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3.マンション管理適正化法の限界
    〜今、マンション改修業界で何が起きているのか〜

序 言

  前頁 「1. 悪質コンサルタントの実態」 「2.談合と管理会社主導の悪質事例」で、
  今、マンション改修業界で何が起きているのかを見てきました。本論ではその原因が
  国交省と管理業界の産官協調と癒着の構図にあることを明らかにしています。

目 次

第1章 マンション管理適正化法の趣旨及び目的並びに処分

  (1) 適正化法成立のいきさつ    (1-2) 議員立法の例 「空家対策特措法」
  (2)行政法としての枠組みで成立した適正化法
  (3) 管理業者規制内容        (3-2) 「標準管理委託契約書」に見る業者保護の実態
  (4)管理業者の違反行為に対する監督処分の基準

第2章 マンション管理適正化法の問題点  〜産官協調と癒着の構図〜

  (1) 実態に合わない適用除外規定  (2) 形式的な立入検査     (3) 国交省内の管轄権
  (4) 限定的で軽すぎる業者処分    (5) 業者処分はなぜ遅い    (6) 国交省の組織的隠蔽
    ○ 欺瞞の言語・官僚話法(日本)   ○ ハロルド・ラスウエルの「立法者の定義」
    ○ 違反業者の実態と隠蔽
  (7) 産官協調と癒着〜戦略的互恵関係〜   (8) 特異な日本の公共政策の決定過程
  (9) カナダ・オンタリオ州におけるコンド法制改革の事例
  (10) (結論)「マンション管理適正化法」は不正や犯罪の抑止力にはなっていない。

第3章 管理会社の不公正取引事例

  (1). 管理会社の不公正取引の実態
  (2). マンション管理適正化法には管理業者の倫理規定も利益相反禁止規定もない。
  (3). 国交省の審議会における利益相反行為に関する議論
  (4). 審議会のしくみ
  (5). 不動産取引と信託法制に関する研究会
  (6). 国交省の暴走に対する歯止め:独禁法
  (7). 双方代理と自己契約
  (8). 欧米の管理業者規制法    (8-2) 欧米のコンピテンシー基準と日本の大部屋主義

第4章 日本の管理業の収益構造  〜管理はボランティアではない〜

  (1). 管理会社の定款規定事業内容  (2). 管理会社の売上高構成例
  (3). 受託戸数を競う時代の終焉〜受託管理組合の選別と集約寡占化で収益確保の時代へ〜
  (4). 管理組合の契約責任

第5章 管理会社の適正化法違反は国交省地方整備局に申告しよう!

  (1) 管理会社の適正化法違反は国交省地方整備局に申告しよう!
  (2) 整備局への相談事例
    【相談内容の概略】 【整備局の処置】 【@重要事項の説明会未開催】
    【A「管理事務に要する費用」すなわち委託料の未記載 】
    【 「会計の収支及び支出の状況に関する書面」の検査】 
    【マンション管理適正化法における信義誠実の原則】
  (3) 整備局相談窓口

第6章 住宅政策とEBPM(エビデンスに基づく政策立案)
  (1). 住宅政策とEBPM

第1章 マンション管理適正化法の趣旨及び目的並びに処分

(1) 適正化法成立のいきさつ

平成4年(1992年)11月5日、豊栄土地開発が自己破産し、続いて11月25日に子会社のマンション管理会社(株)榮高も破産しました。 この榮高が管理をしていた31のマンションのうち、預金を銀行の担保に取られた6マンションの管理組合側が返還を求めて平成6年に提訴したものの、 一審判決では全て銀行側が勝訴し、その5年後の控訴審判決 (平成11年8月31日東京高裁)で、ようやく管理組合の主張が認められました。

(控訴審判決については下記で詳細に説明しています。)
 「管理組合会計」 4.5 分別管理していても
         榮高倒産事件(東京地判平成8.5.10判時1596号70頁、東京地判平成10.1.23
         および東京高判平成11.8.31判時1684号39頁)

この時期、複数の管理会社の一連の倒産によって、分別管理の不履行、組合預金を管理会社の資産とする背任的な担保設定、 金銭管理受託者としての顧客資産の保全制度がないなど、マンション管理制度の問題点が明らかとなり、 マンション管理に対する危機意識も高まり、社会問題となっていました。

そのような背景のもとに平成12年(2000年)、議員立法 (注2) により作られた「マンション管理適正化法」 (平成12年法律第149号)は、管理会社倒産時の組合資産の保全対策として、 管理業者の登録及び分別管理の徹底や管理組合預金口座の保全を目的とし、 その執行をはかるため、行政の組織として指定法人を2つ認定し、行政の作用として国家資格を2つ創設し、 統制に関してこれらの指定法人への監督指導権限を国交省が持つ仕組みとしました。

(注2) 議員立法を文字通りに解釈して「国会議員が法案を作った」とカン違いしている人がいるが、 実際に法案を起草したのは官僚で、彼らに担がれて神輿に乗った国会議員が官僚が作った法案を国会で通しただけ。

(1)-1 議員立法の例 「空家対策特措法」
1980年代から2010年代前半にかけて、全国の自治体環境法政策を巡って、 適正な管理がされないまま放置される老朽空家対策のための地方条例が相次いで制定されていました。 そんな中で2010年7月に制定された「所沢市空き家等の適正管理に関する条例」が国法制定の引き金となって、 議員発議により「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空家対策特措法)が2014年11月に制定されました。議員発議を受けて それまで制定されていた各地の地方条例を下敷きにして最終的に法案化したのが衆議院法制局第4部第2課の職員達です。

国会に提出される法案は内閣も議会も最終的にそれぞれの法制局がチェックします。
それを蹴飛ばして国交省に担がれた族議員達がゴリ押ししたのが下記の法律です。
 「嘘と誇大広告」  「法律名にカタカナ用語が使われた日」  「共同住宅」を何故「マンション」に?

(2) 行政法としての枠組みで成立した適正化法

第150回国会・提出番号:17・提出年月日:平成12年11月17日、 法律番号:平成12年第149号、成立年月日:平成12年11月30日、公布年月日:平成12年12月8日
提出議員:山本有二,石原伸晃,岸本光造,栗原博久,原田義昭,赤羽一嘉,山名靖英,西川太一郎

これらは「行政の組織及び作用並びにその統制に関する国内公法」としての行政法の枠組みで作られたものであり、 行政活動は、役所の恣意によってではなく、 客観的な法に従って行わなければならないという行政における法治主義(法治行政の原理)に基づくものですが、 管理会社の倒産時の管理組合資産保全対策を直接の立法目的としながらも、 実際には国交省のマンション行政における統治権限と体制の確立に重点が置かれ(換骨奪胎)、 国交省が行う行政指導(処分に該当しない指導・勧告・助言 行政手続法第2条6号に定義規定、第4章に詳細規定あり)も この適正化法第5条にその根拠を置いています。

この行政の組織及び作用並びにその統制に関する規定を除けば、本来の管理業者の規制項目に関しては、 下記に示すように、管理業者の登録制度、通帳と印鑑の保管方法、 管理組合への事務報告などの些末な形式的手続きの規定のみで、 経済犯罪を防ぐための利益相反行為や双方代理を禁止する倫理規定も罰則もありません。

行政処分の理由となる違反行為については、 法人の代表者叉は従業員が法人の業務に関して顧客の財産を毀損するなどの違反行為をすれば、 それは、とりもなおさず法人自体が違反行為をしたという評価がされています。 憲法第三一条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、叉はその他の刑事罰を科せられない」 と規定していますが、同条は手続のみを規定するものではなく、要件をも規定するもの、すなわち、罪刑法定主義を規定するものと解されています。 したがって、罰則は、法律で定めるか、若しくはその法律の授権により下位の法令で定めるのが原則です。 しかし、適正化法には、本法の専属的所管事項として規定すべき業者の不公正な取引の要件規定は一切ありません。

何を規定すべきかは、「第3章 管理会社の不公正取引事例」ー「8.欧米の管理業者規制法」 を参照下さい。

国交省のマンション行政は、管理業者に対する規制よりも、 管理組合に対する指導・勧告・助言といった訓示的行政指導が主流になっていきます。 近年、それらに対しても「管理の実態を無視した空論、極論を指導的、 押しつけ的に記述している」との厳しい批判が各界から相次ぎました。

 マンション管理適正化指針 「※ 平成28年度改正に対する管理組合団体の意見 」

(3) 管理業者規制内容

同法は、それまであった建設省の昭和60年建設省告示第1115号「中高層分譲共同住宅管理業者登録規定」及び 昭和62年建設省告示第1035号「中高層分譲共同住宅管理業務処理準則」を廃止(平成13年8月1日国土交通省告示1278号)し、 新たにマンション管理業に対する規制法として平成12年(2000年)12月8日公布・平成13年8月1日施行 (平成13年7月31日国総動第51号・国土交通省総合政策局不動産課長)されたものです。

 ・マンション管理業とは、管理組合から委託を受けて管理事務を行う行為で業として行うもの(2条7号)、
 ・管理事務とは、マンションの管理に関する事務であって、基幹事務を含むものをいう(2条6号)
  (基幹事務とは管理組合の会計の収入及び支出の調定及び出納並びに
  マンション(専有部分を除く。)の維持又は修繕に関する企画又は実施の調整をいう(2条6号)

管理業者の規制内容は下記の通り
 (1) 管理業者に登録を義務付け(44条1項)、業務停止命令(82条)、
   登録の取消し(83条)ができる。

 (2) 管理業者に管理業務主任者の設置を義務付け(56条)、
   これに管理組合との管理受託契約を締結させ、重要事項の説明(72条)、
   契約書面の交付(73条)を義務付けている。

 (3) 管理業者に、一括再委託の制限(74条)、帳簿の作成・保管(75条)、
   修繕積立金などの分別管理(76条)、管理事務の報告(77条)、
   帳簿の閲覧(79条)を義務付けている。

