(2) 【判決】ハラスメント認定 (2021 ONCAT 13)
No. | 事件番号 | 内容 | 判決日 |
---|---|---|---|
(1) | No. 2021 ONCAT 1 | 【抗告】被告が訴え却下の申立て・棄却 | 2021年1月12日 |
(2) | No. 2021 ONCAT 13 | 【判決】管理組合のハラスメントを認定、損害賠償を命令 | 2021年2月16日 |
(3) | No. 2021 ONCAT 32 | 【判決】組合文書の訂正要求、訴えの却下 | 2021年4月15日 |
(4) | No. 2021 ONSC 7113 | 【控訴審判決】管理組合が控訴・控訴棄却 | 2021年10月28日 |
(1)〜(4) 中間解説 | あとがき・訳注(2022.09,20) |
事件の概要
ここは来客用だとして共用部の障害者用駐車場を障害者の区分所有者に使わせなかった管理組合に対し、
障害をもつ区分所有者が、使用者適格と管理組合によるハラスメントの確認を求めて裁判所(CAT)に提訴
(1) 被告管理組合は、裁判所(CAT)には裁判権がないとして訴え却下を申立て、CATはこれを棄却(2021 ONCAT 1)
(2) 裁判所は原告の使用者適格と管理組合によるハラスメントを認定、管理組合に損害賠償を命令(2021 ONCAT 13)
(3) 組合文書の訂正要求、訴えの却下(2021 ONCAT 32)
(4) 敗訴した管理組合は高等裁判所に控訴、高等裁判所はこれを棄却。原審判決が確定(2021 ONSC 7113)
本頁 (2) 「判決」(2021 ONCAT 13) REASONS FOR DECISION 目次
判決理由
A. 事案の概要
B. 争点と分析
争点1: コンドミニアム裁判所に本事件の管轄権は存在するか?
争点2: ラーマン氏の駐車場はどこにあるのか?
争点3: ラーマン氏は管理組合の障害者用駐車場を使用する権利を有するか?
争点4: 管理組合はラーマン氏に対して、宣言書改定を伴うコンプライアンス強制
執行費用を課す権利を有するか?
争点5: ラーマン氏は本件に関して受けた損害及び費用を請求できるか? その額は?
C. 結論
D. 判決 (注): この裁判では、駐車場用途の定義が重要な意味をもっています。
【訳注 (ContentsとContext)】 従って、この語が出てくる部分には括弧で原文表記しています。
コンドミニアム裁判所 判決 No. 2021 ONCAT 13
CONDOMINIUM AUTHORITY TRIBUNALDATE: February 16, 2021
|
コンドミニアム裁判所 判決
判決日: 2021年2月16日
事件番号: 2020-00371N
事件名: ラーマン 対 ピール スタンダード コンドミニアム管理組合(登記番号779), 2021 ONCAT 13
準拠法令: 共同住宅法1998 1.44
裁判官: ローリー・サンフォード( コンドミニアム裁判所判事)
原 告: アキブ・ラーマン/本人弁護
被 告: ピール スタンダード コンドミニアム管理組合(登記番号779)(”PSCC779”と略)
代理人 ビクター・イー(弁護士)
聴聞: 文書並びにオンラインにて実施ー2020年12月17日 ー 2121年1月29日
判決理由 (REASONS FOR DECISION)
A. 事案の概要(INTRODUCTION)
[1] 本事件の審理は、当裁判所の副議長判事マイケル・クリフトンが担当して開始されたが、
2021年1月19日、副議長マイケル・クリフトン自身の依頼により判事ローリー・サンフォードが
本件担当を引き継いだ。本件審理をローリー・サンフォードが再開する事には原告・被告に
異議の申立てはなかった。本件聴聞は証人なしで文書によって行われていた。
この間のやりとりで争点がまだ定まっていないと感じた裁判官は、お互いの権利を主張しあう
のではなく、むしろ当事者間に質問の機会を設けることを決定した。
[2] 本文では、ピール・スタンダード・コンドミニアム・コーポレーション(登記番号779)を以後、
PSCC779管理組合 若しくは単に管理組合と略記する。
原告・アキブ・ラーマン氏はPSCC779共同住宅の区分所有者であり、管理組合から指定された
二つの駐車場区画を所有している。
ラーマン氏は彼が所有する駐車場を使用していない。その理由は、彼の部屋からその駐車場には
行く事ができないからである。その代わり、彼がいける別の屋外の駐車場を契約して使用している。
ラーマン氏は彼の障害のための新規の設備を要求していない。PSCC779共同住宅の宣言書に明記
されてもともと存在している障害者用駐車場の使用権は彼の障害に対して適用されるものであって、
本来の宣言書に記載されている通りに使用できる権利を主張している。
(訳注) 「宣言書」については、(6) 宣言書(declaration) 参照
ラーマン氏はオンタリオ州が発行する障害者用駐車場の使用許可票の写しを提出した。
彼はまた、彼の障害について説明した彼の主治医からの診断書を提出した。
[3] 管理組合は、聴聞において、本件はコンドミニアム裁判所(Condominium Authority Tribunal 以下 CAT
と略 ) の裁判権(事物管轄)の範囲外として争う旨の主張をした。
本件におけるCATの裁判権については、本訴手続き上の早い時点で決定していたことであり、
再び本裁判で争うことは適切ではない。
抗告を受けて裁判所は、CATは本件の裁判権を有する決定を下した。(訳注) (1)抗告に対する決定 参照
[4] 管理組合は主張の争点を代えて、彼が駐車場として使用しているのは管理組合が来客専用(visitors only)
の駐車場として指定した区画であり、ラーマン氏はPSCC779共同住宅の宣言書に違反していると主張した。
この代わりの案を更に拡大して、管理組合は次のように主張した。
PSCC779共同住宅の宣言書の駐車場規定は「障害者用駐車場(handicap parking)」として規定されて
いるものであり、ラーマン氏は彼が障害者であることを納得させるには充分な証拠を提出していない。
従って、ラーマン氏はPSCC779共同住宅の宣言書の駐車場規定に違反しているものである。
[5] 以下に述べる理由から裁判官は次のように判断する。
ラーマン氏は障害者用(handicap),若しくはアクセス可能(accessible)な駐車場区画に駐車しているが、
それはPSCC779共同住宅の宣言書が規定している条件に適合しているものである。彼の事例は
PSCC779共同住宅の宣言書には何ら違反していない。従って、ラーマン氏に、裁判費用を含めて
宣言書違反に対する賠償金を課す請求は認容できない。
当裁判所は被告管理組合に対し、ラーマン氏に対する本事件に関連するいかなる強制措置も
停止するよう命じる。
[6] 本件の訴え請求事項には相互に関係のあるハラスメント(嫌がらせ)の存在が認められる。
裁判管轄(事物管轄)の申し出の文脈の中で提起されているハラスメント及びPSCC779共同
住宅の宣言書違反の請求に係るハラスメントである。
ラーマン氏は彼が使用している駐車場に関して管理組合からハラスメントを受けていると主張する。
原告被告の双方は、PSCC779共同住宅の宣言書の多くの規定を引用している。
これらの理由に基づいて、裁判官は次のように判断する。
本事件に係る宣言書の規定を利用した管理組合の攻撃的な行為は、ハラスメントを構成するもので
ある。管理組合の行為は宣言書のみならず法においてもコンプライアンスに適合しているとはいえない。
当法廷は、共同住宅法1.44(1) 3 に基づき、本件訴訟費用としての200ドルの他に1,500ドルを
ラーマン氏が受け取る権利を与えるものとする。
B:争点と分析 (ISSUES & ANALYSIS)
[7] 本事件の争点を以下に要約する。
1. コンドミニアム裁判所に本事件の管轄権は存在するか?
