「管理組合会計 目次」 > 【前頁】 4.4 財産の分別管理 > 4.5 分別管理していても > 【次頁】 4.6 区分経理

4.5 分別管理していても

分別管理していても

分別管理していたら、管理組合の財産は保全されるかというと、残念ながらそうともいえないのです。
何が必要なのかを下記の事例から考えてみましょう。

4.5.1 管理会社が破産宣告した後で取り戻すのに7年間・・・

平成4年11月

平成4年(1992年)11月5日、豊栄土地開発が自己破産し、続いて11月25日に子会社のマンション管理会社(株)榮高も破産した。 豊栄土地開発が分譲し、榮高が管理していたマンションは首都圏に31物件あった。 そのうち、18のマンションの管理組合は榮高の経営の行き詰まりを知った後ただちに交渉して、 約5億の修繕積立金・管理費の預金は、榮高から管理組合に戻されています。

一方、管理のすべてを管理会社の榮高に任せっきりで、区分所有法上に定められた管理者も榮高が行っていた13のマンション の約3億円の預金は区分所有者に戻って来なかった。 そのうち8マンションの定期預金2億円は榮高から親会社豊栄の銀行の借金の担保に差し出されていたため、 榮高の破産の後、平成5年1月、銀行が預金担保相殺の手続きを行っています。

平成5年1月

平成5年(1993年)1月、榮高の破産管財人は、「取り戻せない13マンションと取り戻した18マンションとに分かれるのは不公平である。 また、18マンションに戻した5億円のうち3億円の預金は榮高が出し入れしていたのだから管理組合の財産ではなく、 榮高の財産であり、榮高(破産財団)に返すべきである」として、取り戻した18管理組合に対し、 理事長名義以外の預金3億円は榮高の財産だとしてそのうち50%を榮高(破産財団)に返すよう求めてきた。 そして、返還しなければ、「否認権行使」の訴訟を起こすと主張した。

破産法の否認権行使とは破産管財人は破産会社が成した行為を否認することが出来るというもので、 具体的には、榮高が18管理組合に預金を戻した行為を偏頗(へんぱ)な弁済 (普通、倒産のどさくさに紛れて、偏った不公平な支払いをした場合をいう)であるとして、それを否認し、 18管理組合から破産財団に返還させ、債権者全体に公平に配分しようとするもの。

取戻し18管理組合の主張
これに対し、預金を取り戻した18管理組合側は、 3億円の預金は修繕積立金・管理費等、管理組合が自分たちのマンションの将来の大修繕に備えて、 こつこつと蓄えたものであり、管理組合の固有の財産であることは明白であり、榮高(破産財団)に返す必要はないと拒否した。

未返還組6マンションの銀行訴訟
平成6年、取り戻せなかった13マンションのうち6マンションは、定期預金を担保に取った、 さくら・三和・三菱の3銀行に対し、「定期預金の名義は榮高名義だったが(株)榮高○○口などと、 マンション名が付いており、元々マンションのものであることは銀行も知っていたはずである、 銀行の担保徴求は横領の共犯にも等しい行為だ。」として、定期預金をマンション管理組合に返還するよう東京地裁に訴訟を起こした。

管財人の調停申立
平成6年11月、破産管財人は、このままでは否認権行使の訴訟の時効(破産宣告後2年)が成立してしまうため、 取り戻した18管理組合に対し、東京簡易裁判所に調停を申立て、取り敢えず時効の中断を図り、 また調停の中で解決したいと考えた。 そして、調停の内容は未返還6マンションのさくら等3銀行訴訟の判決結果を見て検討するとした。

銀行訴訟の東京地裁の判決
平成8年5月、さくら銀行と三和銀行関係を相手取った6マンションの訴訟の判決が出ます。

一審判決
「預金は管理組合の名義にはなっているが、 その管理方法は全て管理会社に一任され、預金証書、銀行届出印鑑も榮高が管理し、 管理費等の出納だけでなくその保管をも併せて一括して榮高に委託する契約であるから、 占有者が即所有者であり、本件預金は榮高に帰属する。従って銀行の相殺は認められる。 管理会社榮高に預金の処分権限があり、マンション側には処分権限がなかったので、 預金は榮高のもの。銀行への担保差しれは全く問題ない。」

