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老朽化対策と法改正  〜令和2年改正の概要〜

はじめに

 老朽マンションの放置を防ぐことを狙いとして、マンション管理に係る二つの法律改正案が 2020年(令和2年)2月28日内閣より提出され(閣法・提出番号30)、 第201回国会にて令和2年6月16日、衆議院本会議で可決、成立し、6月24日公布されました。

令和2年6月24日法律第62号
   マンションの管理の適正化の推進に関する法律 及び
   マンションの建替え等の円滑化に関する法律  の 一部を改正する法律

改正後の法令全文 は 下記をクリックしてください。改正部分が分かるようになっています。  
     ○    マンション管理適正化法(R02改正)
     ○    マンション建替え円滑化法(R02改正)

次の現実を知った上で、今回の改正内容を判断してください。
     ○    廃墟マンションの行政代執行


〜 コロナ禍の、今を逃すな、適性化 〜

 今回の改正は、令和2年(2020年)6月16日の安倍政権末期に、住宅行政を地方自治体に丸投げすることと天下り行政機関増設と管理組合に対する罰則制度だけを先に決めて法案を通し、 基本方針や評価基準などの施策の中身は後追いで検討会を開始、 法案が成立してから1年3ケ月後の令和3年(2021年)9月28日、菅政権末期でようやく施策の中身と施行日(令和4年(2022年)4月1日施行)を発表、その後、岸田文雄内閣で各自治体ごとに傘下組織作りが進行中。
 ○(2023/2/15掲載) マンション認定制度 地域自治体で異なる制度と認定の利益

 安倍晋三内閣(平成24年(2012年)12月26日〜令和2年(2020年)9月16日)ー 菅義偉内閣(令和2年(2020年)9月16日〜令和3年10月4日)ー岸田文雄内閣(令和3年(2021年)10月4日〜)

( 先に檻を作り、それから罠を仕掛け、最後に餌を撒く )

マンション管理の新制度の施行に関する検討会
(国土交通省住宅局市街地建築課マンション政策室)

1.設置の趣旨
令和2年6月に「マンションの管理の適正化の推進に関する法律及びマンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律」が成立・公布されたことを受け、 マンション管理適正化法に新たに規定される国による基本方針、地方公共団体による助言・指導等、管理計画認定制度等の新制度の施行に関して、 基本方針や認定等の基準などを議論するため、有識者、関係団体等による検討会を設置した。

2.検討事項  
(1)基本方針及びマンション管理適正化指針について
(2)助言・指導等の基準について
(3)管理計画の認定基準について

第1回 令和2年7月30日開催    第2回 令和2年8月18日開催
第3回 令和2年9月15日開催    第4回 令和3年1月29日開催
第5回 令和3年3月17日開催        〜季節外れの七夕祭り〜

3.結論:
令和3年9月28日 国交省住宅局参事官より (1) マンション管理認定制度を令和4年4月1日に施行する事 (2) マンション管理計画認定制度の認定基準が発表された。

 平成28年度版の旧指針は廃止、下記の新指針が令和3年9月28日告示された。
国土交通省告示第1286号「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」




令和2年改正法の管理組合認定制度

○ 管理組合を点数つけて格付けする ー 隷属化から支配・抑圧・搾取へと続く道
 〜 官僚的・形式的・表面的・独断的基準によって管理組合を格付けする団体と制度
    (1) 国交省 「マンション管理認定制度」
    (2) (一社)マンション管理業協会 「マンション管理適正評価制度」
    (3) (一社)日本マンション管理士会連合会 「マンション管理適正化診断サービス」
    (4) 東京都 「優良マンション登録表示制度」 ・・他にも続々と・・

  いずれも官僚と紅衛兵とマンションオタクの世界  お好きな方はどうぞ!

○ 共同住宅コミュニティに重要な意味をもつ価値基準は点数化できない。

上記団体の画一的判定基準はいかにも官僚的・形式的・表面的で、修繕計画や規約基準が整備されているか、集会が定期に行われているかなどを評価するだけで、 実際の共同住宅コミュニティに重要な意味をもつ透明性・公明・公正・広報といったコミュニティの絆・信頼を基礎とする価値感を具体化する努力を評価するものではない。 管理組合を隷属化して支配し抑圧し搾取することが目的の時代錯誤・権威主義・専制主義のMaoismによる独断的、一方的な評価は、同時に個別の共同体の自治権をも否定する。

カナダの共同住宅法制改革プロジェクトでは、最初に、成功する共同住宅コミュニティを作り上げるための7つの必須の価値感を プロジェクトメンバーが共有するところから始めた。 「もしも法が改定を必要としているなら、共同社会の育成はその制度改革の中心的課題である。」 
カナダの共同住宅法制改革プロジェクト 「共通テーマ/7つの基本的な価値感」 を見てください。
     行政機構は誰のため? 日本とカナダの違い(パターナリズムとリベラル)

現代の「(マンション)土人保護法」「(マンション)優生保護法」 保護(適正化)と云う名の支配と抑圧の制度
官僚と紅衛兵とオタクに任せていたら、日本はつぶれるよ! マジで


改正マンション管理適正化法に関する5つの問題点

(1).建物の「適正な維持管理」は、本来、建築基準法の所管

 上の「廃墟マンションの行政代執行」の中の「建築基準法に基づく勧告とは」で説明しているように、 特定行政庁(建築主事を置く市町村の長をいう(建築基準法第2条第35号))は、建物の所有者に対し、 定期的に建物や設備等の状況を一級建築士等の有資格者に調査・検査させて、 その結果を報告するように定めた定期報告制度(建築基準法第12条)があります。

法令違反や保安上著しく危険な建築物であることが判明した場合、 建築物を安全な状態にするよう改善指導を行うこととされています。(建築基準法第12条)

定期報告を行わず、または虚偽の報告を行った場合には、100万円以下の罰金(刑法罰)の対象となります。 (建築基準法第101条)

 建築基準法の定期報告制度の実態 (共同住宅関係)

