設備改修セミナー事例報告
マンションNPOは、2016年3月13日(日) 東京都中野区産業振興センター 3階大会議室にて
「マンション設備の改修」をテーマに3つの管理組合の体験談を聞くセミナーを開催しました。
3名の講師は、笑いあり、ため息ありの本音トークを展開。
経緯だけでなく、苦い思いも語ってくださいました。
築年数や戸数、取り組んだ工事の内容には違いがありますが、
やるべき目標を定めて向かっていく様には共通点がありました。
※ この頁は「マンションNPO通信」72号(2016/5/15発行)記事からの転載です。
「マンションNPO通信」では組合名と役員の方々の氏名を実名で掲載していますが、
Webでは仮称で掲載しています。
(経済産業省「既存住宅における高性能建材導入促進事業」助成金を申請)
A管理組合(仮称)
1993年竣工(築23年)160戸 RC造 5.6階建て 7棟 理事10名(輪番制1年交替)
管理会社に委託
(マンションの特徴)
緑が多く、利便施設も多い郊外の環境を気に入っている住民が多い。
毎月の理事会の検討内容を「広報紙」でお知らせしている。
(修繕積立金と工事費用)
築3年目にu単価30円だった修繕積立金の大幅値上げを実施(現在110円〜173円/u)。
そのためサッシ交換(約1億6千万円)を行う資金力があった。
申請が通りサッシ交換に対して約3,350万円の助成金を受け、実質負担は約1億3千万円弱。
(今回の工事)
近い将来、マンションを外断熱化する方針(サッシ、屋上と1階の床下、外壁)。
それにより生活の質が格段に向上し、建物が長持ちし、修繕周期を伸ばし、
光熱費(エネルギー使用量)を削減できる。今回のサッシ交換はその一貫。
助成金が出るうちにと、実施に踏み切った。
(コンサルティング担当・羽鳥 修 一級建築士)
●元理事長さんのお話から
サッシの交換は少し早いのですが、今後補助金が出るとは限らず、
ガラスだけ交換しても、20年後位にはそのガラスも含めてサッシを交換する必要が生じます。
そこで思い切ってサッシ交換を実施しようと思いました。
昨年2月に補助金の情報をマンションNPOからいただき、直ちに羽鳥建築士と打合せを行い、
4日後に理事会に説明。実施の方向で合意を得ました。
住民へのお知らせ配布(計5回)、説明会、臨時総会と進み、10月には着工しました。
補助金申請事業は、一般的にスケジュールが厳しいので、
早めに準備をしておくとよいと思います。工事終了後は評判も良く、ほっとしています。
A 専有部分も含む給・排水管の取り替え
B管理組合(仮称)
1983年竣工(築33年) 23戸、RC造 4階建 理事3名(輪番制 5年交替)
管理会社に委託
(マンションの特徴)
23戸でこじんまりしている。半分は賃貸。初めから住んでいる世帯は4戸のみ。
中古で購入した方は、大がかりな室内リフォームを実施していたが、
専有部分の給・排水管はそのままになっているケースが多かった。
(修繕積立金と工事費用)
2期目の理事長が修繕積立金をu単価300円に値上げをした。
そのおかげで資金面の心配がない。専有部分も含めた給排水管の改修費用は約3300万円。
借入金なしで実施。
(今回の工事)
ここ数年、漏水事故が多発、室内の給水管改修が急務となっていた。
排水管も一緒に取替えようと、検討を開始。工事終了までは、2年半かかった。
着工前の先行調査で、図面と違う箇所が見つかり、急遽施工方法の変更と臨時総会が必要に。
室内工事での現状復旧等への合意形成などで難しい局面もあったが、無事工事。
その後、漏水事故は起きていない。
(コンサルティング担当・馬渕 孝夫 一級管施工管理技士)
●元理事さんのお話から
今回の工事は外壁改修とはまったく違うものでした。
室内の配管を取り替えるということは、床や壁、場合によっては天井を開口し、
それを復旧しなければならないということだったからです。
工事に協力をしてもらうため、現状復旧まで組合費用でみようと考え、
そのための予算も取りました。
しかし、中古で購入した世帯のリフォームが、あれほど大がかりだとは思いませんでした。
せっかくこだわってリフォームしたのだから、いじりたくないというお宅もあれば、
本当に同じように戻してくれるのかと心配するお宅があったりして、
理事が伺って説明したり説得したりということも。
前もって、リフォームの詳しい状況をリサーチして、対策を練るべきだったというのが反省です。