なお、平成10年1月に、三菱銀行相手の東京地裁での訴訟について判決が出たが、 さくら・三和と同様の理由で銀行側が勝ち、マンション側が東京高裁に控訴した。

このように一審判決では全て銀行側が勝訴し、マンション側の主張はことごとく棄却されました。 敗訴した未返還6マンションはこれを不服として、東京高裁に控訴します。

平成11年8月
マンション管理費等積立金事件控訴審判決 (平成11年8月31日東京高裁)で、 ようやく管理組合の主張が認められることになります。

この勝訴の原因となったのが、実はこの管理会社はきちんと財産の分別管理を行っていて、 マンションごとに専門の預金口座があり、該当口座でそのマンション以外の入出金がなく、 その資金で定期預金が作られ、かつ会社とマンションとの資金・財産が明確に分離され管理されていた ということが裁判所でも認められることになったものです。

管理会社の倒産から、この控訴審判決を得るまで実に7年もかかっています。

榮高倒産事件 高裁判決(抜粋)

(注)【 】内の表記は本Hpでの編集用注記です。判決文には記載ありません。

平成11年8月31日東京高裁  
平成八年(ネ)第2630号、第2632号、第2688号、第2698号預金返還請求・各当事者参加控訴事件
  (原審 東京地方裁判所平成6年(ワ)第10840号、第12923号、第13516号、第18179号、
   第18184号第18185号、平成7年(ワ)第137号事件)
   (平成11年1月28日 口頭弁論終結)

判    決

 東京都中央区京橋一丁目四番一〇号 大野屋京橋ビル四階
 第二六三〇号事件控訴人
 第二六三二号、第二六八八号、第二六九八号事件被控訴人
 破産者 株式会社榮高                            
 破産管財人 ○○ ○○
 右訴訟代理人弁護士 ○○ ○○
     同      ○○ ○○(以下代理人弁護士8名)

 大阪市中央区伏見町三丁目五番六号
  全事件被控訴人  株式会社 三和銀行
  右代表者代表取締役 ○○ ○○
  右訴訟代理人弁護士 ○○ ○○
     同       ○○ ○○(以下代理人弁護士6名)

 東京都港区○○丁目○○番○○号
  第二六三〇号事件被控訴人
  第二六三二号事件控訴人
                 アンバサダー六本木
                 管理組合法人
     右代表者理事       ○○ ○○

 【以下、同様に関係する五つの管理組合とそれぞれの訴訟代理人弁護士名が続く】
 (ルイマーブル乃木坂、ジャルダン元麻布、アルベルゴ上野、赤坂ベルゴ、アルベルゴお茶ノ水)

主   文

一 破産者株式会社榮高破産管財人○○○○の本件控訴を棄却する。
二 原判決の主文第二項を取り消す.
三 1 破産者株式会社榮高破産管財人○○○○とアンパサダー六本木管理組合法人との間において、
   別紙預金目録1、7及び14の各定期預金債権がアンバサダー六本木管理組合法人に属することを確認する。
  2 株式会社三和銀行は、アンパサダー六本木管理組合法人に対し、金18,212,960円及び右金員のうち、
   別紙預金目録1、7及び14のそれぞれにつき、各元本額欄記載の金額に対する各預入日欄記載の日の
   翌日から支払済みまで各利率欄記載の割合による金員を支払え。
 【以下同様につき金額のみ記載】
四 ルイマーブル乃木坂   10,000,000円
五 ジャルダン元麻布     4,184,000円
六 アルベルゴ上野       4,886,307円
七 赤坂ベルゴ         3,152,268円
八 アルベルゴ御茶ノ水   6,934,991円

     (中略)

事    実

第一 当事者の求めた裁判
      (省略)
第二 本件事案の概要
      (省略)
第三 当事者の主張
      (省略)
第四 証拠
  証拠の関係は、原審及び当審記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理   由

一 甲事件並びに乙、丙、丁、戊、己及び庚事件の各請求原因の1の事実、
   別紙預金目録記載の各定期預金がされていることは当事者間に争いがない。
   また、弁論の全趣旨によれば、乙、丙、丁、戊、己及び庚事件の
   請求原因2の事実が認められる。

二 本件各定期預金の原資、預金者の名義、管理状況等については、以下の事実が認められる。

 1 参加人らのマンション、コート蒲田、高島平グロリアハイツ及び
   白金台グロリアハイツの管理規約及び各区分所有者と榮高との間の管理委託契約書において、
   管理費等について、次のとおり定められていた(甲第五号証の一ないし九)。

