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(1) 抗告 訴え却下の申立て (2021 ONCAT 1)

【年度別目次】 (2021)  (2022)  (2023)

この頁は(1)です
No.事件番号内容判決日
(1)No. 2021 ONCAT 1 【抗告】被告が訴え却下の申立て・棄却2021年1月12日
(2)No. 2021 ONCAT 13 【判決】管理組合のハラスメントを認定、損害賠償を命令2021年2月16日
(3)No. 2021 ONCAT 32 【判決】組合文書の訂正要求、訴えの却下2021年4月15日
(4)No. 2021 ONSC 7113 【控訴審判決】管理組合が控訴・控訴棄却2021年10月28日
  (1)〜(4) 中間解説 あとがき・訳注(2022.09,20) 

事件の概要

ここは来客用だとして共用部の障害者用駐車場を障害者の区分所有者に使わせなかった管理組合に対し、
障害をもつ区分所有者が、使用者適格と管理組合によるハラスメントの確認を求めて裁判所(CAT)に提訴
(1) 被告管理組合は、裁判所(CAT)には裁判権がないとして訴え却下を申立て、CATはこれを棄却(2021 ONCAT 1)
(2) 裁判所は原告の使用者適格と管理組合によるハラスメントを認定、管理組合に損害賠償を命令(2021 ONCAT 13)
(3) 組合文書の訂正要求、訴えの却下(2021 ONCAT 32)
(4) 敗訴した管理組合は高等裁判所に控訴、高等裁判所はこれを棄却。原審判決が確定(2021 ONSC 7113)

本頁 (1) 「抗告に対する決定」(2021 ONCAT 1) MOTION DECISION 目次
(1) 裁判所への申立てに対する決定
     裁判却下を求める申立に対する決定
     裁判却下を求める申立て内容
     争点ー裁判所実務規則 17.1 (b)
          (当裁判所に当該事件を審理し判決を下す権限が付与されているか?)
     争点ー裁判所実務規則 17.1 (c)
          (原告が不正な目的で当裁判所を利用しようとする事案か?)
     結論
     判例解説

(1)抗告 訴えの却下を求める申立てに対する決定(2021 ONCAT 1)

CONDOMINIUM AUTHORITY TRIBUNAL

DATE: January 12, 2021
CASE: 2020-00371N
Citation: Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779, 2021 ONCAT 1
Order under section 1.44 of the Condominium Act, 1998.
Member: Michael H. Clifton, Vice-Chair
The Applicant,
Aqib Rahman / Self-Represented
The Respondent, 
Peel Standard Condominium Corporation No. 779
Represented by Victor Yee, Counsel

コンドミニアム裁判所(CONDOMINIUM AUTHORITY TRIBUNAL)

判決日:     2021年1月12日
事件番号:   2020-00371N
事件名:     ラーマン対 ピール スタンダード コンドミニアム管理組合(登記番号779), 2021 ONCAT 1
準拠法令:   共同住宅法1998 1.44
裁判官     マイケル..H..クリフトン(コンドミニアム裁判所副議長判事)
原 告:    アキブ・ラーマン/本人弁護
被 告:     ピール スタンダード コンドミニアム管理組合(登記番号779)(”PSCC779”と略)
         代理人  ビクター・イー(弁護士)

訴えの却下を求める申立てに対する決定 (MOTION DECISION)

[1]  本件の原告は、被告管理組合が管理する共同住宅共用部の「障害者が利用可能な駐車場
  (accessible parking)」について、原告がその使用者適格を有することの確認判決を求めて提訴
  したものである。被告管理組合は、原告がこの駐車場を使用することを、共同住宅の宣言書の
  規定条項または管理規約を根拠に拒否してきた。

  被告管理組合は、本訴訟はコンドミニアム裁判所の裁判権限から逸脱している確かな法的根拠
  があるとして、本件訴訟を却下するよう求める本申立てを行ったものである。

  裁判官は、両者の主張を聞いた上で、本件訴訟の却下を求める被告の申立てには充分な根拠、
  がなく申立てを棄却し、係属訴訟の審理手続きを進めることととした。以下にその理由を述べる。

訴えの却下を求める申立て内容 (Motion for Dismissal)

