7. NPO概論
はじめに
私たちの社会は、高度に発達した行政セクターと企業セクターによって支えられています。
行政はすべての人に公平かつ均等にサービスを提供し、すべての人に公正な負担を課す原則のもとに運営されます。
このことが行政への期待であり、同時に限界でもあります。消費者個別のニーズに応えるのが企業セクターですが、利益が出なければ企業活動は出来ません。
行政部門、企業部門の機能的限界が明らかになるにつれ、民間非営利活動は、こうした構造的に欠けている領域の社会的なニーズにこたえるために必要とされているものです。
今日、私たちが、現実の問題に直面し、解決に取り組もうとしたとき、今日の生活世界が 「 既成の道筋以外は厚い壁にさえぎられる 」 閉塞的な状況であることに気付かされます。
現実の問題の根底には、少子・高齢社会の進行、停滞する経済状況を背景に産業構造の転換による所得格差や失業率の増大、地方都市経済の衰退、空洞化、治安の悪化や社会不安、深刻化する地球環境や資源問題など、現在の日本にとって大きな問題が横たわっています。
この事を歴史的に少し見てみますと、第二次世界大戦以後、先進諸国はいずれも政府主導の公共投資によって復興を進め、1960年代以降は福祉国家をめざして国民のニーズに応えようとしてきましたが、結果として、大きな政府による財政負担に耐え切れなくなり、 1980年代には、民間活力に期待し、規制緩和と小さな政府を掲げるレーガン、サッチャーなどの新保守主義政権が登場し、市場主義・規制緩和政策が強力に展開されてきました。
しかし高齢社会、都市のスラム化、地方の衰退、地球環境・資源問題、そして貧富の格差拡大などへの対応は、いずれも市場主義のみでは解決不能なことが明らかになり、政府の力でもなく、企業の力でもない第三の力への社会的必要性が認識されるようになってきたのです。
とりわけ、市場主義の結果としての貧富の格差拡大などの矛盾に対し、「市民の視点からの公正な社会」をいかに実現し得るかが問われる事になっていきます。
欧米各国においては民間非営利セクターが担う社会的な役割は医療、教育、福祉、都市開発、環境などの広範囲に及び、その活動を支援する社会的仕組みも歴史的に成熟していきました。
アメリカでは1980年代頃からCDC(Community based Development コミュニティ開発法人)と呼ばれる地域ベースのNPOが、大都市の衰退地域や農村部の貧困コミュニティで、アフォーダブル(低所得層でも取得可能)な住宅供給や社会サービスの提供、地域の小ビジネスなどの活性化などを行い、地域の再生に重要な役割を担うようになっていきます。
スウェーデンのHSB(住宅共同組合)は、1920年代から、勤労者階級のための住宅供給を行う組織として発足し、保育所や高齢者住宅、コミュニティ活動支援や居住者参加など、総合的な居住者環境整備を行ってきた歴史があります。
デンマークのHA(ハウジング・アソシエーション)は、社会住宅供給の役割を担い、居住者が住宅の運営に参加するテナント・デモクラシーの仕組みによる住宅組合や自主管理協会などがあります。
イギリスの住宅政策は自治体が所有管理する公共住宅が中心とされてきましたが、近年HA(住宅協会)と呼ばれる民間のボランタリーな非営利組織が社会住宅の供給を行ってきています。
このように欧米では都市スラム再生の歴史の中で、行政主導の施策の失敗、市場主義の失敗などの積み重ねの結果、
@ あくまでもコミュニティ自身が主体的に取り組むこと
A これを支援する行政施策と社会システムの構築が必要であること
の認識のもとに、NPOに対する社会政策が構築されてきました。
共同住宅法制改革の公共政策 「住宅法制改革第U期報告書」
〜 市民が結集して共同住宅法の見直しと改正を行ったカナダの実例報告 〜
2013年9月、カナダ・オンタリオ州政府・消費者省からの委嘱を受けて共同住宅法制改革プロジェクトを組織した非営利法人「公共政策フォーラム(Public Polisy Forum)」の活動報告です。
日本では1995年1月の阪神・淡路大震災でめざましい活躍を見せたボランティア活動を契機としてボランティアを支援する法制度として、1998年(平成10年)3月19日にNPO法(特定非営利活動促進法)が成立し、12月1日から施行されたものです。
日本の事情は、コミュニティからの出発ではなく、ボランティア組織化の支援策として非営利公益に限定した組織を行政が認可・監督・指導することに力点が置かれたことが欧米と異なり、法律制定時は、日本のNPO法は「行政が行う公益事業を安上がりに肩代わりするもの=行政の安上がりな下請でしかない」という批判もありました。
