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1.3 会計基準の成立

すべての会計の原点、
  それは正しい情報開示を行い、透明性を確保し、説明責任を果たせということです。

1.3.1 グローバル経済の会計基準

 現在、国際的なグローバル経済のもとで2005年の欧州での採用を皮切りに、世界110カ国以上(国連加盟192カ国の半数以上)が採用している 国際会計基準IFRS(International Financial Reporting Standards 国際財務報告基準) の波が押し寄せてきています。
日本の会計基準は閉鎖的不透明として不信感の代償(ジャパンプレミアム)を生みましたが、日本が今からIFRSを採用するのは遅すぎるくらいで、 採用しないという選択肢はありません。

ほんの数年前まで、会計基準は各国バラバラでした。
国際会計基準(IFRS)は、2000年以降、域内統一市場を構築するために不可欠だった会計基準の統一を果たしたEUでの採用をきっかけに、 わずか数年で世界を席巻し、後れをとった米国は自国の会計基準(US-GAAP)を捨ててIFRSに乗り換え、 逆にIFRSを全面時価会計に向けた改訂を含む提案などでIFRSを米国の独自色に染めて世界標準を我が物にしようという動きを見せ始め、 これらにEUが反発し、欧米の利害衝突と主導権争いの様相を呈してきました。
米国の動きは早く、2008年11月、米証券取引委員会(SEC)は上場企業にIFRSの採用を認めました。

日本でもこのままでは世界の資本市場から孤立してしまうという危機感から、 金融庁が2009年2月4日に公開したロードマップ案(「我が国における国際会計基準の取り扱いについて(中間報告)(案)」)では、 2010年3月期から任意適用を認め、早ければ2015年には国内の上場企業に対してIFRSの強制適用が始まる見通しを示しました。

IFRSは人類の歴史が始まって以来、初めて企業を測るモノサシが一つになるということを意味します。

日本における管理組合会計については、企業会計と公益法人会計の二つの異なる会計方式のどちらを採用すべきかといった論争がありましたが、 いずれの会計基準も会計ビッグバンによって激変し、揺れ動いており、どちらも将来における永続的な準拠枠にはなりえない状況となっています。

わが国固有の歴史をもつ両会計制度の現状を踏まえつつ、民間セクターと公共セクターの間に垣根を作らないセクターニュートラルの基本思想がグローバル経済の流れであることを見据えた論議が必要になってきました。

1.3.2 会計基準の成立

「会計基準」とは、会計を用いて説明責任を果たす際に依拠するルールのことです。

共通のルールがなければ、経営者は自分に都合が良い部分を好きなように好きなタイミングで説明しようとしますし、利害関係者は欲しい情報を入手できないリスクを抱えます。相互にその説明をより意義のあるものとするために、利害関係者が知りたいことについて、信頼できる情報を理解しやすい形式で提供するルールの設定が必要となりました。

ルールとしての会計基準は、各国それぞれの商習慣や文化的な背景に合わせた形で広まっていきました。

20世紀までは、それぞれの国がそれぞれの会計基準を持ち、世界の企業は各国の会計基準に従って異なる財務諸表を作成していました。
その流れを大きく変えたのがヒト・モノ・カネが国境を越えて大規模にそして急速に動くグローバル経済です。
日本でも2008年の東京証券取引所の株式売買高の半分を外国人株主が占めていました。
海外投資家からの資金調達には、IFRSによる財務諸表を備えているかどうかはディスクロージャー(開示)としての投資の大きな判断材料になってきています。

2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻は世界の資本市場が連鎖していることをあらためて認識させることになりました。
1960年代後半の時点で、すでにグローバル経済の動きは始まっていました。
企業は、自国の会計基準に基いた情報を自国の利害関係者に説明すれば事足りるという状況ではなくなり、「世界中の企業が世界統一の会計基準で財務諸表を開示すべきだ」という想いが強まる中で、生まれたのが国際会計基準IFRS です。

1.3.3 信用されない日本の財務報告書

〜財務報告書が信用できないとしてペナルティを課せられた日本〜

ジャパン・プレミアム(Japan Premium)とは、日本の金融機関が海外の金融市場から資金調達するとき上乗せされた、その他の国の金融機関より高い金利のことです。