問(1)-@
 建築基準法第8条に定める「所有者(または管理者)の、建築物を常時適法な状態に維持する義務」を基礎として、 実定法全体の階層的な構造の中において、民法(相続法)、区分所有法、消防法その他の法令との間に協調を保ち、 全体として統一整序された実効性のある法体系を実現することが必要なのに、

なぜ、「適正化法」という、本来、管理業者を規制する法律の軒先を借りて、 管理組合に対し、上から目線で「適正化推進基本方針」を訓示するだけが目的の実体のない法律を作るのか。

○ 行政の怠慢と不作為がもたらした事例
 先に示した滋賀県野州(やす)市の「廃墟マンションの行政代執行」は、 特定行政庁が建築基準法による改善指導を行わなかった例でしたが、 次の例は、権利関係や管理形態が複雑化、多様化して安全が担保されていなかった建物で、 人が大勢死んでから、ようやく適用された事例です。

 2001年(平成13年)9月1日1時1分、火災が発生し44名が死亡した東京都新宿区歌舞伎町1丁目18-4  雑居ビル「明星56ビル」に対し、事故後、建築基準法第9条1項及び消防法第5条に基づく建築物使用禁止の行政処分が下された。火災で44名が死亡した7ヶ月後(平成14年3月)に!!

火災の2年前、1999年10月、新宿消防署は消防査察でこの雑居ビルの定期立ち入り検査を実施して9項目にわたる消防法違反を指摘していたが、 建築基準法の特定行政庁は何もしてこなかった。
   新宿区歌舞伎町雑居ビル火災で44名死亡の教訓

罰則付きで体系化されている建築基準法でさえ、実際には特定行政庁の職務懈怠(実は手が回らない)で監督行政は機能していない。 法律があっても手が回らないのは建築基準法だけではない。
   「空家等対策の推進に関する特別措置法」 も同じ。

○ 災害廃棄物処理計画の策定事例
 台風や水害・地震などの大規模災害時に大量に出てくる災害ごみの処理を巡って、 平成25年(2015年)8月「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」及び「災害対策基本法」改正により、 環境省は地方自治体に「災害廃棄物処理計画の策定」を義務付けた。

策定率は2020年3月末時点で全国市町村1,741のうち903(52%)に過ぎない。 環境省は2025年度目標(都道府県:100% 市町村:60%)としている。義務付け10年経過後の目標が60%。これが現実

災害廃棄物処理は緊急度の高い切迫した問題で、災害時の仮置場を指定していなかった為に、 大量の片付けごみが混合状態で公園や路上に堆積してしまい、自衛隊の支援を受けて撤去した事例や、 計画策定していても改定がされず、収集運搬体制が確保できなかったなどの事例が報告されています。

国交省は自らの利権と責任逃れのために法律を作って、何でもかんでも地方に押し付けるが、 地方には地方の優先順位がある。

問(1)-A
 なぜ、同一対象者である管理組合に対し、 建築基準法と適正化法とで屋上屋を重ねるような類似の報告を課し、二重の負担を強いるのか。

管理組合が行う報告には、建築基準法第12条の特定建築物定期報告以外にも毎年の消防用設備点検、 非常灯点検、昇降機点検等の報告があり、更に受水槽がある場合は水道法による点検報告、 自家発電機がある場合は電気事業法に基づく点検報告・・等々があり、 報告義務法令の管轄庁は国交省のみならず厚生労働省、総務省消防庁、経済産業省、及び特定行政庁、地方自治体等多岐にわたります。

国交省は、適性化法の本来の立法趣旨に則り、管理業界への規制と監督に専念してください。
これ以上、管理組合に介入して国民の権利と自由を奪うのは、止めてください。

問(1)-B
 平成28年度の「標準管理規約」の改正で、 管理組合が私有財産管理団体であることを強調してコミュニティ条項を 削除 (注1) しておきながら、 その私有財産管理団体の私的自治権・自己決定権に属する事項にまで行政の一方的・独裁的基準で評価、認定、指導、勧告ができるのか。
私有財産管理団体の運営に国交省が介入できる法的根拠はどこにあるのか。

(注1) 自治会とは.地方自治法第260条2で示されているように、 「良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とした活動」です。 実際、先に掲げた「廃墟マンションの行政代執行」でも、地方自治体は地域の自治会と連携して活動してきた。
ところが、平成28年度の「標準管理規約」の改正において国交省は、 「自治会とは親睦を目的とした飲み会である」として、標準管理規約からコミュニティ条項を削除した。 無知にして傲慢暴虐。

以上の問いに対する答えは、この章の最後 「(6) 結言」 にまとめてあります。

(2).マンション管理適正化法の本来の目的

 管理業者の規制と管理組合の預金保全が目的だったマンション管理適正化法

 平成4年(1992年)、管理会社(株)榮高が破産し、 (株)榮高が管理している組合預金を担保として銀行が差押えし、返還を求めて組合が提訴した1審では銀行側が勝訴した。 7年後の平成11年(1999年)8月31日東京高裁の控訴審でようやく組合に預金が返還された事件を契機として、 「マンション管理適正化法」(平成12年(2000年)法律第149号)が作られた。

この法律は、管理業者の登録及び分別管理の徹底や管理組合預金口座の保全を目的とし、 その執行をはかるため、行政の組織として指定法人を2つ認定し、 行政の作用として国家資格を2つ創設し、統制に関してこれらの指定法人への監督指導権限を国交省が持つ仕組みとした。


(3).マンションの老朽化対策は地方自治体の責任とした改正法

本Hpの「マンション管理適正化法の限界」 ー 「(2) 行政法としての枠組みで成立した適正化法」で示したように、 マンション管理適正化法は国交省の薬籠(やくろう=自分の手中にあって自由に使えるもの)として作られた、 もともと、どうしようもない法律でしたが、 今回、さらに手を加えて、省益を確保した上で、問題の解決と責任を地方に押し付けた。

更に地方自治体にマンション管理適正化推進計画作成業務を行わせるにあたり、
この業務を委託する「指定認定事務支援法人」を知事が指定する制度も創設した。
今回の改正でマンション管理適正化法では3つ目となる指定法人が新設された。

