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1.共同住宅法制改革の公共政策概論
  (Public Policymaking for Condominium Legislation)

 目 次 「共同住宅法制改革の公共政策概論」
 (1) 世界の共同住宅法制    (2) わが国の特異な共同住宅法制    (3) カナダの共同住宅法制の概要
 (4) 法制改革の主体 ー 公共政策フォーラムと共同住宅所有者協会    (5) 引用文献

(1).世界の共同住宅法制

 1. 国連欧州経済委員会が示した共同住宅法制のあり方

   先に紹介した国連欧州経済委員会 「共同住宅の所有権と管理に関する指針」の中の
   「5. 第2章 共同住宅の法制」 の冒頭の部分です。

第2章 共同住宅の法制(CONDOMINIUM LEGISLATION)
共同住宅は、一般的に、国の法律の枠組みの中に組み込まれ、その制度の仕組みの中で効率的に実行されます。

国の枠組みの中から問題全体を把握し、 行政の住宅制度戦略と実施計画によって共同住宅所有者に実務的な訓練を実施することは、国が主導して行うべきことです。 然しながら、中央政府機関単独で、すべての問題に対して対策を確立し、実行することは出来ません。

国の機関、地方行政、民間団体は、共同住宅の分野の中でそれぞれ果たすべき特有の任務があります。

 2. 世界の共同住宅法制

項目日本台湾 ドイツ英国カナダ
専有部所有権土地・建物が独立土地・建物が独立 土地・建物一体土地・建物一体土地・建物一体
共有部所有権持分割合持分割合 持分割合占有権持分割合
(分数所有権)
管理組合の
マネージメント
理事会ー管理者理事会ー管理者 専門資格者専門資格者理事会ー専門資格者
原始管理規約
作成義務
法律上は任意
分譲会社作成が一般的
作成義務あり
分譲会社作成
作成義務あり
分譲会社作成
作成義務あり
分譲会社作成
分譲前に宣言書の登記義務あり
分譲会社作成
管理規約変更特別決議(4分の3)過半数の普通決議 区分所有者全員の合意区分所有者全員の合意特別決議(3分の2) (※1)
集会召集権議決権と区分所有者両方の20%以上 区分所有者の15%以上

(※1).
 カナダの裁判の紹介「(3)住民に飼育禁止と賠償命令」 のまえがき 「(4)宣言書(declaration)と 統治文書(governing documents)」の解説で、管理規約上の義務と制約を拘束している宣言書(登記事項証明書)は、 全区分所有者の90%以上の同意がなければ変更できないことを説明しています。実は日本よりも厳しいのです。

 3. 日本とカナダの共同住宅法制比較


  
項目日本カナダ
所管官庁と法令体系法務省
 (区分所有法) ー 「民法の特別法」
国交省
 (マンション管理適性化法) ー 「行政法」
消費者省
   (コンドミニアム所有者保護法 )
   (管理業者規制法)
   (新築住宅保証計画法)
共同住宅専門部局国交省
  公益財団法人 マンション管理センター
  一般社団法人 マンション管理業協会
  指定認定事務支援法人(令和2年新設)

 ※いずれも国交省役人の天下り機関
消費者省
  コンドミニアム庁(CAO)
    コンドミニアム裁判所(CAT)
     (CATはCAOに所属している)
  管理業者規制庁(CMRAO)
※すべて州との行政契約による民間の非営利法人
行政権限上記はいずれも行政執行権限は有しない。
行政権は国交省地方整備局の専管事項
法令と行政契約に基づき、行政執行権と司法権が与えられている。
専門部局の費用負担国庫負担
すべての部局の費用はほぼ全額国庫負担。
毎年、国交省が年度予算を財務省に申請受給し、国交省が配分 (これが国家権力)

管理業協会員は協会会費を拠出(協会員は全登録業者のわずか18%で全管理戸数の9割を占めている。)
受益者応分負担
国や州からの補助金はない。
CAOとCATの運営費は共同住宅の全所有者から(月額1ドル/戸)を徴収。