2. ラーマン氏の駐車場はどこにあるのか?
3. ラーマン氏は管理組合が管理する障害者用駐車場を使用する権利を有するか?
4. 管理組合はラーマン氏に対して、宣言書改定を伴うコンプライアンス強制執行
費用を課す権利を有するか?
5. ラーマン氏は本件に関して受けた損害及び費用を請求できるか?その額は?
争点1 : コンドミニアム裁判所に本事件の管轄権は存在するか?
[8] 被告PSCC779管理組合は、本件審理に際し、コンドミニアム裁判所には本件の管轄権がない
として管轄違いによる訴えの却下を求める申立てを行った。それが事件番号2021 ONCAT1
(CANlii)ラーマン対 ピール コンドミニアム管理組合779事件である。(訳注)(1)抗告棄却決定
このコンドミニアム裁判所を除斥・忌避する抗告申立ては裁判所決定により棄却された。
にも拘らず、同管理組合は、今回の審理においても、同一の、或いは実質的に同様の、
説得力のない再抗弁を繰り返した。
[9] コンドミニアム裁判所の裁判権は 共同住宅法(法令番号179/17)の1.44-1(1)(d)(iii) 項に規定されて
いる通り、管理組合の管理下にある共用部の駐車場等の管理に係る補償金(compensation)、賠償金
(indemnification)の扱い等を含めて、共同住宅の宣言書、管理規約、細則に規定されている禁止事項、
制限事項に関するそれらの訴訟はコンドミニアム裁判所を専属管轄とする旨定めている。
[10] 法の1.44条はコンドミニアム裁判所が裁判権を行使しうる内容が規定され、1.44(1)2 項は
特別な事項に関する禁止命令、1.44(1)3 項はコンプライアンス不遵守に基づく損害裁定、
1.44(1)4 項は費用の負担裁定について規定している。
[11] コンドミニアム裁判所の裁判管轄について、当裁判所は本件の審理及び本件の判決を下す
裁判権限を有するものであることを断定する。
争点2 : ラーマン氏の駐車場はどこにあるのか?
[12] ラーマン氏の駐車場はどこにあるのかについては当事者間及び管理組合内部にも混乱が
見られる。特に、ラーマン氏の駐車場は屋外の駐車場内の来客用区画(Visitors Parking)
なのか、或いは、宣言書で定義されている屋外の障害者用駐車場(Handicap Parking)
なのかという点である。
裁判官は、本判決において、現在最も通用している「障害者が利用可能な駐車場」(accessible
parking)の表現をPSCC779共同住宅宣言書における用例とは異なる意味で用いることにする。
PSCC779共同住宅宣言書では2種類の駐車場のタイプを別々に扱っているため、この区別は
重要である。
[13] PSCC779共同住宅宣言書の4.2項「来客用・障害者用駐車場(Visitors and Handicap
Parking)」と題されている条項の記述は下記の通りである。
(a) 宣言書の規定により、共用部で特別に指定されている来客用駐車(visitors parking)
の使用は、共同住宅への訪問者に限定されるものとする。
これらの駐車場区画はいかなる所有者にも賃貸若しくは売買することはできない。
この区画は管理組合によって維持管理されなければならない。
この区画は訪問者の車両の駐車に供されなければならない。
区分所有者は使用できない。また来客用以外の使用はできない。
指定された駐車場区画は来客用駐車場であることを明瞭に判別できる標識を区画
それぞれに設けなければならない。
(b) 宣言書の規定により、共用部で特別に指定されている障害者用駐車場(handicap parking)の
使用は、共同住宅の障害者用駐車場として、所有者または訪問者に限定されるものとする。
これらの駐車場区画はいかなる所有者にも売買することはできない。
但し賃貸若しくは割当指定して使用することはできるものとする。
この区画は管理組合によって維持管理されなければならない。
この区画は区分所有者または訪問者の車両の駐車に供されなければならない。
いかなる目的であっても障害者用途以外の使用はできない。
指定された駐車場区画は障害者用駐車場であることを明瞭に判別できる標識を区画
それぞれに設けなければならない。
[14] ラーマン氏は駐車場区画の標識は混乱していて来客用なのか、障害者用なのかが明確
ではないと主張する。彼は幾つかの写真を提出した。そのうちの一つを裁判官は本判決に
添付した(附則A)。写真には3つの指定区画が示されている。
ここには2種類の標識が認められる。最初に、ユニバーサル標識として、車いすの中に杖の
マークが駐車区画の舗装道路の上に描かれている。各駐車区画には標識があり、その
先端部分には駐車禁止のシンボルが描かれ、その下にユニバーサルアクセスのシンボル
が描かれ、更に下には「許可車専用(By Permit Only)」と書かれている。
駐車場の背後には舗装した歩道があり、矢印の行き先表示がある。この行き先表示の先には
写真ではわかりづらいが、「来客専用駐車場(Visitor Parking Only)」の表示がある。
この区画について、ラーマン氏は、「利用可能な駐車区画(accessible parking area)」の意味
として捉えていた。これらのことから、裁判官はラーマン氏が自分が信じた利用可能な駐車
区画に駐車したことは正当化できると結論付けた。なぜなら、ラーマン氏は自ら主張する通り、
障害者であり、「障害者が利用可能な駐車場に駐車する権利」(Accessible Parking Permit )
が認められるからである。
[15] 「障害者が利用可能な駐車場(accessible parking)」は、来客用駐車場(visitor parking)の
一部なのか否か、もし、そうでないなら、それらの境界はどこにあるのか、については、奇妙な
ことにPSCC779管理組合もまた混乱している。
PSCC779管理組合の陳述書の2頁目に下記の記述がある。
「これについて我々が理解しているところでは、障害者用駐車場(Handicap Parking spaces)