地方公共団体が行う処分・届出・行政指導・命令を定める行為に関して、 国の法律を根拠に処分等が為されるものについては、行政手続法が適用されるが、 地方公共団体の条例や規則に基づく場合は行政手続法は適用されない。(同法3条3項)

国が為すべき問題の解決と責任を地方に押し付けられても、地方ができる事は限られている。

そのために、国の法律を根拠に行政が指定した法人に業務を委託すれば国の予算がつく仕組みとした。

法定受託事務とは国の仕事を地方自治体に丸投げすること

老朽マンションの放置を防ぐことを立法目的としている法律には、定期報告制度の「建築基準法」、 行政代執行の「空家対策特措法」があり、今回、 地方自治体にマンション管理適正化推進行政事務を法定受託事務として指定した二つの法改正が出ましたが、 国全体として統一整序された実効性のある法体系とはいえず、 本来、国家が行うべき住政策のツケをたらい回しにされた地方自治体の負担と混乱が増すだけです。

(公財)マンション管理センターが作成した今回の改正に関するPR資料「マンション管理・再生は新時代へ」(監修:国土交通省)では、 「地方公共団体は、マンション管理適正化に関する施策、 管理計画認定の独自基準等を定めたマンション管理の適正化に向けた計画を作成することができます。」と説明しています。 モノは言いようですが詭弁です。 私達は、新型コロナ対策で国と地方自治体が施策権限をめぐって責任をなすりつけあう状況を見てきました。

令和4年(2022年)1月、「国交省・統計データ不正事件」で明らかになったのは、 各地方自治体も国交省のマニュアルに従って不正にデータを改ざんしていたという事実ですが、 書き換え不正に疑問を抱かなかったのは、「法定受託事務だったから」或いは「国の手足になってやるのが法定受託事務だから」 という固定観念が基礎になっています。

2018年末に厚生労働省の毎月勤労統計に不正が発覚した当時の小池百合子東京都知事の発言は、 「国の責任で決定されたものを受託して行っている。それ以上でもそれ以下でもない。」というものでした。 中央集権国家の統治体制においては自治体側に裁量や判断の余地はないという事を言っています。

○ 現実の問題に対応できず、目先の、その場しのぎの対応を繰り返した法律の例
   「会社法はどう変わったのか ( 管理組合との関連 )」 参照

本改正の担当部局は
「国土交通省 住宅局 市街地建築課 マンション政策室 老朽化対策推進係」


(4).老朽マンションが放置される背景

老朽マンションが放置される背景には、社会制度のもつさまざまな歪(ひずみ)が存在する。

現実に目の前で起きている問題を、外側から設定された一方的な価値基準や一般的な建前論で捉えても、 単なる自己満足や言葉の遊び、観念論に過ぎず、何の解決にもならない。

一方的な価値基準を訓示するだけで、具体的な解決に踏み込んでいないのは、 この適正化法改正の1年前に制定・公布された東京都の条例も同じです。

現実の社会の歪を直視して老朽マンションの放置につながる原因をつぶしていく方法は,
  「 東京都マンション管理適正化条例」ー 「所有者不明住戸の増加」
   の中でも述べていますが、下記に再掲しておきます。


(4.1)必要なのは適正化手段を適正たらしめる法的根拠です。

相続法(民法)や不動産登記法の見直し、区分所有法第3条のあいまいな確認的宣言規定を明確な義務規定に変え、 昭和39年10月15日最高裁判例で示された団体法理適用条件を条文に明記、 民法667条第1項の組合契約をとる任意組合の区分所有法第3条組合への強制転換、 抵当権やいかなる先取り特権も共益費・修繕積立金債権には劣後する規定を置いた上で、 修繕積立金の負担に応じない者に対する区分所有法59条の無条件の強制適用、 所有者不明若しくは連絡のつかない所有者の空き住戸の法的受け皿を整えるなど、 さまざまな対策を積み重ねていくしかない。


(4.2)老朽マンション問題は結局、経済の問題に行き着く

  「世界の共同住宅」- 「経済学上の所有権」  で紹介しているJoseph E. Stiglitz教授の論文の一部を再掲しておきます。

「高齢になってくると、そのアパートを改修するのはおろか居住環境を維持しようというインセンティブをも失うかもしれない。 インセンティブ、価格、利潤、そして所有権は、あらゆる経済において中心的なものであり、 それらは経済学者の間で意見の一致が見られる重要な点となっている。 すなわち、適切なインセンティブを提供することは、基本的な経済問題である。 現代の市場経済においては、利潤は企業に個人が望むものを生産しようとするインセンティブを与え、 賃金は個人に働こうというインセンティブをもたらす。 所有権もまた、人々に、投資や貯蓄だけでなく、 彼らの資産を最善の方法で用いようという重要なインセンティブを与える。」

ノーベル賞経済学者の言葉を借りるまでもなく、老朽マンション問題は経済の問題であって、 私的所有権が経済の仕組みのなかで回らなくなって問題になっている。
訓示行政の究極の目的は経済における審判と監督の地位を確保すること。その為のルール作り。
老朽マンション問題はそのための名目にすぎない。


(4.3)恣意的な「基準」は恣意的に運用される

「時代に合わせて」作られる基準は、一方で恣意的(その場の雰囲気や気まぐれ)でもある。

この適正化法改正の1年前(平成31年3月29日)公布の東京都の適正化基準(届出項目)には、 共用部照明のLED化、外断熱化、電気自動車の充電設備等といった今日の最先端の項目が並んでいる。

高齢者疾患の誘引因子調査に、乳歯は抜けたか、混合ワクチンは接種したかの項目入れるか?

