Kマンション管理組合前理事長さん及びNPO建築士を交えての交流会からの報告です。
「事例2:築10年 タイルの浮き改修」:交流会報告
1.マンションのプロフィール
築12年、鉄筋コンクリート造、3階建、20戸
築1996年12月竣工 20戸 3階建 部分委託管理
エレベーター1機 機械式駐車場(3段式)20台 集会室なし
販売系列の管理会社に全面委託→3年目から独立系の管理会社に部分委託
管理員は、午前8時から午後2時まで。週5日。
2008年、1回目の大規模修繕を終了した。
2.管理体制
(1)現状体制
まず、現状を簡単にお話したいと思います。
役員は、当初理事2名だったものを3名にし、そこに監事1名が入る4名体制です。
20戸ですから、5年に1回は役員が回ってくることになります。
任期は2年間で1年ごとに半数を交代(輪番制)しています。
新理事が理事長、監事に就任し、前年理事長、監事は、2年目は理事になる形にし、
経験者が新しい理事長をサポートする体制にしています。
正式な組織として、修繕委員会を作りました。もちろん、理事と兼任する人が多い状況です。その他に非公式なものとして、有志7名によるオンブズマン制度というのを作っています。 これによって、20戸のうち半分以上の人が何らかの形で運営に関わっていることになっています。
通常はe-mailと文書の回覧という形で連絡、相談しています。もちろん、工事の時には顔を合わせて話す必要が多々ありましたが、通常はメールで事が足りることも多いです。
(2)これまでの経緯
10年でこういう形になるには、それなりの経緯があるわけですが、 皆さんの参考になることがあるかもしれませんので、お話したいと思います。
3.問題が発覚
当初は、理事は任期1年の全員交代制で、管理会社が決めたことを、管理組合が追認するという状況でした。しかし、たまたま問題が起きたものですから、
その対処に、人手や引き継ぎができる体制が必要になり、オンブズマンという制度や2年の半数交代制にし、変わっていきました。
その問題といいますのが、ひとつは、管理会社に入居時の税金関係の算出ミスがあったことがわかったのです。 その分野に詳しい居住者が偶然気づいてくれたのです。もうひとつは、特定業者からの物品の大量購入についての疑問でした。 これらにクレームをつけました。1年目のことです。
申し入れをしても管理会社がなかなか内容を開示してくれなかったので、結局、 この2つの問題を解決するのに1年以上かかりました。
その最中、1期目が終わり、決算報告がでたのですが、赤字なのです。修繕積立金を取り崩さなければなりませんでした。 このまま何の対策もしなければ、2期目も赤字になる。これでは積立金が貯まらないじゃないかと、思いました。 (しかし、あの時赤字だったから、問題だと思えたけれど、もし黒字だったら気がつかないですごしてしまっただろうと皆で話したことがあります)
交渉の過程で、管理会社は業務のほとんどをグループ会社に丸投げしていることがわかりました。 現在の各費用が競争見積をとった結果ではないので、費用が高くなるのはあたりまえですね。 これは自分たちだけの特殊な事情ではないだろうと思いますが、いかがでしょうか。
4.管理会社変更へ
いろいろ出てきた問題解決のために理事会をバックアップするオンブズマンも作られ、管理会社の変更の検討も始めました。 しかし、管理会社変更には、いろいろな意見がありました。
「販売会社直系であるというブランドが資産価値につながる」だとか、「すっかり任せたほうが楽」というわけです。 しかし、「マンションの価値は、維持管理とそして管理体制がしっかりしているかということではないか、 管理費が赤字になっているようではそれこそ価値は下る。管理会社がどこなのかは価値には関係がない」と、 時間をかけて説得しました。小規模ですので、多数決での強行は避けようと思っていました。
結果、管理会社を変えることができました。その際に部分委託にしたこともあり、 委託管理費が年間100万円ほど節減になりました。 10年で考えると1000万円です。これは小規模マンションにとっては、非常に大きな金額です。
5.年間300万円を積立金に繰り入れられるようになった
その他にも、競争見積をして業者を変え、エレベーターと機械式駐車場の費用は1/3になりました。 業者を変えて5年ですが、何の問題も起こっていません。 排水管清掃は年1回だったものを年2回にし、損害保険は、管理会社を通さずに直接契約しました。
消防設備点検業者は、管理会社経由のまま結果的に業者は変えませんでした。 しかし、見積を取ると、外の業者のほうが安かったので、費用はこちらに合わせてもらいました。 消防設備点検のように室内に入る業務の場合は、なるべく会社を変えないほうがいいだろうとも考えたからです。 結果的には、半分以下になりました。
植栽剪定も回数変更もし、業者を変えることで、半分程度になりました。 これらを合計すると年間約200万円程度の節減になりました。 現在は、毎年300万円程度の剰余金を管理費会計から修繕積立金会計に繰り入れています。 それによって、2005年に予定されていた修繕積立金の特別徴収が不要になりました。 これは、全員一致で承認されました。