(3-2) 「標準管理委託契約書」に見る業者保護の実態

  「標準管理委託契約書」は、 かって「住宅宅地審議会」版, 「(社)高層住宅管理業協会」版、
  「全国マンション管理組合連合会」版などがありました。下記でその違いを詳しく解説しています。
 「滞納対策の実務」ー「2. 管理組合の滞納督促」ー 「2  管理会社に委託している督促業務の責任範囲」

 現在では国土交通省版で統一され、国土交通省は関連法改訂の都度「標準管理委託契約書」を改訂しています。
 管理業者は国が決めた基準に従い、管理組合と「管理委託契約」を、概ね2年ごとに契約を更改しています。
 最近の改訂:「マンション標準管理規約及び同コメント(最終改正:令和3年6月22日 国住マ第33号)」

行政指導:「標準管理委託契約書」の利点:
国交省が発行する「標準管理委託契約書」は、管理業者の要望をくみ取り、協議や相談を行った上で、
「管理業界の慣行改善の方法やあるべき状態についての模範解答」を示したもので、
「管理業界の監督と秩序の形成、維持」のための行政指導です。
このことで、官僚側は、社会の変化に充分責任を果たしていることをアピールし、権力の基礎であるカネ
(国家財政からの配分獲得)を維持する事が出来ます。これが官僚側の核心的利益です。

管理業者はこれを「過剰な介入」、「余計なおせっかい」、「うるさい指導」と見ているわけではありません。
中小零細業者が圧倒的に多い管理業界にあっては、過剰な競争を回避し、中小事業者が引き起こす業界の
信用失墜行為を防ぐためにも、権威ある行政の指導という形で大手管理会社が望んだ内容で委託契約書の
権威の裏づけと統一を果たすことができます。このことは、対管理組合との折衝においても、管理事業者に
とって都合の良い利益誘導や管理組合からの不都合な要求を断る際の口実にも利用されます。

先に紹介した「全国マンション管理組合連合会」版には、「未収納金の回収について、
支払期限を2年以上経過した場合は、管理業者は当該未収納金の2分の1を買い取らなければならない。」
との条項がありました。国土交通省版では、そのような業者にとっての不利な条項はあり得ません。

(4) 管理業者の違反行為に対する監督処分の基準(行政処分)

マンション管理適正化法に定める処分には、同法「監督」の章に規定のある(1)行政処分」と、
同法「罰則」の章に規定のある(2)行政刑罰の二つに分かれています。
本頁で示したものは、(1)行政処分に規定されているものです。(2)行政刑罰については、
    「理事の義務違反と罰則(区分所有法と適正化法)」 を参照してください。

 マンション管理適正化法に定める行政処分
 1.登録事項の変更届出義務違反(法第48条第1項違反) ー (指示処分)
 2.名義貸し(法第54条違反 ー (業務停止処分90日)
 3.専任の管理業務主任者の設置義務違反(法第56条第3項違反 ー (業務停止処分7日)
   (但し、指摘に応じ直ちに管理業者が管理業務主任者の補充の取組みを開始した場合、指示処分)
 4.標識の掲示義務違反(法第71条違反) ー (指示処分)
 5.重要事項説明義務違反(法第72条第1項違反)
   説明会の1週間前までに必要な掲示をしなかった場合 ー (指示処分)
   法第72条第1項書面の不実記載 ー (業務停止処分7日)
   説明会の1週間前までに全員に書面を交付しなかった場合 ー (業務停止処分7日)
   (当日までに書面を交付すれば指示処分)、説明会を開催しなかった。ー (業務停止処分15日)
   契約の成立時の書面の交付違反(法第73条違反) ー (業務停止処分30日)
   法第72条第2項又は第3項又は第5項書面の不実記載又は違反 ー (指示処分)
 6.法第73条第1項の書面不実記載ー (業務停止処分7日)
   法第73条第1項の契約成立時の書面交付義務違反 ー (業務停止処分15日)
   上記において法第72条の行為が適正に行われていない場合 ー (業務停止処分30日)
 7.再委託の制限違反法第74条違反(基幹事務を一括して他人に委託した場合ー(業務停止処分90日)
 8.法第75条帳簿(管理組合から委託を受けた管理事務帳簿)の作成義務違反
   又は5年間保存義務違反 ー (指示処分)
 9.財産の分別管理義務違反(法第76条/規則第87条違反) ー (業務停止処分30日) 
   上記において当該管理組合に損害が発生している場合 ー (業務停止処分60日)
10.管理事務の報告義務違反(法第77条第2項の説明会の開催1週間前の掲示違反) ー (指示処分)
   管理事務の報告義務違反(法第77条第1項又は第2項の説明会の報告違反) ー (業務停止処分15日)
   上記において規則第88条の行為が適正に行われていない場合 ー (業務停止処分30日)
   法第77条第1項又は第2項に関するその他の違反 ー (業務停止処分7日)
11.書類の閲覧義務違反(法第79条違反)書類の閲覧を拒否した場合 ー (業務停止処分7日)
   法第79条書類の不実記載、3年間の保存義務違反 ー (指示処分)
12.秘密保持義務違反(法第80条違反) ー (業務停止処分15日)
13.従業者証明書携帯義務違反(法第88条違反) ー (指示処分)

第2章 マンション管理適正化法の問題点  〜産官協調と癒着の構図〜

(1) 実態に合わない適用除外規定

マンション管理適正化法では、管理業者の定義として、基幹事務 (管理組合の会計の収入及び支出の調定、出納、マンションの維持又は修繕に関する企画又は実施の調整) を全て行っていること(第二条六号)の規定があり、三項目ある基幹事務のうち、全ての項目を委託されていなければ、 マンション管理適正化法の適用除外となり、規制対象から外れます。

例えば、「マンションの維持又は修繕に関する企画又は実施の調整」を修繕委員会で行い、 管理業者との契約から外した管理組合、基幹事務の一部委託(部分委託)の管理組合に対しては、 適正化法第44条の登録を受けていない業者が枢要な基幹事務を執行しても違法ではありません。

また、管理業者が区分所有者であるマンションは除く(第二条七号)規定により、 リゾートマンションにみられるように、管理業者がマンションの一室を所有して区分所有者になり、 その者が管理を受託するとマンション管理適正化法の適用除外となり、規制の適用を受けません。

(2) 形式的な立入検査

国交省の立入検査は形式的なものです。詳しくは本頁の下段で詳細に述べています。
(2.6) 「国交省の組織的隠蔽 〜 立入検査での違反業者は処分も公表もしない」

 越権行為には適正化法施行規則第103条の国交省内部での管轄権を犯す内部的越権行為と、 適正化法の規制を受けない部分委託の管理業者などへの外部的越権行為があります。

(3) 国交省内の管轄権

(参考)「適正化法施行規則」第103条(権限の委任)
  管理事業者の登録・一般の閲覧・届出は本店又は主たる事務所の所在地を管轄する地方整備局長 及び北海道開発局長に委任する。ただし、管理事業者の処分については、国土交通大臣が自ら行うことを妨げない。

ライオンズマンションの管理会社、株式会社大京アステージ が、適正化法違反で 2018年(平成30年)12月26日に60日間(2019年(平成31年)1月18日〜3月18日)の業務停止処分を受けました。
  「処分を受けた違反管理業者一覧」
株式会社大京アステージの本社は東京都渋谷区千駄ヶ谷です。

但し、業務停止を受ける地域は、同社名古屋支店から従業員の横領着服の報告を受けた中部地方整備局の管轄する区域(岐阜県、静岡県、愛知県、三重県)における同社の業務に限定されます。
 「平成30年12月26日中部地方整備局発表」(PDF 203KB)

大京アステージの元社員は名古屋支店管内に勤務し、 中部地方の複数のマンション管理組合を担当。組合側が保管すべき口座の印鑑を自分で管理し、 口座から現金を引き出して横領した。発覚後2018年(平成30年)3月に懲戒解雇。 それから9ケ月後の12月26日に国交省中部地方整備局が処分を公表した。

(4) 限定的で軽すぎる業者処分

上で説明したように、 マンション管理適正化法には経済犯罪を防ぐための利益相反行為や双方代理を禁止する倫理規定も罰則もありません。

一方で、管理組合の資産を狙って管理会社社員のみならず、 管理組合役員などによる横領着服などの犯罪が頻発しています。  8.2 相次ぐ着服と横領犯罪

管理会社従業員が管理組合の資金を横領着服しても、管理会社は指示処分だけです。(法第81条第1号違反)
指示処分とは「役所が是正を指示する処分」のことで、「以後、気をつけるように」と注意を受けるだけ

管理会社が談合したり、悪質コンサルタントや施工会社と組んで不正に管理組合に損害を与えたとして、 公取委から摘発されたとしても、マンション管理適正化法では、管理会社は指示処分どまりです。(法第81条第2号・第3号違反)

法令上、「業務停止」とはならず、「指示処分」とされている違反項目は下記の通りです。
(法第81条第1号)
 一 業務に関し、管理組合又はマンションの区分所有者等に損害を与えたとき、
   又は損害を与えるおそれが大であるとき。
(法第81条第2号)
 二 業務に関し、その公正を害する行為をしたとき、又はその公正を害するおそれが大であるとき。
(法第81条第3号)
 三 業務に関し他の法令に違反し、マンション管理業者として不適当であると認められるとき。

他の国では、こんな軽い、儀式的、形式的な処分では終わらない
Criminal proceedings(刑事事件)やcontravention under this Act(倫理規定違反)となった時点で即刻、 Freeze Order(業務と資格の即時停止命令)と、hold those founds or assets(保証預託金と資産の保全命令)が出される。

フリーズ(Freeze)とは、相手に銃を突きつけて「動くな!」という時の言葉です。そこを動くな!
(Ontario Condominium Mnagement Services Act,2015 コンドミニアム管理業者規正法 第65条)
外国では消費者を守る法律だから当然です。日本は管理業者を守る法律だから、これも当然か?