令和元年(2019年)10月12日台風19号で多摩川の水位が上昇、 川崎市の武蔵小杉駅付近で内水氾濫が発生し、周辺の高層タワーマンション(地上47階、地下3階、643戸)で、 地下3階部分が浸水、10月13日未明に高圧受電設備が故障、エレベータ、給水設備のライフラインが長期間停止した。 都市部では地盤沈下が進行していて切実な問題だから、東京都の適正化判定基準には、いずれ「電気設備の浸水対策」が入るかもしれない。

「後追い行政」と揶揄される消防法の頻繁な改正は、「時代に合わせて作られる基準」に課せられた宿命です。

但し、東京都や国交省の基準項目はデータベース(DB)への登録項目だという決定的な違いがある。 登録項目が法の改定にあわせて頻繁に追加改訂されたらDBではなくなり、利用目的は果たせない。

○ 有識者??
行政の検討会委員にはDBの設計技術者や統計技術者といった基礎的なデータサイエンティストやAI技術者、 及び、その応用で中古住宅の流通業界で世界の大きな流れとなっている不動産ID・EDI の技術者は入っていない。 日本REINSや米国MLS、英国NLPGの有識者もいない。 東京都や国交省の審議会では、やたらに登録項目を詰め込んで、各委員の見識(?)をご披露されているようですが、 「マンション管理組合の登録管理台帳」を作ることの意味がまるでわかっていない。

○ 迷走を続ける国の不動産DX(Digital Transformation)
 不動産投資は、不動産の情報(不動産の収益や費用に関する情報)に対する投資であり、取引ですから、 J-REITなどの不動産投資市場では、不動産の証券化や流通のための不動産情報の電子的交換(EDI::Electronic Data Interchange)と、 不動産を識別するためのコード:不動産ID(Identifier)の標準化、更には不動産鑑定評価基準(DCF基準)の整備が 平成18年(2006年)頃から官民検討会で検討が行われてきましたが、15年以上も決まらず、いまだに迷走を続けています。
今回、分譲マンション業界でも国と業界でそれぞれ新たな鑑定評価基準が作られました。
もう ぐちゃくちゃ です。

○ そもそも共同住宅法制は誰のためのものなのか?
 行政が民間に情報提供を求めて「管理組合台帳」を作るということは、
 (1) 行政サービスとして何ができるのか
 (2) その目的遂行のための合理的かつ必要最小限の登録項目は何か
 (3) 他法令との整合性(例:建基法12条の届出項目との重複による二重行政の弊害)
が、最初に検討されるべきなのに、検討会では最初から国家統制の結論ありきで、 上から目線の権威主義で「国交省認定(優良)管理組合」を認定するための細かな基準づくりに終始した。

○ 最初に行政ありきで 管理組合を統制する「天下り行政機関」を作っただけの日本
○ 市民が結集して共同住宅法を見直し、市民のための行政機構を新たに作ったカナダ 
共同住宅法制改革の公共政策・総目次 (Public Policymaking for Condominium Legislation)

○ DB構築の目的に整合した登録データの正しい使い方の実例
 消防局の立入検査業務では、関係者に即時に立入検査等結果通知書を交付するため、 職場内で対象となる立入検査対象物情報をあらかじめ査察モバイル端末に取り込み(これは情報の持ち出しを最小限に留めるためです。) 、オフライン環境下の現地で、指摘事項や台帳情報の更新、過去の確認を行い、 携行しているモバイルプリンターで印刷をして交付し、職場に戻って業務システムに再接続してデータ更新を行っています。 横浜市消防局では平成8年からノートPCによる査察モバイル端末を使用し、令和2年にはタッチ式タブレットに更新した。

東京都や国交省は何の目的で管理組合のデータを集め、それをどのような手段で使おうとしているのか、 明確に示していない。 政府方針を具体化したという施政の体裁を飾っていれば良い。
法改正の目的は他にある。

〜季節外れの七夕祭り〜
メインの飾りは園が用意してツリー全体の体裁はできあがっているところに、幼稚園の園児達が、 ツリーにそれぞれの短冊を飾りつける。公共政策を作るとき、霞が関は責任逃れのために、 民間委員を集めてこの方式をとる。

国交省が管理組合を認定する??  ¶&s?tX/u※p?”○i$d□iX?t∏/y!!
令和2年(2020年)6月に肝心の施策の中身を先送りしたまま、 行政機構と罰則だけを追加した適正化改正法案を安倍政権末期の「桜を見る会」や検察庁長官人事を巡るどさくさに乗じて成立させた後、 後追いで法案の中身の管理適正化指針(助言・指導等の基準及び管理計画の認定基準)を審議する検討会を発足させた。 この認定基準が発表されたのは菅政権末期。発表から1週間後、岸田政権が発足した。法案は通すタイミングが大事。通った後なら中身はどうにでもなる典型例。

この認定基準に「お行儀良く」適合できるマンションは、せいぜい築10年前後のものに限られてくる。 販売業者は分譲にあたって国交省のモデルにそった長期修繕計画を準備し、修繕積立基金を購入者から徴収している。 10数年後の第一回目の大規模修繕まではこの「絵に描いた餅」は、国交省の描く認定基準とも一致する。

ところがいざ大規模修繕の検討に着手すると、管理会社が準備した長期修繕計画は「絵に描いた餅」であることが露呈し、 建物や居住者の社会的環境に応じた経済的合理性による選択の結果、モデルから外れ、マンションごとの個性が際立ってきて、平均的評価基準では計れなくなってくる。

マンション総戸数は令和元年(2019年)で666万戸、10年前の平成21年(2009年)から104万戸増えた。 この築10年の100万戸だけでも認定申請してもらえれば行政実績のPRにはなる。


しかし、この改正法が名目上の目的としている「行政が助言・指導対象とする老朽マンション」は、 築30年からの213.5万戸,
築40年以上で91.8万戸にのぼる。

地方は医療、福祉、教育、過疎に伴う水道・交通インフラの維持など優先度の高い対策に追われ、 マンションどころか、公営住宅の解体費用すら出せない。

管理組合への助言・指導など実際には出来ないし、やらない。 建築基準法第12条で規定されている改善指導ですら満足にやっていないのに、新たに適性化法で業務を追加されてもできない。

廃墟マンションの行政代執行」で示したように、老朽マンションが放置される以前に、 所有者は住民税・固定資産税・都市計画税を滞納して自治体が回収のために抵当権を登記しているが、それでも満足に回収できた例はない。 税金を滞納しているくらいだから、管理費や修繕積立金など払うわけがない。 老朽化はそういう制度上の欠陥の積み重ねで起きています。それを管理組合への助言・指導で解決できるというのは現実を見ない馬鹿げた虚構です。きれいごと言ってんじゃないよ!