[2] 被告の申立て理由となっているのが、コンドミニアム裁判所実務規則(Tribunal’s Rules of Practice)
  の第17条1項の (b)項と (c)項の規定である。それらは下記のように規定されている。

   17,1項 コンドミニアム裁判所は、下記の事実に基づき、いつでも訴訟を却下することができる。
   (b) コンドミニアム裁判所に当該事件の審理または判決を下す権限が付与されていない事件
   (c) 原告が不正な目的(例えば、人を困らせる厄介な訴え)で裁判を利用しようとしているとき

[3] 被告は裁判所実務規則17.1(b)の規定に基づいて、共同住宅法(Condominium Act, 1998)の
  117条に関連する事件の審理または判決を下す権限は、コンドミニアム裁判所には付与されて
  いないと主張する。(the case since it relates to section 117 of the Condominium Act)

  しかしながら、コンドミニアム裁判所の権限と運営管理規定を定めたコンドミニアム裁判所規則
  (法令番号179/17)では、1(3)項で、法117条に関連する紛争(“is also with respect to section
   117 of the Act.”)に関する裁判権を制限する規定があるが、同規則の1(1)(d)の(i)項は、
  (とりわけ)本件の中心的な争点である駐車場に関して、それを禁止及び制限、またはその他
  の方法で管理することに関して、コンドミニアム裁判所(CAT)に対し、次のように規定する。
  「管理組合の宣言書、管理規約、使用細則等に規定している禁止及び制限事項、または
  駐車場の管理等に関する紛争については、CATに裁判権を付与する。」

[4] 被告は裁判所実務規則17.1(c)に基づいて、下記のように主張する。
  原告は裁判制度を悪用して、人を攻撃するために訴訟に持ち込み、さらに脅しを目的として、
  以前から追加的にさまざまな他の法的手続きを使って同様の状況を作り出している。

争点ー裁判所実務規則17.1項 (b)
    コンドミニアム裁判所規則第1条(3)項の制限規定に対して
    当裁判所に当該事件を審理し判決を下す権限が付与されているか?

(Re: Rule 17.1(b) Does the Tribunal have legal power to hear and decide this case despite the restriction set out in section 1(3) of Ontario Regulation 179/17 )

[5] 上記で示した通り、コンドミニアム裁判所規則179/17の第1条(3)項は、同規則1(1)(d)のもとで
  「法117条に関連する紛争も同様である(“is also with respect to section 117 of the Act.”)」と、
  して、裁判所(CAT)の裁判権を制限する規定を設けている。コンドミニアム法117条を下記に示す。

  117条 なんびとも他人に障害を与え、または共用部の資産を損傷するような室内の行動或いは
       共用部への物品の搬入を許可する権限を有しない。

[6] 被告は、本件紛争には「法117条に関連する紛争も同様である(“is also with respect to section
   117 of the Act”)」との規定に抵触する二つの問題があると次のように主張する。「1番目の問題
  は、原告は本件に関する理事会と管理者の行動はハラスメントを構成するというが、それは原告
  が引き起こしたものである。そして注目すべきは被告が原告にハラスメントをしていると告発した
  事である。次いで2番目の問題は、原告は自分自身の安全が危険であるという事を強調して特徴
  づけようとしていることである。」

[7] コンドミニアム裁判所規則179/17の1(3) 項に関して、被告は「「法117条に関連する紛争も同様である
  (“is also with respect to section 117 of the Act”)」との規定について、広く解釈しなければならない
  ということを暗に主張している。ここで二つの最高裁判例を引用することにする。

   ナウジック 対 国家賠償訴訟(Nowegijick v. The Queen, 11983 CanLII 18 (SCC), [1983] 1 SCR 29
    (“Nowegijick”) と カナディアンオキシ ケミカルズ 対 カナダ司法長官(CanadianOxy Chemicals Ltd.
    v. Canada (Attorney General), 1999 CanLII 680 (SCC), [1999] 1 SCR 743 (“CanadianOxy”),
  この二つの判例で最高裁法廷は厳密な法令解釈を提供している。

[8] ナウジック判決において、ディクソン判事(Dickson J)は判決において次のように述べている。
  「敬意をもって」("in respect or" [sic] )(訳注 [sic]=原文ママ の意味で、orではなくofの誤記を指摘)
  という用語は、私の意見では、広い概念を含んでいる。