(5) 業者処分はなぜ遅い

(1) 「北海道ベニーエステート(株)」(札幌市中央区)の元社員が平成11年〜平成27年の16年間に、 自分が管理を担当していた13組合の管理費や修繕積立金など計約1億8千万円を着服していた事件では、 事件が新聞報道で公になった後、同社が平成27年3月9日付けで、 「弊社元社員による着服事件に関するお詫びとお知らせ」を管理組合向けに発表したが、 それから1年2ケ月たって、平成28年5月23日付けで国交省から改善措置指示の行政処分が公表された。

(2) 「三菱地所丸紅住宅サービス株式会社」の元社員が12組合から約8,400万円を着服していた事件では、 同社が平成27年5月25日付けで「弊社元社員によるマンション管理組合財産着服に関するお知らせとお詫び」 を管理組合向けに発表したが、それから7ケ月後の平成27年(2015年)12月21日付けで、 国交省から改善措置指示の行政処分が公表された。

いずれも管理会社自ら既に事件を公表していて事実認定に時間がかかる事件ではなく、 処分留保に合理的理由がない限り、違法な遅滞と言わざるを得ない。

(3) マンション管理の専門家ってなんだ?、国交省の行政処分ってなんだ?
 マンション管理士として多くの講演会で講師をしながら管理会社を経営していた男が、 受託していた管理組合の預金払戻請求書を偽造し、800万円を詐取、有印私文書偽造、 同行使、詐欺罪で愛媛県警松山東署に逮捕され、 平成28年1月28日、裁判で2年8ケ月の懲役刑が確定した。

国交省がこの男が経営していた管理会社「有限会社アイリス管理センター」の登録取消処分を決めたのは、 経営者が刑務所に服役して半年経ってからの平成28年7月8日だった。
開いた口がふさがらない。

(6) 国交省の組織的隠蔽 〜 立入検査での違反業者は処分も公表もしない

マンション管理適正化法が平成13年(2001年)8月に施行された後、 国交省は全国一斉に行う立入検査を
平成17年(2005)以降、毎年実施してきた。 平成17年度61.4%の違反率が令和元年度では42.1%まで低下
してきたが、それでも全国の業者の約4割が法を無視し、それがなんと20年以上も続いている。
実態は「マンション管理不適正化法」

○ 欺瞞の言語・官僚話法(日本)

行政の目的は、「業者の利益と、監督官庁の利権を守ること」であって、
消費者である国民の権利と財産を守ることではない。 これを官僚用語では「行政が業界を指導監督し、
業界の健全なる発展と秩序を維持し、 もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与する」
と言い換える。(欺瞞の言語・官僚話法) ハロルド・ラスウエルの「立法者の定義」

開発途上国・利権と癒着と腐敗の一党独裁国家の論理
独裁国家とは少数の人々により国家が支配されること。   (8) 特異な日本の公共政策の決定過程

近代行政の倫理と価値観は公正、透明、国民に対する説明責任を基礎としているから、
先進国のコンドミニアム管理業法の管轄は消費者庁であって、産業政策担当庁ではない。
日本のマンション管理適正化法の主務官庁は国土交通省 土地・建設産業局不動産業課

○ ハロルド・ラスウエルの「立法者の定義」

「立法者とは、自分達の私的動機を公的目的に転移させ、
公共の利益の名において合理化させる技術にたけた者のことである。」  〜「権力と人間」〜
政策の裏にロビイスト(Lobbyist)達の私利私欲の動機が隠されていないか、チェックせよという警告です。
   【リチャード・ポズナーの警告】

ハロルド・ラスウエル(Harold Dwight Lasswell 1902.2.13-1978.12.18):
  米国の政治学者。精神分析の方法を政治学に導入して政治行動の実証的研究を行った。 .
  「権力と人間 (Power and Personality)」は1948年発行。

○ 違反業者の実態と隠蔽


令和2年・3年と続けてコロナを理由に調査数を絞り違反数の発出を抑えた。

年度マンション戸数登録業者数 調査数違反数違反率調査発表日
H17485万戸2,694 573561.4H18年(2006/6/16)
H18506万戸2,727 623556.5H19年(2007/6/14)
H19528万戸2,374 895966.3H20年(2008/6/16)
H20545万戸2,360 1013635.6H21年(2009/6/17)
H21562万戸2,374 1204940.8H22年(2010/6/17)
H22571万戸2,387 1387755.8H23年(2011/6/15)
H23579万戸2,391 1487349.3H24年(2012/5/23)
H24590万戸2,252 1546844.2H25年(2013/5/17)
H25601万戸2,230 1285039.1H26年(2014/7/30)
H26613万戸2,214 1496040.3H27年(2015/7/ 6)
H27623万戸2,185 1355137.8H28年(2016/7/15)
H28634万戸2,131 1416445.4H29年(2017/7/19)
H29644万戸2,001 1455537.9H30年(2018/7/30)
H30655万戸1,989 1466343.2R01年(2019/7/31)
R01666万戸1,962 1456142.1R02年(2020/7/27)
R02675万戸1,957 852731.8R03年(2021/7/30)
R03675万戸
685万戸
1,934 841922.6R04年(2022/7/28)
R04694万戸1,843 1192420.2R05年(2023/9/ 4)

       ※ この表のR03年のマンション戸数は前年度と同じ数値で公表された。単純なミスと思われるが、
         国交省から修正の発表があるまでは、国交省発表データのまま掲載しておいたところ、
         発表から1カ月後、修正の発表はないまま、国交省・一度公表したデータを差換え

 これらの違反事項の中には、本来、処分基準に照らして業務停止となるべき重要事項の説明(法第72条関係)、 契約の成立時の書面の交付(法第73条関係)、財産の分別管理(法第76条関係)、管理事務の報告(法第77条関係) 等の違反が含まれていますが、立入検査では指導と称して処分はせず、違反業者名は公表されていません。

 そもそも、国交省の報告書では、調査数に対する違反業者数を「違反率」ではなく「指導率」と表現しています。 国交省が是正を指導した割合(率)という意味です。 「業者が法律違反をしていた率」というネガティブ表現ではなく「お上が是正を指導した率」というポジティブ表現に置き換えるあたり、 日本は法治国家でも民主国家でもなく、官主国家だという官僚の自負を見せ付けられる思いがします。

 総務省消防庁の管轄にある消防法の例ですが、東京都は火災予防条例を改正し、平成23年4月1日から「違反対象物公表制度」を開始し、 消防庁職員の立入検査で見つかった違反建物は「建物名称、所在及び違反の内容」を東京消防庁のホームページ及び 管轄消防署等の窓口において公表しています。
   「共同住宅」における公表された違反事例

国交省の立入検査は平成17年度以降毎年実施されていて、違反業者をすべて処分していたら大変な数になりますが、 立入検査で判明した個別の違反業者名・違反の内容は一切公表していません。 マンション管理業協会あてに一括して改善要請を出しているのみです。

令和元年7月31日 国土交通省土地・建設産業局不動産業課 発行
 「マンション管理業者への全国一斉立入検査結果(平成30年度)」(報告書)

 全国のマンション管理業者のうち146社に対し、平成30年10月から概ね3ヶ月の間に、
 事務所等への立入検査を実施しました。

 マンション管理業者の登録数が1,989社(平成30年度末現在)(〜中略〜)の中から
 全国146社に対して立入検査を行い、63社に対して是正指導を行いました。(中略)

 また、関係団体に対しても、更なる法令遵守の徹底を図るため、研修活動等を通じて
 マンション管理業全般の適正化に向けた指導等を図るよう要請を行いました(別添参照)。

(別添資料)  国土動指第25号(令和元年7月31日)
  一般社団法人マンション管理業協会 理事長 殿
                 国土交通省土地・建設産業局不動産業課長

    「マンション管理業の適正化について(要請)」

   (〜前略)今回、是正指導を実施した63社の中には、貴協会社員であるマンション
       管理業者も含まれていたものである。(中略〜)

  貴協会においても、法令遵守のための社員指導として導入したモニタリング制度を活
  用し、適正化法に基づく指定法人として、より一層、社員に対する法令遵守の徹底を図
  るための研修活動等を推進し、マンション管理業全般の適正化に向けた社員への指導等
  を図られたい。 なお、今回の要請を受けての実施結果については後日報告されたい。
(※ マンションNPO 注記)
  マンション管理業者の登録数(平成30年度末現在) :1,989社
  一般社団法人マンション管理業協会の正会員数(同):  361社
  (全体のわずか18%しか加入していない管理業協会に「要請」して結了。例年通り)

全体のわずか18%の業者で全体の9割をカバーしている業界
平成30年4月1日現在の一般社団法人マンション管理業協会会員の受託管理戸数5,966,052戸(114,935棟・96,491組合)で、 全国分譲マンションストック約655万戸のうち協会会員の受託管理戸数は9割以上を占めている。 更に言えば、1.8%(36社)の管理業者だけでその9割の中の73.2%を占めている。
管理業界は小規模労働集約型中小企業が圧倒的に多い。

(7). 産官協調と癒着〜戦略的互恵関係〜

国交省の組織的隠蔽 〜 立入検査での違反業者は処分も公表もしない

国交省は行政指導の効力を高めるためにふたつのエージェントを作ることに成功した。
(令和2年6月の適正化法改正によって更に3つめのエージェントを作ることに成功した。)
      「老朽化対策と法改正  〜令和2年改正の概要〜」 を参照

(1) 官と業界が利害を共有する結合組織(マンション管理業協会)を作り、適正化法第95条で指定法人とし(表向きは申請により)、 業界の指導、勧告を担わせ(第2項第1号)、業界の監督と保護のための行政上の仕組み・制度とした。

(2) 一方で、法第91条でマンション管理適正化推進センターという国交大臣指定法人を官が作り、 管理組合に対する指導・勧告・助言といった国民に対する訓示的行政指導に限定する仕組みとした。 適正化は名前だけで、適正化推進センターには管理業者を調査指導する権限はない。

適正化推進センター(公益財団法人マンション管理センター)の役員(理事)は元公務員の他に、 不動産協会理事・事務局長、マンション管理業協会理事長が兼務で入っている。 つまり、国の威信を頼りとした護送船団行政の中で、マンション分譲会社と管理会社の業界団体役員が国民に対し適正化を指導する構図。 平成31年3月末の正味財産19億7千万円(うち現金資産15億8千万円)の潤沢な資金を有し、 役員報酬と職員人件費2億2千万円、外部への業務委託、調査研究、諸謝金合計1億円。