老朽マンション対策のすべては経済、具体的には不動産(或いは負動産)評価の問題と関ってくる。 客観的認識を欠いた訓示行政の認定基準など、行政と審議委員の自己満足でしかない。

行政が基準作りに固執するのは、基準が執政ないし国家の指導的作用としての象徴・看板であり
「国家が国民の私有財産に口を出す法的根拠」になるためです。口は出すが金はださない。
正確にいうと、国から名目をつけて引き出した資金は官製市場だけで回し、民間には流さない。

「建築基準法の定期報告制度の実態」ー (1.2) 定期調査・検査報告関係団体一覧
    建築基準法12条の定期報告の行政事務委任機関一覧表 (これでもまだ一部です)

今回の法改正の狙いは、新たな官製市場の育成でした。 法律が施行された令和4年以降、政策誘導助成金を投入した官製市場作りが着々と進められています。


(5). 地方自治体が行うマンション管理適正化推進行政事務の要点

 管理が適切なマンションを地方自治体が評価・認定する制度を2022年までに作るほか、
 自治体には管理組合を指導・勧告できる仕組みを設けた。(改正法第5条新設)

 傾きマンションを作る建築業者や不動産会社を野放しにしておいて、
 自治体が管理組合を評価・指導・勧告できる仕組みを作った。
 (1)東京都の「管理優良マンション」制度をまねた「管理計画認定マンション」制度
   を創出した。(注2)
 (2)自治体が管理組合を評価・認定する業務を支援する新たな機関(官製市場)を創出した。

  官製市場とは公共サービスの提供主体が国の規制に守られた非営利法人(天下り法人)
  に限定された公的関与が著しい事業分野のことで事業認可には利権が伴う。

  地方自治体がこの指定認定事務支援法人に業務委託すると国の予算がつく仕組み。
  指定認定事務支援法人は地方と霞ヶ関をつなぎ、国の予算を引き出すフイクサー。
     「4.実行予算」  参照

(ア)地方自治体の適正化推進行政事務を支援・委託する指定認定法人制度を新設

 都道府県のマンション管理適正化推進計画作成業務を知事が法人を指定して委託する 「指定認定事務支援法人」制度を新設した。(改正法第5条の13 新設)

 マンション管理適正化法の指定法人に3つめの法人が加わった。
  (1). 適正化法第91条指定法人   「公益財団法人 マンション管理センター」
  (2). 適正化法第95条指定法人   「一般社団法人 マンション管理業協会」
  (3). 適正化法第5条の13指定法人 「指定認定事務支援法人」(新設)

(イ)管理組合理事長に対する罰金刑を新設

    管理計画認定マンションの申請(5条の3)を行い、認定を受けたにもかかわらず、
    理事長が知事の求めに応じて管理の状況について報告をしなかった場合は、
    30万円以下の罰金刑(刑法犯)に処する。(第109条第1号新設)

    刑事制裁による行政施策の間接的強制が管理組合にまで拡大した。
    詳しくは 「マンション管理適正化法の行政刑罰規定」 参照

○ 「管理業者には甘く、管理組合理事長には厳しい刑事罰を科す適正化法」
管理業者の従業員が管理組合のお金を横領着服し、管理組合に何億円もの被害を出しても、 管理業者に対する国交省の行政処分は「以後、気をつけるように」という改善指示処分だけです。
いわば官と業界の馴れ合いの儀式といっていい。

国交省「マンション管理業者の違反行為に対する監督処分の基準」
「マンション管理業者が、業務に関し、管理組合若しくはマンションの区分所有者等に損害を与えた場合は、 法第81条第1号又は第2号の規定により、指示処分をすることとする。」
【犯罪の実例】 8.1.5 処分を受けた業者一覧
           8.2  相次ぐ着服と横領犯罪

一方、行政は管理組合に対しては容赦なく刑事罰を科す。
管理計画認定マンションの理事長の報告義務(5条の8)違反は検察庁に告訴して、 刑事罰30万円以下の罰金刑(109条1号)に処す。 更に知事は管理組合に「改善命令」(5条の9)を発出する。
認定申請した理事長には責任はない。報告義務に違反した後任理事長が責任を負う。

管理計画認定マンションは、「新築分譲時の管理計画=絵に書いた餅」の段階なら簡単に取得できるが、 10年過ぎたら、下記の利害得失を評価した上で、さっさと認定を取下げて報告義務(5条の8)から開放されたほうが安全です。

おいしいエサにつられちゃって、あとで泣いても知らないよ。(黒猫のタンゴ)


 「マンション管理は新時代へ」の真実


今回のマンション管理適正化法・建替円滑化法化改正のキャッチコピー
「マンション管理・再生は新時代へ」 公益財団法人 マンション管理センター 監修:国土交通省
「マンションの価値は新たなステージへ」 一般社団法人マンション管理業協会

○ 管理計画認定制度を推進するための施策
(1) マンション火災保険料(個人賠償保険含む)の設定にこの等級評価を加味する。
   (等級にかかわらず築20年過ぎたマンションに大幅な値上げをするのは自然災害増加
   で収益が悪化している保険業界の既定路線です。等級と割引率の設定は未定)
(2) マンションの売買市場の品質表示にこの等級評価を加える。
   (管理会社が自社の管理品質のPRに使う動きもある。これって管理会社の評価なの?)

