する」旨の規約規定に従えば、 「理事長を解任し、あらたに理事長を選任すること」も、理事の多数決で決することができると解釈される。

(3) 一審・二審とも(1)を採用し、最高裁は(2)を採用した。

1.理事長解任に関する事件の経緯

事件の経緯:
理事を組合員のうちから総会で選任し、 理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合において、 平成25年1月臨時総会を開催し理事10名を選任、平成25年3月の理事会で理事の互選により理事長(Y)を選任した。

平成25年8月の通常総会において、上記10名に加え新役員5名が選任され15名となった平成25年9月の理事会で、 新役員を含めた役員の役職決定を議題とする理事会を平成25年10月20日に開催することが決定された。

その後、管理会社の選定を巡って理事長(Y)は他の理事と対立。 他の理事から総会の議案とすることを反対されていた管理会社変更案件を諮るため、 理事会決議を経ないまま、 平成25年10月10日、理事長(Y)が臨時総会の招集通知を発した。

同年10月20日、この理事長(Y)が欠席した理事会で、新たにAを理事長として選任、 理事長(Y)を理事に変更する理事会決議をし、更に、平成26年5月18日、 組合員は組合員総数の5分の1以上及び議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、 理事長(Y)を理事から解任すること等を会議の目的とする臨時総会の招集を理事長(Y)とAに対して請求した。

平成26年6月1日、理事長(Y)は理事長名義で会日を同月13日とする臨時総会の招集通知を発した。 これに対し、臨時総会招集請求した組合員は上記招集通知が本件規約48条1項に違反して無効であると主張して、 49条2項に基づく臨時総会の招集通知を発し、平成26年7月5日の臨時総会において理事長(Y)を理事から解任する決議を行い、 同日に開催された理事会で新たにBを理事長に選任した。

Bの招集により平成26年8月に開催された通常総会において、役員を選任する旨の決議がされ、 同年9月の理事会で、Cを理事長に選任する旨の決議がされた。

理事長(Y)はこれらの決議の無効確認等を求めて福岡地裁に提訴した。
組合側は「選任に準じて理事会多数決議で解任できる」と主張。
平成28年3月一審福岡地裁久留米支部判決は「規約上、理事長を含む役員の解任は総会の議決事項」とし、 解任できないと判断。平成28年10月4日二審福岡高裁判決も一審判決を支持した。

最高裁は、「理事の過半数により理事長の職を解くことができる」とした上で、 理事会決議の手続きに問題がなかったか、さらに審理を尽くすよう原審に差し戻した。

2.理事長解任に関する最高裁判決 平成29年12月18日

事件番号 平成29(受)84   
事件名 総会決議無効確認等請求本訴、組合理事地位確認請求反訴事件
裁判年月日 平成29年12月18日 最高裁判所第一小法廷 判決「破棄差戻」
原審裁判年月日 平成28年10月4日 福岡高等裁判所 原審事件番号 平成28(ネ)465

 主 文

原判決中、被上告人の本訴請求に関する部分を破棄する。
前項の部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由 上告代理人ほかの上告受理申立て理由第2点について

原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

(1) 上告人は、福岡県久留米市内にあるマンション「Y」(以下「本件マンション」という。)の管理組合であり、 建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。) 3条前段所定の本件マンションの区分所有者全員を構成員とする団体である。
被上告人は、本件マンションの区分所有者である。

(2) 上告人が定めた本件マンションの管理規約(以下「本件規約」という。)には、 要旨次のような定めがある。

ア 管理組合にその役員として理事長及び副理事長等を含む理事並びに監事を置く(40条1項)。 理事及び監事は、組合員のうちから総会で選任し(同条2項)、理事長及び副理事長等は、 理事の互選により選任する(同条3項)。 役員の選任及び解任については、総会の決議を経なければならない(53条13号)。

イ 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括する(43条1項)。 理事長は、区分所有法に定める管理者とする(同条2項)。

ウ 理事長は、通常総会を、毎年1回新会計年度開始以後3箇月以内に開催しなければならない(47条3項)。 理事長は、必要と認める場合には、理事会の決議を経て、いつでも臨時総会を招集することができる(同条4項)。 総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前までに、会議の日時、場所及び目的を示して、 組合員に通知を発しなければならない(48条1項)。

エ 組合員が組合員総数の5分の1以上及び議決権総数の5分の1以上に当たる組合員の同意を得て、 会議の目的を示して総会の招集を請求した場合には、理事長は、 2週間以内にその請求があった日から4週間以内の日を会日とする臨時総会の招集通知を発しなければならない(49条1項)。 理事長が同項の通知を発しない場合には、同項の請求をした組合員は、臨時総会を招集することができる(同条2項)。