は、宣言書に従って立てられた来客用駐車場(Visitors Parking)の標識に従って、駐車場
区画(Parking Lot)の中の来客用駐車場(Visitors Parking)のところにある。」
続いて、陳述書3頁目には次の記述がある。
「代わりに、障害者用駐車場が訪問者用駐車場区画の中ではなく、地上駐車場の一部に
ある場合、原告は被告共同住宅宣言書の4.2(b)項の規定を遵守していないことになる。」
[16] 宣言書には来客用と障害者用の全く異なる二つの規定がある。
来客用駐車場は来客専用の駐車場であり、障害者用駐車場は来客または区分所有者で、
障害がある者のみが利用できる駐車場である。もしも障害者用駐車場が来客用駐車場場
と同じなら、区分所有者はたとえ障害者であっても屋外にある利用可能な駐車場の使用は
禁止される事になる。
PSCC779共同住宅の宣言書では、法令で定義されている「障害者が使用可能な駐車場
(accessible parking)」としての屋内の駐車場については記述がない。従って、
区分所有者が利用できる「障害者が使用可能な駐車場」は、屋外の駐車場に限られる。
「障害者が使用可能な駐車場」と「来客用駐車場」の二つの異なる駐車場を合成した結果、
区分所有者は他のいかなる「障害者が使用可能な駐車場」の使用も拒否される事になる。
[17] PSCC779共同住宅は、ミシサガ(Mississauga)市内に位置している。ラーマン氏が証拠
として提出した「ミシサガ市法人駐車場規則10-16」(ミシサガ市駐車場規則)は
2016年1月20日成立したもので、地方自治法,S.O,2001,C,25の102条に基づくミシサガ市
駐車場規則5(1)項には次の規定がある。
「公衆用駐車場区画(Public Parking Area)のすべての所有者または管理者は、本法律に
基づいて、許可制のもとで障害者が車両を駐車できる駐車場を設けなければならない。」
州が設置した「障害者が使用可能な駐車場」には、本許可は適用されない。
一般のオープンな駐車場及び他の特別駐車区画、例えば「障害者が使用可能な駐車場」
であっても、仮設駐車場などの場合は、「公衆用駐車場」としての適用はできない。
[18] ミシサガ市駐車場規則は「障害者が使用可能な駐車場(Accessible Parking Space)」
に対して特別な規定を設けている。
本状附属で示した写真に見られる駐車場は同規則に則ったものである。
PSCC779管理組合は次のように主張する。ミシサガ市駐車場規則は本件訴訟には適用
しない。何故ならミシサガ市はラーマン氏に対する対応を断ってきたからである。
ミシサガ市当局の主張は本件はPSCC779管理組合自身で解決すべき問題であるという
ものである。実際には2020年2月24日のミシサガ市当局のPSCC779管理組合に対する
Eメールで、次のように回答してきている。その一部分を示す。
「障害者が使用可能な駐車場」に関する法制の精神は、オンタリオ州住民障害者支援法
に関係しており、その目的は障害者用として指定した駐車場を障害者が使用可能とする
ものである。明白な法制度に基づく権限なしに「障害者が使用可能な駐車場(例えば
来客専用駐車場)」の使用権限を資産所有者に与えることはできない。
この件に関して、市当局は交通法41(2) 項を強制することはできない。本件に関する市
当局の立場として、居住者個人の所有権をめぐる紛争には関与しない。」
市当局の立場では、例えば来客用駐車場だけを取り上げても、使用者に対する強制力と許可
権限をもつPSCC779管理組合の比ではなく、そのような規定を強制することはできないし、
私的紛争の当事者間の責任で処理するべきであろう。
[19] PSCC779共同住宅の宣言書の中には、「障害者が使用可能な駐車場(Accessible Parking)」
では来客者の利用を制限しなければならないとの規定は一切ない。実際には、4.2(b)項は
平易な言葉遣いで、障害者用駐車場は障害者、来客の両者に適用できることを示している。
PSCC779管理組合の混乱と、宣言書を実効あるものとすることを考慮すれば、裁判官は、
指定された3つのアクセス可能駐車場の標識(accessible parking signs)については、具体的な
言葉遣いで、一般的な、遠くにあるものよりも優先して「来客専用(Visitor Parking Only)」
の標識を設置すべきと考える。
本判決の目的からして、ラーマン氏は来客用駐車場ではなく、それに対立するものとしての障害者
用駐車場区画(handicap parking space)に駐車しているものとして、裁判官は結論を導くこととする。
争点3: ラーマン氏は管理組合の障害者用駐車場を使用する権利を有するか?
[20] PSCC779管理組合は、障害者に便宜を図る義務に関する人権法の規定に関連する大量の陳述書を提出
した。ラーマン氏は当然の権利を主張しているのであって、便宜を受ける事は主張していない。
この陳述書が問題なのは、この点について、事実の相違があることである。
ラーマン氏はPSCC779管理組合に対し、「障害者が利用可能な駐車場区画(accessible parking space)」
を彼自身が排他的に利用できるようにとっておくことを請願しているのではない。
彼は、「障害者が利用可能な駐車場区画」を使用することの保証を請願しているのではない。
彼が主張している「障害者が利用可能な駐車場区画」とは、
「使いやすさを優先し、簡単に来れて、すぐに使えること」("on a first-come ,first served basis")
という基本に適合するということである。
裁判官は、このラーマン氏が理解していることと、もしも3区画の駐車場が他の使用者によって占有されて
いたら、彼は、他の代替手段を取らざるを得ないということを結論として導く。
実際のところ、ラーマン氏はこれらの区画の通常の専用使用者(usually the only user of these spaces.)