1990年代バブル景気の終焉で、地価が大幅に下落し、債務不履行(デフォルト)や倒産が相次ぎ、土地を担保として資金を供給していた金融機関は著しい資金不足に陥り、海外の銀行間取引市場(コール市場)での資金調達に道を求めます。

しかし、日本の会計は取得原価主義であったため保有の資産が取得時の高値価格で記録されており、帳簿上の財務に隠された含み損に対し海外の金融市場は不信感を募らせ、日本の金融機関に対してのみ通常の金利より高い金利(ジャパン・プレミアム)を要求しました。ジャパン・プレミアムは1997年秋より発生し、1998年秋にはさらに金利が上乗せされましたが、日本経済の回復とともに2000年には上乗せ金利は解消されています。

1.3.3 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(公正処理基準)の動向

GAAP(ギァープ)とは企業の財務会計の作成と報告を行なうルールとして定められた”Generally Accepted Accounting Principles”(一般に公正妥当と認められた会計原則)の略称です。

商法19条1項や法人税法第22条第4項などに「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(以下これを「公正処理基準」と略す。)に従って計算する」との規定があり、実際には、企業会計原則、財務諸表規則、商法における計算規定、税法の各種の計算規定等が日本におけるGAAPとして存在していました。

現在のように経済情勢が悪化してくると、民事再生法適用会社について、公認会計士(CPA)や企業経営者、会計責任者はこの公正処理基準違反によって、再生債務者管財人から刑事告訴や民事賠償責任を追及されるなど、刑事責任や民事賠償責任が発生するケースが増加してきます。企業会計原則は、公認会計士が、会計監査をなす場合に財務諸表の適正性を判断するさいの判断基準となるGAAPを構成するひとつの原則です。

GAAPはフエア(Fair 公正)を基本とする資本主義の原則の一つで、GAAP違反は資本主義に対する犯罪とみなされます。欧米では資本主義に対する犯罪への罰則は日本の経済犯罪と比べ格段に重く、日本の護送船団行政は過去の蜃気楼(Mirage of the Past)でしかない。そのことを象徴的に示したのが1995年の「大和銀行NY支店巨額損失事件」でした。

同事件の株主代表訴訟で大阪地裁は、「我が国内でのみ通用する非公式のローカル・ルールに固執し、大蔵省銀行局長の威信を頼りとして大和銀行の危機を克服しようとして、米国当局の厳しい処分を受ける事態を招いたものである」として厳しく糾弾しました。フェアでない「我が国内でのみ通用する非公式のローカル・ルール」は、わが国の住宅行政でも同じことが言えます。

1.3.4 日本的経営の終焉

〜護送船団行政と愚かな経営者の悲劇 〜

 1995年大和銀行NY支店巨額損失事件で、大和銀行はFRBに対し16の罪状を認め、当時の米刑法犯の罰金としては史上最高額の3億4千万ドル(約350億円)の罰金を払い、米国から撤退した。FBIに逮捕された日本人トレーダーは、1996年12月16日 NY連邦地裁で禁固4年・罰金200万ドルの実刑判決を言い渡され、米国内の2つの刑務所で3年3ヶ月服役した。

日本国内でも同事件の株主代表訴訟の大阪地裁判決(2000年9月20日)では以下の判決要旨の通り、同行役員らを厳しく断罪した。

-------------------------大阪地裁(2000年9月20日)判決要旨(判例時報1721号3頁)

(1)11億ドルの損失

取締役ニューヨーク支店長だった被告安井健二には、取締役としての注意義務及び忠実義務に違反した事実が認められるから、右損害のうち5億3,000万ドル及び遅延損害金を同行に賠償することを命ずる。

被告らは、大和銀行は大蔵省による検査、日本銀行による考査やニューヨーク州銀行局及び米国の連邦準備制度(FED)の検査を受けており、同行のリスク管理体制は金融当局が期待する水準に達していた、などと主張する。

しかし、大蔵省、日本銀行、ニューヨーク州銀行局及びFEDが、大和銀行が採用していた米財務省証券の保有残高の確認方法について、検査したうえで適切だと評価していたものと認めるに足る証拠はない。大和銀行は顧客から預かり保管していた財務省証券の残高確認を行うにあたり、証券の現物確認という欠くべからざる方法をとらないという重大な過誤を犯したために、無断売却を発見できなかった。井口が異常に巧妙な隠ぺい工作をしたから無断売却を発見できなかったわけではない。

