2.談合と管理会社主導の悪質事例
〜今、マンション改修業界で何が起きているのか〜
マンションNPOの技術者報告事例から 2017年9月10日
マンションNPOセミナー
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(1)談合を排除した事例 マンションNPO建築士の証言1
あるマンションの大規模改修のコンサルティングをしていた際の施工会社の競争見積(8社)で 起こった不可解な状況をお話します。
まずは見積金額です。私たちコンサルタントは工事で使う材料の種類や数量を細かく指定して、 施工会社に見積を依頼します。ですから、見積金額の平均値はほぼ想定できます。通常、 この想定が大きく外れることはなく、実際は競争によってこの想定値より安い金額に落ち着きます。
ところが、平均値が想定より2割も高かったのです。長いコンサル経験の中で初めてのことでした。 さらに、各社の合計金額がきれいに2%ずつ違っていたり、6社には同じ項目での同じ間違いがありました。
私は、このまま進めるわけにはいかないと思いました。 修繕委員会に「工期を半年延期して、今回参加していない施工会社から見積の取り直しをしたい」と伝えました。
競争見積をやり直してみると、ほぼ想定どおりの平均金額となり、結果、 管理組合は約2,500万円安く発注することができました。これは、工事費の1割以上の金額でした。
工期を延期してまでのやり直しは、通常なら却下でしょう。 が、なんとか了解を得られたのは、新築時の2年点検で不具合を見つけ販売会社と交渉し、 修繕をさせた経緯があり、強い信頼関係があったからです。
情報が漏れないように極力配慮し予防策をとっていますが、施工会社間に談合があったことは間違いないと考えます。 どこから漏れたのか・‥。非常に難しく悩ましい問題だと思いました。
談合防止のために行っていること 談合は秘密裡に行われるから、捜査権のある公正取引委員会でもなければ証拠はつかめない。 マンションNPOがコンサルティングをする場合、現場説明は見積参加会社ごとに個別に行いますが、 参加会社同士が顔を合わさないように日時を会社別に指定して対応します。また、 現場来訪時は会社名は告げずに、コンサルタントが発行した「現地調査立入り許可証」(入場者氏名は記載されているが、 所属会社名は記載していない)を見せて入場すること、 作業服・ヘルメット・名札などで会社名が入ったものは身につけないこと、 管理人には名刺を渡さないこと、 会社名が判る商用車での乗り入れは禁止するなどの注意を予め徹底しています。 更に、管理会社・管理人には参加会社名は教えず、 業者選定中の理事会議事録等では参加会社名や参加数などは絶対に伏せて、記載内容も最小限に押さえます。 しかし、幾ら談合防止の手を打っても、結果として談合を疑う事態になったときには、やり直しをする覚悟も必要です。 コンサルタントと管理組合との間に信頼関係がなければそれも難しいですが。 |
(2)管理会社主導の悪質事例1 マンションNPO建築士の証言2
不適正な工事仕様、不透明な競争見積、高額なコンサル費用
一昨年のことです。
管理会社が主導し「建物診断」「仕様書作成」「施工会社選定」まで進んでいたマンションから相談を受けました。
管理会社の「予定より工事を1年早めること」「各戸約20万円の一時金の徴収」という提案や、 「不透明な競争見積の方法」にどうしても納得がいかないというのです。
通常、私どもは、途中から関わることはしませんが、このマンションには2年点検で不具合調査を依頼された経緯がありましたので、 例外的にセカンドオピニオン的な立場で関わることになりました。
調べてみると一部にタイルの浮きがひどい箇所はありましたが、 ネットをかけて安全を確保すれば、緊急性はないと判断し、伝えたところ、 管理組合は工事を1年延ばし、それによって一時金徴収を不要にすることができました。
さらに、管理会社からの高額なコンサル費用を精査して削減し、仕様書を細かく見直して、 防水などの各工事の保証期間をマンションNPOのものと同レベルに延長しました。
一度決まったことを覆すのですから、管理組合の皆さんも大変でした。 住民が二分するような深刻な状況にも陥りました。ある方がおっしゃいました。 「いつのまにか、管理会社とではなく、住民同士が敵対してしまっていた」と。
その後、透明性を確保した中で「業者選定」のやり直しも実施できました。 かなりの軌道修正はできたと思います。 が、管理組合は「管理会社が工事監理をする」ことは変えることができませんでした。 それを決めた前理事会への配慮からです。