でありたいだけであると述べている。
[21] 問題は、ラーマン氏はPSCC779共同住宅の宣言書の規定上、障害者用駐車場を使用する権利を有するか
否かということである。宣言書は障害者用駐車場の使用を要求する区分所有者による障害者用駐車場の使用
について言及している。そこには、障害者用駐車場としての構成についての定義はしていないが、個別に明確
に表示された案内標識を有する駐車場であることについて言及している。明確な標識とは指定駐車場の頭の
部分には個別に「許可車専用("Permit Required")」と表示される。
この許可車専用の標識の下には、「障害者が利用可能な駐車場(accessible parking)」に対応するユニバーサル・
シンボル(universal symbol)で、分別をわきまえた人(reasonable person)が障害者用の意味であると認識
できる図を、それぞれ表示しなければならない。
この説明は、ミシサガ市駐車場規則の「障害者が利用可能な駐車場(accessible parking)」の規定と同じである。
ラーマン氏は、オンタリオ州が発行する障害者が利用可能な駐車場の利用許可証を受給している。
有効期間は2017年8月22日から5年間。ラーマン氏は駐車を許可された彼の車を陳述書で示した。
[22] 障害者利用許可証は高速道路法(Highway Traffic Act.PRO 1990,法令番号581 "HTA Regulation")
の管轄である。障害者利用許可証の証明は、高速道路法の指定開業医による障害者認定が必要である。
ラーマン氏の障害認定は「終生」であるが、同許可証の有効期間は同法(5)1(a)の規定で5年間である。
[23] PSCC779管理組合は、次のように陳述した。
高速道路法は今回の事件には適用できない。なぜなら、高速道路法は公益施設に適用するもので、
私有の施設には適用されないからである。高速道路法では障害者利用許可証の証明規定があり、
それを獲得することが利用条件になっているが、その適用は自治体により分かれている。
ミシサガ市駐車場規則では、障害者用駐車場の利用には、障害者利用許可証の提示が求められる。
この障害者利用許可証の取扱に関しては、地方自治法(Municipal Act,S.O,2001 c.25)で、地方によって
矛盾が生じないように、首尾一貫したものとなっている。地方自治法の102条(1)項に、下記の規定がある。
「もしも自治体が障害者駐車場制度の規則を確立する場合には、許可される車両の特定を同一の方法で
行い、かつ、その駐車場には高速道路法で定める標識を設けなければならない。」
最終的に、PSCC779管理組合は自らの判断で、この法の規定に基づく駐車場標識による使用許可制を選択した。
[24] 管理組合がラーマン氏に対し「障害者が利用可能な駐車場区画(accessible parking place)」としての指定
駐車場の使用者適格性に適合することの証明を求めることは義務であるとPSCC779管理組合は主張した。
裁判官は、ラーマン氏がPSCC779管理組合が管理する駐車場の使用者適格性に適合していることを認める。
なぜなら、彼はミシサガ市駐車場規則に基づく障害者利用許可証を有しており、同駐車場も同法による
標識を用いた許可制を採用しているからである。
[25] PSCC779管理組合はまた、ラーマン氏に対する駐車場利用許可については、来客用駐車場
(visitor's parking)の使用を許可するには十分ではないと陳述した。
この主張によって、「ラーマン氏が来客用駐車場の利用を望み、そして便宜を図ってもらうことを求めている」
と管理組合が一方的に決め付けていることが判明した。
[26] PSCC779管理組合はまた、次のように主張した。
宣言書4.2(b)項は、「区分所有者は人権法に従って、・・要求することができる。」と規定しているが、この
条項は障害者用駐車場区画(Handicap Parking spaces)の利用を必要とする障害者関連を示している。
このPSCC779管理組合の立場に、(解釈を誤らない限り)、裁判所が口を出して妨害すべきではない。
本件は、宣言書に対するPSCC779管理組合の合理性を欠いた解釈が問題となっているが、
宣言書4.2(b)項の適用に関して、本件の状況からは合理的な解釈である。
ラーマン氏が求める「障害者が利用できる駐車場区画の使用許可(Accessible Parking Permit)」は、
PSCC779管理組合が求めていた「障害者用駐車場区画(Handicap Parking spaces)の利用を必要と
する障害者関連」のことである。
[27] PSCC779管理組合はラーマン氏の障害について異議を唱え、彼がロビーやエレベーターで写っている
数枚の状況写真を提出した。これらの写真が撮られたアングルから、それは多分、天井付近に設けられ
たセキュリティカメラからの画像であろうと推測される。
この写真に写っているラーマン氏は食料雑貨類と箱を運んでいる。そのうちの1枚には、ロビーまたは
エレベーターのどちらにも、バーベル(訳注:重量挙げの体操用具)を運んでいる姿が写っている。
能力検定の手法として、文字解説なし、医学的意見なしの写真判定だけの方法で紹介されている。
ラーマン氏の医師が提供した診断書では、ラーマン氏は数年前に屋根から落下したことが原因で背骨、
手首、足首の骨折が認められる。ラーマン氏の医師の所見では、ラーマン氏は障害者利用許可証
("disability parking permit")及び「慢性の痛みの緩和作用剤("chronic pain and reduced function")」
の携行が認められている。
PSCC779管理組合は、医師の所見を無視できる説得力のある証拠を提示せず、障害者利用許可証
が無効であるとの証明もしなかった。
[28] PSCC779管理組合は、ラーマン氏が「障害者が利用可能な駐車場(accessible parking)」を
夜通し使用していることに異議を唱え、許可証の停止を求めるつもりであることを陳述した。
この陳述はPSCC779管理組合の立場からして明らかに矛盾している。ラーマン氏は少しも
「障害者が利用可能な駐車場(accessible parking)」の使用者の資格を与えてくれとは主張
していない。宣言書には、この駐車場を夜通し使用してはいけないとする規定はないし、また
やめさせる強制力の規定もない。使用を日中に制限する規定もない。
裁判官は、ラーマン氏がPSCC779共同住宅宣言書4.2(b)項の規定に従って障害者として適法に
「障害者専用の、または障害者が利用可能な駐車場(handicap, or accessible parking space)」
を利用することを認める。
争点4: 管理組合はラーマン氏に対して、宣言書改定を伴うコンプライアンス
強制執行費用を課す権利を有するか?