わが国及び米国の監督当局は、一行の経営破たんが金融システム全体に波及する恐れがあるという銀行の特殊性にかんがみ、銀行の業務の健全性及び適切性を確保するために検査を行っているが、銀行の健全性を確保する第1次的な責任を負っているのは銀行自体である。銀行は自己責任の観点から自ら管理を行わなければならないのであって、自ら行うべき管理を監督当局の検査をもって代替しようとしてはならない。

(2) 罰金と弁護士報酬

大和銀行が事件について罰金3億4,000万ドルと1,000万ドルの弁護士報酬を支払い、合計3億5,000万ドルの損害を受けたことについて、同行の取締役であった被告の安井、山路弘行、津田昌宏、安部川澄夫、藤田彬、海保孝、川上敏朗、砂原和弥、源氏田重義、勝田泰久及び黒石輯には、取締役としての注意義務及び忠実義務に違反した事実が認められるから、被告らに対し、損害のうちそれぞれ次の金額及び遅延損害金を、連帯して、同行に賠償することを命ずる。

直接または間接に本件無断取引と無断売却の事実を聞いた取締役は、銀行経営者として大和銀行の存続のみを考慮するのではなく、内外の金融システムに与える影響も考慮しなければならず、高度に複雑で、まれにみる困難な経営判断を適時に行わなければならなかった。

しかし、藤田らは、米国で事業展開していたにもかかわらず、米国の外国銀行に対する法規制の峻厳(しゅんげん)さに対する正しい認識を欠き、米国当局への届け出をせず、米国法令違反を行うという選択をした。

被告らは、大蔵省の要望、示唆に反して米国当局に報告する期待可能性がなかったと主張する。しかし、大蔵省が藤田らに対し、権限に基づき、米国当局に対する報告をしないよう指示ないし命令したと認めるに足りる証拠は、提出されていない。

藤田らは、我が国の経済が発展し、地球規模に拡大しているにもかかわらず、我が国内でのみ通用する非公式のローカル・ルールに固執し、大蔵省銀行局長の威信を頼りとして大和銀行の危機を克服しようとして、米国当局の厳しい処分を受ける事態を招いたものである。

「期待可能性がなかった」という被告らの主張は、大蔵省の判断及び指示に依存して銀行経営を行い、自らの責任において判断を行わないことが許されることを意味するが、そのような主張を採用することはできない。

------------------------------------------(判決要旨 -完-)

「日本の護送船団行政は過去の蜃気楼(Mirage of the Past)でしかない。」という意味が、ご理解いただけたでしょうか。日本の行政の「拠らしむべし、知らしむべからず」の過干渉と隠蔽体質と責任を一切負わない時代錯誤の体質はいまだに残っています。

大阪地裁が上記判決で社会に警鐘を鳴らしたように、日本国内でのみ通用する非公式のローカル・ルールに頼る愚かさの代償がいかに大きいか、国際的なルールがどうなっているか、それは何故なのか、その中でどうすべきかを考え、自律的に行動しなければ生き残れません。

もっとも、同事件の日本国内での控訴審では、まさに日本的な解決が図られました。

1審の大阪地裁が7億7500万ドル(約975億円=5億3,000万ドルに利息を足した総額)の賠償を命じた株主代表訴訟の控訴審は2001年12月11日までに、被告の現元役員49人全員で約2億5千万円を同行に支払うことなどを条件に、大阪高裁(岡部崇明裁判長)で和解が成立した。

過去最高額の賠償命令が商法改正のきっかけとなった同訴訟は、現実的な解決を選んで終結した。

同訴訟は、同行の個人株主らが現・元役員49人に総額14億5000万ドル(約1824億円)を賠償するよう求めていた。

同訴訟は、2000年9月の1審判決が巨額の賠償を命じたことから、株主代表訴訟の在り方を巡る議論に発展。当時の政府・自民党与党などは、巨額の賠償に何らかの歯止めが必要と判断し、取締役の賠償責任に上限を設ける商法の改正につながった。

一方、原告被告双方が控訴していた訴訟の控訴審では、大和銀行が2001年12月12日に共同持株会社を設立するに伴い、個人株主が「原告適格」を失い、株主代表訴訟を継続できない可能性が指摘されていた。