○ 国交省開催の検討会が第3回を終えた段階で、まだ第4回目も開かれていない2020年12月の時点で、すでに 一般社団法人マンション管理業協会のWeb(http://www.kanrikyo.or.jp/lp/evaluation/index.html)で、 「2022年4月より開始予定」の副題つきで「マンション管理適正評価制度」 の詳しい解説が発表されています。

それによると、@ 管理組合が管理会社に評価を依頼 ⇒A 管理会社が管理状態をチェックして B マンション管理業協会に登録申請を行い、  ⇒マンション管理業協会がC審査してD登録し E管理組合に登録証を発行する
という手順と共に、評価のポイントと点数が具体的に発表されています。

2020年12月時点で審査基準がマンション管理業協会からすでに発表されているのに、 国交省で2021年1月末に4回目となる検討会って何やるの?とは聞くだけ野暮(Square!)ですが、 それにしてもマンション管理業協会が管理組合を審査評価し、点数つけて登録するとは、悪い冗談にしても度が過ぎる。

[適性化法の問題点]で、管理業者の違反率を年度別グラフで示している通り、 全国の登録業者の4割前後がマンション管理適正化法を守らず違反を繰り返しているのに、 その悪名高い業界団体が管理組合を公的に評価訓示(Apprasal and Admonition)するとは、唖然として言葉も出ない。

国交省と業界団体は一心同体(独裁国家における戦略的互恵関係)だということが良く分かります。
 [戦略的互恵関係] ・・・> 新たな訓示産業の創出  〜Appealing to the mob 無知な大衆に訴える〜
(注) mobを「階級社会からこぼれ落ちていった人々」の意味で捉えたハンナ・アーレント「人間の条件」(1958年)の思想とは異なる階級的視点でわが国の国交省と業界団体は国民を見ています。

〜民主主義に反する権威主義と国家主義に基づいて〜国交省は新分野を創出 
軍事産業/軍事介入/軍事専門家・・・>訓示産業/訓示介入/訓示専門家(国交省検討会の委員)
またまた、新しい専門資格ができました。 Condo Corporation Appraiser(管理組合鑑定士)/ Condo Corporation Admonish(管理組合訓導士)/アプレィザー & アドモニシュ・・ (冗談はここまで!)

建物の健全性を確保する第1次的な責任を負っているのは管理組合自体です。
管理組合は自己責任の観点から自ら建物の管理を行わなければならないのであって、
自ら行うべき管理を監督当局の評価をもって代替できるわけではありません。


(注2)
「管理優良マンション」認定制度は、
 東京都が18年前の平成15年(2003年)から既に実施してきていて、 失敗に終わっている。

 東京都は平成9年5月東京都住宅政策審議会答申で 「良好な維持・管理がなされている分譲マンションの登録制度」の創設等について提言を受け、 平成15年4月東京都優良マンション登録表示制度を創設・開始したが、 平成30年度末までの登録実績は216件(19,475戸)にすぎなかった。
市場における認知度が高くない、認定取得によるメリットがない等、 不評で、認定・登録を受けたマンションもその後の更新を行わないものが多い。
 ( この注釈のデータは、令和元年10月18日東京都住宅政策本部発表文書
  「マンションの管理適正化や再生の促進に向けた都の取組」より引用した。)

○ (公財) マンション管理センターが国の資金で運用している「マンションみらいネット」 (平成18年(2006年)開設:マンションの管理情報・修繕履歴データベース)も不評で、 開設以来13年を経た令和元年(2019年)7月までの登録数は、わずか全国379件(東京都94件)

○ 上記以外に実地検査(インスペクション)で評価する品確法の制度があります。
 今まで説明してきた国交省の認定制度やみらいネット、東京都の優良マンション制度はすべて書類審査だけですが、 現地現物審査する品確法の制度があります。

「住宅の促進等に関する法律」(品確法)は平成12年4月1日施行時は新築住宅対象でしたが、 平成14年12月施行で適用対象が既存住宅に拡大されています。
    詳しくは 「既存住宅の性能表示制度」 参照

但し、これも審査評価を行う「一般社団法人住宅性能評価・表示協会」は国交省が登録監督する官製市場です。 傾きマンションも新築時は評価書が交付されていた建物ですが、評価書交付機関が責任を負うことはありませんでした。 交付される評価書の最初の頁に、
「この現況検査・評価書は、建物の隠れた瑕疵(欠陥)の有無を示すものではない。」
と免責事項が記載されています。国交省の品質確保制度とは、こんなもんです。
    詳しくは 「今、建築業界で何が起きているのか」 参照


(6). 結言

今回の改正は、政府の「令和元年・成長戦略フォローアップ」(※)の方針を法制度として具体化(under the Abe regime)したものですが、
教条主義・教育勅語と訓導(小学校教員の旧称)で老朽マンションの放置は防げない。

(※1) スクラップ&ビルドを促進して、建設・不動産業界とつながる行政機関を成長させる戦略
(※2) 教条主義については、 「5.教条主義」 参照

行政とは現実具体的に国家目的の積極的な実現をめざして行われる、 全体として統一性をもった継続的な形成的国家活動であるという基本的性格を踏まえて、 今回の改正では政府方針の具体的実現を目指して、従来からの継続的秩序を壊すことなく、 既存の制度設計の土台の上に新たな制度を作り上げました。 マンション管理適正化法は行政にとって使い勝手のよい法律(薬籠)です。

マンション管理適正化法は結局、行政秩序と権限を守るための法律であって、区分所有者と管理組合を守る法律ではない。

今回の改正からは、実際の問題解決には程遠い、建前だけの空疎な教条主義で飾った責任逃れの政策 (国による基本方針と管理適正化推進計画の作成)の陰で、地方に対する権限を強化し、天下り法人を拡大し、 したたかに自己増殖していく行政府の姿だけが見えてきます。

「東京都マンション管理適正化条例」(平成31年3月29日東京都条例第30号)も同じ流れの中にあります。      (1) 東京都マンション管理適正化条例


○ 視点の公平性と客観性を保つため、
  以下に国交省による本改正法の説明文を紹介しておきます。


1.「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」改正概要

政府(内閣府)が令和元年6月21日閣議決定した「成長戦略フォローアップ」の中で、
「6.(2))D都市の競争力の向上」として「マンションストックやその敷地の有効活用のため、 管理組合による適正な維持管理を促す仕組みや建替え・売却による更新を円滑化する仕組み等を検討し、 方向性を2019年中にとりまとめ、所要の制度的措置を講ずる。」との政策方針が発表された。

 「成長戦略フォローアップ(令和元年6月21日閣議決定)」の要点

(1) 国の役割:
   国土交通大臣は、マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針を策定

(2) 地方自治体の役割: 地方公共団体は以下の措置を講じる。
  ○マンション管理適正化推進計画制度
   基本方針に基づき、管理の適正化の推進を図るための施策に関する事項等を
   定める計画を策定
  ○管理適正化のための指導・助言等
   管理の適正化のために、必要に応じて、管理組合に対して指導・助言等
  ○管理計画認定制度
   適切な管理計画を有するマンションを認定

