管理組合会計 目次 > 【前頁】 8.2 相次ぐ着服と横領犯罪  > 8.3 巧妙化する犯罪の手口

8.3 巧妙化する犯罪の手口

この頁の要点
どうしたら経済犯罪を防げるかという観点から、
管理組合における横領・窃盗、詐欺、背任の手口と予防策について述べています。

1.どうしたら経済犯罪を防げるか

1. 適正化法に犯罪の抑止力はない

 「どうやって経済犯罪を防ぐか」これが本来の適正化法の制定趣旨であったはずで、 要は「管理業者は犯罪を犯してはならない」というごく当たり前のことを、 どう具体的に規定するかということなのですが、 法の実際の規定は、「通帳と印鑑の保管のしかた」という形式的かつ些末な方法論にこだわり、 肝心の刑法犯(横領・窃盗、詐欺、背任)についての予防も対策も講じていません。

「いや、そうではない、行政処分を行い、その情報は公開している」と行政は反論するが、 行政と業界のなれあいの形式的な儀式に実質的な効果はなく、犯罪の抑止力にはなっていない。

日本の行政の「拠らしむべし、知らしむべからず」の過干渉と隠蔽体質と責任を一切負わない時代錯誤の体質は、 住宅行政の中で、いまだに残っています。

 適正化法のあり方に関して更に云えば、欧米の不動産法のように「経済犯罪を防ぐための委任契約に伴う受託責任と利益相反回避措置を担保するしくみ」 の法律体系であってほしかったのですが、到底そんなレベルではありませんでした。そんな事をすればわが国の管理業が成り立たなくなるからです。

わが国の住宅行政と管理業界には、他人の資産を預かる者としての受託責任の認識もなく、受託責任に反する利益相反やインサイダー取引は経済犯罪だという認識もない。 このような国内でのみ通用する非公式のローカル・ルールに固執し、監督官庁の威信を頼りとした制度は既に破綻していて、 管理業界における犯罪が増加しているのはその表れと見ることができます。

「受託責任(Stewardship)」とは、他人から財貨の委託を受けた者が、与えられた「裁量権(Authority)」の範囲内で実行する責任、 すなわち「業務実行責任(Responsibility)」のことであり、「結果報告責任(Accountability) 」を伴います。  「1.2 会計と説明責任 」

管理業界における経済犯罪を防ぐという点に関しては、適正化法に抑止力はありません。
適正化法は管理業界と役所のための行政法です。

2. 行政法

 行政活動は、役所の恣意によってではなく、 客観的な法に従って行わなければならないという行政における法治主義(法治行政の原理)に基いて作られる、 行政の組織・作用・統制に関する法を総称して行政法という。

「マンション管理適正化法」は行政法であり、行政の組織として指定法人を2つ認定し、 行政の作用として国家資格を2つ創設し、統制に関してこれらの指定法人への監督指導権限を国交省が持つ仕組みとした。

マンション管理適正化法(平成12年法律第149号)は2000年に議員立法で作られた。議員立法の法律案は議員ではなく行政の官僚が作ったもの。 法案の提案議員の一人は元国交大臣経験者。

3. 適正化法の狙い

資格化の病理
 米川茂信(よねかわしげのぶ)・矢島正見(やじままさみ)編著「成熟社会の病理学」学文社(2003年4月1日改訂版 ISBN4-7620-1204-1)の中で 「資格化の病理」として5つの項目(1.学歴偏重の歪み・2.資格偏重の歪み・3.資格制度を通じた国家指導統制の強化・4.評価基準の危険性・5.資格による組織構成員の管理統制化)を挙げています。 また「資格化」は能力主義の逆機能(dysfunction=機能障害)であり、 能力の客観的評価主義の逆機能(機能障害)であると述べています。
何でもかんでも資格化すると成熟した社会では機能障害を起こす、それが資格化の病理です。