(3) これらを独裁国家では戦略的互恵関係という。

(8) 特異な日本の公共政策の決定過程

公共政策とは、政府または公共部門が行う公共的な政策全般を指す総称であり、 住宅政策も公共政策の一分野です。

 

公共政策の決定過程
(1)課題設定(アジェンダセッティング):具体的に解決すべき公共的問題を政策課題として設定
(2)政策立案:その課題解決に向けた施策及び計画を起案
(3)政策形成:立案した機関内における各関係部局の合意形成をしながら、政策案を練り上げる
(4)政策決定・法制化⇒政策実施:決定した政策の立法化、法制化された政策を執行(政策実施)
(5)政策評価:実施した政策の効果を測定し、次回の政策立案に活かす

マンション管理適正化法は(1)〜(3)を国交省内部で法案として練り上げられ、 平成12年(2000年)、自公の与党議員により国会に上程、可決を経て法制化された以後、 その政策は国交省の管轄で実施されてきました。

法案を作成した組織の価値観や利害関係が法案に反映されるのは当然で、 (4)の立法化の過程でも、国会のチェック機能は働かなかったし、 その後、第三者による客観的な公共政策評価が実施されることもありませんでした。
政策はお上がつくるという官僚統治の誤りがもたらす社会的弊害の実例見本が続く日本の住宅政策

(9) カナダ・オンタリオ州におけるコンド法制改革の事例

外国の例を持ち出して恐縮ですが、 カナダ・オンタリオ州の消費者庁長官・Minister of Consumer Services (MCS) のトレィシー・マックチャールズ(Tracy MacCharles)と彼女のスタッフの支えの元に、2012年6月から18ケ月間にわたり、 The Public Policy ForumというNPOのシンクタンク(注3)が中心となって、分譲事業者・住宅購入者を含むステークホルダー(利害関係者)、 民間コミュニティ、法曹界、政府部門及び議会議員から広くメンバーを集めて、 コンドミニアム政策についてのテーマ別分科会(ワーキンググループ及び専門家パネル)を設け、 会合の議事録を逐次発行し、総合的な方針や意見の調整を行い、メンバー間の協力的なプロセスを促進し法案を起草、パブリックコメント集約

トレィシーの後を引き継いだ消費者庁のオラジェッティ(D.Orazietti)長官が、 コンドミニアム(1998年)法の16年ぶりの改正でコンドミニアム所有者を保護する法律及び管理業法の制定並びに関連法の改正法案 (2015年法案Bill 106)を議会に上程、議決を経て2017年11月1日施行した事例があります。

管理業者と管理業務マネージャーの免許を付与・管理・監督し、 監察執行業務を行うのがコンドミニアム管理業者規制庁(Condominium Management Regulatory Authority of Ontario(CMRAO))です。
同時に、居住者、区分所有者の権利保護活動を行うのが、コンドミニアム庁(Condominium Authority of Ontario(CAO))です。

いずれも州当局と行政契約を結んだ民間の非営利法人で、職員は公務員ではないと法律に明記されています。 この時の改正で、コンドミニアム紛争専門の行政裁判所(Condominium Authority Tribunal(CAT))もCAOの部局として創設されました。
 カナダのコンド法令体系     コンドミニアム裁判所・実務規則( 2018年7月1日施行 )
     「コンドミニアム管理業法施行規則 (倫理コード、懲罰委員会 及び 控訴委員会)」

(注3)
 公共政策フォーラム(PPF:Public Policy Forum)は、カナダにおける官民対話のための独立した非営利のシンクタンクです。 組織の目的は、「公共政策に関するオープンな対話のための中立的で独立したフォーラムとしての役割を果たす」ことです。

1987年に設立され、2019年現在、産業界、学会、政府及び地方自治体、労働者連合組織などのリーダーで構成された200人以上のメンバーがいます。 CANADA's PUBLIC POLYCY FORUMの活動は下記を参照してください。

   共同住宅法制改革の公共政策・総目次/「住宅法制改革第U期報告書」 (2021/8/28追記)
〜 市民が結集して共同住宅法の見直しと改正を行ったカナダの実例報告 〜

( 10) 結論 「マンション管理適正化法」は不正や犯罪の抑止力にはなっていない。

日本で談合や不公正取引を規制しているのは独禁法であり、 管理業者の忠実義務違反や経済犯罪は「マンション管理適正化法」では取り締まれない。
      「財産の分別管理」  「4.管理業者の実態」

「空気を読む(KY)」から「危険を予知する(KY)」へ

国交省がマンション管理に関する施策を発表するときには、 次のような現状認識の前提をつくり情報操作を行います。

「現在、マンションは居住者老齢化や賃貸化が進み、自律的な運営が難しい状況にある。」

日本人は空気を読んで周囲に同調する行動をとります。心理学で「社会的証明の法則」といいます。
このような「空気を作る情報操作=社会的証明の法則に基づいた誘導」は大衆操作には有効です。
周囲に流されやすいという心理は、人をだますときにも悪用されます。

誰にでも当てはまるような曖昧なフレーズによって相手を錯覚させることを、 心理学で「バーナム効果」といいます。 (フイニアス・テイラー・バーナム Phineas Taylor Barnum (1810-91) 米国の大サーカス The Greatest Show on Earth (地上最大のショー) の興行師)
後に、彼の人生を扱ったハリウッド映画「The Greatest Show on Earth」が作られた。

相手を錯覚させる曖昧なフレーズには「どうやって証明したの?」というクールな対応を。
合理的根拠に基づくエビデンスベースで議論しようよ! 
        第6章 住宅政策とEBPM(エビデンスに基づく政策立案)

      エビデンスといえば・・  「財産の分別管理」  「4.管理業者の実態」

 大谷翔平は「地上最大の“ショウ”  (The greatest Sho on earth)!

2021年8月18日 (日本時間19日)に行われたエンゼ ルスvsタイガースに 「1番・投手」でスタメン出場すると、先発投手とし て8奪三振で8勝目、 打者とし ては40号本塁打を叩 き込むなど圧倒的な存在感でチームを勝利に導いた大谷翔平を 米国MLB公式ツイッターは、Two.Way.Superstar.(二刀流のスーパースター)と認定すると共に 「地上最大 の“ショウ”(The greatest Sho on earth)」と映画のタイトルに引っ掛けて大絶賛した。 これは錯覚ではなく、本物です。

1904年マックス・ヴェーバーが「社会科学および社会政策の認識の客観性」(Max Weber : Die Objectivitat sozialwissenschaftlicher und sozialpolitischer Erkenntnis.)を発表してから116年、現代の社会科学では、 問題解決のための社会政策を決定するには、統計学や社会調査法による数理統計的な手段を用いて、 原因群から適合する因果関係を判定するのが一般的です。

管理組合の自立を妨害する原因郡には管理業者による管理組合運営への露骨な介入支配と、 理事や修繕委員の人選に介入する行為が目立ちますが、それらの原因郡は国の調査では最初から意図的に除かれます。

本文末尾の「(2) 整備局への相談事例」の中にも、そのような事例の報告がありますが、 それを「サービス精神が強い管理業者は、機能していない管理組合に代わり、広い範囲で活動することもあります。」 と管理業者の立場で擁護しています。実際には、管理組合が機能していないのではなく、 「強欲な管理業者は、管理組合を機能させないように、広い範囲で活動することもあります。」が正しい表現。認識の客観性の欠如。

ヴェーバーはまた、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(1904-5)(Protestantische Ethik und der Geist des Kapitalismus.)で、 「なぜ、近代資本主義は近代ヨーロッパにだけ成立したのか?」という疑問を解く過程で、 近代資本主義の成立には欲求充足(Bedarfsdeckung)と営利追求(Erwerb)という経済の問題(生産・流通・分配・消費)だけではなく、 労働を自己目的、すなわち使命(Beruf)であると考えるプロテスタント教徒、 とりわけカルヴァン主義者の世俗内的禁欲の組織的生活態度と合理化精神=プロティスタンティズムの倫理に因果関係を見出しました。 同様に、なぜアジアで日本だけが近代化に成功したのか?という疑問には、1899年、新渡戸稲造が著書「武士道」で示した日本人の倫理感が世界で認識されてきました。
         「社会心理学からみた管理組合」 「もう一つの視点:ELSI」 参照
倫理なきビジネスは汚い。そのような国は世界の信用を失う。
     「日本的経営の終焉」 〜護送船団行政と愚かな経営者の悲劇 〜 参照

マックス・ヴェーバー(Max Weber 英語辞書でも発音はドイツ語にならってヴェーバー(Ver:bar)と表記される。1864-1920) ドイツの社会学者・法学者・経済学者、プロイセン王国エアフルト(現在のドイツ中部)生まれ。1920年、スペイン風邪が原因と見られる肺炎で死去。 没後100年の2020年には、グローバル時代の政治と民主主義や自由の関係など、現代的な課題を論じたヴェーバー関連書籍の刊行が相次いだ。

人をだます情報操作で次に用いるのが「権威の法則」です。
ここで国は「専門家(?)」を使う。(具体的に書くと、面倒なことになるから書かない。)
触らぬ神に祟りなし。専門家と称する人は相手にせず距離を置いたほうが安全です。

「現在、マンションは居住者老齢化や賃貸化が進み、自律的な運営が難しい状況にある。 したがって、専門家を関与させる仕組みが必要である。」
「あ、うちは大丈夫です! 間に合ってます。」

第3章 管理会社の不公正取引事例

(1) 管理会社の不公正取引の実態

 〜今、マンション改修業界で何が起きているのか〜  詳しくは、
           【前頁】1. 悪質コンサルタントの実態 / 2.談合と管理会社主導の悪質事例 参照