[29] PSCC779管理組合は、ラーマン氏に対して、駐車場の使用に関するコンプライアンス強制を
目的とする宣言書の権限付与のためにかかった費用を請求する目的で共同住宅宣言書の
3件の賠償金に係る条文を引用する。これらの賠償金条項の中で最も関係の深い条文は
PSCC779共同住宅宣言書6.1条である。以下 引用する。
「制裁金、弁護士費用を含むすべての費用、弁護士及び弁護士自身の依頼人、区分所有者
の権利を守らせるための管理組合の費用、法及び宣言書及び管理規約、使用細則他の
法定費用、法134条の裁判費用は、管理組合の区分所有者が管理組合に対して支払う
ものとする。区分所有者が管理組合に対して支払うすべての金銭、利息、費用に関して
共益費に加算して支払うことができる。それによって管理組合がうけた損害を回復できる
ものとする。
本事件の場合、これらの制裁金を課す根拠がない。PSCC779管理組合は、ラーマン氏が障害者
用駐車場の使用をめぐって他人の権利を侵害したことを立証できないときは、管理組合は、
ラーマン氏に対して制裁金を課す要求はするべきではない。
[30] PSCC779管理組合は、賠償金、費用、制裁金、本件裁判のための費用を定量的に説明する
ことができなかった。むしろ、これらの費用の請求を主張する必要もないというPSCC779管理
組合の立場がはっきりしてきた。
裁判官が理解しているところでは、PSCC779管理組合の立場は、法的費用を含めたコンプライ
アンスの費用請求は単なる主張であり、ラーマン氏から費用を取り戻すことができないことを
責任転嫁するための示威行動(demonstrate)である。それは、不幸な事に、オンタリオ州法では
認められない。管理組合は、区分所有者に対して単純に組合にとって都合の良い自説を主張
することはできない。
ラーマン氏は、賠償金を課されることは管理組合の利益にならないと異議を唱える。
裁判官は、ラーマン氏がPSCC779共同住宅宣言書4.2(b)項の規定に従っていることを認める。
従って、共同住宅宣言書の規定に対するコンプライアンスを強制し、その損害回復を行うために
ラーマン氏に賠償金を請求する旨の主張をすることはできない。
[31] 法1.44(1)2項の規定に基づいて裁判官は、PSCC779管理組合が行おうとしているラーマン氏
への共同住宅宣言書4.2項の規定に対するコンプライアンスを強制し、その執行費用を
ラーマン氏に請求する試みを停止するよう命じる。 以下で説明するように、これには、
PSCC779管理組合がラーマン氏に対して、彼が所有する住戸の区分所有権に先取特権を
登記し、競売予告を発行することによって、これらの請求を執行しようとする試みも含まれる。
争点5:ラーマン氏は本件に関して受けた損害及び費用を請求できるか? 及びその総額は?
[32] 原告ラーマン氏は、本訴において勝訴した側であり、原告が本訴において支払った訴訟費用の
全額を被告側から弁償してもらう権利がある。その費用は200ドルである。
[33] 本事件には相互に関係のあるハラスメントの主張が存在していた。ハラスメントの主張は、
PSCC779管理組合が申立てをした抗告訴訟の中での論旨に認められる。
PSCC779管理組合は、ハラスメントの申立てに対する補償は請求していない。
[34] ラーマン氏はまた、「障害者が利用可能な駐車場区画(accessible parking spaces)」の使用
に関して様々なハラスメントを受けてきたと主張する。PSCC779管理組合の行動については
当事者双方が細かく述べてきた。ラーマン氏は、彼の住戸を購入した2020年4月14日以降、
「障害者が利用可能な駐車場区画(accessible parking spaces)」を使用してきた。
PSCC779管理組合は2020年6月2日に、最初の強制措置命令を文書で送った。
その文書の中でPSCC779管理組合は、彼が 「障害者が利用可能な駐車場区画
(accessible parking spaces)」の中の駐車場区画を恒久使用(permanent parking)する申し出
を行ったことの根拠となる医師の診断書の提出を求めた。この文書はまた、ラーマン氏に対する
ハラスメントの申立てと、ラーマン氏が彼の共益費の支払を拒否しているという申立てについても
言及していた。
このメールの最後に、管理組合がこの文書を作成するためにかかった法的費用が694.16ドル
であることが記されていた。ここで注意すべきは、ラーマン氏は、最初に、駐車場区画を恒久使用
する申し出を行ったかもしれないが、多分していないであろうという点である。
ラーマン氏は、今回の審理において、障害者用駐車場の条件として一般に認められている基本
「使いやすさを優先し、簡単に来れて、すぐに使えること」("on a first-come ,first served basis")
に適合しなければならないことを述べた事に対し、PSCC779管理組合は本件に関して説得力
のない証拠を作り出してきたと判断される。
[35] 2020年6月19日、PSCC779管理組合は、ラーマン氏に2回目の強制措置命令を文書で送った。
この文書には、ラーマン氏への新しいハラスメントの種が提示されていた。その中には、
2通のEメールで別々にPSCC779管理組合理事会の議事録で理事会メンバーの「PSCC779管理
組合のコミュニケーション方針(Communication Policy)」に違反する発言が含まれていた。
管理組合理事会は、ラーマン氏が障害者用駐車場(handicap parking spaces)における人権上の
便宜を支援するための充分な医学的証拠の提出をしてこないことに対する理事会の立場を繰返し
述べていた。PSCC779管理組合は、「強制措置のための法的費用(Legal Cost of Enforcement)」
のために1,833,99ドルを管理費上乗せ課徴金("chargeback")としてラーマン氏に課すことを主張
している。 (訳注 チャージバックは、前述[29]の規定に基づく。関連⇒(訳注(6a)参照) )
この主張は、詳しい説明抜きでオンラインでラーマン氏に送信されていた。
[36] 2020年6月23日、PSCC779管理組合は、ラーマン氏に3回目の強制措置命令を文書で送った。
この文書は、ラーマン氏からのEメールでの返信に対する回答であった。
この文書で、PSCC779管理組合は、 「障害者が利用可能な駐車場区画(accessible parking spaces)」
を「来客専用(visitors only)」とする立場を表明した。この文書はラーマン氏への最後通告の形で、
「貴殿の管理会社の建物管理者(Corporation's Building manager)へのさらなるハラスメントにより、
法的執行のための費用の増大を招いたことに対する損害賠償の負担をしていただく事になります。」