 (一)各区分所有者は、建物共用部分及び土地の通常の管理費を負担する。
   この負担は、管理員人件費、損害保険料、エレベーター設備その他の機械の定期保守費及び動力費、
   廊下灯等の電力料金及び電球の取替費、共用部分の水道・光熱費、管理委託報酬、
   その他共用部分の維持管理に要する一切の費用である。
   管理費は、毎月、管理者に支払う。
   管理費の剰余金は管理預り金として積み立てる。不足した場合はそれを取り崩して充当できる。

 (ニ)各区分所有者は、毎月、修繕積立金を管理者に支払う。
   修繕積立金は、一定の方法で積立て、管理者がこの管理に当たり、理由の如何を問わず払い戻さない。
   修繕積立金を取り崩して修繕費に充て、なお不足する場合は管理者は追加徴収することができる。

 (三)各区分所有者は、保証預り金として、管理費及び修繕積立金月額の三か月分に相当する額を
   建物引渡しを受けたときに管理者に預け入れる。
   保証預り金は、建物引渡し日から五年後又は各区分所有者がその資格を失った場合に無利息にて返還する。
   区分所有者が管理委託契約に基づき管理者に債務を負担している場合は、
   管理者は任意に保証預り金をもって区分所有者の債務の弁済に充当できる。

 (四)庚事件参加人のマンション(赤坂ベルゴ豊栄)は、敷地の一部が借地であったため、
   同マンションについては、区分所有者は、以上の費用のほか借地料を毎月管理者に
   支払う旨定められていた。

  (五)給湯設備のあるマンションでは、各区分所有者は、毎月、給湯基本料金を管理者に支払う。

  (六)竣工から一定期間は榮高が管理者になるものとする。任期満了に際して特に集会の決議に
   よって解任されない場合は、任期はそのまま更新継続するものとする。
   管理者(榮高)の行う業務の範囲は、建物、その敷地及び付属施設の管理並びに環境の維持に
   必要な一切の業務であるが、その中には、経理事務として、管理費、修繕積立金、保証預り金、
   借地料及び給湯基本料金(以下、これらを併せて「管理費等」という。)の金銭の処理、
   収納保管が含まれている。

 2 榮高では、各マンションの所在する場所の近くの金融機関に榮高名義の普通預金口座を開設し
   (参加人らの平成九年一月二八日付け準備書面によれば、アンバサダー六本木はさくら銀行六本木支店、
   アルベルゴお茶ノ水は住友銀行神田支店、ルイマーブル乃木坂は三菱銀行六本木支店、
   ジャルダン元麻布はさくら銀行八重洲口支店、アルベルゴ上野はさくら銀行上野駅前支店、
   赤坂ベルゴはさくら銀行赤坂支店である。)、区分所有者は管理費等をこの口座に振り込んで支払った。
   右普通預金口座には、他のマンションの管理費等や榮高固有の資金等は一切入金されなかった。

   榮高は、この普通預金口座から管理に要する諸費用と榮高が受領すべき管理報酬を支出し、
   管理費の残余金(剰余金)や修繕積立金等が一定金額に達したときにこれを定期預金にしていた。
   本件各定期預金はこのような管理費の剰余金や修繕積立金等を原資として、
   各マンションごとに別個の預金として、開設されたものである。

   なお、通常の修繕の費用は前記の「共用部分の維持管理に要する一切の費用」として
   管理費から支出されるが、大規模な修繕を要する場合には、管理組合の総会の決議
   (管理組合がない場合には全区分所有者の賛否を問い、三分の二程度以上の賛成による。)を経て
   修繕積立金を取り崩して修繕費用に充てることとしていた。

   また、大規模な工事を実施する場合には、区分所有者の負担を少なくするために、
   管理預り金(管理費積立金ともいう。)を修繕積立金に振り替えることも行われていた。
   修繕積立金に振り替えられると、その使途が大規模な修繕の費用のためだけに限定されることになる。
    (甲第二三号証、当審証人○○○○及び○○○○の各証言、弁論の全趣旨)

 3 目録1ないし11の定期預金及び目録15の定期預金については、以下のとおり、
    その書替前の預入時等に作成された書類の預金者の名義の欄にマンション名が付記されていた
    ことが認められる。