 2017年10月19日放送「NHK クローズアップ現代」
 「追跡!マンション修繕工事の闇
       狙われるあなたの積立金」から〜

  横行する利益相反行為の実態

(NHKキャスター): マンションの管理会社を通して工事を促される、勧められることが多いと思うが、
              管理会社は大丈夫なのか?
山岡淳一郎さん(ノンフィクション作家):  いや、その頼りの管理会社が、中には、やはり自分が
              コンサルタント的な役割をして、全体をコントロールして、バックマージンをと
              いうような形もあったり、あるいはコンサルタントを指定したりとか、場合によって
              は自分の息のかかっていない工事業者が、その仕事を取った場合に「ここは、
              うちの管理してる物件だから、あなた方は場所代を出しなさいよ」と。
(NHKキャスター):  場所代?
山岡さん:        言ってみれば、通行料のようなものですね。そして、工事料金の5%とか、
              10%を取っていたという、こういうケースもありました。

(出典:「NHKクローズアップ現代」https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4049/index.html)

(2). 管理適正化法には管理業者の倫理規定も利益相反禁止規定もない。

管理会社と管理組合の利益が相反する行為、即ち、法律行為自体や外形からみて、管理会社の利益になるが、 管理組合にとっては不利益になる行為のことを法律用語で利益相反行為(りえきそうはんこうい)といいます。

実際のところ、人件費商売の管理業よりも、修繕工事のマージンのほうがはるかに利益は大きいから、 管理会社は自社を元請とする工事受注を誘導し、口先ではどういっても受託責任よりも自社の利益を優先する。

「総会での承認を経た契約であり、管理組合の自主性と自己責任に基づいた契約である」と言い逃れても、 それが現在における意思状態に反して告知され、人を錯誤におとしいれ、欺き、 財物を交付させるよう相手に決意をさせた場合は、詐欺罪(刑法246条・10年以下の懲役)が成立する。

また、他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、 その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、背任罪(刑法247条・5年以下の懲役又は50万円以下の罰金) が成立する。

但し、談合を含めたこれらの犯罪は秘密裡に行われるのが普通であって、 一見極めて明白に犯罪の構成要件を事実認定できるだけの証拠でもない限り、単なる伝聞や憶測だけでは端緒調査もできない。 刑法犯として立件するのは容易ではない犯罪類型に入ります。

司法権と行政権の関係でいえば、管理会社の利益相反行為は、本来、管理業法といわれる「マンション管理適正化法」や、 「独禁法」などの行政法で規制すべき事項に属する。

後述する欧米の管理業者規制法には、管理業者が守るべき倫理規定と利益相反禁止規定が入っている。
しかし、日本のマンション管理適正化法には管理業者の倫理規定も利益相反禁止規定もない。

平成28年度に標準管理規約を改訂した際の37条の2(管理組合役員の利益相反取引の防止)の追加規定に併せて、 「マンションの管理の適正化に関する指針」において「6 発注等の適正化」の項目で 「管理業務の委託や工事の発注等については、利益相反等に注意して、適正に行われる必要がある」として、 管理組合に対し、注意を喚起する訓示的規定を盛り込んでいますが、 これは「管理組合役員の利益相反取引の防止」の訓示規定であって、 管理業者が行う利益相反行為の禁止規定ではありません。 言うべき相手が違う。

試合の審判(国交省)が、業界チームの監督も兼ねていて、自分の業界チームには自由に悪質タックルをさせておいて、 相手の消費者チームにだけ悪質タックル禁止を訓示するのっておかしいだろっ!!!

なぜ、こんな不正義が堂々とまかり通るのでしょうか? それには産官協調と癒着を隠す審議会の役割があります。

(3). 国交省の審議会における利益相反行為に関する議論

国交省が第三者管理者方式のルールづくりを目指して開催した 「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」の第1回(平成24年1月10日)〜第11回(平成27年3月27日) の延べ3年2ケ月にわたって行われた11回に及ぶ検討会でも、「利益相反取引の防止」についての議論が毎回熱心に繰り返されました。

(1) 「利益相反行為は、依頼をしている人の利益に反したことをしてはいけないよということに 根本があるわけですから、所有者の方が構わないよということで総会承認があれば、それはそれで全く問題ないのではないか。」

(2) 「総会で了解しておいても、やはり個々具体的な行動でもってまずいことをしてはいけないわけですから、 これを監督しなければいけない。」 (以上いずれも平成24年1月10日 第1回)

・・・(第2回〜第9回での利益相反行為に関する議論は省略。 毎回同じような議論が続く)

(3) 「管理組合からの発注・選定などに関しまして、利益相反のない、区分所有者からも信頼される発注等のルール、 発注・選定のガイドラインを整備することが適切ではないか」(平成27年2月26日 第10回)

(4) 役員が利益相反取引を行う場合、又は理事会決議に特別な利害関係を有する場合の措置、発注の適正化等については、 現行規約に特段の規定はございませんが、問題認識として、こういったものの適正化を行うべきではないか」 (以下いずれも平成27年3月27日 第11回)

(5) 「利益相反取引の定義やケースということについて、具体的な解説を記載するということと、 標準管理規約の37条に、利益相反取引の防止についての規定を設けて、利益相反取引となる事実の開示と理事会からの承認、 利害関係のある議決への当該役員等の不参加、監事等による管理組合の代表代行の規定を盛り込む。」

(6) 標準管理規約に、役員の欠格要件、利益相反取引の防止、それから外部管理者等に対する派遣元団体等による 報告徴収や外部機関による監査、財産毀損の防止の誠実義務等を新たに規定する。」

これらの議論の結果、標準管理規約37条の2(管理組合役員の利益相反取引の防止)の規定が追加されました。

一方、管理業者が行う利益相反行為については管理規約の所掌範囲外であり、 標準管理規約改訂と同時に管理指針に追加された「6 発注等の適正化」の項目も管理組合役員の利益相反取引の防止の訓示規定であって、 管理業者が行う利益相反行為の禁止規定ではありません。

(4). 審議会のしくみ

この審議会というのは官僚主導を支える重要な仕組みのひとつで、いくら官僚に国を動かす能力があるといっても、 独自に進めてしまうと、「何の権利があって、そんなことを決めているんだ。役人が勝手に動くなよ」ということになります。 そうならないように、「有識者の意見をきちんと聞きました」という形をとります。
実際には審議会の結論は決まっていて、その結論に導いてくれる審議会メンバーを役所が独自の基準で選びます。 審議会議事録も官僚が作るので、議論がモメても、微妙に表現を変えて一行で丸めてしまったりします。

議論の結果を尊重しなければいけない諮問委員会と違って、審議会の結論をどう扱うかは役所の裁量に任されますから、 都合の悪い意見は無視していいのです。

審議会を経て、「では、こういう方向で進めましょう」と決まったところで、官僚が答申のまとめ案を書き、 大臣に手渡す前に、記者クラブでメディアに事前に答申の内容を(誤解や批判が出ないように)レクチャーします。 記者たちは、事前に原稿を書いておき、大臣発表を待って記事を発表しています。

(この話は元NHK記者の池上彰さんの「池上彰の政治の学校」(2012年9月出版・朝日選書No364)に書かれています。)  一方で 審議会は官僚の責任逃れに使われます。

     今、建築業界で何が起きているのか(2) (官僚機構の問題)

国交省はなぜ、管理業者の利益相反行為を禁止しないのでしょうか。 それは、この審議会の開催に至った以下の経緯を知れば、その理由がわかります。 国交省が利益相反行為を禁止する時は、区分所有者の権利に関わるもっと重大な政策変更を行うときで、 それまでは管理業者の利益相反行為には手をつけない。

利益相反は管理組合の自律的な運営を前提にしているから問題になるのであって、 住民は金だけ出して、あとの意思決定を含めて全部、管理業者に任せてくれるなら利益相反にはならない。
そういう仕組みが出来た後なら、利益相反を禁止しても良い。それまでは手をつけない。

利益相反を禁止することを実体的(substantive)な正義とするのではなく、 それを合法とする手続き的正義(procedual due process)=デュープロセス(due process of law)に置き換えられるような法律を作ればよい。
それが国交省の審議会の狙い。

(5). 不動産取引と信託法制に関する研究会

 金融庁が信託業法を大正11年制定以来82年ぶりに全面改正し、平成19年9月30日に施行した中で、 新しい信託類型として自己信託を創設した動きをみて、 かねてから欧米並みのプロパティマネジメント(PM)事業を実施したかった国交省総合政策局不動産業課と不動産業界を代表する (財)不動産適正取引推進機構、(社)高層住宅管理業協会(注1)、(社)不動産証券化協会等は、 平成17年5月〜平成18年3月31日の計10回にわたって研究会(※1)を開催しました。

 国家の住政策を国と利益団体とで協議してくいなかで、 一番のネックが不動産業界における自己取引双方代理の問題と管理業界における同種の分別管理違反問題であり、 これらの信頼性確保の制度的基盤を確立できないうちは、宝の山(年間6兆円にも上る修繕積立金のPM運用) に踏み込めない。
(全国平均月額修繕積立金10,898円×500万戸×12ケ月=6.5兆円)

結局、利益相反取引・自己取引双方代理の問題が解決できず、当面の信託化は断念するが、 信託化の前段階としての管理者管理方式は、第三者管理方式と名前を変えて、国交省審議会に引き継がれていきます。

(注1) 平成25年(2013年)4月1日(社)高層住宅管理業協会は一般社団法人マンション管理業協会に改称しています。

(※1) 不動産取引と信託法制に関する研究会報告書(平成18年3月31日報告)

(研究目的)
 居住者老齢化や賃貸化が進んだマンション等、自律的な運営が難しい状況にある管理組合の場合には、 信頼できる専門業者に管理組合の持つ一定の権限と責任を委譲した上で管理運営等全般を委託したいというニーズがあるが、 現行の区分所有法やマンション管理適正化法は管理組合の自律的な運営を前提に成り立っているため、 管理組合そのものが形骸化し適切な維持・管理あるいは建替え合意が進まないケースもある。 そういったケースにおいて信託機能を用いることが一つの解決策になるのではないか。
  (※2 不動産取引と信託法制に関する研究会資料 より)

(※2) 研究会が狙いとした信託制度

1.自己居住用の分譲マンションの場合
≪ 準共有又は受益権分割方式(建物全体を一つの信託の信託財産とする方式) ≫
全区分所有者がその有する区分所有権・敷地・利用権を、マンション管理業者に信託する。 区分所有者は「住戸の自己利用」を受益権の主な内容とする信託受益者となる。