CMRAOは、全管理業者から売上高×固定比率で徴収する。(中小の管理業者からは売上高に応じた変動比率にして下げてくれとの要求がでている)
監督省庁の目的国交省は住宅関連業界の健全なる発展と保護育成が目的/管理組合は管理業者と対等の事業者であって消費者保護の対象ではない。 消費者省は居住者・区分所有者の権利保護が目的
管理組合は消費者保護の対象です。

(2).わが国の特異な共同住宅法制

 共同住宅法制における日本とカナダの違い
    (A Difference in Public Policymaking as Condominium Legislation )

 現在のわが国の共同住宅制度はさまざまな問題を抱えています。
 問題解決には、「どのような問題があるか」 「どのような方法で解決するか」 
 の二つを整理して考える必要があります。

解決のための方法論から先に言うと、わが国の共同住宅法制を巡る公共政策の決定過程に ついては、当サイトで、2018年1月25日 「マンション管理適正化法の限界」ー「(8) 特異な日本の公共政策の決定過程」 で わが国と対比する形でカナダの共同住宅法制を巡る公共政策の決定過程を取り上げてきました。 また、「カナダの登録法との比較」で、東京都マンション管理適正化条例との比較をしてきました。

() 改革のための公共政策の立案過程とそれを具体的に法制化するしくみの違い

 これらの比較の中で見えてきたのは、官僚中央集権国家のわが国と、各分野の専門家が協働して
 問題解決のための公共政策を立案し、それを議会で討議して、”国民のための” 「専門行政部局と
 専門裁判所の新設と、その運営のための新たな課税制度を新設」して実行していく民主主義体制の
 違いでした。

 カナダの審議会では、委員の審査基準を公開し、実務にかかわる広い分野の現役のプロや消費者の
 中から厳しい実務経歴審査で集めた40人以上の委員と州内の共同住宅居住者から選抜した36人の
 居住者委員会の全員に対し、誓約書への同意を求め、政府には金がない事を宣言し、対策にかかる
 費用をどうやって調達するかまで審議させ、その提案はすべて法案化して公開しました。

 その結果、出来上がった法案は、全管理組合と理事を登記更新させ、全理事に法定講座の受講を
 義務化し、消費者保護機構新設のための新税を受益者負担として共同住宅所有者全員に課した。

 権利と義務を明確化し、居住者、区分所有者の権利を保護し、所有者に維持管理の義務を課した。

() 公共政策の立案と法制化を担う主体を官僚ではなく、第三者のNPOに業務委託したカナダ

 わが国では、公共政策を立案する官僚組織の価値観や利害関係が法案に反映されるのが当然に
 なっています。その実例が、 「老朽化対策と法改正〜令和2年改正の概要〜」 です。

 官僚中央集権国家における審議会メンバーは、官僚(K)が選んだ学者(G)とビジネス(B)関係者です。
 このKGB体制は政策立案当局と業界が課題を共有し、実情に即した制度設計ができる利点が
 あります。
 ただし、誰のための制度設計かといえば、当然にKGBの利益のためである事は言うまでもありません。

 その弊害を徹底的に排除したのが、今回ご紹介する「カナダの共同住宅法制改革プロジェクト」です。
 カナダの共同住宅法制改革作業は、消費者省が法制改革答申案を委嘱したNPO法人のシンクタンク
 「公共政策フォーラム」との業務委託契約に基づいて、2012〜2013年に18ケ月かけてコンドミニアム法
 1998(Condominium Act 1998) 及び 施行令49/01(Regulation 49/01)の見直し作業を行い、
 第T期(2012年秋)〜第V期(2013年秋)の3段階の検討報告書の公開とパブリック・コメントを経て、
 州議会で同法を16年ぶりに改正した。

 公共政策の決定過程
 下記は公共政策プロセスのセオリーとされているものです。
 (1)課題設定(アジェンダセッティング):具体的に解決すべき公共的問題を政策課題として設定
 (2)政策立案:その課題解決に向けた施策及び計画を起案
 (3)政策形成:立案した機関内における各関係部局の合意形成をしながら、政策案を練り上げる
 (4)政策決定・法制化⇒政策実施:決定した政策の立法化、法制化された政策を執行(政策実施)
 (5)政策評価:実施した政策の効果を測定し、次回の政策立案に活かす