 (一)目録1の定期預金
    当初昭和五七年八月三〇日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが(乙第四号証)、
    右同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社榮高 代表取締役○○○○」との記
    載のほかに、「アンパサダー六本木」とゴム印を押捺したと思われる方法によって付記されており
    (乙第九号証)、昭和五八年四月一四日付けの定期預金担保差入証(兼記入帳)の「おなまえ」
    欄にも「株式会社榮高 代表取締役○○○○」との記載のほかに「アンバサダー六本木」と手書きで
    付記されている(乙第二二号証)。

 (ニ)目録2の定期預金
    当初昭和五七年八月三〇日に預け入れられた定期預金が書き替えられたものであるが(乙第四号証)、
    右同日付けの定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には、「株式会社榮高 代表取締役○○○○」との
    記載のほかに、ゴム印を押捺したと思われる方法によって「コート蒲田」と付記されており
    (乙第八号証)、昭和五八年四月一四日付けの定期預金担保差入証(兼記入帳)の「おなまえ」
    欄にも「株式会社榮高 代表取締役○○○○」との記載のほかに手書きで「コート蒲田」と
    付記されている(乙第二二号証)。

  【以下、同様に関係する各管理組合の預金名義についての説明が続く】(三〜九省略)

 (十) なお、目録12ないし14の各定期預金は、昭和五六年一二月四日(目録12及び13の各定期預金)
    又は昭和五四年一一月一二日(目録14の定期預金)に預け入れられたものが一旦解約されているが
   (乙第四号証)、解約前の「預金担保付借入申込書」の榮高の控えには、「おなまえ」欄に
   「株式会社榮高 代表取締役○○○○」との記載のほかに、手書きで「アルベルゴお茶の水」
   (目録12の定期預金の解約前のもの)、「赤坂ベルゴ」(目録13の定期預金の解約前のもの)、
   「アンパサダー六本木」(目録14の定期預金の解約前のもの)とそれぞれ付記されている。

   また、当審証人○○○○及び○○○○は、榮高がマンションの管理費等を原資とする定期預金を
   する際には、必ず預金名義にマンション名を付記していたと証言しており、
   甲第四八号証(豊栄土地開発の財務部社員であった○○○○の陳述書)には、
   榮高が一審被告京橋支店で開設した各マンションごとの定期預金については、
   他のマンション又は榮高の固有資産との混同を避けるために、
   「(株)榮高○○マンション(口)」というようなマンション名を入れた預金名義にした、
   との記載がある。

   これらの証拠と右(一)ないし(十)に認定した事実を併せ考えると、
   少なくとも書き替えられる前の当初の時点では、本件各定期預金を含め右のような榮高の
   定期預金の預金者の名義には各マンション名が付記されていた可能性が大さいということが
   できる。

   (もっとも、一審原告作成の調停申立書である丙A第二号証の一には、
   管理費の剰余金及び修繕積立金は適宜定期預金に振り替えられていたが、
   右定期預金については、「株式会社榮高」、「株式会社榮高○○マンションロ」、
   「○○管理組合管理代行株式会社榮高」、「○○管理組合理事長○○○○」
   といった四種の名義が併用されていた、とあり、必ずマンション名が付記されて
   いたとは限らないと思われる。)。

 4 さらに、マンションの管理費の剰余金等を原資として榮高がした定期預金の名義については、
   以下の事実も認められ、多くの定期預金についてマンション名が付記されていたことが裏付けられる。

  (一)平成四年八月三一日に一審被告(京橋支店取扱い)に預け入れられた定期預金の定期預金通帳
   の名義は「株式会社榮高 アンバサダー六本木 代表取締役○○○○」となっており、
   その定期預金印鑑届の「おなまえ」欄には「株式会社榮高 代表取締役○○○○」との記載のほかに、
   手書きで「アンパサダー六本木」と付記されている(甲第二五号証、丙B第一号証、乙第二一号証)。

  【以下、同様に関係する各管理組合の預金名義についての説明が続く】(二〜十一省略)

 5 榮高では、第一〇期(昭和五九年九月一日から昭和六〇年八月三一日)までの決算報告書に、
   おいては各マンションの管理費の剰余金等を原資とする定期預金を貸借対照表の資産の部
   に計上し(ただし、各マンション名を付記していた。)、各マンションの保証預り金、
   積立金、駐車場積立金、管理金預り金等を「マンション管理預り金」として貸借対照表の
   負債の部に計上していたが(甲第六号証の一ないし四)、顧問の公認会計士から
   そのような経理処理は適切ではないとの指摘を受けて、第一一期(昭和六〇年九月一日
   から昭和六一年八月三一日)からの決算報告書では、右定期預金を資産として計上せず、
   「マンション管理預り金」も負債として計上しないこととした
   (甲第一一号証、第一三ないし第一八号証)。