(1).信託契約終了時は、建物及びその敷地の共有持分又は個別区分所有権を区分所有者に返却する。(区分所有者の受領権)

(2).土地・建物全体の管理運営計画と収支計画(通常、管理組合が担っているマンション全体の管理と同一)については、 信託受託者であるマンション管理業者等が作成し、受益者集会で決議(制定・変更)する。 但し、受益権者の意思決定等は改正信託法による多数決ルールを適用し、 受益者集会での多数決による意思決定は信託行為の定めがある場合に限る。 役員制度は設けない。相互管理や団体性の観点は想定しない。

(3).管理費・修繕積立金・公租公課の支払い義務:各受益者は、信託報酬、土地・建物の維持管理に要する費用(管理費、修繕積立金)に加えて、 土地・建物全体に賦課される固定資産税・都市計画税を一定の割合により、信託受託者であるマンション管理業者に支払う。

2.管理組合が有する資金を信託する場合 ≪ 信託口座資金管理スキーム ≫
管理組合資金管理のための「収納口座」に信託を活用する。 信託口座の委託者兼指図権者は管理組合であるが、とりまとめはマンション管理業者が行ったほうが手続き上スムーズにいく。 管理組合の財産は「預貯金」から「信託受益権」に変わる

(その他、本研究会ではさまざまなスキームについて検討している。)

(※2の引用元:平成18年1月30日「不動産取引と信託法制に関する研究会資料」)


(注) 英米の不動産信託は、賃貸用コンドミニアムが対象で分譲コンドミニアムを対象とした不動産信託はあり得ない。
不動産信託(trust)は、投資者=運用を委託する委託者(Trustee)からの資金で賃貸コンドミニアムを名義所有する受託者(Settlor)が 賃借人の賃料から維持管理の経費を除いた運用益を受益者(Benefificiary)に配分する仕組みです。

分譲コンドミニアムは実質の所有者(Owner)と委託者(Trustee)と受益者(Benefificiary)と居住者(Resident)がすべて同一だから、 自己信託で運用益を上げるというスキームが成立する訳がない。しかし、日本の研究会案は 所有者でもない管理業者が受託者(Settlor)と実益受益者(Benefificiary)になるという(業者にとっては夢のような)都合のいい話しです。
国交省は業者の利益のためなら国家の権力で何でも出来る(と思っている)らしい。

なお、自益信託について補足すると、区分所有者が、管理規約に基づき、管理組合に管理費を納入することは、 区分所有者を委託者かつ受益者、管理組合を受託者、信託財産を管理費、信託目的を建物並びにその敷地及び 附属施設の管理等とする信託関係(自益信託)が成立したものとして解することができるという解釈のもとに、 管理組合の立場をそのまま管理業者に置き換えた(この時点で詐欺罪ーオレオレ管理組合詐欺ーを構成する)のが今回の研究会の論点の趣旨です。

賃貸事業者が賃借人にその居住している住戸を分譲したり、開発業者がその管理を専有部分所有者団体へ委譲することがあります。 これによって生じる不動産所有者の変動を英米ではターン・オーバー(Turn-over)といい、その為の法制度も整っています。 業者利益保護の日本の国交省とは真逆で、国民の権利を守る為の法制度(移転資産・締結契約書・保険・所有権者名簿等の開示)です。
詳しくは、「都条例とカナダの登録法令〜なぜ こんなに違うのか?〜」 [所有権変動集会(Turn-over meeting)」参照

Note: Act on Advancement of Proper Condominium Management (Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism).  Clearly,this law is becoming outdated.

(6). 国交省の暴走に対する歯止め:独禁法

一方で、マンション管理業界にはびこる不公正取引を実際に摘発してきたのが「独禁法」と公取委でした。
「独禁法」は事業領域を問わず、すべての事業者に適用される経済活動の基本ルールであり、 経済憲法とも呼ばれています。

国交省と業界団体の結合組織は公共的な機関・団体とされ、独占禁止法の事業者に該当せず、仮に該当しても、 不当な取引制限の当事者にはなりえないとされていましたが、「日本下水道事業団発注電気設備工事談合事件」 では、日本下水道事業団の業務担当者(工務部次長)が独禁法の不当な取引制限の罪の帯助罪に問われました。(平成7年3月6日刑事告発・同6月7日追加告発・平成8年5月31日高裁判決)

日本下水道事業団事件は、平成13年でも繰り返され、鳥取県、四日市市、三重県、名古屋市、島根県の5件の事件で、東芝、富士電機、三菱電機などの事業者と共に、 発注者である日本下水道事業団が刑事被告人となり、9事業者に対して総額10億3,636万円の課徴金が課されました。(判決 平成13年3月29日津地裁・同9月7日名古屋地裁・同9月19日松江地裁・同10月12日広島高裁)

また、日本道路公団発注の鋼橋上部工事の入札談合事件でも公団副総裁及び理事2名が業者と共に刑事告発されています。(平成17年6月29日刑事告発・同8月1日・同8月15日追加告発)

犯罪の成立の問題は「一定の取引分野における競争の実質的制限」の認定の問題ですから、基本的には、 共同行為の内容との関連で個別的に検討されます。具体的には「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」 (平成七年)に判断基準が示されています。

マンション管理業界への「独禁法」の適用事例については章を分けて説明します。
  「4.独禁法と公取委」

(7).双方代理と自己契約

管理組合と管理会社との間の管理委託契約は、管理組合における総会議決に従って、 管理組合の責任において行われる。管理会社は、管理組合のために行う業務に関して委託をうけているのであるから、 管理会社みずからの利益のために、その業務を行われるべきものではなく、実質的に管理組合のために行うものに過ぎない。

従って受任者たる管理会社は自らの利益のために代理行為をしてはならず(自己契約の禁止、民法108条)、 受任者以外の第三者のために代理行為を行うことも禁じられている(双方代理の禁止、同条)。

しかしながら、現在、大規模修繕をめぐって発生している多くの不正な取引は、 自己契約禁止違反、双方代理契約禁止違反という重大な要因をはらんでいる。

(8).欧米の管理業者規制法

管理業務の委託を請けている管理組合から管理会社が修繕工事を受注するという利益相反取引は、 信頼で成り立つ委任関係にある相手に経済的損失を与えるから、倫理的には許されない。

このような相手の信頼(Confidence)を裏切る行為を米国ではコンフィデンス ゲーム(Confidence game = 詐欺とペテン行為 = Scams and Swindles ) という。

米国の管理業法(Property Management Law-US)には、 管理業者(Property Managers)の職業上の責務(Professional Obligations)及び、 フィデューシャリーデューティ(Fiduciary Duty)の規定があります。

フィデューシャリーデューティとは、「受託者が高い倫理感で顧客の信頼に応える責任」という意味です。 日本でも最近、金融機関が顧客本位の姿勢を見せようとして、このカタカナ言葉をタイトルにつけた経営方針を相次いで発表しています。

米国法の中でフィデューシャリーデューティとは、「顧客から受託した業務に関して、 業者自身の利益をはかること(self-gain)、利益相反行為(conflicts of interest)、 顧客に損害を与える行為(detriment of the client)をしてはいけないこと」と具体的に規定されています。

欧米の管理業者規制法は「経済犯罪を防ぐための委任契約に伴う受託責任と利益相反回避措置を担保するしくみ」の法律体系になっています。

例えば、カナダ・オンタリオ州の管理業法(Condominium Management Service Act)の施行令(CMSA-O.Reg. 3/18)で、 業者が遵守すべき公正(Fairness)、正直(Honesty)、高潔・誠実(Integrity)を具体化した倫理規定(Ethics Code)と罰則があり、 次いで倫理規定違反業者への調査・訴追・裁定規定(Discipline:聴聞、証拠の開示、諮問委員会への訴追、裁定)があり、 裁定に不服の場合は、控訴委員会(Appeals Commities)への抗告訴訟規定がある。

Discipline(デサプリン)とは、権力による他律的な規律, 統制よりも自主的な訓練や鍛錬で得た本来、 自らが自覚して持つべき自制、抑制、克己(こっき)という意味が強く、 具体的にはそれらに違反した場合の懲罰手続き規定(聴聞、証拠の開示、諮問委員会への訴追)を指す。
   「カナダのコンド法令体系」 コンドミニアム管理業法
   実際に不誠実な管理業者にペナルティを科した判決 「判例6.不誠実な管理業者(2)」

一般的に欧米の近代行政におけるこれらの制度には、訴追機能と裁定機能を分離する「外的分離」と、 同一行政機関の中に調査・訴追担当部門と裁定部門の両方が存在すること自体は許しているが、 その代わり、審判官が調査・訴追担当部門の影響を受けずに中立性を確保するプロセスを明確化 することで審判官の独立性を保証するしくみの「内的分離」の二つの制度があるが、いずれの場合も、 行政権の第一次裁定に不服の場合は司法裁判所への抗告訴訟手続きが保証されている。

これらはわが国の独占禁止法審査制度にも共通していますが、一方、わが国のマンション管理適正 化法の行政処分では、上記のようなコンピテンシー基準(competency criteria)も、調査官・審査官 の規定もない。

「処分を受けた管理業者一覧」を見ても分かる通り、 日本の管理業者懲罰規定も実質は行政による裁量権の恣意的行使と懈怠による裁量行政で、 懲罰の実効性はない。
日本の管理業者は、国の威信を頼りとした護送船団行政のもとで安泰です。

更に、処分に不服の場合は、行政事件訴訟法30条(裁量処分の取消)で司法審査への道は残されています。 日本の管理業者規制法は管理業者の処分に関しては裁量権の逸脱、濫用の回避の観点から慎重な取扱いになっています。

区分所有法の見直しに向けた法制審議会では、 管理業者の不公正取引などの絶対的正義に違反する双方代理・利益相反の問題(善管注意義務、信義誠実)には踏み込まずに、 法で定めた運営処理基準に従っていれば法的に正義とみなす手続的正義に置き換える抜け道づくりへの、 再開発業者や管理業者に有利な方向に法制度の改正が進められています。

つまり、利益相反を禁止することを実体的(substantive)な正義とするのではなく、 それを合法とする手続き的正義(procedual due process)=デュープロセス(due process of law)に置き換えられるような法律を作ること。 それが審議会の狙いです。

欧米と日本のこの違いはどこからくるのでしょうか?