  【目標・効果】
  管理組合による適正な維持管理の促進や建替え・売却による更新の円滑化により、
  マンションストックやその敷地の有効活用を図る。
  ○25年以上の長期修繕計画に基づく修繕積立金額を設定している分譲マンションの
   管理組合の割合を平成30年度約54%→令和7年度70%とする。
  ○マンションの建替え等の件数
   平成30年度における昭和50年度からの累計)325件→令和7年度約500件とする。

基本方針を国が定め(改正法第3条新設)、その基本方針に従った具体的な活動は 「第二号法定受託事務」として地方自治体に任せる仕組みとした。(注3)

(注3):法定受託事務とは (マンションNPO解説)
地方自治法第二条に定める法定受託事務のうち、 第一号法定受託事務は[本来、国が果たすべき役割に係る事務]を国から地方自治体が受託するもの。
第二号法定受託事務は[本来、都道府県が果たすべき役割に係る事務]を地方自治体が受託するものです。 今回の改正によって、「マンション管理適正化推進行政事務」が新たに町村の第二号法定受託事務として新設されました。 (適正化法第百四条の二)

1999年7月「地方分権推進一括法」制定の解説
わが国の行政は戦後長い間「中央集権型行政システム」がとられ、中央省庁の機関委任事務や補助金、許認可権に縛られ、 国の事務を地方自治体に委任する機関委任事務は、都道府県事務の7〜8割、 市町村事務の3〜4割を占めて地方自治の自主性・自立性を阻害しているという問題があったため、 1999年7月「地方分権推進一括法」の成立で、機関委任事務は廃止され、地方権限を拡大する形で、「自治事務」と「法定受託事務」 の2種類の事務に再編されました。しかし、自治体には必要な事務経費を賄う自主財源の裏づけはありません。 今回の法定受託事務に必要な経費は、国交省が握っています。実際には、中央集権の機関委任事務は生き残り、増殖を続けています。

 

2.「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」 改正概要

団地の共有に属する建物の敷地又はその借地権を分割、売却できる敷地分割事業制度を新設。

建替円滑化法による組合は下記の3種類となった。
@ マンション建替組合(マンション建替事業)
A マンション敷地売却組合(マンション敷地売却事業)
B マンション敷地分割組合(マンション敷地分割事業)(新設)

「第三章 除却する必要のあるマンションに係る特別の措置」を拡大

改正前規定では、建物を除却する必要のある認定基準を耐震不良に限定し、 法の規定も「耐震診断が行われたマンションの管理者は、特定行政庁に対し、 当該マンションを除却する必要がある旨の認定を申請することができる。」旨の規定しか置いていなかった。

外壁が剥がれ落ちる恐れのある建物(特定要除却認定建物)等については、 認定基準(第百二条)を定め、区分所有者の8割以上の賛成で敷地を売却できる制度も作った。 (第百八条(マンション敷地売却決議)・第百十五条の四(敷地分割決議))

(除却の必要性に係る認定基準)(第百二条 新設)
一 地震に対する安全性が基準に適合していない。
二 火災に対する安全性が基準に適合していない。
三 外壁、外装材その他これらに類する建物の部分が剥離し、周辺に危害を生ずるおそれがある。
四 給水、排水その他の配管設備の損傷、腐食その他の劣化で衛生上有害となるおそれがある。
五 バリアフリー性能が確保されていない(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律に適合していない。)

要除却認定マンションの管理者等からの委託に基づき、 建替え、敷地売却又は敷地分割を行うために必要な調査、 調整及び技術の提供は独立行政法人都市再生機構が行う。(第百五条の二 新設)
   独立行政法人都市再生機構法の改正

 「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」改正のまとめ

(1)容積率の緩和特例等の対象の拡大(公布後1年6か月以内施行)
 これまで、耐震性が不足しているマンションにのみ認められていた建替えにあたっての容積率の緩和特例等について、 適用対象を第百二条で新設された上記1項〜5項の「除却の必要性に係る認定基準」に適合する建物にも拡大し、 建替えにあたっては、容積率の割り増しを受けられます。

(2)団地の敷地分割制度(公布後2年以内施行)
本来であれば、区分所有者全員の同意が必要な団地の敷地分割が4/5以上の同意で可能になります。 但し、適用対象は第百二条で新設された上記「除却の必要性に係る認定基準」の1項〜3項に限定されます。

 − 国交省による発表の紹介はここまで。 −


 注 <マンションNPO解説>

今回の「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」改正では、 知事が除却認定すれば後は独法「都市再生機構」が予算も含めて実施の調整に入る仕組みを作った。

民間デベロッパーでは手が出せない悪条件であっても、 国の財政投融資を使って再開発を行い、長期で資金回収するのが独法「都市再生機構」の役目であって、 利益を見込めるものしか手を出せない。 知事が除却認定したところで、回収不能の行政代執行の解体費用まで「都市再生機構」が肩代わりできるわけではない。

今回は建替え事業の可能性がある場合を前提に、財産分割手法の一部を規定したが、 国交省が建設業界や管理業界の産業振興政策担当官庁であり、 建替え円滑化法が建替えを推進することを目的とした産業振興政策である以上、、 建替え以外の手続きには関与しない。

 建替え以外の手続きとは?