 6 管理委託契約においては、榮高は毎年一回八月末日に過去一年間の管理事務の決算をする
   ものとし、その会計報告並びにその他の主たる管理事務に関する報告を一一月末日
   までに行うものとする、と定められており(甲第五号証の一ないし九)、榮高は、
   毎年、各マンションごとに「管理費収支決算書」等を作成して、全区分所有者に
   配布するとともに、管理組合のあるマンションについては、各マンションの管理組合
   の決算期ごとに各管理組合の総会において報告を行い決議を得ていた。

   右書面には、管理費収支決算書、修繕積立金収支決算書及び貸借対照表が含まれており、
   そのほかに、マンションによっては、水道料金決算書、給湯料金決算書が含まれている。
   貸借対照表の資産の部には管理費の余剰金等を原資とする定期預金も記載されている。

   また、管理費収支決算書の収入の部には前期繰越金、管理費、駐車場使用料等が記載され、
   支出の部には管理員業務費、事務管理費、清掃業務費、エレベーター保守費等の種々の
   費用が記載されている。

   修繕積立金の収入の部には前期繰越金、修繕積立金のほかに定期預金利息が計上されており、
   支出の部には修繕工事の費用が計上されている。
   (甲第七号証の一ないし九、第四六、第四七号証の各一、二、丙A第一号証の一ないし三、
   丙D第一号証の一ないし三、第二号証の一ないし九、丙E第一、二号証、
   当審証人○○○○の証言、弁論の全趣旨)

   なお、甲第七号証の一ないし九の中の貸借対照表は、本件相殺及び本件弁済後の
   平成四年一一月三〇日現在で作成されているために、本件各定期預金のうちには
   これらの貸借対照表には記載されていないものがあるが、本件各定期預金が記載されて
   いるものは以下のとおりである。

   すなわち、甲第七号証の三には目録3の定期預金が、第七号証の四には目録4の定期預金が、
   丙D第一号証の二には目録5及び15の定期預金の合計額である四八八万六三〇七円が、
   丙D第一号証の三には目録15の定期預金が、甲第四七号証の一、二(丙E第一、二号証)
   には目録12の定期預金が、それぞれ記載されている。

 7 甲第二三号証、第三五号証、第三八号証の二、第三九号証の一ないし五、丙A第二号証の一、
   丙F第五号証、当審証人○○○○及び同○○○○の各証言並びに調査嘱託の結果によれば、
   以下の事実が認められる。

 (一)榮高は、マンションに管理組合が結成され、あるいは管理組合法人が設立されて、
   管理組合又は管理組合法人から管理費等を原資とする榮高名義の預金の名義変更を
   求められたときは、これらの預金は管理組合等に帰属する預金であるとの考えのもとに、
   これに応じて、管理組合等の理事長名義に名義を変更し、印鑑を変更していた。
   このようなマンションはかなりの数にのぼった。
   管理委託契約を解除されたことに伴い、管理組合に預金を返還した例もある。

 (二)平成四年一一月六日、新聞等で榮高の親会社である豊栄土地開発の自己破産の
   申立の事実が報道されたところ、同日以降、榮高が管理していた三四のマンションのうち、
   管理組合が結成されていた一八のマンションの管理組合の代表者等が榮高の本社事務所を
   訪れるなどして、管理委託契約の解除を通告し、管理費等の交付を要求した。

   榮高は、管理費等が入金されていた定期預金及び普通預金の通帳と榮高の届出印を押捺した
   預金払戻票又は口座解約届を交付したり、あるいは右預金口座から払い戻して保管していた
   現金をそれぞれ交付した。

   榮高としては、これらの預金は各マンションの資産であり、返還の要求があれば当然これに
   応じなければならないと認織していたものである(なお、丙A第二号証の一の
   調停申立書には、榮高は管理組合代表者等の要求に抗することができないまま預金等を
   交付したとの記載があり、右申立書において一審原告は、右交付は破産法七二条四号に
   該当する、と主張しており、丙F第五号証の榮高の代表者の破産裁判所宛ての陳述書にも、
   榮高の社員は預金通帳の返還要求に抗しきれず、一時パニック状態になってしまった、
   との記載があるが、右丙F第五号証には、返還した預金通帳は管理組合や区分所有者に
   実質上帰属すると思われるとの記載があり、榮高がこれら預金は管理組合ないし
   区分所有者に帰属するものであると考えていたことは明らかである。)。