 (8-2) .欧米のコンピテンシー基準と日本の大部屋主義

 専門官が個室で執務する欧米のコンピテンシー基準(competency criteria)については、下記に詳しく解説しています。
 「カナダの登録条例との比較」 日本の行政がコンピテンシー基準を設けない理由

日本の中央省庁において個室を与えられているのは大臣からせいぜい審議官(局次長相当)どまりで、 実務の第一線をになう課長職以下の職務場所は大部屋です。 権限と責任は局長、課長という職位に与えられているのではなく、局、課という組織単位で「〜に関すること」と規定されています。 業務は官位ではなく、組織で行うものとされているのが日本の特徴です。しかも、その組織は業界対象集団と密接な関係をもっています。 日本の行政官は、何でもそつなくこなせるゼネラリストを目指して、2〜3年ごとに部署を移動し、官僚制のヒエラルキー(階層)の階段をのぼっていきます。 特定分野におけるスぺシャリスト(専門職)としてのキャリアは求められていない。他部署や業界対象集団との調整が主な仕事になる。

「管理職の任期は短ければ1年、長くとも2年程度で異動することが通例となっている。 中にはわずか2 ヶ月で異動となったものも存在する。」 「その業務過多は所属人員の数の問題ではなく、十分に業務を遂行できない職員が配置されて、一部の職員に業務が集中するという形で生じていた」
 「国交省・建設工事受注動態統計データ不正事件・検証委員会報告書」ー「第6章 本件各問題の原因論」ー
  「第3 事後対応問題の原因」 より

第4章 日本の管理業の収益構造   〜管理はボランティアではない〜

  経済誌 「週刊 東洋経済」 2020年3月14日号
〜管理はボランティアではない〜 管理業協会理事長



倫理コード(Code of Ethics)を遵守し、顧客利益の保護に最善の努力を払い、公正、正直、 誠実にサービスを提供する事業者なら絶対に言ってはいけない言葉で、これを見たときは衝撃でした。 業界のモラルもついにここまできたか!

管理会社の管理職が社内で部下に、「お前、何カネにならないことやってんだよ! 管理はボランティアじゃないよ、 もっと利益を出すことを考えろ」というのはわかる。だがそれを客の前でいっちゃあオシマイでしょ。 まして経済誌のインタビューで臆面もなく言うか? 管理業協会理事長は歴代、公益財団法人マンション管理センター役員(理事)を兼務している。
管理業協会も管理センターも管理適正化法によって作られた指定法人でどちらも専務理事は元国交省(旧建設省)。

カナダ・コンドミニアム管理業法施行規則第1部 [Code of Ethics] の第2条に次の規定がある。
「コンドミニアム管理者は、コンドミニアム管理事業者に雇用されていることをもって、コンドミニアム管理者が負う義務の不履行、 または本令に定める規定に違反するいかなる行為も行ってはならない。」 この意味わかりますか?

営利事業者の支配下にあることをもって誠実義務違反行為を正当化するなという意味です。違反には懲罰がある。
建前を取り繕ってきれい事の訓示で済ます日本と悪の原因を特定して具体的・実質的な防止策をとるカナダの違い
 「 コンドミニアム管理業法施行規則 (倫理コード、懲罰委員会 及び 控訴委員会)

勿論、ボランティアを持ち出した理由が、契約外の無理難題を押し付けてくるパワハラ組合の存在だというのは理解できるが、 もともと契約業務範囲を曖昧にしてきた業界の問題を顧客の質に責任転嫁して現実の問題が解決するか?
管理会社の詐欺横領事件が後を絶たないのに、管理業協会は顧客の質をいえる立場か?

先に紹介した管理業法施行規則の 第16条〜第17条 には 「コンドミニアム管理業者が合理的な知識、技能、判断力、適正な能力を有せず役務を提供できない場合」の対処法が規定されている。 参考になるよ。管理業協会理事長さん。

(1) 管理会社の定款規定事業内容

管理会社が自ら受託している管理組合から修繕工事を受注することは、利益相反行為であり、 不公正取引につながる危険性はらんでいます。 今、多くの管理会社の定款規定事業内容は次のようになっていて、 大規模修繕工事関連の「建物診断」「改修工事仕様書作成」 「施工会社選定」「施工監理」すべてが出来るような定款になっています。

管理会社の定款規定事業内容
 (1) マンション、ビル、寮、社宅等の管理運営
 (2) 大規模修繕工事の設計監理
 (3) 長期修繕計画立案・建物診断業務
 (4) 特殊建物、建設設備の調査・報告
 (5) マンションライフサービス
    (リフォーム、ハウスクリーニング等)
 (6) 不動産の売買・賃貸の仲介
 (7) その他、上記に附帯する一切の業務
許認可等
  マンション管理業  国土交通大臣(x)第xxxxxx号
  一級建築士事務所 東京都知事第xxxxx号
  警備業認定 xxxxxxxx
主要資格
  管理業務主任者(x名)、区分所有管理士(x名)、マンション管理士(x名)、 宅地建物取引主任者(x名)、一級建築士(x名)、一級建築施工管理技士(x名)、 マンション維持修繕技術者(x名)、建築設備検査資格者(x名)、特殊建築物調査資格者(x名)、 電気工事士(x名)、インテリアコーディネーター(x名)

(2) 管理会社の売上高構成例


(1)財閥系大手




管理委託費(100戸/棟)
   750万円の内訳(年間)
事務管理業務  240万円
管理員業務    290万円
建物・設備管理 210万円
植栽管理      10万円


(2)中堅デベロッパー系

管理実績
全社合計369件(17,013戸)
 首都圏 230件(9,774戸)
 関西圏 139件(7,239戸)

管理委託費(年間)
(100戸/棟)換算 390万円


 〜 上記は静的な構造分析ですが、同一データでの動的分析を下記に示します。 〜

(3) 受託戸数を競う時代の終焉

             管理はボランティアではない   (一社)マンション管理業協会・理事長
〜受託管理組合の選別と集約寡占化で収益確保の時代へ〜

(1)財閥系大手

従来からの顧客をそのまま継続しつつ、親会社がその年に販売した全戸数を引き受けると青のグラフになりますが、 実際の受託戸数はオレンジのグラフになっています。

黒のグラフは、採算が合わずに、その年に打ち切った受託管理組合の戸数で、年々増えています。 浮利を追わず・・・限られた人的資源を生かし、収益を確保する方向へ転換です。


財閥系管理会社は今まで親会社が販売したマンションの管理を引き受けてきましたが、
増え続けるバックヤードに社員の確保も困難になってきたため、収益重視に切り替え、
(1) 管理費の値上げに応じない管理組合、管理費の切下げを要求してくる管理組合 
(2) 高年数で滞納や賃貸が増加し、財務状態も悪く、修繕工事受注も見込めない管理組合
(3) 本来の契約業務以外の住民間のトラブルやクレーム対応、カスタマハラスメントの問題管理組合
  などは、契約打ち切りを通告します。

管理会社が受託戸数を競う時代は終わり、収益重視で優良顧客を選別する時代になってきました。
国交省も、管理業界が管理組合を点数化して選別することを支援する政策を打ち出しました。 
 「マンション管理は新時代へ」

集約寡占の波に呑み込まれる中小管理会社
(2)中堅デベロッパー系


上の(A)ー(2)中堅デベロッパー系で示したA社は、B社に吸収合併され、消滅しました。
平成30年(2018年)4月1日合併 :(下記はすべて平成29年(2017年)3月期におけるデータです。 )


存続会社(B社) 消滅会社(A社)
資本金 2億8,567万5000円 7,000万円
売上高 23,894百万円 1,346百万円
従業員 3,728名 191名
総合管理棟数 3,284棟 154棟(部分管理を含めて369棟)
総合管理戸数 153,114戸 8,932戸(部分管理を含めて17,013戸)
拠点数 25拠点 2拠点

(4) 管理組合の契約責任

上記の事業内容の中で、管理に関しては委託契約ですが、 修繕工事はすべて請負契約であり、その契約の性質(義務と責任)は異なります。 管理組合がしっかりしないと、管理会社の餌食にされてしまうだけです。

「4.独禁法と公取委」で示したように、 管理会社が行う不正取引は公取委に訴えることが出来ますが、 管理会社は「契約は管理組合の総会で区分所有者の同意が得られたものであって、 管理会社の工事受注契約には何ら違法性はない」と主張しますから、 「よほどの悪質取引の確証でも取れない限り」、 独禁法違反として検挙することは非常に困難です。

管理会社が大規模修繕工事を受注することは、マンション管理適正化法では違法ではなく、 マンション管理適正化法には犯罪抑止力はありません。

管理組合はそのような業界構造を知った上で、 悪徳業者の餌食にならぬよう、自分達で自衛しなければならないのです。


第5章 管理会社の適正化法違反は国交省地方整備局に申告しよう!