  それらには「(具体的に)・・に関係する」("in relation to")、
  「(参考となる)・・に関連する」("with reference to")、或いは、
  「(因果的・論理的に)・・につながる・関係する」("in connection with" )の意味を含んでいる。

  「・・に関して」という意味で使われる「敬意をもって」("in respect of")の語句は関係する二つの主題を
  伝える意味で用いられる表現である。 
  カナディアンオキシ判決においても、「〜に敬意をもって」(“with respect to”)の法文解釈において同様の
  概念を適用している。

[9] 裁判官は被告が主張する「裁判官は分析の結果を基礎として訴訟指揮を行うべき」との意見に同意する。
  それは、コンドミニアム裁判所規則179/17の1(3) 項に適合する広い法解釈を与えるということである。
  然しながら、「可能な限り最も広い見方」ということは、「制限なしの」ということではない。
  そして、裁判官は、本訴訟に関してコンドミニアム裁判所の関与を排除する被告の立場には同意しない。

[10] カナディアンオキシ判決の論証の基礎となっているのが、「〜に関連する」(With respect to)
  というフレーズであり、それは特に段落[15]において明確に表れている。
  この判決で用いられている「関連性(relevance)には、{(当面の問題にとって)適切な関連のある(relevant)」、
  または「道理をわきまえた合理的な(rationally)」の意味が特に含まれていると捉えるべきである。

  カナダ法において最も普遍的に用いられている基本的な原則「証拠に基づいて」(regarding evidence)
  という語を、論理と表現面から見ると、事件の判決に「(影響を及ぼして)作用する」、
  又は「(影響を及ぼす)関連のある適切な」(affect or influence )【証拠】という意味である。

  「合理的関連」(Rational connection)もまた、カナダ法で普遍的に用いられている語で、
  この中の「関連」(connection)という語は、論理的または実際的に必要なものを結合するという
  意味であって、決して「独断的な」又は「無意味で馬鹿げた」ものを結合するという意味ではない。
  この判決では、他にも同様に、適正さと公正さを命じているところがある。

[11] 裁判官は、コンドミニアム裁判所規則179/17の1(3) 項にこの論証の趣旨を適用して、以下のように
  判断する。本件は、損害または損傷に対する懸念または危険は、時と場所によって、或いは状況に
  よって、偶然に、又は、偶発的に生じるものと考える被告の主張は、単に自説を主張するだけのもの
  で、深く考えるべき問題ではないと結論づける。

  むしろ本件は、裁判となって争う前から、「法117条に関連しているものとして見るべき」であった。
  (should be viewed as "the case since it relates to section 117 of the Condominium Act")
  充分な考慮を払うということは、合理的に、或いは簡単に分離することができないものに注意を
  向けるべきところ、本申立て理由に示した問題提起における紛争の分析、とりわけ、紛争の
  中心的争点の事実に合致した正しい判断(a correct determination)は、このような充分な考察
  なしに生れる事はない。

  被告は本件において、そのようないかなる因果的・論理的関係性も、現在の問題との関連性も示さなかった。

[12] 他人に対する嫌がらせ(ハラスメント)に関する当事者のそれぞれの陳述における被告の主張について云えば、
  法117条を適用して、その範囲内で判断する事が可能であるとの被告側の判断には、当裁判所も異議はない。

  しかし、被告は本件裁判の却下を申立て、その理由をコンドミニアム裁判所規則179/17の1(1)(d)項で規定
  されている当裁判所の裁判権限に該当していないことを主張の基礎としているが、それは十分な根拠ではない。

  早くから注目されてきた事だが、被告が、共同住宅宣言書と管理規約・使用細則の規定を根拠に、同共同住宅
  の共用部にある障害者が使用可能な駐車場区画(Accessible common elements parking space)の使用者
  適格について、原告がこれを使用することを拒否してきた被告の主張が、本件紛争の中心的争点である。

  本件紛争をもたらしたハラスメントに関する陳述において、本件紛争を決定付ける合理的かつ正当な関係性は
  存在しない。たしかに、本件紛争を、被告陳述のように、ほかの事を考慮にいれず、複雑にしないで当事者の
  主張を援用し、勇気づけて解決することができることは明白である。