また、「室内をリフォームする場合には、給・排水管も交換して下さい」と伝えておく必要が
あったと思います。
B 電気設備改修まで行った大改修
C管理組合(仮称)
1969年竣工(築47年) 51戸 SRC造 10階建
理事3名 自主管理(昨年から会計のみを管理会社に委託)
(マンションの特徴)
3つの駅から近く交通の便が非常によい。当初から自主管理。 築32年目で、初めて大規模修繕を実施。竣工図もなく、資金は1,000万円しかなかったが、 各戸100万円の一時金と借入金でなんとか工事終了。その後は着実な運営を行う。
(修繕積立金と工事費用)
32年間、u単価99円だったが、その後長期修繕計画により5年ごとに50円ずつの値上げを実施、
現在249円(u単価)。
2013年秋の築44年時に1億1500万円をかけて電気設備も含めた広範囲な改修工事を実施。
(今回の工事)
基本の内外壁、防水、鉄部等の改修の他に、電気幹線設備、共用電灯設備、インターネット設備、
各戸アルミサッシと玄関扉交換、自動火災警報設備の更新など、広範囲な改修を実施。
各戸は4〜5回の在宅に協力。各自が自由にひいていたインターネットケーブルの整理では、
期限をきって既存のケーブルを撤去するなど強力なリーダーシップを発揮。
(コンサルティング担当・高橋 行信 一級建築士)
●理事長さんのお話から
1回目の大規模修繕の時に理事長になり、それから12年間、
2名の理事とともに同じメンバーでずっとやってきました。
理事会は公募制なのですが、誰もやってはくれません。
それなら、理事会に任せてくださいという姿勢で臨んできました。
自主管理なので、夜間に何かあれば理事が動かなければなりません。
給水や排水ポンプの不具合、特に自動火災報知器の誤作動が多くて悩まされました。
今回の改修で誤作動がなくなったのは本当にうれしいです。
会計は外部に委託しましたし、これなら、他の方にも理事をお願いできるかと思います。
築32年の大規模修繕の時から担当していただいている高橋建築士は
「築40年以上になると、予想が立たない難しさがあるのですが、前回も関わっているので、
的確な仕様書作成(設計)につながりました」と。
信頼できる専門家に出会えて本当によかったと思っています。
難しい工事をやりきれたのはなぜ?
ご紹介した3つの管理組合が、大変な工事をやり遂げられた、その要因は何だったのでしょうか。
●合意を導いた「コミュニケーション力と強い意志」
A管理組合の理事長さんは、総会で決める時には、9割の賛成を目指しているとはっきりおっしゃいました。
9割もですか?と伺うと「マンションのために考えて計画したことだから、提案はみんなのためになるはず。
丁寧に説明すればほとんどの人がわかってくれます。
もし、2割以上反対の人がいるなら、再検討したほうがいいと思っています」と。
実際に、9割の賛成を得られそうにないと取り下げた提案もあるそうです。
B管理組合の理事さんにとって今回難しかったのは、
初めから住んでいる方々と中古で購入した方々とのマンションに対する考え方の違いでした。
ほとんどの方と顔見知りだった理事さんの存在が新旧の方々をつないだようです。
両方の意見をよく聞いた上で、客観的な見解を述べて、なんとかまとめていった様子がうかがえました。
自主管理であるC管理組合の理事長さんは、
工事に関するすべての文書は施工業者ではなく理事会名で出し、
工事中のクレームも理事会が受けて対応したとのこと。
もし、反対するのであれば、その理由をはっきり述べた意見しか受け付けないという断固とした姿勢を貫いています。
その責任の背負い方は見事というほかありません。
●お金の準備〜早めの積立金の値上げ
A管理組合とB管理組合のマンションは、早期に修繕積立金を値上げしています。そのため、資金力がありました。 サッシ交換も専有部分の配管工事も、多額の費用がかかります。 お金がなければ、住民の協力を得るのは難しいはずです。早めの資金の準備は最重要課題です。
とはいえ、どんなに遅くても道はあると思わせてくれたのが、C管理組合のマンションです。 築32年まで一度も大規模修繕をせず(その結果、外壁タイル落下という非常事態に陥っています)、 積立金もないという状態から、なんとかお金を工面して大規模修繕を実施、その12年後である今回の工事では、 電気設備やサッシ、玄関扉交換まで実施しています。まさに、起死回生です。 ただし、そこには理事会のやり遂げようという強い意志と専門家のバックアップがありました。