 日本とカナダ・オンタリオ州の公共政策の決定過程の比較

項目カナダ「コンドミニアム所有者保護法2015」 日本「マンション管理適正化法」
(1)課題設定第T期(2012年秋)あらゆる問題点を出し合い、出た問題点を選択・集約した

マンション管理適正化法は(1)〜(3)を国交省内部で法案として練り上げられ、 平成12年(2000年)、自公の与党議員により国会で可決法制化された。(平成12年法律第149号) 以後、平成26年(2014年)6月13日(平成26年法律第69号)・令和2年(2020年)6月24日(令和2年法律第62号)改正されたが、 いずれも国交省案をベースに審議され、パブリックコメントも政策プロセスの公開も形式的・限定的 (公共政策とは国の予算を取るために省庁が作る政策を云う)

(2)政策立案 第U期(2012年冬〜2013年春)問題点を討議する5つの作業部会と専門部会を設けて集中審議した
(3)政策形成 第V期(2013年秋)問題を解決する推奨案を法律的に有効にするための作業
(4)政策決定 消費者省の法制局で改正法案作成・2015年5月27日 消費者省ディビット・オラジェッティ長官が改正法案公表・ パブリックコメントと議会の審議を経て2015年12月3日 法案成立
(5)政策評価ー現在も政策評価実施中ー

2015年5月27日消費者省が改正法案発表・修正コンドミニアム1998年法は(2015年法案Bill 106)で 改正法案が可決されたことから、別名「コンドミニアム所有者保護法.2015」と呼ばれています。
 2015年12月3日法案成立(Royal Assent)・2017年11月1日施行
 The short title of this Act is the Protecting Condominium Owners Act, 2015.

この過程は、先に 「マンション管理適正化法の限界」ー「(8) 特異な日本の公共政策の決定過程」 で示した、本来あるべき、「公共政策の決定過程」と一致しています。 透明性をもった教科書的・オーソドックスな手法で、官僚が密室で内輪で作る日本と決定的に違うところです。

(3).カナダの共同住宅法制の概要 [1]

法律用語としては、共同住宅(Condominium)が一般的ですが、ブリティッシュ・コロンビア州では、 “ストラータ(strata title),及び、仏語圏のケベック州では”共有資産の分割所有”(divided co-property) ー仏語でコ・プロプリエテ・ディビゼ(copropriete divisee)が用いられています。 ただし日常会話の口語では、コンドミニアムが共通用語となっています。

B.C(ブリティッシュ・コロンビア)州
B.C州では100万人以上がストラータに住んでいます。
ストラータは戸建住宅に比べてセキュリティが完備している上にアメニティ設備が低料金で使えるなど便利なことから最もポピュラーな住居となっています。 バンクーバーでは、シングル・ファミリー住宅の価格は上昇を続けて空前の高価格のまま高止まりしています。

共同住宅の基準価格は2016年7月時点で51万600ドルで、前年同月比で27.4%の上昇率でした。 ストラータ法では、元々の共用部と住戸に対して200万ドル以上の(不動産・損害賠償責任保険)をかけることを義務付けています。

オンタリオ州
2013年の新規建設物件の半数が共同住宅でした。最近では、共同住宅建設業は数ダースもの新築タワーブームでトロントはその中心でした。 2005年の販売戸数は1万7千戸で、米国マイアミの年間販売戸数7千500戸の2倍以上でした。 トロントの共同住宅居住者数は、2011年97万8125人から、2016年は147万8000人となり、トロント市全人口の54.7%に達しました。 トロント市以外では緑地開発が制限され、タウンハウスに代わって高層共同住宅が最も一般的になっていきます。

オンタリオ州コンドミニアム庁(Condominium Authority of Ontario 略称CAO)
共同住宅法1998の改正法が2015年に成立、その結果、州内の共同住宅における生活と管理に関する問題を扱う専門部局として、 オンタリオ州コンドミニアム庁(CAO)が、改正法の施行と同時に、2017年に創立されました。 共同住宅コミュニティ内で紛争となる前に問題の最小化を図ることがその最終目標です。