1、2期目が赤字だったことを考えると、あのまま管理会社に任せっきりにしていたら、 お金はほとんど貯まっていなかったろうと思います。 たまたま問題があり、早く気がついたことが本当に効を奏しました。 そういう経験をしてきましたから、私たちは、管理の主体は管理組合であり、 管理会社任せや業務の丸投げはしないということが基本方針になっています。
6.大規模修繕の推進・経緯
2004年、マンションが8年目の時に大規模修繕について相談を始めました。 初めてのことで、まずどうしたらいいのかわからないので、管理会社に計画の策定を業務として依頼しました。 実は、そうして走り出してから、いろいろ考えることになったのです。
外部コンサルタントの検討
管理会社に工事を依頼することは、いくつかの点で問題を感じました。 まず、管理会社は、傘下に工事会社を持っていましたので、 いくら施工業者の競争入札の形をとっても、グループ内入札となり、丸投げと同じことではないかという懸念です。
また、工事の内容や予算を決めたり、施工業者を選ぶにしても、管理会社と管理組合は必ずしも利害が一致しませんから、不安です。さらに、一般の民間企業では、施工と監理の分離は常識です。 管理会社に依頼すると、それが一体になってしまうと思いました。 管理会社は「工事まで発注をしてもらえれば、建物診断等の費用は無料にします」とも言いました。しかし、ただより高いものはないわけです。私たちは、外を使うしかないという考え方になっていきました。
議論を重ねた結論は、質の高い工事とリーズナブルなコストを担保するためには、管理組合の立場で全体を取り仕切ってくれるコンサルタントの導入が必要だということでした。 ただ、一般の設計事務所では、施工会社と仕事上の関係があり得ますから、完全に中立的立場はとれない可能性があると思いました。 そうして、マンションNPOに行き着いたのです。マンションNPOの設立の趣旨も理解して、コンサルタントを依頼することにしました
7.工事着工までどんなことをしたか
大規模修繕のスケジュールを見ると、多くの専門的な仕事があることがわかります。 とても管理組合だけではできません。
まずは「建物劣化診断」がありました。どこがどのように傷んでいるかを調べます。 次に工事の内容や方法、使う材料はなどを決めます。これが「仕様書や見積要項書の作成」につながります。 これも専門家の手を借りないとできません。
そして、「業者選定」です。コンサルタントが業界新聞に公募情報を出し、 10社以上の応募の中から、8社にしぼりました。 コンサルタントから各社を招集してもらい、「現場説明会」をしました。 見積を比較検討して、3社にしぼって各1時間ほどの「ヒヤリング」をしました。 専門的なことをコンサルタントが確認していきました。現場責任者の資質が非常に重要とのアドバイスもあり、私たちは、現場責任者予定者をよく見るようにし、内定の会社を決めました。
その後、臨時総会を招集し、工事範囲や、3000万円という予算金額、工事期間(9〜12月)、施工業者について、承認を得ました。 いよいよ工事着工となったのです。キャッチフレーズは「大幅リフレッシュ〜新築時並に!」でした。雨ざらしの外部扉をステンレスにしたり、外構の改修などグレードアップ工事も予定しました。
8.工事開始後のポイント
ここまでくればと、ほっとしたのも束の間でした。着工すると、2週間に一度の工程会議がありました。 夜7時から、述べ9回行いました。メンバーは、施工業者の現場責任者、工事部門責任者&営業部門責任者、工事監理者(マンションNPO建築士)、管理組合役員です。
どんなことが話し合われたかというと、「進行状況の報告」「施工業者からの要望(ベランダの片づけができていないなど)」「住民からのクレームとその対応について」「追加工事の検討(予算消化状況をみながら、工事範囲の拡大を検討)」「工事不具合状況」の問題などです。
居住者への情報については、施工会社がかなりきめ細かく出してくれました。掲示板や各戸へのビラの配布です。洗濯情報でしたら黄色とか、内容によってチラシの色も変えたりと、工夫してありました。
工事をスムーズに進めるためには、細かな情報を出しておく必要は大いに感じました。また、管理組合が発注者として、「工事に関心を寄せる」姿勢も大事だと思いました。施工会社も人です。関心を持たれ、期待された中でこそいい仕事をしてくれるのだと思います。
9.想定外の問題が発生
実は、工事が始まってすぐに、竣工時の不具合が原因と思われる外壁タイルの大量の浮きが発見され、販売会社に交渉しなければならなくなりました。相当な労力がかかり、工事期間も2か月以上伸びましたが、マンションNPOの強力なサポートを得て、納得できる決着(かなりの数のタイルを販売会社が補修)をみることができました。
10.大規模修繕を終えての感想
工事を終えて感じたことは、住民に「見える工事」にしておくことが大事だろうということです。その最大の手段は施工会社を選ぶ際に競争見積をして、その内容をオープンにしておくことでしょう。そして、そのためにも、第三者の専門家(コンサルタント)が必要でした。
また、管理組合側が現場責任者と監理者との連絡を密に取ることも心がけるといいと思いました。そしてやはり、管理組合の日常の管理体制の確立がすべての基礎であると感じました。
11.[質疑応答]
Q 工事監理はどの程度するのですか?