[13] 以上述べてきた原則を本件事実に適用して考えていく中で、数多くの紛争を見てきた裁判官には、気づいた
  ことがある。それは当裁判所にはかなりの人が訴えを持ち込むが、その中には、少なからず、他の当事者に
  対して嫌がらせ(ハラスメント)または扇動(アジテーション)の意思をもって論争するために告訴する人達が
  少なからず存在するという事実である。裁判官は本件においても同様の思いを、たびたび感じてきた。

  もしも、裁判官が、事件の中心的な争点に対する幾つかの合理性や正当性を考えることなく、そのような状況
  下にある被告だけの主張に同意したとしたらどうなるであろうか。 
  被告は本裁判の忌避を求めて申立てしているが、忌避の申立てには他に高等裁判所への上告という手段が
  ある。仮に本申立てと同様の内容で高等裁判所に上告したとしても、当裁判所内での審理で得られる以上の
  広い法解釈が得られることはないであろう。

  当裁判所内の審理には他にも合理的・合法的な面があり、単に審理を忌避するだけの申立てではなく、
  被告に許可を与え、勇気づけることもまた可能である。

  このことによって、本裁判所が理路整然として筋道の通った合理的で重要かつ有意義で効果的な判決を
  提供することが容易になる。

[14] 被告が本審理において主張した第2の訴え内容は法117条に関係するものである。それは原告自身の
  意見陳述において、原告に共同住宅共用部の障害者用駐車場の利用者適格が与えられるかどうかの
  彼の安全性に関係するものであった。

  裁判官は原告の陳述に注目する。 それは原告の主張のごく僅かな一部で、たった一回の偶発的事象に
  すぎないものであった。裁判官はさらに本件訴訟において原告が代理人弁護士を付けずに、本人訴訟で 
  臨んでいることにも注目する。被告が自らに有利な関係性を積極的に主張しているのに対して、
  原告は自分の安全に関して表現できていなかったかも知れないと裁判官は予想する。

  いずれにせよ、原告主張のすべてを包括し、上記で述べた理由を適用した上で、原告は、裁判所に対して
  本件を「法117条にも関連して」(“is also with respect to section 117 of the Act.”)、判断することを望んで
  いると結論付ける必要はないことを認める。

  同時に、原告の安全に対する関心事は正真正銘のものであり、駐車場の使用権に対する適格性の争点は
  申立てたリスクの評価次第で決定するという被告、或いは原告主張のどちらでもないと裁判官は確信する。

  (訳注) ここでの安全に関する主張の中身は、 次の (2)一審判決・[20] で明らかにされています。

[15] 裁判官は、当裁判所の管轄から離れて、安全(または損傷または他の幾つかの事情)に関して考慮すべき
  価値はないこと、或いは、法117条の範囲内で解決すべき他の事情に関しては、関係性または正当性を取り
  上げる必要性はないことを一般的な原則として認める。裁判官はまた、本件にはそのような関係性はないこと
  も認める。

  裁判官は、被告が本件裁判の当事者審尋を拒否し、かっこうな時間稼ぎのために附帯的な手段として本申立て
  を利用していることが本質的な基礎になっており、そのような被告の陳述を採用することは不適切で不公平
  であると認めざるを得ない。

争点ー裁判所実務規則17.1項 (C)
    原告が不正な目的で当裁判所を利用しようとする事案か?

(Re: Rule 17.1(c) Has the application been brought for an improper purpose? )

[16] 被告管理組合は、本件は原告が裁判制度を悪用して面倒な揉め事を起こすことを目的として提訴したもの
  であり、原告が不正な目的で裁判所を利用しようとする事案であるという理由で、訴え却下の申立てを提出
  した。

  この申立てにおいて被告が最初に提出した証拠として、原告がオンタリオ高等裁判所(OSCJ)の管轄下
  にあるオンタリオ人権裁判所(the Human Rights Tribunal of Ontario " HRTO")への申立て、及び、
  被告管理組合側弁護士に対して、オンタリオ法曹協会(Law Society of Ontario "LSO")への申立て、
  などの複合的な手続きを開始し、または開始すると”脅し” を掛けてきたことを証言した。

