8. マンションNPOについて (経営基盤)
[企業と同じ点:]
組織経営において、合理性を重んじ、財政基盤・組織基盤を確立していくことは重要なことです。
私たちの活動理念はボランティア精神に基づいていますが、経営基盤としての運営は高度な専門家による徹底した
プロフェッショナリズムに貫かれています。
組織経営においては、善意のボランティア = アマチュアリズムの甘えは通用しません。
私たちのNPOが理念を貫き、継続して、目的を達成しようとすれば、財政基盤・組織基盤を確立し、 その経営に関しては合理的・収益性をめざす一般ビジネスと同じ運営体制を迫られる事になるのは当然といえます。
[企業と異なる点:]
非営利団体と企業、営利団体を分ける大きな違いは、活動の動機と遵守すべき倫理にあります。
NPOは利益を追求するのが目的ではありません。
企業に所属する技術者は、経済的に企業集団に従属する立場上、良いものを作ろうとする技術者倫理より利益を追求する 企業倫理を優先せざるを得ません。 生きていくためには、仕事をもらうためには、理想とする技術者倫理にはある程度目をつぶらざるを得ないという 社会的・経済的状況を理解することが必要です。
しかし、NPOに所属する技術者や専門家は社会倫理並びに技術者倫理を優先します。
また、そうでなければ、NPOの社会的存在理由もなくなってしまいます。
それは同時に、私たちのNPOがしっかりした経営基盤を持ち、資金的にも人的にも独立した組織であることを必要とします。
私たちのような地味なNPOは、寄付金や補助金に期待できず、みずからの活動によって運営資金を得る「自立するNPO」に
ならざるを得ないのが実体です。
私達はみずからの活動によって運営し、その決算結果を行政に報告し、一般企業と同じく国や地方自治体などの税務当局に納税しています。
なお、NPOはその利益を配分せずに、みずからの公益活動を維持継続するための資金に充当し、
公益活動を通じて社会に還元されます。ここが企業や営利団体との違いです。
「なぜ、マンションNPOは、企業と競合する事業を行うのか? 企業がやることは企業に任せればよいではないか?」
と監督官庁の行政が言いました。
「マンションNPOと企業が行う事業は同種ではあっても、同質ではないのです。」 それが答えです。
そして、大規模修繕のコンサルタントをマンションNPOに依頼した管理組合は、NPOの専門家と一緒に事業を進めていく中で、そのことを実感するようになります。
(注):「第三者機関とは」(左欄の「ピックアップ」参照)
契約者が工事中に倒産などの不測の事態によって契約工事内容が履行されないことを防ぐため、 当該契約内容を引き継いで工事の履行を保証する別会社(これを保証会社といいます)を契約の中に盛り込むことが必要な場合があります。
マンションNPOでは、技術者個人ではなく、法人としてチームアプローチで業務を遂行していますので、 担当する技術者が何らかの事情で業務を継続できなくなったときには、組織内で同レベル以上の経験と能力を持った技術者を選定し、 顧客様のご了解を得て、マンションNPOとして引き続き業務を継続することになります。
(注) チームアプローチとは 登録業者を紹介するやりかたではなく、総合病院のようにマンションNPO自体が専門スタッフを抱え、 みずからの組織で責任を果たす方法です。 相談から工事完了まで一貫して同一組織からサービスやサポートを受けることが出来るメリットがあり、責任の所在もはっきりします。
残念ながら、一部にそのようなNPOが存在することを否定できません。
平成14年7月27日の朝日新聞社会面に、「一部NPO 実質は紹介屋」として、消費者金融の多重債務者の生活支援を目的としたNPO法人が、
債務者を弁護士に斡旋して報酬を受け取る「紹介屋」行為についての記事が掲載されていました。
マンションの事例でも大規模修繕で相談を受け、修繕の進め方や業者選定に関するコンサルタントや、