工事監理は週に1〜2回です。ポイント監理です。回数などは、規模や内容によっても多少違ってくると思います。(建築士)
Q タイルの浮き状況は、建物劣化診断ではわからなかったのですか?
もちろん、診断の時に相当多めであるとはわかっていましたから、競争見積の仕様書に通常よりも多い数を想定しました。ですが、診断時には足場はかけませんから、すべての浮きについては、はっきり把握はできないのです。しかし、コンサルタントを引き受けている以上は、すべてにおいての責任があると考えていますから、相当なタイル補修費用を管理組合に臨時に出費させないようにしたいとは思いました。(建築士)
大規模修繕の時期はどうやって決めたらいいのですか?
一般的な周期は12年サイクルが基本です。まずは建物調査が必要です。調査結果によっては、前倒ししたほうがいい場合も、その逆もあります。
例えば、タイルの浮きがあれば危険ですから、鉄部の錆が出ている場合は、放置すると劣化が進んでしまうので、早めの工事が必要です。(建築士)
施工時の不具合というのはよくある?
大抵何かはあるのですが、それが許容範囲かどうかだと思います。タイルに関しては言えば、10年程度で浮いている場合は、施工時のなんらかの問題だと判断できると私は考えています。
ですから、どのマンションにも、新築のうちに、一度、外部の建物チェックを受けてほしいと思います。(建築士)
Q 給水設備を直結に切り替えた理由は?
最初の動機は、コスト削減です。受水槽の清掃費、ポンプの維持管理費を削減したいと思いました。それで、修繕と一緒にやれないか検討してもらったのです。数年で、もとがとれそうですよ。(前理事長)
Q 機械式駐車場の維持管理はどう考えてますか?
現在、機械式駐車場使用料(月額)は、1階が25,000円 地下1階2階が23,000円です。機械式駐車場は、20年くらいで取り替える必要がでてくるという話もありますね。その費用は2,000万円程度かかるらしいので、かなりきびしいです。現在、長期修繕計画に基づいて積立金の増額について1年かけて相談していく予定です。一時金徴収は避けたいですから。(前理事長)
Q どういう方がオンブズマンになっているのですか?
主に理事長や理事経験者です。問題意識のある人が手をあげてくれて、理事会をサポートしています。オンブズマンには何の権限もないので、出された意見は自由意見なわけです。しかし、理事会は、出た意見は一度はしっかり議論するようにしています。そういう意味で理事会は大変ではありますね。 ただし、20戸ですので、何かに関わっているので、意見だけを言いっ放しという人はいません。(前理事長 以下同じ)
Q 運営での苦労はあるのですか?
総会に出ないし、委任状も出してくれない住戸も1割ほどあります。悩みはあります。また、工事実施については、3800万円ほどしっかり貯まっており、一時金徴収もないですし、工事に反対するという人はいませんでした。
Q 委任状を出さない住戸へはどうしていますか?
手紙をポストに入れるなどして、基本的にしつこくいきます。一度では見逃している人もいますからね。
Q 理事会、総会に管理会社は出ていますか?
総会には出てもらって議事録を書いてもらっていますが、理事会には出てもらっていません。
Q 引き継ぎはどうしていますか?
基本的に文書による引き継ぎです。私も引き継ぎの最中ですが、いままでメモしていたことをここ1か月くらいでまとめて次の理事長に渡したところです。ただ、理事長だった人が翌年は、理事として残る形にしていますから、そういう意味では、ある程度サポート体制があると思います。
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