地方整備局のマンション管理業に関する窓口は、こちら です。

(お断り)

1.地方整備局等の所掌は、管理業者の登録及び監督などに限られているため、
  直接マンショントラブルの相談に関与することはありません。

2.マンション管理適正化法で規制している内容はとても限定的です。
  この頁では、何が規制されていて、何が規制されていないのかを解説しています。

  マンション管理適正化法で違反とされている内容をご理解の上、正しく申告されますようお願い致します。
  下記に今までの地方整備局による処分事例が掲載されています。参考にしてください。
      「8.1.5 処分を受けた業者一覧 」

3.明らかに管理会社の適正化法違反と思われる事案を地方整備局に申告したのに、
  6ケ月以上何も報告がなかったら、総務省行政評価局に相談して見ましょう。

  そのために、地方整備局に申告するときは、申告した内容と提出日付、
  提出した地方整備局担当課を記録しておきましょう。

(2) 整備局への相談事例

(お断り)
下記は 区分所有者からの相談にあたっている国交省の地方整備局職員の報告書の内容を元にしたものです。
優れて評価に値する誠実な内容になっていて、本当はそのままご紹介したいのですが、 種々の配慮から、あえて、所属とお名前は伏せてご紹介させていただきますこと、お許しください。


【相談内容の概略】

事の発端は、一区分所有者の部屋から水漏れが発生したことから始まります。
管理業者は、相談者が水漏れの調査を依頼しても何もしない様子だったので、 相談者の管理業者に対する不信感は徐々につのり、相談者はマンション管理に関する調査を実施しました。

調査の結果、重要事項の説明会を実施しなかったことや、管理組合の会計収支が合わないことなど疑義が判明し、 さらに相談者が、管理組合の総会でこの件を発言すると管理業者から発言への妨害を受けたと、整備局に相談がありました。

相談者は、整備局に次のような4項目について要望しています。
・管理業者に対し、重要事項の説明会を実施するよう指導してほしい。
・管理業者に対し、水漏れについて、責任をとるよう指導してほしい。
・管理業者に対し、会計の収支について、区分所有者に報告するよう指導してほしい。
・管理業者に対し、総会において当方の発言を妨害しないよう指導してほしい。

【整備局の処置】

この事例について、マンション管理適正化法のポイントを整理すると、
● 「重要事項の説明等」は、法令に基づき適切に処理されているか?
● 「会計の収入及び支出の状況に関する書面」を毎月作成し、管理者等に交付しているか?
の2点でした。

整備局で調査できることは、「重要事項の説明等」と「会計の収入及び支出の状況に関する書面」に限られています。 相談者の最大の関心事である「水漏れ」は、マンション管理適正化法の適用外となります。

「水漏れ」の問題については、区分所有者と管理組合で話し合って解決することになります。 区分所有者から管理組合に「水漏れ」の内容を伝え、管理組合から管理業者に、「水漏れ」の相談をすることが最良と思います。

ただ、この事例のような場合、管理業者から管理組合に対し、何らかの情報提供があっても良いと思われますが、 それは管理業者の資質の問題であり、情報提供をしなかったとしてもマンション管理適正化法に違反するわけではありません。

整備局では、「重要事項の説明等」と「会計の収入及び支出の状況に関する書面」の2点について事実を確認するため、 管理業者に対しマンション管理適正化法第86条に基づく立入検査を実施しました。

このような相談については、決して一人で行うことなく、不動産業ラインで、 問題点をあらゆる角度から考察することが必要だと思います。

法令による厳密な解釈が必要とされているので、一人で結論を出さないように注意をしています。

(2) 重要事項の説明等及び契約書に関する検査

「重要事項の説明等」は、契約を締結する前にマンション管理適正化法によって定められた項目を、 契約の相手方に説明すること及びその関係書類を交付することです。

「重要事項の説明等」と「契約の成立時の書面の交付(以下「契約書」という.)」は、 一対なので重要事項の説明等に不備があれば、契約書にも不備がある可能性があります。

重要な項目が記載されているので相談内容にかかわらず、必ず両方を確認するようにしています。

重要事項の説明等の検査を行ったところ、次のような点が判明しました。

@重要事項の説明会未開催
マンション管理適正化法では、管理業者は、従前の契約と同一内容でない場合、 全ての区分所有者に対して説明会を開催して、資格を有する管理業務主任者が重要事項について説明しなければならないと定められていますが、 説明されていないことが判明しました。

次に契約書の検査を行ったところ、次のような点が判明しました。

A「管理事務に要する費用」すなわち委託料の未記載
マンション管理適正化法では、委託費用について記載されていなければならないと定められていますが、 委託費用が記載されていないことが判明しました。

(3) 「会計の収支及び支出の状況に関する書面」の検査

マンション管理適正化法では、管理業者は、その管理組合に関する「会計の収入及び支出の状況に関する書面」を毎月作成し、 管理組合に交付しなければならないと定められており、管理業者は、そのとおり毎月書面を作成し交付していました。 ただし、書面を見ると会計収支を確認することはできるものの、会計上の不正を掴むことは難しいと考えられます。

その理由は、マンション管理適正化法では捜査権が与えられていないので、帳簿に計上されている各項目の収支についての妥当性は、 当事者でない限りわからないからです。

今回、管理業者に対し、ヒアリングや書面検査を実施したところ、書類については整備されており、 不正行為は確認できませんでした。

管理業者に対して、前述した(2)の@、Aについて、マンション管理適正化法72条違反及び73条違反があったことを指摘して、 指導を行いました。

(4) マンション管理適正化法における信義誠実の原則

マンション管理適正化法では、管理業者は、誠実にその業務を行わなければならないと定められています。 相談者から、「管理業者に対して、総会において、当方の発言を妨害しないよう指導してほしい。」と相談があったことについて、考察します。

マンション管理適正化法(業務処理の原則)
第七十条 マンション管理業者は、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならない。

実際、マンション管理の相談で、この条文に関する相談は多くあります。例えば管理組合の理事に対し、 管理業者が暴力的な言動を行った事例、「管理業者が管理組合を乗っ取るつもりだ。」と発言した事例、 管理業者が何もしない事例相談など、管理業者の資質を問う相談が多く寄せられています。 しかしながら、このような相談は、整備局が管理業者に指導できない内容です。 なぜならばマンション管理適正化法にある「信義誠実」の定義が不明確であり、管理業者の資質を問うような問題には、 確証(証拠)がないことが多いためです。またマンション管理適正化法第70条は、訓示的な規定であると解釈されています。

これらの問題は管理業者だけでなく、管理組合にも問題があることが多いと思われます。 なぜならば管理の主役は管理組合であって、管理業者はサポート的な立場にあるからです。

つまり管理組合がしっかり機能しなければ、管理業者は適切なサポートをすることができません。 またサービス精神が強い管理業者は、機能していない管理組合に代わり、広い範囲で活動することもあります。

このようなことが一部の区分所有者には、管理業者がマンションを支配しているように感じられる要因となっています。 それでは管理組合が機能するためにはどうしたらよいのでしょうか?

答えは、マンションに住む区分所有者一人一人が自らのマンションに対して強く関心を持ち、積極的に管理組合に参加することです。 しかし、相談内容の対応結果について、相談者に伝えることだけでは、マンション管理適正化法の制定された行政目的を考えても不十分であり、 整備局では管理業者に対し必要な助言や指導を行うようにしています。

「信義誠実」に関することを管理業者に話す場合、法的根拠が曖昧で、越権行為と捉えられる場合もあるので、 相談者からの相談内容について、単に伝えるだけにしています。

本件事例では、相談者は「管理業者に対し、当方の発言について、妨害しないでほしい」と相談がありました。 この内容を管理業者に伝えたところ、「当社は、助言するだけで、発言を妨害をするようなことはしていない。」と回答がありました。 これ以上法的に踏み込むことはできませんが、相談者からの相談内容を管理業者に伝えたことにより、 管理業者のマンション管理に対する意識が変わっていくことを期待したいと思います。

− 報告書 完 −


(マンションNPO解説)
   信義誠実に関して、区分所有者の権利が守られている外国の例をご紹介しておきます。
    コンドミニアム裁判所 判決 「判例6. 不誠実な管理業者にペナルティ(第2部)」

(3) 整備局相談窓口

地方整備局(東北・関東・北陸・中部・近畿・中国・四国・九州の各地方整備局、及び、北海道開発局・沖縄総合事務局 ) のマンション管理業に関する窓口の所在地は、下記をクリックしてください。
  http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bf_000018.html


 利益相反回避措置の詳しい説明は 「何故、第三者機関が必要か?」 を参照

 法律名にカタカナ用語が使われた日  (「共同住宅」を何故「マンション」に?) 
      「嘘と誇大広告」 を参照

 本法律は令和2年(2020年)6月24日に改正(??)されました。
      「老朽化対策と法改正  〜令和2年改正の概要〜」 を参照

 令和5年(2023年)6月8日発表の「区分所有法制の改正に関する中間試案(案)」についての解説
      「コンドミニアム裁判所 判例 [非公開機密保持命令] 〜 「解説・リベラリズムとパターナリズム」 を参照

第6章 住宅政策とEBPM(エビデンスに基づく政策立案)

(1). 住宅政策とEBPM
   EBPMとは、Evidence-Based policy Making の略で、「エビデンスに基づく政策立案」のことです。
   EBPM推進活動は、総務省行政評価局の政策評価ポータルサイトで公開されています。

  平成30年(2018年)度内閣府本府EBPM取組方針(平成30年4月発行)〜まえがき冒頭部分より〜
  「政策の企画立案をその場限りのエピソードに頼るのではなく、政策目的を明確化したうえで、 
  政策効果の測定に重要な関連を持つ情報やデータ(エビデンス)に基づくものとすること(EBPM)
  が求められている。(以下略)」 

令和4年(2022年)1月14日公表の 国交省・統計データ不正事件・検証委員会・報告書 によって明らかにされたのは、何度も見直しの機会がありながら、不正と腐敗と隠蔽を繰り返した、国交省官僚機構の根深い問題でした。

住宅政策の企画立案においても産官双方に有利なエピソード ”現在、マンションは居住者老齢化や賃貸化が進み、自律的な運営が難しい状況にある。”を作り上げ、 それを根拠に政策を形成していくやり方が国交省の住政策の伝統でした。

この手法は霞が関全体の伝統でもあったわけですが、 公共政策の企画立案の根拠を、行政と利益集団に都合良く作り上げたエピソードに頼るのではなく、 政策目的を明確化した上で、合理的根拠(エビデンス)に基づくものとするEBPM推進活動を平成30年(2018年)頃から総務省行政評価局が始めました。

しかし、その後の令和4年(2022年)9月12日から始まった区分所有法の見直しでも、 官僚と業界双方に都合の良いエピソードを作り上げ、それをもとに法務省を巻き込んで改正案つくりが進められました。
  区分所有法改正・法制審議会へ諮問
住宅政策が、官僚と利益集団の癒着で作られた作為的な根拠に基づいて、不正と腐敗と隠蔽の組織によって作り上げられる未来に希望はありません。


(2018年1月25日初版掲載 随時更新)