修繕工事の施工監理を行うことを事業とする団体の中で、相談を受け、窓口となる組織と、その組織から紹介を受けて、
その団体に登録した事業者が実際のコンサルタントや、施工監理を行う例があります。
私たちマンションNPOでは、このように相談業務だけ受けて、実際の調査診断や改修設計、施工監理を外部事務所に依託、
または丸投げ外注したり、外部事業者を紹介することは致しません。
相談、調査診断から施工監理まで外部事業者に依託することなく、一貫して当法人自体が責任を持って行っています。
理由は次の通りです。
@ 当NPO法人が紹介又は依託した外部事業者と癒着した関係にあるとみなされ、NPO法人への信頼を悪用した紹介屋行為、 口利きビジネスとみなされる危険があること。
A 営利を目的とした事業者が介在することで相談者の期待に反し、責任の所在が不明確になり、消費者の利益を損なう危険があること、 問題が生じたら、発注者側組織の優越的立場を利用して責任をその依託先事業者に押し付ける無責任体制になりがちな危険があること。
B 消費者救済は相談に応じてアドバイスするだけの一過性のものではなく、 非営利の第三者機関として相談から施工監理まで一貫して行う事で完成するものであり、しかも多くの消費者問題に対し、 組織として継続して事業を行うことで、社会的技術的な情報の蓄積を図り、本来の理念及び目的とする事業を遂行する上で、 一過性ではない継続性を確保し得るものであること。
以上の通り、私たちマンションNPOの非営利の看板は隠れみのではありません。
1. マンションNPOは契約内容に一元的に責任を持つ事業主体そのものです。
2. 経済的・組織的にも独立した第三者機関です。 外部からの借入れもない(できない)無借金経営です。(技術力と信用だけでは、 日本の銀行は相手にしてくれません。)従って、不良資産もない健全経営です。
3. 一級建築士、管工事技士、弁護士、司法書士、税理士、再開発プランナーなどの専門家が経営に参画し、 財務内容、理念と実体が乖離していないか等のチェックを行っています。
4. これら専門家がチームアプローチでハード・ソフト両面で支援しています。
個人業務ではなく、NPOメンバーとして、チームとして一体の活動を行っています。
日本のNPOは 「 行政が監督し、消費者がその利益を受ける 」 NPO認可制度のもとで、活動領域を制限され、監督されます。
非営利の公益を目指した活動ではあっても、民間の営利企業が行う事業と同じく対価を得て有償の事業活動を行う、 いわゆる自立型・事業型のNPO活動に対しては、非営利・公益性の点から厳しく行政のチェックを受けることになります。
NPOの認可を受けていない任意団体がみずから「非営利の第三者機関」と称して実体が伴わなくても罰則はありませんが、
認可されたNPO法人では、形式上も活動実体上も、厳しく行政のチェックを受けることになります。
(合法的でさえあれば)利益を上げるための自由な活動ができる企業とは異なります。
現在の私たちNPOに求められている活動の中に、欠陥住宅や瑕疵問題などの消費者・被害者救済の役割がありますが、
これなどは平成10年のNPO法成立時点では「認可される事業目的」としてはありませんでした。
平成15年6月から「消費者の保護を図る活動」として追加されることになりました。
逆に言いますと、それまでは、「消費者の保護を図る活動」は認可されなかったのです。
営利企業であっても、契約内容に対し真摯な対応をする企業技術者は存在します。
しかし、一般的に建築業界が抱える構造的な問題が存在するのもまた事実です。
ここでは一般的な問題点を挙げておきます。
@改修設計と施工監理の専門家集団
ゼネコンなどの建設会社が責任施工として工事を請ける場合があります。
ゼネコンや建設会社に所属する建築士の中では、プランナーやデザイナーをやるのが一番上の仕事で、
工事監理を担当する建築士は企業の中では、地味な存在です。
設計、施工、監理は立法、行政、司法にたとえられるように、司法に相当する監理は重要な役割をもっています。