このように、建物診断を管理会社に依頼して一旦準備がスタートすると、その後の変更は大変困難です。 建物診断の段階でよく検討していただきたいと思います。
管理会社のいいなりに物事を進めると、住民間に深刻な対立を生むことがあります。 管理会社が主導して工事を進めている管理組合では、管理会社に依存している理事会と、 管理会社の不透明な利益誘導に疑問や反感を持つ住民との対立が生じることがあります。 管理会社に依存する理事会は、総会での決定手続きを経たという統治の正当性を主張します。
管理会社は反対派を孤立させ、分断する動きをしますから、管理組合内部では対立が深刻になってきます。 こういった事態を避けるためには、管理会社に依存しない自立した修繕委員会を立ち上げ、 修繕委員会の活動を通じて、管理組合が主体的にコンサルタント選びから始めることをお勧めします。 「人間社会の基礎にある倫理や道徳のあり方には2種類ある。 お互いに対等な立場で正直につきあいましょうという「市場の倫理」と、 全体の規律に従いましょう、伝統を守りましょうという「統治の倫理」のふたつである。 これらを場に応じて適切な方を適用していくのが最も賢明な方法であって、 これを混同・混用すると恐るべき弊害をひきおこす。」 ジェイン・ジェイコブズ(Jane Jacobs)1992年「市場の倫理・統治の倫理」 |
(3)管理会社主導の悪質事例2 マンションNPO建築士の証言3
管理会社がコンサルタント、入札談合、施工会社として受注
築40年 50戸のマンションの事例です。
大規模改修の時期になったということで管理会社がコンサルタントとして「建物診断、仕様書作成」を行いました。
通常であれば、引き続きコンサルとして「施工会社選定業務」「工事監理」へと進むところなのですが、 この管理会社は、施工会社として競争見積にも参加すると言い出し、 自社を加えた4社で競争見積を行ったというのです。 そして、その中の最安値(後に1割以上高値と判明)で落札しました。
当初はコンサルを装い、自分が紹介した会社による競争見積で価格を吊り上げ、いつの間にか施工会社となる。 開いた口がふさがらないとはこのことです。
おかしいと思った元理事長(前回の改修でマンションNPOをコンサルタントとして起用した際の理事長) が異議を唱えたことがきっかけで、マンションNPOが関わることになりました。
その後、工事内容・見積金額のチェックをして、約400万円(工事費の1割程度)のコストの削減ができました。
管理会社主導で進める大規模修改修には注意が必要です。管理組合にとっては、手間いらずかもしれません。 しかし、この場合のようにコストダウンと施工監理での施工品質確保は、期待できないことが多々あると思います。
(4)管理会社主導の悪質事例3 マンションNPO建築士の証言4
管理会社が建物診断、その後コンサルタントを紹介して不透明な業者選定へ
このマンションも管理会社が関わった事例です。 建物診断を管理会社が実施後、管理組合は、管理会社が紹介した3社のコンサルから見積をとり、 最も価格が安くプレゼン内容のよかったA社をコンサルタントとして選びました。
ところが、施工会社選定に入ると、コンサルタントに対して、様々な不信感が出てきたそうです。 「施工会社選定の公募がA社のHPだけで行われたこと」 「前回(12年前)の改修で見積に参加した会社が1社も手を上げていないこと」 「工事範囲があまり変わらないのに工事価格が前回の約2倍近くになっていたこと」などでした。
意を決した修繕委員会は、このA会社との解約にこぎつけ、 私がコンサルとして建物劣化診断から再スタートすることになりました。
改めて新聞公募から1次・2次・3次選定による施工会社選定を行ったところ、 約3,000万円のコストダウンが出来ました。
このケースも管理会社主導型の一例かもしれません(管理会社が建物診断→その後コンサルを紹介)。
(3)と(4)の事例に共通することは前回の改修は、 私がコンサルを担当して今回は別のコンサル( (3)は管理会社)が進めており、 工事価格が15%〜20% コストアップしていたことです。
さらに、コンサルタントと施工会社の間に利害関係があるとすれば、 厳正に施工監理ができるかどうかは大いに疑問です。 やり直しに踏み切った管理組合の決断は大きな成果をもたらすと思います。
【次頁】 3.マンション管理適正化法の限界