  被告管理組合及び被告側弁護士は原告から刑事告発を行うとして脅迫を受けていたのであり、
  それらは、管理組合の理事会の管理運営についても同様であると証言した。

[17] 同一の問題をさまざまな裁判手続きで行ってきたことは裁判制度の悪用を構成するものである。
  それらは通常は、不当なまたは不合理な行為を更に進める目的での手続きと特徴付けられるもの
  である。

  これらは本件裁判の棄却を求める抗告申立人が質疑応答なしでの主張の中で述べてきたことである。
  管理組合は、障害者が利用可能な共用部の駐車場及びその動線区域の使用を拒否してきた。そして、
  その区域は管理組合が多目的利用の選択肢を確保するために把握し管理している場所である。

  裁判制度の悪用に関して、管理組合は下記を主張してきた。
    オンタリオ法廷においては、多重訴訟は無効としなければならない。
    訴訟手続きの多様化は公的資源の無駄遣いである。

  これらの主張は一般的な原則の的確な表現であるが、然しながら、それらは、本件が手続き上の
  脅迫または、不正な目的を構成していることの証明にはならない。

[18] 裁判官は被告管理組合から防御証言及びOSCJへの反訴申請の写しのみを提供された。
  これらに基づけば、管理組合の「障害者が使用可能な駐車場」の使用者適格の問題も含ま
  れるが、それらはより広い見方に基づいて検討されなければならない問題を含んでいる。

  当事者間のそれぞれの主張には、当事者間のハラスメント(harassment)、及び、先取特権の
  執行(lien enforcement)の問題が含まれている。
  (訳注)ハラスメントと先取特権の問題は、次頁の (2)一審判決 で明らかにされます。

 本申立てにおける管理組合の基本的な立場は、本件のような事件はOSCJでの適切な裁きに 
 委ねるべきというものであり、本裁判官もそれに同意するものである。

 一方において、当裁判所は、共同住宅法1.42(1)項に基づいて設置された専門的な裁判所であり、
 裁判官が本件紛争の中心的な争点と認識している「障害者が利用可能な駐車場」の適格性に
 ついての問題に有効な判決を下すことができる特別な裁判所である。
 それゆえに、当法廷の審理を通じて完全に紛争解決の目的に適合させる事ができるのは明白
 である。

 更に云えば、COVID-19パンデミックによる裁判所の未処理の残務増大などによる状況の悪化
 に対して、本件審理手続きを速やかに進めて効率的に紛争解決を目指すほうが、OSCJを通す
 よりもはるかに簡単で手早く片付けることができる。

[19] 管理組合弁護士はまた、当法廷が本件を扱う事ができるのかについて疑問を呈している。
 管理組合は、本件が高等裁判所の管轄で扱われるべきであると主張している。
 コンドミニアム裁判所は本件の裁判籍を有していないとする理由を管理組合側は下記のように
 記している。

      たとえ、コンドミニアム裁判所が駐車場使用適格性について判断を下したとしても、
      管理組合がコンドミニアム裁判所の判決に従わなかった場合、原告ラーマン氏は
      更に高等裁判所に控訴することになる。高等裁判所はコンドミニアム裁判所よりも
      判決の執行力への信頼も高いので、コンドミニアム裁判所は高等裁判所の代わり
      にはなりえない。

 高等裁判所への提訴は信頼がある分、裁判費用はより高くつくので、原告は代わりに本件訴訟を
 選択したと考える管理組合の主張の基本となっているのは、コンドミニアム裁判所の現在までの、
 判決を見て、管理組合はコンドミニアム裁判所の判決は拒否できるという思い込みがあるが、
 それは被告が根拠もなく決めてかかっていることである。

 この主張にはいうまでもなく、当裁判所に不信と軽蔑を示す冷笑と皮肉のシニシズム(Cynicism)
 が存在していることは被告の率直な感情であろうと推察される。この事はまた、コンドミニアム
 裁判所が、公正を重んじ時機を計って効果的な共同住宅の初期紛争の解決に尽力してきた
 事実を無視しているようにも見える。