   また、榮高の総務及び経理担当の取締役であった○○○○は、豊栄土地開発の破産申立
   によって榮高の預金が銀行等によって差し押さえられ、マンションの管理業務に支障が
   生ずることを回避するために、管理組合のあるマンションの大部分について、
   平成四年一一月五日、「○○管理組合代理人○○○○」という名義の普通預金口座を
   開設した。

 三 以上認定の事実に基づいて本件各定期預金の預金者が誰であるかを検討する。

 1 預金者の認定については、自らの出捐によって、自己の預金とする意思で、
   銀行に対して、自ら又は使者・代理人を通じて預金契約をした者が、
   預入行為者が出捐者から交付を受けた金銭を横領し自己の預金とする意図で
   預金をしたなどの特段の事情がない限り、当該預金の預金者であると解するのが
   相当である。

 2 本件各定期預金の原資である管理費等は、もとより榮高固有の資産ではなく、
   管理規約及び管理委託契約に基づいて区分所有者から徴収し、保管しているもので
   あって、榮高が受領すべき管理報酬も含まれてはいるが、大部分は各マンションの
   保守管理、修繕等の費用用に充てられるべき金銭である。

   区分所有法によれは、区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の
   管理を行うための団体(以下「管理組合」という。)を構成するものとされ(三条)、
   各共有者は、その持分に応じて、共用部分の負担に任ずるとされている(一九条)。
   すなわち、区分所有建物並びにその敷地及び附属施設の管理は、管理者が行うので
   あって、その管理の費用は区分所有者が負担すべきものである。

   したがって、区分所有者から徴収した管理の費用は、管理を行うべき管理組合に帰属
   するものである。

   管理組合法人が設立される以前の管理組合は、権利能力なき社団又は組合の性質を
   有するから、正確には総有的又は合有的に区分所有者全員に帰属することになる。

   したがって、本件各定期預金の出捐者は、それぞれのマンションの区分所有者全員
   であるというべきである。

 3 管理費の剰余金等を原資とする定期預金は、榮高において、自己の預金、資産で
   あるとは考えておらず、榮高はこれを各マンションの区分所有者ないし管理組合に
   属するものとして取り扱っていたものである。このことは、多くの定期預金の名義
   に各マンション名が付記されていること、榮高の決算報告書及び各マンションの
   管理費収支決算書等の記載内容、榮高の破産の前及び破産の直前に管理組合に返還
   した定期預金もあること等の事実から明らかである。

 4 本件各定期預金は、榮高が、管理費の剰余金等が一定の金額に達したときに、
   その独自の判断と裁量でこれを定期預金に振り替えていたものである。
   区分所有者は、管理費等を榮高名義の普通預金口座に振り込むだけであって、
   その管理費の剰余金等がいつの時点で、どのような金融機関の定期預金に振り替え
   られるか等の具体的な事実は認織していない。

   しかし、普通預金としてよりも定期預金として保管することの方が区分所有者に
   とって有利であることは明らかであり、普通預金から定期預金への振替は
   区分所有者の意向に沿うものである。また、区分所有者は、管理費の剰余金等が
   一定の金額に達すれば、これが定期預金に振り替えられることになっていると
   いう仕組み自体は知っていたものと推認される。

   そして、区分所有者は、定期預金の預入から遅くとも一年以内の決算報告において、
   本件各定期預金がされていることを具体的に知ったのであり、区分所有者が
   これに異議を述べたことを認めるに足りる証拠はないから、区分所有者は、
   この時点に至って、本件各定期預金をしたことを是認し、引き続き定期預金と
   することを了承したものということができる。

   すなわち、この時点以降、区分所有者が本件各定期預金の預入をする意思を有する
   ことが具体的に明確になったものである。

 5 本件各定期預金の預入行為者は榮高であるが、榮高が管理費の剰余金等を横領し
   自己の預金とする意図で本件各定期預金をしたことを認めるに足りる証拠はない。
   本件各定期預金は、榮高の一審被告に対する借入金債務の担保として差し入れ
   られていることは当事者間に争いがないが、この事実から直ちに榮高に右横領の
   意図があったと推認することはできない。