国家指導統制は成熟社会では崩壊する
 許認可制度を通じた国家による統制=官僚的中央集権とは何でも役人が決めることで、国民の生活水準が劣悪なときはそれなりにうまくいっていましたが、 社会が成熟してくるに従い徐々に行き詰まって崩壊していった過程は日本の金融ビッグバンやソ連崩壊などの近現代史が示しています。

住政策においても1969年「新全国総合開発計画」(新全総)、1977年「第三次全国総合開発計画」(三全総)、1987年6月「第四次全国総合開発計画」(四全総)など、ことごとく失敗し、 後にそのどれもが負の遺産となって苦しむ状況を作り出してきました。 今、従来の仕組みが崩壊していく断絶(Distruption 粉々に砕くというラテン語が語源)の時代にあって、その流れは加速しています。

専門家の権威・コミュニティの内側からの視点
 管理組合運営の実務では、社会制度のもつさまざまな歪(ひずみ)に直面する。 それを外側から設定された倫理的な単一の価値感や一般的な建前論で捉えても、 単なる自己満足や言葉の遊び、観念論に過ぎず、何の解決にもならない。

 現実の問題ではそのコミュニティが持つ内在的な価値によって判断することが問題解決の重要な手法となってくる。 そのコミュニティが持つ内在的な価値というものは、 管理組合内部の生活者の視点でコミュニティの内側から得られるものです。

 たとえ高い専門性をもった送り手の情報が初期の段階では影響力が高く権威の効果があったとしても、 それらは時間の経過に従って低下していきます。 逆に専門性の低い送り手による情報では、 提示直後には低かった説得効果も時間の経過に従って高まることが知られ、 これをスリーパー効果(sleeper effect)と呼びます。 どちらも結局は情報の内容自体で評価されていくからです。

 5.社会心理学からみた管理組合「送り手の要因」

適正化法の狙い
 国交省は適正化法の成立で資格制度を使った天下り法人の収益ビジネスモデルを創りあげることに成功しました。

 適正化法は二つの指定法人の資格事業存続と資格取得者の市場拡大、それらを通じて国交省の指導体制を強化することが狙いであり、 そのために国交省では標準管理規約の改訂や指導指針を通じて資格取得者を専門家として活用する政策を啓蒙し、同時に国家指導統制の強化を図ってきた。 管理組合を行政の「含み資産化、管理化、従属化」した上で利用する仕組み。

高齢社会を奇貨として、数兆円に上る修繕積立金の市場を狙った管理者管理方式の推進もそのひとつ。 「結局「仕組み」を作った側が勝っている」(荒濱一・高橋学著「光文社知恵の森文庫」)
とは云え、私達は自ら進んで管理化されたその「仕組み」の一部になる必要はない。

マンション管理の専門家?
 マンション管理士として多くの講演会で講師をしながら管理会社を経営していた男が、 受託していた管理組合の預金払戻請求書を偽造し、800万円を詐取、有印私文書偽造、同行使、詐欺罪で平成28年1月28日、愛媛県警松山東署に逮捕され、 裁判で2年8ケ月の懲役刑が確定した。
信用できるかどうかは肩書きとは別問題。

4. どうしたら我々は犯罪から自衛できるか

1. 管理組合のチェック体制が十分に機能する体制になっていますか?

 監査業務の効率性から見ると、実際に管理組合の活動を見ている理事や監事の自律的な内部監査活動のほうが数倍もの効果があります。 しかし、お互いに遠慮が働く共同住宅の人間関係の中では、公認会計士や税理士などの「会計に関する専門的能力」「第三者性」「外部性」が担保された外部監査のほうが、 法令順守の専門的実効性(ミスの防止、経済犯罪の抑止)、会計業務の継続性、財務諸表の信用力といった点で優れているのも事実です。

2. 分別管理は適正に実施されているか。
  保管又は収納保管口座の印鑑を管理会社に預けていないか。(マンション管理適正化法違反)