このための3本柱が教育、報告と情報公開の義務化、紛争処理を扱うコンドミニアム裁判所 (the Condominium Authority Tribunal :略称“CAT”)の設置でした。

オンタリオ州共同住宅法1998
2015年までオンタリオ州では共同住宅法1998に従って日々の保守・修繕をするための管理組合を分譲開発会社が設立し、 最低1年の任期ごとに区分所有者の選挙によって選任された理事会、または、 共有部を共有する組合員による共有部管理組合(common elements condominium corporation)が管理していました。

定期総会は年度ごとに開催され、理事選挙や監査人の指名、または監査の延期を決定していました。
その他の議案は年次定期総会で決定されますが、臨時総会は理事会の決定によって召集されるか、 或いは複数の区分所有者によって招集される例もありました。

共同住宅法1998は、分譲開発会社に共同住宅の種別に事実上の広い裁量を認めていました。
 (1) コモンホールド(Commonhold condominiums)の4つの類型
   標準(Standard)、段階的開発(Phased)、空き地(Vacant Land)、共有部(Common Element)、
 (2) リースホールド(Leasehold condominiums:定期借地権共同住宅)

既存の複数の共同住宅を合併してひとつの共同住宅としたり、或いは既存の建物を共同住宅に変換することも可能でした。 公営住宅でも同様の例がありました。

社会の要求に適合するための更なる新しい利益を求めて、共同住宅の種別や用途の概念が分譲開発会社によって拡張されてきました。

オンタリオ州で共同住宅紛争を扱ってきた弁護士マイケル・クリフトン(Michael Clifton)は、次のように書いています。
「共同住宅の開発は、ここ数年、着実に増加してきました。住戸の所有権に代わる購入者を引き付ける魅力的なライフスタイルを提案してきました。 彼らはまた、住宅建築業者や建築許可を出す州当局にも、 開発業者にとって儲けの多い有利な機会を提供してくれる計画と新しいコミュニティプランを紹介してきました。 そして州当局はこれらの計画を持続可能なコミュニティとなる開発計画として承認する柔軟な対応をしてきました。」

上記の弁護士マイケル・クリフトン(Michael Clifton)氏は、その後、2017年11月1日に設立されたコンドミニアム裁判所 (CAT: Condominium Authority Tribunal)の副議長判事に就任しました。
彼の下した判決を本Hpで紹介しています。  【住民へのハラスメント】 (1)抗告に対する決定

修繕積立金は区分所有者が管理組合に支払う総額の10%以上に設定されています。
オンタリオ州はアルバータ州のような管轄権とは正反対に、 小規模の管理組合には住民自身が自主的に修繕積立金の額を決めることについては柔軟な対応を認めませんでした。 小規模の管理組合の管理者たちは、消費者省に対して改善を求めました。

共同住宅所有者保護法2015(Protecting Condominium Owners Act, 2015)
2015年5月27日 オンタリオ州消費者省ディビット・オラジェッティ(David Orazietti)長官は、 「改正共同住宅法1998」 通称 「共同住宅所有者保護法2015」と呼ばれる新しい法案を発表しました。

新法案は、新設されたコンドミニアム庁の運営資金として、各共同住宅の全区分所有者から月額1ドルの料金を徴収すること、 そのコンドミニアム庁の役目は、区分所有者に助言を与え、区分所有者と理事会間の騒音や管理規約違反、 理事会が発行する財務諸表に関する問題などの紛争解決に関するファッシリテーションを提供するものです。

このファッシリテーションによる紛争解決の実務はコンドミニアム庁の下に設置されたコンドミニアム裁判所が担当します。

法案に批判的な意見は、法案は支払料金の増額を招くものであり、課税のための更なる評価を求めるというものでした。 法案の目的は、紛争解決費用を低額に抑えるものです。
法案はまた、理事会に対して、保険や法的手続き、 そして明確な言葉で十分な修繕積立金の総額と各住戸に割り当てた管理費支払額または特別税の徴収などの問題に対する区分所有者への詳細な説明義務を課しました。