オ 理事は、理事会を構成し、理事会の定めるところに従い、管理組合の業務を担当する(45条1項)。 理事会は、理事長が招集する(57条1項)。理事会の招集手続については48条の規定を準用する(57条3項)。 理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する(58条1項)。

(3) 平成25年1月に開催された上告人の臨時総会において、被上告人を含む役員10名が選任され、 同年3月に開催された上告人の理事会において、理事の互選により、被上告人が理事長に選任された。

(4) 平成25年8月に開催された上告人の通常総会において、上記(3)の役員10名に加え、新役員5名が選任された。 平成25年9月に開催された上告人の理事会において、役員15名のうち13名出席の下、 同年10月20日に新役員を含めた役員の役職決定を議題とする理事会を開催することが決定された。

(5) ところが、被上告人は、平成25年10月10日、理事会決議を経ないまま、 他の理事から総会の議案とすることを反対されていた案件を諮るため、理事長として臨時総会の招集通知を発した。 このようなことから、同月20日に開催された上告人の理事会において、 被上告人を除く役員14名のうち11名(理事10名、監事1名)出席の下、本件規約40条3項に基づき、 理事10名の一致により、Aを被上告人に代わる理事長に選任し、 被上告人の役職を理事長から理事に変更する旨の決議(以下「本件理事会決議」という。)がされた。

(6) 上告人の組合員は、平成26年5月18日、被上告人及びAに対し、本件規約49条1項所定の割合の組合員の同意を得て、 同項に基づき被上告人を理事から解任すること等を会議の目的とする臨時総会の招集請求をした。 そして、被上告人は、同年6月1日、理事長名義で会日を同月13日とする臨時総会の招集通知を発した。

しかし、上記招集請求をした組合員は、上記招集通知が本件規約48条1項に違反して無効であると主張して、 本件規約49条2項に基づき臨時総会を招集した。

上記組合員の招集により平成26年7月5日に開催された上告人の臨時総会において、 被上告人を理事から解任するなどの決議(以下「本件総会決議」という。)がされ、同日開催された上告人の理事会において、 Bが理事長に選任された。

(7) Bの招集により平成26年8月に開催された上告人の通常総会において、役員を選任する旨の決議がされ、 同年9月に開催された上告人の理事会において、Cを理事長に選任する旨の決議がされた(以下、上記の総会決議及び理事会決議を 併せて「その余の決議」という。)。

本件本訴は、被上告人が、上告人に対し、本件理事会決議、本件総会決議及びその余の決議の無効確認等を求めるものである。 被上告人は、本件理事会決議の無効事由として、決議の内容及び手続の本件規約違反を主張している。

原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件理事会決議、 本件総会決議及びその余の決議の無効確認請求を認容すべきものとした。

(1) 本件規約は、区分所有法に定める管理者である理事長(43条2項)を理事の互選により選任する旨を定めているが(40条3項)、 これは解任についての定めではないこと、理事長を管理組合の役員とし(同条1項)、 役員の解任は総会の議決事項とする旨を定めていること(53条13号)等からすると、本件規約40条3項を根拠として、 理事長の地位を喪失させることは許されないと解すべきである。 そうすると、被上告人の役職を理事長から理事に変更する旨の本件理事会決議は、本件規約に違反して無効である。

(2) 本件総会決議は、本件規約49条1項に基づく総会の招集請求に対し、 上記(1)のとおり本件理事会決議により理事長の地位を喪失したとは認められない被上告人が、 理事長として適法に同項所定の臨時総会の招集通知を発した以上、同条2項の要件を欠き、その招集手続に瑕疵があるから無効であり、 本件総会決議が有効であること等を前提とするその余の決議も無効である。

しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。 その理由は、次のとおりである。

(1)ア 区分所有法によれば、区分所有者は、全員で、建物等の管理を行うための団体を構成し、 同法の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができるとされ(3条)、 規約に別段の定めがない限り、集会の決議によって、管理者を選任し、又は解任することができるとされている(25条1項)。

そうすると、区分所有法は、 集会の決議以外の方法による管理者の解任を認めるか否か及びその方法について 区分所有者の意思に基づく自治的規範である規約に委ねているものと解される。

イ そして、本件規約は、理事長を区分所有法に定める管理者とし(43条2項)、 役員である理事に理事長等を含むものとした上(40条1項)、 役員の選任及び解任について総会の決議を経なければならない(53条13号)とする一方で、 理事は、組合員のうちから総会で選任し(40条2項)、その互選により理事長を選任する(同条3項)としている。