和解は、高裁が2001年11月16日の口頭弁論終了後に原告、被告双方に非公式に打診。その後、双方と協議を進め2001年12月10日、合意に達した。協議の過程で、高裁は被告側に和解金額について、「10億ないし20億円」と打診。被告側は「とても払えない」として、1審判決で敗訴した11人の被告の手取り年俸の総額に当たるという約2億5千万円を提示し、同額で決着した。

 2000年代のこの時期、企業不祥事追求の株主代表訴訟が相次ぎ、(1)法律上、取締役には社員の不祥事を防ぐ内部統制システムを構築すべき義務があることが判例化したことと、(2)高額の賠償金が続いたことが特色として挙げられる。(例)(神戸製鋼所株主代表訴訟 賠償金3億1千万円,日本航空電子工業株主代表訴訟 賠償金50億円,高島屋株主代表訴訟 賠償金50億円,西武鉄道グループの有価証券の虚偽記載で株式買取金返還650億円+賠償金)

平成17年(2005年)に成立した「会社法」847条−第853条で、株主代表訴訟を「責任追及等の訴え」という語で呼ぶことになり、現在、株主代表訴訟とは言わない。

更に平成21年(2009年)3月期の本決算から上場企業と連結子会社は内部統制報告書を提出する旨、金融商品取引法が改正され、これは相次ぐ会計不祥事やコンプライアンスの欠如などを防止するために作られた、米国のサーベンス・オクスリー法(SOX法)に倣って「日本版SOX法」と呼ばれています。

1.3.5 揺れ動く我が国の企業会計原則

企業会計原則」は、旧大蔵省の企業会計審議会(現在は金融庁)で制定、改訂が行われ、その他、個別の「会計基準」もこの機関で制定されてきました。会計基準は、会計に関する慣習をまとめたものに過ぎず、本来、法令ではないのですが、実際の法律では次のように用いられてきました。

「この法律の規定により提出される貸借対照表、損益計算書その他の財務計算に関する書類は、内閣総理大臣が一般に公正妥当であると認められるところに従つて内閣府令で定める用語、様式及び作成方法により、これを作成しなければならない。」(金融商品取引法第193条)

「第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。」(法人税法第22条第4項)

「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。」(会社法第431条)

金融商品取引法に規制される企業は上場企業のみであり、会社法で財務諸表監査を受けなければならないのは大会社(負債総額200億円以上または資本金5億円以上)のみであり、法人税法はすべての企業となります。 つまり、上記3法によって会計基準は強制力を持っていますが、各法律の規制対象が違うことから、強制力が働く程度については企業によって異なります。

現在では、「会計基準」の本来の意義に立ち戻り、実務家や研究者からなる民間団体で「会計基準」が設定されています。この団体を「会計基準設定主体」と呼んでおり、日本では、財団法人財務会計基準機構内にある企業会計基準委員会(ASBJ:Accounting Standards Board of Japan)がこの役割を担っています。

我が国の企業会計原則とは、1949年に企業会計制度対策調査会が公表した会計基準ですが、現在新たに設定される会計基準の理論的根拠は主として概念フレームワークに基づいており、企業会計原則は新たに設定される会計基準の根拠としてはほとんど重視されていません。

会計ビッグバンによって新しい会計基準が続々と制定されていく中で、これから制定される会計基準は、概念フレームワークを基礎として制定されていくため、企業会計原則の役割は低下しつつあります。その理由として、企業会計原則は体系化されており、社会情勢の変化に対する動的な変更には不向きです。

 一方、米国のGAAP(US-GAAP)は、ピースミール方式(piece-meal approach :テーマごとにルールを決めていくやり方)で、不都合があればそれに対する個別的な基準をつくるという方式ですから、動的な変更には向いています。概念フレームワークはこのような方式で作られています。

企業会計基準委員会(ASB)は2004年(平成16年)7月に同委員会の基本概念ワーキング・グループが公表した討議資料「財務会計の概念フレームワーク」を基準化する方針を明らかにしています。国際会計基準等のコンバージェンスや新たな会計基準等の開発など、会計基準等を効率的に開発していく上で、明文化された指針の必要性が高まってきていると判断したためです。