として、あらたに更新された2,522.16ドルの請求書が詳しい内訳なしに1行で書かれて添付されていた。
[37] 2020年10月2日、PSCC779管理組合は、3回目の強制措置命令を追確認する文書をラーマン氏に
送付した。
その内容は、ラーマン氏は、「障害者が利用可能な駐車場区画(accessible parking spaces)」を
使用し続けているだけでなく、PSCC779管理組合方針(Communication Policy)にも違反しており、
更に管理組合に嫌がらせ(ハラスメント)をしている」旨、言及していた。
この文書には、もしもラーマン氏が「充分な医学的証明書」を提出するなら、障害者用駐車場
(handicap parking)を、例えば、月100ドルのリース料で提供する旨の申し出が記されていた。
この文書の文末には、もしもラーマン氏が管理組合からの6月23日付け文書で請求した費用について、
速やかに支払う意思があるなら、管理組合の顧問弁護士に連絡されたいという内容で、管理組合が
これまで請求してきた「支払明細書(payout statement)」が添付されていた。
この文書は管理組合の請求に対するラーマン氏への未払い金請求(outstanding chargebacks)
に関して、「貴殿の部屋の滞納金("your Unit's arrears")」として加算処理する旨、言及していた。
この文書からは、PSCC779管理組合がラーマン氏の共益費の支払にコンプライアンスの
強制的措置のための法的費用を含めて加算しているのかは明確にはされていなかった。
[38] 2020年10月8日、ラーマン氏の主治医は、上記の文書に関連して管理組合に書簡を提出した。
その文末で下記を示している。
「ラーマン氏は、障害者用駐車場の使用許可証を受給しています。彼の語ったことによれば、
彼の住んでいる共同住宅の管理組合から数々のハラスメントを受けており、そのせいで、
彼はストレスを受け、生活上の強い不安感を抱いています。
このストレスを軽減できるなら、いかなる方法でも彼の健康には有益となります。
もしも貴方達が、もっと情報が欲しいと仰るなら、どうか遠慮なく、当方に連絡ください。」
PSCC779管理組合は、「この書簡では、ラーマン氏に対する要求に答えるだけの充分なサポート
を見出すことができない。もっと明確な情報を求める」旨の文書を医師宛に送った。しかし、、
管理組合はその回答を得られなかった。それは、ラーマン氏の指示によるものだと推測した。
[39] 10月の間ずっと、数々のメール交換が当事者間でやり取りされていた。
その中にはラーマン氏がPSCC779管理組合の顧問弁護士に関してオンタリオ法曹協会に報告し、
そのことが脅迫であるとする内容のもので、後になってラーマン氏が弁明したとされるものである。
[40] 2020年10月14日、PSCC779管理組合は、ラーマン氏に対して総額6,982.70ドルの先取特権を
設定する旨の通告を行った。2020年10月26日、PSCC779管理組合はラーマン氏に対して
Eメールを送り、ラーマン氏の所有する住戸に先取特権を設定登記した旨の通知を行った。
このEメールに続いて、「PSCC779管理組合が蒙った費用は貴殿の共益費に加算して請求する。
この費用には、貴殿が今朝提訴したブランプトン高等裁判所における当管理組合としての防御
または反訴のための法的費用も含む」とのメールが送られた。
PSCC779管理組合は、上記に関し、宣言書の規定に従って、年率18%の毎月複利での利息を
つけてラーマン氏に課したものであると陳述した。
[41] 11月、12月には、先取特権によって確保された金額が増えていることをラーマン氏に通知する
一連のメールのやり取りが続いた。
2020年12月31日、PSCC779管理組合は、ラーマン氏の所有する住戸にかけられた先取特権の
総額を13,839.68ドルとして競売予告(Notice of Sale)を登記し、2021年2月1日には、これを
15,162.51ドルに増額する予定であるという内容のメールを送った。
PSCC779管理組合は、ラーマン氏が2021年2月19日までに管理組合が請求した金額の全額を
支払わない場合、PSCC779管理組合は、ラーマン氏の所有住戸の競売手続きを開始する旨
警告した。
[42] ラーマン氏は早くから、本件においては、裁判所の命令によらずに、共益費に管理組合の
法的費用を加えて請求する事はできないとして、PSCC779管理組合に対して抗議してきた。
ラーマン氏は法の134(5)項を引用した。
管理組合が裁判所の決定に従って損害の補償や費用を区分所有者や居住者に課す場合、
当該住戸の共益費に加算して請求することができる。
そして管理組合は住戸の所有者が支払までの一定の猶予期間を設けるものとする。
(訳注)日本でも裁判所の決定による債務名義がなければ、債権回収の強制執行はできない。
詳しくは、「管理組合の滞納督促」 ー 「債務名義とは」 参照
[43] これに対し、管理組合は「アムラーニ対ヨークコンドミニアム管理組合(Amlani v. York
CondominiumCorporation No. 473, 2020 ONSC 194)裁判」におけるオンタリオ高等裁判所
の判決を引用して次のように応じた。
PSCC779管理組合の立場の根拠は、裁判所の決定を求めることなく、宣言書の損害補償
規定を適切に執行することによる法令コンプライアンスの強制力に基づき、損害費用を
ラーマン氏の共益費に加算して請求しているのである。
この管理組合の解釈における重要な点は、共益費が先取特権の対象となる可能性があり、
本件においてはラーマン氏の住戸の競売を通じて先取特権が執行される可能性がある
ということである。
[44] アムラーニ事件では、賠償金に関する法134条の解釈について扱っている。
然しながら、本事件の議論の本質は、法134(5)項の規定に従って裁判所が決定した場合、
管理組合は、彼または彼女の日常の生活を奪うことができる旨の賠償金規定の条文の用語
の使い方を無視したものである。
事実、この裁判の判決の段落[34]では次のように述べている。
「管理組合がこれを行う事が許されるケースとして、先取特権の実行は、共益費を支払う全区分
所有者を対象としたものであって、その実行には全区分所有者の過半数の賛成を必要とする。
管理組合が他者を従わせるために、足枷を外された全く自由な状態で、管理組合が望むもの
なら何でも一方的に相手の共益費に費用を加算して当該区分所有者の住戸を売却する権利
を手に入れることができる訳ではない。」
[45] この問題を検討するもう一つの方法は、PSCC779管理組合の補償条項の解釈が妥当かどうか
を判断することである。ここで再びアムラーニ事件の判決のパラグラフ[46]を参照する。
「最後に、管理組合が進める解釈、すなわち、裁判所の判決で示される具体的命令なしに、