司法は独立していなければ、本来の責務を全うできません。
また、住みながら改修していくという大規模修繕工事特有のさまざまな生活支障上の問題を最低限に抑える経験と根気とノウハウが必要ですが、 企業の中ではこれらは工事の進捗を妨げるマイナス要因として捉えられ、これら工事監理に対する的確な評価がなされにくいのが実状です。
例え施工者とは独立した監理者であっても、管理会社またはゼネコンから紹介されて選任された施工者紹介方式の場合、 監理者は施工者寄りになり、住人との間のトラブルの火消し役、調停者といった立場に立つことが多く、あいまいな解決になりがちです。
一方、マンションNPOの技術者は、公正な第三者機関として、この立法と司法に相当する改修設計及び施工監理に高い技術力と 長い経験をもつ専門家集団ですが、管理組合に対しては、わかりやすい言葉で、 管理組合がマンション住民の合意形成を得られるように支援していきます。
Aストック志向型補修を行います。
マンションNPOでは、マンションの長寿命化を目的に、「一時的な延命型補修」ではなく、調査をもとに費用対効果を検証しながら、 長期耐用のみならずグレードアップの可能性を考慮した「ストック志向型補修」を行います。
B施工と監理の完全分離
マンションNPOでは施工はしません。
また特定の施工会社との結びつきはありません。
改修設計仕様書をもとに原則として公募による業者選定を管理組合と充分に話し合いながら、
管理組合による業者選定を支援していきます。
C管理組合の技術上の代弁者として
監理者は発注者である管理組合の技術上の代弁者でなければなりません。
同時に管理組合の代弁者としての権限をもたなくては、責任を全うする契約本来の意味を持ちません。
ポイントは 「信頼できる専門家選び」です。
調査・診断を行う専門家には、確かな技量、豊富な経験、知識を必要とします。
永年にわたって建築工事や大規模修繕を経験し、マンションの材料、工法、仕様を熟知していなければなりません。
適確な調査・診断をするためには、総合的かつ客観的に判断を下せる能力を必要とします。
(1)公正な立場で、総合的に調査・診断ができること。
(実施した管理組合の意見を聞く)
(2)調査・診断の実績が豊富なこと。
(実績リストを提出してもらい、判断材料に)
契約書をチェックするには、多くの現場を経験したコスト感覚とノウハウが必要です。
(3)適正な修繕実施計画の作成能力があること。
(4)調査診断に基づいて改修設計を行い、公開一般入札で、工事業者を選定していく過程で、仕様、資金、組合員の合意形成など、 マンションの規模、立地条件、地域性など、多くの要素を調整していく根気と粘り強さに加え、 人間としての誠実さ、人柄が最後には信頼を勝ち得ます。
多くの住人が生活しながら工事していくマンション特有の問題など、生活支障を出来るだけ少なくし、安全を確保するには、 永年の現場経験が必要です。
(5)代理人として責任をもって支払条件をチェックできる監理能力があること。
監理者に「支払査定権」「出来高査定権」「支払停止権」をもたせなければ、
施主即ち管理組合が工事費を払ってしまえば、
監理者が工事のダメを出しても、後はいうことを聞かなくなります。
工事担当者は次の現場に移動してしまい、営業が言い逃れをして逃げ切る例も見られます。
工事後の保証条件をチェックすることが大切で、保証条件を明確にして、
管理組合、施工者、監理者の三者がきちんと確認することが必要です。
工事監理者は「工事請負契約約款」(いわゆる四会連合約款)の契約書式上、 発注者・施工者とは別に独自に記名・押印しているため、 工事監理者はこの契約上 発注者・施工者と独立した契約当事者かそれとも発注者の代理人かの争いがありました。
しかし、設計または改修設計図書が完成している以上、 本来 施工者さえ存在すれば建物(の修繕工事)完成という目標は達成できるはずです。 にもかかわらず施工者の義務を監理する趣旨は、直接的には建築基準法第5条の2、 ひいては建築主の意思として専門家の力を借りて施工者の手抜き工事を防止することにあるといえます。