   そして、区分所有者と榮高との関係(榮高は、管理委託契約に基づく受託者である
   と同時に、区分所有法第四節に定める管理者であり、区分所有者を代理する立場
   にある。)と、右に見たとおり区分所有者に預入の意思があると認められること
   を併せ考えると、榮高は区分所有者の使者として本件各定期預金をしたものと
   見るのが相当である。

 6 本件各定期預金の一部の少なくとも書替前の預入関係等の書類には預入人の名義
   として榮高のはかにマンション名が付記されているが、書替に伴ってこの名義
   がどのように推移したのかは明らかではない。しかし、少なくとも、区分所有者
   の支払った管理費の剰余金等を原資とする定期預金の名義は必ずしも榮高名義
   とはされていなかったことは前記認定のとおりであり、本件各定期預金の名義は
   榮高であると断定することはできない。

   ところで、預金者の認定については前記1の基準により判断するのが相当であり、
   預金の名義がどのようになっているか、銀行側が預金者についてどのような認織
   を有していたかは右判断を左右するものではない。

   もっとも、一審被告が民法四七八条の適用ないし類推適用により本件相殺及び
   本件弁済が有効である旨の主張をする場合には、預金の名義等も問題になると
   考えられるが、本件においては一審被告はこの主張をしていない。

 7 以上のとおり、本件各定期預金の預金者は、各マンションの区分所有者の団体で
   ある管理組合であり、区分所有者全員に総有的ないし合有的に帰属すると認める
   ことができる。

   そして、管理組合法人と管理組合とは、法人格を取得する前後において、
   団体としての同一性が維持されるから(区分所有法四七条五項参照)、
   参加人らのうち管理組合法人が設立されている参加人は、本件各定期預金の
   預金者となる。

   管理組合法人が設立されていない参加人は、権利能力なき社団であると認めら
   れるから、本件各定期預金について、その名において訴訟の追行ができる。

 8 一審原告は、本件各定期預金は信託財産であると主張する。
   しかし、区分所有者は榮高との間で管理委託契約を締結し、榮高は管理費等
   の金銭の処理、収納保管という経理業務を受託しているが、信託法一条にいう
   財産権(管理費の剰余金等)の移転その他の処分をする契約がされていると
   いうことはできない。

   すなわち、信託法一条において明らかにされているように、信託契約には
   財産権変動の側面(「財産権の移転其の他の処分を為し」)とともに
   委任的側面(「他人をして一定の目的に従い財産の管理又は処分を
   為さしむる」)を含むものであるが、前記認定のとおり榮高は本件各定期
   預金を榮高の財産であるとは考えておらず、そのように取り扱ってもいない
   のであるから、区分所有者と榮高との間の契約については、この財産権移転
   の契機を見いだすことができないといわざるをえない。
   したがって、一審原告の主張は採用することができない。

 四  本件各定期預金のうち、目録2ないし4の定期預金を除く定期預金については、
   参加人らに帰属することになるから、参加人らの一審原告及び一審被告に
   対する各請求はいずれも理由があり、一審原告の一審被告に対する請求は
   理由がない。

   目録2ないし4の定期預金(独立当事者参加がされていない定期預金)については、
   一審原告は信託財産であると主張、一審被告は榮高に属する預金であると
   主張するところ、信託財産であるとする一審原告の主張は採用できない。

   そして、一審被告の主張するとおり、榮高に帰属する預金であるとすれば、
   本件相殺及本件弁済によりその返還債務は消滅していることになる。
   いずれにしても一審原告の目録2ない4の定期預金についての請求は
   理由がない。

 五 よって以上の趣旨に従って原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

    東京高等裁判所第四民事部
        裁判長裁判官 矢崎秀一
        裁判官 西田美昭
        裁判官 筏津順子は転補のため署名押印できない。
        裁判長裁判官 矢崎秀一

マンション管理費等積立金事件 高裁判決 (ー完−)

本件株式会社三和銀行以外に、平成12年(2000年)12月14日東京高裁判決にて、 東京三菱銀行分も「預金はマンションのもの」と認定
東京三菱銀行は、最高裁へ上告したが、平成14年(2002年)1月31日 最高裁は東京三菱の上告を不受理、 マンション側完全勝訴確定した。

4.5.2 相次ぐ着服・横領犯罪

委託している管理業者の社員らが着服・横領するケースも後を絶ちません。

管理会社ぐるみでの2億1千万円もの横領の被害額を、回収できないケースも出てきています。

 8.2 相次ぐ着服と横領犯罪