実際には主務官庁により設立された公益法人が経済的・組織的に強大な力を持ち、NPOはいまだ下請にすらなり得ず、NPOを支援する行政施策と社会システムの面では、欧米各国に比べ後れていますが、市民自身が主体的に取り組むことで、少しずつですが、今日の閉塞的状況は改善されつつあります。
日本のNPOは 「 行政が監督し、消費者がその利益を受ける 」 NPO認可制度のもとで、活動領域を制限され、監督されます。
非営利の公益を目指した活動ではあっても、民間の営利企業が行う事業と同じく対価を得て有償の事業活動を行う、いわゆる自立型・事業型のNPO活動に対しては、非営利・公益性の点から厳しく行政のチェックを受けることになります。
NPOの認可を受けていない任意団体がみずから「非営利の第三者機関」と称して実体が伴わなくても罰則はありませんが、認可されたNPO法人では、形式上も活動実体上も、厳しく行政のチェックを受けることになります。
(合法的でさえあれば)利益を上げるための自由な活動ができる企業とは異なります。
現在の私たちNPOに求められている活動の中に、欠陥住宅や瑕疵問題などの消費者・被害者救済の役割がありますが、これなどは平成10年のNPO法成立時点では「認可される事業目的」としてはありませんでした。
平成15年6月から「消費者の保護を図る活動」として追加されることになりました。
逆に言いますと、それまでは、「消費者の保護を図る活動」は認可されなかったのです。
経済企画庁「市民活動団体の有償事業の実態と課題についての調査」(平成10年7月)によれば、有償事業を行っている市民活動団体の全体の約3分の2で有償事業の規模自体が100万円未満と小さく、財源としては、 「 行政や社協からの補助金」が7割、「会費」で賄っている団体が5割、「売り上げ」や「サービス対価」といった受益者の負担を財源としている団体が2割であり、「現時点では、市民活動団体については、社会的な期待は大きいものの、経済的には必ずしもそれに見合う規模にあるとは言えない 」 と同報告書は結論づけています。
しかし、その後5年を経て、有償事業規模で数千万円のNPOの存在は珍しいことではなくなりました。
市民活動団体がその活動を活発化させようとする場合、財政基盤・組織基盤を強化して安定的かつ継続的な活動ができる体制を整備する必要がありますが、その意味では専従スタッフと専門職員を擁する大規模なNPOが育ってきたといえます。
市民活動団体が行う有償事業活動分野としては、
1) 「 行政や企業では質的にカバーできない 」 活動
2) 「 民間企業や行政が分野的にカバーできない 」 活動
3)民間企業や行政も行っているが時間や回数の面で 「 量的にカバーできない 」 活動
などがあり、特にマンション関係では上記のすべての分野が関わってくることに特色があります。
マンションの修繕工事に見られる問題として、不適切な改修設計、又は過剰修繕の問題があり、次に不適切な業者の施工の手抜き、そして、施工監理の手抜きなど、管理組合がこれら複合欠陥の被害者になる不幸な状況もみられます。
ところが平成14年4月に施行された消費者契約法では、管理組合は消費者とは認められず、この法は適用されません。管理会社や改修工事業者と対等な事業者同士という位置付けになります。
事業者としての管理組合は「消費者の代弁者として信頼のおける」専門家の支援を得て自衛することが必要になります。
私たちマンションNPOが消費者・被害者救済の役割を果たして行く中では、NPOに対する企業からの敵対的な攻撃も数多く経験してきました。
これらNPOをめぐる社会的認識が必ずしも好意的とは言えない状況の中で、私たちの活動によって閉塞的状況は少しずつですが確実に改善されてきています。
この傾向は今後も確実に広がるでしょう。
各国の 「 住まい・まちづくり 」 NPOの現状で述べてきたように、欧米のNPOがアフォーダブル住宅の供給まで行っていることに比べ、まだ我が国ではNPO活動の歴史が浅く、目指す目標にはまだまだ道が遠いのです。
しかし、市民の手で生活の質を高めるための多様な活動を、企業でもなく行政でもない市民や専門家の自由な活動として行うNPOに寄せられる期待が近年、急速に広がり、高まってきていることを実感しています。
特定非営利活動法人の中には、会員数万人の大規模な団体から、10人そこそこの小規模な団体まであり、団体規模や活動に関しては、かなり幅が広いのが実体です。
次に、私たちの「マンションNPO」について説明していきます。