 もしも、裁判官がこの被告の立場を信じたとしたら、裁判官は共同住宅に関連する紛争において
 不適切な背信行為を犯すことになるであろう。

[20] 原告のオンタリオ人権裁判所(HRTO)への申立てに関しては、カナダ高等裁判所における
 「トランシェモンターニュ対オンタリオ州長官、障害者支援プログラム」(訳注(5)(HRTO Claim)
 についての判決(2006 SCC14)ではHRTOは、オンタリオ州人権法に係る排他的裁判権は
 有していないとの判断が示された。
 当裁判所は、HRTOの管轄下にある人権法関係の裁判権を有している。

 本件はオンタリオ州人権法に抵触する内容を含んでいる。従って、当裁判所には裁判権がないと
 する申立てを上記の理由で却下することができる。さらに進んで、当裁判所はオンタリオ州人権法
 のもとで人権侵害に対する矯正命令を発することができる。このことは原告が受けている悩ましい
 確信がもてない手続き上の問題に対しても、HRTOが為しうる制限範囲を超えた充分な判断を、
 当裁判所は行うことができる。

[21] 本件が、オンタリオ法曹協会(LSO)への苦情と脅迫を理由として刑事訴訟が可能であること
 について明白な証拠があるとする被告管理組合の主張については、たとえ、個別の関係性を基礎
 としても、本裁判で取り上げることはない。そのような主張は裁判権の濫用につながるものである。

[22] 被告はまた、原告がコンドミニアム裁判所実務規則の第二段階以降で訴訟手続きの濫用行為
 を行っていると陳述する。これらの立証に必要な物的証拠は機密であり、開示することができない
 ので、これらを検討したり対処することはできない。(訳注:第二段階は調停なので非開示)
 原告・被告いずれの当事者が第三段階において、手続きの濫用を構成する基準(閾値 threshold)
 に達した場合には、当裁判所は手続き中にこれらに対処できると確信している。
 (訳注) この三段階の手順は、「控訴審判決・[8] 法令の体系」で説明されている。

[23] 裁判官はまた、原告の事例をやっかいな事件として形容する正当性については納得していない。
 やっかいな事件と表現するには、(1)充分な、或いは適切な背景や成功の見込みなしに、
 (2)被告の事態を悪化させ、深刻化させる目的が根底にある事の二つが含まれていると考える
 べきである。

 原告は障害者用駐車場の使用適格に関する権利の請求を主張しているが、被告管理組合は、
 本申立ての陳述において、その原告の主張には適切かつ充分な説明が欠けている、もしくは、
 そのような主張が成功する見込みはない旨の説明をしてこなかった。

 その上で、裁判官は被告管理組合が原告が提起した他の手続きによって本事件を悪化させていると
 感じている事は理解するが、原告が誤った目的で本件提訴を意図したものとの主張を支持すること
 はできない。

結論 (Conclusion)

[24] 上記で述べた理由により、本件申立ては却下する。
    係属事件の審理は予定通り開始する。 
    本件訴訟費用は、当事者のいずれも課されない。


裁判官  マイケル..H..クリフトン(コンドミニアム裁判所副議長判事)
公開日  2021年1月12日


(以上 マンションNPO 訳)       (2022年9月20日初版掲載・2023年4月28日更新)
(Initial Publication - 20 September 2022/ Revised Publication -time to time)

判例解説:

 

(1)  裁判長のマイケル..H..クリフトン氏はコンドミニアム紛争に永年携わってきた元弁護士です。
      【共同住宅法制改革の公共政策概論】 (3) カナダの共同住宅法制の概要

(2) 「法117条(1)にも関係する紛争」("is also with respect to subsection 117(1) of the Act")の意味
 この句は判決文の中で、繰返し出てくる本判決のキーワードです。「コンドミニアム裁判所(CAT)には
 法117条に関係する紛争の裁判権はない」として被告側が棄却を申立て、裁判官はそれを却下しました。

 CATの裁判権が及ぶ範囲はCAT規則(法令番号179/17)の第1条「紛争の範囲」(Scope of disputes)
 で定めています。下記はその第1条のサブセクション(3)の実際の規定です。
  Condominium Act, 1998 ONTARIO REGULATION 179/17 CONDOMINIUM AUTHORITY TRIBUNAL
 1.(3) Clauses (1) (c.1) and (d) do not apply to a dispute that is also with respect to subsection
     117(1) of the Act    (この法律文の下線部分が本判決のキーワードになっています。)
(訳):1.(3) 条項 (1) (c.1) および (d) は、法117条(1)にも関連する紛争には適用されない。