3. 仲間うちにならず、情実が入らない職務上の倫理性を担保したチェックが大切。
  外部の会計専門家に依頼して月次や年次報告書の財務諸表の監査を依頼するのも有効
架空経費の有無や領収書のチェックから始まり、帳簿や決算書をつき合わせて不正を見抜く専門的で確実なチェックは、会計士や税理士など日々実務で会計に携わる人でなければ現実には無理な面があります。

4. 金銭の収受はキャッシュレスが基本。現金での出納はなるべく避けて、口座振込みを利用

5. 管理組合会計をひとごとと思わず、自分の財布を預けているという意識をもつこと。(当事者意識が最も大事)

 「4.2 管理組合監査」

(1).横領・窃盗の手口

窃盗とは他人の財物を窃取すること。
組合の財産を預かる権限のない者が、管理組合の資金を私的に流用した場合は窃盗(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)になる。

財物とは金銭だけではない。大日本印刷事件では、被告人が社内の稟議決済一覧表を社内でコピーして持ち出した事件が「単なるコピー用紙の窃取ではなく、 同社所有の情報を窃取した」として窃盗罪を認容した。(東京地判昭和40年6月26日判時419号14頁)
単なるコピー用紙の窃取では財物としての価値が低いので課罰的違法性は否定されるが、情報としての価値を重視して情報窃盗行為として処罰した判例。

横領とは、委託された自己の占有する他人の財産をほしいままに処分すること。
横領行為には売却、贈与、抵当権の設定行為などの法律的処分行為のほか、費消、着服、携帯、抑留、搬出行為などの事実行為が含まれる。
新潟鉄工事件では、社員が会社の機密書類を社外に持ち出してコピーし、原本を元に戻した行為を「使用後返還する意思があったとしても、不法領得の意思が認められる」として、 横領罪を認容した。(東京地判昭和60年2月13日刑事裁判月報17巻1-2号22頁)

横領罪には単純横領罪(5年以下の懲役)、業務上横領罪(10年以下の懲役)、遺失物等横領罪(1年以下の懲役又は10万円以下の罰金もしくは科料)がある。

 単純横領罪とは、委託された他人の財産を自己の占有にすることで、窃盗が「現金や物など他人の財産を自己の支配のもとに占有すること」であるのに対し、 横領は「不動産などを含む他人の財産の法的な支配をも含む占有」である点が異なる。 また、管理費や修繕積立金など、使途を定めて委託された金銭をその目的以外に費消する行為は横領罪になる。(最判昭26・5・25)

 業務上横領とは、職務として他人の金銭や物品を預かっている者が、勝手にその金銭や物品を自分のものにしたり、その目的以外に使ってしまうこと。
駐輪場の使用料や資源ごみの回収代金を現金でフロントマンや管理人が受けて組合口座に入金するケースのように、現金で直接利用者から受ける場合は着服(横領罪)が起こりうる。

最近アメニティ施設や共用施設が充実したマンションで、さまざまな施設利用料(ゲストルームなど)を、利用者から現金で受けるケースが増大しており、大手のTo管理会社では、担当者3名が着服・私的流用し、 その被害額総額は約360万円にのぼっていた。

 横領は現金や小口資金だけにととまらない。
A管理組合では、理事長が修繕積立金口座から120万円を勝手に払い戻し着服していた。
口座の残高証明書を改ざんして、チェックの目を逃れるなどの手口による横領事件は頻発している。
  〜現金で受払いするのは間違いのもと、会計事務は二人以上でダブルチェックを〜

(2).詐欺の手口

詐欺とは、相手をだまして他人の金銭や物品を自分のものにすること。(10年以下の懲役)

欺く行為の内容についての判例では、「それが現在における意思状態に反して告知され、相手に決断させるに足りる具体性を有する限り、欺く行為の手段たりうる」とされています。 処分能力のない幼児や精神病者をだまして物を取るのは窃盗であって詐欺ではない。処分能力ある者を欺いて錯誤におとしいれ財物を交付させる行為が詐欺罪です。