2015年12月2日、法案の第三者評価が実行され、2015年12月3日 法案は成立し、女王の御名御璽(ぎょめいぎょじ)(Royal Assent)を得ました。(注:カナダは英連邦国家で,実際に署名するのは女王代理人の副提督です。)

共同住宅管理者免許局(Condo Manager Licensing Authority 略称 “CMLA”)
法は共同住宅管理者ライセンスを管理する新しい部局を示しました。
管理業者の守るべきコンプライアンスと、 業者に雇われている管理者が扱う共同住宅の数百万ドルもの資金を詐欺や不始末のリスクから守り、 適切に扱うためのトレーニングを行い、ライセンスの管理を扱う部局です。
法はまた、倫理規準(code of ethics)を発表しました。

【 日本語訳全文 】 コンドミニアム法 【,Condominium Act 1998】
             コンドミニアム法 施行規則 【o.reg 48/01】
             「管理業法施行規則 3/18」【倫理コード、懲罰委員会 及び 控訴委員会】

批判と論争(Criticism and controversy)
マクリーン(Maclean)の「コンドは地獄」. "Condo hell" (http://www.macleans.ca/society/life/condo-hell/). macleans.ca. April 22, 2014.)によれば、 カナダの共同住宅では、管理組合理事会、区分所有者、投資家、賃借人、 そして管理会社の管理者との間の複雑で面倒なネットワークのなかで、 内部の駆け引き、隣人との内輪もめ、権力闘争などが蔓延していると伝えています。

(4).法制改革の主体 ー 公共政策フォーラムと共同住宅所有者協会

「公共政策フォーラム」(Public Policy Forum)は、カナダにおける官民対話のための独立した非営利のシンクタンクです。 組織の目的は、「公共政策に関するオープンな対話のための中立的で独立したフォーラムとしての役割を果たす」ことです。 1987年に設立され、2019年現在、産業界、学会、政府及び地方自治体、労働者連合組織などのリーダーで構成された200人以上のメンバーがいます。

「公共政策フォーラム」のメンバーが共同住宅法制改革の公共政策立案 プロジェクトで果たした役割は、共同住宅法制改革 「第U期報告書」・序文で 彼ら自身の言葉で語られていますから、あとで見てください。


「共同住宅所有者協会」(Condominium Owners Assocaiation:略称"COA")は、 法制度の見直しを求める区分所有者の声を集め、州政府や社会に訴えるために、 2010年にリンダ・ピニッツオット女史(Dame Linda Pinizzotto)によって創立されたNPO法人です。

共同住宅法は1998年に施行されて以来、改訂は行われていませんでした。
COAは、共同住宅法制の見直しを求め、新しい法律の制定を呼びかけました。
そしてCOAは、多様な利害関係団体や個人などの各界から意見を集めて討議するための「公共政策フォーラム」が主宰する 公共政策会議に参加し、この活動の結果、改正共同住宅法は2015年12月3日に成立し、2017年11月1日施行されました。

COAは、この改革プロジェクトの専門部会の発足後、2013年5月7日付けで、オンタリオ州政府のキャスリーン・ウィニー首相(Premier Kathleen Wynne)と、 トレィシー・マックチャールズ消費者省長官(Minister of Consumer Services Tracy MacCharles)宛に専門部会の人選に関する質問と要望書を提出しています。 (※注2)
この要望書に添付されている役員のプロフィールから、リンダ・ピニッツオット女史の経歴をご紹介しておきたいと思います。

リンダ・ピニッツオットはCOAの創立者で代表(CEO)をしています。 彼女はトロントのダウンタウンにある2つの共同住宅の管理組合の理事長として非常に貴重な経験をしてきました。