コンプライアンスとその執行に関する費用を強制的に課すことは、法134(5)項に違反する。
法令の規定に違反する解釈は、定義上、不合理である。」
[46] PSCC779管理組合は、当初から、ラーマン氏が「障害者が利用可能な駐車場区画(accessible
parking spaces)」を使用することが、分別をわきまえた人なら誰の目にも明らかなケースであった
という事実にもかかわらず、コンプライアンスを強制する点において攻撃的な姿勢をとってきた。
PSCC779管理組合はますます攻撃的な立場を強めてきた。
宣言書規定を守らせる事(コンプライアンス)を強制するための法的費用を、関連する利息とともに
ラーマン氏への共益費に加えてきた。
ラーマン氏は正確に、それらの費用を共益費に加算して請求するには、PSCC779管理組合が
主張の根拠にしている法134(5)項の規定に従い、裁判所の決定なしにはできないことを正しく
助言したにもかかわらず、PSCC779管理組合は自分の立場に固執した。
PSCC779管理組合は、これらの費用を共益費に加算してラーマン氏に請求しただけでなく、
法的費用と利息を先取特権として設定し、所有者の住戸を売却して回収する競売予告通知を出してきた。
ラーマン氏の主治医から、管理組合のこのような彼への扱いが、彼にストレスと不安を与えている
ことの通知を受けたにもかかわらず、それは進行した。
[47] PSCC779管理組合は、宣言書4.2項の規定に従ってラーマン氏にコンプライアンス強制執行費用を
課したと主張するが、その費用の詳細を明らかにしていない。
ラーマン氏の資産に対して登記された先取特権、若しくは競売予告通知に関する賠償金請求のどの
部分が、ラーマン氏の「障害者が利用可能な駐車場(accessible parking)」の使用に関する強制
執行費用の補償の請求に関連するかを判断することは不可能である。
PSCC779管理組合は、本裁判の審理において具体的に費用の内訳を公表するよう要請されていた
にも拘らず、PSCC779管理組合は、その要請を拒否した。
上記の議論において、実際はともかく、見たところでは、管理組合は、ラーマン氏の提訴に応訴する
には強く主張するだけで十分と考えているように見える。
PSCC779管理組合は、アムラーニ裁判で裁判所が下記の警告をしたのとまさに同じ事をしている。
「何の制約もなく自由に、かつ、一方的に権利を主張し、いかなる費用であっても、望むがままに
区分所有者の共益費に加算して負担を課し、共同住宅の区分所有者の住戸を競売することによって、
権利を取得する。」
[48] 本事件の幾つかのポイントを探っていくと、PSCC779管理組合の主張の中から、区分所有者に対する
攻撃的なハラスメントを行っていることが見えてくる。
ラーマン氏の主張に対しては執拗に無視し、法律とミシサガ市駐車場規則への言及も拒絶してきた。
最もひどいことに、彼の主治医が本事件を原因とするストレスについての医学的証明書を提出した
にも拘らず、PSCC779管理組合は、彼の住戸に対し先取特権の登記を行い、そして今、彼の住戸を
競売にかけることによって先取特権の執行をしようとしている。
先取特権の登記と競売予告通知の両方が、コンプライアンスの強制執行費用をラーマン氏の共益費
に加算する前に裁判所命令を必要とする同法134(5)項に違反していることを強調して指摘しておく
ことが重要である。
[49] この件ですべきことは何か?
まず最初に、宣言書4.2項の強制執行費用としてラーマン氏に課している費用の完全な内訳の
開示である。
ラーマン氏にとって、彼の資産に設定された先取特権のどの部分と競売予告通知(Notice of Sale)が
この問題に関連しているか、そして彼が別の裁判で救済を求めなければならない部分を理解する
ことは重要である。
[50] 第二に、PSCC779管理組合は、現在進行中の宣言書4.2項を執行するための費用として
ラーマン氏に課している費用に関する強制的な執行措置を即座に停止しなければならない。
これらの措置の中には、PSCC779管理組合によって為された先取特権の登記、及び、彼の
住戸にかけられた競売予告通知が含まれる。
[51] 裁判官は法1.44(1)4項に基づき、PSCC779管理組合に対して、ラーマン氏が本事件において
支払った裁判費用総額200ドルをラーマン氏に支払うことを指示するものとする。
[52] 同法1.44(1)3項に基づき、当裁判所は法令違反に基づく行為による損害に対し賠償金を課すこと
について自由裁量の権限を与えられている。
何をもって法令違反に基づく行為とするかは、事件の前後関係の文脈によって判断するものとする。
本事件は、PSCC779共同住宅の宣言書の解釈をめぐる紛争と、この宣言書を法の規定のもとで
強制するための費用を賠償金として徴収するという措置をめぐる紛争である。
それゆえに、裁判官は、以下をもって結論とする。
裁判官は法の規定に従って損害認定をするまえに、法または宣言書の違反行為があったか否か
について、判断しなければならない。
裁判官は、その両方において違反行為があったことを認定する。
PSCC779管理組合が、宣言書4.2(b)項で規定されている「障害者が利用可能な駐車場(accessible
parking)」をラーマン氏が使用することを妨害しようとした事は、宣言書4.2項に違反する行為である。
同管理組合は、更に、裁判所の命令なしに、法的費用を含めた賠償金を共益費に加算して,ラーマン
氏に請求する行為を行った。この事は、同法134(5)項に違反する行為である。
[53] PSCC779管理組合のラーマン氏に対する法令違反行為を原因とした争いに費やした費用、苦しみ、
時間をラーマン氏に弁償することは当然である。
ラーマン氏は、様々な権利に基づいてミシサガ市が発行している駐車場使用許可証を数枚受給
しているが、その許可証はミシサガ市当局を巻き込んだトラブルにより、無効となってしまった。
このことでも、彼は苦労し、時間を費やした。
更に重要な事に、ラーマン氏は本事件が原因でストレスと不安を覚え、隔週ごとに、カウンセリング
を受けなければならなかった。
彼の証言によると、このストレスと不安は本事件が原因であるとして彼の主治医がカウンセリング
結果を報告書にまとめ提出したことは、これまでの主張の通りである。
裁判官は、本事件の状況に鑑みて、ラーマン氏には1,500ドルの賠償金を受け取る権利があると認め、
PSCC779管理組合に対し、その支払を命ずることとする。
C:結論 (CONCLUSION)
[54] ラーマン氏は、PSCC779共同住宅の宣言書4.2(b)項の規定により、「障害者が利用可能な(accessible)」
または、障害者用(handicap)の屋外駐車場(outdoor parking)を使用する権利を有する。