 この規則の1(1)(d)の(i)項で、CATの管轄権(事物管轄)を指定していることを判決のパラグラフ[3]で
 説明し、更に、パラグラフ[7]〜[10]で最高裁判決を引用して「〜に関連する」(With respect to)の定義を
 丁寧に説明した後、パラグラフ[11]で、表面的に物事を見るのではなく、根底にある分離できない問題を
 認識すべきで、本件の中心争点は、1.(3)項に該当する問題ではないことは明らかである、としています。

 明快な判決で、他の裁判でも、本判決の[11]を引用しています。下記はこの判決から2年後の判例です。
    MacQuarrie et al. v. Leeds Condominium Corporation No. 3, 2023 ONCAT 47
    ( マッカリー他 対 リードコンドミニアム管理組合事件 - 2023 ONCAT 47 )
    判決日 : 2023-03-21 裁判官:キーガン フェレイラ(Keegan Ferreira), CAT副議長判事
[判決要旨]
[11] 裁判所は以前、Rahman v. Peel Standard Condominium Corporation No. 779, 2021 ONCAT 1
   で、 紛争が「法第117条にも関連している」という決定に寄与する可能性のある要因について
   判決を下した。この判決のパラグラフ[11] で次のように述べている。. . .として、[11]を引用した上で、

   「当事件も同様な事例である。2022年7月24日に洪水被害を受けたコンドミニアムで、その後の
   管理組合の対応に不満を持った住民達が法117条のニューサンス規定を基に管理組合を訴えたが
   基本的な問題は洪水被害に対する管理組合の復旧措置であり、(洪水被害を原因とする悪臭、衛生
   環境の悪化をニューサンス規定に基づいた訴えの請求とする限り)、本件は当裁判所の管轄外である。」
   として訴えを棄却しました。

(参考) 法117条
判決のパラグラフ[5]で要約を示していますが、下記に全文を示しておきます。いわゆるニューサンス規定です。
コンドミニアム法 - パート VI 運営(PART VI OPERATION) - その他(MISCELLANEOUS)-
(禁止事項と行為) (Prohibited conditions and activities)
117 (1) No person shall, through an act or omission, cause a condition to exist or an activity to take place in a unit, the common elements or the assets, if any, of the corporation if the condition or the activity, as the case may be, is likely to damage the property or the assets or to cause an injury or an illness to an individual. 2015, c. 28, Sched. 1, s. 102.
Same
(2)
No person shall carry on an activity or permit an activity to be carried on in a unit, the common
     elements or the assets, if any, of the corporation if the activity results in the creation of or
      continuation of,
   (a) any unreasonable noise that is a nuisance, annoyance or disruption to an individual in a unit,
      the common elements or the assets, if any, of the corporation; or
   (b) any other prescribed nuisance, annoyance or disruption to an individual in a unit,
      the common elements or the assets, if any, of the corporation. 2015, c. 28, Sched. 1, s. 102.
Section Amendments with date in force (d/m/y)
      2015, c. 28, Sched. 1, s. 102 - 01/01/2022

(参考) 本項は、日本の区分所有法第6条1項の「区分所有者の共同の利益に反する行為の禁止」にあたります。
  コンドミニアム法では他にも、不当毀損行為、不当使用行為、不当外観変更行為(116条)、
  プライバシーの侵害ないしニューサンス行為の禁止(117条)、選挙候補者の戸別訪問禁止(118条)、
  コンプライアンス、占有者の義務、コンプライアンスの強制、専有部への管理者立入権限(119条)等の規定があります。
日本の区分所有法第6条1項は、区分所有者の共同の利益に反する行為の禁止という抽象的な表現だけです。

日本では、最も基本的な、「管理組合と区分所有者との間の法律関係」の規定すら存在しないから、裁判の都度、
委任に関する民法645条を類推適用して判断しています。日本の区分所有法は時代遅れでどうしようもない。
   大阪高裁 平成28年12月9日判決 (1) マンション管理組合と区分所有者の間の法律関係


(以上 マンションNPO 訳)       (2022年9月20日初版掲載・2023年4月28日更新)
(Initial Publication - 20 September 2022/ Revised Publication -time to time)