彼女は組合代表として、建物の保証期間の問題をタリオン(※1)との交渉によって34万ドル(2890万円)以上の組合の資金不足を解決し、 2年間に各組合に約12万ドル(1020万円)の剰余金と安全で実行可能な未来を提供してきました。
(※1 訳注:) 建築保証協会(Tarion Warranty Corporation) は、建築業者の登録と自主規制を行っています。
        キャッチフレーズは「信頼を建築する」(BUILDING CONFIDENCE)

リンダは、ベテランの不動産仲介業者として33年のキャリアがあり、永い間、慈善事業に係ってきました。

彼女は2007年以来、全カナダ及びオンタリオ州不動産協会のミシサガ(Mississauga)支部長として、 さまざまな消費者の利益のために不動産業会を組織化してきました。 また、彼女はトロント不動産協会の州政府連絡協議会に所属しています。 (ミシサガ(Mississauga)市は、トロント市の隣町で高層住宅建設が拡大中)

彼女は、政府が関係する幾つかの公共政策に対して専門に討議する社会基盤の専門家グループの立ち上げを提案していました。 その分野とは、低所得者でも手に入る住宅(affordable housing)、都市防災システム、土地税制、老朽資産、都市交通、 消費者保護、共同住宅法の改正、共同住宅所有者保護などです。

リンダの熱意によって、2009年に共同住宅所有者協会(Condo Owners Association:COA)が設立されました。 既存の共同住宅法1998が、共同住宅所有者の保護、及び、 運営の透明性の確保、会計制度、所有者の自己決定権などに関して不十分か若しくは欠落していること、 その改革のために共同住宅所有者の声を代弁することが目的でした。 そして管理組合資金の管理に関する汚職や権限の悪用などを明らかにしてきました。

リンダは地元のラジオ局で人気のトーク番組「コンド・エキスパート(“Condo Xpert”)」のホストを務めています。 彼女が取材したさまざまな共同住宅や不動産投資、不動産仲介の問題を取り上げ、 練達したプレゼンターとして活躍しています。彼女はまた、幾つかの新聞にコラムを書いています。 彼女は行動家として(as the go-to person)メディアに知られています。リンダはまたボランティア活動を通して、 永い間、子供たちのスポーツ活動を献身的にサポートしてきています。

(COAに関する写真と文は、いずれも2013年5月7日付けCOA文書からの引用です。)
"Dear Hon. Premier Kathleen Wynne and Hon. Minister Tracy MacCharles"
from "May_7_2013_coacomplaintpremierwynne.pdf"

(※注2); この文書は、専門部会の参加者に2つの業界団体関係者が参加していることに疑問を投げかけ、 これでは消費者保護の審議が出来ないことを訴えて、回答を求める内容です。

日本では、例えば国交省総合政策局不動産業課が主催した「マンション管理者管理方式研究会」の参加委員は (財)不動産適正取引推進機構、(社)高層住宅管理業協会、(社)不動産証券化協会が正式メンバーで、 業界利益を代表する者だけの集まりです。国交省は産業保護育成が狙いで消費者保護なんてものは最初からありませんから、 日本では当然のことで、なぜ、彼らを参加させたのか、という公開質問状を、首相と国交大臣に直接送ることも日本ではありえません。 中央集権国家と民主主義国家の違いです。

業界利益を代表する者や権威の肩書きだけの学者などを徹底して排除したプロジェクトであっても、 部会の討議では、議事録も取れないほど白熱した議論が続いたこと、 時には、中立的な立場で議事を進行するプロのファッシリテーターでさえ、 途中で投げ出したくなるほど心が折れる状況だったことがこの報告書で率直に語られています。 解決に導いたのは妥協ではなく、徹底した議論でした。

改革とは、まさに、既得権益との戦いだということを思い知らされます。

(5).引用文献

[1] このウイキペディア”Condominiums in Canada” (https://en.wikipedia.org/wiki/Condominiums_in_Canada)の記事は、 カナダのNPO法人「共同住宅所有者協会」(Condominium Owners Assocaiation:略称"COA")が執筆しています。

翻訳用語について
(参考)  「嘘と誇大広告」ーマンション・リフォーム  参照

(2021年8月28日初版掲載・随時更新)
(Initial Publication - 28 August 2021/ Revised Publication -time to time)