これは、理事長を理事が就く役職の1つと位置付けた上、総会で選任された理事に対し、原則として、 その互選により理事長の職に就く者を定めることを委ねるものと解される。

そうすると、このような定めは、理事の互選により選任された理事長について理事の過半数の一致により理事長の職を解き、 別の理事を理事長に定めることも総会で選任された理事に委ねる趣旨と解するのが、 本件規約を定めた区分所有者の合理的意思に合致するというべきである。 本件規約において役員の解任が総会の決議事項とされていることは、上記のように解する妨げにはならない。

ウ したがって、上記イのような定めがある規約を有する上告人においては、理事の互選により選任された理事長につき、 本件規約40条3項に基づいて、理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができると解するのが相当である。

(2) これを本件についてみると、前記事実関係等によれば、本件理事会決議は、 平成25年10月20日に開催された上告人の理事会において、理事の互選により理事長に選任された被上告人につき、 本件規約40条3項に基づいて、出席した理事10名の一致により理事長の職を解き、理事としたものであるから、 このような決議の内容が本件規約に違反するとはいえない。

以上によれば、これと異なる原審の上記3(1)の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。 また、本件理事会決議が無効であり、 被上告人の役職が理事長から理事に変更されたとは認められないことを前提として本件総会決議を無効とし、 本件総会決議を前提とするその余の決議を無効とした原審の上記3(2)の判断にも、 判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

論旨は以上の趣旨をいうものとして理由があり、原判決中被上告人の本訴請求に関する部分は破棄を免れない。 そして、本件理事会決議の手続の瑕疵の有無等について更に審理を尽くさせるため、 同部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大谷直人 裁判官 池上政幸 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官 山口 厚)

 3.解説

 (3.1) 管理者の解任に関する規定

(3.1.1)区分所有法第28条では管理者の権利義務は委任に関する規定に従うとあるので、任期途中で解任するときは、 解任するにやむを得ない事情がある場合を除き、損害賠償責任が生じます。(区分所有法第28条、民法651条2項)

(3.1.2)管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは、各区分所有者の固有権として、 その解任を裁判所に訴えの形式をもって請求することができます。(区分所有法第25条2項) その解任を命ずる判決の確定により解任の効力を生じます。

(3.1.3)手続きに瑕疵があったとしてもその決定が当然に無効になるわけではなく、 「軽微な瑕疵」及び「瑕疵の治癒」という考え方があります。 軽微な瑕疵とは、法的には無視して差し支えない程度の瑕疵の存在を認めること、 瑕疵の治癒とは、瑕疵ある行為が為されたが、事後的に当該瑕疵が追完されることです。 どちらも慎重な考慮のもとで、例外的に認められています。

(3.1.4)どこかでボタンを掛け違えてしまうと、法令や規約の解釈で解決できる問題ではなくなる。 上記1〜3を根拠として下した原審判断を覆す一方で、最高裁が最終判断を避けて原審に差し戻した理由は、 理事会決議の手続の瑕疵、つまり合意形成の手続きに問題がなかったか、 組合自治の本質に戻って、もっと審理を尽くせということでした。

 (3.2) 理事会の合意形成の重要性

(3.2.1)理事会内部での意見の対立はどんな組合でも普段にありえることで、 大事なのは、対立をどのようにして乗り越えて理事会としての合意をまとめていくかということであって、 区分所有法26条に定める理事長の権限の行使を独断専行する、或いは、「多数」という名のもとに議論を封じる、 対立相手を排除するなどは紛争の解決にはつながらず、むしろ対立を激化させてしまう。

(3.2.2)特に、管理会社に関する問題は、組合内部で深刻な対立を生むことが多く、そのような事態を避けるためには、 理事会内部で透明性を確保し、問題と情報を全理事で共有し、理事同士の結束を図ることが何よりも重要になります。   (参考)  「管理組合における合意形成のプロセス」

 (3.3) 新たな規約改正の必要性を求める意見

 今回の最高裁判決によって「理事長を理事の互選で選任する規約のもとでは、 理事長を解任することも、総会決議によらずに理事の過半数の一致でできる」という判例が確立されましたが、 一方で、理事会内部の紛争によって、組合の代表者である理事長が都度に変わると、 管理を安定的に行うという見地からは適切ではないため、 「理事長解任は総会決議による」という規約改正が望ましいという意見もあります。

規約で理事長解任手続きを定めた場合は、市民法秩序と直接関係を有しない問題に限っては、 団体内部の自立的判断及び規範(管理規約)に任せられ、司法審査の対象とならず、 法律上の争訴性は否定される。

 (3.4) この裁判の根本的な問題点

  (参考)  判例比較論:紛争の解決に向けて

2018.5.17 掲載