(1) 東証一部上場のTa社の事例では、フロントマンが管理組合の理事長に「組合の口座を増やす必要があるので、銀行届け出印を用意してほしい」とだまして新しい組合口座を開設し、理事長に払い出し伝票に押印させ、組合の資金を新しい組合名義口座に移した。その後、押印済みの組合新設口座の払い出し伝票を準備させ、その伝票を使って組合預金を自分名義の口座に再度、移し変えるという手の込んだやりかたで7,000万円を詐取した。この元社員は逮捕後「競馬などに使った」と詐欺容疑を認めた。

(2) A管理会社では実在しない架空の支出(カラ伝票)を管理組合に決裁させ、預金を引き出していた。

(3) B管理会社では、管理組合に大規模修繕を提案し、自社へ指名発注させた。工事完了後に管理組合がチェックしたところ、工事発注書はあるものの、工事請負契約書がなく、実際に施工した工事も事前説明の工事内容から勝手に変更されていたため、管理会社に確認を求めたが、担当者は「契約内容については一切お答えできません」の一点張りであった。この事例では、工事終了してから5年経つが、いまだ解決していない。工事発注にからむ詐欺罪の立証・被害の回復には時間がかかる。管理会社のいいなりに指名発注したのがそもそもの間違いで、詐欺のほかに背任も発生する。

これらを防ぐには、管理会社と人的・資金的にも独立している第三者で、かつ、修繕工事に永年の実績があり、十分信頼のおける建築士を選定して、建物設備を調査診断し、工事仕様書を作成して業者公募するなどの手段を尽くすこと。

  〜管理会社とのやりとりは、どんなことでも常に文書で残しておくこと〜

(3).背任の手口

 背任とは、他人のために事務を処理する者が、自分や第三者の利益を図る目的でその任務に背く行為をして、 その結果、委託をした相手に財産上の損害を与えることを云います。(背任罪は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
委託の趣旨に反して権限を越えて処分をする越権行為が「横領」、
処分をする権限はあるものの、その権利を濫用して処分した場合は「背任」。

 管理会社が本来不必要な工事や、過剰な修繕を自社に発注させる提案をすることは、背任行為になります。 また、管理会社ではなくても、組合役員が自分と直接間接に利害のある会社や関係先に発注する行為も背任になります。

背任罪は委託に対する「任務違背」であり、背信的な権利濫用が背任罪成立の本質です。作為、不作為を問いません。 不作為とは、例えば工事の監督をすべき者がその監督を怠る事等をいい、その場合も背任行為とされます。

 背任罪の立証には、故意のほかに、「自己もしくは第三者の利益を図り、または業務の委託をした相手に損害を加える目的」が必要であり、 任務違背の結果として、「業務の委託をした相手に財産上の損害が発生し、背信的な権利濫用との間に因果関係があること」が必要です。

C管理組合の理事長が大規模修繕の工事費を2倍に水増しして知り合いの会社に約3,000万円で契約し、背任容疑で逮捕された例があります。

D管理組合の理事長は、耐震診断を理事会に諮らずに独断で発注し、管理組合から他社との競争見積を行っていれば半額でできたとして管理組合から背任で訴えられました。
裁判で元理事長は自治体の耐震診断補助金の申請期限が迫っていたためと釈明、1審の裁判所はその釈明は認めなかったが、実害はないとして組合に対する損害賠償は認めませんでした。
背任罪は「委託をした相手の利益を図る目的」の場合は除外されるので、他社の競争見積をとらなかったという不作為に対する解釈が判断の分かれ目になったのかも知れません。

犯罪者は会計をごまかして悪事を粉飾する。 それらの粉飾は、会計監査が的確に行われていれば防ぐことができたかも知れません。 その為にも、私たちは会計に関する正しい知識をもつことが重要になります。

〜おかしいと思ったら声をあげること、背任罪の立証には背信的な権限濫用の内容と程度を限定しなければならないので、最初から証拠を積み重ねて〜

平成27年(2015年)12月10日掲載