PSCC779管理組合は、ラーマン氏が最初から同共同住宅の宣言書規定を遵守してきた事に対し、
同宣言書4.2項のコンプライアンスを強制しようと試みてきた行為は、同氏へのハラスメントを構成する。
そのため、ラーマン氏はストレスを受け、不安を抱くに至った。
現在、PSCC779管理組合は、裁判所の命令なしに、法的費用を共益費に加算して、ラーマン氏の住戸を
競売にかける動きを見せている。
PSCC779管理組合は、宣言書4.2項の執行のための法的費用と主張してラーマン氏に課している
ことに関連するすべての強制的な行為を直ちに停止しなければならない。
本件はまた、これら管理組合による一連の行為によってラーマン氏が受けた損害に対し、
PSCC779管理組合は、賠償金を支払って償わなければならない。
判決 (ORDER)
[55] 当裁判所は下記を認定する。
1. ラーマン氏は、障害者が利用可能な、または、障害者用の屋外駐車場を使用する権利を有する。
2. PSCC779管理組合が宣言書4.2項のコンプライアンス強制執行費用をラーマン氏に課す事は
無効とする。
[56] 当裁判所は下記を命じる。
1. 被告PSCC779管理組合は、本判決から14日以内に、ラーマン氏に対して宣言書4.2項を執行
するための費用(以下「賠償費用(The "Indemnification Costs"」 という)の完全な総額の
内訳明細をラーマン氏に提出すること。この明細には、法的費用と利息それぞれの明細を含
むこと。
2. 被告PSCC779管理組合は、賠償費用に関連して拡大したすべての強制行為を直ちに停止する
こと。これらの行為には、賠償費用に関連してラーマン氏の住戸の不動産に継続登記した先取
特権(a lien)及び、これに続く競売予告通知(Notice of Sale)の登記を含むものとする。
3. 被告PSCC779管理組合は、本判決から30日以内に、原告ラーマン氏に対して下記を支払え
a. 法1.44(4)項に基づいて、ラーマン氏が支払った本件裁判費用総額200ドル
b. 法1.44(1)3項に基づいて、1,500ドル
c. 本判決において被告に課した費用または賠償金のいかなる割合でも、原告が支払うことは
ないことを確実に保証するため、原告が所有する住戸に課せられる共益金は、共同住宅
全体に占める比率と同等の比例分担による信用供与に基づくものとする。(訳注(6a)参照)
裁判官 ローリー・サンフォード(Laurie Sanford)
コンドミニアム裁判所判事(Member,Condominium Authority Tribunal)
Released on : Ferbruary 16.2021
訳注
1、Contents と Context
この判決原文では、4つのパラグラフで Context の用語が使われています。
[6] 〜裁判管轄(事物管轄)の申し出の文脈の中で提起されているハラスメント〜
(原文)The harassment claimed by PSCC779 arises in the context of their〜
[27] 〜文字解説なし、医学的意見なしの写真判定〜
(原文)the photographs provide no context and no medical opinion
[33] 〜ハラスメントの主張は、 抗告訴訟の中での論旨に認められる。
(原文)PSCC779 were made in the context of the jurisdictional motion
[52] 〜何をもって法令違反に基づく行為とするかは、事件の文脈によって判断するものとする。
(原文)act of non-compliance will depend on the context of the case
ここで、裁判官が使っている Context の正確な意味について補足しておきます。
事実やデータなど、伝える情報の中身をコンテンツ(Contents)と言いますが、情報は
単独のコンテンツだけでは解釈できず、他の情報との関連性の中で意味が理解されます。
その関係性を「コンテクスト(Context,文脈)」と呼びます。
事実を規範、慣習、文化、常識、価値感などの関係性の枠組みの中から法的論理性を
見出していく作業の手がかりを、裁判官は Context から得ようとしています。
各コンテンツを関係付けるコンテクストの中で、コンテンツは初めて意味のある情報になる。
コンテクストを意識して意味を正しく伝える技術、それがコミュニケーションスキルです。
不祥事を起こした日本の政治家や官僚に見られる後付の言い訳はコンテンツですが、
それらをコンテクストとして判断すると、全体の本質がわかる。
「言語の本質」 今井むつみ・秋田喜美(きみ)共著 中公新書2756 (2023年5月25日初版)
認知科学、言語心理学、発達心理学者の今井博士(Ph.D)と認知・心理言語学者の秋田博士が
この本で,言語の本質とは何かをつきつめていく中で、AI に言語を認知させる試み(movement)
と失敗の多くの歴史から深層学習(Deep Learning)のアルゴリズムやChatGPTなどに至る例を
紹介しつつ、(幼児が言語を覚える最初の過程)「記号接地(The symbol grounding problem)」
(身体的であること)から開放されることで、AI 言語操作が可能になったことを紹介しています。
終章で著者は、米国の.Charles.Francis.Hokett(1916〜2000)の「design features of language
(言語の大原則)」(1960) に敬意を払いつつ、「言語の本質的特徴」を 7つ 挙げています。
@ 意味を伝えること A 変化すること B 選択的であること C システムであること
D 拡張的であること E 身体的であること F 均衡の上に立っていること
この【訳注】で述べた Contents と Context の関係性は「C システムであること」の項で、
述べられていることに関係していますので、C 項の一部を抜き出してご紹介しておきます。
・言語の要素(単語や接辞など)は、単独では意味をもたない。
・言語は要素が対比され、差異化されることで意味を持つシステムである。
・単語の意味の範囲は、システムの中の当該の概念分野における他の単語群との関係性
によって決まる。つまり、単語の意味は当該概念分野がどのように切り分けられ、構造化
されていて、その単語がその中でどの位置を占めるかによってきまる。
とくに、意味が隣接する単語との差異によってその単語の意味がきまる。
(以上 マンションNPO 訳) (2022年9月20日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 20 September 2022/ Revised Publication -time to time)