従って、工事監理者はあくまで建築主になりかわって施工者の業務遂行を監督する、 すなわち発注者の建物(の修繕工事)完成という目的に向けて、 発注者に代わって専門的助言をなすという工事監理者の業務からすれば、 発注者の代理人と考えられます。
その意味では、 発注者である管理組合の運営面(ソフト)、 建物・設備面(ハード)の両面にわたって支援できる組織が、必要なのです。
1. 工事監理の意義
「工事監理」とは、建築士法上、その者の責任において工事を設計図書と照合し、 それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認することと定義されています。(同法2条6項)
したがって、「工事監理業務」はこのいわゆる「工事監理」を中心とした業務を意味しますが、 それにとどまらず他の業務も含みます。
すなわち「工事監理業務」は、建築士法上の工事監理者の立場で行うもの=「狭義の工事監理業務」と、 建築主との間で締結される契約に基づき建築主の代理で行うもの=「広義の工事監理業務」と区別されます。
「狭義の工事監理業務」
狭義の工事監理業務としては、工事が設計図書どおりに実施されていないと認めるときには、 直ちに施工者に注意を与え、施工者がこれに従わないときはその旨を建築主に報告し(18条の3項)、 また工事が完了したときはその結果を文書で建築主に報告すること(20条の2項)があげられます。
「広義の工事監理業務」
広義の工事監理業務としては狭義のそれのほか、建築工事契約に関する事務及び
建築工事の指導監督等(建築士法21条)を含みます。
マンションNPOが行うコンサルタント及び工事監理業務は、この広義の工事監理業務にあたります。
参考までに、法令上の具体的な業務内容を次に挙げておきます。
2.工事監理の業務内容
建設省告示1206号 別表第2-2工事監理等/(1)工事監理
(1) 工事監理
1:設計意図を施工者に正確に伝えるための業務
()施工者等との打ち合わせ
()図面等の作成
2:施工図等を設計図に照らして検討及び承諾する業務
()施工図の検討及び承諾
()模型、材料及び仕上見本の検討及び承諾 ※(注1)
()建築設備の機械器具の検討及び承諾
3:工事の確認及び報告
()工事が設計図書及び請負契約に合致するかどうかの確認及び建築主への報告
()工事完了検査及び契約条件が遂行されたことの確認
4:工事監理業務完了手続き
()契約の目的物の引渡しの立会い
()業務完了通知書及び関係図書の建築主への提出
(注)1:
()に規定する図面等とは、設計意図を正確に伝えるためのスケッチ等であり、
工事期間中に行われる実施設計の延長と考えられる図書は含まない。
建設省告示1206号 別表第2-2工事監理等/(2)工事の契約及び指導監督
1:工事請負契約への協力
()施工者の選定についての助言
()請負契約条件についての助言
()工事費見積りのための説明
()見積書の調査
()請負契約案の作成
()工事監理者としての調印
2:工事費支払審査及び承諾を行う業務
()中間支払手続(施工者から提出される工事費支払の請求書の審査及び承諾)
()最終支払手続き(工事完了検査による確認に基づく施工者からの最終支払の請求の承諾)
3:施工計画書を検討し、助言する業務
ちなみに、工事請負契約約款7条では、標準的監理業務として
@ 設計意図の正確な伝達
A 設計図書の補足説明図の交付
B 施工計画の検討・助言
C 施工図模型等の検討・承認
D 施工に関する指示・立会い・材料・機器等の検査・助言
E 図面・仕様書との適合性
F 請負者の支払請求の審査・承認
G 契約内容の変更に関する書類の技術的検査と承認
H 工事完成の確認・引渡しの立会い
I 他の工事との連絡・調整
を挙げています。
(注1):修繕工事の場合、模型などは通常作成しません。