米国の各州のコンドミニアム法では、災害によって建物が重大な損傷を受けて滅失した場合、 災害保険による修理(repair),再築(rebuild),建替え(reconstruction)のほかに、 共同所有関係を解消(termination)して建物を除却する選択肢もある。

老朽化の場合は災害保険は使えないが、被災した場合と同様に、 これ以上の修繕(建替えを含む)をしないで共同所有関係を解消させる選択も実際にはある。
具体的な手続き規定
@ Termination(共同所有関係の解消清算手続き・抵当権などの債権処理)
A Removal from Provision あるいはWithdrawal of Provision (法適用除外)
B Destruction-Reconstruction(損壊・再建)
C Partition of Project(財産分割)

「建替え円滑化法」では建替え以外の@〜Cの手続きには関与しない。

3.本改正に伴って改正された他の法律

地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)(附則第六条関係)
別表第二 第二号法定受託事務(第二条関係)に下記が追記された。
(事務)マンションの建替え等の円滑化法第九条第七項(第三十四条第二項、 第十一条第一項(第三十四条第二項において準用する場合を含む。)、 第二十五条第一項、第三十八条第五項、第四十九九条第三項(第五十条第二項において準用する場合を含む。)、 第五十一条第四項及び第六項、第九十七条第一項 (第百八十三条第二項において準用する場合を含む。)の規定により町村が処理することとさ れている事務

 

日本勤労者住宅協会法(昭和四十一年法律第百三十三号)(附則第七条関係)
(宅地建物取引業法等の適用除外)
第四十条 宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)、不動産特定共同事業法(平成六年法律第七十七号) 及びマンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成十二年法律第百四十ンの管理の適正化の推進に関する法律(平成十二年法律第百四十 九号)第五章の規定は、協会には、適用しない。

 

独立行政法人都市再生機構法(平成十五年法律第百号)(附則第八条関係)において、
2 機構は、前項の業務のほか、次に掲げる業務を行う
三 マンションの建替え等の円滑化に関する法律第七十八号)第百五条の二に規定する業務を行うこと。


  独立行政法人都市再生機構に対する政府の財政投融資額は令和元年度実績¥4,454億円、令和2年度の要求額¥4,839億円)
ちなみに、個人の住宅ローンを扱う独立行政法人住宅金融支援機構に対する財政投融資額は令和元年度実績¥533億円、令和2年度の要求額¥635億円


4.実行予算

令和2年8月に国交省が取り纏めた予算概算要求項目のうち
大項目:「W.豊かで暮らしやすい地域づくり」の中の、
|_中項目:「(2)個性・活力のある地域の形成」の中の
|__小項目:「(b) 空き家、空き地、所有者不明土地等の有効活用の推進」
|_____  (要求予算81億円 (前年度(令和元年度)予算の2.03倍)
の具体的な項目は下記の通りです。

空き家・空き地等の低未利用不動産の有効活用の推進により生活環境の維持・向上 を図り、魅力・活力のある地域の形成を図る。
・ 市町村が行う空き家の活用や除却等の総合的な支援の強化
・ 空き家対策を市町村と専門家が連携して行うモデル的取組への支援
・ 不動産業団体等による空き家・空き地の流通等の促進、所有者不明土地の活用等円滑化
・ 住宅団地における良好な居住環境の確保・再生を図る取組への支援の強化
・ 地方公共団体等が行う都市の空き地等の利用促進の取組に対する支援
・ マンションの適切な維持管理や再生を図る取組への支援


(以下はマンションNPOの解説です。)

問題解決のための権限と責任は地方ですが、実行予算は中央省庁が握っています。
(カネ=権力)

 ごみ屋敷問題でさえ個人の所有物であるという理由で自治体は手を出せないのに、 所有者すら分からない区分所有建物全体が粗大ごみとして放置される事態への対策は、 「憲法で保障されている私権(所有権)」の「公益に反した外部不経済に対する制限」という難しい問題に直面する。
英国の経済学者 Alfred Marshall が示した負の外部性(Negative Externality=外部不経済) の費用は誰が負担するのかという問題です。

空家対策特別措置法は区分所有建物を粗大ごみ(特定空家)として認定するところから始まるが、
特定空家となる背景には様々な社会的・経済的理由が存在する。

そうなる前の予防保全を目的とした根本的な制度改革は、担当省庁内部の他部門のみならず、 他省庁、議員、ステークホルダー(利害関係者)、消費者(管理組合)、 法曹界を巻き込んだ公共政策に関する協創プロジェクトによって実効性のある法制化に成功した外国の事例があります。 (詳しくは 共同住宅法制改革・総目次 参照)  わが国ではいまだ、担当部局による効果のない対症療法の予算のばらまきが (国家が破綻するまで) 続きます。

プレイバックU
○ 「助けて欲しければ知恵を出せ。知恵を出さないやつは助けない」
詳しくは、 「権威をカン違いした男たちの物語」〜外国人記者が伝えたこと

○ 「この想像を絶する無神経さは、日本の支配層がいかに現実との接点を失っているかを多くの国民に強く印象づけた。 そこには彼らが抱える問題点が、すべて凝縮されているように見えたのである。」(David Pilling)

○ 「日本近代建築の歴史」(村松貞次郎著・日本放送出版協会刊 昭和52年10月20日第1刷発行)  終章・建築の現在 [法律が壊させる] より一部抜粋

建築関係の法規が、建物を建てることだけに向けてつくられており、残すことへの視点をまったく欠如していることは先に述べた。 (中略)日本の建築法規(建築基準法)および、さいきんとみに厳重になった「消防法」は、新しく建てる建物だけの法律で、 残すということにはまったく無縁のもの、否、残すことを否定する法律だったのである。

〜 本書は次の文章で終わっています。 〜
日本近代建築史は、百余年にして遂にその建築の滅びについて語らねばならなくなった。
それこそが、”現代の建築”ではない”建築の現代”なのであろう。

村松貞次郎:1924年生まれ、1974年東京大学教授、筑波大学併任教授、工学博士(建築学)


5.教条主義

教条主義とは、状況や現実を無視して、現実に即さない独断的主張やある特定の考え方を、権威主義で上から押し付ける事、 英語ではドグマティズム(dogmatism)、中国語でも教条主義は、「独断(発音:Duduan)」と同意語です。

独裁国家では官僚統治の権力機構を維持するための人民統制には教条主義が必須です。
中国化していく国交省。官僚統治の権力機構を維持するために。それが国交省の核心的利益。

これは比喩ではなく、現実です。  ー国交省官僚の不正と腐敗と隠蔽の記録ー
  国交省・統計データ不正事件・検証委員会・報告書 全文(Web版)

(2020年8月26日初版掲載 随時更新)
 「マンション管理は新時代へ」の真実   (2021年2月4日追記)
 「令和2年改正法の認定制度」     (2021年12月27日追記)